地球防衛軍4二次創作 2025絶滅螺旋 作:dwwyakata@2024
そして伝説の人物となり。
実像から歪められたストーム1も。
既に動いていたのです。
フォーリナーと呼ばれる存在は、2017年に大規模侵攻を開始する以前から、地球で観測されていた。
火星や木星で、不可思議な光が、確認されていたのである。
やがて望遠鏡の精度が上がったことで、それらが宇宙船である事が確認され。やがてもし彼らが侵略者であったときに備えて、EDFが超国際的組織として設立された。2015年の事である。
EDFの中核になったのは、米軍からの出向部隊だが、各国から多くの人員が集められて、形だけは立派な装備が調えられた。
真相を知っている私としては、茶番と言うほか無いが。
それでも、この「公式の歴史」を、新兵達に教えていかなければならない。
いずれにしても、である。
2017年、マザーシップと呼ばれる全長数百メートルに達する、銀色の球形宇宙船と。平べったい円形の護衛輸送船多数が地球に飛来。
時を同じくして、世界各地で人間を襲い喰らう巨大生物が出現。
最初、巨大生物がフォーリナーの投下したものかは意見が分かれたのだけれど。
やがて、フォーリナーの輸送船から巨大生物が投下されていることが確認され、フォーリナーは侵略者であると断定された。
およそ半年。掃討戦も含めると、一年。
地球の人口が二十億を割るほどの、悲惨な戦闘の開始であった。
資料を交えながら、淡々と説明。
新兵達の殆どは、元々が民間人だ。大戦の初期にはマスコミも生きていて、フォーリナーの情報を届けていたけれど。
大戦の後期になってくると、電気さえ行き渡らないようになり、情報どころでは無くなった。
だから、正確な情報を、皆が知っているかは分からない。
もっとも、戦争が終わった後、急速に復旧が進んでいる現在、当時のことを振り返る番組はいくらでもある。
それを通じて、知っているのが普通だ。
後は、公式の情報を教え込んでおけば良い。それが、本当では無い情報を含んでいるとしても、だ。
教室に来る新兵の面子は、五グループに分かれている。一グループは三十名ずつ。
かっては一個小隊がこの規模であったことの、名残である。
今では、一個小隊は四名となっているけれど。それは、高度な情報リンクシステムが確立され、なおかつ各人の戦闘能力が著しく上昇したからだ。
この三十名が一個教育単位として色々な訓練を共有し。
やがて適正によって、それぞれの教育が分化していくことになる。
「当初フォーリナーは、巨大生物がEDFおよび各国の軍と死闘を繰り広げる様子を傍観していたが。 やがて、巨大生物と我等の戦闘が膠着しはじめると、援軍を投入しはじめた」
それが、各国で怖れられた、フォーリナーの機械兵器群だ。
まず映し出されるのは、球形にそれに沿うような形の翼を持つ艦載機。
主にマザーシップから出撃し、各地の制空権を奪っていった、通称ガンシップ。現在では名前が飛行ドローンに変わっているが、それには理由がある。
当時は有人戦闘機かと思われていたのだ。
しかし、大戦後その残骸を詳しく解析したところ、中には誰も乗っておらず、完全な自動制御で動いていたことが分かった。
「まずはこのガンシップが、各国の制空権を奪った。 主力兵装はレーザー兵器で、重力や慣性を無視した動きをする難敵だ。 ただし、速度はさほどでもなく、歩兵の火器で十分に対応できた」
「質問です」
挙手したのは、比較的体格に恵まれた青年。
いつも眼鏡を掛けている。
戦闘訓練ではさほどの成績を残してはいないが。色々な武器を使いこなしていくことに関しては、かなりの飲み込みの良さを見せていた。
「当時の戦闘機は最新鋭のEJ24をはじめとして音速以上で稼働できるものもあったようですし、如何に動きが重力を無視したものだったとはいえ、どうして鈍足のこの戦闘機に遅れを取ったのでしょうか」
