”Reno は我が人生 ”
――― 岡野陽一
櫛田桔梗。
一言で言えば、愚かな女である。
勉学・スポーツ、容姿・スタイルは学年で上位、コミュニケーション能力に至っては全校生徒の中でも特上。一方で素、裏の人格は破綻しており、体育祭とペーパーシャッフル試験にて承認欲求の権化として綾小路・堀北に勝負を挑むも、自身の想定を上回る2人の実力に屈し、返り討ちにあってしまう。また、龍園を利用しようとしていたが逆に利用された後は無様に捨てられ、1年の終盤ではすっかり影が薄くなってしまう。
しかしながら彼女が悪と言える存在であったかと言うと、俺はそう思わない。むしろ彼女の周囲にいる、原作に名前も出てこないような有象無象こそが悪であったのではないかと思っている。
彼女は仮面をかぶることが非常に上手かった。上手すぎてしまった。だから周囲の有象無象の『秘密の捌け口』としてストレスを溜めることになってしまうのだ。さながら「王様の耳はロバの耳!」と叫ばれる穴の気持ちだろう。
まあ、叫ばれることが快感にもなっていたようなので、彼女の表と裏はまさに一体であったと言える。
一見エリート面している会社員だって競馬場で「どお゛じでだよ゛ぉぉぉぉ!」とカイジさながらに這いつくばって泣き叫んでいるかもしれないし、今あなたの隣にいる人だって『ジャグラーの島で異常に力を込めてレバーを叩いている人』かもしれない。だからと言って彼ら彼女らが悪とは言えないし、誰かの良き友人、良き家族、良き仲間かもしれない。人間というものは得てしてそういうものだ。
誰にでも表と裏はある。ありきたりな言い回しになってしまうが、光が強ければ強いほど、闇もまた鮮明に浮かんでしまうものなのだ。
だがそんなことは15歳の女子高生である櫛田桔梗が悟れるものではない。『俺』こと桜木イサナだって転生なんかしてるから賢しげに解説しているのであって、この年齢で表と裏をうまく使い分けられる彼女はやはり天才側の人間なのだ。
ちなみに俺は特に彼女と接点を持っていない。持たないように気を付けていたことも一因としてあるが、1学期から夏休みにかけては金策とパチスロ店のプロデュースが忙しすぎて、わざわざ他クラスの原作キャラに絡むどころではなかったのだ。
一之瀬帆波。
一言で言えば、愚かな女である。
「イサナくぅん、これ、ちゃんと設定入ってるの~?」
右手で器用にコインを入れながら、異常に強い力を左手に込めてジャグラーのレバーを叩いている愚かな女である。
彼女が先ほどから惜しみなく投入している軍資金は、おそらくクラスメイトからの預かり金だろう。だが彼女が勝とうが負けようが、Bクラス内の収支で言えばプラスマイナスゼロなのだ。基本的には彼女から俺、あるいは俺から彼女にPPが移るだけだから。
半分以上は俺が招いた愚かさであるとは自覚しているものの、ハイライトの消えた目でイライラとしながらマイジャグ4を回して何かをブツブツと喚いている姿は、原作ファンには申し訳なくなるくらいだ。
「もちろんだよ、一之瀬。俺がお前に嘘をつくわけがないだろう?」
優しく俺は声を掛けるものの、残念ながらそこは低設定据え置きゾーンだ。
嘘はついていない。高かろうが低かろうが、何らかの設定は入っているのだから。
「そうだよね~。今日は『5』の付く日だから、アツいはずなんだよ」
こんな小さい店でそんな安直なことをするはずがない。今日の俺の気分はART機なのだ。悔しければ「聖闘士星矢~海皇覚醒~」を打つが良い。
スイカから300上乗せして脳汁ブシャーという気持ちよさを誰かに知って欲しい気分なのだ。
さもなくば、眠りこけた櫛田桔梗が縛り付けられているRenoを打つが良い。
……どうしてこうなった。
俺はため息を深く吐くと、ここに至る経緯を思い出して現実逃避をしていた。
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体育祭がつつがなくA・Dクラス連合の勝利に終わると、そのまま俺たち1年生は『ペーパーシャッフル試験』に突入した。
原作ではAクラスvsBクラス、CクラスvsDクラスとなったが、この世界線においても同様の組み合わせとなった。まぁ、表向き一之瀬の役割は変わっていないし、俺がほぼノータッチの神崎が補佐しているという構図だから、当然と言えば当然なのかもしれない。
