地球防衛軍4二次創作 2025絶滅螺旋   作:dwwyakata@2024

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ストームチームに配属された新兵達は、負傷したりしつつもどうにか混戦の中を生きています。

しかし彼等には、あまりにもストーム1達や。その同僚として戦い続けた精鋭は遠い存在。

苦悩は募ります。



3、盆暗の苦悩

完全に足下を見られた感じだったな。

 

そう、帰路のヒドラで、弟はぼやいていた。

 

結局、四つの敵陣攻略だけではすまなかった。マザーシップの撃沈に失敗したのだから、もう少し働いて欲しい。

 

そう太った中将は恥ずかしげもなくいい、ストームをこき使ったのだ。

 

幸い、弾丸だけは補充してくれたが。

 

結局四日間で、七つの戦場を転戦。決して楽でもない戦いを続け、負傷も重ねながら、どうにか東南アジア支部を離れる事だけは出来たのだった。

 

原田がげっそりした感じで、座りこんで床を見つめている。

 

ナナコが目の前で黒蟻の酸を盛大に浴びた。

 

アーマーのおかげで無事だったが。自分の張った弾幕が薄かったからだと、真面目に悩んでいるらしい。

 

ナナコは気にもしていないのに。難儀な話だ。

 

朗報もある。

 

東京支部から、三川が退院したと連絡を受けている。

 

ストームチームへの復帰の意思も、見せているそうだ。これで、ウィングダイバーを二人、同時に動かせる。ツーマンセルになれば、それだけ出来る事も増えるのだ。

 

整備班の活躍で、ベガルタファイアナイトは復旧。以降の戦場では動かせる。

 

しかし東京支部に戻ったら、早速大規模任務の話がある。

 

せっかく治ったベガルタだが。

 

下手をすると、すぐに壊してしまうことになるかも知れない。

 

ヒドラで数時間移動している間、カプセルで眠れることだけが救いである。幸いと言うべきか、何というか。

 

私のバイタルはかなり改善してきていて、少しずつ動く量を増やしても良いと、医師にも言われていた。

 

東京支部に到着。

 

早速ブリーフィングに出る事になる。新人達は、その場で解散。半日だけ、休暇を与えると、私は弟と一緒に、本部のビルに出向いた。

 

 

 

ストームリーダーとはじめ特務少佐が、ジョンソン中佐と一緒に本部に出向いていく。アジア支部で随分武勲を重ねたのに。ストームリーダーは准将待遇でもあるのに。まるで使い走りだ。

 

忸怩たる思いはある。

 

原田啓介は、情けないと思った。

 

今日の、朝の戦いだってそうだ。ナナコが長距離支援をしていて、自分はその護衛。戦闘特化の強化クローンであるナナコが強いのは当たり前。小さな女の子にしか見えなくても、大柄で長身な自分より、よほど多くの敵を撃破してきている。だから、その動きを、最大限に生かせるようにしないといけないのに。

 

いざ敵に接近された際、反応が遅れて。

 

結果、ナナコに、アーマーがなければ即死するような打撃を通してしまった。

 

本当に、後悔してもしきれない失態だった。

 

途中離脱して、戻ってきても。皆が地位が上がっていて、自分は何も変わっていなくて。今回の戦いの結果、軍曹になるとは辞令を受けているけれど。他のみんなは、きっと自分より早く、少尉に昇進する。

 

地位について、それほど執着はない。

 

執着があるのではなくて、同期において行かれているようで、不安なのだ。

 

「原田君。 せっかくだから、何か食べに行きましょうか」

 

「ん、兵司か」

 

顔を上げると、黒沢だった。

 

立ち上がり、ヒドラを出る。

 

にっこにこの日高軍曹がいる。年下の新兵達に世話をするのが嬉しいらしく、このアイドル裸足の容姿を持つ先輩は、何かと世話を焼いてくれる。筅とナナコもいるので、結局皆で行動だ。

 

矢島と池口がいない。

 

話によると、池口はネグリングを任されてから、必死に勉強しているという。ネグリングに名前まで付けてかわいがっているらしく、何だか変なスイッチでも入ったのだろう。今日も勉強で、自室に閉じこもっているのだとか。

 

矢島はトレーニングルームに直行。

 

難易度インフェルノ仕様で、フェンサースーツの訓練を必死にしているらしい。まあ、分からないでもない。

 

二人は仕方が無い。いるメンバーだけで、食事に行く。

 

