地球防衛軍4二次創作 2025絶滅螺旋 作:dwwyakata@2024
全てを出し切って
そして、相手が満足して
戦いは……
此方に歩いて来るのは、アシャダムだ。
オメガチームのリーダー。そして、立体映像で話した事はあるけれど。面と向かって話した事は、殆ど無い。
オメガチームの総力。
グングニル数発も含む、ペイルチームの総火力。
そして残っていた、ストームチームの火力を、悉くブレインに叩き付けたのだ。そして、大きな傷が出来たところを。
弟が、ピンホールショットした。
これで倒せなければ。
終わりだ。
「嵐はじめ特務中佐だな。 直接会うのは、これで二回目か」
「ああ」
バトルキャノンを捨てる。
もう酷く壊れて、撃てそうにない。
見上げた先にあるのは。
完全崩壊したブレイン。そして、今、崩れ落ちようとしているブレインのコア。これで、終わった。
その筈だ。
だが、弟は、まだライサンダーを下ろしていない。
それを見て、アシャダムも、零式レーザーを空に向けた。
私は。
無言のまま、前に歩く。そして、地面に転がっていた。先ほどまで、原田が使っていたスティングレイを拾い上げる。
弟の隣に並ぶ。
カリンと、アシャダムも。
傷だらけの体を引きずって、其処まで来ていた。
「まだ、なのか」
「分からん」
煙が晴れていく。
そして、ブレインのコアが、完全に砕けて、地面に降り始めた。
終わったのか。
少なくとも、最終攻撃アースイーターは、攻撃を停止している。これで終わっていないなら。
後は、何を撃てば良いのか。
何となく、それが分かった。
コアが割れた後、露出したそれは。恐らくは、非常に小さな。コアの中心点。虫ほどの大きさしかない。
周囲は。
殆ど誰も立っていない。
かくいう私も、実はもう全身の感覚が殆ど無い。
痛いというのを完全に通り越してしまって、体が生きているのか死んでいるのかさえ、よく分からない。
何故、虫ほどしかないコアの中心が見えているのかも。
正直、よく分からなかった。
「何も、ないな」
カリンがそういう。
周囲を見回すと。もはや東京基地の構造物は、何も残っていない。コンクリの地面は彼方此方がクレーターだらけ。地下への直撃弾が、この様子だと一つや二つ、ある筈だ。戦闘補助要員にも、多数の死者が出ているだろう。
弟でさえ、精根尽き果てて、立っているのがやっと。
私に到っては、このまま立ち往生しても、おかしくない。カリンやアシャダムも、傷が酷い。
きっと無理して、此処まで駆けつけてくれたのだろう。
空に、影。
あれは。
舞い降りたそれと、舞うような光が融合する。
以前交戦した、グレーター・ワイルドドラゴン。グングニル二発を含む一斉攻撃にも耐え抜いた、怪物の中の怪物。
奴はゆっくり翼を畳むと。
もう戦う余力も無い此方に、語りかけてくる。
「素晴らしい。 これで、この星でするべき事は終わった。 我が主フォリナ現状打開派は、実験の全行程を完了。 進化した肉体を手に入れ、そして天の川銀河にまた億年単位での平穏と安定を取り戻すだろう」
勝手な事を。
カリンが呟く。
アシャダムは銃を向けているが、何も動かない。もう、意識が途切れそうなのかも知れない。
ブレインが、あのドラゴンを乗っ取ったのは、一目で分かった。
そしてドラゴンも、乗っ取りを受け入れた。
「これだけ好き勝手をしておいて、無事で済むと思っているのか」
弟が、それだけ言う。
ブレインは。
なにも、それには答えない。きっと会話に、何ら結果がもたらされないこと。この場での合意は、絶対にあり得ない事を理解しているからだろう。
「技術と資源は、この星に多数もたらした。 今は、それで身を休め、宇宙に進出するべく種族を進化させると良いだろう」
「何を好き勝手な!」
カリンが、グングニルを叩き込もうとするが。
発射できない。
愕然とした彼女の上空から、降りてくるものは。
今までとは比較にならないほどのサイズの宇宙船。アースイーターが芥子粒に見えるほどの、とんでもない巨大宇宙船だった。一隻で、東京都よりも大きいかも知れない。
分かる。
これはおそらく、奴らにとっての、本当の戦闘兵器。
これまで用いていた実験用兵器など、フォリナにとっては、それこそ蚤かダニのようなもの。
