スマスロ……リノ……うっ、頭が……!
「うん、一緒に堕ちようね♪」
「帆波ちゃ……えっ……( ˘ω˘)スヤァ」
マジかよコイツ、俺の催眠スプレーをためらうことなく櫛田にかけやがったぞ。いつの間に取りやがった。
「いや、一之瀬、その……」
「うふふふふ―――これで桔梗ちゃんも……♡」
ダメだ、悪堕ちしたヒロインみたいになっている。だがその場合の悪とは俺のことなんだろうな。
一之瀬は不慣れな手つきで櫛田を縛り付けるべくロープと格闘していたが、何とかかんとか縛り終えるとニヤリと嗤って俺の方を向いた。
何が役に立つかわからないこの学校では、もしかすると縄の使い方が上手い人間が得をすることもあるかもしれない。
成る程、そうだ、期末試験はこれで行こう。ジャンルは『パチンコ・パチスロ』。
これなら1勝は確実。対戦相手であろう、Aクラスにいるドヤ顔のエセ鹿島を「ぐぬぬ」とさせてやるのだ。負けた坂柳はきっと心を入れ替えて胸の豊かな女性になるだろう。
そう、俺はおっぱい星人なのだ。大きいは正義だ。
「で、イサナ君」
一之瀬の声によって現実に引き戻される。大きいお胸だ。正義は既に悪だった……?
「なんだ、一之瀬」
「
ああ、そう言えばまだ彼女にリノを説明していなかったな。
俺は一之瀬にも席を進めつつ、スヤスヤ眠る櫛田の隣に腰を掛けた。そう言えばこちらも大きいお胸である。色々と悟られぬよう改まった表情を作り、彼女に向き合う。
「さて一之瀬―――」
「なぁに、イサナ君?」
「ジャグラーで一番興奮するのはジャグ連が止まらない時だと思うが」
「間違いないね」
「それを意図的に引き起こせるのが、このリノだ」
「なん……ですって……?」
なんか前も似たようなやり取りをした気がするな。一之瀬は両手の頬に手を当て愕然としているが、コイツも相当パチスロに染まってきている。
「ど、どうしてそんなことが……リアルボーナスは連チャン出来ないって……」
「世の中、どんなところにでも天才っていうのは居るもんだ。発想を変えるんだよ」
「発想を、変える……」
「そいつはな、こう考えたんだ。『意図的に当たりを引かせられないなら、最初から当たっている状態にすればいいじゃない』って」
「えぇ……? どういうこと……?」
さすがにスロカスの俺とてMBの仕組みだとか第二種役物が云々だとかを説明するのは無理だ。ただのエンジョイ勢だし。
しかしこの仕組みを考えた山佐の開発者は控えめに言って変態だ。きっと『
4号機獣王やサラ金などのいわゆる爆裂機に代表されるように、スロット開発者は法律・規制をいかにすり抜けるか――好意的に解釈するか――というところに骨を折ってきた。彼らは射幸性が高い台こそが売れる、人気が出ると気づいてしまったのだ。
例えて言うなら、4号機時代は『この土地の中でスロットゲームを作りなさい』と警察から言われていたとする。そうすると開発者たちは『地面に線は引かれてるけど”空中にはみ出したらダメ”とは言ってないよね?』と、あちらこちらにはみ出しながら建築物を作ってきたのだ。
それが5号機になると『空中にもはみ出したらダメ』と四方を壁で囲われることになったのだが、ここでも変態たちは『壁で囲われたけど、それなら上に延ばせばいいんじゃね?』とまた高層建築物を作り出す。ミリオンゴッドやハーデス、沖ドキなどの高射幸機がその代表だ。
そのためそこに『一撃最大2400枚』という出玉天井が設けられて更に制限されたのが6号機であり、『よく頑張ってるから窓ぐらいは開けていいよ』と許されたのが現在のスマスロ、6.5号機時代なのだ。
ただしノーマルタイプは死んだ。
閑話休題。
そんな規制が進んだ現在でも『リノタイプ』と呼称される機械があるくらい、ある意味で革命的な機械がリノなのだ。
リノと言えば【トマト図柄】だが、【トマト】というところに微妙にセンスを感じる。チェリーやスイカなら特別さをあまり感じないし、ディスクアップみたいに「☆」とか「♪」みたいな他の図柄なら親近感が沸かない、そんな微妙にレアっぽさと親近感を持たせる図柄はそうそう無いだろう。王道から外しながらも外れ切っていないというか、さすが山佐だな。さすやま。
「詳しい説明は俺にも出来ねェ。だが簡単に言えば、コイツはフラグを建てれば連チャンするし、外れを引いたらその状態から転落する。……というモンだと理解してくれ」
「フラグって?」
