地球防衛軍4二次創作 2025絶滅螺旋 作:dwwyakata@2024
その中には、八年前にストームチームと最後まで一緒に戦った最精鋭、オメガチームの姿もありました。
オメガチームのチームリーダーは、ある秘密を持っていました。
オメガチームの隊長は、一部から王子と揶揄されている。
これは文字通りの意味だと、知っている人間はあまり多くない。
1970年代。
国連による世界の足並み統一の動きが進み、一部では世界政府樹立の動きさえが高まっていたころ。混迷を極めていた中東とアフリカにも、国連軍を主体とする大規模な治安維持部隊が多く訪れた。それまで圧政を敷いていた国も、それによって解体。
幾つかの王室は、この世から消えた。
表向きは、少なくともそうなっている。
あの頃国連では、地球全土の足並みを揃えるために、かなり無茶をしていた。国際的な秩序が最優先され、国連がローラーで挽きつぶすように小国を潰していた。国連に組み込まれた国も、そのルールの中で動く事が必要とされた。
逆らう人間もいたけれど。
今になって思う。
あれは、ひょっとすると。国連は、EDF設立の遙か前から、フォーリナーの襲来を知っていたのでは無いかと。
オメガチームを現在率いているアシャダム=ローレンホフは。その時解体された、中東の一王家の人間だ。
国を失ってから様々な地域を渡り歩き。貧民として暮らしていた両親の子として、アシャダムは生まれた。
物心つくころには、両親は世界に対する恨み言を述べながら、老人のような姿になって命を落としていた。過労によって著しく寿命を縮めたのだ。両親の素性を知る人間は、例外なく両親を蔑ずんだ。
だから、素性は隠すようになった。
危険な地域で、傭兵まがいのこともした。人だって殺したし、色々と他者には口に出来ない悪徳にも身を染めた。
名前も何度か変えた。
本当の名前は、誰にも言えない。
前大戦を経て、オメガチームは英雄と一緒に戦った部隊として名を挙げて。アシャダムも古き時代の王子よりも、遙かに高い名声を得たけれど。
しかし。今になって思うのだ。
本当にこれで、良かったのだろうかと。
戦うだけでしか、自分の存在を証明できない、気の毒な戦闘生物。それが自分の正体だと、アシャダムは自嘲することがある。
ストーム1リーダーは違う。
彼奴の姉だってそうだ。
これでもEDFの幹部だ。特に戦後は地位が上がった。だから、彼奴らが、EDFの前身機関によって作られた、宇宙人と戦争をするための生物兵器だと言うことは分かっている。
彼奴らは人類が勝つために造り出された存在であると、アシャダムは知っているけれど。しかし、戦闘以外にも、心を配ることが出来る。温厚で戦闘以外ではごく良心的な弟。弟ほど気性は優しくないが、周囲の人間のために泣ける姉。
どちらも、立派な人間だ。生まれが違うだけで。
俺は。そうじゃない。アシャダムは何度も自嘲した。
戦闘でしか、居場所を維持できないし。結局、そうすることでしか、「真人間」にはなれなかったのだ。
今、地底で。
大きな被害を出しながらも、最深部に向けて進撃しながらも、アシャダムは思う。闇の中を歩き、出迎えに出てくる巨大生物を片っ端からレーザーで焼き払いながら、アシャダムは願う。
強い相手よ、来い。
それでこそ、俺は。
ようやく、真人間として、認識される。
倒してやる。
どんな奴が来たとしても。
「隊長!」
部下の声が震えた。
最深部に、到着したらしい。巨大すぎる空間に、そいつは待ち構えていた。
従っている部下は、潜入開始の時点から見ても、半数以下に減っている。だが、怖れはしない。
むしろ、心が高揚した。
そこにいたのは、全長六十メートルを超える巨大な蟻の女王。しかも三匹。
この空間は、奴らの玉座。
無数の卵が奥に見える。つまり、此処こそ、巣の最深部。此処を叩き潰せば、南米の敵拠点は潰え去る。
人類も多くの兵を失ったが。
開戦わずか二日で、此処まで攻めこまれると、蟻共は思っていただろうか。
雄叫びを上げる。
蟻の女王も、それに返した。
アシャダムは突進する。薄ら笑いを浮かべながら。アーマーの損傷は激しいが、此処を乗り切ればもはや後は掃討戦だ。
そして、知っているのだ。
はじめて戦う相手ではない。攻防ともに能力が上がっているとしても、基本的な戦術は変わらない。