おそらく、世界中に此奴らが今頃現れて。
そして、実験の成果とやらを、つまり巨大生物を回収していることだろう。人間との戦闘でのデータで、奴らは極限まで進化した。そして滅びつつある肉体に苦しめられていたフォリナを、救うのだ。
力が、抜けそうになる。
全ては、此奴の思うがままに、運んでしまったという事だ。
弟も舌打ち。
ライサンダーの発射機構も、多分一瞬でハッキングされたのだろう。ライサンダーを放り捨てると、まだ前に進もうとする。
ドラゴンは、微動だにしない。
無数のビームが、巨大宇宙船から、周囲に投射されている。それに吸い込まれて、宇宙船に飲み込まれていく巨大生物たち。
攻撃機は動きを停止。そのまま墜落して、爆発する。
ディロイもアースイーターも、ヘクトルも。その場で立ち尽くしたまま、ただのがらくたと化したようだった。
光に包まれてドラゴンも浮上していく。
殴りかかろうとしていた弟の肩に、私は手を置いた。
それだけで、全身がばらばらになりそうなほどの努力が必要だった。
「もうよせ」
「巫山戯るな。 あれだけ好き勝手をさせて、許せというのか」
「次に勝つ」
はっとした様子で、弟は私を見る。
そして、ようやく気付いたようだった。
周囲が、もはや焼け野原以外の何物でも無いことに。
巨大宇宙船が、浮上していく。
なんと為しに理解できる。もはや地球に、巨大生物は存在しない。人間から戦闘データを吸い取れるだけ吸い取って、帰って行ったのだ。
EDFは、負けたのか。
負けたのだろう。
しかし、戦略的目的は果たした。フォーリナーと巨大生物を、地球から追い出す事が、出来たのだから。
しばらく立ち尽くしていた弟は。
バイザーを操作して、通信をはじめた。
「此方、ストームリーダー」
「聞こえている。 日高大将だ」
「ブレインの撃破に成功。 奴らは宇宙に帰った」
「そのようだな。 奴らが巨大宇宙船で、巨大生物を吸い上げていくのを、今私も確認した所だ」
救助の部隊を行かせる。
それだけいうと。
日高司令は、通信を切った。
ぼんやりと立ち尽くしている弟は、気付いたのかも知れない。私がついに、力尽きて倒れたことに。
姉貴。
そう叫ぶのが、何処か遠くのことのように聞こえた。
ベガルタの武器を換装して。
すぐに戦場に戻ったストライクフォースライトニングは。多数の最終攻撃アースイーターを相手に、獅子奮迅の戦闘を続けていたが。
それが故に、終わりに気付くのも早かった。
降りてきた、全長数十キロはありそうな、巨大すぎる宇宙船。SF映画の戦艦でさえ、あそこまで桁外れなものは少ないだろうに。現実は、どれだけ凄まじいのか。
巨大生物が、空に吸い上げられていく。
大破したプロテウスに、群がっていた蟻たちも、攻撃を止め。空に向かう光に、身を任せていた。
「ちょっと、どういうことなの」
ゲイのチームメイトが、不信の声を上げる。エルムには、すぐに事情が分かった。どうやら、負けたらしい。いや、勝ったとも言えるか。
奴らが求めている進化の段階に必要なデータが、揃ったのだろう。
ストームチームが、ブレインを破壊し尽くしたのだ。だがそれは。敵が大満足して帰って行ったことも意味している。
あの巨大宇宙船に、一発ぶち込んでやりたい。
しかし、空に向けてロケットカノンを放とうとして、マシントラブル。撃てないのだ。どうやら、瞬時に攻撃行動を無効化されたらしい。どの武器を試してみても同じ。コックピットを開けて、空に向けてAF100もスティングレイMFも撃とうとしてみたが、駄目だった。
舌打ちする。
これが、本来の技術力格差だ。
連中は、地球人でもどうにか出来る技術を持ってきて「くれていた」のだ。その気になれば、武器さえ撃たせてくれない。それが、銀河系を支配する超種族と、地球の中でさえ内紛を繰り返し、差別と憎悪をぶつけ合ってきた地球人類の差だ。
ストームリーダーは、今頃奴らに有り難い聖典でも聞かされているのだろうか。そして吐き捨てているだろう。
クソ喰らえと。
乾いた笑いが漏れてくる。
地球上でも、圧倒的な武力で、弱者を蹂躙するような蛮行は、散々行われてきた。その殆どは、欲得尽くのゲスの手によって為された。
しかし、今終わったそれは。
