地球防衛軍4二次創作 2025絶滅螺旋   作:dwwyakata@2024

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来る事は分かりきっていました。

しかし、ついに動き始めます。

八年前に飛来したフォーリナーの軍勢の、十倍に達する第二陣が。


1、動き出す星船

EDF司令部に、天文台から報告が届く。

 

その報告は、バイザーを通じて、私。嵐はじめ特務少佐の所にも届いていた。

 

露骨すぎるほどの動きを、月面に集結していたマザーシップが見せていた。だから、近々来るとは思っていたが。

 

間違いなく、地球へと、降下するつもりだ。

 

地球に降下するといっても、月からまっすぐ最短距離で来るわけではない。

 

地球の大気に逆らわないように、地球の回転にあわせて、軌道上を移動しつつゆっくり降下してくるのだ。

 

そうすることで、大気圏突入の衝撃を、多少なりと和らげることが出来る。

 

地球のロケットでさえ使っている技術だ。

 

星の海を渡ってくる船が、使えないはずがない。

 

「マザーシップおよび、護衛と思われる輸送船団、動き始めました! 降下予測地点、太平洋上、ハワイ南東150キロ! マザーシップ十隻、護衛輸送船団、およそ2550!」

 

「前回の十倍以上の規模だな……」

 

EDF総司令官、カーキソンが呻く。

 

マザーシップが十隻月に集まってからも、輸送船団の集結は続いていた。どこから来るのかわらわらと集まり続け、そして結果この大群である。

 

幸いにも、輸送船団は、以前と同じ型式。

 

せんべいににた円形で平べったく、移動速度はけして速くない。

 

またこの輸送船は、頑強極まりない外殻を有しているが、地上に物資を投下する際に極めて脆弱な内部を露出する。其処を狙って撃てば、歩兵でも撃墜が可能だ。事実前大戦では、対抗戦術が開発されてから、輸送船は地上部隊でも十分対処できるカモとなった。

 

ストームチームは現在、敵の手に落ちた港湾地区に展開している。

 

今回はレタリウスが倉庫街に巣を張り巡らせており、敵の抵抗がかなり激しい。レタリウスはまだ致命的な弱点が発見できていない事もあり、可能な限り歩兵での肉弾攻撃は推奨されていない。

 

今回も長距離から、確実に敵の陣地を削ぎつつ。

 

ある程度巣を剥ぎ取ったところで、空爆で敵を蹴散らす戦術を採る予定だった。

 

高級士官用の通信だけではなく。

 

一般兵用のリンクにも、ついに迎撃作戦について、情報が流されはじめた。

 

グレイプの速射砲を連射して、レタリウスの巣を削りながら、筅が話しかけてくる。筅はどうも、弟より私に話しかける事が多い。

 

同じ性別だから、だろうか。

 

別に優しくしてやったり親身になった事は一度もないが。

 

「はじめ特務少佐、上手く行く、でしょうか」

 

「さあな。 多分数隻は落とせるだろうが、全部は無理だろう」

 

「赤道上に配置されているリニアキャノン、稼働開始。 各地の海軍も、臨戦態勢に入りました」

 

戦術士官の通信が割り込んでくる。

 

敵が、大気圏突入を開始したという事だ。

 

以前の戦いでも、マザーシップは周辺に広域シールドを張っており、航空戦力では近づくことが出来なかった。長距離ミサイルも無効化されることが多かった。

 

其処で今回の迎撃作戦では、大気圏内に突入している最中の敵を狙う。

 

当然シールドは弱体化しているはず。

 

其処へ、対マザーシップを想定して建造された大威力リニアキャノンと、巡航ミサイルテンペストを雨と降らせて、叩き落とすのだ。

 

「第一、第三、第七、第九、第十一、第十四艦隊、太平洋に展開! サブマリン、巡航ミサイル発射シークエンス開始!」

 

聞き流しながら、敵との距離を保ちつつ、私はミサイルを放つ。

 

高高度に打ち上げてから、上空より敵を襲うタイプのミサイルだ。レンジャーにも似た様な連発式ロケットランチャーやミサイル発射装置が開発されているが。フェンサースーツ用に開発されたこれは、より大型で破壊力も大きい。

 

FGX高高度強襲ミサイルと呼ばれるこれは。フェンサーを移動型ミサイル基地として利用する目的もあって、現在積極的に試用を求められていた。

 