「懐に飛び込め! 臆すれば死ぬぞ!」
「イエッサ!」
腹部を持ち上げた女王蟻共が、視界が覆われるほどの膨大な酸をぶちまけてくる。まるで辺りは、酸のシャワーが降り注ぐ、地獄の浴槽だ。その中を、平然と躍りかかってくる、無数の蟻共。
周囲にいるザコ共は全て部下に任せる。それだけの力と装備があるからだ。
アシャダムは走る。
前に立ちはだかろうとする蟻は、たちまちレーザーキャノンの餌食になる。焼き払い、吹き飛ばしながら、走る。
酸など関係無い。笑いながら、真っ正面にいる女王蟻の側にまで、肉薄。レーザーを、ぶっ放す。
至近からの一撃だ。
悲鳴を上げてもがく女王の、頭部が。数秒間の抵抗の後、蒸発した。
膨大な酸が蒸発し、一気に場の空気を悪くしていく。右、少し近い。だから次は、右が獲物だ。
「左を叩け! レーザーキャノンを浴びせれば、殺せる!」
部下達は酸のシャワーを浴びながら、必死に戦っている。アシャダムは頭を失った女王が倒れ伏すのをもはや一顧だにせず、走る。
酸の直撃を浴びた。後ろからだ。
だからなんだ。気にしない。
跳躍。
岩を蹴って跳びながら、レーザー砲をぶっ放す。
女王蟻がその強固な装甲で止めようとするが、止めさせはしない。
殺す。
殺意を、ただ熱として、ぶつける。
叫ぶ。
凄まじい巨大な顎が迫ってくる。酸では駄目だと判断したか。くわえ込まれた。だが、それは望むところ。
口の中に、レーザーキャノンをぶっ放す。
悲鳴を上げながら、蟻がのけぞり。アシャダムは、女王蟻と弾きあう様にして吹っ飛ばされる。
はじき飛ばされるとき、女王蟻の体が、内側から爆裂するのを見た。負荷が限界を超えたからである。
立ち上がりながら、振り返る。
もう一匹は、既に部下達が仕留めていた。しかし、既に戦力は、更に半減してしまったようだった。
乾いた笑いが零れてくる。
彼奴の言葉を思い出したのだ。無意味な犠牲を、出来るだけ出さないように。
まだ本命の敵は、姿を見せてもいないのだから。
「卵を根こそぎ焼き払え。 掃討戦だ」
「は……」
「どれくらい、生きている」
「私を含め、十七名。 一緒に突入した南米支部のEDF兵士は、二千五百名を失っていると、今までの時点での報告がありました」
そうなると、最終的な損害は多分三千を超えるだろう。
オメガチームは人員補充が急務になる。彼方此方の熟練者を引き抜いて、加えなければならない。
即戦力求むという奴だ。
当然他の部隊は層が薄くなる。戦争とは、人材を浪費する行為。これに関しては、巨大生物どもが敵でも、人間が相手でも、変わらない。
部下が死んだことには、あまり悲しみがない。
あの悲惨な前大戦では、生き延びた部下の方が少なかったくらいだ。それに、両親がゴミのように死んだころから。アシャダムは、もう人間の死というものに、あまり感慨を抱かなくなっていた。
必要なことだった。
頭では分かっている。国連の行動は、少なくとも結果的には正しかった。
もしも地球の足並みを揃えなかったら。EDFの設立はとうてい不可能だった。そればかりか、ひとたまりもなく、フォーリナーに滅ぼされてしまっただろう。
だが、踏みにじられ、死んでいった弱者はたくさんいる。
それが、現実なのだ。
間もなく、女王の部屋の掃討が終わる。
アシャダムのアーマーは、既に機能停止していた。予備物資から、新しいアーマーを貰う。服の彼方此方から酸が煙を上げていた。多少は痛むが、どうでもいい。
巣に残った敵を掃討しながら、地上へ向かう。
この巣にいた敵の戦力は、一万ほど。動員した味方戦力は、ほぼ同数。
散々敵に対する研究をして、これだけの損害を出したという事になる。此処の五倍ほどの規模を誇るという東京の敵は、一体潰すまでにどれだけの被害が出ることか。
スカウトが、徹底的に敵の巣穴の残存戦力調査を行うために、専門の機材とともに、奧へ。
万が一の事もある。
地上との中間点辺りに確保したキャンプで、アシャダムは応急措置を受けることにした。
かなりの負傷者が、奧から運ばれて来ている。
中には、巣の奧に運び込まれ、救援が間に合ってかろうじて助かった近隣の住民もいるようだ。
途方もないラッキーである。普通、その状態で、助かった例はない。
スカウトの隊長が来た。敬礼をかわすと、軽く話す。
