地球防衛軍4二次創作 2025絶滅螺旋   作:dwwyakata@2024

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1、蜘蛛の巣の街

現地へ移動しながら、ブリーフィングを行う。

 

三川の疲弊が濃いのは、一目で分かった。何しろ昨日の今日だ。あのような目に会って、すぐに回復できるとは、私だって思わない。

 

今日は控えだろう。

 

ウィングダイバーには、ベテランのエミリーがいる。もともと今日は一丸となって作戦行動をする予定だ。三川の戦闘力では、さほどの戦果は元々挙げようが無い。

 

幸い、今日はそれほど大規模な作戦は行わないとされている。

 

東京支部では、レタリウスの解析に力を尽くす予定と言う事だ。

 

つまり、これからストームチームが行う攻撃作戦を、他の部隊は支援。他の地域から蟻の増援が行かないように、牽制での攻撃を行う、という事になる。

 

蟻の増援、か。

 

レタリウスではない、いわゆる凶蟲も沸いていない。

 

赤蟻も姿を見せていない。

 

敵の戦力は、まだまだ未知数と言わざるを得ない。スカウトが連絡してきているように、彼方此方に敵の巣穴につながった場所も見つかっている。

 

敵の増援が、地上から平行に来ないかも知れないけれど。

 

地下から沸いてくることを、阻止することは出来ないだろう。

 

昨日同様のグレイプが二両。

 

一両は昨日と同じ最新鋭だけれど。もう一両は、輸送用にと派遣されたかなり旧式のモデルだ。

 

前衛には出すなと釘を刺されている。

 

確かに、耐久力でも火力でも、最新鋭のRZには及ばないだろう。無理をさせるわけにはいかない。

 

今日の本命は、最後尾にいる。

 

イプシロン装甲レールガン。

 

いわゆるレールガンを搭載した自走砲である。

 

非常に巨大なレールガンは、2017年の、フォーリナー襲来の際にはまだ実戦投入されていなかった兵器である。試用はされていたが、あくまで大砲の一種という扱いであって。高価な長距離砲、程度の存在だった。

 

フォーリナーの技術を吸収したことで、レールガンは大幅に進歩。

 

その高速で撃ち出される弾頭は、圧倒的破壊力を発揮する事が、既に確認されている。ライサンダーもそうだが、弾速が早ければ、威力は増す。単純な理屈なのだ。

 

ただ、弾道制御にまだ課題が残る。

 

ライサンダーもそうだが、このレールガンは玄人でしか扱えないのだ。

 

其処で今回は、香坂夫婦に、レールガンを託す。

 

秀爺は長距離戦の名手だが、今回の相手になるレタリウスは正直な話、単純なスナイパーにとっては分が悪い相手だ。

 

相手の耐久力が問題になるのである。

 

一キロ近くからの狙撃という点では、秀爺も出来る。だが、相手は此方の攻撃に耐え抜くのである。

 

最強の狙撃銃であるライサンダーの攻撃にもだ。

 

其処で装甲戦闘車両であるイプシロンを用いて、狙撃戦を行って貰うのである。これなら多少の反撃を貰っても、ロストはしない。イプシロンはMBTに比べれば装甲は薄いものの、それでも自走砲だから歩兵戦闘車よりは硬い。充分にレタリウスの反撃には耐え抜けるはずだ。

 

作戦地域に到着。

 

グレイプを降りる。

 

道程にて既にブリーフィングは済ませてある。今回も無茶な作戦だが、それでもやらねければならない。

 

アンノウンを放置出来ないのだ。

 

以前の大戦では、アンノウンである黒蟻に対する処置を間違い、序盤から大きな被害を出す事になった。

 

レタリウスは、既存の巨大生物の能力が上がっただけの存在とは訳が違う。

 

狙撃戦と広域防御をこなすという点で、今までの巨大生物とは一線を画する存在なのだ。だからこそ、危険を冒してでも、データを得なくてはならない。

 

他の戦線では、遠距離からの砲撃で根こそぎ吹き飛ばすか、空爆で焼き払うかを選んでいる様子だが、それでも効果的な戦術を得られれば、違う対抗手段を選択できるようになる。

 

此処は、ストームがやらなければならないのだ。

 

私が前に出る。

 

弟が、オンリー回線を開いてきた。

 

「行けるか、姉貴」

 

「四足三体を同時に相手にした私が、蜘蛛如きに遅れを取るか」

 

「どうした、妙に気負っているな」

 

「……いや、そうだな。 確かにアンノウン相手に虚勢を張るのは良くない事だ。 いつも通りこなしてみる」

 

今日は、昨日と武装を変えている。

 

ブラストホールスピアの他に、大盾を持ってきているのだ。

 

