目立つつもりが、皆殺しにしたため目撃者が出ないという結果に終わった初陣から約二ヶ月が過ぎた。
ベイジルは二人の能力者を同時に相手取ったことに対して、グチグチと小言を言ってきた。女のナイフに毒が塗られていたらそれでゲームオーバーだったとか、オレは一人だったのにずるいとか、清掃にえらい手間がかかってホテルからクレームが来たとか、そんなところだ。
確かに毒耐性はゾルディック家のように鍛えられてないし、強化系ではないのだから回復力も免疫力も低い方なのには違いない。戦いの中で《
命のギリギリまで能力を偽ることを優先するなんて確かに馬鹿げている。それは理解しているが、どこまでが大丈夫でどこからがヤバイのか、場数を踏んで見る目を養う必要があるのだろう。あと“周”の鍛錬。
小言はあっても、能力者二人と同時に戦い勝利したという事実は大きいらしく、裏の仕事はあれから毎回同行させてもらってしている。つい先週も、流星街の勢力に呑まれそうになっていた“子供暗殺者育成施設”を持つ組織を解体してきた。見知った顔は居なかったが何だか感慨深かった。
流星街はヨークシン編の解説と自爆報復のおかげで常識外の連中という印象が強いが、アレも結局は国家であり組織として存在している。マフィア間との取引もそういった理由で行えているわけだ。ただ十老頭としては去年知識通りに発生した自爆報復のせいで、下が勝手に相手取って良い相手ではなくなったので、そういうつながりがあった連中を切り捨ててリスクを減らしたいのだろう。これはこれで新たに流星街から報復されそうな気もしないではない。取引自体が上に引き継がれていることを祈るが、そうして考えてみれば、幻影旅団が原作で十老頭を壊滅に追い込む裏には、流星街の思惑が働いていたようにも思える。やはりさっさと十老頭は見限るべき組織のようだ。
問題は仇の情報が一向に集まらないことである。ジョニーはルフチンバラを出てから、ホテルの会計士としてワタシ達を養っていた。ホテル街という場所を考えると、裏の仕事を続けていた可能性もありえて、どんな理由で一家皆殺しになったのか見当が付かないのである。
それなりに付き合いのあった例の闇医者から話を聞いたが、別段大きな恨みを買っているようには思えないというのが周辺に居た人の印象らしく、簡単に足を洗えたというのもそのおかげだったとか。
そうなると手がかりは念弾を飛ばすということだけになる。放出が最も苦手なワタシですら、パチンコ弾程度の威力は出せるのだ。正直それだけでは候補が多すぎる。しかもよくよく考えれば攻撃方法は念弾に限らない。念を棘のように変化させて突いた可能性、不可視の弾を放つ銃の可能性をも考えれば、全系統あり得てしまう。“堅”の維持時間の関係上じっくり傷跡などを観察できなかったのも痛いところだ。
つまり殺害方法から犯人を特定するのではなく、ジョニーの仕事の周辺関係から調べ上げるか、あるいは探索系の念能力者を探す方が良いようだ。“千耳会”でも探して紹介してもらうべきか。
そう考えるとワタシはあまりハンターに向いていないのかもしれない。元々なにかを強く求めるということが今までなかったのだ。依頼されたから殺したし、念に覚醒したから修行したし、知識を持っているから危険を回避しようとしている。ただ殺したかったわけでも、強くなりたかったわけでも、知りたかったわけでもない。
復讐が終わった後、ワタシは何をしたいと思うのだろうか。それをこの世界で見つけるのがワタシに課せられた使命なのだろうか。
「ソーヤー! “飯”行くぞ飯!」
上下スーツでフェルトハットを被ったベイジルが立っていた。世紀末ファッション――タンクトップにジーンズ、スパイクの着いたレザージャケット――よりはマシだが、どう見てもマフィアな出で立ちである。葉巻とサングラスがよく似合いそうだ。
「ドレスコード_あるの?」
あったら大変だ。ほぼ寝るだけのアパートにあるクローゼットには、“ゴシック”か“パンク”かどちらか――あるいは両方に属する服と、メイド服ぐらいしかない。早急にレンタルしなければ。いや、血塗れになることを考えると既製品を買った方がいいか。
「いや、変装だ変装」
なるほど。マフィアがごろごろ転がっているこの街ならそれでも変装になるのか。
「今日はただの顔見せだ。つうわけだから、鞄は置いてけ」
一体誰に会うのか知らないが、顔見せなら尚更ドレスコードがありそうなものだ。今着ているパーカーは角とか付いてるが大丈夫だろうか。そのことを訪ねると『大丈夫。カワイイカワイイ』と適当に笑った。違う、そうじゃない。