先ほどからミサイルを高高度に立て続けに打ち上げて、敵陣に降らせているが。

 

威力は充分だが、着弾まで少し時間が掛かる。その間に、レタリウスに巣の裏側に逃げ込まれたり、黒蟻が大挙して反撃に出てくる事も多い。

 

少なくとも一人で使える武器では無い。

 

そう、私は判断した。

 

「倉庫一つ分前進」

 

敵陣を剥ぎ取ったので、弟が指示。

 

既に数体のレタリウスを、秀爺のイプシロンが葬ったが。まだまだ倉庫街の奧は銀糸の陣地が展開されていて、とてもではないが近づける状況では無い。

 

悔しいが、上空を旋回しているネレイドもそうだ。

 

近づけば、無数のレタリウスの砲撃によって、例え谷山の操縦でも、瞬く間に撃墜されてしまうだろう。

 

黒沢をはじめとする新兵は、とにかく敵陣にロケットランチャーの弾幕を浴び続けろとだけ言われていて。黙々とそれに従っている。

 

港湾地帯と言うこともあって、敵は地下を利用した三次元的な反撃には出てこない。

 

だが、このまま無事に済むとは、とても思えなかった。

 

敵がいないのではないか。

 

そう思ったが、谷山が近づこうとすると、レタリウスが盛んに砲撃を仕掛けてくる。一キロ先まで的確に届く糸は、繊細なヘリには大敵だ。

 

勿論、その瞬間に秀爺がイプシロンで一匹、また一匹と屠っていくが。

 

それでも、危険ラインを超えたり戻ったりしながらの攻防は、決して油断できるものではなかった。

 

幸いにも、というべきか。

 

何度かの戦いで得られたデータによって、敵の間合いだけは分かっている。故に、間合いの外側から、まず巣を剥ぎ取り。露出したレタリウスを長距離狙撃で仕留め。時々出てくる黒蟻や凶蟲を、叩いていくという戦術が取れる。

 

しかし時間が掛かる。

 

昨日から、こうやって四つほどのレタリウス防御陣を撃滅してきたが。

 

いずれも数時間の戦いになる事は避けられなかった。他の部隊も戦術を真似して戦っているようだが、時間が掛かって仕方が無いと苦情が来ている。

 

しかししびれを切らして下手に突入すれば、あっという間にレタリウスの糸に絡め取られてしまう。

 

「あー、イライラさせられるぜ」

 

苛立ちながらも、涼川が特大のミサイルを抱え上げる。

 

プロミネンスと呼ばれる、レンジャーが扱えるものとしては最大級の破壊力を持つ兵器だ。

 

本来は大型戦闘車両に搭載する威力のもので、敵をロックするのに極めて長い時間が掛かるが、破壊力は折り紙付きだ。

 

長距離狙撃戦なんて嫌だという涼川に、にこにこしながら三島が渡したのである。

 

その結果がこれだ。

 

ますます苛立ちながら、涼川が殺気だった視線を周囲に向けている。ぶっ放したミサイルは、確かに一撃でレタリウスを木っ端みじんに消し飛ばしているが。ミサイルが飛んでいくのが見えるほど、とにかく遅いのである。

 

爆発は凄まじいし、巣も一気に焼き払えるのだが。

 

また倉庫一つ分前進しようとするが。弟に促されて、倉庫の裏側に回り込む。

 

途端に、レタリウスが糸を放って来た。巣を離れ、後方から狙撃を仕掛けるつもりだったのだろう。

 

ブースターを噴かし、加速。

 

敵陣からは、死角だ。

 

敵がまた糸を放ってくる。スラスターで突撃の機動をずらし、回避。右、左、左、右。至近を糸が掠める。

 

正確な狙撃だが。

 

速度も狙いの精度も、何度も戦ったから、もうある程度は把握できている。

 

眼前に、レタリウス。

 

スピアを連続して叩き込む。

 

スピアを叩き込むと、ゴムの様な感触。本当に生物の体なのかと思ってしまうほど、手応えが重厚。恐らくは、アーマーに相当する物質を柔軟に身に纏っているのだろう。

 

六発目で、ついにレタリウスの体を串刺しにする。

 