これは高速振動させることによって、飛んできたものをそのままはじき返すという、強力な機能を有した盾だ。

 

このほかにも、相手に効きやすそうな兵器を試すようにと言われている。幾つかはグレイプに搭載していて、状況に応じて用いる予定だ。

 

勿論、レタリウスの死体の回収も急務だ。死体を解析して、本部で有効な対策を割り出すのも重要である。

 

本部の指揮は無能なところも確かにあるが。

 

科学陣は、有能だ。

 

理由については色々あるのだけれど。私からは周囲に言う事はないだろう。

 

長い国道の先に。

 

銀色の森が見える。

 

白銀の糸に覆われた。敵の手に落ちた地区だ。

 

向こう側には、最低でも二十のレタリウスがいて。もはや無人と化したビル街に、我が物顔に領土を広げている。

 

その下には、最低でも三百以上の黒蟻が控えている。

 

勿論、最低でも、だ。

 

どちらも五倍以上出てきたとしても、不思議では無いだろう。いずれにしても、生半可な戦力が近づくのは、文字通りの自殺行為である。

 

作戦はこうだ。

 

まず、敵の戦力を削り取る。

 

敵が減ったところで、実験的に様々な兵器を試す。

 

可能なら、この地区の敵を掃討。

 

最後に、レタリウスのサンプルを回収する。

 

極めて単純な内容だが、実行は難しい。その上敵の能力がまだよく分かっていない事もあって、危険が大きい。

 

今回からは、空軍や砲兵の支援も期待出来ると、日高からは聞いている。その辺りの事は、谷山に任せている状況だ。

 

谷山はと言うと、旧式のグレイプを指揮車両代わりにして、陣の最後尾に陣取る。

 

最前衛には、グレイプRZ。イプシロン装甲レールガンは、状況に応じて適宜位置を変える。

 

レンジャー、ウィングダイバーは状況に応じて適宜支援。

 

弟は最前衛に出てくる。もっとも、敵に対して肉薄するのは、私だが。

 

「多分仕掛けたら、すぐに蟻の大群が来る。 突入するはじめ特務大尉を、全員で支援する」

 

「まああんたに限って下手は打たないと思うがな、きをつけな」

 

弟が声を掛けると、涼川がスタンピートを構えた。

 

今日はスタンピート一本に、アサルト1丁という変則的な構えだ。基本的に、レンジャーに渡されるメインウェポンは二本と決まっているのだけれど。涼川は二本とも大威力火器で出てくる事が珍しくない。

 

三川は控えとして、グレイプの中。

 

エミリーはウィングダイバーとしての高い力量を生かして、機動戦を行う事になっている。

 

筅はグレイプRZを操縦して支援。他のメンバーは、ジョンソンの指揮下で、敵の迎撃に当たる。

 

涼川は弟と一緒に独立遊撃だ。

 

二人とも著しく高い戦闘力と判断力を持っているので、下手に指揮下に入ると、却って力を削ぐことになるからである。

 

彼らの支援を受けながら、私が敵に突入する。

 

距離が、一キロに。

 

敵が気付く。

 

こればかりは、生物としての性能の差だ。どれだけ此方が身を隠しても、相手は野生の生物なのだ。知能が如何に高くても、である。

 

故に、距離が詰まれば、人間より遙かに優れた勘で気付く。

 

イプシロンが大通りで止まる。

 

敵とは直線距離で丁度1キロほど。イプシロンの射程距離は二キロほどだが、秀爺も流石にいきなり使う武器で、初撃確殺とは行かないのだろう。

 

ジョンソンがハンドサインを出して、新兵達に指示。

 

陣形がさっと作られる。

 

新兵の動きはまだ若干たどたどしいが、事前の指揮通りだ。弟と涼川が並んで歩き出し、前に出る。

 

同時に、イプシロンの砲塔が、咆哮した。

 

レールガンという兵器は、基本的に磁力を用いて砲丸を撃ち出すものである。このため、膨大な電力を消耗する。

 

イプシロンは車体にその電気を産み出すだけのエンジンを搭載しており、これの小型化に成功したのが五年前。つまり、前大戦には間に合わなかった。

 

砲撃とともに撃ち出された弾丸は、一番手前の巣。

 

商店街のモール入り口に掛かっていた巣に直撃。しかしバイザーを通じて、レタリウスには外れたことを私は確認していた。

 

巣が凄まじい揺動をする。

 

蜘蛛の中にも、外敵に襲われると巣を揺らすタイプがいるが、似たような習性を持っているのだろう。

 

二発目まで、少し時間が掛かる。

 

弟がライサンダーをうち込み、レタリウスに直撃。足が何本か吹っ飛んだようだが、倒せはしていない。反撃の糸が飛んでくる。

 

