地球防衛軍4二次創作 2025絶滅螺旋   作:dwwyakata@2024

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シールドベアラーが出現以降、フォーリナーは連携戦術でEDFに多くの出血を強い始めました。

高度な戦術を駆使してくる命なき兵士と死を怖れない巨大生物。

兵士の消耗は加速度的に増えていきます。


1、鉄の網

阿鼻叫喚の惨状が、通信から伝わってくる。

 

シールドベアラーに攻撃を仕掛けたレンジャー11が、十機を超えるヘクトルに包囲されたのである。

 

文字通り、あっという間。

 

シールドベアラーを撃破する事には成功したが、その後、殆ど完璧というタイミングで、周囲から包囲網を形成したヘクトルによって、押し包まれたのだ。そして包囲網を縮めながら、容赦なくヘクトルは攻撃を仕掛けてきている。

 

こういうときは、一カ所を集中攻撃することで、包囲網の突破を狙うのが鉄則なのだけれど。

 

ヘクトルの部隊は長距離砲とガトリングをそれぞれ装備した機体でバランスよく構成されていて、下がろうとすれば後ろから、突破しようとすれば前から、弾幕を浴びせかけてくる。

 

二度の突破作戦は失敗。

 

しかも、救助に出ようとした空軍は、近くに現れた飛行ドローンの大部隊に足止めを喰らっており、動ける状態にはなかった。

 

容赦なく長距離砲の雨を浴びるレンジャー11は、見る間に消耗している。助けてくれ。助けてくれ。

 

絶望的な悲鳴が、バイザーに届いていた。

 

もたついている暇は無い。

 

しかもヘクトルは、最終防衛ラインの戦車隊の射程を完璧に把握していて、その外側から包囲攻撃を仕掛けてきていた。最終防衛ラインに対しては、六十機を超えるヘクトルが、シールドベアラーとともに睨みを利かせており、とてもではないが、増援を出せる状態にはない。

 

辺りの街は、既に焦土だ。

 

だから、グレイプとキャリバンに分乗して戦場に急行しながらも、道を遮られることはない。

 

元々グレイプにしてもキャリバンにしても。

 

前大戦の教訓を生かして、足回りは極めて強力だ。アスファルトの上でないと走れないような、旧時代のタイヤとは違う。

 

フェンサースーツを既に着込んだ私に、弟は言う。

 

「姉貴は今回、ガリア砲と高高度強襲ミサイルでの長距離射撃。 それに新人達の指揮に廻ってくれ」

 

「分かっている」

 

口惜しいが、培養槽に突っ込まれるほどのダメージを受けたばかりだ。

 

内臓の状態も好転したとは言え、万全とは言えない。これから数日は、この調子で我慢しなければならないだろう。

 

「救援はまだか!」

 

「レンジャー11、今其方に向かっている。 此方ストームチーム」

 

「ストームチームか! 此方レンジャー11サブリーダー! 一秒でも早く救援に来てくれ!」

 

「隊長はどうした」

 

既に戦死したと、サブリーダーは言う。

 

生き残りは分かっているだけで七名。二十名のレンジャー11は、文字通り網に捕らえられた小魚と化しつつある。

 

「敵は長距離と近距離の反復攻撃を繰り返し、此方をなぶり殺しにする気だ! 急いで来てくれ!」

 

「間もなく到着する」

 

イプシロンが足を止めた。

 

射線から、全ビークルを外す。

 

イプシロンの側に、ネグリングも停車。少し進んでから、キャリバンも停車させた。私が降車すると、矢島、黒沢、原田、ナナコと、操縦していた日高が降りてくる。

 

ジョンソンは弟とエミリー、それに涼川と一緒に前線に。

 

秀爺夫妻はイプシロン。池口はネグリング。

 

そしてネレイドを任せている谷山は上空だ。筅も、ベガルタにのって、前線に向かって貰っている。

 

「全員、スナイパーライフル構え。 矢島、お前は高高度ミサイル」

 

「イエッサ!」

 

めいめい、武器を構える。

 

今回は誤爆の危険を防ぐため、ロケットランチャーの類は使わない。その代わり、全員にスナイパーライフルを装備して貰い、ヘクトルを長距離から狙い撃つ。問題はヘクトルも長距離砲を装備していること。