「それは簡単だ。 数があまりにも違いすぎた」
「数、ですか」
「この飛行ドローンは、一つの戦場に百二百、多いときにはそれ以上の数が、平然と投入されていた。 キルレシオで言うと、EJ24は大戦末期でさえ1対10以上を保っていたのだが、何しろ相手の数が百倍以上となってくると、どうしようもない」
そう。
数の暴力こそ、このドローン最大の武器だったのだ。
ミサイルの直撃を受ければひとたまりも無く落ち。
歩兵の火器でも打ち落とせる程度であっても。
空を覆い尽くす圧倒的な兵力が、無尽蔵に投入されてくる。射程距離も長く、火力密度も高い。
如何にEJ24戦闘機が超音速で飛行しても、ドローンの群れがうち込んでくる光の壁のような火力には、なすすべが無かったのだ。
ましてや当時の地球の戦闘機は、あくまで速度を重視する造りだった。強度的に問題があり、ドローンの放ってくる火力で機体を傷つけられると、見る間に消耗。どんなに腕が良いパイロットでも、圧倒的な火力を前にしては、どうしようもなかった。
さらに、地球側の戦闘機は、非常に高価だったという事も、戦いの流れを悪くした。
高級品である戦闘機に対し、ドローンは文字通り使い捨ての飛行兵器。パイロットが長い時間を掛けてようやく使いこなせる戦闘機と違って、それこそ十把一絡げに投入できるドローンは、あまりにも相性が悪かった。
故に、制空権は、ほとんど時間をおかずに、フォーリナーの手に落ちていったのである。
地上でも、フォーリナーは凶悪極まりない兵器を投入していた。
最も有名なのが、ヘクトルだ。
何種類かが確認されているが、有名なのはこれである。
映像を見せる。
細長い手足を持った、人型の兵器だ。
全身は銀色で、人型と言ってもどちらかと言えば人形めいた姿をしている。胴体が非常に頑強な作りになっており、両手には殆どの場合、大型の武器が装着されている。レーザー兵器が主体だが、スナイパーライフルににたものや、ガトリング砲に近いものなど、様々な種類があった。
古くから、人型のロボット兵器は、実戦向きでは無いと言われてきた。
車高が上がるから、ミサイルをはじめとする兵器の好餌になるというのである。
その地球で考えられていた常識を。
容易に破壊したのが、このヘクトルだ。
「ヘクトルは極めて柔軟な関節を持つ戦闘ロボットで、主に巨大生物と連携して攻撃を加えてきた」
その特徴は。恐るべき柔軟性と、タフネスにある。
関節部の稼働はあまりにも柔軟で、ミサイルだろうが何だろうが、胴体や頭に直撃した衝撃を、ほとんど吸収するほど柔らかく動くのだ。
この関節部によって。直立歩行するロボットは、ミサイルの好餌となるという定説は。ヘクトルが出現した瞬間、崩壊したのである。
しかもヘクトルはパワーも凄まじい。
映像を見せると、家屋やビルを踏み崩す様子がありありと残されている。
邪魔者は踏み崩して通れるだけのパワーを、ヘクトルは有していたのである。
それだけではない。
傷ついた戦車がゼロ距離射撃を試みた記録がある。
足に一発浴びせたが、ヘクトルは倒れず。
逆に振るわれたアームによって、五十トンはあったEDFのギガンテス戦車が、オモチャのように吹き飛ばされた。
このヘクトルは、銀色の巨人と呼ばれてEDFに怖れられた。
事実、一体のヘクトルを打ち倒すだけで、対価として多くのEDF隊員が命を落としていったのである。頭上から降り注ぐビームの雨と、頑強すぎるその機体は、当時の地球の技術では、どうしようもない相手だった。
車高が高いという事は、それだけ頭上から攻撃が降り注ぐという事だ。
ヘクトルはいわば。
地上の戦闘車両の安定性と、攻撃ヘリの機動力、そして高さからの破壊力をあわせもった、EDFにとっての天敵に等しかった。
更に、強大な敵もいた。
映像に映し出されるのは、四本足の巨獣めいた機械の怪物。
全長、およそ三百メートルの、絶望の魔。
通称四足歩行要塞である。