「敵の掃討、確認できました。 これより内部の調査を行った後、洞窟を崩落させます」
「ああ、そうか」
「女王を二匹も仕留めたとかで、流石でありますな。 一緒に戦えた事を、光栄に思います」
「何、それが俺の仕事だ。 それじゃあ、帰るとするさ」
既に、地上までのルートは確保されている。
欧州ドイツの敵の巣は健在。おそらく、今回のデータを元に、また敵を潰す作戦が行われるだろう。ユーラシアにも数カ所。アフリカにも。日本。オーストラリア、北米。合計して、まだ11カ所の蟻の巣が健在。姿を見せていないだけで、まだ他にある可能性も、否定は出来ない。
地上に出る。
そうして、ようやく真夜中なのだと実感できた。
丸一日、洞窟の中に潜って戦い続けて。
その結果、勝利することは出来た。
ストーム1リーダーは、今頃更に悪い条件で、戦っているのだろう。そう思うと、同情さえこみ上げてきた。
これより、南米支部に出て、戦勝の報告。
病院で手当を受けた後、欧州に戻る。まだまだ、潰さなければならない敵は、山ほど残っているのだ。
南米での勝報が、巣穴の入り口に到着した私のバイザーに表示された。
すぐにEDFも勝報を流しはじめるだろう。ただし、無理な攻略で、被害が小さかったとはとても思えない。
オメガチームが先頭に立ったとは言え、損害はおそらく三千を超えるだろう。そう、私は思った。
しかしながら、これは好機でもある。
以降南米支部は訓練に全力を注ぎ、他の支部に対して兵力供給も出来るのだ。南米からは、今の時点では、巨大生物は駆逐されたのだから。
「はじめ特務大尉」
不安そうに、筅が見上げている先は。
巨大すぎる穴。
地下鉄の路線の横腹を喰い破るようにして、開けられた其処は。奧から、既に無数の物音が響きはじめていた。
廃棄された地下鉄に入ってから、ものの十分。
これほど露骨に入り口を開けて待っていて、罠では無いとはとても思えない。弟が、側で舌打ちした。
オンリー回線で愚痴を言ってくる。
「姉貴、これはまずい」
「ああ。 我々と、涼川で前に立って、出来るだけ被害を減らすぞ」
「そうするしかないな」
筅に探査装置を動かす様に指示。
探査装置といっても、レーダーとあまり変わらない。問題は電波を吸収する素材が、巨大生物の巣には用いられている、という事だ。
故に、中継器を、かなりの数撒かなければならない。
幸い中継器はさほど大きくないこと、地面に撒けば勝手に埋まってくれて、巨大生物の目をごまかせること。
更には内部は頑強で、爆発するタイプの武器を使っても、簡単には崩落しないこと。
それらから、全力での戦闘が可能なことだけが救いか。
とはいっても、閉鎖空間だ。
あまりにも空気を燃やしすぎると、息が出来なくなる。酸欠に備えた装備も、多数持ち込んではある。
スカウト6も同行しているが、彼らの戦闘力には期待出来ない。
あくまで彼らは偵察要員なのだ。
「行きますか」
「分かっていると思うが、我々の前には絶対に出ないように。 敵は必ず我々で食い止めるから、後方から調査を続けてくれ」
「しかし、それでは偵察隊の意味が」
「此処は死地だ。 下手に進めば確実に死ぬ」
弟の声は冷たい。
スカウト6のリーダーも歴戦を重ねているようだが。それでも、ぞくりとさせるものがあったようだ。
頷くと、私がまず前に。
ここに来る途中、フェンサースーツは新品に換えた。私自身の体力が問題だが、それに関してはどうにでもなる。
四日間連続で戦い続けたこともあるのだ。
まだまだこの程度は、平気である。
前に、踏み出す。
通信が入ってきた。小原博士からだ。
「此方小原。 南米での戦況が入ってきた。 敵の巣は撃滅したが、死者三千を超えたようだ」
「了解した。 被害は大きかったが、勝利は勝利だ。 これから、巣の偵察に入る。 何か気をつけることはあるだろうか」
「今回は威力偵察だから、無理はしないようにしてほしい。 敵がどれだけ潜んでいるかの概算が分かれば良い。 そのための装備もスカウトに渡してある」
応じているのは弟だけだ。
私はバイザーを通じて会話だけ聞いている。涼川が後について、洞窟に入ってきた。
天井も床も、独特の湿り気がある。
奥の方では物音があるが。今の時点では、巨大生物は姿を見せない。
短い通路を抜けると、巨大な空間に出る。
