AREXが打ちたすぎて続いてしまった。
世間……学校は今や体育祭一色である。俺はブックメーカーとして体育祭の競技を対象にいくつかの賭け事を主催する傍ら、スロット店の拡充にいそしんでいた。基本的には小金を持っている大人たちを対象にしているので、収支は微妙にマイナス程度で収まっている。やっぱり電気代が結構かかんだよね。初期投資を回収するまでにはかなり時間がかかりそうだ。
この島には現金が無いのでサンドも新調しなくちゃいけなかったし、中古価格で台を買うだけでは収まらない。
ジャグラー専業に堕ちてしまった一之瀬帆波も、Bクラスの学級委員長という表の役職に奔走している。偶に俺に向かって「軍艦マーチが聞きたい……」とこぼしているくらいだ。忙しさ的にはまだまだ大丈夫だろう。神崎もいるしな。
まあ、そもそも体育祭で転生者に出来ることは少ない。いくら策を弄したって動かす相手が多すぎるのだ。せいぜい龍園のようにちょろちょろと個人を狙い撃つか、俺のように副業に精を出すかどちらかなのだ。
そういえば先日一之瀬をジャグラー専業に堕とした際、次はRENOを櫛田桔梗にやらせると言ったな?
あれは嘘だ。
……いや、本当はやらせたいんだけど、この時期の彼女は深く原作にかかわっている。変なことをして綾小路や堀北妹との対決フラグがへし折れても困るし、藪をつついて
俺はこの学校で面白おかしくスロットが打ちたいだけなのだ。幸いなことに1年の3学期から2年の
そんな9月も下旬を迎えたある日、俺は過日正式にオープンを迎えた闇スロ店にとあるVIPを迎えていた。見た目の印象としては白髪が特徴的な、穏やかな紳士である。
「いやぁ、流石だね、桜木イサナ君。久しぶりにAタイプに触れた気がするよ」
「坂柳理事長、ご来店ありがとうございます。そう仰っていただけるとはオーナー冥利に尽きます」
そう、この人工島でも屈指の権力者たる坂柳理事長である。生徒会としての立場を手に入れた俺は、坂柳氏の傀儡である校長を介し、理事長本人とアポイントを取ることが出来た。
幸運なことに彼は一通りのギャンブルを収めているらしく、当店の目的を正しく認識してくれている。本来、カジノは大人の社交場だからね。
「しかし理事長もお目が高い。まさに玄人好みと言っても良いでしょう」
「僕は4号機『大花火』が好きだったんだけどね。しかも『裏返っているモノ』が」
「ああ、それはもう表では打てませんからね」
『裏返っている』とは、即ち『裏モノ』と言われる違法遊技機である。これは爆発的な出玉の可能性が高まる一方で、吸い込むスピードも段違いになるなど、ハイリスクハイリターンなゲーム性を楽しむものであったが、5号機への移行により全て撤去されてしまったのだ。
なお、俺の店にも裏モノは置いていない。2万枚とか3万枚とか出された日には死人が出るからな。
理事長が言及した『大花火』というのは20世紀末にアルゼ社が発売した人気機種である。このオッサン、マジモンのアレだな。『ダイナマイトキッズ』とか好きそう。
そんな彼がいま楽しんでいるのはユニバーサル社(旧アクロス社)製の『AREX』だ。
実は『AREX』俺が一番思い入れのあるというか、好きな台なのだ。個人的な感想ではあるが、まるでバカラのようにリーチ目を楽しむゲーム性、ボーナス時の音楽、いずれも『ハナビ』や『バーサス』、『サンダーVリボルト』など他の人気だったユニバ機種よりも”凝っている”。
『ハネ・ハネ・鳥』という謎の3枚役にさえ気をつけておけば、スイカ(ブドウ)が出るときは予告音が鳴るし、あとはチェリーをフォローしておくだけで良い。俺が生きていた前世6号機では出ていなかったが、この世界では蘇ってくれることを切に祈っている。
「いや恥ずかしい話ながら、僕はこのAREXの『音痴音予告』が聞き取れなくてね」
「ご安心ください、私もそうですよ。この店のように静かな環境でしたら聞き取れることもあるのでしょうが、基本的にうるさいパチンコ屋で聞き取れる人は、まず稀でしょう」
「イサナ君はどのリーチ目が好きなんだい?」
「そうですね……無難に『
「おや、こんな店を出しているというのに、意外と王道だね」
「玄人好みの回答をするなら、そうですね……予告音が発生した時、チェリー付の鳥を下段or枠下でしょうか。リーチ目が出るまでの過程を一番長く楽しめますから」
「ハッハ! 君はよくわかっている!」
その後、坂柳理事長は1時間くらいAREXを楽しんだ後、帰っていった。
あ、やべ。もしかしたら、有栖襲来フラグを建ててしまったのかしら。
う~ん、彼女にスロットを打たせるとしたら何だろうか。マタドールとか闇芝居とか打たせたらおもしろそう。「ビクゥッ」ってする坂柳有栖、見たくないです? 俺は見たい。
あとは中の人的な意味で戦国乙女だろうか。ヒデヨシ可愛いよね。
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「―――ということで、これから一之瀬には『リーチ目機』の楽しさを知ってもらおうと思う」
「何が『ということ』なのかわからないけど……」
体育祭が終わった週末、店を閉めた俺はいつもの通り一之瀬を迎えていた。
本編において語ることは少ない。我々Bクラスと龍園率いるCクラスが、A・D連合軍と対決するという構図。ペアクラスの長である龍園が堀北にご執心な以上、勝てるはずもない。それにCクラスは潜在的な……いや、表立っても敵である。
だから俺は自分の競技もそこそこに、一之瀬や安藤さんの『揺れ』を遠目に楽しむくらいしかやることが無かった。いいだろー? 羨ましいだろー?
