地球防衛軍4二次創作 2025絶滅螺旋   作:dwwyakata@2024

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もう一人のストーム1の苦境に関係無く、プライマーは戦略行動を続けて来ます。

戦略兵器、マザーシップが動きます。

陽動だろうと何だろうと、対応しなければなりません。いるだけで、戦略的な制約となる存在なのです。


2、雷鳴剥落

極東がにわかに緊張を帯びた。

 

中国にて居座っていたマザーシップの一隻が、不意に極東へ進路を変えたからである。しかも飛行速度を徐々に上げ、翌朝の七時には、九州に上陸する事が確実となっていた。再度の九州上陸である。

 

前回と違う事は、東京にあった巨大生物の最大規模巣穴が無くなったという事。

 

中東、ロシアでの駆逐作戦も成功。大きな被害は出したが、巨大生物の巣穴は、これで東南アジア、中国をあわせての三カ所、オーストラリアを残すのみとなっている。更に言うと、ブルートフォース作戦で敵主力部隊を壊滅させたこともあって、各支部のEDFは俄然戦意を滾らせていた。

 

今回は敵の進行速度が速いため、大規模部隊では迎撃が出来ない。

 

九州支部の精鋭と、ストームチームのみでの迎撃作戦となる。

 

今回九州に来るのは、以前から極東がターゲットとしているナンバー4機ではないが。しかし、叩き落とすことに成功すれば、確実に味方は更に勢いづくだろう。

 

多くの敵をブルートフォース作戦で屠り、残りの敵巣穴は四つという段階まで追い詰めても。マザーシップ一隻で前大戦ではどれだけの被害が出たかという教訓もある。カーキソンも、今回の作戦で、成果を示して欲しいと言うのだった。

 

ヒドラから降りて、戦地を一瞥する。

 

今回は福岡の市街地で、マザーシップを迎撃する。既に巨大生物や飛行ドローンとの戦いで半壊状態であり、復旧の目処も立っていないが。

 

逆に言えば、それだけ何も気にせず戦えるという事も意味しているのだ。

 

ビークル類が勢揃いする。

 

池口のネグリング。香坂夫妻のイプシロン。この二機は、今回も戦闘の主力になる。

 

筅が乗っているベガルタ。そして、今回は頭に包帯を巻いたまま出てきている日高少尉は、後方で待機。

 

参加しているレンジャーチーム6つの支援が目的となる。乗っているのは、勿論キャリバンだ。

 

中心にあるのはグレイプ。

 

安定した性能と機動力で、いざというときに味方を支援しやすい。

 

少し後方に控えているのが、谷山のバゼラートだ。今回はバゼラートで出て貰ったが、これは飛行ドローンとの交戦が予定されるからである。

 

布陣が整ったのが、午前五時。

 

スカウトは、既に敵が九州上陸を果たしたことを、報告してきていた。

 

オンリー通信を、弟が入れてくる。

 

わずかに躊躇ったのは。

 

私が、以前と違っているから、だろうか。

 

違っているつもりはないけれど。人格に影響が出ていないといえば、嘘になるだろう。あれだけ膨大な知識と記憶が、脳に流れ込んだのだ。今でも時々、頭がちりちりと痛む。体の調子は、その一方ですこぶる良い。

 

スコップ一つで、巨大生物とやり合えそうな気さえする。

 

勿論気のせいだから、フェンサースーツで全力でブッ殺すが。

 

「姉貴、どう見る」

 

「牽制だろう」

 

「中国に去った、巨大生物を守るためのか」

 

「それ以外には考えられない。 ブルートフォース作戦で受けた痛手を、フォーリナーは回復できていない。 今此処で、マザーシップという切り札を切ってきたという事は、我々をそれだけ中国に近づけたくない、ということだ」

 

わかりきっていても。

 

兵力の問題で、中国のEDF支部を支援できないのは、どうしようもない。そもそも前回の大戦で、中国はあまりにも被害が大きかった。現在世界最大の無人地帯を複数抱えているのも、それが故だ。