前後左右、彼方此方に通路がつながっていて。しかも、入り口は一つしか無い。なるほど、此処は迎撃用の空間だ。
見る間に、前後左右に、無数の敵影が溢れはじめる。
レーダーは遠くまで敵を察知できない。巨大な蟻が、怒濤の勢いで突撃してきた。
「バック! 入り口まで戻れ!」
「熱烈な歓迎だな、オイ!」
涼川と一緒に、下がりながら火器を全開でぶっ放す。
涼川が手にしているのはU-MAXというグレネードランチャーだ。流石に地下では、スタンピートの使用許可は下りなかった。このU-MAXは強力なグレネードをかなりの指向性をもって撃ち出す兵器で、近距離用のロケットランチャーとして使われることが多い。涼川が愛用している武器の一つだ。
私が使っているのは、散弾迫撃砲。
近距離戦用にと、三島が準備してくれた武器だ。中から近距離の敵を爆破し、一気に制圧することが出来る。
トンネルを下がりながら、敵を撃ち続ける。次々迫ってくるかと思った敵だが。ある程度下がると、さっと後退。射線から身を隠した。
弟がロケットランチャーを構えたが、うち込むのを止める。敵に当たらないのが目に見えていたからだ。
完全な籠城戦だ。
「こりゃあれだ。 昔の城と、同じ構造だな」
「どういうことかね、涼川少佐」
「あん?」
不意に、小原博士が話しかけてきたので、涼川は面食らった様だった。
洞窟の入り口まで退避完了。
其処で、涼川は、忌々しそうにしながら、小原に応えるつもりになったようだ。バイザーを抑えながら、その場にいる全員に聞こえるように話し始める。
「あのホール、此方を迎撃するために考え抜かれた構造だ。 こっちは一度に少数しか入れないのに、敵は一片にたくさん出てこられる。 しかも四方八方からな。 昔の城でも、似た様な構造で、兵力差を補ったって話だろ。 はっきり言って、彼処だけでも抜くのは骨だぜ」
「なるほど、承知した。 対策としては、どうすれば良いと思う。 私はフォーリナーの研究家であって、戦術の専門家では無い。 前線にいる人間の意見を聞きたい」
「被害を問わないつもりだったら、今みたいに少しずつ兵を入れて、敵を撃退していくしかないだろうな」
「あの、これを使ってはどうでしょう」
筅が持ってきたのは、ロケットランチャーの一種。
通称ヴォルカニックナパーム。強力な燃焼性を持つ液体を込めた弾丸を放出し、その場にしばらく消えない火柱を作る。
炎の熱量は三千度を超え、巨大生物でも簡単に突破はできなくなる。ただ弾丸が非常に巨大なので、扱いが極めて難しい。
「そうだな。 これで穴を塞げば、ちったあマシになるか」
「次の突入時、中継器を一つか二つ、撒いていただけませんか。 レーダーが一気に拡大して、敵の侵入口を特定できると思います」
「それならば、私が」
スカウト6の隊長が挙手する。
しばし考え込んだ後、弟が頷いた。
「やってみよう。 涼川、ヴォルカニックナパームを頼めるか」
「喜んで、と」
「ならば私が、敵の足を止める」
私が前に出ると、すぐに作戦開始。ジョンソンとエミリーはスカウトチームの護衛。黒沢は、すぐに動く皆を、静かに見つめていた。
再び、洞窟を降りる。今度は弟も一緒に来る。
何処かから、蟻が迂回して後方に回り込んでくる可能性もある。ジョンソンとエミリーは、その時の備えだ。黒沢は、筅についていてもらう。
洞窟を、降りきり。ホールに出た。
すぐにスカウト6の隊長が、中継器をセットしはじめる。
見る間に、周囲が。レーダーが、赤く染まっていく。
性懲りもせずに来たか。
蟻共が、そうせせら笑っている様にさえ思えた。どっとわき出してくる蟻たち。間髪入れず、涼川がヴォルカニックナパームの長大な銃身を構え。弾丸を撃ち出した。
穴の一つに直撃。
巨大な火柱が吹き上がり、蟻が悲鳴を上げる。
見ると、七つか八つ、蟻がわき出してくる穴がある。一カ所からは同時にたくさんは出てこられないが。それでも、これでは手が足りないかも知れない。
迫撃砲を連射する私の横に、弟が来る。
スティングレイロケットランチャーを構え、ぶっ放す。
敵の出鼻を挫きながら、少しずつ下がる。
迫り来る蟻が、酸をうち込んでくる。
「スカウト6リーダー、少し下がれ」
「いえ、戦います」
