地球防衛軍4二次創作 2025絶滅螺旋 作:dwwyakata@2024
そしてストームチームと違い。
残念ながら、兵士達は人間。
能力的にはばらつきもあり、人格もしかり。
混乱の中、それが悪い方向で剥き出しになります。
日高玲奈は、父に言われて京都に来ていた。EDFの隊員としては経験がまだ浅く、一年と少しだけ。
父は七光りと言われるのを避けるため、人事を極めて公平に行った。だから、玲奈の階級は、まだ軍曹だ。
少し前までは東京にいたのだけれど。
転戦を重ねているうちに辞令が来て、此方に異動となった。まだ慣れない部隊での初任務がこれなのだから、本当に運がない。
EDFの階級は、二等兵から始まる。実戦を経験するか、三ヶ月たつと一等兵。その上が軍曹。軍曹からは条件が特殊で、次は少尉になるのだけれど。軍曹から尉官、尉官から佐官、佐官から将官になるのに、それぞれ試験を受ける必要がある。
軍曹の上は少尉、中尉、大尉と続き。少佐、中佐、大佐。将官は少し階級が特殊で、准将、少将、中将、大将と、階級が四つ。
最高階位の元帥は、今の時点でEDF総司令官のカーキソンしか存在しない。
今、玲奈が所属するレンジャー31は、京都近辺にある大型シェルターの護衛に当たっている。
フォーリナーの襲撃以降、大都市の近辺には、必ず既定の条件を満たしたシェルターが作られることになっている。
これは義務として規定されていて、外殻の強度や、内部の構造などに、様々な条件が設定されている。
旧時代にもこの手のシェルターはあったらしいのだけれど。
フォーリナーの前にはいずれも無力だった。
今の時代は技術が上がり、現時点では一つのシェルターも、巨大生物に足を踏み入らせていない。
入り口付近のブロックは特に厳重な造りで。
内部とは独立した構造になっており。巨大生物が乱入したとしても、奧にいる人々は守れる構造になっている。
入り口付近には、医療チームもいて。
今も忙しく働き続けていた。
またキャリバンが来る。
その度に、緊張する。アサルトを持つ手に、汗がにじむ。
巨大生物に追われている可能性があるからだ。或いは、飛行ドローンか。今回は、その後者だった。
設置されている大型セントリーガンが咆哮し、中空にいる飛行ドローンへ射撃。
レンジャー31の指揮をしている猿沼中佐が、叫ぶ。
「飛行ドローン4機を確認! 叩き落とせ!」
「イエッサ!」
腰だめして、十人のレンジャーが一斉にアサルトライフルを放つ。勿論、玲奈もその中に入っている。
現在のアサルトライフルは、対人用を想定していた旧時代のものとは根本的に違う。射程距離も長いし、何より弾丸の威力が大きい。象撃ち用の銃に装填していたものと同等か、それ以上だ。
乱射を浴びた飛行ドローン4機は、瞬く間に爆発。火を噴きながら、墜落していった。
「EDFの力を見たか、クソ宇宙人!」
同僚の軍曹が、声を上擦らせながら言った。
軍曹と言っても、実戦経験がたいしてないことでは、玲奈と変わりが無い。前大戦の参加者は殆どが中尉以上になっていて、軍曹と言うだけで、つい最近まで実戦を知らなかったという意味になる。
アサルトライフルの弾倉を確認。弾を再装填すると、周囲の警戒を再開。
逃げ遅れた民間人や、負傷した同僚が運ばれてくる頻度が減ってくるのと反比例するように。敵の襲撃が頻度を増しはじめている。
幸い、今の時点では、対処は難しくない。
撃ち方や、狙い方。
いずれも飛行ドローンについては、EDFが対抗戦術を徹底的に研究した兵器だ。だからこの人数で、余裕を持って対処できる。
ただし、相手の数が多い。
油断は出来ない。
