地球防衛軍4二次創作 2025絶滅螺旋 作:dwwyakata@2024
ヒドラから降りるころを見計らって、不意に連絡が来る。それも、EDF幹部会議招集のものだ。
一旦兵力展開は中止。
スカウトから来る情報を整理するように、涼川とエミリーに指示すると。私は弟とジョンソンと一緒に、ヒドラの奧の立体映像投影装置に向かう。此処からなら、立体映像だけを飛ばして、幹部会議に出られるのだ。
幹部会議は、もう始まっていた。
カーキソンが。かなりの上機嫌で、説明をしている。
「マザーシップへの総攻撃の準備は整った。 各支部は、ブルートフォース作戦勝利の余波を駆って、敵を叩き潰す準備を整えて欲しい。 狙うのは、当初の予定通りの三隻だ」
弟は黙っている。
私も、この作戦そのものは賛成だ。
問題は、である。
どうにも敵の動きがきな臭い。それよりも、中国とオーストラリアの巣穴を、先に攻略すべきでは無いのだろうか、と思うのだ。
ただし、それが不可能なことも分かっている。
マザーシップが巧みに戦略的な兵力集中を阻んでいるため、特に中国とオーストラリアの巣穴へは、攻撃が出来ない。大規模部隊を集結させられないのだ。
そしてこれらの巣穴は規模も大きく。少数精鋭を投入して、一撃離脱というわけにもいかないのである。
「作戦開始は、二週間後を予定している。 それまで、各自勢い衰えている敵を叩き、勝利のために布石を打って欲しい」
カーキソンは其処まで言うと、昇進人事を発表。
前評判通り、日高司令が大将に昇進した。
これで、名実共に、日高司令はEDFの最高幹部だ。今まで三人しかいなかった大将に、四人目として加わる事になる。
元帥は当面一人。
そして上級大将の階級はないから。日高司令が出世することがあれば、それはカーキソンが引退か戦死した場合だろう。
勿論、そんな事がないことを、祈るほか無いが。
会議が終了。
部屋から出ると、弟に、ジョンソンが言う。
「マザーシップの撃墜に成功すれば、ストームチームとしては二隻目になるな」
「ああ。 だがそれはいわゆる捕らぬ狸の皮算用だ。 簡単に落とせる相手では無いし、油断は出来ない」
「分かっている。 ただ、そうなった場合、皆に何をもって、EDFは報いるのだろう」
なるほど。
どうやらジョンソンの狙いは、その時期を見計らって独立部隊のボスとなることか。確かにマザーシップを撃墜すれば、戦況は更に好転する。フォーリナーを地球からたたき出す日も、ぐっと近づくだろう。
少なくとも、誰が見ても、それは確実だ。そのタイミングで独立部隊の指揮官になるのなら、かども立たない。
問題は、その先にある。
「しばらく、独立部隊の隊長になるのは諦めて欲しい」
「ハジメ特務少佐、どういう意味だ」
「中国とオーストラリアの敵巣穴が、どうにもきな臭い。 何かとんでも無い事が、起きようとしているような気がする」
「気がするとは、随分曖昧だな。 楽観するつもりはないし、確かにきな臭いことは俺も感じているが。 しかし、俺にとっては、独立精鋭部隊の指揮官になるのは、悲願なんだ」
ジョンソンの事情は、知っている。
この寡黙な軍人は、スラムの出身者だ。
最も平和で安定した時代が地球を覆っていた、前大戦の更に昔。ジョンソンの周囲にあったのは、理不尽だけだった。
世界が平和だと言っても、その全てが安定して、幸せというわけでもない。
退廃と堕落の街で、ジョンソンはろくでもない少年時代を送り。ろくな教育も受けられず、周囲の人間関係にも恵まれず。
EDFに入ったのも、喰うためだった。
だからジョンソンは、必死だった。
凄まじい戦いぶりが認められて、有名な部隊を転戦。オメガチームに入って、其処で戦い抜いて。終戦を迎えた。
ストームに来た時、ジョンソンは嬉しいと言っていたが。
表情に、笑顔はなかった。