スカウト6のリーダーが、渡されているアサルトを撃ち放ちはじめる。そこそこに良い腕だが、まだまだだ。ただ、力量はわきまえているらしく、弾をばらまいての牽制に終始してくれた。
いずれにしても、焼け石に水。敵の進撃が止まらない。迫る敵から順番に叩いているが、味方側の火力が小さすぎるのだ。
「よっし、二発目行くぜ!」
涼川が、ヴォルカニックナパームを構え、ぶっ放す。
また、穴の入り口に命中。蟻の群れが、遮られた。再び弾の装填作業に入る涼川だが。敵が、動きを変えた。
後方から、銃撃が響きはじめる。
やはり迂回して、別の出口から強襲に来たか。
だがその時に備えて、ジョンソンとエミリーを残してあるのだ。
更に、ホールにいた蟻は、撤退を開始する。此処を放棄しても、奧で充分に迎撃できる自信が敵にはあると、私は見た。
ほどなく、ジョンソン達が、スカウト6の兵士達を伴って来る。
「後方の敵は撃退した。 此方は」
「撃退は出来たが、小手調べのつもりだろう」
弟が、周囲を調べる様に、スカウト6に指示。幾つか、大きな穴がある。
敵の死体も散らばっているが、大した数では無い。無理に迎撃すれば被害が大きくなるとみるや、さっさと引いたという事だ。
筅が前に出ようとしたので、黒沢が止める。筅も自衛用の武器は渡されてはいるけれど、射撃もまずくて話にならないと聞かされていた。どういうわけか、車両についている武器であれば、上手に扱えるらしいのだが。
「ホールには中継器散布完了。 これで一気に、地図を広げられます」
「おそらく今回での攻略は無理だ。 偽装はできる限り丁寧にやってくれ」
「イエッサ!」
「後、可能なら重機をいれて、入り口を広げて欲しい。 次に攻略する際、同じ箇所で躓くのは避けたい」
小原が、どうにかしてみようと、通話先から話に参加してきた。
私は話には加わらない。とにかく、何処に敵がいてもおかしくない状況なのだ。無理に敵陣の攻略を目指せば、どれだけの被害を出す事か。
特殊なセメント弾を使って、スカウト6が穴を塞ぎはじめる。
これである程度は、敵の奇襲を防げる筈だ。
「此処から部隊を分けて、敵の探索を行うべきかと思いますが」
「駄目だ。 おそらく全ての部隊が同時に攻撃を受けて、一斉に全滅する」
「そんな」
「連中はそれだけのことをする知能を持っている。 先ほどの動きを見て、把握は出来たはずだ」
このホールは中継地点。
此処には涼川に残って貰う。後方確保は、エミリーとジョンソンに任せ、私は弟と一緒に、奧へと潜る。
二人だけだけれど。
却って気が楽だ。狭い通路ならば、前後を囲まれても撃退は難しくない。
最初に潜ったトンネルは、塞がれていた。
恐らくは蟻共が、自分で塞いだと見て良いだろう。
次のトンネルに潜る。
今度は、かなり深い。曲がりくねりながら、奥へ奥へと続いている。
また、ホール状の空間に出る。
相当数の敵がひしめいている。しかも、敵は蟻だけではない。
そのハエトリグモに似た姿。間違いなく、凶蟲。通称蜘蛛だ。ただレタリウスの登場によって、蜘蛛と呼ぶと紛らわしいから、しばらくは凶蟲と呼んでいく方が良いだろう。
足を広げた全長はおよそ十メートル。黒蟻とほぼ同等のサイズ。
そして此奴らの特徴は、長距離からの跳躍。そして、大量の糸を吐くことによる攻撃。地下でも、その機動力は変わらない。
通信状態がかなり悪い。何度か失敗した後、バイザーを使って、弟が後方へ指示。
「敵発見。 二人での対処はかなり難しそうだ」
「了解。 増援を送る」
「スカウト6リーダーと、護衛を一人。 後はホールの維持に注力しろ」
このホールも、間違いなく敵が迎撃のために作った空間だ。どれだけ念入りに、迎撃の準備を整えているのか。
いや、それは此方も同じか。
このホールを制圧したら、ある程度の敵戦力は測れるだろう。現時点で予想されている五万をどれくらい超えるかが問題だ。
敵が増える速度を計算して、出てくる敵をどれだけたたけるか。
それが勝負を決める。
フォーリナーが来る前に、おそらく最大規模のこの東京の巣穴だけは、どうしても沈黙させたい。
その事に関しては、弟も私も、異論はないのだ。
彼奴はどう思っているのだろう。地下で、我々にアドバイスを寄越す彼奴は。
私も弟も、彼奴については全てを知っている訳では無い。多くの事を彼奴に聞かされたけれど。