東京支部の中には、食堂が幾つかある。

 

何処も戦闘を想定しているため、相当量の食事が出るのが特徴だ。確か食堂の幾つかは、一般人にも開放しているが。

 

今の戦時下である。一般人は、基地には近寄らない。

 

避難してきた人達が短期間基地にいたが、彼らもシェルターにもう移った。

 

日高軍曹はおごってくれると言ったけれど、流石にそれは断る。少尉になってからおごってほしいというと、なるほどと頷かれた。

 

日高軍曹はビークルに強い適正がある。

 

あまりレンジャーとしての腕が良い方では無いけれど。

 

それでも、原田よりはマシだ。誤射はしないし、いざというときに、肝が据わっているからだ。

 

皆、注文を終えて、席に着く。

 

筅は見かけ通り大変に小食。

 

一方ナナコは、育ち盛りだからか、カレーを大盛りで頼んでいた。軍関係の食堂だから、大盛りで頼むと、もの凄い量が出てくる。しかし、平然と食べ始めている。ここしばらく、レーションしか食べていなかったからか。残しそうもない勢いで、おなかに消えていく。

 

「はあ、よく食べるもんだな」

 

「原田君、何だか今日は元気がなかったね。 最後の失敗のこと?」

 

日高軍曹が、ナナコと同じくらい食べながら、不意に聞いてくる。

 

あまりにも直球だったので、むせかけた。ちなみに原田は、うどんのついた定食にしている。

 

「ナナコちゃんは気にもしていないよ。 誰だって失敗くらいするんだし、気にしない方がいいよ」

 

「でも、一歩間違えば、死んでいました」

 

「それが戦場だよ。 ストームリーダーだって、誤射を時々してるの知ってる?」

 

だけれども。

 

桁外れに強いストームリーダーやはじめ特務少佐は、失敗をしてもそれ以上の成果を上げている。

 

自分は、どうなのだろう。

 

確かに、ストームチームに所属してから、充分な戦果を上げている。敵を倒した数も、既に五十を超えた。

 

だがそれは、前線で大暴れしている涼川少佐や、ストームリーダー、はじめ特務少佐があっての成果なのだ。

 

いたたまれなくなって、席を立とうとするけれど。

 

黒沢がぴしゃりと言った。

 

「見たところ、君は誤射も少ないし、失敗だってそう多くもない。 もう少し、自信を持つべきではないのですか」

 

「そうはいうけどね……」

 

「まず、この食事はきちんと食べよう。 物資だって、いつまで潤沢にあるか分からないんだし」

 

笑顔のまま、そんなシビアなことを、日高軍曹はいった。

 

いつも太陽みたいに笑っていても。

 

この人も、現役で戦っている軍人なんだって、こういうときに思い知らされる。

 

皆で食事を終えた後、ふらりと原田はシミュレーションルームへ向かった。

 

体を鍛えるよりも。

 

度胸を付けたかったのである。

 

矢島が丁度出てくる所だったので、黙礼する。矢島は大柄で、喋るときに言葉になまりが出る。

 

原田と同じく、一等兵の矢島は。同じタイミングで、軍曹に昇進することが、決まっていた。

 

順当なところだろう。

 

「原田さんも、丁度訓練かぁ」

 

「ああ。 どうにか、度胸を付けたくて」

 

「お互い頑張ろう」

 

独自のなまりが、矢島の口調には混じっている。

 

多分出身地の問題なのだろう。

 

訓練結果を見せてもらう。難易度インフェルノの訓練に十三回挑み、一度もクリアは出来ていない。

 

難易度インフェルノは、大戦末期。味方も殆どいない状態で、敵の大群と戦わざるを得なかったEDFの戦場を再現したものだ。ストームリーダーやはじめ特務少佐は軽々こなしているが、これは当然だろう。

 

あの人達が前線で、敵の大半を引き受けているから、皆生きているのだ。

 

そうでなければ、とっくにストームの新人達は、半分以上が死んでいるはずだ。

 

この四日だけでも、散々に戦った。

 

「難易度を落として見たら?」

 

「いいや、それは出来ない」

 

「どうしてだ」

 

「はじめ特務少佐が、毎回戦ってる敵は、こんなもんじゃねえ。 少しでも手助けできるようになるには、此奴らくらいはどうにかしねえとなんねえからな」

 

少し休んだ後、また同じ条件でシミュレーションに挑むという。

 

悩んだ後、原田も。

 

