地球防衛軍4二次創作 2025絶滅螺旋 作:dwwyakata@2024
開始。
油断することも。
容赦することも。
そして、逡巡することもない。
東京基地上空に到達したブレインが、降下を開始。当然のように、周囲には多数のアースイーターを侍らせていた。
地球を丸呑みにすると評されていたアースイーターだが。
ついに、東京基地を、直接丸呑みに掛かって来たことになる。
戦いは、極めてシンプルだ。
敵の火力に押し潰される前に、ブレインを仕留める。それ以上でも以下でもない。可能な限り短時間で仕留める必要があるから、あらゆる火器が、ストームチームの所に集められていた。
ブレインは、語りかけてこない。
以前喋ったことで、充分と判断しているのだろう。
アースイーターを確認した戦術士官が、声を張り上げる。
「これは、通常確認されているアースイーターと、武装がかなり違っています。 装備されている砲台が相当に多く、ハッチもかなり配置されている模様です」
「攻撃順序は打ち合わせの通りだ。 まずはコアを叩き、次にハッチ。 最後に、砲台を叩く」
「砲台の数が多く、相当な犠牲が予想されます」
「それでも、やるしかない」
日高司令の声も、緊張に彩られている。
確かに見上げるアースイーターは。普段戦っているよりも、何割も砲台が多く配置されているようだった。
特殊なアースイーターなのかも知れない。ブレインの周囲を守る、直属精鋭という訳だろうか。
報告にあったアルゴと、マザーシップは今の時点で姿を見せていない。
此奴らが、同時に攻撃を仕掛けてきたら、もはや手の打ちようが無い。
そう言う意味でも、戦いは速攻にならざるを得ない。
「此方、第五艦隊」
デスピナから、通信が来る。
東京湾から、洋上に展開している第五艦隊は。今回、もっとも厳しい支援任務を行う事になる。
敵の高空支援を防ぎつつ、アースイーターをまたいだり迂回する形でテンペストを放ち、東京基地を包囲している巨大生物を牽制しなければならない。そして今まで温存していた空軍機を全て使い、あらゆる手を使って敵の妨害と味方の支援を行うのだ。
「支援が必要な場合は、随時声を掛けて欲しい。 分かっているとは思うが、此方にもアースイーターが姿を見せ始めている。 あまり長くは保たない。 速攻で勝負を決めてしまってくれるか」
「支援、感謝する」
デスピナの支援がなければ、そもそも今回の戦闘は成立し得ない。
アースイーターのコアが、降りてくるのが見えた。
日高司令が、声を張り上げる。
攻撃、開始。
地下の研究施設で、三島徳子は、天井を見上げた。
分厚い土と、コンクリの壁に阻まれた向こうで。
戦いが、開始された。
敵はあまりにも圧倒的。それに対して、味方は命限りある人間。力の差は絶望というのも生やさしいほどの代物。
敵には援軍がいくらでも期待出来るのに。
味方には、増援部隊の一つも無い。
各地のEDFは既に全滅にも等しく。
地下のシェルターに閉じ込められた人々は、身を寄せ合っている。勿論、全滅させられてしまっているシェルターも、少なくは無いだろう。
前大戦で、七分の一にされた地球の人口は。今回の大戦が開始するときには、二十億前後までは回復したが。
今回の大戦で、どう楽観的に見ても、十億を超えるとは思えない数にまで、撃ち減らされてしまっている。
「三島博士」
「何?」
研究員の一人が声を掛けてくるので、其方に。
照明がかなり暗くなっている。基地の発電能力を、全て戦闘につぎ込んでいるからだ。ただ、研究用のスパコンだけは、電力を確保している。
「これを見てください」
見せられたもの。それは。
少しの逡巡の後、分析を命じる。ひょっとすると、これは。
もしもこのデータが正しいとすると、一つ大きな勘違いをしていたのかも知れない。すぐに裏付けを取らないと危ないだろう。
「すぐに解析を。 この解析に、スパコンの全ての出力を廻して」
「イエッサ」
研究班が動く。