マザーシップから直接投下されたこの凶悪な怪物は、背中に装備した二連ビームキャノンを主力としていた。サイズから言ってマザーシップに格納されていたとは考えにくく、何かしら未知の技術を使って近くから転送されたのでは無いかと言われているが、真相はよく分からない。
数十キロ先まで届くその砲撃は。
実に15メガトンという常識外の破壊力を誇ったのである。
つまり当時地球にあった最強の破壊兵器、水爆に匹敵していた。
極東にこの四足が上陸。
まだ当時、苛烈な抵抗を続けていたEDF極東支部の戦力を、情け容赦なく削り取り。必死の抵抗を嘲笑うようにして粉砕しながら、各地の都市を砲撃で文字通りの灰燼へと変えていった。
この要塞の武器は、大威力キャノンだけではない。
機体の下部には、複数の掃射砲を装備。
近づく部隊は、情け容赦なく灰にされた。
更に機体の前部には、強力なエネルギーシールドを装備。前面からの攻撃は、どれだけ浴びせても無意味だったのである。
そしてこの要塞は。
機体の前下部に、直衛戦力を投下するためのハッチを持っており。
複数のヘクトルをはじめとする凶悪な直衛を此処から投下。
迎撃に出たEDFの戦士達を、恐慌に陥れた。
生徒達が戦慄しているのが分かる。
当時EDFが保有していた兵器の全て。大半では無く全てが、この鋼鉄の巨獣には、通用しなかったのだ。
とうに制空権が失われていた状況でもある。
ただでさえヘクトルが複数常に周囲に張り付き。
その周辺には、山のような巨大生物の群れ。
そしてこの要塞から放たれる大威力キャノンのビーム。
「こ、このような怪物を、どう倒したのですか」
薙ぎ払われていくEDF隊員の映像を見て、新兵が恐怖の声を上げる。
私は咳払いすると、映像を切り替えた。
EDFは物量作戦に出た。
まずは、多数の戦力で、ヘクトルの部隊を引きつけ。そして精鋭部隊ストーム1が肉薄。
至近から、踏みつぶそうと迫る巨獣の掃射砲を丁寧に破壊。
追加で導入されるヘクトルに苦しめられながらも、ついに弱点を発見。
それは直衛を投下する、ハッチだった。
当時開発されたばかりの携行式艦砲とも呼ばれる決戦兵器、ライサンダーの弾丸を叩き込む事により、流石の頑強を誇る要塞も、ついに打ち倒された。
しかし、それによって。
極東のEDF支部は、壊滅的な打撃を被ったのである。
既に劣勢だった各地の戦況は、これによって絶望へと向かっていった。
これらが、フォーリナーの主要な兵器だ。
他にも派生型は幾らかある。
たとえば飛行ドローンの強化型。通称精鋭。赤色をしたこの精鋭は、三倍以上の速度と耐久力を誇り、多くの兵士達から恐怖を持って赤の死神と呼ばれた。
小型のヘクトル。
通常型に比べるとかなり火力も装甲も劣ったが、その代わり輸送機によって迅速に運ばれ、展開も早かった。
そして、何より。
フォーリナーの首脳にして、最強の兵器。
マザーシップ。
此処では言えないが。
弟が、最後の戦力を結集した戦いにて肉弾戦を挑み。
傷つきながら打ち倒した、最強最悪のフォーリナー兵器だ。
一通りの説明を終えたところで、授業が終わる。
これで知識に関しては終了。
後は、具体的な倒し方を、シミュレーターでやっていくことになるけれど。それは、担当教官がやるべき事だ。
職員室に戻る。
書類を調べていると、咳払い。
此処の管理を任されているEDF大佐。城川である。
がっしりした大男で、左腕はサイボーグ化している。大戦の末期、ろくにアーマーも支給されない状態で、飛行ドローンの砲撃を浴びたのである。手術できたのは、戦後しばらく経ってから。
それまでは、片腕で戦い続けていた。
私としては、よく知っている相手だ。
「お疲れ様です。 生徒達からの評判も上々のようです」
「有り難う。 それより、今は貴殿の方が表向きは上役では。 そのようにへりくだらなくても」
「いえ、あの伝説の英雄もそうですが、貴方も私にとってはヒーローだ。 多少の事は許していただきたい」