赤い血が大量に噴き出す中、私はスピアを引き抜いた。これはサンプルとして、結構貴重なものかもしれない。

 

「クリア。 そちらは」

 

「攻撃を重ねているが、遅々として進まず、だな」

 

この様子だと、後二時間は敵陣の攻略まで掛かる。

 

ただでさえ、凶蟲が前線に出てきてから、味方は押されているのだ。最精鋭であるストームが、数時間も敵陣攻略に貼り付けられ、一瞬のミスも許されない詰め将棋を強いられるのは、決して喜ばしい事では無い。

 

こうしている間にも、味方の攻略部隊が、敵に落ちた地区を奪回するために、犠牲を出し続けている。

 

味方の所に戻る。

 

分厚く張られた敵陣は堅固で、倉庫一個ずつに念入りに巣が張られている。巣の中にはレタリウスがいない場所もあり、ただ防御陣を堅固にしているだけの場所も見受けられた。また、倉庫の中に敵が潜んで待ち伏せている箇所も、決して少なくは無かった。放置されているトラックやコンテナの隙間も、調べていかなければならない。レーダーには反応するが、三次元的に相手を確認できる訳では無いのだ。

 

「ひょっとすると、単に時間を稼ぐためだけに、こうして守りに徹している可能性さえあるな」

 

弟がぼやいた。

 

温厚な弟も、流石に機嫌が悪くなりつつある。

 

涼川はとっくに目が据わっていて。新兵達は怖がって、視線を合わせようともしていなかった。

 

戦術士官が、情報を伝えてくる。

 

「フォーリナーのマザーシップ艦隊、大気圏内に突入を開始」

 

「来たな」

 

弟が、ライサンダーの大火力で、レタリウス一匹を葬る。

 

分厚く張られた敵陣を、じっくり削いでいくしかない。新兵達のスティングレイが火を噴き、また一つ巣を焼き払った。

 

分厚く重ねられている敵陣も。

 

一枚ずつ剥いでいけば。

 

いずれはなくなるのだ。

 

オンリー回線を、筅が開いてきた。ミサイルを高空に撃ち出しながら、私は話を聞いてやる。

 

今の時点で、グレイプの速射砲は問題なく稼働している。多少の話につきあうくらいは、別に構わない。

 

「あの、はじめ特務少佐」

 

「どうした」

 

「巨大生物は、個々の意識とか、ないのでしょうか。 見ていると、どうにも時間を稼ぐためだけに、味方を犠牲にしているようにしか思えません」

 

「そうだな。 実はこういう行動を敵が取るのは、今回が初めてではないんだ。 以前の大戦でも、似たような状況は見た事がある」

 

これについては、いろいろな説がある。

 

私自身も、これといった決定打になる説は持ち合わせがない。

 

最も有力なのは、蟻と同じように。集団全てを一つの生物と換算して、全体のために行動している、というものだが。

 

その割りには、巨大生物はあまりにも巧みに組織戦をこなすのだ。

 

もしも全体のためだけに動いている生物だったら。

 

こうも見事な連携を取りながら、組織戦をこなせるだろうか。

 

何かしら、頭脳となっている部分があって。

 

それが群れの全体を統率している、と言う可能性は無いだろうか。

 

女王がそれだという説もあるが。

 

しかし私は、以前女王と戦ったとき。女王を倒しても敵の群れが統率を失わず、最後の一匹まで立ち向かってきた事例と遭遇している。

 

巨大生物には、あまりにも謎が多すぎるのだ。

 

戦術士官が、珍しく朗報を伝えてくる。

 

ただし、あくまで淡々と、だ。

 

彼女は前大戦でも、殆ど感情を示さず、淡々と状況報告をしてくる事が多かった。故に他の兵士達は、実は機械では無いかとか、色々噂をしていたものだ。

 

本人を知っていて、話した事もある私としては。その噂が無責任な嘘だと言う事は知っているが。

 

「リニアキャノン斉射。 輸送船十五隻、更に先頭にいたマザーシップ一隻を撃沈に成功」

 

「うむ……!」

 

日高の声が、わずかな興奮を含む。

 

そうか、人類は。あの強靱極まりないマザーシップを、ついに肉弾戦に頼らず撃沈することに成功したのか。

 

続けて、展開している艦隊から、一斉にテンペストが発射される。

 

