世界はワタシにコスプレを強いる!   作:usausado64

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7 古巣

 交通機関を使わない移動はなかなか面倒だったがおかげで十分にクールタイムは取れたし、道中森林破壊と魔獣狩りをできたのでまぁ良しとする。子供で身分証もなくできそうな仕事というのは結構限られているため、余り規模の小さな街にはよらずにひたすら南を目指した。

 

 ヨルビアン大陸南東部最大の都市ルフチンバラ。十老頭という巨大なマフィア組織の“表の庭”がヨークシンだとすれば、ルフチンバラは“裏庭”にあたる。十老頭はそれぞれが世界中に本拠と呼べる支配域を持っているが、ここはヨークシン同様トップが合同で管理している地域である。とはいっても、だから安全かと言われるとそうとは限らない。

 

 なんせわざわざ流星街から子供を買ってきて暗殺者に育てるなんてマネができる街なのだから。

 

 表向きには勢力争いなんてモノは存在しないことになっているが、実際は末端が上に献上するべき金を少しでも多くするべく、日夜精力的に活動しているし、上は上で使える人材を求めてむしろ争いごとを維持している。ここは言ってしまえばランクアップするための試験場なのである。

 

 血やメンツを重視するマフィアの中で、この街出身のファミリーは言ってしまえば異端になるが、高い位置に行けば行くほど、試験と称して渡される上の無理難題をクリア出来た実力者ということだ。マフィアには珍しい完全実力主義の街。『他人は全て踏み台である』とはよく言ったものだ。

 

 この街に帰ってきて分かったことだったが、どうやらジョニーはそういう状況に嫌気がさしていて、ワタシをきっかけに帰郷したようだった。位置としてはフリーでありバランサー――つまり管理する側に立っていた訳だ。ワタシの獲物を横取りしたピアス男も、念を発現したことをきっかけに“少々やんちゃが過ぎた”から消されたようだ。ワタシの勘も捨てたもんじゃなかった。

 

 ワタシは今、ジョニーの後任とでも言うべき人物の下にいる。意図的に組織という形を取っていないためか、規模は分からないし名称もなく、皆肩書きも上下もないが、十名前後の念能力者や各分野で優秀な人物がフリーの便利屋として管理側から派遣されている。そのうちの一人だ。

 

 ワタシは十老頭が壊滅することを知っている。そのためマフィアに雇われるということは、コネと金のためには仕方がないと思う一方、積極的に所属したいとは思っていなかった。ただそうは言っても、家族の復讐をするには情報が必要で、情報を得るためには金かコネが必要だった。情報屋の知り合いがいるわけでもなければ、幼少を過ごした組織は信用がならないから戻りたくない。必然的に選択肢は狭まり、ワタシの喉を治療した闇医者を訪ねると、ジョニーの後任を紹介されたというわけである。

 

 医者という立場上マフィアとの関係はそれほど深くないはずと思っていたのは、甘かったと言わざるを得ない。

 

 ちなみにワタシの今の上司――ベイジルは、直属の実行部隊“陰獣”になることを夢見て腕を磨いている。強化系寄りの放出系で必殺技は《二つの剛腕(ロケットパンチ)》だそうだ。ホントに腕を飛ばさないあたりまだ人間を辞めてはおらず、もし陰獣になれてもウボォーにデコピンで殺されそうな程度の腕前とだけ言っておく。

 

 それよりもなぜ皆自分の能力を語りたがるのだろうか。強化系寄りの能力はバレても強いから大丈夫とでも思っているのだろうか。味方として信頼の証――あるいは連携のためという考えであるなら、別の奥の手をちゃんと隠して持っておいて欲しい。あると信じている。

 

「ソーヤー。“飯”食いに行くぞ」

 

 表の真っ当な興信所の業務は普通の従業員に押しつけ、自分は所長室という名のトレーニングルームに引き籠もっていたはずのベイジルが、いつの間にか現れるとワタシを呼んだ。

 

 ワタシはロッカーから“普通のチェーンソー”が入ったショルダーバッグを取り出して肩にかけると、見るからに荒くれ者といった風体のベイジルに続いて事務所を出た。ハーレーが似合いそうな禿げで髭で世紀末風のベイジルと、人が一人入っていそうな身の丈に合わない鞄を持ったゴシックパンクの少女。うん実に目立つ。こんな格好してたら“絶”してても普通に見つかりそうだ。

 

 殺し屋をしていたときは用意された服を着るだけだった。田舎に移ってからは修行しやすく動きやすい運動着。奇抜な衣装をコスチューム化して有名になれば、誰も流星街産の殺人人形だとも、インディゴ=テレマンだとも思わないと当初はそんな考えが発端だったが、案の定というか予定調和と言うべきか、ゴシックパンクはやはりこれ以上ないほどに良く馴染んだ。ちなみに次点はメイド服だった。

 

 確かに【憑依失敗】のせいでソーヤー成分に充ち満ちている訳だが、別に“ワタシが”ソーヤーに成りたいと思っているわけではないのだ。“自然と”ソーヤーに似てしまうというだけだ。だから決してコスプレしようとしているわけではないし、黒とピンクの縞々アームウォーマーなんか探してない。

 

 ベイジルの事務所はルフチンバラの繁華街にある。繁華街のメインストリートからはやや離れているが、色とりどりのネオンサインと雑踏の音がここまで届く。その眠らない街並みは【神室町】のようだ。ちなみにオタク男は元ネタの街に行ったことがないようである。

 

「場所_どこ」

 

 ベイジルが“飯”と言うのは符丁であった。彼が普通に食事に誘うときは“ランチ”か“夕食”である。ワタシ達にとっては興信所の仕事よりも確かに“飯の種”であるから、その意味合いで使っているのだろう。

 

「アウリントンヒルホテル。なんでもヨソ者を仲間にしようって連中が集まって20時からパーティをひらくらしい。それを滅茶苦茶にするのが今回の仕事だとさ」

 

 依頼内容がハッキリしないのはいつものことだ。目的がパーティの崩壊にあるのか、あるいは個人への制裁なのか、それとも“余所に助力を願うようなヤツはこの街に居なかった”のか。仕事の同行はこれで三回目だ。その経験から考えるに、特に指定がないと言うことは“生死は問わず”なのだろうと予測する。

 

「使える_人、いる?」

 

「さぁな。聞いてないが多分いるんだろ。いなくちゃつまらん。人数が多いからお前も今回はフロントだが、能力者とはまだやるなよ。お前にはまだ荷が重い」

 

 今回は案山子に成らなくてすむらしい。前回と前々回はただ一緒に行ってベイジルの働きを見て、後で彼が出すべき報告書を代わりに書いただけだった。一応彼との組み手で合格点はもらっているのだが、実践はやはりそう簡単にさせてはくれないか。念を覚えてから初陣まで約五年――ピアス男の件はノーカウント――だと言うのは慎重なのか臆病なのか。

 

 どっちにしろこれが“ソーヤー”の初陣だ。精々派手な印象を付けることにしよう。

 

 

 

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