インフェルノに難易度を設定し、シミュレーションに入る。

 

そうして、思い知らされる。

 

あの人達が生き延びた戦場が、どれほどの地獄だったのかを。

 

六セットこなして、生き残ることは一度も出来なかった。敵の動きは俊敏で、此方の隙を絶対に見逃さない。

 

あっという間に取り囲まれ、袋だたきにされるなんて当たり前。

 

何処に隠れても、確実に見つけ出してきて、酸をうち込んでくる。

 

隠れる場所なんて、そもそもない。

 

味方の戦力は常に少数。明らかに、子供としか思えない戦士もいる。

 

それに対して、敵は大地を埋め尽くすような数。その数をフルに生かして、情けも容赦もなく、襲いかかってくるのだ。

 

シミュレーションから出ると、へとへとになっていた。

 

また矢島がシミュレーションをはじめている。

 

宿舎に戻ることにした原田は、精が出るなと思った。これ以上やったら、心が折れるような気がした。

 

 

 

一晩眠って。

 

翌朝、集合すると。三上が戻ってきていた。

 

まだウィングダイバーのスーツは身につけていないが、PTSDを克服できたのだろう。ストームリーダーが、わかりきっていることを、淡々と言った。

 

「これより、三川一等兵が戦線復帰する」

 

「ご迷惑を掛けました。 これからまた、戦場で皆を援護させていただきます」

 

敬礼する三川は、多少すっきりした様子だった。

 

きっちりPTSDを克服して戻ってきたのである。誰が彼女を責めるだろうか。原田だって、負傷で中途離脱していた身だ。三川の苦労は多少なりと分かる。

 

問題は、すぐに任務が入っている、という事である。

 

ヒドラに移動して、その途中。バイザーを付けて、任務について説明を受ける。恐ろしい任務だと言う事が、すぐにわかった。

 

「現在、静岡の戦線を援護する目的か、神奈川の鎌倉近辺に、途方もない数の赤蟻が集結している。 これを誘い込み、撃破する」

 

空軍、砲兵隊の支援があるが。

 

それでも、敵の数が千を超えると聞いて、戦慄した。

 

ただでさえ頑強な赤蟻が、千以上。

 

前大戦でも赤い津波と怖れられた赤蟻の群れは。その圧倒的な頑強さを武器にして、面を瞬く間に飲み込んでいったと聞いている。

 

何度も赤蟻とは戦ったが。

 

アサルトの弾丸では、中々倒れてくれない。スティングレイロケットランチャーの直撃を受けても、耐え抜く。

 

文字通り、赤い戦車のような怪物だ。

 

ストームチームに話が回ってくるわけである。

 

今回は、本部もかなり気合いを入れている。レンジャーチーム4つ、フェンサーチーム2つが戦場にて既に待機。ウィングダイバーチームも一つが、支援に廻ってくれるという事だ。

 

現地に向かう。

 

拡がっている砂浜に、既に味方部隊が展開していた。一部は狙撃兵として、少し離れた場所にいる。

 

フェンサーチームの中には、矢島の見知った人間もいる様子だ。

 

ヒドラが離陸する。

 

代わりに、上空に何機かのネレイドが姿を見せる。上空からも、赤蟻を叩き潰すのが目的だろう。

 

「現状の敵の配置は」

 

「一部が既に此方に向かっているようです」

 

ストームリーダーが、スカウトと話をしている。

 

いずれにしても、今の段階では、原田に出来る事はない。渡されているアサルトの状態を確認。

 

幸い、今回はベガルタファイアナイトの修繕が間に合っている。

 

砂浜には、同じように修理が間に合ったネグリングとイプシロンもいて、心強い。最悪の状況に備えて、数台のキャリバンも待機していた。味方のグレイプも、潮風に吹かれながら、海岸線に停車している。

 

ここのところ、東南アジアでの劣悪な環境での戦闘が続いて、辟易していたが。

 

今回、ストームチームは総力を展開することに成功している。はじめ特務少佐も、そろそろ前線に戻れるはずだし、心強い。

 

「間もなく接敵する!」

 

ストームリーダーが、声を張り上げた。

 

三川は今回、後方での支援専門で、ここに来ている。渡されている武器も、長距離狙撃用のものだ。

 

まだ技量が足りなくて、長距離から複数の敵をロックオンし、一気に排除できるミラージュは渡されていないらしい。味方への誤射だけはするなと、念押しされてはいた。

 

「来たぞ!」

 