 

中国の支部は規模も小さく、巣穴に対処する戦力も無い。

 

そればかりか、二万五千に達する、東京巣穴からきた巨大生物をどうにも出来ず、指をくわえて見ているだけだった。

 

スカウトが動きを観測はしているが、それもおっかなびっくり、だ。

 

戦力の不足が酷いので、こればかりは仕方が無い。

 

逃げ出さないだけ、よく頑張っていると、私は思う。

 

よくしたもので、北米にも現在、マザーシップが一機。ノルマンディー海岸の側にも、マザーシップが来ている。

 

いずれもEDFの精鋭を引きつけるための行動だ。

 

分かり易すぎるほどだが。

 

手の打ちようが無い所が、憎らしくもある。

 

「間もなく、マザーシップ、視界に入ります!」

 

「む……」

 

思わず、声が漏れる。

 

マザーシップは、いきなりジェノサイド砲を下に伸ばしている。あれは、此方の攻撃を、受けて立つと言う事か。

 

「全レンジャーチーム後退。 長距離射撃をしながら、まずジェノサイド砲を沈黙させる」

 

「イエッサ!」

 

前線に展開している、他のレンジャーチームが後退を開始。

 

マザーシップは進撃速度を露骨に落としたが。しかし、護衛らしい輸送船が、周囲に直衛戦力を配置しはじめる。

 

ヘクトルがざっと二十。

 

巨大生物、それも赤蟻が中心で、その二十倍という所か。

 

現状なら問題が無い戦力だが。

 

マザーシップは、想像を絶する数の飛行ドローンを艦載機として保有している。迂闊に突けば、飛行ドローンが大挙して姿を見せるのは、確実だ。

 

それに、もう一つの不安要素がある。

 

九州の司令長沼は、弟と犬猿の仲なのだ。ましてや准将待遇となっている今は、余計に不快感を募らせていることだろう。

 

援軍は期待出来ないと見て良い。

 

「敵、近づいてきます」

 

「秀爺、イプシロンでジェノサイド砲を集中攻撃。 他のチームは、指定した敵ヘクトルに、攻撃を開始」

 

「イエッサ!」

 

砲門が開かれる。

 

まず最初にジェノサイド砲に、秀爺のイプシロンからの射撃が突き刺さる。それが切っ掛けとなり、全部隊が同時に動き出した。

 

ベガルタが前進。

 

突進してくる赤蟻の群れに、火炎放射器の洗礼を浴びせる。動きが止まったところに、池口のネグリングより発射されたミサイルの雨が降り注ぐ。流石にこれには抗し得ず、赤蟻が吹っ飛ぶ。

 

他の部隊も、火力を集中して、敵の侵攻を防いでいた。敵の勢いが強いところは、谷山のバゼラートが、中空から支援。

 

ヘクトルが、前進を開始。

 

私が無言で、ガリア砲を叩き込み、先頭の一体が大きく体を反らす。そして体勢を立て直そうとした瞬間である。

 

ナナコが放ったカスケードからのミサイルの雨が、ヘクトルの全身に突き刺さっていた。

 

表情が、今までのナナコのものとは違う。

 

凄まじいまでの敵意と敵への殺意にみちみちていた。

 

「一匹駆除。 次行きます」

 

「張り切りすぎるなよ」

 

涼川がスタンピートを構えると、かなり上空に向けて、発射。

 

此方に来る赤蟻の群れの中に、全弾直撃。爆裂する赤蟻に、味方の火力が集中する。黒蟻に比べて足が遅い分、動きさえ止めてしまえば、赤蟻は射撃の的だ。

 

二機目のヘクトルが、来る。

 

手のガトリングが回転しているが、其処へ弟のライサンダーからの射撃が直撃。更に、味方レンジャー部隊の戦車からの砲撃がまともに入り、吹っ飛ぶ。

 

少しずつ、敵を押し返しはじめる。

 