 

そして近辺に、敵部隊が多数いるということだ。

 

「味方部隊の回収は、グレイプに任せる」

 

まずは、長距離砲ヘクトルを潰す。

 

一体の敵を捕捉。

 

バイザーを通じて、狙う相手を指定。ガリア砲を構えると、私は全員に、攻撃開始を指示した。

 

ガリア砲をぶっ放す。

 

かなりの衝撃が、体幹に来た。

 

これは、まだまだ本調子とはいかないなと、私は自嘲。そのまま、攻撃を続けさせる。

 

新兵を指揮してみて、分かる事がある。

 

ナナコと黒沢は、とにかく堅実な攻撃を続けている。ヘクトルの胴を狙っているのが、その証拠。日高はむらっ気が多くて、大物狙い。ヘクトルの頭を撃ちに行っている。気持ちは分かるが、ヘクトルの頭は、人間と違って絶対的な急所では無い。

 

原田は足を狙って確実な撃破を試みているが。

 

ヘクトルの足は、腕と同じで柔軟性が高い。ちょっとやそっとの攻撃で沈むほど柔ではない。

 

一機目が沈黙。

 

ネグリングが誘導ミサイルの雨を降らせはじめていて、直後に秀爺もイプシロンでの長距離射撃を開始した。

 

ヘクトルの包囲網に穴が空く。

 

其処へ、弟たちが、グレイプで突っ込む。

 

グレイプを操縦しているのはジョンソンだ。速射砲を乱射しながら、ヘクトルの包囲網を強行突破。

 

動きが日高や池口の時とかなり違って、荒々しい。

 

ジョンソンの運転を見るのは初めてだが、なるほど。或いは車を運転させると、スピード狂になるタイプかも知れない。

 

「味方負傷者回収開始。 支援続行」

 

「イエッサ」

 

弟と短く会話しながら、私は二発目のガリア砲をうち込む。

 

距離が遠いから、ゼロ距離からの射撃の様に、一撃必殺とは行かない。此方に向き直ったヘクトルが、長距離砲を向けてきているのが分かった。

 

ターゲットを切り替えさせる。

 

スナイパーライフルといっても、旧時代の対人間を想定しているものとは、根本的に破壊力が違う。

 

ヘクトルは既にミサイルを大量に浴びて傷ついており、更に其処へ、私の放ったガリア砲弾が直撃。

 

胸から火を噴き上げながら。

 

横転し、爆散した。

 

そろそろ、敵は包囲網を崩し、戦術を切り替えてくるはずだ。弟たちはよくやっているが、後何名が救えるか。

 

「此方ほのか」

 

「どうした」

 

ガトリングの射撃音が響く。

 

弟たちが、前線での救助作業を続けながら、通信を入れてきている証拠だ。ヘクトルは数機を失いながらも、包囲網を崩そうとはしていない。

 

嫌な予感がする。

 

「後方よりヘクトル接近。 数は4」

 

「此方池口! 同じくヘクトル7を発見!」

 

「やはりこう来たか……!」

 

弟が呻く。

 

つまりヘクトルの部隊は、最初から撒き餌漁をしていた、ということだ。そして狙いは、おそらくストームチーム。

 

向こうとしても、此方は狙って潰しておきたい相手となりつつある、ということなのだろう。

 

「救助作業はまだ掛かるか」

 

「ああ」

 

「危険はあるが、集結するしかないな。 全員、キャリバンに乗車。 ナナコ、私とタンクデサンド」

 

「イエッサ!」

 

射撃精度が一番高いナナコをキャリバンに乗せ、私と一緒に狙撃しながら前線に出る。イプシロンとネグリングも、同じように前進を開始。包囲されることはもう仕方が無い。包囲された状態で散っていたら、文字通り各個撃破の餌だ。

 

「後二名」

 

弟の声に、ガトリングの射撃音が被さる。

 

ふとその瞬間。イプシロンから放たれた光弾が、ヘクトルを貫き、一撃爆殺。おおと、皆から声が上がった。走りながらあのイプシロンで、狙撃を成功させるとは。さすがは秀爺である。

 

ヘクトルが、見る間に近づいてくる。

 