これは、小原博士の置き土産だ。
もしもこの解析を成功させれば。
ストームチームが包まれている絶望を、ほんのわずかだけでも、改善出来る可能性がある。
しかし、惜しむらくは、どうしてこれを半日前に気付けなかったのか。
もう少し早く気付いていれば。
ストームチームの状況を、もっと開戦当初から改善出来ていたのに。
短期決戦が主眼に置かれているけれど。
負けるなら、どうせ何をやっても無駄だし。
勝つならおそらく長引くだろうと、徳子は考えていた。それならば。最後の切り札になるかも知れない。
ただでさえ、手札が足りない状況なのだ。
切り札を作る事が出来れば。
この世で唯一徳子が好きな男であるストームリーダーにも、感謝されるかも知れない。そう思うと、全身がぞくぞくした。
そして、気付く。
こんな時でも、エゴを優先させる人類だからこそ。フォーリナーに選ばれてしまったのだとも。
全くもって救いようがない話だ。
地下シェルターに移されたヤソコは、アサルトライフルAF99を抱え込んで、ぼんやりと隅に座っていた。
北海道の旭川基地を守っていたヤソコは、強化クローン兵士の一人。ストームチームに救出され。酷薄な現地司令官には任せておけないと、此方に連れてこられたけれど。PTSDが酷くて、未だに役に立てずにいる。
PTSDの治療中だったのだが。もはや激戦地区になる事が確定の東京基地の病院には置いておけないと、地下シェルターの病院に移されて。
そして今は、治療の合間にでもいいからと、こうして護衛任務に就いている。
あの悲惨な戦いで。
たった一人だけ、生き残った。
元々、意識が目覚めてから、殆ど時間もなかった。自分が何者かもしっかり把握する前に、戦場にかり出されて。
絶対に逆らえないようにされている司令官に、酷い事を散々いわれて。
あげく、使い捨ての駒として。使い捨てられた。
ストームチームが来ても、どうにもならなかった。無茶な防衛作戦をさせられて、ストームチームが来た時には。仲間はみんな食い殺された後だった。
今だって。
周囲の怯える人達は、ヤソコを良い目では見ていない。
それどころか。
強化クローンの兵士と、普通の人間の兵士の間にも、大きな溝がある。特に大戦が始まってから急ピッチで生産されたクローン兵士達は、殆ど使い捨てとしか見ていられない節も多かった。
逆らえないように作られているのが、余計に悲しい。
今も、兵士達が、ヤソコを無視するように話をしている。
「聞いたか。 マザーシップがこっちに向かってるそうだ」
「ブレインだけじゃなくてマザーシップもか。 勝てる訳がねえよ」
「もう、人間は負けるのかなあ」
「そうなったら、どうなるんだろうな。 フォーリナーの家畜にされるって噂もあるけれど、ぞっとしねえな」
話をしているのは、どちらも傷病兵だ。
あまりにも怪我が酷すぎて、一応体は回復したが、あらゆる面でガタが来すぎてしまっている人達。
彼らは軽口を叩いているけれど。
その口調の奧には、どうしようもない絶望が、色濃く存在していた。
不意に、通信が来る。
膝を抱えたまま、聞く。
通信で喋っているのは、日高司令だ。
「現在、ブレインおよび、直属のアースイーターとの交戦中。 ストームチームは奮戦しているが、苦戦は免れない。 ひょっとすると、君達にも協力を仰ぐかも知れない」
協力、か。
シェルターの警護に廻された兵士は、重度のPTSDを煩ったり、負傷が酷かったりして、もう戦えないと判断された兵士ばかり。
そんな兵士にまで協力を要請するなんて。
もう、これは本当に駄目なのかも知れないと、ヤソコは思った。
軍服を着込むだけで、震えが止まらないほどなのだ。銃を持って、敵と戦うなんて、出来そうにない。
「俺は行くぞ」
のそりと、奥から出てくる兵士。
大柄で、熊みたいな体で。どうして此方に回されたのかは、よく分からない人。周囲の兵士達は、何故此奴が此処にと、時々噂をしていた。
「少しでも、役に立てるかも知れん」
