地球防衛軍4二次創作 2025絶滅螺旋 作:dwwyakata@2024
しかし彼等には、あまりにもストーム1達や。その同僚として戦い続けた精鋭は遠い存在。
苦悩は募ります。
完全に足下を見られた感じだったな。
そう、帰路のヒドラで、弟はぼやいていた。
結局、四つの敵陣攻略だけではすまなかった。マザーシップの撃沈に失敗したのだから、もう少し働いて欲しい。
そう太った中将は恥ずかしげもなくいい、ストームをこき使ったのだ。
幸い、弾丸だけは補充してくれたが。
結局四日間で、七つの戦場を転戦。決して楽でもない戦いを続け、負傷も重ねながら、どうにか東南アジア支部を離れる事だけは出来たのだった。
原田がげっそりした感じで、座りこんで床を見つめている。
ナナコが目の前で黒蟻の酸を盛大に浴びた。
アーマーのおかげで無事だったが。自分の張った弾幕が薄かったからだと、真面目に悩んでいるらしい。
ナナコは気にもしていないのに。難儀な話だ。
朗報もある。
東京支部から、三川が退院したと連絡を受けている。
ストームチームへの復帰の意思も、見せているそうだ。これで、ウィングダイバーを二人、同時に動かせる。ツーマンセルになれば、それだけ出来る事も増えるのだ。
整備班の活躍で、ベガルタファイアナイトは復旧。以降の戦場では動かせる。
しかし東京支部に戻ったら、早速大規模任務の話がある。
せっかく治ったベガルタだが。
下手をすると、すぐに壊してしまうことになるかも知れない。
ヒドラで数時間移動している間、カプセルで眠れることだけが救いである。幸いと言うべきか、何というか。
私のバイタルはかなり改善してきていて、少しずつ動く量を増やしても良いと、医師にも言われていた。
東京支部に到着。
早速ブリーフィングに出る事になる。新人達は、その場で解散。半日だけ、休暇を与えると、私は弟と一緒に、本部のビルに出向いた。
ストームリーダーとはじめ特務少佐が、ジョンソン中佐と一緒に本部に出向いていく。アジア支部で随分武勲を重ねたのに。ストームリーダーは准将待遇でもあるのに。まるで使い走りだ。
忸怩たる思いはある。
原田啓介は、情けないと思った。
今日の、朝の戦いだってそうだ。ナナコが長距離支援をしていて、自分はその護衛。戦闘特化の強化クローンであるナナコが強いのは当たり前。小さな女の子にしか見えなくても、大柄で長身な自分より、よほど多くの敵を撃破してきている。だから、その動きを、最大限に生かせるようにしないといけないのに。
いざ敵に接近された際、反応が遅れて。
結果、ナナコに、アーマーがなければ即死するような打撃を通してしまった。
本当に、後悔してもしきれない失態だった。
途中離脱して、戻ってきても。皆が地位が上がっていて、自分は何も変わっていなくて。今回の戦いの結果、軍曹になるとは辞令を受けているけれど。他のみんなは、きっと自分より早く、少尉に昇進する。
地位について、それほど執着はない。
執着があるのではなくて、同期において行かれているようで、不安なのだ。
「原田君。 せっかくだから、何か食べに行きましょうか」
「ん、兵司か」
顔を上げると、黒沢だった。
立ち上がり、ヒドラを出る。
にっこにこの日高軍曹がいる。年下の新兵達に世話をするのが嬉しいらしく、このアイドル裸足の容姿を持つ先輩は、何かと世話を焼いてくれる。筅とナナコもいるので、結局皆で行動だ。
矢島と池口がいない。
話によると、池口はネグリングを任されてから、必死に勉強しているという。ネグリングに名前まで付けてかわいがっているらしく、何だか変なスイッチでも入ったのだろう。今日も勉強で、自室に閉じこもっているのだとか。
矢島はトレーニングルームに直行。
難易度インフェルノ仕様で、フェンサースーツの訓練を必死にしているらしい。まあ、分からないでもない。
二人は仕方が無い。いるメンバーだけで、食事に行く。