それを皮切りに。

 

銀糸の傘に覆われた敵陣から、どっと無数の蟻たちが姿を見せた。いずれもが、何処に潜んでいたのか分からない。とにかく、怒濤と言って良い勢いである。

 

更に、十体を超えるレタリウスが、一キロ離れている此方に対し、必殺の糸を放ってくる。新兵達を後退させ、少し戦線を下げる。

 

状況は、全てグレイプに備えたカメラで、東京支部へ送っていた。

 

そこから本部に転送し、解析を進めさせるのだ。

 

「さーて、今日もおっぱじめるかあ!」

 

涼川が、突入してくる蟻の群れに対して、スタンピートをぶっ放す。

 

多数放出されたグレネード弾が、蟻の群れを情け容赦なく爆破していくが。爆炎を斬り破って、蟻の群れがすぐに姿を見せる。

 

弟が腰だめして、アサルトをぶっ放しはじめる。

 

そして、涼川と殆ど同時に、左右に飛び退いた。

 

煙幕など一切無いかのように。

 

一瞬まで弟がいた地点を、レタリウスの長距離狙撃が貫いていたのだ。

 

「新人、もう少し下がれ」

 

「フォーメーションD!」

 

ジョンソンが叫び、新人達が少し距離を取る。敵がもう少し迫るまで、私の出番はない。盾を何時でも動かせるようにして、私はグレイプの上に乗り、状況を見つめていた。

 

「グレイプRZ、射撃を開始します!」

 

「よし、行け」

 

弟の許可とともに、グレイプの速射砲が動き始めた。

 

蟻の群れに叩き込まれる砲弾が、容赦なく敵を削る。しかし、前線が見る間に近づいていくことに変わりは無い。

 

涼川が二発目のスタンピートを叩き込む。

 

敵がまとめて消し飛ぶが。前線が更に近づくことに、変わりは無かった。

 

「姉貴!」

 

「よしっ!」

 

ブースターを噴かし、私は跳んだ。

 

蟻の群れの眼前に着地すると、持ち込んでいる武器の一つ、ヴィブロハンマーを叩き付ける。地面に強烈な衝撃波を発生させることで、広範囲の敵を吹き飛ばす凶悪な兵器だ。重すぎてレンジャーには使えないが、フェンサースーツの強化効果があれば、私にだって振るう事が出来る。

 

爆裂。

 

蟻の群れが、吹っ飛ぶ。

 

敵の攻勢が鈍り、私はスピアをかざしながら、突入。手当たり次第に蟻を貫きながら、前に出た。

 

イプシロンが、第二射。

 

今度は直撃。

 

最前列にいたレタリウスが、消し飛んだ。

 

第三射の準備に入る秀爺。私は前線に、更に深く切り込む。

 

敵は誤射をしない。

 

それを利用するのだ。

 

時には黒蟻の死骸を盾にして、レタリウスの糸をかわす。勿論敵は此方を囲い込んで、袋だたきにしようとするが。

 

其処は弟と涼川、新兵達の支援を当てにする。

 

長距離砲撃が、次々と蟻の群れを爆散させる。

 

しかし、である。

 

敵が戦術を切り替えたのは、直後だった。

 

突撃を続けていた黒蟻が、さっと後退を開始したのである。追撃をかけようとした原田を、ジョンソンが叱責した。

 

「その場に待機!」

 

「で、でも攻めこむ好機では」

 

「よく見ろ」

 

私はスピアをしまうと、大盾に切り替える。

 

フェンサースーツには、スーツをそうできるように。武器を小型化して、格納する機能がついているのだ。

 

盾をかざしながら、全力で下がる。

 

蟻の群れが下がると同時に射線が確保され、陣を張っているレタリウスが一斉砲撃を開始したからである。

 

私が下がりはじめたのを見て、新兵達も長距離武器に切り替える。

 

此処までは、作戦通りだ。

 

「まずは、邪魔な巣を一つずつ排除する」

 

黒蟻が此方の対応能力をみるため、反撃に出てくることはわかりきっていた。だから最初に全力で叩いて、下がらせる。

 

その後は、防御陣地を削り取る。

 

またイプシロンが咆哮し、レタリウスを一匹仕留める。

 

流石の破壊力だ。

 

携行兵器であるライサンダーは取り回しが楽だという長所があるが。人間が携行すると言う事を考慮しない分、イプシロンのレールガンは破壊力が大きい。そして秀爺も流石だ。たったこれだけの狙撃で、もうコツを掴んだらしい。

 

もちろん観測手であるほのかの腕が凄まじい事もあるからだろうが。

 

エミリーから、通信が飛んでくる。

 