砂浜に散らばっている戦士達が、そのおぞましい光景に、等しく呻いた。

 

赤い。

 

赤い壁が、迫ってくる。

 

必死に引き撃ちしながら、此方へ敵を誘導しているレンジャー9。赤蟻は黒蟻に比べると動きが鈍いが、それでも人間より早い。レンジャー9はEDF支給のジープを用いて引き撃ちをしているが、それでもギリギリだ。

 

「もう少し引きつけろ」

 

「狙撃部隊、構え!」

 

扇状に拡がる、砂浜の部隊。

 

やがて、全ての部隊の射程に入った瞬間。ストームリーダーが、叫んだ。

 

「攻撃開始!」

 

敵の前衛部隊に、圧倒的な数の弾が叩き付けられる。

 

ネグリングのミサイルが連射され、イプシロンも光弾を撃ち出す。グレイプの速射砲が唸る。

 

レンジャー部隊も、射撃を開始。

 

スティングレイロケットランチャーも、エメロードミサイルも、次々射出される中。原田も、腰だめして、アサルトライフルから弾丸をうち込む。

 

フェンサー部隊も攻撃を開始。最初は高高度強襲ミサイルを放ったが、すぐにガリア砲に切り替える。

 

火力の乱打を浴びながらも、赤蟻は突き進んでくる。

 

見る間に、前線が此方に近づいてくる様子は、恐怖さえ感じた。

 

囮のレンジャー9が、必死に味方部隊の中に逃げ込む。涼川少佐が前に出ると、スタンピートをぶっ放す。

 

吹っ飛んだ赤蟻の群れだが。

 

中空でもがく様にして、体勢を立て直そうとしている。

 

耐え抜いた個体が、多数いるのだ。

 

戦慄するほどの堅さ。

 

それでも、火力の網に捕らえられてしまうと、流石の赤蟻も無敵では無い。次々に爆裂し始める。

 

敵の前衛らしい数十匹は、間もなく片付いた。

 

呼吸を整えながら、マガジンを交換する。

 

レンジャー部隊の中には、マガジンを交換することも忘れて、青ざめているだけの者も、少なくなかった。

 

「こちら谷山」

 

「どうした」

 

「敵の第二波接近。 というよりも、集結していた赤蟻が全て同時に動き出した。 それも、包囲する動きを見せている」

 

「……接敵までに、可能な限り削ってくれ」

 

谷山さんが、イエッサとだけ応えると、通信を切る。

 

ストームリーダーが、声を張り上げた。

 

「スナイパーチーム、すぐに他のレンジャー部隊と合流! 敵は包囲を敷き始めている、そのままだと孤立して全滅するぞ」

 

「分かりました。 すぐに其方に向かいます」

 

「おいおい、まずいんじゃないのか」

 

「ヒドラに来て貰って、撤退する方が……」

 

味方のレンジャー達が、動揺しはじめているのが分かった。

 

唇を噛む。

 

原田だって怖い。

 

だが、分かったことがある。誰かがやらなければ、別の誰かが殺されるのだ。

 

確かに東南アジアで、悲惨な戦いを連続してやらされた。現地のレンジャーチームが、壊滅寸前になる所を、二度救助もした。

 

それで分かったことがある。

 

誰も、此処では助けてなんかくれない。誰かが踏みとどまらないと、みんな殺されるのだ。

 

「お、おい……!」

 

誰かが、恐怖の声を上げる。

 

山から、真っ赤な絨毯が迫ってくるのだ。

 

それだけではない。

 

海からも来る。

 

巨大生物は、海の中を歩くことを苦にしない。それは分かっていても、流石におぞましい。

 

「海の方は少数だな。 私が引き受ける」

 

「無理はするな」

 

「分かっている」

 

進み出たのは、はじめ特務少佐だ。

 

海から来る赤蟻の数は、ざっと五十。山から来る奴は、軽く見積もっても数百。更に包囲網が、狭まってくる。

 

「谷山、敵主力に砲撃を。 此方は、包囲網を一角ずつ破る。 集中攻撃を開始するぞ」

 

「イ、イエッサ!」

 

射撃が、開始される。

 

迫り来る東の丘の赤蟻。逃げ来るスナイパーチームを狙っている。その鼻先に、叩き込まれる弾丸の嵐。

 

流石に、凄まじい集弾。先頭集団が消し飛ぶ。だが、赤蟻の頑強さは凄まじい。EDFの武器が進歩しても、変わる事はない。

 