東京支部の中には、食堂が幾つかある。
何処も戦闘を想定しているため、相当量の食事が出るのが特徴だ。確か食堂の幾つかは、一般人にも開放しているが。
今の戦時下である。一般人は、基地には近寄らない。
避難してきた人達が短期間基地にいたが、彼らもシェルターにもう移った。
日高軍曹はおごってくれると言ったけれど、流石にそれは断る。少尉になってからおごってほしいというと、なるほどと頷かれた。
日高軍曹はビークルに強い適正がある。
あまりレンジャーとしての腕が良い方では無いけれど。
それでも、原田よりはマシだ。誤射はしないし、いざというときに、肝が据わっているからだ。
皆、注文を終えて、席に着く。
筅は見かけ通り大変に小食。
一方ナナコは、育ち盛りだからか、カレーを大盛りで頼んでいた。軍関係の食堂だから、大盛りで頼むと、もの凄い量が出てくる。しかし、平然と食べ始めている。ここしばらく、レーションしか食べていなかったからか。残しそうもない勢いで、おなかに消えていく。
「はあ、よく食べるもんだな」
「原田君、何だか今日は元気がなかったね。 最後の失敗のこと?」
日高軍曹が、ナナコと同じくらい食べながら、不意に聞いてくる。
あまりにも直球だったので、むせかけた。ちなみに原田は、うどんのついた定食にしている。
「ナナコちゃんは気にもしていないよ。 誰だって失敗くらいするんだし、気にしない方がいいよ」
「でも、一歩間違えば、死んでいました」
「それが戦場だよ。 ストームリーダーだって、誤射を時々してるの知ってる?」
だけれども。
桁外れに強いストームリーダーやはじめ特務少佐は、失敗をしてもそれ以上の成果を上げている。
自分は、どうなのだろう。
確かに、ストームチームに所属してから、充分な戦果を上げている。敵を倒した数も、既に五十を超えた。
だがそれは、前線で大暴れしている涼川少佐や、ストームリーダー、はじめ特務少佐があっての成果なのだ。
いたたまれなくなって、席を立とうとするけれど。
黒沢がぴしゃりと言った。
「見たところ、君は誤射も少ないし、失敗だってそう多くもない。 もう少し、自信を持つべきではないのですか」
「そうはいうけどね……」
「まず、この食事はきちんと食べよう。 物資だって、いつまで潤沢にあるか分からないんだし」
笑顔のまま、そんなシビアなことを、日高軍曹はいった。
いつも太陽みたいに笑っていても。
この人も、現役で戦っている軍人なんだって、こういうときに思い知らされる。
皆で食事を終えた後、ふらりと原田はシミュレーションルームへ向かった。
体を鍛えるよりも。
度胸を付けたかったのである。
矢島が丁度出てくる所だったので、黙礼する。矢島は大柄で、喋るときに言葉になまりが出る。
原田と同じく、一等兵の矢島は。同じタイミングで、軍曹に昇進することが、決まっていた。
順当なところだろう。
「原田さんも、丁度訓練かぁ」
「ああ。 どうにか、度胸を付けたくて」
「お互い頑張ろう」
独自のなまりが、矢島の口調には混じっている。
多分出身地の問題なのだろう。
訓練結果を見せてもらう。難易度インフェルノの訓練に十三回挑み、一度もクリアは出来ていない。
難易度インフェルノは、大戦末期。味方も殆どいない状態で、敵の大群と戦わざるを得なかったEDFの戦場を再現したものだ。ストームリーダーやはじめ特務少佐は軽々こなしているが、これは当然だろう。
あの人達が前線で、敵の大半を引き受けているから、皆生きているのだ。
そうでなければ、とっくにストームの新人達は、半分以上が死んでいるはずだ。
この四日だけでも、散々に戦った。
「難易度を落として見たら?」
「いいや、それは出来ない」
「どうしてだ」
「はじめ特務少佐が、毎回戦ってる敵は、こんなもんじゃねえ。 少しでも手助けできるようになるには、此奴らくらいはどうにかしねえとなんねえからな」