だが、マザーシップが動いていない以上、こんな優位は、すぐにでも消し飛ぶ。

 

そしてその時は。

 

すぐにきた。

 

ジェノサイド砲を、マザーシップが起動したのである。

 

水爆並みの破壊力を持つ、超威力エネルギービームが、視界を漂白する。

 

福岡の街が、消滅していた。

 

瓦礫も、崩れかけた民家も。何もかもが、綺麗に消し飛んでいた。

 

唖然とした味方を、弟が叱咤。

 

「焦るな! まだ射程距離まで大分ある! 少しずつ下がりながら、敵を削れ!」

 

「敵、艦載機射出! 五十、六十、更に増えます!」

 

戦術士官が叫ぶ。

 

弟は、即座に黒沢とナナコに、エメロードに切り替えるよう指示。他のレンジャー部隊にも、対空攻撃をするように指示を飛ばした。

 

徐々に、下がりはじめる味方。

 

その分、敵が前進する。

 

黙々とガリア砲を放って、ヘクトルを一機ずつ血祭りにしていた私だが。

 

其処で、またしても戦況が代わる。

 

輸送船が、シールドベアラーを投下したのである。

 

 

 

マザーシップは一旦侵攻停止。

 

輸送船は悠々と、低空を滞空したまま、此方の出方を見ている。赤蟻とヘクトルは確実に侵攻を続けており、このままだと防衛線が押される一方だ。当然、展開しているレンジャーチームも、後退している。その分、敵が前進を続けていた。

 

どのみち福岡は焼け野原だが。

 

それでも、これ以上敵を好き勝手にさせるのはまずい。戦域を拡大すると、シェルターに対して守りをつけなければならなくなる。

 

現時点で、敵を守っているシールドベアラーは四機。涼川が、面倒くさそうに、私の方を見た。

 

「なあ、はじめ特務少佐。 あんたの雰囲気が違うのって、あたしの気のせいか?」

 

「そんな事は無い。 死の淵から帰ってきたからな」

 

「あんたにとって、三途の川なんぞ見慣れてると思ってたが」

 

香坂夫妻も、とっくの昔に、私が変わった事には気付いている。

 

皆、それなりに勘が鋭くて困る。

 

もっとも、私としては、それくらいのくせ者に囲まれている自覚はあったし、どうでもいい。

 

「私がシールドベアラーを潰してくる。 支援を頼めるか?」

 

「あたしが支援する」

 

涼川が出る。

 

涼川と私のコンビなら、まああの程度の敵に、遅れを取ることは無いだろう。弟が許可を出したので、突撃開始。

 

即座に、敵が反応。

 

同時に、数機のヘクトルが、此方に攻撃を開始。

 

長距離砲持ちがいる。

 

走りながら捌くのは大変だが。残念ながら、今回は味方の戦力が充分だ。

 

ヘクトルの横っ面を張り倒すようにして、バゼラートからのミサイルが直撃。傾いだところに、グレイプRZの速射砲が襲う。更に、新人達も攻撃を集中。見る間に長距離砲ヘクトルは、花火と化した。

 

突撃。

 

ガトリング持ちのヘクトルが反応するが、胸に大穴。

 

秀爺が、支援砲撃をしてくれたのだ。

 

だがこれはちょっと余計だったかも知れない。

 

艦載機の様子を見ながら、マザーシップのジェノサイド砲を叩いてくれていた秀爺だ。イプシロンを此方の支援に廻すと、当然ジェノサイド砲が落ちるまでの時間が余計に掛かる。

 

あれがそのままでいると。

 

事故が起きる可能性が、更に上がるのだ。

 

ジープに乗った涼川が、スタンピートをぶっ放し、グレネードの雨を敵の頭上へと降らせる。

 

爆発が連鎖する中を、突っ切る。

 

一機目のシールドベアラー。

 

私は至近距離からガリア砲を叩き込むと、地面にブースターを吹かしながら着地。旋回しつつブースターをふかして、すぐに次へと向かう。

 