「そうか。 気を遣わせてすまないな」
城川は、大佐に出世はしているが。
戦場では、私と弟と、かなりの戦場を転戦した。たたき上げだ。
出世できたのは、同僚が死んでいく中、生き残ったから。
単純な理屈である。
同じようなたたき上げで出世した人間が、EDFには多い。ただしこれは、北米にあった総本部がマザーシップとの主力決戦に敗れて文字通り消滅、各国に存在した軍属の人間が、そもそも殆ど生き残れなかったことに主要な原因がある。
最終的にマザーシップを葬ったのは極東支部だが。
それでも、生き残った人員そのものは、他の支部に比べて決して多いわけではなかったのだ。
それだけ苛烈な戦いが起きて。
故に生き残ることが出来たと言うだけで、出世した人間は多い。
城川はたまたま小隊長だったから、大佐にまでなった。
同じような理由で、現在は将官になっている当時の一兵卒も何人か知っている。かくいう私については、特殊な理由で階級が極めて独特だ。
特務大尉と言う。
弟も似たようなもので、普通の大尉とは根本的に違う存在だ。
かといって、軍組織では城川の方が上役になる。
何より、彼の方が、遙かに年上なのだ。
「時に、有望そうな若者はいるか」
「見たところ、何名か」
「ふむ……」
軽く何名かについて、話をする。
私の見識と一致している人間と、そうでないものがいた。ただ、私は正直、人を見る目に優れているとは言いがたいところがある。それは弟にも指摘されたことがあるので、事実なのだろう。
城川はもう二年以上、此処の管轄をしているから。
彼の方が、見目はあると判断した方が良さそうだ。
「今後創設される空爆管理課に、新人を一人派遣する予定です」
「ああ、あの谷山が行った」
「ええ。 後は貴方と同じフェンサー部隊に何名か」
「……そうか」
フェンサーは、今後新設される、人間戦車とも言われる部隊だ。
私が今着ているのと同じスーツを着て、敵との最前線で、もっとも激しく戦う事が期待されている。
正真正銘、巨大生物やフォーリナーの機械兵士と、真正面からやりあえる兵科だ。当然消耗も激しくなるだろうし、精鋭が配置されるのは規定事項だ。
かといって、昔ながらの兵科が疎かにされているわけでは無い。
八年の錬磨を経て、かなり強力に仕上がってきたウイングダイバーも、今では立派な主力として、期待されていた。
ウイングダイバーは、その特性から、巨大生物の天敵としても期待されている。戦場における巨大生物の制圧は、フォーリナーとの戦いで、いつもEDFが苦労してきたことだが。それを専門的に担うという意味で、重要性の高い兵科だ。
空爆管理は、フェンサーやウイングダイバーに比べると非常に地味だけれど。戦略級の面制圧を行うという点では、極めて重要でもある。
今後、重要視される部隊でもある。
此処から配属者が出るのは良いことだ。
また、空爆管理に関しては、戦場における兵器類の管理も任されることが決定している。いずれにしても、生半可な特性の持ち主ではこなせない。
もっとも、戦場で一番重要なのは。バランスが取れた歩兵。つまりレンジャー部隊である。
「レンジャーに向いた優秀そうな若手は」
「何名かいますが」
「最悪の事態での、弟の負担を減らしたい。 出来ればしっかり鍛えこんで欲しい」
レンジャーは基本的に、戦場の主力となる。
多くの武器を使いこなせるだけでは無く、汎用性が高いからだ。
同時に、支援が無いと、単独では厳しい事もある。
使い捨てと揶揄する者もいるけれど。
伝説の英雄であるストーム1リーダーはレンジャーだと言う事も、忘れてはならないだろう。
更に、海軍と空軍も増強が進んでいる。
現在第十八艦隊まである海軍は、かってとは比べものにならないほど、艦隊ごとの人員が少ない。
これはフォーリナーの技術を導入した結果、大形兵器操作のための人的パワーを大幅に削減できたからだ。