少し休んだ後、また同じ条件でシミュレーションに挑むという。
悩んだ後、原田も。
インフェルノに難易度を設定し、シミュレーションに入る。
そうして、思い知らされる。
あの人達が生き延びた戦場が、どれほどの地獄だったのかを。
六セットこなして、生き残ることは一度も出来なかった。敵の動きは俊敏で、此方の隙を絶対に見逃さない。
あっという間に取り囲まれ、袋だたきにされるなんて当たり前。
何処に隠れても、確実に見つけ出してきて、酸をうち込んでくる。
隠れる場所なんて、そもそもない。
味方の戦力は常に少数。明らかに、子供としか思えない戦士もいる。
それに対して、敵は大地を埋め尽くすような数。その数をフルに生かして、情けも容赦もなく、襲いかかってくるのだ。
シミュレーションから出ると、へとへとになっていた。
また矢島がシミュレーションをはじめている。
宿舎に戻ることにした原田は、精が出るなと思った。これ以上やったら、心が折れるような気がした。
一晩眠って。
翌朝、集合すると。三上が戻ってきていた。
まだウィングダイバーのスーツは身につけていないが、PTSDを克服できたのだろう。ストームリーダーが、わかりきっていることを、淡々と言った。
「これより、三川一等兵が戦線復帰する」
「ご迷惑を掛けました。 これからまた、戦場で皆を援護させていただきます」
敬礼する三川は、多少すっきりした様子だった。
きっちりPTSDを克服して戻ってきたのである。誰が彼女を責めるだろうか。原田だって、負傷で中途離脱していた身だ。三川の苦労は多少なりと分かる。
問題は、すぐに任務が入っている、という事である。
ヒドラに移動して、その途中。バイザーを付けて、任務について説明を受ける。恐ろしい任務だと言う事が、すぐにわかった。
「現在、静岡の戦線を援護する目的か、神奈川の鎌倉近辺に、途方もない数の赤蟻が集結している。 これを誘い込み、撃破する」
空軍、砲兵隊の支援があるが。
それでも、敵の数が千を超えると聞いて、戦慄した。
ただでさえ頑強な赤蟻が、千以上。
前大戦でも赤い津波と怖れられた赤蟻の群れは。その圧倒的な頑強さを武器にして、面を瞬く間に飲み込んでいったと聞いている。
何度も赤蟻とは戦ったが。
アサルトの弾丸では、中々倒れてくれない。スティングレイロケットランチャーの直撃を受けても、耐え抜く。
文字通り、赤い戦車のような怪物だ。
ストームチームに話が回ってくるわけである。
今回は、本部もかなり気合いを入れている。レンジャーチーム4つ、フェンサーチーム2つが戦場にて既に待機。ウィングダイバーチームも一つが、支援に廻ってくれるという事だ。
現地に向かう。
拡がっている砂浜に、既に味方部隊が展開していた。一部は狙撃兵として、少し離れた場所にいる。
フェンサーチームの中には、矢島の見知った人間もいる様子だ。
ヒドラが離陸する。
代わりに、上空に何機かのネレイドが姿を見せる。上空からも、赤蟻を叩き潰すのが目的だろう。
「現状の敵の配置は」
「一部が既に此方に向かっているようです」
ストームリーダーが、スカウトと話をしている。
いずれにしても、今の段階では、原田に出来る事はない。渡されているアサルトの状態を確認。
幸い、今回はベガルタファイアナイトの修繕が間に合っている。
砂浜には、同じように修理が間に合ったネグリングとイプシロンもいて、心強い。最悪の状況に備えて、数台のキャリバンも待機していた。味方のグレイプも、潮風に吹かれながら、海岸線に停車している。
ここのところ、東南アジアでの劣悪な環境での戦闘が続いて、辟易していたが。
今回、ストームチームは総力を展開することに成功している。はじめ特務少佐も、そろそろ前線に戻れるはずだし、心強い。
「間もなく接敵する!」
ストームリーダーが、声を張り上げた。