「敵の一部が、後方に回り込んだわ」

 

「一人で対処できそうか」

 

「数は六十から七十。 ちょっと単独対処はきついわ」

 

ここでの対処が難しいというのは、維持している陣形に対しての接触を許す、ということだ。

 

私は下がりながら、盾の消耗を確認。

 

一撃ごとが、思ったより遙かに重い。これは、レタリウスに対しての有効打は期待出来ないかも知れない。

 

「あたしがいくぜ」

 

「頼むぞ」

 

どうやら、涼川が行く事になったらしい。

 

またイプシロンの砲撃。三匹目のレタリウスが吹っ飛ぶのが見えた。それを確認してから、弟が指示を周囲に出す。

 

「バイザーに指示を出した。 ターゲットにした巣に集中攻撃。 一枚ずつ、敵の防衛網を剥がしていくぞ」

 

「イエッサ!」

 

新人も加えて、長距離からの射撃が、敵陣を削いでいく。

 

後方では、エミリーと涼川が、敵の一支隊との交戦を開始していた。ジョンソンが時々、支援砲撃を入れている。

 

敵の陣地からは、黒蟻は飛び出してこない。

 

私はようやく弟の所まで戻ると、盾を格納。消耗が激しいが、自己修復機能がついている。しばらくすれば、またつかえる。

 

今の時点で、被弾は無い。

 

敵陣はイプシロンの砲撃で、確実に削られはじめている。見える範囲でも、幾つかの巣が、既に崩壊していた。

 

「どう思う」

 

「何ともいえんな」

 

「そろそろ砲兵に支援を頼むタイミングか」

 

「いや、待て。 此方で、できる限りの事をしておきたい」

 

なるほど、砲兵による支援は、できる限り先送りしておきたい、という事か。

 

何か嫌な予感を覚えているのかも知れない。

 

確かに、きのうあれだけEDFを振り回した蟻共が、今更になって穴熊を決め込んでいるのは妙だ。

 

「少し前進」

 

弟が指示を出し、陣が少しだけ前に出る。

 

しかし、その瞬間。

 

異変が起きた。

 

真横から飛来した糸が、グレイプRZを捕らえたのである。身動きが取れなくなったグレイプは、速射砲を封じられた。

 

「右から敵襲!」

 

「何……!」

 

巣は無い。

 

しかし其処には、隠れる様にしてレタリウスが、確かに糸を放出していた。

 

巣を離れて動き回る事もするのか。

 

盲点だった。

 

それだけではない。右から、また糸が飛んでくる。かなりの長距離。撤退中の黒蟻の群れだと思っていた奴らの中に、レタリウスが混じっていたのか。

 

黒沢が、糸に捕らえられた。

 

逆らおうとして、出来るものではない。

 

更に、である。

 

タイミングを合わせて、前から一斉に黒蟻が出現する。

 

「姉貴、前は任せてもいいか」

 

「ああ」

 

「ジョンソン、黒沢を捕らえている奴を頼む! 俺は右を叩く! 秀爺は、そのまま前衛の敵を砲撃継続!」

 

「此方涼川」

 

私が前に飛び出すと同時に、涼川の声。

 

敵の数が、想定より遙かに多いというのだ。

 

「多分スカウトに見つかってない巣の出口が、あたしらの後方にあるぜ。 また何十匹かお代わりが来た」

 

「ちっ……」

 

「包囲されたな」

 

押し寄せてくる蟻たちを支援する様に、無数の糸が前から飛んでくる。盾を構えながら突貫した私は、蟻の群れに突入すると、ハンマーを振るって敵を蹴散らしに掛かる。しかし、今度は敵も本気だ。

 

乱戦が始まる。

 

引きずられていく黒沢。必死に狙撃銃で反撃しているが、レタリウスはビルの間を逃げ回って、新人の腕では当てようが無い。

 

ジョンソンが、レーザーライフルを構え、掃射。

 

グレイプを捕らえていたレタリウスを瞬殺した。

 

しかしながら、グレイプに絡みついている糸が消えるわけでは無い。グレイプを出た筅が、慌てて色々な薬剤を試しはじめるが、糸は極めて頑強で、速射砲が使えない事に変わりは無かった。

 

右往左往する新人達を、ジョンソンが叱責。

 

「特務大尉を支援! 急げ!」

 

「敵、包囲を広げています!」

 

悲鳴混じりの声が飛んでくる。

 

原田だ。

 

どうやらバイザーで、現在の戦況を見ていたらしい。

 

なるほど、此処にそもそもストームを誘い込んだのも、計算のうちだったというわけだ。兵力の意図的に少なく見える地域を作ったのは、攻撃を誘うため。そして攻撃してきて、勝てそうに見せておいて、包囲に引きずり込むというわけだ。

