一応ベイジルが予約していたことになっていたスイートには、従業員用の細かな見取り図なんかが用意されては居たが、彼は特に考えもなく正面から突撃するという馬鹿馬鹿しい方法を選んだ。どうするつもりか先に聞いておいて本当に良かったと思う。ワタシが自主的に裏に回ったので、こうして我先にと会場を離脱した者達を足止めできているのだから。
“周”で強化したチェーンソーで銃弾を弾きつつ一端遮蔽物に隠れる。室内戦――しかも見通しが良く、ろくに隠れる物のない廊下で銃器とチェーンソーでは相性は良くないが、能力者でなければたいした驚異ではない。リロードのタイミングで飛び出すと一気に間合いを詰める。念弾でなければ“拳銃”程度なら怪我はしないが、痛いものは痛い。
テーブルを横にして即席バリケードを作っていたが、念で強化されていなければ豆腐と変らないのだ。障害物たり得ない。ばらまかれたサブマシンガンの銃弾を壁に跳んで回避、そのまま三角跳びの容量で“天井”を蹴って更に前へ。能力者でなければ特に力は必要ない。回転する刃を当ててやるだけで面白いぐらいに両断できる。
一振りで三人。着地で力を貯めて更に前に跳ぶ。すれ違いざまに一人、バリケードごと二人、要人らしい男とそのボディガードをまとめて四人。ショットガンを持った男が通路の角から飛び出してくる。銃口の向き、咄嗟の狙い、対象が子供でも躊躇なく引き金を引く。普通に良いSPだが、散弾ではなぁ!
散らばり広がる銃弾をガイドバーで受け流すと、銃声を裂くように金属音が鳴り響いた。返す腕で両断すると次の獲物を探す。第一波は即逃げた臆病者で、第二波は危険性を理解できない馬鹿な一団だった。それも仕方のないことかもしれない。能力者が護衛に付いている。給仕姿の男とドレスの女だ。
ただどちらも一団の殿に居る。挟撃の可能性を考えていないのか、それともベイジルがよほどプレッシャーになっているのか。大砲をぶっ放したような轟音と微かな振動。彼はずいぶん暴れ回っているようだから後者か。
足にオーラを集中させて床を蹴る。十数mの距離が一気にゼロになる。護衛対象を守るために密集していたのは仇となった。前列に居た三人は銃口を向けたが引き金を引けず、一振りで上半身と下半身が泣き別れた。二列目の四人は引き金を引けたが、残念そこにはもう居ない。片腕一本で出来るだけ大きな円軌道を描く。ボトリと落ちたのが三つ。一つは“首の皮一枚繋がっていた”が、まぁ死んだだろう。少しバランスは悪いが刀のように使えないこともないか。
狙っていたのか偶々か、ワタシの身体から一番チェーンソーが離れていたこの瞬間、ドレスの女が腕を振った。“隠”で隠しているつもりだろうが見え見えだ。慌てふためくお偉いさん方を避けるために、天井付近に投擲されたナイフは接触せずにその軌道を変える。
デップリ太ったボーナスの前にはボスが立ちふさがるのは当然か。毒でもあれば厄介ではある。更なる軌道変更を予測しつつバックステップで距離を取る。ナイフは誰も居ない床に突き刺さった。軌道変更は一度きりか?決めつけは早計。その間にドレスの女は人垣を一足飛びで越えてきた。それに給仕が続く。
一応ベイジルの指示では手を出すなということだが、この状況では無理だろう。チェーンソーを中段に構える。構造上手足は逆だが、剣道のそれに近い。アイドリングの音と少し離れた破砕音が聞こえるが、見合う形でその場は止まった。男の拳に心なしかオーラが集まっている。強化系か放出系か。
その静止状態を動かしたのは罵声をあげながら拳銃を抜いた外野だった。狙いは意外に正確で首を逸らして避けるがそれに合わせて男が地を這うような姿勢で間合いを詰めてくる。当然女はナイフを投擲。一瞬どちらを先に対処するべきか迷ってしまった。その一瞬でナイフは軌道を変えるのではなく加速した。咄嗟にガイドバーを盾にするが、――これが狙いか。男はガイドバーに拳を叩きつけてきた。
ワタシは強化系が苦手で当然“周”の精度も良くはない。回転する刃なら触れることも難しいが、その側面は純正強化系でなくとも容易く破壊できた。拳の先から念弾が来ることを警戒してその軌道上にあった身体を無理矢理ひねる。時間差で跳んできたナイフが右肩に刺さった。ただのエンジンの塊に成り下がったチェーンソーをチェストパスの要領で投げつけるが、男は容易く避けた。これで警戒する物は無いとばかりに避けた体の動きを利用して回し蹴りを放つ。体制が悪く避けられない。視界の端に追撃のナイフが見えた。良いコンビネーションじゃないか!だが無意味だ!
避けられないなら受けるか出を潰す。仕方がないが《
苦痛に歪んだ男の首を飛ばすとドレスの女に向かう。刺さった相手を操作する能力がないのなら、このナイフは牽制にもならない。勿論攻撃手段にもだ。顔に向かってくるナイフだけ避けて後ろに跳んだ女を追う。下から切り上げる。ガードの姿勢を取るが望むところだ。堅い方が
男ほどの抵抗はなかったがなかなかイイ感触だった。メインディッシュの後にはブラッドソースのかかったデザートが五つ。一口でぺろりと食べて今晩の“食事”はこれで終わりだ。
「ごちそう_さま」