三川は今回、後方での支援専門で、ここに来ている。渡されている武器も、長距離狙撃用のものだ。
まだ技量が足りなくて、長距離から複数の敵をロックオンし、一気に排除できるミラージュは渡されていないらしい。味方への誤射だけはするなと、念押しされてはいた。
「来たぞ!」
砂浜に散らばっている戦士達が、そのおぞましい光景に、等しく呻いた。
赤い。
赤い壁が、迫ってくる。
必死に引き撃ちしながら、此方へ敵を誘導しているレンジャー9。赤蟻は黒蟻に比べると動きが鈍いが、それでも人間より早い。レンジャー9はEDF支給のジープを用いて引き撃ちをしているが、それでもギリギリだ。
「もう少し引きつけろ」
「狙撃部隊、構え!」
扇状に拡がる、砂浜の部隊。
やがて、全ての部隊の射程に入った瞬間。ストームリーダーが、叫んだ。
「攻撃開始!」
敵の前衛部隊に、圧倒的な数の弾が叩き付けられる。
ネグリングのミサイルが連射され、イプシロンも光弾を撃ち出す。グレイプの速射砲が唸る。
レンジャー部隊も、射撃を開始。
スティングレイロケットランチャーも、エメロードミサイルも、次々射出される中。原田も、腰だめして、アサルトライフルから弾丸をうち込む。
フェンサー部隊も攻撃を開始。最初は高高度強襲ミサイルを放ったが、すぐにガリア砲に切り替える。
火力の乱打を浴びながらも、赤蟻は突き進んでくる。
見る間に、前線が此方に近づいてくる様子は、恐怖さえ感じた。
囮のレンジャー9が、必死に味方部隊の中に逃げ込む。涼川少佐が前に出ると、スタンピートをぶっ放す。
吹っ飛んだ赤蟻の群れだが。
中空でもがく様にして、体勢を立て直そうとしている。
耐え抜いた個体が、多数いるのだ。
戦慄するほどの堅さ。
それでも、火力の網に捕らえられてしまうと、流石の赤蟻も無敵では無い。次々に爆裂し始める。
敵の前衛らしい数十匹は、間もなく片付いた。
呼吸を整えながら、マガジンを交換する。
レンジャー部隊の中には、マガジンを交換することも忘れて、青ざめているだけの者も、少なくなかった。
「こちら谷山」
「どうした」
「敵の第二波接近。 というよりも、集結していた赤蟻が全て同時に動き出した。 それも、包囲する動きを見せている」
「……接敵までに、可能な限り削ってくれ」
谷山さんが、イエッサとだけ応えると、通信を切る。
ストームリーダーが、声を張り上げた。
「スナイパーチーム、すぐに他のレンジャー部隊と合流! 敵は包囲を敷き始めている、そのままだと孤立して全滅するぞ」
「分かりました。 すぐに其方に向かいます」
「おいおい、まずいんじゃないのか」
「ヒドラに来て貰って、撤退する方が……」
味方のレンジャー達が、動揺しはじめているのが分かった。
唇を噛む。
原田だって怖い。
だが、分かったことがある。誰かがやらなければ、別の誰かが殺されるのだ。
確かに東南アジアで、悲惨な戦いを連続してやらされた。現地のレンジャーチームが、壊滅寸前になる所を、二度救助もした。
それで分かったことがある。
誰も、此処では助けてなんかくれない。誰かが踏みとどまらないと、みんな殺されるのだ。
「お、おい……!」
誰かが、恐怖の声を上げる。
山から、真っ赤な絨毯が迫ってくるのだ。
それだけではない。
海からも来る。
巨大生物は、海の中を歩くことを苦にしない。それは分かっていても、流石におぞましい。
「海の方は少数だな。 私が引き受ける」
「無理はするな」
「分かっている」
進み出たのは、はじめ特務少佐だ。
海から来る赤蟻の数は、ざっと五十。山から来る奴は、軽く見積もっても数百。更に包囲網が、狭まってくる。
「谷山、敵主力に砲撃を。 此方は、包囲網を一角ずつ破る。 集中攻撃を開始するぞ」
「イ、イエッサ!」
射撃が、開始される。
迫り来る東の丘の赤蟻。逃げ来るスナイパーチームを狙っている。その鼻先に、叩き込まれる弾丸の嵐。