駆逐艦なら五人程度。
大型の空母でも、三十人程度で運用できる。
故に、三十万程度しかいないEDFでも、十八にも達する艦隊を保有することが出来ている。多くはかっての海軍の艦船を改修したものだが、新型の大型艦も少なからず存在していた。
空軍に関しても、以前あっという間に制空権を奪われたことを反省し、様々な兵器の改良が為されている。
特にファイターと呼ばれる新型戦闘機は。
フォーリナーの飛行ドローンの大軍を相手に、互角以上に戦える工夫が、様々に為されていた。
数こそ以前とは比較にならないほど減っているが。
このほかにも戦略級の大威力兵器が彼方此方に配備され、フォーリナーに簡単に遅れは取らない体勢が出来ている。
少なくとも前回と同じ兵力で敵が攻めてきた場合、それこそ一蹴することが可能なほどに、EDFは単純な戦力を増しているのだ。
何名か、新人の適正について確認をしあう。
ここに来ている新人達が、実戦になったら、何名生き残ることが出来るのか。
前回の戦いのことを思い出すと憂鬱になる。
生き残れた人間の方が。死んだ人間よりも、遙かに少なかったのだ。
地球が受けた打撃は壊滅などと言う次元では無かった。EDFも、文字通り支離滅裂になるまでの打撃を受けた。
其処から立ち直れたのは。
皮肉にも、人類の力では無い。
フォーリナーからの鹵獲技術がゆえ。
そして私は、もう一つ重要な事実を知っているけれど。城川にそれを言うわけにはいかなかった。
「また、フォーリナーは攻めてくるのでしょうか」
「来てもおかしくは無いだろうな」
「私はどうでもいい。 あの若者達は、少しでも多く、生き残らせてやらないと」
責任感が強いからの言葉ではない。
ただ、惨禍を前にして。自分と同じ目に会う人間を、少しでも減らしたい。そんな切実な願いからの。
城川の言葉だった。
宿舎に戻る。
此処に戻るのは久しぶりだ。鍵は貰っているから、入る事に苦労は無かった。
弟は戻っていない。
さっとメールを確認すると、次の指示が来ていた。
新兵達に、具体的なフォーリナーに対する戦術を仕込んで欲しいと言うのである。フォーリナーに対する生の知識を教え込んだだけでは足りない、というのだろうか。
何か、焦りのようなものを感じる。
フェンサースーツを脱いで、少しくつろごうかと思ったのだが。止める。
本部に出向いた方が良いだろう。
本部と言っても、北米の総司令部のことではない。EDF極東支部の事だ。一応この近辺を管轄しているから、支部であっても本部と称していることが多い。
基地に出向いて、幾つかのカードセキュリティの掛かったゲートをくぐる。
大型の人型戦闘マシン、ベガルタの試運転をしているのを横目に行く。あれはM2ではない。試験的に幾つか作られた、M3の発展型だろう。つまり正式配備前の機体だ。技術の解析により、近年ベガルタは著しく戦闘力を増しているが。あの様子だと、巨大生物を単独で面制圧することを前提に設計されていると見て良さそうだ。
昔は、弟や、一部の超人的な精鋭が。
乏しすぎる戦略の中、練りにねった戦術と、歴戦のさえと勘で、それを補ってきたのだけれど。
それが少しずつ、敷居が下がってきているのは良いことだ。
基地の中枢部分。
比較的寂れた建物に入る。此処でもカードセキュリティが厳重に仕込まれていて、将官クラスの人間しか、深部に入る事は出来ない。
私は特別だ。
理由も相応のものがある。
エレベーターで、地下三十階に。
これほど深く作られているのは、フォーリナーの攻撃に耐えるため。
三十階でエレベーターが停止。
外に出ると、非常に無骨な廊下に、切れかけの蛍光灯が点滅していた。
ここに来るのは、久しぶりだ。
奥には、まだ彼がいた。
正確には彼では無いかも知れないけれど。それはどうでもいい。培養槽に浮かんだその存在は。
私を認識すると、声を掛けてきた。機械で作られた音声で、だが。
「久しぶりだね、ハジメ」