「つまり、このリノの場合はフラグである【トマト図柄】を揃えられて初めてボーナスを成立させることが出来るんだ。この場合『ハズレ目』を引くまでその状態が継続されるから、『ハズレ目』を引かない限り実質無限にボーナスを引くことが出来る。ただなァ……」
「ただ?」
「『自力』で当てなきゃいけないんだ。これが結構ツラい」
「……? だいたいのスロットは自力で当てるものじゃないの?」
「あァ、そういうことじゃなくて……口でいうだけなのもなんだし、とりあえず少しやってみようか」
俺は櫛田を縛り付けられている椅子ごと退かし、持ってきたメダルを投入する。意外と重いな……。
「コイツの打ち方は逆押し、もしくは中押し推奨だ。赤7を狙って逆から押す」
「チェリーとかは無いの?」
「無ェ。だがこのトマトがある。―――トマトチャンスが来たら教えるから、来るまでその辺のジャグラーでもやってたら?」
「やるやる!」
ウキウキとスキップしながら彼女はマイジャグに腰をかける。
そして話は前話の冒頭に戻るわけだ。
一之瀬はまるで休日の昼間にジャグラーのシマに座っている草臥れたサラリーマンらしき男性のように、だらけきって無心でレバーを叩いている。
時折レバーを叩く力が強いのは彼女のストレスの大きさと関係あるのだろう。
打ち始めてから2,30分ほど経った頃だろうか、ビタっとトマトが止まり、本日初のトマトチャンスを迎える。「意外と早かったな」と思うのは、普段から低設定ばかり打っていたせいだろう。
「おっ!? 一之瀬! トマトチャンスだ!」
「えっ!? ちょっと見せて! ……へぇ~、確かにトマトが上段に止まってるね」
「あァ、これでトマトを揃えられたら連チャン状態に持っていけるンだが……」
「普通に目押しするのじゃダメなの?」
「ここが『自力』と言われる
「三択……つまり左リールは正しいトマト図柄を狙わなくちゃいけない、ということ……?」
自信無さげに一之瀬が疑問を呈す。
「その通りだ。正確に言えば赤7の上のトマト、青7の上の$トマト、BAR図柄、この3つからの三択だ」
「ちなみにトマトチャンスが落ちる確率は?」
「設定が入っていないとかなりキツい。設定6でも100を少し切るぐらいだったと思う。設定1なら1/130ぐらいだったかな」
「つまり連チャン状態に入れられるのはだいたい300~400分の1っていうことね……」
「そう、ここが好き嫌いの分かれるところだな。ART機のように完全に機械任せの抽選を好む人はリノの自力感を受け付けないし、逆にこの自力感があるからこそリノを打つという人もかなりいる」
「イサナ君はどうなの?」
「俺? 俺はそうだなァ……嫌いじゃないけど1/3が引ける気がしないからあまり打たねェかな。総合的には好きだけど」
「それを言ったら沖ドキなんてそれ以上に天国に入らないじゃない」
「アレはいいんだよ、夢があるから」
自分の好きなスロットは棚に上げる。スロカスにはありがちなことである。
「じゃあ一之瀬、どれにする?」
「ん~……青7で!」
「りょ。ほいっ」
\トゥルルルン♪/
……マジかよ、一発で三択を当てやがった。
愕然とする俺の横で一之瀬は無邪気にはしゃいでいる。
「あ、揃った揃ったー♪」
「……何か釈然としねェが、これでボーナスが揃えられるようになる。右リールか中リールに7とBARの塊を狙うのがオーソドックスだな」
「りょーかーい!」
まァ、一発で三択を当てるようなやつが早々に転落させるはずもあるまい。
そんなことを考えていたら早速ボーナスが入ったようだ。ミョンミョン♪という独特のテンパイ音が鳴っている。
\ジャッジャン♪ ジャジャジャジャジャン♪ ジャジャジャジャジャン♪ ハァ~ウッ♪/
「……面白いボーナスBGMだね」
「『マンボNo.5』だな。これが連チャン中の脳汁と相まって、だんだんと癖になるんだよ。連チャンすれば曲も色々と変わるし。それよりジャックインさせなきゃ増えないから、順押しで7とBARの固まりを狙って打つんだぞ」
「はーい」
この物わかりの良さの理由は既に以前、彼女にはオートジャックインとの違いについて言及しているからだ。果たしてこの違いが判る女子高生なんて日本に存在するのだろうか。
さて、一之瀬が淡々とBONUSを消化していると、間もなく終わるという頃に少しうなされながら櫛田が目を覚ました。
「……ん、ここは……?」
「おう、起きたか」
「桜木……くん……?」
うなされ声が少し色っぽい。コイツ本当に高校生か?