種族の命運を賭けた行動で。地球人の理屈にも配慮して。なおかつ、戦後には、復興のための技術や資源までも置いていくというもの。
遙かに紳士的で、道徳的な行為である事は疑いない。
それなのに、どうしてこうも腹が立つのか。一方的に理屈を押しつけられたのなら、まだ怒ることも出来るだろう。
奴らは地球人の理屈に合わせて。なおかつ地球人が抵抗できる兵器を揃えて。そして自分の目的が達成された後は、復興のためのお膳立てまでして、帰って行ったのだ。それが余計に腹が立つ。
宇宙船が、空の向こうに消えた。
震える手で、バイザーに触れる。
「此方、東京基地に増援として来たストライクフォースライトニング! 敵性勢力、地球から消滅! ただし、東京基地の被害は甚大! 第五艦隊も、大半が海の藻屑だ! すぐに、動ける地球人は支援に来い!」
「准将、お怒りですね」
「当たり前だ!」
何の罪も無い部下に怒鳴り散らすと、エルムは更に叫ぶ。
救援が来ないと、死者が増える。
戦闘は終わった。軽傷者は後回しにして、すぐに重傷者を収容しろ。今の技術なら、死にさえしなければどうにでもなる。
叫んでいて、自分でむなしくさえなった。
その技術が、奴らからもたらされたことを思うと、反吐が出そうになる。
頼らなければ、多数の人が死ぬ事も考えると。手段など選んではいられない。放って置いて死ぬ人が出るくらいなら、悪魔の手でも借りるしかない。それが本当に口惜しい。
放置すれば、ストームチームからも死者は出る。
結局、敵の技術に頼るほか、路は無いのだ。
これ以上報われない戦いがあるだろうか。
結局、最後まで地球人は。フォーリナー共の手のひらの上で、転がされていたのだ。遙か彼方の星から、此処まで軍勢を送り込めると言うだけでも、相当な差。ましてや、銀河系を支配している種族ともなれば。
この程度の差は、当然と言う事か。
頭で理解できるのと、納得できるのは別。歴戦を重ねたエルムでさえ、それは同じ事だ。
ベガルタを動かして、プロテウスの方へ。
周囲には、まだ無事なベガルタがいる。特にカーキソン元帥の乗ったベガルタは、ゲリラ戦の達人らしく、全く新しい傷を受けていなかった。
あれだけの攻撃に晒されたというのに、大したものだ。
カーキソン元帥は、全体の指揮を執ると言い残して、すぐに東京基地の中枢に向かった。後を任されたエルムは、プロテウスの状態を確認。
搭乗員はあらかた無事。だが、日高司令は、大破したときにしたたか壁に体をぶつけたらしく、吐血していた。
膝を折って倒れかけているプロテウスを、ベガルタ数機がかりで寝かせて。中の人間達を、非常ハッチから救い出す。
キャリバンが来た。
どれも旧式で、戦闘には耐えられないものばかりだ。
穴だらけの東京基地を走り回って、生存者を救出していく。手足だけや、首だけになってしまった者も。拾い集めていく。
地下のシェルターにいた者達にも、当然被害が出ていたようだ。
あれだけの苛烈な砲撃だ。
東京基地の頑強な守りでも、どうにも出来なかっただろう。
「最終的に、今回の作戦に参加した人員は海軍、空軍も併せ、千五百六十七名。 その内、八百七十名が戦死した模様です。 死者はもう少し増えるかも知れません。 民間人協力者および、民間人の死者は、二万に登る模様」
部下の報告に、そうかとだけ答える。
ストームリーダーは。
無事だという話だけれど、エルムは聞かされている。彼奴は、今回の一件が終わったら、姿を消すつもりらしいと。
分からないでもない。
英雄として、ストームリーダーがなしえたことは、あまりにも大きすぎる。各国政府も、前回の件でさえ、ストームリーダーを恐怖し、必要以上に警戒していたのだ。一度ならず二度までも世界を救った英雄は、もはや人間の枠組みから外れてしまっている。普通の人間が、ストームリーダーを敵と認識するまで。そう時間は掛からないだろう。
ストームチームからは、死者は無し。
ただし、ストームリーダー以外の全員が、重傷を負っていた。特に副リーダーの、ストームリーダーの姉。嵐はじめは、極めて危険な状態だそうだ。
俺は、結局ストームリーダーを超えられなかったな。
エルムはそう自嘲したけれど。
それで良かったのかも知れないと、思い直す。
絶望は。