 

膨大な酸が、四方八方から飛んでくる。

 

私は、フェンサースーツの中でほくそ笑んでいたかも知れない。

 

この程度で。

 

ストームが破れると思うか。

 

手当たり次第にハンマーを振るって、黒蟻を吹き飛ばし続ける。とっさに跳躍。私のいた位置を、レタリウスの精密射撃が抉っていた。

 

着地した私に、黒蟻が突進してくる。

 

盾を構えて、全力で展開。

 

一瞬の激突後、黒蟻を吹き飛ばした。

 

だが私も、同じように吹っ飛ばされる。着地と同時に、気付く。

 

私も、別のレタリウスの糸に、捕らえられていた。

 

確かに凄まじいパワーだ。しかし。

 

連続でハンマーを地面に叩き付け、周囲の蟻を無理矢理に掃討。衝撃波を浴びてスーツにもかなりの打撃があったが、それでも問題ない。

 

イプシロンの砲撃が、私を捕らえていたレタリウスを吹き飛ばす。

 

更に、弟が、黒沢を捕らえていたレタリウスの頭を、ライサンダーの一撃で吹っ飛ばしていた。

 

ずっと黙り込んでいた谷山が、此処でバイザーに通信を飛ばしてくる。

 

「これより、砲撃支援を要請します。 位置は」

 

「相変わらずスリリングな判断だ」

 

「ストームリーダー姉、少し下がった方がよろしいのでは」

 

「その呼び方は止めろっ!」

 

ちょっと苛立ったので、大きな声を出してしまった。

 

砲撃は十二秒後。遠距離の砲兵陣地より、クラスター弾による射撃で敵陣中枢部を狙う。直撃すれば、商店街も消し飛ぶが。しかし、巣を張っているレタリウスの大半と、守られている黒蟻の多くを葬り去ることが出来る。

 

「ちいっ!」

 

後方で、珍しく涼川が焦りの声。

 

多分後方にあると言う敵の湧出穴から現れたレタリウスに、糸で捕らえられでもしたか。

 

歴戦の勇者がこれなのだ。

 

他の地域での戦闘では、さぞや大きな被害が出ていることだろう。

 

「捕らえた」

 

これまた珍しく、秀爺が言うと、イプシロンが咆哮。

 

後方にぶっ放したという事は。涼川を捕らえていたレタリウスを屠ったという事だろう。激しい戦闘で、味方も消耗しているが。

 

敵の数も、確実に削れてきている。

 

私はと言うと、ようやくレタリウスの糸を切り離すことに成功。とはいっても、フェンサースーツの一部をパージしたのだ。

 

一旦、敵と距離を取る。

 

一部、具体的には左腕部分をパージしても、残りは稼働する。盾を使って下がりながら、どうにかグレイプの位置まで下がることに成功。弟も、意識朦朧としている黒沢を抱えて、戻ってきた。

 

同時に、敵陣に。

 

悪夢の炎が降り注ぐ。

 

谷山が要請した、クラスター砲撃だ。

 

瞬時に銀糸に包まれた商店街が炎に包まれた。燃え上がるレタリウスが、此処からも確認できる。

 

グレイプに戻ると、私は早速予備パーツを取り出す。

 

パージした部分から覗いていた私の左腕が小さいのに、気付いた新兵はどれだけいるだろうか。

 

私はせいぜい中肉中背。

 

巨漢に見えるフェンサースーツの中身としては、あまりにも小さい。

 

この恵まれない体格も、指揮には問題があるから。ずっと新兵の前では、隠していたのだが。

 

それに私は前の大戦で、この体格で、随分と苦労した。

 

周囲の連中には舐められたし、連携を取ろうとしない兵士も多くいた。そう言う奴から死んでいったけれど。

 

私の苦労が減ったわけじゃあ無いのだ。

 

スーツの予備を装着。

 

しばらく動かして、動作を確認。ダメージは全体的にかなりあるけれど、今回は幸いなことに、予備を持ってきているのが大きい。もっとも、長時間の戦闘で、さらなるダメージを受けると危険だろう。

 

「此方涼川、敵の穴の位置を確認した。 ちょっと糸で身動き出来ねーから、支援をたのめねーか?」

 

「そんな状態で戦っていたのか」

 

「アーマーがあるし、エミリーもいるからな。 そう簡単にはしなねーよ」

 

「分かった。 此処は任せるぞ、姉貴、ジョンソン。 谷山、敵の穴に、砲撃支援。 バンカーバスターだ。 その後セメント弾」

 

いうまでもなく、バンカーバスターは地中深くにまで潜って爆裂するタイプのミサイルである。敵の地中基地を破壊するために作られた兵器で、前の大戦の昔から実用化されている。