「巨大生物が来るかも知れない! 各自哨戒に当たれ!」
「イエッサ!」
猿沼の指示で、フォーマンセルを編成して、周囲の巡回をはじめる同僚達。
少し躊躇った後、猿沼は咳払いすると、日高に声を掛けてきた。
「日高軍曹」
「イエッサ!」
「シェルター内部の状況を確認してきて欲しい。 今の時点で異常は報告されていないが、念のためだ」
「はい。 直ちに」
アサルトの安全装置を起動すると、玲奈は奧へ。
父は今でも、東京でプロテウスに乗って、巨大生物と戦っている筈。中将ほどの高級軍人がそんな事をしているのだ。EDFの人手不足が如何に深刻かは、軍曹に過ぎない玲奈にだって分かる。
幾つかのブロックに分けられ、頑丈に作られているシェルターの内部は、簡易ながら小さな町だ。
その気になれば、一年くらいは此処で生活できる設備も整っている。
ただし、少し埃っぽい。
これは作られてから、今日までは使われていなかったからだろう。
内部では、反応が両極端に分かれていた。
老人達は落ち着いている。
平然と茶飲み話をしている者達さえいた。与えられている小型の家屋に入って、其処の掃除をしている者達さえ見かけられた。
一方、殺気立っているのは若い人達だ。
玲奈に声を掛けてきたのは。
きっと、あまり良い仕事をしていない人だろう。見るからに、カタギでは無い。復興直後はこういう人達は殆ど見かけなかったけれど。最近は、ちょくちょく街で、姿を見るようになっていた。
「EDF隊員のねえちゃんよう。 戦況はどうなんだ」
「近畿地方全域で、戦闘が行われています。 先ほど、ストームチームが、近辺に到着し、敵の主力部隊と戦いはじめました」
「おい、それは本当だろうな」
「ストームが来たって!? 勝てるんじゃないか」
周囲がざわつきはじめた。
舌打ちすると、カタギでは無さそうな人はそそくさと姿を隠す。きっとこの状況に乗じて、火事場泥棒の類をするつもりだったのだろう。
ストームの名前は、一般人にさえ知れ渡っている。
絶望の星船を撃沈した、世界最強のチーム。文字通り、人類最強の勇者達を有する、英雄部隊。
星船を落とした英雄については安否が分からないと言うことだけれども。今でもその名声は名高い。東京でも凄まじい活躍をしていて、他のレンジャーチーム十個分以上の功績を軽く挙げているとか聞いている。
皆が安心しているのを見て、玲奈も胸をなで下ろした。
父は身内人事と言われるのを避けて、わざわざ玲奈を近畿地方に配属にした。此処の司令官は父の意向もあって、玲奈を一兵卒として扱っているし、今まで優遇されたことは一度もない。
無能とは言われているけれど。
厳しい責任感のある父なのだ。
「日高軍曹、すぐに入り口まで戻ってこい」
「イエッサ」
何かあったらしい。
アサルトライフルを担ぎ直すと、入り口へ急ぐ。幾つかのゲートを抜けて、入り口に出ると。
哨戒から戻ってきた部隊が、慌ただしく周囲に指示を出していた。
「一旦ゲートを閉鎖する! 急いで!」
「何があったんですか」
「ストームチームが戦っている京都西地区に、巨大生物数百匹が向かっている! 近くのレンジャー部隊では手が出ない戦力だ! このままだと、シェルターの近辺を掠める!」
「何ですって!?」
確かに、それは冗談では済まない状況だ。
すぐに避難用シェルターのゲートが下ろされる。
これより先、避難民は大阪基地へ向かって貰う事になる。もっとも、殆どの避難は完了している。
問題になるのは、逃げ遅れた人達だ。
此処のシェルター近辺にはいないと信じたい。いる場合は、幾つかあるキャリバンに乗せて、大阪基地に向かって貰う事になる。