ガトリングを回転させているのが分かった。もう、そんな距離か。タイミングを合わせて、私とナナコ、同時に射撃。

 

胸に大穴を開けたヘクトルが、傾ぎながらも、まだ倒れない。

 

ガトリングの弾を、浴びせかけてくる。

 

キャリバンがジグザグに走る中、私も盾を展開。ガトリングの弾をはじき返す。側頭部から、ヘクトルが吹き飛ばされる。今度こそ爆発四散したヘクトル。

 

ビルの上を飛び回っていた、エミリーによる狙撃だ。

 

グレイプの横に付ける。

 

まだ包囲を構成しているヘクトルは、十四機。更に後方からは、接近するヘクトルが、更に増えていた。

 

ネレイドが旋回しながら機関砲を浴びせているが。

 

まだまだ、ヘクトルは充分元気に動き回っている。弟が、呻く負傷者を担いで、此方に来た。

 

負傷者は、左足を失っていた。

 

「私が出ようか?」

 

「不要だ。 それよりも、包囲を突破することが優先だ。 日高軍曹、負傷者の治療」

 

「イエッサ!」

 

キャリバンとグレイプを忙しく行き来する日高。

 

迫るヘクトルには、降車してきた新兵達が、アサルトに切り替えて猛射を浴びせる。私も距離が近くなってきたから、ガリア砲が充分以上の破壊力を示せる。矢島にも、ガリア砲に切り替えさせた。

 

問題はネグリングだ。

 

近すぎて、敵に効果的な射撃が出来ない。射界が広い分、其処から逸脱してしまうのだ。

 

ジョンソンが此方に来る。

 

負傷者二名を、同時に担いでいた。一人は意識がなく、もう一人は脇腹から内臓をぶら下げていた。

 

「生命反応は」

 

「この二人でラストだ」

 

「遺体を回収は、出来そうにないな」

 

それに、である。

 

既にヘクトルの包囲網は完成している。その上、包囲網の外側から、敵の増援部隊が更に接近しているのが見えた。

 

文字通り、二重三重の包囲を構築するつもりだ。

 

「旦那ぁ、どうするよ」

 

「決まっている。 後方を一点突破。 殿軍は私が務める。 前衛は涼川、頼んでも構わないか」

 

「オッケ! 任せとけ!」

 

車列を組んだまま、発進。

 

ヘクトルが逃がすかと言わんばかりに、一斉射撃を開始した。私はネグリングに飛び乗ると、盾をかざしてガード。筅がファイアナイトを後ろ歩きさせながら、榴弾砲を連射。弾幕を造るが、そんなものは関係無いと言わんばかりに、ヘクトルが四方八方から猛射を浴びせてくる。

 

後方にも、十機以上がいる。

 

まもなく、凶暴な虎ばさみが閉じようとしている。

 

先行したネレイドが、ガトリングの対空砲火を浴びながらも、見事な機動で回避。ミサイルを叩き込んで、わずかにヘクトルの壁を歪ませる。其処へ、秀爺がまた、走りながら一撃確殺。一機のヘクトルを塵芥に変えた。

 

弟が最後尾のキャリバンから顔を出すと、ライサンダーで射撃。ヘクトルがガトリングを吹き飛ばされ、軋みながら此方を見る。憎悪に満ちている様に、思えた。

 

距離が近くなってくる。キャリバンの上に仁王立ちしている涼川が、構えたのは。カスケードロケットランチャー。

 

十発以上のミサイルを連続して放つ、強力な兵器だ。

 

しかもこれは、単独の相手に集中運用することを想定している兵器。

 

「オラア! 消し飛べ!」

 

楽しそうな涼川。

 

連射されたミサイルが、容赦なくヘクトルの一機を集中爆破。爆破の最中も動くから、全弾命中させるのは至難の業なのに。さすがは涼川。全く苦にしないで、全弾を命中させ、爆破に成功。

 

先頭のネグリングが、包囲を突破。

 

だが、追いついてきたヘクトルが、ガトリングを浴びせ続けてくる。

 

キャリバンが被弾。

 

それも、何度も。

 

おんぼろのキャリバンは、アーマーが既に限界近い。

 

長距離砲の射撃も、追いすがってくる。

 

グレイプが包囲網を抜ける。続けて、イプシロンも。

 