まだ、全ては聞かされていないという強い確信もある。
スカウト6リーダーが来た。護衛についているのは黒沢だ。判断としては間違っていない。今重要なのは、如何に後方の拠点を守るか、だからだ。幾つかの中継装置を撒いていく。
設置が終わる。
「しかけ、ますか。 凄い数ですが」
「そうせざるを得ないな」
スカウト6リーダーは勇敢な人間だが、流石に生唾を飲むのは避けられない様子だ。
当然だろう。
眼前のホールには、黒蟻と凶蟲の連合軍が、ざっと三百はいる。どうして自然界では普通天敵と餌の関係になるだろうこの二者が共存できているのかは、分かっていない。私は同種の生物だと見なしているけれど、それにも確信があるわけではない。
「基本は下がりながら、敵を削っていく。 何度か波状攻撃を仕掛けることになる」
「分かりました」
「黒沢一等兵、後ろから敵が来た場合、対処しろ」
「は、しかし。 今まで来た中で、横穴はありませんでしたが」
弟はそれ以上何も言わない。
だが、これだけ入り組んだ地下空洞だ。途中、偽装された横穴があっても、気付けない可能性は高い。
中継器のおかげで、幸い通信はクリアになった。
「涼川、そちらは問題ないな」
「ああ。 だがこちらにも、いつ敵が出るか分からんぜ」
「その時は徹底的に潰せ」
「イエッサ」
仕掛ける。
弟がハンドサインを出した。
頷くと私は、敵が集まっているところに、迫撃砲を連続して叩き込む。地下に光と爆発の花が咲く。
即応した敵が、一斉に此方へと集まってくる。
「バック!」
即座に弟が指示。
私が最後尾に残って、敵に迫撃砲を連射。敵が集中してくれば、殺戮の効率も必然的に上がる。
殆ど時間をおかずに、涼川から通信。
「案の定だ、来たぜ! 後ろを塞がれた! それにホールも、塞いだ穴以外から幾つかいきなり穴が空いて、彼方此方から凶蟲どもが出てきやがる!」
「持ちこたえられそうか」
「幾つかの穴はナパームで塞ぐがな、いつまでもつかはわからん!」
「後方は私が穴を開けます」
エネルギービームの照射音。
エミリーか。ウィングダイバーの武装は、基本的に高火力だ。空を飛べなくても、地底で密集時に効果を持つものもある。
「スカウト、まとまって敵の足止めだけしろ!」
しかし、上手く行くはずも無い。
私は下がりながら迫撃砲を連射して、敵の浸透を防ぐが。案の定、戻る途中で、後ろを塞がれた。
凶蟲が詰まる様にして、背後を塞いだのである。横穴を開けてきたのだとすぐに分かった。
弟が即応する。
そっちは、弟と黒沢、スカウト6のリーダーに任せるしかない。
弾丸再装填の隙を突いて、凶蟲が一気に間を詰めてくる。スピアに切り替えて吹き飛ばすが、敵は次々来た。至近。
糸を吐かれる。
膨大な酸を含む、凶悪な毒糸だ。これを喰らって、発狂死していく兵士を、私は間近で何度も見た。
フェンサースーツが、警告を発してきている。
いつまでも持ちこたえられない。
危険は承知。近くの足下を狙う様にして、迫撃砲をぶっ放す。糸の追加を吐こうとしていた凶蟲が吹っ飛ぶ。勿論自分も巻き込む。
しかし、それが狙いだ。
火と熱で、一気に糸を焼き払う。レタリウスのものほど、凶蟲の糸は強靱ではないのだ。
「姉貴、大丈夫か!」
「そっちは」
「今、横穴をセメント弾で塞いでいる!」
弟も、相当な苦戦を強いられている様だ。私はスーツの警告音を聞きながら、下がる。まだ弟が作業している以上、食い止めなければならない。
糸が飛んでくる。たくさん。
盾を出してガードするが、防ぎきれる数では無い。
迫撃砲で吹き飛ばすが、敵の数は圧倒的だ。一方から相手できるという強みも、これではいつまで強みであるかどうか。
「セメント弾作業完了!」
「よし、姉貴、下がれ!」
ブースターを噴かし、直上へ。スラスターで調整しつつ、迫撃砲をぶっ放す。その反動で、一気に下がる。
凶蟲は追撃をしてくる。
爆発で多くの仲間を吹き飛ばされながらも。
その執念は凄まじい。また、糸がスーツを直撃。一気にイエローゾーンだったダメージ警告が、レッドにまで跳ね上がった。
だが、其処で敵が追撃を一度止める。
曲がりくねった洞窟を下がり、ホールにまで撤退。
ホールでは、完全に後ろを封じられた状態での戦闘が続いていた。入り口へ迂回して、敵が回り込んだのだ。