「大阪基地に、支援は求められませんか」
「今、機甲部隊も含めて、殆どの戦力が出払っている状態だ! このシェルターに廻す増援はない!」
猿沼の声は、緊張からか、いつもより更に荒々しい。
元々体育会系のノリの男だ。仲間内からは、ゴリラと呼ばれている。勿論、温厚で心優しい本来のゴリラの意味では無い。
「お前達も、すぐにシェルターに入れ。 我々が、シェルターを守る、最後の砦になる!」
促されるまま、シェルターに。
此処のゲートは、ヘクトルが来ても、簡単に破られることはない。四つ足が来た時以外は、不安視する必要はない。
巨大生物が数百体がかりで酸を掛けても、一時間やそこらで溶けることはない。
仮にゲートを破られても、内部の構造は、簡単には巨大生物の浸透を許さない。
だが、それでも。
奧に逃げ込んで、非常用電灯がつくと、緊張した。
「日高軍曹、避難民を落ち着かせてこい」
猿沼に言われて、頷くしかなかった。
さっき安心して貰ったのに。
がっかりしてしまう。
ストームチームなら、巨大生物の数百くらいは、どうにでもなる筈だけれど。それでも、普通のレンジャーチームはそうではない。
レンジャー31は20名の人員と、通常の武装を持つごく当たり前のレンジャーチーム。ビークルにしても、旧式のグレイプとキャリバンしか支給されていない。
猿沼が、モニターにがなり立てているのが見えた。
基地に援軍を頼んでいるのだろう。しかし、本人が言ったとおり、現在は援軍どころでは無いのが実情の筈。
到来する増援など、期待出来るはずもなかった。
そうこうするうちに、不安そうな人達が、此方に来る。
元々玲奈は、軍の広報部隊に入らないかと言われていたことがある。何だかよく分からないが、顔立ちが安心できるらしい。
女性兵士は珍しくもないこのご時世である。そう言って貰えるのは嬉しいけれど。今回はそれが徒となって。戦士としてではなくて、こういった役目ばかり押しつけられている気がする。
ただし、みんなが不安なことは、玲奈にだって分かる。
一年ちょっと前までは、玲奈だって高校に通っていた、普通の学生だったのだから。
EDFに入った年齢は、むしろ遅いくらいなのである。
何名か、おばあさんが来た。
「ちょっと隊員さん、大丈夫なのかい?」
「このシェルターは、巨大生物の数百匹くらいが相手だったら、びくともしません。 ヘクトルの攻撃にだって耐えられますよ」
「本当かね……」
顔を見合わせるおばあさん達。
彼女らは知っているのだろう。
前大戦でも、シェルターはあった。しかしそれらは、ことごとくが巨大な墓穴と化してしまった。
生半可な防御ゲートでは、巨大生物の酸さえ防げなかったからだ。
入り口をこじ開けられると、もはや巨大生物からは、逃れる事さえ出来ず。
逃げ場もない中で、貪り喰われるしか無い地獄絵図がこの世に現出することになったのだ。
そうやって全滅したシェルターは幾つもあった。
皮肉な話だけれど。
金持ちが自分だけ逃げ込んだシェルターは、殆ど全てが、その手の運命をたどった。EDFの指示に従って避難した人達は、山奥や洞窟で糊口を凌ぎ、それでどうにか助かったのである。
世界の人口が七分の一になった地獄の戦争。
強化クローンとしてではなく、人間として生を受けた八歳以上の者達は、皆それを経験している。
勿論玲奈も、その一人だ。
少し背が低い同僚が来た。
強化クローンの兵士だ。名前はナナコという。
何でも軍が投入した第三世代のクローン兵士の一人らしい。身体能力はずば抜けていて、猿沼には嫌われていたが、皆が戦闘面では頼りにしていた。ただ無表情でいつもつまらなそうにしている上、口数も少ないので、仲間内からはあまり好ましく思われていなかった。戦闘マシーンと揶揄する声もあった。