今や、ストームリーダーの眼前に、巨大な闇として、拡がっているはずだから。
今、此処でストームリーダーを暗殺しろという指令が来てもおかしくない。
嘆息すると、エルムはベガルタを使って、救助活動に移る。
まだ動ける軍人は稀少だ。
手はいくらでもいる。
オメガチームの生存者をまとめると、アシャダムは病院に向かおうという部下の提案を拒否。
ヒドラに乗り込むと、自室に入った。
何だこの結末は。
ウィスキーの瓶を開ける。体中が痛いが、放置しておく。どうせカプセルに入って体を休めた後、適当に診察を受ける。
敵の残党さえ、多分もういないだろう今。
戦いしか出来ないアシャダムの未来は、明るいとは思えなかった。英雄として持ち上げられるだろうが。それはそれだ。
古参の部下も、殆ど生き残ることは出来なかった。
今回の大戦で、欧州はほぼ全滅状態だ。北米や極東もそれは同じ。世界の人口は、十億を切ったかも知れない。
今回の大戦が始まるまで。
アシャダムの待遇は、決して悪くなかった。
しかし、今になって分かった。ストームリーダーをいざというときに押さえ込むため。アシャダムという、人間であり、その枠組みで最強の戦士である存在が、必要だったのだと。
拳をデスクに叩き付ける。
今後はおそらく、アシャダムも不要な存在の仲間入りだ。
それに何より、敵に好き勝手をさせた上に、勝ち逃げされたのが気にくわない。しばらく無心で飲んでいると、バイザーが鳴った。
医師からだ。
このヒドラにも、専任の医師はいる。
「何だ」
「すぐに医務室に来てください」
「俺は死ぬような怪我はしていない。 どうせ後でどうにでもなるんだろう? 部下を優先してくれ」
「貴方の怪我の話ではありません」
だったら何だ。
アルコールの勢いもあって、アシャダムが凄むが。医者は一歩も引かなかった。
おそらく、柄が悪い兵士達の対応で慣れているからだろう。
「ストームリーダーからです」
「……分かった。 すぐに行く」
ストームチームが壊滅状態になっているのは、アシャダムだって知っている。あの激戦の中、最初から最後まで戦い続けていたのだ。
ストームチームの苦闘には、本当に頭が下がるし。
オメガチームが到着した時、彼処までブレインが削られていたのも、ストームチームのおかげ。
不快な話だが、敵は正直な話。
ストームチームがあれだけ戦わなければ、そもそも地球から出ていかなかっただろう。あの巨大宇宙船の性能。マザーシップなど、芥子粒に思えるほどの代物だった。相手が本気になれば、地球など二秒で粉みじんに出来たのだと、よく分かった。
戦える相手では、そもそもなかった。
戦わされていたのだ。
それでも、敵を満足させて、追い返すことが出来たのは。EDFの苦闘の成果。特に、ストームチームの活躍は大きい。
アシャダムも、ストームチームには感謝している。
だから、話があるなら、出向かないといけないだろう。
これでも、仁義や信義は持ち合わせているつもりだ。戦闘だけしか生き甲斐がないアシャダムだからこそ。
大事にしたいものもあるのだ。
医務室に出向く。まだヒドラは発進していない。どうやら東京基地地下の医療設備だけでは足りないらしく、駆けつけたヒドラの医療設備は、どれもフル活用されているようだった。
多分欧州には、この様子では当面戻れないだろう。
世界各地との通信は復活している。
アースイーターがまるごといなくなったのだから、当然だろう。あんなもの、敵巨大宇宙船から見たら、艦載機の一部程度に過ぎなかったに違いない。
「ストームリーダーは」
無言で、医師が専用の通信設備を顎でしゃくる。
周囲はけが人の手当で、修羅場だ。痛い痛いという悲鳴や、駆け回る医療スタッフの喧噪の中。
酒臭いアシャダムは。例え英雄でも、いい顔をされなかった。
「此方オメガチームリーダー」
「先ほどは助かった」
「姉君は無事か?」
「あまり良くない状態だ。 知っての通り、姉は超快復力を備えているが、それでも当面は目を覚ますことはないだろうな。 ひょっとしたら、もう目を覚ますことはないかも知れないと、医師には言われている」
そうだろう。