最後に立ちはだかったのは、ベガルタ。

 

更に、反転バックしたイプシロンの上に、涼川が飛び乗って、仁王立ち。ベガルタが後ろ歩きを開始しながら、ありったけの榴弾砲を叩き込む。イプシロンも、確実に追ってくるヘクトルを、一機ずつ叩く。

 

キャリバンから降りた弟と、エミリーが、同じように立ちはだかる。もう少し行けば、キャリバンを最終防衛ラインに届けられる。そこに行けば半死半生の救出した兵士達も、どうにかなる。

 

私は飛び降りて、殿軍に加勢しようと思ったが。

 

止められた。

 

「はじめ特務少佐は、撤退部隊に残ってください」

 

「む……」

 

池口に、ぴしゃりと言われる。

 

そのまま、進撃してくるヘクトルに猛射を浴びせている部隊の後方に、ネグリングが陣取る。ありったけのミサイルを、うち込んでいくつもりだろう。

 

「キャリバンを守って」

 

「分かった。 お前も、無理はするなよ」

 

「はい、大丈夫です。 雑な性格の私でも、この子はしっかりサポートしてくれますから」

 

ネグリングのオート照準機能は強力だ。

 

この距離なら、全力での支援砲撃を続行できる。

 

ネレイドから、警告が来る。

 

「更にヘクトルが来ている。 急いで下がらないと、包まれる」

 

悩んでいる暇は無い。

 

敵の追撃速度を遅らせている弟たちに、負担を掛けるわけにはいかない。

 

一撃だけ、ガリア砲を放つ。

 

一機、ヘクトルが爆裂四散。

 

それで満足して、私は下がることにした。

 

 

 

夕刻。

 

弟たちが戻ってきた。

 

イプシロンとベガルタは半壊状態。筅は弟に担がれていた。

 

最後に、コックピットにガトリングの砲弾が飛び込んだのだという。アーマーを付けていなかったらミンチになっていた所だ。アーマーがあっても爆風に張り倒されて、気絶するのは避けられなかったが。

 

十機ほどのヘクトルを撃破したところで、弟たちは撤退。

 

結局、最終防衛ラインにまでは追撃してこず、ヘクトル達は一旦撤退していった。

 

弟も負傷していた。

 

アーマーが限界になるまで戦ったのだ。無理もない話である。

 

「姉貴、状況は」

 

「おかげさまで、私は何ともない。 レンジャー11の連中は、三名だけが軽傷。 残りは東京支部の医療施設行きだな」

 

「そうか」

 

ほろ苦い表情を、弟が浮かべる。

 

シールドベアラーを二機破壊したレンジャー11だが、その代償は非常に大きかった。20名のチームのうち、死者12名。

 

かろうじて救助出来たのは8名のみ。

 

更に、イプシロンは走っているのが不思議なほどのダメージを受け。ベガルタファイアナイトは、根本的なメンテナンスが必要だ。

 

キャリバンも、もう駄目だろう。

 

帰路で、何度もヘクトルのガトリングを喰らった。その上、二度も長距離砲を至近に受けたのだ。

 

外壁を確認するが、もうスクラップ同然。

 

アーマーをかぶせて誤魔化してきたが、それも限界だ。駆動系は無事だが、危険すぎてもう次の戦いでは使えないと見て良い。

 

新しい型式のキャリバンを回せて貰えれば良いのだが。本部に其処までの余裕があるかどうか。

 

日高軍曹が来る。

 

頭に包帯を巻いているのは、帰路。

 

キャリバンを運転しているとき、喰らった砲弾が。運転席に飛び込んだからだ。砲弾は内部で乱反射。キャリバンは複層構造で運転席と兵士や負傷者を収納する後部が隔離されているが、それが却って徒となった。アーマーは瞬時に溶け、残りのダメージで左目に傷。ただ、視力が失われる様なことはなく、すぐに前線復帰出来るそうだ。

 

「ストームリーダー!」

 

「日高軍曹、負傷しながらキャリバンを繰って、よくぞ安全地帯まで逃れてくれた。 見事な活躍だったと、上層部に報告しておく」

 

「ありがとうございます! それよりも、ですね」

 

日高軍曹は、あまり地位に興味が無いのだろうか。

 