テンペスト巡航ミサイルは古き時代に異大陸にある敵国を攻撃されるために山ほど生産されたICBMを改良したものである。確かデスピナにも、相当数が搭載されているはずだ。

 

テンペストの一群が、敵艦隊に襲いかかる。

 

弟が、一旦手を止めて、ハンドサインを出してきた。

 

倉庫が幾つか連なっている場所に、敵陣が相当に厚く張られている。彼処さえ抜ければ、多分海が見えるはずだ。

 

敵最後の防御網である。

 

「姉貴、彼処にかなりの敵の反応がある。 攻撃と同時に仕掛けてくる可能性が高いな」

 

「気が散らない様に、報道とリンクを切るか」

 

「その方が良さそうだ」

 

弟の提案に、私は乗る。

 

新兵達に、バイザーを通じて指示。他の皆にも、通信を遮断させた。

 

如何に重厚に敵陣が張られていると言っても、対処は変わらない。しかも此処は港。敵もあまり深く、トンネルは作る事が出来ないし。倉庫の中も、逐一確認して、敵に後ろに回られる可能性は無い。

 

後は、敵陣を引きはがすのみ。

 

淡々と、黙々と、火力を集中し続ける。

 

 

 

ようやく最後のレタリウスを駆除して、スカウトを呼ぶ。

 

既に周囲に敵の反応はない。

 

敵が防御陣地から殆ど出てこなかったこともあり、ひたすらに時間だけが掛かる任務だった。

 

既に夕方近くなっている。

 

「ストームリーダー。 大変です」

 

「どうした」

 

黒沢が、報道を聞くよう、弟に促している。

 

それによると、迎撃作戦が結局失敗したとあった。

 

テンペストによる攻撃で、マザーシップを更に一隻撃沈。二隻を中破させた。中破した二隻は大気圏外に逃れ、残りは六隻。

 

勝てる。

 

誰もが確信した時、それが起きた。

 

六隻が一カ所にまとまると、尋常では無く分厚いシールドを展開したというのである。

 

後はリニアキャノンもテンペストも一切効果を示すことはなくなったというのだ。大気圏突入中で、シールドが弱体化している状況でも、シールドは貫けなかったのだという。

 

輸送船は百隻以上落としたそうだが、マザーシップが六隻も健在である事を考えると、迎撃作戦が成功したとはとても言えない。

 

フォーリナーは。

 

再び、地球の大気圏内に、舞い戻ってきたのである。

 

太平洋上に展開していた艦隊は、無闇な迎撃作戦を避けて、一旦担当地域に帰還。

 

また、フォーリナーも降下地点で集結を果たすと、其処で体勢を立て直しているようだということだった。

 

日高から連絡が来る。

 

「戦勝の報は聞いた。 すぐに東京支部に戻って貰えるか」

 

「イエッサ」

 

おそらく、今回の件だ。

 

戻らないという選択肢はない。顔を青くしているEDF司令部との折衝もしなければならない。

 

敵の戦力は、単純計算で前大戦の六倍。

 

しかも戦力を整えて戻ってきたことを考えると、十倍は来るとみて良いだろう。二隻を撃墜し、二隻を行動不能にしたのは大きいけれど。それでも、前回の十倍。

 

フォーリナーの技術を取り込んで、力を増したと言っても。

 

人員が三十万しかいないことに変わりはないのだ。

 

スカウトが来る。

 

調査を開始したスカウトに現場を引き継ぐと、私は弟と一緒に、先に東京支部に戻ることにした。

 

後は谷山とジョンソンに任せる。

 

戦いは、ここからが本番なのだ。

 

 

 

東京支部に戻ると、休む暇も無くブリーフィングに参加することになった。

 

最初に流されたのが、迎撃時の映像である。

 

以前のマザーシップは、広域にシールドを展開していたことと、制空権を味方が早々に手放したこともあって、結局歩兵で決死の肉弾戦を挑む事でしか、撃墜がかなわなかった。それを遠距離戦略兵器で落とせただけでも、EDFの力がどれだけ増したか、ということである。

 

だが、それでも。

 

六隻と、二千を超える輸送船が、無事に地球に降下して。

 

我が物顔に太平洋の一部に居座っているという事実には、何の変わりもないのだ。

 