彼にとって、感情は他人に見せるものではない。スラムでの長い地獄が、彼を寡黙な戦闘兵器に変えたのだ。
「分かっている。 少なくとも、巣穴を全て駆除するまでは待ってくれ。 ストームチームは、更に人員を拡張するつもりだ。 お前のような精鋭に抜けられると、困る」
「俺を高く買ってくれるのは嬉しいがな」
「戦況が完全に安定したら、俺からカーキソン元帥に独立部隊の創設を提案しよう。 ジョンソン大佐の経歴なら、ストームやオメガに並ぶ精鋭を任せることも、不可能では無いだろう」
弟が助け船を出す。
ジョンソンは驚いたように、弟を見て。
そして、絶対だぞと、付け加えた。
ヒドラを降りる。
香港には、各地からの増援部隊が集まっていた。輸送船だけで二十隻以上、ヘクトル百機という戦力だ。
流石に、ストームチームだけでの攻略は難しい。
巨大生物も、凶蟲、黒蟻、赤蟻と、一通り揃っている。数も、千以上と、相当なものだった。
廃墟となっている香港。
一角の港湾設備はまだ生きていたのだけれど。
敵の襲来とともに機能は凍結。
今では、敵が我が物顔に陣地を構築しており、これからの戦いで廃墟となるのは確実だった。
レンジャーチームが、現時点で12。
フェンサーチームとウィングダイバーチームがそれぞれ1つずつ。
後方には、ネグリング四機。
ギガンテス戦車も、続々揚陸していた。EDF海軍の輸送船が、極東から運びこんでくれたのだ。
かなり戦力としては大判振る舞いである。
それだけ、この間のブルートフォース作戦で、自信を付けたと言うことなのだろう。
既に敵も此方を認識している。
飛行ドローンも少数だがいるので、今回谷山にはバゼラートで出て貰う。
チームリーダー達が来たので、弟が軽く作戦を説明。
この辺りは何度も激戦区になった。
私も弟も、戦った経験がある。
だから、戦闘そのものは容易だし。作戦立案も、難しくは無かった。作戦も難しい事は特にない。
敵の攻撃を退けながら、前進。
輸送船を優先的に落とし、それが終わったら、集中攻撃で敵を確実に仕留めていけばいい。
おかしな事はあるけれど。
しかし、敵の戦力を削る事そのものには、問題は無いのだ。
マザーシップを撃墜する布石にもなる。
「待ってください、あれを!」
不意に、味方の一人が叫ぶ。
作戦説明中の弟も、私も、釣られて其方を見る。
敵が、撤退しはじめている。
追撃も何も無い。輸送船に兵を収容して、その場を飛び去っているのだ。馬鹿にされている。
ぽかんとして立ち尽くすチームリーダー達。
「野郎、巫山戯るなよ……!」
涼川が、流石に頭に来たらしく、地面に噛み煙草を吐き捨てていた。
とにかく、戦う前に敵がいなくなってしまったのでは、どうしようもない。
その上、マザーシップの周辺は、敵がガチガチに固めている。安易に攻撃は仕掛けられないし、その余裕も無い。
前大戦で、EDFは場当たり的な指揮を幾つかして。それで敗退した戦闘が、幾つもあった。
本部の罠。
本部は敵と通じている。
兵士達が、そう噂したのも無理はない。
集結していた部隊は解散。ストームチームも、一旦極東に戻る事になった。
数時間、ヒドラに揺られる。
「何をしに行ったのか、分かりませんね」
「いーじゃないか。 戦いはしなくてすんだんだしな」
黒沢に対して応じているのは矢島だ。
矢島は強くなりたいという意思を秘めているようだけれど。その一方で、戦いそのものを好んではいないようだ。
この辺りは、本来の性格がうかがえてほほえましい。
涼川は完全に怒り心頭。
怖がって、誰も近づかない。
私が近づいても、機嫌が悪そうにしていた。隣に座ると、不機嫌そうに、低い声を出す。
「一人にしていてくれないか」
「そういうな。 狭い機内だ」
「そうだけどよ」
「心配するな。 近いうちに大規模作戦がある。 その時には、思い切り戦えるさ」
じろりと、此方を見る涼川。