まともに会話するのは、玲奈くらいである。
そもそも名前自体が、安直だ。
大阪支部で実験的に作られた戦闘目的だけのクローン戦士だという噂もあるけれど。それも頷ける。
非常に幼い顔立ちをしていて、中学生低学年くらいにしか見えない。EDFは大丈夫なのかと、時々不安そうに同僚が話すのも、無理はないかも知れない。子供まで戦場に投入された前大戦末期の悪夢は、共通の知識なのだ。
「日高軍曹。 子供が一人、ゲートの内側で保護されました」
「えっと?」
少し悩んだ後、意味を理解する。
慌ててそちらに行ってみると。熊のぬいぐるみを抱きしめた子供が、兵士達の間で所在なさげにしていた。
「さっさと連れて行け」
高圧的な猿沼の声。
首をすくめた玲奈が、子供の手を引っ張る。
「行こう。 此処は危ないから」
「おばあちゃんが、まだいないの」
「……!」
「今日の朝、ふらって家を出て行って、それで見つからないうちに避難の指示が来て、アーマーもつけていないの」
背筋に、悪寒が走った。
多分認知症なのだろうけれど。この状況で外をふらふらしていて、助かるとはとても思えない。
「大丈夫、おばあちゃんは探してあげるからね」
「本当?」
「うん。 だからシェルターの奧で、大人しくしていてね」
まずい事は分かっている。
だから、子供を奧に連れて行って、家族に引き渡すと。祖母の情報について確認。写真などを得て、情報を照合。
確かに、シェルター内にはいない。
外にいるとしたら、急ぎ保護しないとならないだろう。
状況が混乱している。
こういった見逃しが出るのも、仕方が無い事だったかも知れない。
猿沼に相談する。
声を荒げた猿沼だけれど。ナナコが挙手した。
「何なら、私一人で外に出ます。 新兵が一人死んだくらいなら、シェルターの防衛には問題をきたさないはずです」
「勝手な事をほざくな!」
「事は一刻を争います。 幸い生体データを得ました。 監視カメラの情報を確認すれば、大まかな場所は分かるはずです。 保護に動けば、十五分ほどで何とかなります」
「巨大生物数百匹が、この近くを通るんだぞ!」
EDFは敵に後ろを見せない。
市民のために、盾になる。
それが、EDFの誇りでは無かったのか。
とうとうとナナコが述べると、皆が驚いた様に、彼女を見つめた。普段は一切自己主張せず、戦闘マシーンと揶揄されても何も言わないのに。まさかこのような正論を述べるとは、誰も思わなかったのだろう。
「ゲートを開けてくれ、隊長」
挙手したのは、年かさの中尉だ。
前回の大戦経験者である。大戦末期に参加した義勇兵で、そのままなし崩しにEDFにいるらしい。
「お、おい、お前」
「大塚だ。 副長の名前くらい、いい加減覚えて貰えるか、猿沼リーダー」
「……っ」
「私も、手伝います」
玲奈が挙手すると、猿沼は舌打ちした。
周囲に、猿沼の味方をするレンジャーはいない。ゲートが開けられた。三十分だけだぞと、釘を刺される。
キャリバンは駄目だ。
頑丈だが、巨大生物から自衛できない。おんぼろのグレイプを発進させる。操縦は、ナナコがする事になった。
「他にも逃げ遅れた奴がいるかも知れない。 気をつけろ」
「後方、七時方向。 敵影三」
「さっそくか……!」
側面ドアを開けると、ナナコがスティングレイを構え、ぶっ放す。
流石に強化クローン兵士である。狙いは正確無比。一撃で、後方をふらふら追尾してきていた飛行ドローンに直撃させる。