ストームリーダーが別れる前に少し言っていたが。ストームリーダーが戦うためのお膳立てを整えるために、必死に嵐はじめは奮闘していたという。ストームリーダーに向く攻撃を悉く自分ではねのけ、盾になった。
だから、戦いが終わって。その場で倒れるほどのダメージを受けていたのだ。
「一つ、頼み事がある」
「何だ。 大概の話なら聞くぞ」
「これから、オンリー回線を開いて欲しい。 キーを転送するから、受け取ってくれ」
キーと来たか。
勿論、快諾する。
アシャダムのバイザーは、幹部用の最高機密が盛り込まれたものだ。生半可なハッキング程度ではびくともしない。
内部のデータは若干雑に扱ってはいるが。それでも、現状のEDFの最新機密が詰め込まれたデバイスなのだ。
キーは極めて単純なもので、番号をそのまま入れてある。
暗号化もされていて、アシャダムの専用キーでないと解除できない。これは何かと聞き返すと、ドアのセキュリティキーだと言われた。
それで、何となくぴんと来る。
「あんた、シェルターにでも籠もるつもりか」
「場所は言えないが、おおむねそうだ。 私は兎も角、姉貴がそもそも、もう限界だってのは分かっていた。 今後地球人が、フォーリナーの襲撃に備えなくても良くなったときに、姉貴に何をするかは知れている。 私は自分を守り抜く自信があるが、姉貴まで守りきれるかは分からないからな」
同じキーが、ストームチームの幹部にも、渡されるようになっていると言う。
シェルターの場所も、分散して情報を教えているそうだ。
非常に厳重だが。
まあ、立場を考えれば、仕方が無い事だろう。むしろ、ストームリーダーには、同情してしまう。
「オメガチームリーダー。 これからどうするつもりだ」
「EDFに残るさ。 俺には戦い以外に出来る事はないし、傭兵にでもなったら、敵を殺しすぎて、地球の復興に支障をきたす」
「そうか。 それが良いかもしれないな」
「あんたが起きて生きられる世界が、早く来ることを祈る。 地球人が少しは進歩してくれると良いんだがな」
通信を切る。
あまり長く通信していると、余計な連中に嗅ぎつけられる可能性もある。これでいいのだ。
医師に五月蠅く言われたので、診察を受ける。
「よくありませんな」
「末期癌でもなければ大丈夫だろう、今の技術なら」
「その末期癌です。 正確には、その前段階です。 これから、しばらく治療に専念していただきます」
舌打ち。
本当だったら面倒だ。実際、アシャダムも体を無理矢理治しながら、前線に立ち続けたのだ。無理がたたったのである。実際、急速医療で体を治しながら戦った人間が、重度の病に冒された例も報告されているそうだ。
今の技術なら、癌も余程酷い状態でなければ克服できる。むしろ運が良かったと想って、諦めるべきなのかも知れない。
いずれにしても、しばらくは出来る事もない。
アシャダムは、言われるまま医務室に移ると。これからの治療について説明する医師の話を適当に聞き流すことにした。
どうせ総指揮はカーキソンが執るのだ。
実戦部隊の出番は、もう無い。
戦いが終わって。
キャリバンの中から、全てを撮影していた柊一歌は、愛用のカメラを下ろしていた。ストームチームから散々嫌われながら、時には罅さえいれかけながらも。正しい情報のために、取材を続けてきた。
そして、最後まで戦いにつきあい。
できる限りの情報を集めたのである。
嫌われることはむしろ勲章。
正しい情報を得ることだけが、ジャーナリストの本分。
そう考えて、柊は今までずっと動いてきた。
勿論、良心が痛んだこともある。
嵐姉弟が、案外孤独で真面目な性格をしていることや、戦いに悩んでいることも分かったし。
彼らが意外に、人間らしい感情を持ち合わせていて。生半可な姉弟よりも、強い信頼関係を持っている事。
嵐はじめが、自分より優れた弟にコンプレックスを感じながらも。誰よりも大事な肉親とも考えている事。
そんな事が分かると。ストーカー同然の密着取材を続けてきたことが、何だかむなしく感じる事もあった。
だが、それ以上に、正確な情報が大事だと思ったから。この非人間的な作業も、続けられたのである。
最後の戦いも、ばっちり収めることが出来た。
ストームチームは病院に収容されるか、何処かに去ってしまった。多分これから、色々忙しいのだろう。戦いが終わったことは確認できたし、柊としても、密着取材は此処までだ。