流石に、凄まじい集弾。先頭集団が消し飛ぶ。だが、赤蟻の頑強さは凄まじい。EDFの武器が進歩しても、変わる事はない。
バック。
たまらず、レンジャーチームの誰かが叫ぶ。
しかし、ストームリーダーは、即座にそれをやめさせた。
「陣形を崩した人間から死ぬぞ! 余計な事を考えず、撃ち続けろ!」
ネグリングが、早くも弾切れする。
飛び出してきた池口が、支援要請。上空にいるヒドラが、弾丸のパックを落としてくる。弾丸そのものが入っているわけではない。ミサイルそのものは、基地から転送してくる。重要部分の消耗品パーツを変えることで、誤射を避けるのだ。
その間も、黙々とイプシロンは射撃を続行。
見る間に、前衛が近づいてくる。
赤蟻の死骸が吹っ飛んで、此方まで飛んできた。海岸線で、荒れ狂っているはじめ特務少佐。五十体の赤蟻を相手に、一歩も引かない。
スナイパーチームの一人が噛みつかれた。
悲鳴を上げ、振り回されるスナイパー。冷静にライサンダーの引き金を引いたストームリーダーが、噛みついていた赤蟻を潰す。
山の方に、クラスター弾の爆撃。
多くの赤蟻が消し飛ぶが、とてもではないが全ては倒しきれない。吹っ飛んだ赤蟻の中には、アーマーに致命打が行かなかったらしく、平然と南下してくる者も珍しくは無い。
「隊列を整えろ! 此処からは乱打戦になる! アーマーはすぐには破れん! 一度や二度噛まれた程度で諦めるな!」
ストームリーダーが叫ぶ。
至近まで迫られたが、それでもネグリングの補給が間に合った。連射されるミサイルが、迫る赤蟻たちに炸裂。
銃口を揃えて、敵を迎え撃つ味方チーム。
平然と、迫り来る赤い絨毯。
上空のネレイドが、猛射を浴びせるが、数が多すぎる。とてもではないが、処理し切れない。
ついに、前線が接触した。
盾を構えて防ぎに掛かるフェンサーチームだが、圧力が違いすぎる。押し返せたのは最初だけ。二回目からは、強烈なチャージに、明らかに吹っ飛ばされそうになる者が多数出た。
ガリア砲をうち込んでいる矢島。
数匹を今までに打ち倒しているが、とてもではないが、敵の勢いは止められない。
噛まれる味方が、出始める。
見事な機動で、襲いかかってくる赤蟻を倒しながら、敵を打ち抜いていくストームリーダー。笑いながら、敵の上にグレネードの雨を降らせ続ける涼川がいなかったら、もうとっくに、味方は全滅していただろう。
上空に浮き上がったエミリー少佐が、閃光を放つグレネードを投擲。他のウイングダイバーも、必死にジャンプを繰り返しながら、敵に射撃を浴びせている。三川も、それに習っていた。
爆裂した赤蟻が、赤い花火と化す。
ウィングダイバーにも支給されている爆発物。確か、エネルギーをそのまま固めて、投擲する武器だ。
原田は、余計な事は考えない。
ひたすら連射連射。マガジンを取り替える。至近、赤蟻。噛みつこうとする顔面に、連射を浴びせる。乱戦の中を猪突してきたらしく、それで限界を迎えたらしい赤蟻は、悲鳴を上げながら頭を消し飛ばされ、その場に崩れ伏す。
呼吸を整える。
怖い。怖くない筈がない。
此奴らに食い殺された民間人は、どれだけいるか数も知れないのだ。
原田は、一応第三世代のクローンだ。だが戦闘目的のクローンでは無い。確か労働を目的として生産され、各家庭に補助として配備された。
貧しい家には、原田の様な労働タイプクローンが、多く送られた。彼らはこの疲弊した世界を立て直す目的を背負って、貧しい家々に降り立ったのだ。
原田もそう思っていた。
だが、貧しい家族は、むしろ原田を、好きなように生きて良いと言った。
だから、生活のために。
収入がよいEDFを選んだ。
今、原田の家族は、シェルターにいる。此処で少しでも赤蟻を殺しておかないと、今度は誰かの家族が回り回って餌にされる。
そんな事は、許してはならない。
叫びながら、また一匹に、連射を浴びせる。