 

前大戦で使われなかったのは、フォーリナーの前に空軍が早々に沈黙したから。

 

それに、巨大生物の巣穴が頑強極まりなく、バンカーバスターの効果が著しく小さかったから、である。

 

だが、敵が外に作った出口に叩き込めば効果は充分にある。

 

敵の出足を挫いたところで、特殊セメントで塞げば、1丁上がり。敵も簡単には、次の出口を作る事は出来ない。

 

私がグレイプから出ると、代わりに半死半生の黒沢が中に入った。

 

眼鏡は何処かに落としてしまったようである。

 

「すみません、無様を晒しました」

 

「アンノウンとの交戦結果だ。 仕方が無い。 それに、私も糸を喰らった」

 

「……思ったより遙かに小柄ですね。 貴方、ひょっとして第四世代のクローンですか?」

 

「生憎そんなものがあるとは聞いていないし、私はお前より年上だ」

 

此奴、やっぱり見ていたか。

 

舌打ちすると、私はハンマーと盾の状態を確認しながら、出る。

 

弟が前線から下がった隙に、また蟻が現れている。というよりも、焼き払われた陣から、追い出されたのかも知れない。

 

「砲撃続行。 敵を削ります」

 

ほのかの声。

 

またイプシロンが砲撃。敵陣の一角を、吹き飛ばした。

 

 

 

戦闘は数時間続いた。その間、休む暇は一切なかった。

 

敵の包囲を崩してからも、反撃は続き。楽には勝てなかった。

 

新人は全員が手酷く負傷。筅も例外では無い。また側面から現れたレタリウスが放った糸が、グレイプの側面を貫通したのである。

 

アーマーを装備していなかったら、その場でミンチだっただろう。

 

至近距離からだと、これほどの破壊力があるのだと、戦慄してしまう。

 

他の新兵達も、断続的に続く戦闘の中で、大なり小なり負傷。

 

お気に入りのコンバットブーツを結局回収できなかったらしく、特級の不機嫌をばらまきながら、涼川がくる。

 

新しいアーマーを被って装着しながら、ぼやく。

 

「なあ、敵陣の様子は」

 

私は、その敵陣の真ん中に立ち尽くしていた。

 

商店街は完全に燃え尽き、蟻共は全滅。多分三百近くを、今日は葬ったはずだ。逃げた敵も多いことだろう。

 

敵の使ったらしい巣穴からの出口も見つけた。合計三つ。いずれもが、バンカーバスターとセメント弾で処理済みだ。

 

レタリウスの死骸も、転々としている。

 

弟が、手招きする。

 

比較的状態が良い死体があった。辺りには、敵の生体反応は無い。そろそろ、頃合いとみて良いだろう。

 

「まずはスカウトを呼ぶ。 その後、後方支援部隊を呼んで、レタリウスの死骸を回収して貰う」

 

「結局有効策は見つかりそうか、旦那」

 

「あらゆる能力が今まで確認されている巨大生物より上、としか今の時点では言いようが無いな。 それに狙撃戦をこなせる相手は初めてだ。 凶蟲でさえ、あくまで長距離武器としての糸を用いていた。 レタリウスは違う。 狙撃を専門にこなす巨大生物だ」

 

それも、相当高度な、だ。

 

壁になる黒蟻と連携して、高密度の攻撃を行うかと思えば。

 

おとりを使って、側面後方からの奇襲。

 

いずれも、生半可な新兵では、勝負にもならないほどの手管だ。

 

今回は斃す事が出来たが、それは世界を救った弟も含めた、最精鋭とも言うべき面子を集めたから、である。

 

無造作に私がスピアを向けて、まだ潜んでいた黒蟻を撃ち抜く。

 

生体レーダーに反応していなかったが。よく見ると、ビルとビルの壁に挟まるようにして、その場で焼け死んでいた。クラスター弾による砲撃の時に死んだのだろう。

 

ジョンソンが来る。

 

「良くない情報がある。 君達には伝えておきたい」

 

「どうした」

 

「茨城や神奈川、千葉に埼玉。 東京周辺で、一斉に巨大生物が出現した。 おそらく東京に最初に一撃を加えたのは、この布石だ。 今、EDFが対処に当たっているが、すぐに此処にも指示が来るぞ」

 

なるほど、そう言うことだったのか。

 

兵力を東京に集めさせ、更に今度は四方で一斉に攻撃を開始。

 

対応に振り回されている間に、EDFは各地に分散せざるをえず、兵力を消耗していく、と言うわけだ。

 

「他にも巣穴があった、というわけではないな」

 

弟が断言。

 

流石に、この辺りはEDFの東京支部(かっては極東支部)が存在していたのだ。幾つもの巣穴の存在を見逃すとは考えにくい。

 