バック。

 

たまらず、レンジャーチームの誰かが叫ぶ。

 

しかし、ストームリーダーは、即座にそれをやめさせた。

 

「陣形を崩した人間から死ぬぞ! 余計な事を考えず、撃ち続けろ!」

 

ネグリングが、早くも弾切れする。

 

飛び出してきた池口が、支援要請。上空にいるヒドラが、弾丸のパックを落としてくる。弾丸そのものが入っているわけではない。ミサイルそのものは、基地から転送してくる。重要部分の消耗品パーツを変えることで、誤射を避けるのだ。

 

その間も、黙々とイプシロンは射撃を続行。

 

見る間に、前衛が近づいてくる。

 

赤蟻の死骸が吹っ飛んで、此方まで飛んできた。海岸線で、荒れ狂っているはじめ特務少佐。五十体の赤蟻を相手に、一歩も引かない。

 

スナイパーチームの一人が噛みつかれた。

 

悲鳴を上げ、振り回されるスナイパー。冷静にライサンダーの引き金を引いたストームリーダーが、噛みついていた赤蟻を潰す。

 

山の方に、クラスター弾の爆撃。

 

多くの赤蟻が消し飛ぶが、とてもではないが全ては倒しきれない。吹っ飛んだ赤蟻の中には、アーマーに致命打が行かなかったらしく、平然と南下してくる者も珍しくは無い。

 

「隊列を整えろ! 此処からは乱打戦になる! アーマーはすぐには破れん! 一度や二度噛まれた程度で諦めるな!」

 

ストームリーダーが叫ぶ。

 

至近まで迫られたが、それでもネグリングの補給が間に合った。連射されるミサイルが、迫る赤蟻たちに炸裂。

 

銃口を揃えて、敵を迎え撃つ味方チーム。

 

平然と、迫り来る赤い絨毯。

 

上空のネレイドが、猛射を浴びせるが、数が多すぎる。とてもではないが、処理し切れない。

 

ついに、前線が接触した。

 

盾を構えて防ぎに掛かるフェンサーチームだが、圧力が違いすぎる。押し返せたのは最初だけ。二回目からは、強烈なチャージに、明らかに吹っ飛ばされそうになる者が多数出た。

 

ガリア砲をうち込んでいる矢島。

 

数匹を今までに打ち倒しているが、とてもではないが、敵の勢いは止められない。

 

噛まれる味方が、出始める。

 

見事な機動で、襲いかかってくる赤蟻を倒しながら、敵を打ち抜いていくストームリーダー。笑いながら、敵の上にグレネードの雨を降らせ続ける涼川がいなかったら、もうとっくに、味方は全滅していただろう。

 

上空に浮き上がったエミリー少佐が、閃光を放つグレネードを投擲。他のウイングダイバーも、必死にジャンプを繰り返しながら、敵に射撃を浴びせている。三川も、それに習っていた。

 

爆裂した赤蟻が、赤い花火と化す。

 

ウィングダイバーにも支給されている爆発物。確か、エネルギーをそのまま固めて、投擲する武器だ。

 

原田は、余計な事は考えない。

 

ひたすら連射連射。マガジンを取り替える。至近、赤蟻。噛みつこうとする顔面に、連射を浴びせる。乱戦の中を猪突してきたらしく、それで限界を迎えたらしい赤蟻は、悲鳴を上げながら頭を消し飛ばされ、その場に崩れ伏す。

 

呼吸を整える。

 

怖い。怖くない筈がない。

 

此奴らに食い殺された民間人は、どれだけいるか数も知れないのだ。

 

原田は、一応第三世代のクローンだ。だが戦闘目的のクローンでは無い。確か労働を目的として生産され、各家庭に補助として配備された。

 

貧しい家には、原田の様な労働タイプクローンが、多く送られた。彼らはこの疲弊した世界を立て直す目的を背負って、貧しい家々に降り立ったのだ。

 

原田もそう思っていた。

 

だが、貧しい家族は、むしろ原田を、好きなように生きて良いと言った。

 

だから、生活のために。

 

収入がよいEDFを選んだ。

 

今、原田の家族は、シェルターにいる。此処で少しでも赤蟻を殺しておかないと、今度は誰かの家族が回り回って餌にされる。

 

そんな事は、許してはならない。

 

叫びながら、また一匹に、連射を浴びせる。

 