「現時点で、フォーリナーのマザーシップは動きを見せません。 しかし艦載機が続々と発進している様で、周辺には既に近づくことが出来ない状況です。 偵察と思われる艦載機の姿が、既に日本近海でも確認されています」

 

「ファイターは何をしている」

 

「既に何度か交戦。 敵を撃墜はしています」

 

「しかし、敵は多少の犠牲など、問題にもしていない、か」

 

日本近海に展開しているデスピナをはじめとする空母には、多数のファイターも積載されている。

 

1対100の戦力差でも互角に戦う。それを目的として作られた最新鋭戦闘機ファイターは、少数の飛行ドローンくらいなら歯牙にも掛けない戦闘力を持つ。タフ極まりない機体に、レーザー兵器に高い耐性を持つ装甲。そして多数を同時にロックオン、撃破可能な小型ミサイル兵器。

 

いずれも、過去の苦い経験を踏まえて、設計された。

 

今回は制空権を簡単に喪失はしない。

 

故に、多少は、司令部の会議にも、余裕があるように、私には見えた。前は制空権を手放した以降は、司令部が会議をするのにも難儀していたのだ。フォーリナー側は通信妨害も容赦なく行って来たのである。

 

「まず迎撃策をどうするか、だが」

 

「今、各国のEDFは、巨大生物の対策に手一杯だ。 主力部隊を裂いて、洋上にいるマザーシップの艦隊に攻撃を行う余力は無い」

 

「やはり、上陸したところを叩くしかないか」

 

わいわいと各国の司令官級が話す中。

 

日高が咳払いする。

 

マザーシップを撃墜した極東支部の司令官である日高は、中将であっても発言権が大きい。

 

皆が黙り込んでから、日高はボイスオンリーの映像も含めて、見回しながら言う。

 

「フォーリナーの機械兵器は、間もなくどうあっても上陸はしてくるだろう。 その前に、可能な限り巨大生物を片付けたい」

 

「何か有効策はあるのか」

 

「今、欧州ドイツで、巨大生物の巣穴の攻略作戦に、オメガチームが従事しているはずだが。 極東日本でも、同じような作戦を行いたい」

 

危険だなと、私は思う。

 

あの巣穴は、段違いの規模だ。

 

最深部まで潜って女王を斃す事が出来るとしても。一体どれだけの損害を出す事になるか。

 

下手をすると、マザーシップを迎撃するための兵力が残らない可能性さえある。

 

それでは本末転倒だ。

 

「小原博士」

 

「はい」

 

小原が立ち上がり、プレゼンをはじめる。

 

彼が提示してきたのは、通信中継装置についてだ。以前も蟻の巣穴にばらまいてきたあれは、今の時点ではまだ動いているという。

 

ただ、巣穴の全容を把握するには到っていない。

 

しかしながら、其処はスパコンの処理能力を用いて、ある程度補うことが出来る。徹夜で様々な情報処理をした結果。

 

小原博士は、幾つかの結論を出すに到ったという。

 

「女王の居場所をほぼ特定できたかと思います。 もう一度侵攻作戦を行い、ストームチームには、この地点に、通信中継装置を撒いてきて欲しいのです」

 

「かなり深い場所ですね」

 

「危険は承知ですが。 やって貰いたいのです」

 

小原が申し訳なさそうに言う。

 

会議の席だから敬語だ。

 

なんだかんだ言っても、小原は専門家だ。それに、この間パニックに陥った後は、それなりに反省もしたらしい。

 

レタリウスの研究をまとめて、各地のEDFに提出。

 

特に間合いと強度についての研究が大きな評価を得ており、レタリウスに受ける被害は、かなり軽減されたとも聞いている。

 

実際先の作戦でも、この研究が生きて。一度も糸は喰らわなかった。

 

敵陣の攻略に、著しい時間は掛かったが。

 

「ただ、当面、この作戦は見送らざるを得ません。 敵の地上戦力がフォーリナー到来の影響で、活発に活動しており、これを叩かない限り迎撃作戦どころでは無いからです」

 

「厄介な話だ」

 

「南米支部はどうなっている」

 

「今、予備役の再訓練と、短期プログラムでの新兵訓練を大々的に実施中です。 彼らを前線に送るまで、各支部は持ちこたえていただきたく」

 

再び議論が活発化しはじめる。

 

いずれにしても、私が口を挟む余地はない。

 