体が軽い。

 

というよりも、今までよりも遙かに、柔軟かつ強靱に動く。

 

私は、知っている。

 

弟がフェンサースーツを着こなしたら、私より遙かに強力なフェンサーになると、噂が為されていたことを。

 

そういう下劣な噂を流している連中について、私は何も言わないが、色々知っている。

 

嵐一郎の姉は、コネだけでストームチームのナンバーツーをしている穀潰しだという噂があることは前々から知っていたし。

 

具体的に誰が噂の発生源かも、抑えている。

 

奴らのような連中は、地球の至る所にいる。

 

勿論EDFにも。

 

体に負担が掛かっていない。スムーズに、無茶な機動が出来る。そうか、弟がフェンサースーツを着ていたら、こんな風に動けるのか。

 

もしそうだとすれば。

 

私は、何だかおかしかった。

 

勿論、私には、弟以上の、新規に与えられた道具類を使いこなしてみせる才能がある。それに関しては、誰にも負けない。

 

だが、動いてみて、よく分かった。

 

弟に近い身体能力を持つという事が、どういう意味を秘めているか。

 

なるほど、これでは噂が流れるはずだ。

 

ストームリーダーが裏切ったら、人類は負けると。今、体を動かしてみて、ようやくその意味がよく分かった。

 

涼川が、ジープから支援砲撃。

 

更にネグリングのミサイルが降ってくる。

 

二機目のシールドベアラーの懐に飛び込む。

 

無数の赤蟻が飛びついてくるが、その寸前にハンマーを地面に叩き付け、吹き飛ばす。衝撃波は容赦なくシールドベアラーも襲い。その足の一本を、へし砕いていた。拉げ、傾ぐシールドベアラー。

 

横を通り抜けながら。

 

ガリア砲を叩き込み、その反動さえ生かして加速。

 

その時には、既に。

 

弟が、ライサンダーによる射撃を加えて。射線が空いた輸送機を一隻、落としていた。爆裂する輸送機の影に隠れるようにして、マザーシップのジェノサイド砲が、巨大な影を地面に落としているが。

 

煙幕をものともしない秀爺の一射が。

 

ついに、ジェノサイド砲を落とす。

 

爆裂する巨砲。

 

だが、これでいつマザーシップが戦闘形態を取っても、おかしくなくなった。

 

以前別の機体と二度交戦して分かったが、マザーシップは戦闘形態を取ることを、躊躇わなくなっている。

 

レンジャーチームはシールドベアラーがなくなった敵に集中攻撃を浴びせつつ、後退。これは弟の指示によるものだろう。

 

私と涼川は、三機目の撃破に急ぐ。

 

途中、珍しく。

 

涼川が、オンリー回線をつないできた。

 

「なあ、特務少佐。 何があったか、話してくれないのか」

 

「今はまだ無理だ。 弟が話しても良いと判断したときには、直接話す事にする」

 

「あたしはこの間中佐に昇進した。 立派な軍幹部だと思うんだがな」

 

「すまんな。 それでも駄目だ」

 

しばらく、無言が続く。

 

三機目の前には、二機のヘクトルが並び、多数の赤蟻。これ以上は進ませないと、強力なスクラムを組んでいる。

 

だが此処で、レンジャーチーム二つが、攻勢に出た。

 

二つとも後退を続けていた部隊だが、果敢にロケットランチャーを乱射しながら、突撃してくる。

 

赤蟻が一瞬だけ躊躇するその真ん中を。

 

私はハンマーを振りかざして躍りかかり、地面に叩き付け。

 

衝撃波の中を、無理矢理涼川が突破。スタンピートを、シールドベアラーに向け。走り抜けながら、グレネードを叩き込んでいた。

 

爆発に背中を押されるようにして、傷だらけのジープが飛び出す。

 