味方のレンジャーに食いついていたそいつは、悲鳴を上げて爆散。地面に叩き付けられた負傷者が、這うようにしてキャリバンに逃げ込もうとするが。背中から、また新しい一匹が、態勢を低くして襲いかかる。

 

踏みつぶされる。

 

踏みつぶしたのは、ベガルタだった。ベガルタは火焔放射で赤蟻を薙ぎ払いつつも、目立つ赤蟻を、踏みつぶしたり、殴ったりもしていた。

 

筅が、こんな激しい戦い方をするとは、思わなかった。

 

同じクローンでも、戦闘タイプと労働タイプの差だろうか。

 

味方の爆撃機が来て、敵の中に爆弾を落としていく。それで、ようやく敵の勢いが、削られはじめた。

 

それでも、一時間以上、戦闘は続いた。

 

呼吸を整え、どうにか生き延びたことを、原田は悟る。

 

辺りは阿鼻叫喚。キャリバンも、赤蟻に噛みつかれて、装甲に痛々しい傷を残している機体が、幾つもあった。

 

すぐに、負傷者を後送しはじめる。

 

負傷者の中には、黒沢と、ジョンソンもいた。

 

黒沢は戦闘時、敵の攻撃に対応しきれなくなり、噛みつかれて振り回され、地面に思い切り叩き付けられた。砂浜でなければ、首が折れていたことだろう。

 

ジョンソンは、前衛で味方を救うために奮戦。

 

激しい戦いの末、ついに赤蟻に噛まれ、瞬殺したものの放り上げられ、二十メートル以上を落下。

 

アーマーが限界値に達し、足を折った。

 

今の技術なら、数日で復帰出来るはずだが、それでもキャリバンで後送される。

 

当然、死者も出ていた。

 

ストームチームにはいないが、味方は満身創痍。更に言うと、敵はまだ、幾らか残っている。

 

いや、幾らか、どころでは無い。

 

「此方スカウト! 山が真っ赤に染まるほどの数が、そっちに向かっている! 撤退した方が良いかもしれない!」

 

「谷山、ありったけの空爆と砲撃を敵にうち込め。 此処にいる赤蟻を全て潰せば、かなり味方は有利になる」

 

「本気ですか、リーダー」

 

「本気だ」

 

ストームリーダーは無傷だが、それでも決して戦況は良くない。まだ敵は何割かが健在なのに対し、味方は包囲網さえ喰い破りはしたが、多くの死傷者を出しているのだ。

 

今のうちにアーマーを換えるよう、負傷者達に指示するストームリーダー。

 

はじめ特務少佐は、無言で前に出る。

 

涼川少佐も、ジープに乗り込んだ。

 

最初と同じ要領で、引き撃ちをするつもりだ。だが、最初と敵の物量が違いすぎる。生唾を飲み込んでしまう。

 

さっきだって、あれほどの数が攻めこんできたのだ。

 

新しいキャリバンが来る。

 

先ほどの負傷者達を、運び終えて。傷ついていたものは、もう無理だと判断して、別のに換えたのだ。

 

筅が飛び出すと、セントリーガンを砂浜に敷設しはじめる。

 

先ほど、谷山さんが指示して、砂浜にヒドラから投下させたのだ。無言でセントリーガンを敷設していく筅。

 

遠くで、爆発が始まっている。

 

交戦しているのだ。

 

セントリーガンも、あるだけマシという状況。それでも、戦力が減っている今、ないよりはある方がずっといい。

 

「き、来たぞ……」

 

恐怖に声を上擦らせる味方のレンジャー達。

 

先ほどではないが、山を赤く染めながら、第三波の赤蟻が来る。ジープで下がりながら、涼川少佐がスタンピートを乱射している様子が分かる。それで相当数が吹っ飛ばされているが、なお足りない。

 

上空に、ミッドナイトとアルテミスが来る。

 

空爆していくが。

 

それでも、赤蟻の大半は無事だ。

 

砲兵隊が、クラスター弾を雨霰と降らせはじめるが。

 

なおも赤蟻は、多数の勢力を保ったまま、此方へと来る。ネレイドが攻撃を開始。機関砲が容赦なく赤蟻を撃ちすくめていくが。

 

敵の数は、まだまだ圧倒的多数。

 

ベガルタに再度乗った筅が前に出て、榴弾砲を連射しはじめる。

 

全て撃ち尽くす勢いだ。

 

矢島をはじめとして、フェンサー部隊は全員が高高度強襲ミサイルを発射。レンジャーの小隊も、各自エメロードとスティングレイをうち込みはじめる。

 