味方のレンジャーに食いついていたそいつは、悲鳴を上げて爆散。地面に叩き付けられた負傷者が、這うようにしてキャリバンに逃げ込もうとするが。背中から、また新しい一匹が、態勢を低くして襲いかかる。
踏みつぶされる。
踏みつぶしたのは、ベガルタだった。ベガルタは火焔放射で赤蟻を薙ぎ払いつつも、目立つ赤蟻を、踏みつぶしたり、殴ったりもしていた。
筅が、こんな激しい戦い方をするとは、思わなかった。
同じクローンでも、戦闘タイプと労働タイプの差だろうか。
味方の爆撃機が来て、敵の中に爆弾を落としていく。それで、ようやく敵の勢いが、削られはじめた。
それでも、一時間以上、戦闘は続いた。
呼吸を整え、どうにか生き延びたことを、原田は悟る。
辺りは阿鼻叫喚。キャリバンも、赤蟻に噛みつかれて、装甲に痛々しい傷を残している機体が、幾つもあった。
すぐに、負傷者を後送しはじめる。
負傷者の中には、黒沢と、ジョンソンもいた。
黒沢は戦闘時、敵の攻撃に対応しきれなくなり、噛みつかれて振り回され、地面に思い切り叩き付けられた。砂浜でなければ、首が折れていたことだろう。
ジョンソンは、前衛で味方を救うために奮戦。
激しい戦いの末、ついに赤蟻に噛まれ、瞬殺したものの放り上げられ、二十メートル以上を落下。
アーマーが限界値に達し、足を折った。
今の技術なら、数日で復帰出来るはずだが、それでもキャリバンで後送される。
当然、死者も出ていた。
ストームチームにはいないが、味方は満身創痍。更に言うと、敵はまだ、幾らか残っている。
いや、幾らか、どころでは無い。
「此方スカウト! 山が真っ赤に染まるほどの数が、そっちに向かっている! 撤退した方が良いかもしれない!」
「谷山、ありったけの空爆と砲撃を敵にうち込め。 此処にいる赤蟻を全て潰せば、かなり味方は有利になる」
「本気ですか、リーダー」
「本気だ」
ストームリーダーは無傷だが、それでも決して戦況は良くない。まだ敵は何割かが健在なのに対し、味方は包囲網さえ喰い破りはしたが、多くの死傷者を出しているのだ。
今のうちにアーマーを換えるよう、負傷者達に指示するストームリーダー。
はじめ特務少佐は、無言で前に出る。
涼川少佐も、ジープに乗り込んだ。
最初と同じ要領で、引き撃ちをするつもりだ。だが、最初と敵の物量が違いすぎる。生唾を飲み込んでしまう。
さっきだって、あれほどの数が攻めこんできたのだ。
新しいキャリバンが来る。
先ほどの負傷者達を、運び終えて。傷ついていたものは、もう無理だと判断して、別のに換えたのだ。
筅が飛び出すと、セントリーガンを砂浜に敷設しはじめる。
先ほど、谷山さんが指示して、砂浜にヒドラから投下させたのだ。無言でセントリーガンを敷設していく筅。
遠くで、爆発が始まっている。
交戦しているのだ。
セントリーガンも、あるだけマシという状況。それでも、戦力が減っている今、ないよりはある方がずっといい。
「き、来たぞ……」
恐怖に声を上擦らせる味方のレンジャー達。
先ほどではないが、山を赤く染めながら、第三波の赤蟻が来る。ジープで下がりながら、涼川少佐がスタンピートを乱射している様子が分かる。それで相当数が吹っ飛ばされているが、なお足りない。
上空に、ミッドナイトとアルテミスが来る。
空爆していくが。
それでも、赤蟻の大半は無事だ。
砲兵隊が、クラスター弾を雨霰と降らせはじめるが。
なおも赤蟻は、多数の勢力を保ったまま、此方へと来る。ネレイドが攻撃を開始。機関砲が容赦なく赤蟻を撃ちすくめていくが。
敵の数は、まだまだ圧倒的多数。
ベガルタに再度乗った筅が前に出て、榴弾砲を連射しはじめる。
全て撃ち尽くす勢いだ。
矢島をはじめとして、フェンサー部隊は全員が高高度強襲ミサイルを発射。レンジャーの小隊も、各自エメロードとスティングレイをうち込みはじめる。