「上官殺しの兵助が、向こうに出て行ったら、また上官を殺すんじゃねえか?」
揶揄の言葉が、どこからか飛んでくる。
だが男は無視して、シェルター出口の方へと歩いて行った。
いたたまれなくなって、ヤソコは、シェルターの奥の方へ行く。
人々が、身を寄せ合っている。
悲惨な戦争から必死に逃れてきて。EDFが敵をやっつけてくれるのを待っていた。その代わりに、EDFに対する物資の供給も、人員の供給だって惜しまなかった。前大戦の前は、人類は酷く内輪もめしていたと言うけれど。今回の大戦では、人々はそんな事をする余裕も無かった。
一致団結しても、勝てない。
どうしようもない現実が、此処にあった。
「軍人さん」
声を掛けられる。
年老いた夫婦が、此方をすがるように見ていた。
「勝てるのかね」
「ごめんなさい。 分かりません」
「そうかい。 でも、ストームチームが上で戦っているんだろう」
ストームチームがいても、勝てるとは思えない。
それがヤソコの本音だ。
だが、其処まで言うほど、墜ちてはいなかった。
「息子も孫も、フォーリナーの巨大生物に喰われて死んでしまったよ。 これで勝てなかったら、何のために生まれてきたのか、分からんよ」
「……」
いたたまれない。
他の人達だって、みんな似たような境遇だろう。
でも、ヤソコにはどうしようもない。
今だって、軍服を着て、銃を持っているだけで。恐怖がよみがえってくる。至近距離で仲間が喰われる恐怖が。
最奧まで来た。
この辺りは研究区画だ。
もう秩序はないに等しく。見回りをしている兵士も、特定のルートを巡回しているような事もない。
ヤソコも、誰かに咎められることは無かった。
其処は、強化クローン達を生産する設備。軍属ならもう誰でも入る事が出来る。まだ作られている途中の、ヤソコの妹たち弟たちが、ガラス瓶の中に浮かんでいる。
まだ、戦うつもりなのだと、これを見れば分かる。
日高司令は、地上での決戦に敗れたら、籠城するつもりなのだろう。そして強化クローン兵士を量産して、いずれ地上に打って出るつもりなのか。
そんなの、上手く行くはずも無い。
フォーリナーが、完全に頭を抑えた後。シェルターを放っておくとは思えないからだ。
ふらふらと、その場を離れる。
上で、ストームチームがまだ戦っているのは分かっている。
だけれども。
ヤソコは、迷走するのを分かった上で。辺りを徘徊するのを、止められなかった。
まるで、死を目前とした家畜のようだと、周囲が見たら評したかも知れない。事実ヤソコもその通りだと、思った。
地上付近まで出る。
戦いたいと言う兵士が、数名いた。
年老いた人や、怪我が酷すぎて現役を離れた人。それに、まだPTSDが回復していない様子の人もいる。
此処の指揮をしている人は、北海道の地区司令官よりは優しそうだけれど。
それでも、ヤソコのことは良く想っていないようだった。
「上では、ストームチームが必死に戦ってるんだろ! 出してくれよ!」
「まだ本部の指示が出ていない」
「本部なんか……」
「分かってくれ。 人間は個人で戦っても、大した力は出せない。 本部には私だって思うところがあるが、それでも協調しないとフォーリナーには勝てないんだ」
勝てる訳がない。
ヤソコは、口中でだけ呟くと。
隅で、膝を抱えて座り込む。
いっそジェノサイド砲が此処に直撃して、シェルターを喰い破って一瞬でみんな蒸発したら、楽になるのかも知れないのに。
言い争う皆を見ながら。
ヤソコは、漠然と。そんな事を考えていた。
ふと、思い出す。
手をさしのべてくれた人の事を。同じ強化クローンで、ストームチームに所属している先輩。
あの人も死ぬんだろう。
そう思うと、たまらなく悲しくなったけれど。
もうどうすることも、ヤソコには出来なかった。
(続)
文字通り天文学的な数の巨大生物による絶対的包囲網。
地下に潜む市民を守るためにも。
もはやこの最後の砦を、EDFは守るしかありません。