爆発しながら、体勢を崩し、落ちていく飛行ドローン。
だが残り二機は、それで猛然と追撃を仕掛けてきた。ジグザグにグレイプを走らせながら、大塚が舌打ち。
「しっかり捕まっていろ! 日高、ナビを!」
「はいっ! 次を左です!」
バイザーに映る生体反応をチェック。
止まってと叫んだのは、家の中に生体反応がある事に気付いたからだ。アサルトをぶっ放しているナナコを横目に、民家に飛び込む。ドアを叩いても、反応がない。仕方が無いので、アサルトを数発うち込んで、蝶番を破壊。中に飛び込む。
寝込んでいたらしい男性を発見。
肩を貸して、一緒にグレイプに乗り込む。咳き込んでいる男性は顔色が悪い。生体反応も、弱っているようだった。
全ての民家を廻ったわけではない。
こういう取りこぼしも、まだいるかも知れない。
巨大生物が掠ると思われる地区は、この出撃に際して、確認して起きたい。飛行ドローンなら兎も角、人間を的確にかぎつける巨大生物は、老人だろうが病人だろうが、容赦はしてくれないのだ。
グレイプを発進させる。
後方で爆発。ナナコが一機を撃墜したのだ。しかし、敵はおそらく、援軍を呼んだのだろう。更に数機が、此方に集まってきていた。
生体反応を捕捉。
くだんのおばあさんに違いない。
グレイプを急がせる。途中でまた一人、逃げ遅れたらしい人を発見。グレイプに乗せる。その間もずっと、集まってくる飛行ドローンに、ナナコは射撃を続行。
グレイプが揺れる。
飛行ドローンのレーザーが、直撃したのだ。
「くそ、おんぼろが」
大塚が吐き捨てる。
まだダメージはイエローゾーン。この程度では止まらないけれど、何しろ古いグレイプだ。いつ機嫌を損ねて、エンストするか分からない。
「最悪の場合は、走ることになる。 覚悟は決めておけよ」
「イエッサ」
「後方より、更に二機」
「踏ん張ってくれ、新人!」
アクセルを踏み込む大塚。
遠くに、巨大生物の反応を捕捉。今の時点で此方に来る様子は無いけれど、それでも戦慄する。
この間まで、東京で、巨大生物の群れと一進一退の攻防を繰り広げてきた。
目の前で、黒蟻の酸にやられて、左腕を失った同僚も見た。食いつかれて振り回されて、地面に叩き付けられて。それ以降目を覚ましていない同僚もいる。蜘蛛の糸に撒かれて、PTSDになった同僚も。
死んでいないだけ、まだ運が良い。
そう言われる様な、地獄だった。
北上している巨大生物の群れの中には、黒蟻だけではなく、赤い蟻もいる。重装甲を誇り、面制圧を目的とする、強力な品種だ。
周辺に、生体反応はない。
おばあさんを発見。腰の曲がった小さなおばあさんは、自分がどうしてそこにいるかも、分かっていないようだった。
「お孫さんが探していました。 いきましょう」
「ああ、そうかい。 でも今日は、隣の大野さんと、お茶の約束がねえ」
「調べて見ます。 ……大野さんは、シェルターに避難されています。 そちらで会えますよ」
「そうかいそうかい」
危機感がないおばあさんを、グレイプに乗せる。
もう一度、広域探査。
避難しきれていない民間人はいない。少なくとも、生体反応は、確認できなかった。
「終わりです、戻ってください!」
「よし来た!」
Uターンすると、グレイプを発車させる大塚。
アサルトを断続的に射撃していたナナコが、呻く。外を確認。既に飛行ドローンは、十機を超えていた。
急がないと、此奴らが巨大生物を呼び寄せるかも知れない。
グレイプが全速力で急ぐ。
大塚の運転は乱暴だけれど、止まっていなければ被弾は著しく少ない。しかし、右側面のドアを開けて射撃をしているナナコを警戒してか、左側にドローンは回り込んで、其方から中距離射撃を延々としてくる。