涼川はどうも、彼奴と融合した私に、この間から一歩引いて接している。警戒を崩していないのだ。
この辺り、実は人見知りなのでは無いかと思えてくる。
面倒見が良い涼川は、新人達にはいつも丁寧な指導をしているが。それでいて、同格の人間との交遊は、どうなのだろう。
ひょっとすると、人見知りなのを隠して、行動しているのだろうか。
だとすれば、EDF屈指のキリングマシンにも、可愛いところがあるものだ。
「なあ、あんた本当に、特務少佐なんだよな」
「そうだ。 この間の件で、多少人格に変化は起きたが、私は私だ」
「ならいいんだけどよ」
元々、厳密には私は、人と言うには無理がある存在だ。弟もそれは同じ。
生殖能力がないのは、恐らくは摂理故だろうとも思っている。生物種としてあまりにも強力な存在が野放図に増えたら、絶滅を招くだけだからだ。
元々人間ではないのだし。
今更、少し変わったところで、何だというのだろう。
カプセルに交代で入る。
新人達を先に入らせて、涼川は最後まで残っていた。疲れが殆ど無い私も、それにつきあう。
「あたしもなあ。 散々男を取っ替えてきたが、やっぱりベッドの上でよろしくやるより、戦闘のが楽しいんだよな。 そう言う意味で、あたしがまともな女じゃなくて、戦闘に特化した一種のイレギュラーだってのは分かってる。 だがな、あたしみたいなイレギュラーから見ても、旦那と今のあんたは普通じゃない。 だから旦那には惚れるし、あんたには、今脅威を感じてるよ」
「私はお前を傷つけたりはしない」
「分かってる。 わーってる。 そういう意味じゃないんだ。 何というか、自分たちの外敵、みたいな、な。 分かるだろ。 あたしの女の部分が、旦那の危険な部分に心を動かされるし。 一方で人間の部分が、あんたには危機感を刺激させられる。 死線をくぐってきたから、なおさら思うのさ。 今、あたしが側にいるのは、ひょっとしてでかい熊かライオンじゃないかってな」
自分より小柄な私に向かって、涼川はそんな事をいう。
余程に、鬱屈が溜まっているんだろう。
だから、言いたいように、させておいた。
「なあ、宇宙人共、何が楽しくてこんな事してるんだ。 黒沢のボーヤじゃなくたって気付く。 彼奴ら、地球で何をしたがっていやがる。 侵略じゃないだろ」
「さあな」
「……」
すっと、目を細める涼川。
今まで、同じ応対をしたときとは、違う気配があった。
これは或いは。
私が答えを得ている事に、きづいたか。
嘆息すると、弟を視線で指す。
もし知りたければ、弟に許可を得ろ。涼川は現在の地球でも、上位から数えた方が早いほどの使い手だ。仮に真相に辿り着いても、EDF本部がいきなり暗殺、というような手段にはでないだろう。
ただし、それもマザーシップを落とすまでの話。
勝利を確信した後、EDFが何をするかまでは、責任が持てない。
最後に、二人でカプセルに入る。
しばらくぼんやりしている内に、ヒドラが東京基地に到着。その場で、ストームチームは一時解散となる。
すぐに招集されるのは目に見えている。
マザーシップの嫌がらせの活発さは、今までの比では無い。すぐにストームチームが動かなければならない案件が出る筈だ。
そしてEDFが振り回されている内に。
敵は、準備を整え終えてしまう。
或いは、敵が動き出したときこそ。
準備が終わった、その時なのかも知れない。
部隊を解散させた後、弟とジョンソンと、涼川と香坂夫妻と会議に出て。その帰り道。
ジョンソンの所に、カーキソンから連絡が来る。
権力欲が強く、栄達したいと日頃から口にしているジョンソンだが。カーキソンとの連絡時は、それを弟にいちいち説明している。
この辺りは、ジョンソンというえぐみの強い男なりの。仁義の通し方なのかも知れなかった。
実際問題、仁義を通して行動している人間なんて、殆どいない。
そう言う意味で、ジョンソンという男は、筋が通っていて。故に公認スパイでありながら、弟は信頼してもいるのだ。