ブリーフィングが終了。

 

立体映像や音声だけで参加していた面々が消えて。一気に人数が減った。

 

小原博士は自分の肩を揉みながら出て行く。

 

相当な疲労が蓄積している様子だ。

 

恐らくは、寝ずに研究をしているのだろう。睡眠も、全てカプセルでやっているのは間違いない。

 

私ならそれくらいは平気だけれど。

 

何しろ小原博士は相応の年だ。

 

体への負担は、予想以上に応えるのだろう。

 

日高に呼ばれる。

 

「ストームチーム。 まだマザーシップが上陸するのには時間がある。 その間に、可能な限り東京地区にいる巨大生物を駆逐したい。 しかし、駆除作業で君達に被害が出たり、地上部隊が大きな損害を出しては本末転倒だ」

 

「それは承知しています」

 

「そこで、海軍と連携して、爆撃を主体にして、巨大生物を駆除する」

 

とうとうその覚悟を決めたか。

 

今までは都市やインフラへの損害を考慮して、できる限り大規模な空爆や砲撃は避けてきたが。

 

もはやそれも此処まで、という事だ。

 

「君達には、特に手強い何地区かを攻略して欲しいのだが。 しかし、敵の到来は早くても一週間後だろう。 今日に関しては、ゆっくり体を休めて欲しい」

 

「イエッサ」

 

色々疑念はあったが。

 

弟にも促される。会議を行ったビルを出て、待っていたストームチームのメンバーに、今日は以降休憩と連絡。

 

「じゃあ飯だな。 その後寝る」

 

流石の涼川も疲れ切っていたのだろう。それだけいうと、宿舎に戻っていった。もう少し若いころだったら、弟と何処かに遊びに行こうとか言い出したのだろうが。今は戦場ではどれだけ獰猛でも、自分の限界も理解できているし、分別もついている、ということだ。

 

めいめい皆が散っていく中。

 

黒沢が通信を入れてくる。

 

「前から疑念に思っていた事があります」

 

「話してみろ」

 

「フォーリナーは、どうしてこのような効率の悪い手段で、わざわざ侵攻してくるのでしょう。 星の海を渡ってくる技術があるのなら、大気圏外からの無差別攻撃にしろ、此方が反撃しようがない距離からの超長距離砲撃にしろ、人類に反撃の余地さえ与えずに屠ることなど、簡単なはずです」

 

「そうだな」

 

同じ疑念を抱いた人間は、他にも見た事がある。

 

黒沢は昔から、フォーリナーについては疑念を抱いてきたのだろう。きっと、本部がフォーリナーと結託しているという噂も、黒沢の様な男が撒いたに違いなかった。

 

いずれにしても、私には分からない事だ。

 

確かに、他の人間が知る事が出来ない情報も、手持ちにはある。

 

フォーリナーの真実についても、私と弟は、EDF司令部と同等の知識を有している。

 

それでも、分からない事はある。

 

地下にいる彼奴は、はぐらかして話そうとはしないし。

 

元々私は戦闘特化の強化クローンだ。

 

一応論文くらいは読解できる様に知能を調整されているけれど。それでも、何でも論理的思考で解決できるわけではないのだ。

 

「それに彼らがばらまく巨大生物も妙だと思いませんか。 収斂進化とはいえ、地球上の昆虫にあまりにも似すぎています。 それなのに、互いに共食いをする様子は無いし、人類以上の組織戦を行ってくる」

 

「お前の疑問は、確かにもっともだ。 しかしな」

 

「何でしょう」

 

「私も、分からないのだ」

 

分かっていたら、どれだけ楽か。

 

いや、却って色々と心に枷が出来てしまうのかも知れない。

 

いずれにしても、彼奴は私に細かい話をしようとはしない。ひょっとすると、カーキソンをはじめとする、EDF最上層部も、真相は知らされていないのかもしれない。奴は技術をもたらし、私や弟が造り出された。

 

そして人類は。

 

前大戦に勝ち。

 

今回も、敵と渡り合うことだけは出来ている。

 

私には、それだけで充分だ。

 

黒沢が通信を切った。

 

失望からか、或いは別の理由からかは分からない。いずれにしても、黒沢は、放置しておくと、とんでもない所に首を突っ込みかねない。そう、私は思った。

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