幾つかの穴は、ヴォルカニックナパームで塞ぐ。
しかしそれは、涼川の手が塞がることを意味している。
ジョンソンとエミリーがスカウトを指揮して、必死に敵の浸透を食い止めているが。これは時間の問題だ。
筅が得られた情報を整理して、小原の方へ送っている。
何でも、奧のホールにスカウト6隊長が仕掛けた中継器は、自動で地下に潜る仕組みを有していたらしく、既にかなり深くからデータを送ってきているらしい。
「これほどの数とは……!」
戦慄の声を、小原が挙げる。試算が出た様だ。東京全域に広がり、末端は神奈川や千葉にまで伸びているこの巣穴に潜む巨大生物の数は。
およそ七万三千。
想定していた五万を、四割も上回るほどの数だ。しかも凶蟲がいるということは、大蜘蛛が潜んでいる可能性も高い。
目の前で、スカウトの一人が糸に撒かれた。
「た、助けてくれ! 糸が、糸がーっ!」
凶蟲が、引っ張って運んでいこうとする。餌にするためだ。
パニックに陥った兵士が、アサルトを乱射。フレンドリファイヤを引き起こす。防護アーマーがあるから即死はしないが、数名の兵士が悲鳴を上げて横転した。
兵士の一人が叫ぶ。
「誰か、彼奴を助けろ! 頼む、助けてくれっ!」
私が、飛ぶ。
凶蟲の群れの真ん中に、迫撃砲をぶち込んで、黙らせる。糸に撒かれた男は、半死半生の様子で転がっていた。
負傷者を、筅が慌てて引っ張って、円陣の内側に。ジョンソンが、陣形を崩すなと、冷静さを保ったまま指示。
「地上に、東京に凶蟲が侵攻を開始した模様です! 東京支部の戦力が手薄になった隙を突かれた模様!」
「なんと言うことだ! なんと言うことだ! 被害者が、増えていく! 私は一体、この七年間、何をしていたのだ!」
筅が通信を解析して言うと、小原が頭を抱えているのか、そんな声を漏らす。
小原は、私も経歴を見たが、前大戦を生き残った人間の中では、相応に知識も良識もある男だ。努力も欠かしていない。
だからこそ、自分が重ねてきた努力が、こうも圧倒的な物量に振り回される事態には、頭が対応できないのだろう。
エミリーが重エネルギー砲をぶっ放す。高エネルギーのため、まるで稲妻の様に拡散して、乱反射しながら穴に入り込んでいる凶蟲や黒蟻を薙ぎ払う。巨体も流石にこの雷神の槌にはなすすべなく、悲鳴を上げながら吹っ飛ばされる。
だが、それでプラズマジェネレーターはエネルギーを使い果たした。エミリーがバックステップ。再充填まで、少し時間が掛かる。
ジョンソンが代わり、U-MAXのグレネードを、敵の群れに叩き込む。
此方が撤退に使った穴には、弟と黒沢がずっと張り付き、時々アサルトの射撃をうち込んでいる。
つまり、今度は完全に、此方が籠城する羽目に陥ったのだ。
私のアーマーはもう限界。フェンサースーツも、もう一撃浴びれば、多分もたないだろう。
弟と、オンリー回線で通信を入れる。
「危険だが、やるしかないな。 奧へつながる穴、出口へつながる穴、それ以外を全てコンクリ弾で塞ぐ」
「エミリーとジョンソン、それに涼川は手一杯だぞ。 スカウトの消耗も激しいが、いけるか」
「やらなければ、私達以外は全滅だ」
「……そう、だな」
弟が、バイザーに手を当てた。
スカウト6の隊長が、青ざめながらも頷く。また、目の前で、一人隊員が糸に撒かれた。鋭い悲鳴を上げながら、横転して倒れる。アーマーを破られている。多分即死だ。
「スカウト、続け。 穴を一つずつ無力化する!」
既にボロボロのフェンサースーツだが、やれる。
私は突進して、また糸を吐こうとしている凶蟲を、真正面からスピアで打ち抜いた。更に、迫撃砲を撃ち込む。穴から出てこようとしていた凶蟲どもを、一気に吹き飛ばす。蜘蛛の足やら頭やらが飛んで来る中、スカウト6隊長が、セメント弾を撃ち出す擲弾筒を抱えて飛び出してきた。
手が足りない中、皆よくやっている。
擲弾筒から、特殊速乾性コンクリートを叩き込むスカウト6隊長。冷や汗が流れているのが分かった。
「終わりました!」
「次!」
無言で、スカウト6隊長を突き飛ばす。
フェンサースーツに、横殴りに叩き付けられた蜘蛛の糸。必死にスカウト達が対応して、至近に音もなく舞い降りていた凶蟲を蜂の巣にする。私は、フェンサースーツの機能の大半が死んだことに舌打ちしたが。しかし、やれる。