弟を連れて、最終防衛ラインの奧へ行く。私もついていったが、なるほど。

 

かなりのビークルが並べられているが、どれもこれもがスクラップ寸前だ。専門のメンテナンスチームが来ているのだが、それでも修復が間に合っていないのである。

 

「これ、修理できたら、きっと戦力になります。 ストームリーダーの権限で、もっと多くのメンテナンスチームを廻して貰えないでしょうか」

 

「そう、だな」

 

弟は、苦笑していた。

 

勿論出来る範囲では動く。

 

だが、ストームチームのリーダーというのは。極めてデリケートな立場だ。上層部は、弟が世界を救った英雄であり。フォーリナーについたら、手に負えない化け物だと知っている。

 

だからこそ、扱いは腫れ物となる。

 

発言権はある。だが、弟は、それを今までずっと抑えてきた。だからこそ、上層部は弟を本気で掣肘しようとは考えなかった。

 

兵器であるからこそ。上との摩擦を抑えられる。

 

ただでさえ、有能とは言えないEDFだ。弟が我を通して、上層部との軋轢をこれ以上増したら、まともに動かなくなる。

 

そう、弟は考えているのだ。

 

ゆえに、どんな無茶な任務でも、受ける。今回の任務にしても、空軍の支援付きで、十個くらいのレンジャーチームをビークルに乗せて出す様なものだ。それだけ、他のチームの負荷が軽減されていると信じて。

 

今はやっていくしかない。

 

日高軍曹が前線の治療所に戻っていく。筅が心配なのだろう。

 

入れ違いにナナコが来た。ナナコは負傷していない。むしろ、すぐに戦いたいという顔をしていた。

 

訓練を見てやることにする。

 

少なくとも、今日の戦闘では。

 

皆が気を遣ってくれたからか。私の負担は、増えなかった。

 

 

 

一晩、山梨の最前線で過ごす。

 

寝る前に、ブリーフィングをやったが。

 

静岡の東半分は、既にフォーリナーの手に落ちているという事が、確認できたくらいだった。

 

これでも、オーストラリアよりはましかもしれない。大陸の半分がフォーリナーの手に落ち、シールドベアラーの出現以降は、短期間での奪還だって望めない状態が続いているのだから。

 

私は前線を見回る。

 

フェンサースーツは着けていないが、アーマーを付けているから、いきなり流れ弾を喰らっても死ぬ事はない。見たところ、ヘクトルは戦車隊の射程外に展開して、此方の出方をうかがっている。巨大生物は、今の時点では、攻撃に参加してきていない。まだ、前線が安定していないとみているのかも知れない。

 

奴らは高い知性と、すぐれた戦術判断力を有している。それくらいはこなしても、驚くことはない。

 

筅は少し前に目を覚ました。

 

今の時点では、容体は安定している。二日もすれば、前線に復帰出来るとは言われていた。

 

問題はビークル類だ。

 

明日いきなり任務が来たら、どうにもならない可能性が高い。

 

弟が、通信を入れてくる。

 

「なあ、姉貴」

 

「どうした」

 

「俺はもう少し、我が儘になった方が良いのだろうか。 日高軍曹の発言も、もっともだと思った。 俺は特務中佐で、待遇は准将と同じ。 この権限を使えば、前線にもっと戦力を廻す事も、可能なんだよな」

 

「迷いがあるんだな」

 

弟は、完璧超人では無い。

 

その決断は、常にあっていたわけではない。もしもそうだったら、今頃無傷で戦い抜いていることだろう。

 

私も腕を失ったり足の踝から先を失ったり、指を何度も失ったりしたけれど。

 

弟だって、それと大差ない傷を、何度も受けて来ている。

 

弟が無敵の超人ではないことの証明だ。

 

見回りを続けたが、問題になりそうな事はない。ビークルの修復作業を続けている音は夜中まで続いていると聞いているが、私だって万能じゃあない。工学系の知識はないし、壊れたビークルは直せない。つまり、手伝うことは出来ない。

 

此処にいても、仕方が無い。

 

カプセルもあるので、それに入って休むことにした。

 

不意に、人影が現れる。

 

以前救出した、従軍記者だ。柊とか言ったか。

 

「お久しぶりですね、ストームチームのサブリーダー」

 