私は噛みついてきた赤蟻の頭を蹴飛ばしながらブースターで加速。旋回しつつ、至近からヘクトルの一機をガリア砲で撃ち抜き。着地しながら、牽制の一射。更にもう一機のヘクトルの、左腕に直撃。

 

動きを一瞬止めた二機に、弟のライサンダーからの射撃と、秀爺からの一撃が、それぞれ突き刺さる。

 

爆裂するヘクトル。

 

陣形を整える敵。

 

「旦那、最後のべアラーはどうする!? あれはちょっとばかり、マザーシップに近すぎるぜ?」

 

「戦果は充分だ。 一旦二人とも下がれ」

 

「イエッサ。 特務少佐、支援よろしく」

 

「任せておけ」

 

ジープは傷だらけ。しかも涼川はかなり分厚く敵に囲まれている。勿論自力で脱出できるだろうが、支援があった方が危険は下がる。

 

戦闘狂の涼川も。

 

それくらいの計算はしながら戦っているのだ。

 

そうでなければ、とっくに戦死していただろう。

 

レンジャーチームにも、止まっているマザーシップから距離を取らせる。戦闘形態を取られたら、この程度の戦力では、瞬く間に大損害が出るからだ。赤蟻の群れの先頭に、ガリア砲を叩き込んで牽制。

 

脱出する涼川を支援しながら、私も下がった。

 

敵は追撃してこない。

 

マザーシップも、損害分の飛行ドローンを補填すると、そのまま停止。大気吸収口も開く様子が無い。

 

持久戦の構えだ。

 

 

 

二時間ほどにらみ合う。

 

マザーシップも、麾下の戦力も動く様子が無い。長沼から連絡が来たのは、その時だった。

 

弟が非常に嫌そうに一瞬だけ眉をひそめたが。

 

しかし相手は少将だ。

 

連絡を受けないわけにはいかない。

 

「此方長沼。 マザーシップの撃退はどうなっている」

 

「現在膠着状態。 ジェノサイド砲は落としたが、敵が動きを見せない。 麾下の戦力も、動きを止めている」

 

「このままだと、其処に橋頭堡を確保されるのではないのかね」

 

「その可能性は低い。 敵はブルートフォース作戦での痛手から立ち直っていない。 この状況で戦線を広げるとは考えにくい」

 

もし、そんな程度の行動に出る相手なら。

 

とっくに撃沈できているだろう。

 

弟の表情が、そう語っていた。

 

「前回のマザーシップ九州侵攻でもそうだったが。 ストームチームの実力も落ちたのではないのかな」

 

さらりと、長沼が挑発的な事をいうが。

 

しかし、周辺にはレンジャーチーム6つのみ。同規模の戦力でも、四つ足の攻略さえ厳しいのに。

 

マザーシップを確実に撃墜なんて、出来るはずがない。

 

「ご冗談を。 敵がいつ動くかわからないので、通信を切ります」

 

「まちたまえ」

 

「まだ何か」

 

「この失態のことは、総司令部に報告しておく」

 

通信が切られた。

 

涼川が噛み煙草を地面に吐き捨てる。

 

「長沼の爺、言いたい放題だな。 いいのか、旦那。 勝手にさせておいて」

 

「感情で動いて、味方の命を危機にさらしては本末転倒だ。 確かに長沼少将については、私も思うところがあるがな」

 

「なんなら、麾下の戦力だけでも潰しとくか?」

 

「駄目だ。 見ろ」

 

私が会話に割って入り、顎でしゃくってみせる。

 

敵は、明らかにマザーシップを中心として布陣している。中央部にはシールドベアラー。あの陣形は、誘っている。

 

戦闘形態を取ったマザーシップの、射程範囲内に、だ。

 

何度かの戦闘で、今回地球に飛来したマザーシップのデータは取れている。これ以上近づくのは危険だ。

 

敵はただ動かない、それだけで。

 

ストームチームを引きつける事に成功している。そればかりか、各地の戦力も、マザーシップの動きを警戒して、動くに動けない。

 