敵が次々砕けるのが分かるが。
それでも、敵は圧倒的大多数だ。
はじめ特務少佐が飛び出す。
涼川少佐が、スタンピートをぶっ放しながら、ジープで味方の陣地に飛び込んできた。セントリーガンが稼働開始。ネグリングはとっくに、敵にミサイルの雨を降らせ続けている。イプシロンも、敵を一射確殺している。
それでも、敵は止まらない。
赤蟻の群れが、弾丸の雨霰を気にもせず、突っ込んできた。
再び、阿鼻叫喚が、辺りに巻き起こった。
戦闘は、夕方近くまで続いた。
呼吸を整える。
一度、原田も噛まれた。
噛まれながらも、赤蟻の顔に射撃を浴びせ続け、根負けした相手が死んだ。それだけだ。
損害は更に増えた。
しかし、海岸は敵の死骸で、真っ赤に染まっていた。
後で聞いたところによると。
赤蟻の死骸は、千五百を数えたという。
想定よりも五割も多かった。
これは、当初集まっていた赤蟻に、更に後から敵が合流してきたため、らしい。いずれにしても、EDFに入ってから、本部の目算は当てにならないと知った。だから、驚きもしないし、怒ることもなかった。
砂浜に、座り込む。
ナナコは側で、立ち尽くしている。じっと見つめている先にあるのは、既にものいわぬ亡骸になった赤蟻の頭部だ。
頭部だけで、人間よりも、ずっと大きい。
おぞましい。
「おーい、お前らー。 無事か-?」
涼川少佐が来たので、体制を整えて、敬礼。
涼川少佐も、戦闘の最中に噛まれていた。今日はこの時のためにアサルトを持ってきていたと、後で笑いながら話していた。勿論、噛まれながらもアサルトで打ち抜いて、赤蟻を倒したのだ。
「無事です」
「そっか。 黒沢とジョンソンも、病院で手当を続けてる。 まあ、次の戦いには間に合うだろう」
「……」
煉獄と言うべきなのだろうか。
此処はこの世と地獄の中間。
無数の赤い死骸が、それを物語っているように思えてならなかった。
はじめ特務少佐は、向こうでストームリーダーと話している。
今日、敵の群れの中で、ずっとハンマーを振るっていた特務少佐は。相当数の赤蟻の足止めをして、味方が敵を倒す隙を作ってくれた。それだけで、どれだけの味方が助かったか分からない。
涼川少佐が、他の皆の所に行く。
筅が乗っていたベガルタも、傷だらけ。せっかく無傷の状態で戻ってきたけれど、メンテがまた必要になるだろう。
ネグリングも一カ所噛まれていた。イプシロンも、何カ所か。
総力戦だった。
入り乱れての、悲惨な戦いだったのだ。
バイザーにアナウンスが来る。
味方の戦死者は、最終的に二十名を超えたという。レンジャーチームが主だが、フェンサーチームにもウィングダイバーチームにも死者は出ていた。死者はいずれも酷い有様で、とても見てはいられない肉塊にされてしまっていた。
敵もバラバラだけれど。
あまりにも、悲惨すぎると、原田は思う。
スカウトが来ている。
死体の回収部隊も。
回収しているのは、赤蟻の死体だ。死体の表皮などから、アーマーの材料を作るのである。特に赤蟻の死骸は、強力なアーマーの材料になるとかで、回収部隊は大喜びで拾い集めていく。
だから彼らは、スカベンジャーなどと言われて、味方からも嫌われているそうだ。
ストームリーダーが来る。
「全員、ヒドラに乗り込め。 東京支部に帰還する」
「イエッサ!」
「今回は酷い戦いだったが、皆心身をしっかり休めておけ」
ストームリーダーは卓越した身体能力を発揮して、乱戦の間も一度も噛まれなかったようだ。この辺りは、凄まじいとしか言いようが無い。
黙々と、ヒドラに乗り込む。
ふと気付く。
三川が、青ざめたまま立ち尽くしていた。
いきなりこんなハードな戦場に投入されてしまったのだ。無理もない。何か声を掛けようかと思ったが、本人から身を翻して、ヒドラに乗り込んでいった。
傷ついたビークルを格納するヒドラ。
また、これに乗ると、戦わなければならない。
煉獄への船。