東京基地は更地になってしまったが。
地下空間はかなりの部分が無事。砲撃が貫通した場所もあったが、それはあくまで一部。多くの死者は出したようだけれど。彼方此方にある居住スペースはあらかた無事で、柊が借り受けている場所も大丈夫だった。
腰を落ち着けて、情報の精査に入る。
しかし確認してみると、あの巨大宇宙船や。
ドラゴンが語っていたことは、いっさいカメラには残っていなかった。言っていたことは覚えているけれど。ひょっとすると、宇宙人が余計な配慮をしたのかも知れなかった。
ストームチームの戦いぶりは、映像に残す事が出来た。
それで、今は満足するべきなのかも知れない。
型落ちのキャリバンが、大勢地下から出てきた。負傷者を運んでいく。柊は邪魔だと言われて、キャリバンを追い出された。まあ、戦闘が終わったのなら、それも当然か。辺りには不発弾もあるだろうから、アーマーはまだ外せないが。
ストームチームの面々は、もういない。
ストームリーダーが、倒れたはじめ特務中佐と一緒に、地下へ消えるのは見た。他のメンバーの内、無事だったのは日高中尉くらい。彼女はキャリバンで来た面々に、何処に誰が倒れていて、どれくらい怪我していると、適切に説明していた。
破壊され尽くした、東京基地を撮影して廻る。
通信状態が、非常にクリアになっている。多分各地の地下シェルターも、今頃戦勝に沸いているはずだ。
戦勝か。
それどころか、実際は敵が満足したので帰って行っただけ。
地球人類は、戦闘奴隷化を免れたけれど。
戦争が終わり、宇宙人の脅威がなくなった今。きっと地球は、以前と同じ。多数の民族が、仁義なき殺し合いを続ける混乱の坩堝に逆戻りしていくことだろう。
少し休んでから、地上に戻る。
休んだ間に、かなり片付けが進んでいた。特にもう死体や重傷者は、何処にも見当たらない。最優先で処理を進めたのだろう。ただし、戦闘兵器の類も、殆ど原型をとどめているものがない。
戦っていた辺りに来ると、ストームチームがずっと使い続けてきた兵器の残骸が見受けられた。
敵をたくさん倒してきたイプシロンも。
制圧火力として活躍してきたネグリングも。
あのアースイーターとの戦いで、文字通り粉みじん。殆ど残骸も残っておらず、無惨極まりなかった。
撮影を続けていると、ジープで誰かが来る。
手酷く負傷した、日高司令だ。直接取材をした事はないけれど。ストームチームが話しているのは、何度か見た。負傷を押して、ジープで現場に来たらしい。仕事熱心な事である。
運転しているのは、誰だろう。
まだ若い娘だが、彼女も頭に包帯をしている。
「司令、もう戻りましょうよう」
「馬鹿を言うな。 司令が健在な姿を見せれば、それだけ勇気づけられる兵士もいる」
「それはそうでしょうけれど」
黙礼して、ジープの側を通り過ぎる。
日高司令は無能なことに定評があったが、不思議と兵士達からは嫌われてはいなかった。勿論毛嫌いしている者もいた。娘の日高中尉などはその典型だろう。
こういった正しい行動を、負傷を押して執る事が出来る。
その辺りが、嫌われない要因なのだろう。
やるべき事のためには、手段を選ばなかった私とは、真逆の人間だな。そう、柊は思って、苦笑いした。
通信が劇的に改善している。
編集長とも、連絡が取れる。ずっとシェルターに閉じこもって、生きた心地がしなかったらしい。
「そうか、地球から宇宙人は去ったのか」
「これからは、また人間の歴史が戻ってきます」
「それが良いことかは別として、とにかく今はご苦労様。 データを編集して、特番に備えておいてくれ」
通信を切ると、嘆息する。
平和なんて、きっと長続きしない。或いはあの宇宙人共、放っておけば地球人は内紛の末に自滅すると考えているのかも知れない。ましてや今は、明らかに地球人の手に余る技術や、膨大な物資を敵が残したのだ。
人口は昔の十分の一になってしまったが。
それでも、人間は変わらない。すぐに爆発的に増えて、どうせろくでもない争いをまた始めることだろう。
EDFは、どうなるのだろう。
あれだけ引っかき回しておいて、おかしな話だが。
私は、せめて。
あの最後まで戦い抜いた姉弟が、少しは報われると良いなと思った。