長沼がしびれを切らしたらしい。

 

テンペストが飛来するが、マザーシップのシールドに弾かれる。赤蟻たちがわずかに身じろぎするが、それだけ。

 

敵には損害一つ無い。

 

 

 

結局、十四時間ほど、全く動きがない膠着が続いた。

 

仕方が無いのでアウトレンジ攻撃を続けたが、何しろ相手は赤蟻が中心だ。効果的な駆逐には到らず、そればかりか距離を取って攻撃することと、マザーシップがすぐ近くに控えている事で、レンジャーチームの戦士達は音を上げはじめる始末だった。

 

しかも、である。

 

長距離狙撃戦で、シールドベアラーの隙を突きながら赤蟻を駆逐していたのに。

 

お代わりといわんばかりに、輸送船がぼとぼと赤蟻を落としはじめるのを見て、ついにレンジャー32の隊長が、悲鳴を上げた。

 

「もう無理です!」

 

敵にも、長距離狙撃が何時でも出来るヘクトルがいて、しかもマザーシップの真下に控えているシールドベアラーに守られているのだ。

 

隙を見せれば、すかさず撃ってくる状況。

 

その中で、スナイパーライフルで、硬い赤蟻を少しずつ削っていたのに。輸送船が、減ったなら増やすと言わんばかりの行動に出たのだ。

 

うんざりした様子の涼川が、上空を見上げる。

 

既に空は真っ暗。

 

飛行ドローンはかなりの数が飛んでいるが、マザーシップを守る事には興味があっても、空襲を仕掛けてくる気は無いようだった。

 

レンジャーチームの隊長達全員と、弟が通信をつなぐ。

 

「これは明らかな、敵の恣意的な作戦だ」

 

「一体何が目的なんですか!」

 

ヒステリックな声を上げたのは、レンジャー19のリーダー。

 

前大戦を生き延びた戦士だが、まだ三十手前である。こういう若い戦士がリーダーをやっている場合、十中八九前大戦の生き残りと判断できる。

 

だからこそ、マザーシップの怖さは分かっているのだろう。

 

恐怖心が、精神的なスタミナを、これでもかと抉った結果。歴戦の戦士でも、これだけ我を忘れてしまっているのだ。

 

「マザーシップクラスの兵器の場合、いるだけで此方の戦力を大幅に掣肘できる。 戦略級の影響力を、広域に行使できるのだ」

 

「でも、一体何が目的で」

 

「時間稼ぎだ」

 

弟は断言。

 

この通信は、オープンにしている。多分長沼も聞いているはずだ。

 

弟が地図を出す。

 

今、中国と東南アジア、オーストラリア近辺に、EDFの戦力がかなり集中している。中東、ロシア、極東の敵巣穴攻略、何よりブルートフォース作戦の結果、EDFはかなりフォーリナーに対して優位に立ったからだ。

 

残る敵巣穴と、マザーシップを一息に叩きたい。

 

それがEDFの当面の目的。

 

完遂できれば、勝ちが確定するのだから、当然だろう。

 

しかしマザーシップは、前大戦で見せた圧倒的戦闘力もある。ストームチームとの戦いの記録は残っているが、それだけでも、本部に攻撃を躊躇わせるには充分。あまりにも桁外れの戦闘力を、マザーシップは持っているのだ。

 

それが六隻。

 

兵力分布を見せると、兵士達は納得したようだった。

 

「つまり、フォーリナーは巣穴に迫ろうとする戦力を、マザーシップの配置によって牽制している。 何をもくろんでいるかは分からないが……」

 

それなら、相手の思惑を崩すためにも、強攻すべきでは無いのか。

 

その意見は、当然出た。

 

しかし、弟は首を横に振る。

 

敵が布陣しているのは、正にマザーシップが戦闘形態を取ったとき、その攻撃範囲に含まれる地域なのだ。

 

無理に攻めこめば。

 

ストームチームがいても、全滅する。

 