「何だ、私はこれから寝るつもりなのだが」

 

「ええ、存じています。 負傷が癒えきっていないという話ですものね。 少しだけで構いませんので、インタビューに答えて貰えませんか」

 

「……」

 

纏わり付かれても迷惑だ。

 

この女、昔の表現で言うならスッポンのような奴だ。ここぞと言うときに食いついてきて、絶対に離さない。

 

「分かった、良いだろう。 何だ」

 

「フェンサースーツを着込んでいない貴方と話すのは初めてですね。 むしろその方が、力を発揮できるのでは」

 

「そうかも知れないが、フェンサースーツの試用も兼ねているんでな。 前線の兵士達の苦労を考えると、そうも行かない」

 

「意外ですね。 貴方の様な超人的な使い手は、下々の苦労なんてゴミとも思っていないとみていたのですが」

 

喧嘩を売っているのか此奴は。

 

確かに私は、此奴が言う様な、普通の人間ではないけれど。かといって、彼らを下々だなんて思わない。

 

私が不快感を覚えているのを敏感に悟っているはずなのに。柊は、全く動じていない。或いは、不快にさせるのが、最初から目的なのか。

 

「今日も敵の包囲を突っ切って、敵に囲まれたレンジャーチームを救出したという事ですが、感想は」

 

「敵の戦術がますます巧妙になっていると感じるな。 今回敵に包囲されたレンジャー11にしても、決して未熟な隊長に率いられた練度が低い部隊では無かった。 事実我々も、彼らを撒き餌にして誘い出され、包囲された」

 

「本当に、彼らは宇宙人なのでしょうか」

 

すっと私が目を細めても。

 

此奴は、動じる様子が無い。

 

「宇宙人がヘクトルに乗っているか否かで言えばノーだな。 私は弟と一緒に、数え切れないほどのヘクトルを破壊してきたが。 あれは無人兵器だと断言できる」

 

「いいえ、フォーリナーの存在そのものに、私は疑念を抱いています」

 

「存在しないものが、今これだけ地球を蹂躙しているというのか」

 

「そうではありません。 妙だとは思いませんか。 あまりにも地球の昆虫に似すぎている巨大生物に、此方の技術に合わせたかのように繰り出される巨大兵器群。 本気で人類を滅ぼすつもりなら、もっとやり方はある筈。 フォーリナーという存在は、本当は」

 

地球人の誰かが、造り出したものなのではないのか。

 

流石に、その発言には、私は同意できない。

 

事実フォーリナーの物量は、地球上の物資では実現できないものばかりだ。マザーシップ一つをとってもそう。

 

破壊されたフォーリナーの兵器を転用して、どれだけの物資が地球にもたらされたか、分からないほどなのだ。

 

「おそらくそれはノーだろう。 技術的にも物量でも、フォーリナーは明らかに地球由来のものではない」

 

「ふむ、分かりました。 インタビュー有り難うございます」

 

「……」

 

柊はあっさり引き下がる。

 

それにしても、極めてクリティカルな問題に踏み込んできたものだ。おそらく彼奴が言っていたのは、EDF本部とフォーリナーが結託している、という説に、更に踏み込んだ内容だろう。

 

説としては、実は見た事がある。

 

ある科学者が、前大戦が終わった直後にぶち上げたものだ。もっとも、あらゆる点で検証が足りず、論文はあまり広く注目されなかったが。

 

その科学者の名前は。

 

三島徳子。

 

私をいじくり廻して遊んでいる、あの変態である。

 

小さくあくびをすると、バイザーを付ける。通信先は、弟だ。

 

「聞いていたな」

 

「ああ。 あの記者、あまり踏み込みすぎると、いずれ消されかねん。 黒沢や筅にも粉を掛けている様子だし、一度実戦に連れて行くか」

 

「それも、手か」

 

あの記者は、あまり覚えていないが。以前私がフェンサースーツで戦闘した時、救助したことがあると言う。

 

それなら、戦場の恐ろしさは理解しているはずなのに。何だか、恐怖を知らないと言うより、無謀に思えて仕方が無かった。

 

今日は、これで休む事にする。

 

いつ呼び出されるかも分からないのだ。カプセルに入ると、強引に意識を閉じて、眠って休む事にした。

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