足が竦むのが分かった。
それでも、どうにか気力を振り絞って、ヒドラに乗り込む。先に、病院から搬送されてきていた、黒沢とジョンソン中佐も、乗り込んでいた。
ジョンソン中佐は、既に歩ける様子だ。
黒沢はベッドで、手当を無言で受けている。包帯でくるまれている有様が、少しばかり痛々しい。
「原田一等兵、お前も診察を受けろ」
「イエッサ」
ストームリーダーに言われて、診察を受ける。
医師は、軽く幾つかの質問をした後、言った。
「赤蟻との戦いの後、PTSDを煩う兵士は少なくありませんでな。 もしも何か過剰な恐怖を感じたりするようであれば、すぐに言ってください。 戦場で戦っている際にPTSDが発症すると、周りに迷惑を掛けることになります」
「わかりました」
「厳しい戦いが続きますし、何しろストームチームはいつもつらい戦いの最中にいると聞いています。 無理はせずに、すぐに不安があったら言うようにしてください」
頷くと、診察を終える。
後は何もする気力が沸かなかった。
ヒドラの中は広く、ぼんやりと座っていても、充分に空きがある。隣に座ったナナコが、黙々とレーションを口にしていた。特に何か用事があるわけでもなく、空いているから座った、という感じだ。
レーションを差し出される。
チョコレートと栄養剤がミックスされたタイプだ。食べ過ぎないように、意図的にまずくされているタイプである。
受け取ると、口に入れる。
「原田一等兵は、疲れているように見受けられますが」
「ああ、疲れているよ。 食事が終わったら、カプセルに入るつもりだ」
「……」
小首をかしげるナナコ。
戦闘タイプと、そうで無いクローンの差だろう。此奴だって散々怖い目にあってきただろうに。
不思議なもので、此奴は戦闘に対する恐怖はまるで無いようなのに。孤独は怖くて仕方が無いようなのが面白い。日高軍曹に捨てられでもしたら、多分普通の子供みたいにわんわん泣くだろう。
席を立つと、男子用のカプセルルームに。
既にカプセルを利用している影もあった。多分矢島だろう。矢島は今日、今までの戦いの中で、一番活躍していた。ガリア砲はきちんと当てていたし、ガトリングだって敵の制圧に役立っていた。
自分は、役立てているのだろうか。
カプセルに入ると、ストレス解消モードにセット。
このモードだと、多少はストレスを和らげることが出来る。リラクゼーション用の、様々な工夫をしてくれるからだ。
ぼんやりしている内に眠っていて。
そして、起こされた。
東京支部に、ヒドラが到着したのだ。
「半日間、待機とする。 解散」
ストームリーダーも疲れているのだろう。解散をすると、はじめ特務少佐と一緒に、寮に直行したようだった。
他の面々も、それぞれ休むべく、寮へと向かう。黒沢とジョンソン中佐は、軍病院に搬送されていった。
ぼんやりと立ち尽くしている原田は。
何だか皆に取り残されているような気がして。今更ながら、恐怖が足下から這い上がってくるのを、感じていた。
一人、皆と違う動きをしている者がいた。
矢島だ。
「矢島、お前また……」
「ああ、訓練に行く。 少しずつ、動かせるようになってきたんだ。 それで、はじめ特務少佐が、どれだけピーキーな装備を使いこなせていたのか、よく分かってきた。 使いこなせれば、はじめ特務少佐みたいに戦えるとも思う。 だから、訓練する」
「俺……は」
訛りまみれの言葉で言う矢島だけれど。
どうしてだろう。此処まで強く意思をもてるのは、本当に羨ましい。此方はいつ死ぬかも分からない戦況に怯えきって、立ち尽くすばかりなのに。
「俺も、少し訓練する」
「そうかあ。 心強いなあ」
「……俺なんか足手まといだろ」
「そんな事無いって。 誤射だってしないし、敵にもきちんと当ててる。 動きだって、最初にあったときより、ずっといい」
本気なのかは分からないけれど。
矢島は、そんな事をいった。