敵が次々砕けるのが分かるが。

 

それでも、敵は圧倒的大多数だ。

 

はじめ特務少佐が飛び出す。

 

涼川少佐が、スタンピートをぶっ放しながら、ジープで味方の陣地に飛び込んできた。セントリーガンが稼働開始。ネグリングはとっくに、敵にミサイルの雨を降らせ続けている。イプシロンも、敵を一射確殺している。

 

それでも、敵は止まらない。

 

赤蟻の群れが、弾丸の雨霰を気にもせず、突っ込んできた。

 

再び、阿鼻叫喚が、辺りに巻き起こった。

 

 

 

戦闘は、夕方近くまで続いた。

 

呼吸を整える。

 

一度、原田も噛まれた。

 

噛まれながらも、赤蟻の顔に射撃を浴びせ続け、根負けした相手が死んだ。それだけだ。

 

損害は更に増えた。

 

しかし、海岸は敵の死骸で、真っ赤に染まっていた。

 

後で聞いたところによると。

 

赤蟻の死骸は、千五百を数えたという。

 

想定よりも五割も多かった。

 

これは、当初集まっていた赤蟻に、更に後から敵が合流してきたため、らしい。いずれにしても、EDFに入ってから、本部の目算は当てにならないと知った。だから、驚きもしないし、怒ることもなかった。

 

砂浜に、座り込む。

 

ナナコは側で、立ち尽くしている。じっと見つめている先にあるのは、既にものいわぬ亡骸になった赤蟻の頭部だ。

 

頭部だけで、人間よりも、ずっと大きい。

 

おぞましい。

 

「おーい、お前らー。 無事か-?」

 

涼川少佐が来たので、体制を整えて、敬礼。

 

涼川少佐も、戦闘の最中に噛まれていた。今日はこの時のためにアサルトを持ってきていたと、後で笑いながら話していた。勿論、噛まれながらもアサルトで打ち抜いて、赤蟻を倒したのだ。

 

「無事です」

 

「そっか。 黒沢とジョンソンも、病院で手当を続けてる。 まあ、次の戦いには間に合うだろう」

 

「……」

 

煉獄と言うべきなのだろうか。

 

此処はこの世と地獄の中間。

 

無数の赤い死骸が、それを物語っているように思えてならなかった。

 

はじめ特務少佐は、向こうでストームリーダーと話している。

 

今日、敵の群れの中で、ずっとハンマーを振るっていた特務少佐は。相当数の赤蟻の足止めをして、味方が敵を倒す隙を作ってくれた。それだけで、どれだけの味方が助かったか分からない。

 

涼川少佐が、他の皆の所に行く。

 

筅が乗っていたベガルタも、傷だらけ。せっかく無傷の状態で戻ってきたけれど、メンテがまた必要になるだろう。

 

ネグリングも一カ所噛まれていた。イプシロンも、何カ所か。

 

総力戦だった。

 

入り乱れての、悲惨な戦いだったのだ。

 

バイザーにアナウンスが来る。

 

味方の戦死者は、最終的に二十名を超えたという。レンジャーチームが主だが、フェンサーチームにもウィングダイバーチームにも死者は出ていた。死者はいずれも酷い有様で、とても見てはいられない肉塊にされてしまっていた。

 

敵もバラバラだけれど。

 

あまりにも、悲惨すぎると、原田は思う。

 

スカウトが来ている。

 

死体の回収部隊も。

 

回収しているのは、赤蟻の死体だ。死体の表皮などから、アーマーの材料を作るのである。特に赤蟻の死骸は、強力なアーマーの材料になるとかで、回収部隊は大喜びで拾い集めていく。

 

だから彼らは、スカベンジャーなどと言われて、味方からも嫌われているそうだ。

 

ストームリーダーが来る。

 

「全員、ヒドラに乗り込め。 東京支部に帰還する」

 

「イエッサ!」

 

「今回は酷い戦いだったが、皆心身をしっかり休めておけ」

 

ストームリーダーは卓越した身体能力を発揮して、乱戦の間も一度も噛まれなかったようだ。この辺りは、凄まじいとしか言いようが無い。

 

黙々と、ヒドラに乗り込む。

 

ふと気付く。

 

三川が、青ざめたまま立ち尽くしていた。

 

いきなりこんなハードな戦場に投入されてしまったのだ。無理もない。何か声を掛けようかと思ったが、本人から身を翻して、ヒドラに乗り込んでいった。

 