ナビを続ける玲奈だが。
次の曲がり角が危ない。もしやられると、数人を守りながら、シェルターまで走らなければならなくなる。
時間も、もうあまりない。
「残ります。 飛行ドローンを片付けてから、シェルターに」
「馬鹿を言わないで」
「しかし、このままでは共倒れです」
「死ぬ気でしょ、ナナコちゃん」
指摘すると、ナナコは口をつぐむ。
無表情なナナコだけれど。一瞬だけ、銃を持つ手に、力がこもった様だった。
左側面ドアを開けると、玲奈も顔を出す。其処からアサルトをつるべ打ち。数機の飛行ドローンに、弾丸が直撃。傷ついていた一機は、そのまま致命打を受けたらしく、爆発四散。
爆発の隙に、グレイプが曲がり角を抜ける。
もう少し。
だが、その時。
怖れていたことが起きた。
「赤蟻接近! 十体以上!」
しかも、前に無理矢理、飛行ドローンが割り込んでくる。ナナコが射撃するが間に合わない。
グレイプと、正面衝突。
内部で盛大にエアバッグが炸裂した。
もう少し、なのに。
必死に救助した人達を連れて、大破したグレイプを這い出す。ナナコが最後尾に立って、上空の飛行ドローンに連射を浴びせる。数機が爆発するが、それでも敵の攻撃意欲は旺盛だ。
幸い。グレイプの中にいる間に、助けた人達にはアーマーを着て貰った。
「急いで」
必死に声を掛ける。
病人は大塚が背負った。おばあちゃんは、玲奈が背負う。もう一人の救助者には、走って貰う。
最後尾のナナコが、かなり派手に飛行ドローンのレーザーを浴びている。
支援したいけれど。おばあちゃんを背負った状態では、無理だ。アーマー、保ってくれ。そう願いながら、走る。
「孫がねえ、ぬいぐるみを欲しいって言っていてね」
おばあちゃんが、そう脳天気に言う。
今はもう、返事をしている余裕も無い。本当は、返事をするべきなのだろうに。
途中、逃げ遅れて、撃ち殺されてしまったらしい民間人の亡骸を発見。今は収容している余裕さえ無い。
赤蟻が迫っているのだ。
耐久力と高い突進力を保つ、巨大生物の中でも強力な怪物が。
スティングレイで、一機を撃墜するナナコ。足を止める。意図は明らか。しかし、振り返っている余裕が無い。
ゲートが見えた。
必死に、避難民と一緒に飛び込む。
おばあちゃんを、仲間に預けた。ナナコは。足を引きずりながら、こっちに来ている。後ろには、もう見えるくらいの近さで、赤蟻が迫っていた。
「セントリーガン起動!」
猿沼が、やっとまともな指示を出した。
私が飛び出して、倒れそうなほど傷ついているナナコに肩を貸す。担いでしまおうかと思ったけれど。
ナナコはフル装備だからか、案外重かった。
「ごめん、こんな役割、一番小さな貴方に押しつけて」
「どうせナナコは戦闘マシーンです」
「そんなこと、冗談でも言わないで!」
セントリーガンの砲火が、赤蟻を打ち据える。
ゲートの入り口に展開した仲間のレンジャー達も、十字砲火で敵を牽制。だが頑丈極まりない赤蟻は、その程度では怯まない。更に生き残った飛行ドローンが、無理矢理にゲートに突入してきた。
とっさの判断だった。
アサルトをぶっ放す。狙いは滅茶苦茶だった。当たったのは奇蹟に等しい。
飛行ドローンが中空で爆発。だけれど、その爆発の余波で、吹っ飛ばされる。
ゲートの直前で、玲奈は地面に叩き付けられた。
側には、ナナコも意識を失って、倒れている。
立ち上がろうにも、無理だ。
必死の射撃をものともせず、赤蟻が迫り来ている。ゲートを閉めろ。猿沼が叫んでいるのが分かった。
赤蟻に乱入されたら、シェルターも無事では済まない。