パワードスーツとしての機能は、まだ生きている。
武器も、迫撃砲とスピアだけなら使える。
今ので、糸がいくらかスーツの内側に打撃を加えていたけれど。これくらいの身体ダメージは慣れっこだ。
鈍重に走りながら、私はスピアを叩き込む。衝撃が凄まじいが、それでも私は、このスーツの試験運用に関わっているのだ。耐え抜く。
穴の側に辿り着く。
必死の戦いで、次々スカウト6の隊員は脱落している。死者も少なくない。セメント弾を叩き込み、通路を塞ぐ。あと二つ。
ようやく、地下鉄の通路へ上がって来た。ホールは一旦放棄するしかないだろう。此処を維持することは難しい。
次の戦いの時まで、中継器が残っていればめっけものだ。
私は、全身が痛む中、足を引きずって歩いていた。内臓が出血しているのが分かる。糸を貰ったとき、肋骨が折れたのだ。この程度の傷、化け物である私達姉弟には問題ない。ただ、明日には全快とは行かない。
息をすって、肋骨を無理矢理元の状態に戻す。痛みが酷いが、これくらいは平気だ。
ただ数日は、痛みを我慢しながら、動かなければならないだろう。
スカウト6は、参加した5チーム20名のうち、5名を失った。生き残った全員が負傷していた。亡くなった隊員の死骸も、穴から回収できていた。
隊長も手酷く負傷していた。最後の穴を塞ぐとき、今度は私を庇って、蜘蛛の糸をもろに浴びたのである。音もなく動き回る凶蟲は、地底ではもはや人間があらがえる相手ではないのかも知れない。
最後まで後ろに残って、哨戒を続けてくれる弟。
ホールの敵拠点を完全に潰した後は、どうにか突破の目処もついて。ジョンソンとエミリーが、どうにかしてくれた。
また、入り口付近に陣取っていた凶蟲と黒蟻の群れは、急を聞いて駆けつけた谷山が、蹴散らしてくれていた。
敵もそれなり数を失ったけれど。
しかし、今の時点で、EDFは敵に先手を取られっぱなしだ。
地上に出ると、すぐに日高から通信が来る。
「すまないが、もう一戦頼めないだろうか。 幾つかの地区で、凶蟲による猛攻が続いている。 今東京支部に残った戦力では、手に負えない。 このままだと、多くの民間人が、巨大生物の手に掛かる」
「分かりました。 小官が行きます」
「ストームリーダー!」
「本当にすまん。 ただし、空爆支援については都合する。 いつでも指示を出してくれ」
そんなの無理です。筅が悲痛な声を挙げる。
だが、弟は冷静だ。先の戦いでも、無傷とは行かなかった。私ほど酷い状態ではないが、蜘蛛の糸も多少は浴びていたのだ。それでも、まだまだやれる。前の大戦に比べれば、この程度の状況。私も、弟と同感だ。
「黒沢は、もう無理だな。 ジョンソン、エミリーも」
二人は、ほぼ二人だけで。退路に陣取った膨大な数の敵を引き受けてくれていた。勿論被弾も疲弊も酷い。
ずっと防御を管理してくれていた涼川は、どうにかなりそうだが。
後は香坂夫妻と、谷山が、出られるかも知れない。
いずれにしても、今日三回目の戦い。既に戦力は半減している状況で、圧倒的多数を誇る凶蟲の群れをどうにかしなければならないのだ。
「英雄が属する、最高のチーム。 それがストームかと思っていましたが。 貴方たち所属隊員は英雄と言って良いスペシャリストなのに。 どうしてこのような扱いばかりをされるのか」
黒沢がぼやく。
現実は、こんなものだ。
巨大なヘルメットを被り直すと、谷山が、黒沢に肩をすくめる。
「昔は、巨大生物との戦闘ノウハウが一切なかったんだよ。 だから敵に回り込まれることも、包囲されることも、後ろを取られることもしょっちゅうでね。 それでEDF隊員は良く言ったものだよ。 本部の罠だって。 敵と一緒に、俺たちを殺そうとしているってね。 今回もその構図に変わりはないよ。 そして味方の被害を減らすために、僕達は最大限こき使われるというわけさ」
本部と敵が結託している。
だから、敢えて戦いを負けに導こうとしている。
その噂は、古くからあった。
きっとそれは。彼奴のことが、何かしらの理由で、外に漏れたのだろう。東京支部の地下にいる彼奴のことが。
キャリバンが来たので、中でフェンサースーツを解除。アーマーも外して、救護要員に任せる。
フェンサースーツを変えれば、多分またやれる。
だが、ドクターストップが掛かった。