「ジャグラーで気持ちいい瞬間は何気なくBAR・BAR・7が揃った瞬間だということに異論はないと思うが」
「うん」
「それを常に楽しめるのが『リーチ目機』だ」
「なん……ですって……?」
大きな目を見開き愕然としている一之瀬に、俺は畳み掛けるようにプレゼンをする。
「ジャグラーでは代表的なリーチ目に『ボーナス図柄一直線』とか『ボーナス図柄ピエロ挟み』がある。この出目が出たらペカる、当たるという出目だ。それに加えてGOGOランプが光るからボーナスを必ず察知できる。これを『完全告知機』という。だが『リーチ目機』には基本的に告知ランプが無い。あっても、ボーナスが成立してからしばらくしないと光らないのが主流だ」
「ならどうやってボーナスが入ったか入っていないか察知するの?」
「ジャグラーなどの完全告知機には無くて、こいつらにはあるものがある」
「それは?」
「予告音、または演出だ」
予告音とはレバーオン時になる音のことだ。坂柳理事長が楽しんでいたAREXだと「ピロリロリロリン♪」という音が鳴る。予告音が鳴ると基本的には小役が落ちるのだが「予告音が鳴ったにもかかわらず、小役が揃わなかった」という矛盾が起きたときにボーナスを察知するのだ。
演出もまた同様に盤面全体がフラッシュしたり消灯したり、「リプレイが揃えばこの演出、ベルが揃えばこの演出」と決まっているのだが、「リプレイなのに2消灯した」とか「チェリーなのにフラッシュしなかった」などの矛盾が起きたときにボーナスを察知する。
つまりリーチ目機とは純粋に出目を楽しむゲーム性になっているのだ。これぞ『遊戯機』という感じで俺は好きなのだが……
「……それってつまり、入ったかどうかわからなかったら延々と損をするっていうこと?」
そう、こういう人間もいるのだ。俺もかつてはそうだったからわかる。
『下段チェリー付7』や、ニューパルだと『チェリー対角ボーナス図柄』とかのように有名なリーチ目もある。だがこれは会社によってまちまちだし、わかりづらいものも多い。
1ゲームあたり60円を損することになることを嫌う人間。言い換えれば『わかりやすさ』と『損をしないこと』に重きを置く人間。
「……その通りだ。加えて言うなら、『ビタ』が出来なかったら損をする可能性がある。あとはジャグラーやハナハナなんかに比べたら覚えることが結構多い」
ジャグラーやハナハナには無い枚数調整という概念。リーチ目機の欠点を上げるとすれば、これぐらいだろうか。
「それならジャグラーとかハナハナを打っていた方が良くない……?」
「一之瀬、わかる、その気持ちはわかるんだが、ちょっと擁護させてくれ。そもそもソイツらとリーチ目機を比べたらダメなんだ」
「でも同じノーマル機なんでしょう?」
「それは『”かくれんぼ”と”缶蹴り”は同じ遊びだ』と言っているのと同じだぞ」
「う、う~ん……そう言われると……」
「リーチ目機はな、『入ったかな? それとも入ってないのかな?』という状態を楽しむスロットなんだ。時間に追われてたり、ただただ設定狙いをしてるだけの人が座る台じゃないんだ。純粋に『スロットを楽しみたい』と思っている人が座るものなんだ」
「そう言われてもにゃぁ……」
語尾が猫之瀬になっている。だが彼女の躊躇いと言うか疑問はもっともであり、スロットメーカーが向き合わないといけない問題なのだ。6号機のリーチ目機が廃れていった理由が恐らくそれらだから。
機械割を上げるためにレギュラーボーナスを引いた時にひたすら目押しさせたり、そもそも設定状況がジャグラーやハナハナに比べて悪かったりすることが多い。そうした状況がリーチ目機をさらに遠い存在にしてしまい、あとは負のスパイラル。
唯一6号機でも新ハナビや山佐はまともに近いが、それでも「どうしてそうなった」という部分は少なからずある。
それに俺はリーチ目機を『純粋にスロットを楽しみたいと思っている人が座るものなんだ』と言ったが、それはそれで間違っている。玄人だけが座れる台なんてのは廃れて当然なのだ。
特にここ(のカモ候補たち)はそういう娯楽とかギャンブルに慣れていない。彼らの脚を遠ざけるようなものはあってはならないからだ。