そして当然のごとく負けた。
俺たちBクラスに特筆すべきものは、一之瀬帆波と言う人物以外には無いと言っても過言ではない。中には彼女を中心とした『挙クラス一致内閣』に疑問を持っている者もいるのだろうが、表に出てこなければそれまでだ。
だが、実を言うと原作からは少しばかり乖離している。
原作では5月頭時点でBクラスのクラスポイントは『650』であったが、これを『750』にすることに成功した。説明するまでもなく、一之瀬に『毎月支払われるプライベートポイントに関する疑念』を耳打ちすることで、クラス全体の授業態度が改善した結果であるが、これにより俺は一之瀬に対する影響力を得ることが出来たのだ。
理由はちゃんとある。少しでもギャンブルの元手になる
まぁ、その結果が『一之瀬ジャグラー専業堕ち』なのだが、反省はしていないし後悔もしていない。
そして話は冒頭に戻る。
ペーパーシャッフル試験を終えて冬休みを目前にしたある日、俺の店に行くと一之瀬が既にそこに居た。
「……早いな。まだ開店前だぞ」
「ねぇねぇ、イサナ君。きみが特別試験に協力してくれない間、私、ずーっと頑張ってたんだよ?」
ひんやりとした空気は海上の人工島に吹き荒ぶ海風が運んできたものではなく、目の前の人物から吹いてきているような気さえした。
俺は噛み合わない会話に嫌な予感を覚えながらも、目の前のピンクブロンドの少女から目を離せないでいる。うなじに垂れる汗は俺の警戒アラートを最大限に鳴らしていた。
「……そ、そうか。あ、残念だったな。でも相手はAクラスだったんだ、惜しかったんじゃないか?」
「変に勘の鋭いきみが協力してくれたら、もうちょっと迫ることが出来たんじゃないかな」
「……まァ、そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」
「真面目に答えて」
何だよ、コイツ。原作よりもタチが悪くなってねェか……!?
過去やしがらみを振り切った一之瀬帆波が強いというのは知っていたが、現時点でこれほどの圧を出せる人間だとは……。
もしや南雲の差し金か……?
だが彼女の変質―――そう、変質と言って良いだろう。現時点で俺に対する脅威はないと判断していた彼女が、俺と正対し、あまつさえ優位に立とうとしてきている。
果たして【一之瀬帆波の過去】というカードを切るべきか否か。
彼女の過去について、俺から彼女に何かアプローチすることは考えていなかった。放っておいても
俺が様々な思考に流されて言葉に窮していると、彼女は独り言のように口を開いた。
「君、イサナ君は会った時から不思議だった。ただお金に意地汚い人かとも思ったけど、クラスの輪を乱すようなことはしないし、寧ろ私を誘導しているような感じがしたとき、気付いたの。―――あぁ、この人は実力を隠してるんだなって。私が生徒会に入れたのもイサナ君が裏で一枚嚙んでいると聞いたよ?」
「何故―――」
「君が私を見ているように、私だって君のことを見ていたもの」
木枯らしが二人の間を絶え間なく通り抜けてゆく。彼女は宙に舞う枯れ葉の行き先を眺めるように視線を動かしながら、俺の反応を待っている。
真実など言えるはずがない。だが嘘を言える状況でもない。だから俺は、限りなく真実に近いところを言わざるを得なかった。
「……まァ、他の奴より出来ることが多いのは、そうだろう。この学校の仕組みにしてもそうだ、他の奴よりはわかっているつもりだ。だが俺は俺が生きたいように生きると決めている。誰の指図も受けない、受けたくない。だが―――」
「だが?」
俺は一拍置くと、もう少し先の未来で彼女に伝えようとしていた言葉を紡ぎ出した。
「お前が真にこのクラスのリーダーとして振る舞えるのなら、俺が全力で支えてやる」
「―――ふふっ、その言葉が聞きたかったの」
「―――ハッ、ブラックジャックかよ」
ようやく彼女はいつもの笑顔を取り戻した。どうやら俺は地雷を踏まずに済んだみたいだな。正確には踏んだ地雷を起動させずに済んだと言うべきか。
この笑顔は南雲にも綾小路にもやりたくない。
いつか俺だけのモンにしてやる。
「ねぇ、イサナ―――「おーい、帆波ちゃーん!」」
一之瀬が何かを俺に語り掛けようとしたとき、一之瀬の背後から金髪の女子が彼女の名を呼びつつ小走りでやって来るのが見えた。あれは櫛田桔梗か……?