ああ、死ぬな。
玲奈はもうろくに動かない頭を上げて、此方を餌と見定めた赤蟻を見る。味方の必死の射撃は、奴の足止めさえ、ろくに出来ていなかった。
躍りかかってくる巨大生物。
だが、その巨大生物を。
鉄の塊が、上空から蹂躙した。
赤い機体。ベガルタだと思うけれど、型式はよく分からない。
火炎放射器。赤蟻が悲鳴を上げながら、丸焼きにされていく。頑強な赤蟻でさえ、打ち抜く火力。凄まじい。
更に、中空にいた飛行ドローンが、瞬く間に撃墜される。
ベガルタはそのまま、ブースターを噴かして跳躍。その場を去る。
ゲートを開き直した味方が、此方に走ってくるのが見えた。
目が覚めると、既にシェルターの中。
ばつが悪そうな猿沼が、状況を教えてくれた。隣のベッドには、既に目を覚ましているらしいナナコが、白衣にされて横たわっている。
「ストームが来てくれたんだよ。 この近辺を通って巨大生物を潰すついでにってな」
不機嫌そうな猿沼の声。
そうか、あの赤いベガルタは。ストームだったのか。
だったらあの強さも頷ける。赤蟻の頑強な装甲を、瞬く間に打ち抜いたのだから。最新鋭の機体なのだろう。
周囲の敵は、既に駆逐が完了。
驚いた話で、わずか数人で、あの数百体の巨大生物を全滅させたそうである。
ファイターが、制空権も確保。ただまだ京都上空には敵の輸送船が数機いて、ストームと交戦中のため、避難解除は出来ないという。
「俺たちにも、あれくらいの武器があれば、こんな事にはならなかったのに」
何となく、その言葉で。
猿沼の不満の由来が分かった。
でも、同調は出来なかった。たとえグレイプの最新鋭機があっても、自分たちでは、避難民を救助し切れただろうか。
あのベガルタがいたからって、周囲にいた巨大生物を、駆逐できただろうか。
ストームには、文字通り世界最強クラスの精鋭が集まっていると聞いている。あのベガルタに乗っている人がそうなのかは分からないけれど。
隊長に到っては、生身で巨大生物数百体と、互角以上に渡り合うと言うでは無いか。
「今は休んでろ。 もうすぐ、周辺で駆逐作業をしていたレンジャー22がここに来るから、それを待ってゲートを開ける」
猿沼の背中には、無力感が漂っていた。
何となく、この人が攻撃的極まりない理由が分かった。きっと前大戦のころから、無力感ばかり味合わされてきたのだろう。
ナナコはもう起き上がれるようだったので、話をしてみる。
どうせ二人部屋の病室だ。
他に、出来る事もない。
「玲奈軍曹は、どうして私に、よくしてくれるんですか?」
「そんなことはないよ。 普通に接しているだけ」
「他の人は、戦闘マシーンとか、平気で言うのに」
感情が見えないナナコだけれど。
今までの事で、傷ついていたことは、よく分かった。自分の存在意義を戦う事でしか見いだせず。
そして、もう生きるのがつらいとさえ思い始めていたことも。
強化クローンは、確かに戦う事を想定して、造り出された新しい人類だ。優秀な遺伝子をかき集めて、その中から更に優秀な部分を抽出。
普通の家庭で、普通に生きている強化クローンもいる。
でも、ナナコは。
見かけからして、おそらく培養槽から出て、それほど時も経っていないはず。誰とも触れあうことなく、戦闘の知識だけを叩き込まれて、そして戦場に送り込まれて。戦場でも、周囲からは戦闘マシーン呼ばわりされて。
何だか、悲しいなと、玲奈は思った。
しばらくして、京都での戦闘が終わったと話を聞いた。
ストームの勝利だそうだ。
ただ、負傷者も出たと聞いている。ストームでさえ、不死身では無いのだ。ましてや、我々なんて。
そう、玲奈は思った。