「見てくださいよ、このGOGOランプの輝き。自然界には存在しない光だからこそ、我々の脳を焼くのです」
―――空気階段もぐら
「……アイム、ジャグラー?」
赤を基調とした筐体にピエロが描かれている。恐らく今の俺はピエロと同じくらい満面の笑みを浮かべているだろう。
「コイツ見たことない? ゲームセンターのメダルゲームのコーナーとかで」
「う~ん、見たことは……ある、かもしれない、かな~……。メダルゲームの方は友達もあまり行かないから詳しくないんだよね~」
「じゃあ軽く説明しよう。こいつは島の外でも大人気のスロット機だ。超ざっくり言えばスロットと言うのはメダルを入れて、リールを回して、ボタンを押して、<777>を揃える遊技機だ。正式名称を回胴式遊技機という。多分何となくは知っていると思うけど」
「本格的なスロットを観たのは初めてかな。イサナ君はゲームセンターを作ろうというの?」
「いや、闇パチスロ店を作ろうと思う」
「はぁぁぁぁぁぁ!?」
帆波はアニメじゃ見たことないような顔を作って驚いている。いつも演じている優等生の仮面が剝がれかけていることに、彼女自身は気づいていないだろう。
「いや、これが結構面白いんだって。まあ闇スロが云々よりもまず、一之瀬もやってみてよ」
俺がそう言うと、彼女は「しぶしぶ」という感情を全身で表現しながらスロットの前に椅子を動かし、腰を下ろした。
俺は電源をつなぎ、付属していた鍵をつかって台を開ける。
「じゃあ、とりあえずデモということで設定は『6』にしておくから」
「設定? 6?」
「スロット機には『設定』というものが基本的には1~6まであって、『6』が一番当たりやすくて『1』が当たりにくい。まぁ『設定L』とか『設定H』なんてのもあるけど、この際は無視してかまわない」
「へえ~」
俺は盤面の裏にあるスイッチをポチポチと押し、デジタル数字が「6」になっていることを確認して扉を閉じた。
「よし、準備完了。じゃあその左側でピコピコ光ってる「MAX BET」って書いてあるボタンを押してくれる?」
「これ? はい」
「うん、そしたらレバーを叩いてみてよ」
「よ~し、いくよ~? えい!」
先ほどまでしぶしぶ座っていたくせに、えらく乗り気でレバーオンしている。
「よし、一之瀬、上手いぞ」
「えへへ~。で、この下の光ってるボタンを押せば止まるのかな?」
「おう」
「じゃあ<7>を狙って……えい……えい……えいっ!」
彼女は可愛らしい掛け声でリールをストップさせるが、当然のことながら<7>は揃わない。
「あれ~? ねぇ、もう一回やってみてもいい?」
「いいぞ」
「よし、よ~く狙って……それ! ……あれぇ?」
「何回かやってみてごらんよ」
「うん……あっ! 今度は、この、何だろう……ブドウ?がそろったよ!」
「おっ! おめでとう!」
「でも、<7>は揃わないなぁ。一応、動体視力とリズム感には自信があったんだけど……あ、今度はサイが揃ったよ」
「サイ*1はリプレイだね。MAX BETしなくてももう1回、回せるよ」
「はーい」
その後、ブドウやサイ、チェリーは揃えど、いくら頑張っても<7>が揃わないことに彼女も気づきだした。
「イサナ君、これ、もうすぐ持ちメダル?がゼロになりそうなんだけど、一向に揃わないのよね。何か細工とかしてるの?」
「いや、特にしていない。じゃあ、このスロットについての簡単な解説をしていこうか」
俺はそう言うと、カバンの中からルーズリーフを1枚とボールペンを取り出した。
「さて、スロットにもいろいろな種類があるけど、所謂『ノーマル機』にジャグラーは分類される」
「『ノーマル』……ってことは、『ノーマル』じゃないスロット機もあるってこと?」
「ああ。だけど今は気にしなくていい。―――あ、『ノーマル』じゃないからって変な意味じゃないぞ? ART機とかAT機なんてのが『ノーマル機』じゃないものだ」
「ふうん」
彼女はおそらく興味は無いのだろうが、理解をしようとはしてくれている。その辺りがお人好しの由来でもあり、彼女の良いところでもある。
「この『ノーマル機』は完全確率抽選で、このアイムジャグラーの場合は合算1/127.5(※設定6の場合)で大当たり、つまり<777>もしくは<77BAR>が揃うようになっているんだ」
「つまり1/127.5を引かない限り、ずっとこんな感じってこと?」