つまるところ、解決する方法はただ一つ。高設定を打ち、楽しさを知り、出玉という結果を残して、次に繋げる。これしかノーマル機が生き残る道は無いのだ。
「いくら口で言っても限界がある。俺も隣で打つから、1時間だけ、1時間だけでいいから一緒にリーチ目機を打とう」
謝るように頭の上で「パンッ」と手を打ち頭を下げると、一之瀬は「ちょっとだけだよ~?」と言いながらAREXの前に座ってくれた。俺は隣のサンダーVリボルトに腰を掛けながら、ほっと一息をつく。
おあつらえ向きながら、このあたりのアクロスシリーズは「全6」にしている。これなら1時間でもそれなりに入ってくれるだろう。それに見た目とは裏腹にAREXは初心者にも楽しめる仕様になっている。サンダーは名機だけどフラッシュとかボーナス中のビタとか覚えることが多いからな。
「さて、実はリーチ目機も打ち方は簡単だ。ジャグラーと同じで良い」
「この……AREX?もBAR上段を狙えばいいってこと?」
「コイツの場合は赤7もしくはチェリー付の鳥を上段だな。俺は赤7の方がお勧めだ」
「何か違いがあるの?」
「ちょっと打ってみてよ」
「オッケー!」
そう言うと一之瀬はコインを投入してレバーを叩き、赤7を狙う。片手でコインを入れる所作に隙が無くなってきたな……。もう立派なスロカスと言っても良いだろう。
「左の上段に赤7……真ん中と右はどうすればいいの?」
「赤7でチェリーはフォロー出来てるから、後は適当でいいぞ。ジャグラーで言うところのブドウが羽、ハナハナで言うところのスイカがブドウになっている」
「へえ~。ブドウはどうやってフォローすればいいの?」
「ブドウは予告音があるから大丈夫」
予告音があると小役以上が確定しており、ブドウは予告音が無いと揃わない。AREXの良いところはこれだ。これで筐体が『僕は難しいですよ!』みたいな顔をしてなけりゃもうちょい流行ったかもしれないのに……。ゲッターマウスを見習ってもろて……いや、アイツもアイツでクセ有りだったわ。
「意外と簡単なのね……あれ? チェリーなら鳥図柄の上にもあるけど、こっちじゃダメなの?」
一之瀬が頬に手を当てながらこっちに訊ねてくる。
くっ……あざとい……可愛い……!
バカが女性演者に食いつく理由が少しわかった気がするぜェ……
だが鳥図柄、テメェはダメだ。
「じゃあ鳥図柄をテンパイさせてみなよ」
\ デューン! / ビクッ
「……と、赤7の”テケテン♪”という音に比べてテンパイ音が怖い」
「にゃるほど……」
「あとは隣で打ちながら解説するよ。楽しくノーマル機を打つには、詳しい人と並び打ちするのが一番だから」
それから1時間ほど―――
「わ、わ、わ、イサナ君! 盤面全体がフラッシュしてるよ!」
「ヒキつっよ……羽重複だね、おめでとう」
「二消灯して上段7テンパイ……これってどうなの?」
「二確ぅぅぅぅぅ!」
「にゃっ!? 誰に向かって言ってるの?」
「二確が出たら振り向いて叫ばなきゃいけないって、ばっちゃが言ってた」
\ヘコヘコヘコヘン♪⤵️/
「あれ? 何か、いま、音が違ったような……」
「音痴音予告だな。ブドウオアだから結構アツいぞ」
「二確ぅぅぅぅ! ……これでいいの?」
「最高だ(最低だ)」
東山奈央ボイスでスロットの解説してるのを思い描くと笑けてくる。
~『イサナのスロット店』現在のラインナップ~
・アイムジャグラー
・マイジャグラー
・ファンキージャグラー
・GOGOジャグラー
・ツインドラゴンハナハナ
・沖ドキ!
・ミリオンゴッド~神々の凱旋~
・アナザーゴッドハーデス
・バジリスク~甲賀忍法帳~絆
・押忍!サラリーマン番長
・サンダーVリボルト
・ハナビ
・AREX
・RENO
・マジカルハロウィン5
・まどか☆マギカ(初代)
・まどか☆マギカ2
・モンハン月下
・??????
・??????
計20台 他、パチンコ少々。
お察しの通り、Aタイプが好きです。
「??????」は未定。ブラクラとかHotDとかはあんまり詳しくないんだよなぁ。