かといって、各地にいるフォーリナーの戦力は、マザーシップだけでは無い。かなり減衰したとはいえ、各地にはまだまだ有力な敵の兵力が、多数駐屯しているのだ。

 

会議を解散。

 

再びにらみ合いに入る。

 

今頃日高司令は大わらわの筈だ。

 

兵力を集中して、力尽くでマザーシップを落とすか。

 

此処に兵力がいることを承知で、彼方此方の守備隊から兵を割き、中国で敵が守ろうとしている巣穴を叩くか。

 

或いは、単なる時間稼ぎにつきあうか。

 

だが、敵はおそらく、ストームチームの実力を知っている。此処からストームチームが離れた場合、即座に反撃に出てくる可能性が否定出来ない。

 

二交代での休憩を、弟が指示。

 

不満げながらも、皆が休みはじめる。

 

敵は微動だにせず、その場で布陣を崩さない。もはや焼け野原と化した福岡は、奴らの心地よい布団のようだ。

 

急に、敵に動きが見えたのは、夜半過ぎである。

 

異変を察知した私が起きて、スコープから敵陣を覗くと。

 

輸送船が、巨大生物を回収しはじめている。そればかりか、ヘクトルまでも。

 

飛行ドローンはそのまま。

 

撤退するつもりだな。弟が呟くと同時に、マザーシップが多数の浮遊砲台を展開。戦闘形態を維持したまま、輸送船を伴って、上空へ去った。

 

そのまま日本海へと移動する。

 

日高司令から、通信が来る。

 

「日本海に集結させようとしていた艦隊に向け、マザーシップが動き始めた。 何があったのだ」

 

「恐らくは、敵は時間稼ぎだけを目的に、マザーシップを動かしています」

 

「何だと。 すると、やはりあの多数の巨大生物が向かったという、中国の巣穴が目的地か」

 

「恐らくは」

 

現在、その件の巣穴の周囲には、シールドベアラーが多数展開しており、砲撃や巡航ミサイルでの攻撃は通用しないという。

 

しかし地上戦力で接近しようにも、マザーシップが動き回っていることで、多数の兵力を集結させられない。

 

オーストラリアでも、同じ事が起きていると言う。

 

私は腕組みすると、思考を巡らせる。

 

フォーリナーの目的は分かっている。地下の彼奴の記憶が、私の中で生きているからだ。其処から検索していくと、何か導き出せないか。

 

「敵が援軍を待っているという可能性は無いでしょうか」

 

「分からないとしか言いようが無い」

 

筅の質問に、弟はそう答えた。

 

そうとしか、応えられないだろう。

 

黒沢が、捕捉した。

 

「それならば、何かしら変化が起きることを知っていて、待っているというのは」

 

「……危険なのはそれだな」

 

必死に守ろうとしている巣穴。

 

何も無いとは、とても思えない。

 

日高司令から通信が来る。

 

一旦九州基地に向かい、其処で待機。敵マザーシップはウラジオストクに移動し、其処で停泊している。

 

また九州に来るかも知れない。攻撃の態勢を見せるつもりなら、迎撃して欲しい、と。

 

集まったチームに被害はでなかったが。

 

誰もが、釈然としない顔のまま、己の所属する基地へと戻っていった。

 

ストームチームもヒドラにビークルを格納すると、すぐに戻る事にする。帰路、矢島に聞かれた。

 

「はじめ特務少佐。 お体は平気ですか?」

 

「全く問題ない」

 

「良かった」

 

素朴な矢島は、心底から嬉しそうにする。

 

少し前まで、戦いのたびに死にそうになっている私を心配していたと、屈託無く言うので、苦笑いである。

 

ヒドラの中で、軽く仮眠を取り。

 

そして、北九州基地に到着後。寮でしっかり睡眠は取らせて貰った。

 

夢は見ない。

 

目をつぶっていると、ただ膨大な情報だけが、体の周囲を流れていくように、感じるばかりだった。

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