敵には七年の時間があった。

 

それだけ、連絡用の通路を広げる暇があった、という事だろう。

 

「南米の戦況はどうなっている」

 

「まだ来てはいないのだが。 恐らくは苦戦しているとみて良いだろう」

 

「オメガチームも今は人員を減らすべきでは無いだろうに」

 

不意に、通信が入る。

 

日高からだった。

 

「ストームチーム、作戦行動が終了したと連絡を受けた」

 

「イエッサ。 現在スカウトの到着を申請中です」

 

「既に聞いているかも知れないが、東京の近郊四カ所で、巨大生物による攻撃が発生している。 いずれも規模はさほど大きくなく、新しい巣穴によるものとは考えにくい。 派遣したEDF部隊によって駆除作業が進展中だ。 そこで、だ」

 

このまま敵に先手を取られるのは面白くない。

 

そう日高は言う。

 

嫌な予感がして、私は弟と顔を見合わせた。私はこういうとき、話に口を挟まない。弟が指揮官だからだ。

 

しかし、弟の苦悩を共有は出来る。

 

昔から、そうしてきたのである。

 

「東京の旧地下鉄で、巨大生物の巣への、ひときわ巨大な入り口が見つかった。 君達には、威力偵察を頼みたい。 情報収集を行うスカウトの護衛も兼ねる」

 

「敵に圧力を掛けて、先手を取られるのを避けるつもりですね」

 

「すまないが、危険な任務を押しつける事になる」

 

弟の分析は、おそらく的を得ていたのだろう。

 

日高は明言を避けた。

 

弟は頷くと、疲れ果てている皆を促す。これから、近隣四県を廻ることは無さそうだ。ただしレタリウスに防御陣地を構築されたら面倒だ。EDFの主力は出払うことになるだろうし、その間東京にいる巨大生物どもは大手を振って闊歩することになる。

 

「これより東京支部司令部は、またプロテウスで前線に出る。 今日中に更に二地区を奪還する予定だ」

 

「あまり無理はなさらず」

 

「うむ……」

 

多分罪滅ぼしのつもりなのだろう。

 

日高は自分が前線に立つことを告げると、通信を切った。

 

ようやくスカウトが来る。

 

スカウトは偵察専門の部隊で、かなり有能だ。武装は比較的軽度のものが多いけれど、その代わり敵の探知に関してはずば抜けている。

 

スカウト14の隊長が敬礼してきた。

 

見覚えがある。

 

以前の大戦では、末期に無茶な隊員募集をした。十代前半の戦士も、数あわせとしてEDFに入り、敵と戦うことがあったのだ。

 

七年で大人になったが。

 

彼もそんな、実戦経験者に間違いなかった。

 

弟とは面識が無いらしい。私の事は、フェンサースーツもあって、認識できないようだった。

 

当時は同年代と思われて、何かと纏わり付かれたが。

 

彼は大人になったのに。私は、何ら姿が変わらないままだ。

 

「スカウト14、これより制圧地域の確認に掛かります」

 

「後続の調査部隊に、レタリウスの死骸の引き渡しを頼む。 後は爆撃で残った建物内にある物資を、元の住民に可能な限り引き渡して欲しい」

 

「イエッサ!」

 

多分調査部隊に言われていたのだろう。

 

状態保存用のシリコン剤を、手際よくレタリウスの死骸に吹き付けている。比較的状態が良い死骸だけでは無い。足だけや頭だけの死骸も、丁寧に保存をして廻っていた。

 

以前は、戦うだけで精一杯で、調査部隊を護衛する余裕など無かった。

 

だからスカウトが調査部隊を兼ねることも多く。特にこの男は、七年前からの古株なのだ。

 

手際が良いのも、当然だろう。

 

更に、弟は撮影した戦闘のデータも手渡す。これはどうせリアルタイムで引き渡されていたはずだが、念のためである。

 

私は、弟に目配せすると、グレイプの所に戻る。

 

かなりダメージが酷いが、どうせ地底への潜入任務では使えない。負傷している新人達を見回す。

 

死者が出ないだけ、ましだったというべきなのか。

 

「これより、また新しい任務に就く。 今回の任務は、先ほどまでの任務とは、また難易度が桁外れだ。 味方の支援も期待出来ない」

 

黒沢を除く新人が、恐怖にうつむくのが分かった。

 

無理もない。あのような激しい戦いである。昨日の戦いと同等か、それ以上の悲惨さだったのだから。

 

医療技術も進歩していて、急速な怪我の回復も出来る。

 

だが、精神の回復は、簡単にはいかないものなのだ。

 

「そこで、負傷者諸君は志願制とする」

 