「その名で呼ばれるのは久しぶりだな。 普段は大体嵐と名字の方で呼ばれる」
「そうか。 ここに来たと言うことは、何かあったのかい」
「白々しいことを言う。 EDFの動きがおかしい。 さては近いな」
しばしの沈黙。
それを肯定と、私は受け取った。
「理由を聞かせて貰おうか」
「此方としても、全てを把握している訳では無い。 君の弟も、同じ事を聞きに、少し前にここに来たよ」
「彼奴もか」
「いずれにしても、君達には、今回も活躍して貰う事になる」
まるで測ったようなタイミングだ。
弟の状態を知っているだろうに。此奴は相も変わらず、我等姉弟に無茶ばかりをさせる。
極めて特殊な関係であるのは事実だが。私にだって、肉親の情くらいあるつもりだ。弟の状況を考えると、あまり無意味な戦いで、これ以上の疲弊はさせたくない。
かといって、これが限界でもあるだろう。
今度こそ、死ぬかも知れない。
その時は、以前と違って。出来るだけ弟と一緒の戦場に出て。其処で同じ時に死にたかった。
かといって、此奴の事情についても知っている。
もう、止められることでは無いのだろう。
「時期は」
「既にEDFの方でも把握しているはずだよ」
「なるほど、新兵を大々的に募集したのはそれが故か。 この時期になって、わざわざ私を、呼びつけたのも」
「否定はしない。 時期がずれる可能性もある。 出来るだけ早く、訓練は終わらせて一人前に育て上げた方が良いだろうね」
頷くと、私は地下を出た。
これは、此処の司令にも、会っておく必要があるだろう。
舌打ちしたくなった。
最悪の予想が。
適中してしまったことになる。
奴らはおそらく、最悪の場合年内には、また来る事になるだろう。
EDF極東支部は、幾つかのサテライトオフィスを有している。
特に大きなものは極東方面の空軍総本山である桐川航空基地にあり、もう一つは海軍が保有している超大型要塞空母、デスピナの艦橋に作られている。デスピナは全長千メートルを超える特大の空母であり、EDF第5艦隊の旗艦。戦艦としての機能も有していて、何度か足を運んだが、非常に堅牢な構造だ。総本部で建造中の機動要塞X4とならんで、決戦兵器の一つとして見なされている強力な艦でもある。
そして中枢と言える極東支部本部(妙な言葉ではあるが)は、此処東京基地にあるのだ。
サテライトオフィスを幾つも作っているのは、前大戦の反省から。前大戦では、北米の総本部が潰されてから、本当に抵抗が絶望的になったのだ。極東支部が機能していなかったら、人類はひとたまりも無く絶滅させられていたに違いない。
極東支部でも、有事に備えた地下サテライトオフィスも七カ所存在している。これらの殆どは平時無人であり、ガードロボットが少数あるだけだ。その全ての所在は私も把握していない。北米の総本部が潰された場合、機能がそちらに移る可能性がある。
極東支部を指揮しているのは、前大戦でも極東支部を指揮していた日高中将である。前は少将だったが、戦争後中将に昇進した。
それから七年間中将のままなのは、本部再建を行った際、人材のバランスを取るため、といわれている。少なくとも表向きはそうだ。
実際、極東にいた精鋭部隊の多くが、世界の各地に散った。
特にオメガチームやストームチームの生き残りは、その存在が危険視されたこともあるだろう。
各地の再建されたEDFの主力として、引き抜かれていった。
かくいう私もそうだ。
各地の部隊の訓練や兵器の試験のために引っ張り回され。
故郷とも言える此処には、殆ど帰ってくる事が出来なかったし。
弟と会う事も出来なかった。
最強の英雄とまで言われた弟のように、半ば軟禁されるよりはましだったかも知れないけれど。
戦時の司令部は別の場所になるが。
少なくとも平時は、基地の奥にある建物の一つが司令部だ。
カードセキュリティを通って奥へ。