「そういうことになるね。理論上、確率分母内で引けるのはだいたい6割~7割だから、下手をしたら1000回転以上当たらないなんてことも、ままある」
「うひゃあ……全然当たる気がしないよ。よくそんなのが大人の、外の世界で出回ってるね」
「そりゃあ1000回転以上当たらないこともあれば、次の1回転で当たることもあるからね。人間は成功体験とかそういうものに非常に弱いのさ」
「う~ん……1/127.5を引かなければいけないことはわかったけど、当たったかどうかなんてどうやってわかるの?」
「よく聞いてくれました!」
「にゃっ!?」
思わず我が意を得たりと大きな声を上げてしまった。
「……いきなり大きな声をあげるから、びっくりしたよぉ!」
「ごめんごめん、だけどそこがこの台の一番のミソ、ポイントなんだ」
「どういうこと?」
「盤面の左下に暗く【GOGO】って描いた図柄があるだろう?」
「うん」
「当たったらそこが光るんだ」
「ふうん」
彼女は指先でGOGOランプを突っつきながら、ため息と感嘆の間のような返答をしている。
「……光るんだぞ?」
「光る、だけ?」
「たまに音も鳴る。『ガコッ』って」
「……それって、楽しいの?」
「たわけッ……!」
「にゃっ!?」
やはり光るまでヤらせないと話にならないか。ちょうど今日は金曜日である。
「ちょっと、いきなり大声出さないでよっ!」
「一之瀬、明日と明後日は何か用事や約束は入っているか?」
「イサナ君、私の話、聞いてる? ……明日は桔梗ちゃんと遊びに行く約束があって、明後日は特に無いかな。日用品の買い物をしようと思っていたくらい」
「ん、わかった。とりあえずこれ吸って?」
俺は一之瀬に向かって、護身用として携帯していた催眠スプレーを吹きかけた。その辺にあったガムテープを使って手際よく彼女の弛緩した身体を椅子に拘束していく。
「にゃ、にゃにするの!?」
「さァて、急遽始まりました『GOGOランプを1000回光らせるまで帰れまセン』のお時間です。挑戦者は一之瀬帆波さん! 開始までしばらくお休みください……」
「ゆ、ゆりゅしゃにゃいから……」
2日後、そこには北電子の素晴らしさを理解した一之瀬帆波の姿が……!
「ねえイサナ君、左にチェリーが止まった時、真ん中でチェリーが連ならなければ、当たりになるんだよ」
「そうだな」
「ピエロとかベルってどうやって揃えるの?」
「逆押しするんだよ。右リール7とBARの塊を真ん中に狙って、ピエロまで滑ったら狙ってみな」
「知ってた? はまった時はGOGOランプをツンツンするか、よそ見していると光るんだよ」
「左手でレバーオンすると光るぞ」
「イサナ君、ジャグ連抜けた後は180G~200Gでチャンスゾーンがあるよ」
「よく気付いたな。偉いぞ*2」
よしよし、一之瀬の教育は順調だ。目にハイライトが無いような気もするが、大勢に影響はない。どうせコイツも2年生の後半は目が曇ってばっかりだったしな。惚れた腫れたで曇るくらいなら沖ドキの天井踏んだのに単発引いて曇ってればいいんだよ。
……そう言えば、そろそろ別の機種を打たせても良いかもしれないな。あれから1週間、その沖ドキ(初代)も含めて20台程度は揃えることが出来た。これなら小さめの闇スロ店としてはあり得る大きさだろう。ちなみに全部5号機で揃えているが、ゲーム性と出玉性のバランスで言えば5号機がやっぱり取っつきやすいよね。6号機も6号機でスマスロとか面白いのは面白……いや、面白くねェわ。ヴヴヴ置くくらいならGOD凱旋置くわ。
「一之瀬、誰か友達でも誘ってみるか」
「いいねっ♪」
「誰かアテはあるか?」
「……あっ、桔梗ちゃんとの約束、すっぽかしちゃった。お詫びに誘ってみようかな」
「おっ、いいな。彼女の人脈は使える。ぜひ引き込もう」
「うんうん、やっぱりGOGOランプの光は平等にみんなを照らさなきゃね」
一之瀬は順調に頭がおかしくなっている。この短期間でここまで育ってくれるとは俺も鼻が高い。
「……それで桔梗ちゃんもジャグラーをやってもらうの? 新しい種類のもあったし」
「マイジャグか? アレは彼女にはハマらないだろうな」
原作では行動的で攻撃的であった彼女だ。基本的には光るのを待つだけのジャグラーやハナハナは気質に合わないだろう。
「じゃあ、どうする?」
「ふっふっふ……我に秘策あり! 見よ、これが彼女に勧める1台だ!」
「……
続かない。