「俺たちは先に上がる」
「お休みなさい」
香坂夫妻が、先に行く。
涼川もエミリーとゲーセンにでも行くと言い残して、その場を後にした。わずかに寂しそうだったのは、何故だろう。
「定時連絡か」
「……そうだ。 どうやら公式の会議はブラフで、予定よりも遙かに近いうちに、マザーシップを攻撃する例の作戦を遂行するつもりらしい。 囮の部隊を使って引き寄せ、大規模戦力で一気に殲滅する、例の作戦だ。 味方にも兵力配置を悟らせず、実施するつもりらしいな」
「上手く行くと良いが」
「カーキソン元帥は、味方に裏切り者がいると考えているのかも知れない」
弟が腕組みする。
世界で唯一、「人間でありながら」マザーシップを落とした英雄。その弟でさえ、次は上手く行くか分からないと言うほどの相手。
勿論、前回の戦いの記録はある。
マザーシップが本気になれば、機体下部にある大気吸収口を開かざるを得なくなる。其処さえ叩けば、必ず倒せる。
ただしマザーシップは、戦闘形態の先に、さらなる最終戦闘形態を有している。
あれとは二度とやり合いたくない。
弟も、そう何度かぼやいたほどの相手だ。
「マザーシップを三隻動時に攻撃し、落とす。 上手く行けば、一気に勝利へ近づくが、問題は誘引と実際の戦闘プランだな」
「誘引に関しては問題ない。 おそらくマザーシップは、近々来る」
私の言葉に、弟は眉をひそめた。
ジョンソンが続きを促す。
私の予想は多分当たる。ただしその予想は、直後に絶望を伴うはずだ。奴らが大規模戦略兵器であるマザーシップを、わざわざ決戦に投入してくると言う事は。
その先にあるもの。
それにフォーリナーの正体と目的を鑑みれば。
明らかすぎるほどだからだ。
「迎撃作戦はどうするかだな」
「東京まで引き込んで、其処で叩くだけだ。 どうせ東京は再建しなければならないし、マザーシップを倒せば弾みもつく」
「……そうだな」
問題はその先。
奴らが目的を達成した後だ。
どう動くかが、まだ読めない。最悪の事態も、幾つか考えられる。
ジョンソンと別れ、二人で歩く。
寮に戻る途中、弟は言う。
「姉貴。 あのことは、まだ誰にも黙っていよう」
「判断はお前に任せる。 好きなようにするといい」
「……姉貴自身は、どう思う」
「香坂夫妻にはいずれ機会を見て。 お前の事を好いている涼川にも、いずれ話してやるべきだろうな」
これは、そもそも、EDFだけではない。
地球全土に関する問題。
フォーリナーには、最初から。地球を「侵略」する気など無い。かといって、友好条約など結ぶ気さえ無い。
連中にとって、この星は。
だから、彼奴は。
人間は、その領土を広げる過程で。多くの理不尽を、他の種族に強いてきた。それが淘汰で自然な事だというのなら。
今、人間は。
自分にされていることに、文句を言う資格は無い。
日高司令から通信。
「意見が聞きたい。 これより、本部がまた強化クローン兵士を増産する。 おそらく今度は、五千人規模になる予定だそうだ」
「かなり多いですね」
「投入時期は二ヶ月後。 マザーシップを落とせていれば、攻勢に弾みを付け。 マザーシップへの攻撃作戦が失敗していれば、味方を底支えするための戦力になるというもくろみだろう」
反対はしない。
この戦いで、命を賭けているのは。生き残るため。
最後の一線さえ越えなければ。
私は、人類のあがきを、止めようとは思わない。
弟は問題ないだろうと言った。
私は反対しなかった。
日高司令は頷くと、通信を切る。
空には、人類の罪業を嘲笑うようにして。満月が、明々と存在感を主張していた。
(続)
激戦の末に戦線を整理し、ついに降下したフォーリナーのマザーシップへの攻撃作戦が開始されます。
前大戦最後の決戦での決定的戦果を再現出来るのでしょうか。
再現出来なければ……人類の負けは確定です。