傷ついたビークルを格納するヒドラ。

 

また、これに乗ると、戦わなければならない。

 

煉獄への船。

 

足が竦むのが分かった。

 

それでも、どうにか気力を振り絞って、ヒドラに乗り込む。先に、病院から搬送されてきていた、黒沢とジョンソン中佐も、乗り込んでいた。

 

ジョンソン中佐は、既に歩ける様子だ。

 

黒沢はベッドで、手当を無言で受けている。包帯でくるまれている有様が、少しばかり痛々しい。

 

「原田一等兵、お前も診察を受けろ」

 

「イエッサ」

 

ストームリーダーに言われて、診察を受ける。

 

医師は、軽く幾つかの質問をした後、言った。

 

「赤蟻との戦いの後、PTSDを煩う兵士は少なくありませんでな。 もしも何か過剰な恐怖を感じたりするようであれば、すぐに言ってください。 戦場で戦っている際にPTSDが発症すると、周りに迷惑を掛けることになります」

 

「わかりました」

 

「厳しい戦いが続きますし、何しろストームチームはいつもつらい戦いの最中にいると聞いています。 無理はせずに、すぐに不安があったら言うようにしてください」

 

頷くと、診察を終える。

 

後は何もする気力が沸かなかった。

 

ヒドラの中は広く、ぼんやりと座っていても、充分に空きがある。隣に座ったナナコが、黙々とレーションを口にしていた。特に何か用事があるわけでもなく、空いているから座った、という感じだ。

 

レーションを差し出される。

 

チョコレートと栄養剤がミックスされたタイプだ。食べ過ぎないように、意図的にまずくされているタイプである。

 

受け取ると、口に入れる。

 

「原田一等兵は、疲れているように見受けられますが」

 

「ああ、疲れているよ。 食事が終わったら、カプセルに入るつもりだ」

 

「……」

 

小首をかしげるナナコ。

 

戦闘タイプと、そうで無いクローンの差だろう。此奴だって散々怖い目にあってきただろうに。

 

不思議なもので、此奴は戦闘に対する恐怖はまるで無いようなのに。孤独は怖くて仕方が無いようなのが面白い。日高軍曹に捨てられでもしたら、多分普通の子供みたいにわんわん泣くだろう。

 

席を立つと、男子用のカプセルルームに。

 

既にカプセルを利用している影もあった。多分矢島だろう。矢島は今日、今までの戦いの中で、一番活躍していた。ガリア砲はきちんと当てていたし、ガトリングだって敵の制圧に役立っていた。

 

自分は、役立てているのだろうか。

 

カプセルに入ると、ストレス解消モードにセット。

 

このモードだと、多少はストレスを和らげることが出来る。リラクゼーション用の、様々な工夫をしてくれるからだ。

 

ぼんやりしている内に眠っていて。

 

そして、起こされた。

 

東京支部に、ヒドラが到着したのだ。

 

「半日間、待機とする。 解散」

 

ストームリーダーも疲れているのだろう。解散をすると、はじめ特務少佐と一緒に、寮に直行したようだった。

 

他の面々も、それぞれ休むべく、寮へと向かう。黒沢とジョンソン中佐は、軍病院に搬送されていった。

 

ぼんやりと立ち尽くしている原田は。

 

何だか皆に取り残されているような気がして。今更ながら、恐怖が足下から這い上がってくるのを、感じていた。

 

一人、皆と違う動きをしている者がいた。

 

矢島だ。

 

「矢島、お前また……」

 

「ああ、訓練に行く。 少しずつ、動かせるようになってきたんだ。 それで、はじめ特務少佐が、どれだけピーキーな装備を使いこなせていたのか、よく分かってきた。 使いこなせれば、はじめ特務少佐みたいに戦えるとも思う。 だから、訓練する」

 

「俺……は」

 

訛りまみれの言葉で言う矢島だけれど。

 

どうしてだろう。此処まで強く意思をもてるのは、本当に羨ましい。此方はいつ死ぬかも分からない戦況に怯えきって、立ち尽くすばかりなのに。

 

「俺も、少し訓練する」

 

「そうかあ。 心強いなあ」

 

「……俺なんか足手まといだろ」

 

「そんな事無いって。 誤射だってしないし、敵にもきちんと当ててる。 動きだって、最初にあったときより、ずっといい」

 

本気なのかは分からないけれど。

 

矢島は、そんな事をいった。

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