なんにしても助かった。これ以上この状態の一之瀬と会話をしていると、うっかりボロが出てしまいそうだ。だがどうして此処へ……。
「桔梗ちゃん!」
「帆波ちゃん、会えてよかったぁ。どうしたの、こんな裏路地に呼び出して? うっかり迷っちゃいそうに―――そっちの人は確か……桜木君、だっけ?」
チッ。顔と名前は知られていたか。まァ、彼女の志向からすると知られていても不思議じゃねェ。櫛田桔梗はBクラスにもよく出入りしているし、あの仲良しクラスでどこかのグループに所属しているわけでもない俺は逆に目立つからだ。
「あァ、初めまして。Bクラスの桜木イサナだ」
「こちらこそ、初めまして。Dクラスの櫛田桔梗です♪」
お互いに簡単な挨拶を済ませる。さすが「全員と友達になりたい」と公言してはばからない女だ。初対面の俺にも愛想を振りまくことを惜しまない。そして間違いなく美人だ。
容姿端麗なこの2人を並ばせるとまるで自分がハーレムの主になったかのように感じるが、2人とも大層な地雷である。取り扱いには細心の注意が必要だ。
「それで帆波ちゃん、どうして今日はここへ?」
「イサナ君が会いたいって言ってたから、ね?」
一之瀬がウインクをしながら此方を振り返る。
マジかよ。お前『ホウ・レン・ソウ』って知ってるか? そりゃ櫛田桔梗をこちらに引き込みたいとは言ったが……今日は一之瀬に驚かされてばかりだ。
「へ~♪ じゃあ、お友達になろっか! 桜木君……でいいかな?」
「好きなように」
「それで桜木君は私に何の用なの?」
彼女と会話をしながらも頭を必死に回転させる。彼女を引き込むタイミングとしては少し早いものの、悪くは無いだろう。問題は彼女から先の話だ。
基本的には万年金欠であるDクラス――1月からはCクラスか――の人間を引き込むことは旨味が少ない。とすれば、目的はPP以外の面に置くべきだ。例えば堀北や綾小路対策、高円寺は……そのうち此処へ来そうだから放置しておこう。借金漬けにして手駒、情報源としての活用か、このタイミングだと林間学校や年度末試験への活用が見込めるか。
陶片追放は多少身銭を切れば何とかなりそうだし、特に問題は無さそうだが……
まァ、考えても仕方ない。可愛いからいいか、ヨシ!
「―――とりあえず話は中でしよう。一之瀬と話し込んで冷えてしまった」
「おじゃましま~す♪」
鍵を開けて二人を招き入れる。誰もいない『表の店』を通過すると櫛田が些か緊張した顔を見せたが、一之瀬がいることもあってか何も言葉には発さなかった。
防音対策として気密性を高くしたこの建屋は外に比べると圧倒的に暖かい。
鍵を使って少しわかりづらくなっている『裏の店』への入口を開けると、櫛田が声を上げた。
「ここは……?」
「俺の経営する”秘密基地”だ」
「これは……スロットゲーム? あれ、帆波ちゃん?」
「イサナ君、早く。早く。ほら、桔梗ちゃん、此処に座って?」
「え、あ、うん……」
あ、コイツ、もう目の色を変えてやがる。さては試験続きであまり此処へ来られていなかったから溜まってたんだな。5分前まで真面目だったくせに。
一之瀬はハイライトの消えた目で櫛田をRENOの前に座らせている。
「イサナ君、このRENOは設定入ってる?」
「いや、昨日のままだから『3』になってるぞ。ちょっと待て……あ、チョイとゴメンよ」
「あ、うん」
俺は懐からガサゴソと鍵の束を取り出すと櫛田に声をかけながらRENOを開け、電源を入れて設定を変更する。
「帆波ちゃん、もしかしてコレで遊ぼうってこと……?」
少しばかり不安げな顔をして問いかける櫛田に対して、一之瀬は満面の笑みで答えた。
「うん、一緒に堕ちようね♪」
調子こいてストーリー性持たせてみたら案外筆が乗ってしまった。
次こそちゃんとふざけます。
・世にも奇妙な、本文や感想欄から加齢臭がする『よう実』の二次創作はこちらです。
・『7の付く』『ゾロ目の日』にタコ負けした愚かな作家です。
・パチスロの話を書いたらヒキが上がるかなぁって思って投稿している愚かな作家です。
評価、感想ありがとうございます。
前話投稿後、日間ランキングの下の方に名前を見つけたときは思わず「嘘やろ……」とつぶやいてしまいました。
みんなで Let's パチンコパチスロ