「お前、一之瀬に眠らされてたんだよ」
「帆波ちゃんが……? 何かスプレーのようなものを吹きかけられて……」
「そう、そしてそこでパチスロに狂ってるのがお前のお友達だ」
顎をしゃくって一之瀬の方を向かせると、驚いた顔をしている。少し時間はかかったが、どうやら覚醒し始めたようだ。内心、驚いているだろうし、それ以上に混乱しているだろう。なぜ善良で、優等生で、友人の彼女が、と。
一之瀬は最早ホームみたいに寛いでいるが、本来なら彼女たちにとって最も縁遠い場所の一つであるはずだ。
「私を……どうするつもりなのかな?」
「どうする……? そうだな……おい、一之瀬! BONUSは終わっただろ! そこを退け!」
「えー、ここからが楽しいところなんでしょ?」
「バカ、お前が楽しんでどうするんだ」
一之瀬はぷんすか怒っているが、強制的にどかして櫛田を前に座らせる。
ロープが邪魔だな……上半身のは解いておくか……。
「……お礼は言わないでおくよ? そのまま下の方も解いてくれるといいんだけどなっ♪」
「もう少ししたらな。それより、携帯端末を出してくれ」
「何をする気? 録音なんてしてないわよ?」
「違ェよ。どこにあるんだ?」
「……カバンの中だけど」
「おい、一之瀬。櫛田のカバンから携帯端末を取ってくれ」
「はいはーい」
俺とて一人の紳士である。女子のカバンを漁るのには少しばかり抵抗がある。
まァ監禁してパチスロを打たせるのが紳士かと問われたら胸を張れる程度には紳士だ。
「はい、イサナ君」
「サンキュ。じゃあ櫛田、送金画面を出してくれ」
「お金を取る気……?」
「いや、逆だ。PPの増やし方を教えてやると言うんだ。優しいだろ? 早く出してくれ」
促すと嫌嫌なのだろう、普段の何倍もの時間をかけて画面を切り替えた。
俺はお前を天国に連れて行ってやると言うんだ。グズグズするな。
いや、むしろリノ的に天国にはもう入ってるから、後は沼に引き込むだけだな。
「はい、じゃあこのサンドに1000
渋々彼女が入金するとジャラジャラと50枚のメダルが吐き出された。うちは等価交換でさせてもらってますので……へへへ。
「さてこれで、ここには1000PP分のメダルがある。このスロットで増やすことが出来たら解放してやろう」
「本当に……? というか、そもそも増えるの? どうやって?」
「嘘はつかねェ―――「ねぇねぇイサナ君! まさか桔梗ちゃんにそのまま打たせるわけじゃないよね!?」」
「そのつもりだが……何かあったか?」
「ずるい〜!」
「うるせぇ、黙ってジャグラー打っとけ」
俺がそう言うと一之瀬も渋々さっきまで打っていたマイジャグの席に向かっていった。
気づけば3話またぎになってしまった。
っていうか、そもそもコイツら15歳とか16歳やったな。
まあええか。
みんなは18歳になってから楽しむんだゾ☆
<イサナ君の秘密①>
・催眠スプレーは転生特典としてゲットした。即効性は高いが、持続時間は1時間程度。とられたものの在庫はあるので一之瀬に護身用として一本あげた。