「あ、あの」

 

筅が挙手する。

 

震えているが。小さな手には。それに目にも。決意が宿っていた。

 

「はじめ大尉達は、このまま危険な任務に挑まれる、んですか」

 

「そうだ。 敵の巣穴を調査するスカウトの護衛だ。 おそらく、出迎えの準備をしている巨大生物共と、真正面から奴らのホームグラウンドでやり合うことになる」

 

「わ、私も、行きます」

 

筅を、他の新人達が見た。

 

元々支援が主任務の筅だ。空爆課が地底に潜って何が出来る。

 

だが、空爆課も自衛用の武器は配給されている。その一部には、地底でも使えるものも含まれている。

 

支援専門の人間がいることで、役に立てることも、あるかもしれない。

 

「他には」

 

「僕も行きます。 負傷の度合いは低い」

 

黒沢が挙手した。

 

三川は怯えきっていて、ずっと震えを押し殺している様子だ。彼女を連れて行く訳にはいかないだろう。

 

原田は無理。

 

池口も、戦闘での負傷が軽いとは言えない。まだ経験が浅い新兵に、この負傷での戦闘は無理だろう。

 

機動戦が予想される上、複雑に入り組んだ地底に連れて行くのは厳しい香坂夫妻も、残って貰う事になる。

 

谷山が、新人達を基地に連れて行くと言ってくれた。

 

ビークルも、輸送してくれるという。オート操縦の追従モードで、敵がいない地域であれば、そのまま輸送が出来るのだ。

 

「悪いな、頼めるか」

 

「イエッサ。 私はその後、地底に向かいます」

 

「……そう、だな」

 

おそらく、今回の偵察任務、簡単には終わらない。

 

可能な限りの人員がいた方が良い。

 

無理は承知の上だ。敵の方が上手な以上、此方もあらゆる手管を尽くさなければならない。

 

組織戦で敵が勝る状況だ。

 

人類は、気力で勝負するしかないのが、厳しいところだ。

 

谷山が、グレイプRZと、イプシロンを輸送していくのが見えた。香坂夫妻も、そのまま基地で待機して貰う。

 

残ったのは、私と、弟。ジョンソンとエミリー。涼川。それに黒沢と筅。

 

幾つか、武器は吟味して、旧式のグレイプに積み込んでおいた。

 

黒沢が運転すると言ったので、任せる。

 

膝を抱えて座り込む筅を一瞥だけすると。涼川が、弟を見た。新しい噛み煙草を口に入れながら。

 

「なあ、旦那。 いくら何でも、無茶な命令じゃね?」

 

「ああ。 敵のこの可変性が高い用兵、此方の地底への進撃も見越していると判断するべきだろうな」

 

「死にに行くようなもんだぜ……」

 

「この面子ならどうにかなる」

 

しらけた目で、涼川はそうかもなと言う。

 

弟にご執心な涼川だけれども、戦場ではとことん冷酷な戦士としての判断も出来る。弟の言う事だと言っても、素直には従わない。

 

ジョンソンが咳払いした。

 

「特務少佐。 スカウトには、此方が主導権を持つと伝えるべきでは」

 

「そのつもりだ」

 

「無意味に動かれては、被害が増えますからな。 撤退の時期も見極めづらくなる」

 

「……ああ、その通りだ」

 

最初から今回の潜入任務は、撤退を主眼に置くしかない。

 

それは、この場にいる全員に周知しておかなければならない事だ。

 

弟は何も言わない。

 

だから私が言う。

 

「筅一等兵」

 

「は、はい!」

 

EDFでは特殊な階級制度を採用している。

 

二等兵なのは、配置されてから三ヶ月たつか、或いは実戦がおきるまで。実戦になると、二等兵は有無を言わさず一等兵に格上げになる。

 

だからもう筅は一等兵だ。

 

「お前には、マップの管理を任せる。 スカウトと情報を共有して、一人の脱落も許すなよ」

 

「はい……」

 

重荷を背負わせることになるが。

 

戦闘力が低い筅には、これくらいしか、役に立つことがない。そして役立たずを、庇っている暇も余裕も無い。

 

「今回は、全員で一丸となって動く。 絶対にはぐれるな。 私や弟でも、助けられるかは分からないからな」

 

生唾を飲み込む筅。

 

その肩を弟が叩いて、頼むぞと言った。




この作品でのEDFは、かなり独特の階級制度を導入しています。

現実の軍隊だと士官学校を出ないと士官になれなかったりする事が多いのですが。

まあ、八年前の大戦で、人類の大半が死ぬほどのダメージを受けたのです。

それで軍のシステムが変わった事もあり、一兵卒が将官まで出世することが珍しく無くなっています。
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