中に入ると、不慣れそうなオペレーターが、あたふたとPCに向かって仕事をしていた。間違いなく新人だろう。PCに向かっていた冷静そうな戦術士官が、私を見て敬礼する。
オペレーターもそれで、ようやく私に気付いた。
戦術士官は、前の大戦の時はまだ小娘だったが。
八年を経て、随分と貫禄と冷静さを身につけた。
眼鏡も様になっている。
「お久しぶりです、嵐特務大尉」
「久しぶりだ。 日高中将に会えるか」
「すぐに確認します」
アポを取らずに来たのだ。
本当だったら追い払われるところだが。今回は急用である。私が急用で来たことの、意味は理解できているのだろう。
日高は正直な話、あまり大戦当時は有能とは言えなかった。
未知の要素が多いフォーリナーとの戦いで、間違った指示も出し。その結果、多くの被害をだした。
弟や私も、随分と巧緻を極める敵の戦術と、日高の無能な指揮に苦しめられた。
ただし、日高は最後まで責任は放棄しなかったし。
同じミスはしなかった。
結局の所、粘り強い指揮を続けて、最終的に弟とマザーシップの決戦にまで持ち込めたのは、日高の存在が大きかった。
だから大戦中は本部の罠とまで言って日高の指揮を軽蔑もしていたけれど。
今では、ある程度日高の力量は認めている。
大戦後は、フォーリナーの専門家である小原博士を招聘して、戦術を研究。おそらく、次の戦いでは、前のような無様を晒すことは無いだろう。
日高のオフィスに、間もなく案内される。
日高は恰幅の良い中年男性で、最近娘が支部にEDF隊員として入ったと聞いている。既に兵として配属されているはずで、その内基地で顔を合わせるかも知れない。私の顔を見ると、黙々と書類仕事をしていた日高は。口をへの字に結んだが。やがて声を絞り出した。
「君が来たと言うことは、気付いたな」
「EDFではやはり、既に状況を把握しているのですか?」
「ああ。 月面にマザーシップが続々と到来しつつある。 現時点で4隻で、集結の様子からして更に増えるだろう。 最悪、八隻以上になる可能性もあると小原博士からは聞いている」
そうか。
EDFの見積もりの甘さは前も今も変わっていない。そうなると、十隻は来ると見た方が良さそうだ。
色々な事情もあって、私はフォーリナーがあっさり引き下がらないと知っている。地下にいる彼奴の話もあるけれど。それ以上の問題は、連中の目的が、おそらくまだ達成されていないからだ。
「迎撃の準備は万全でしょうか」
「勿論可能な限りの準備はしている。 しかし、前回のおそらく十倍近い戦力となると、相当な苦戦が予想されるだろう」
「新兵達には、いきなり酷い状況を体験させることになりますね」
「それは八年前も同じだ」
八年前は、更に悲惨だったかも知れない。
EDFもそうだが、配備されていた武器は、いずれもが対人間を想定したものだったのだ。
故に、各地でEDFを一とする防衛戦力は、フォーリナーの圧倒的な力の前に、草でも刈るようになぎ倒されていった。
今回は違う。
しかしそれは、フォーリナーも同じ筈。
数だけ増やして攻めてくるとは考えにくい。
奴らにも、どうしようもない、目的があるのだから。
EDFでも、将官クラス以上は知っている。
そして直接関わった私達も。
奴らが何者で。どうしてわざわざ遠い地球に来ているかは知っているのだ。
勿論、他の兵士達に言う事は出来ない。
ただ、此方でも、出来るだけのことは、やっておきたかった。
「君には、可能な限り、新兵達を生き残れるよう鍛えて欲しい」
「それで、わざわざ実戦についての講義も」
「もうあまり時間が無い。 最悪の場合、新兵達は前倒しで戦場に出て貰う事になるだろう。 「君達」には、今回も苦労を掛ける」
敬礼すると、私は日高の部屋を出た。
七年の平和。
それだけの期間。平和を満喫できたのだから。むしろよしとするべきなのかも知れない。
奴らは近いうちに攻めてくる。
私は、空を仰ぐ。
間もなく、空が地獄になるのも、避けられない事だった。