地球防衛軍4二次創作 2025絶滅螺旋 作:dwwyakata@2024
その残党は、絶滅などしていませんでした。
今、またしても地球に脅威が迫ります。
序、7年ぶりの攻撃
ビル街に警報が轟く。
火災警報でも無い。
地震警報でも無い。
サラリーマン達の誰もが、青ざめた顔を上げた。仕事なんて、もはやどうでもいい。この警報の意味を知らない者はいない。
「警報! 巨大生物が出現しました! 各自防護アーマーを身につけてください!」
今の時代、どの企業にも、必ず人員分配られている防護アーマー。身につけ方は、それこそ義務教育の時代から習う。
これは、EDFが駆けつけるまで、命をつなぐための生命線だ。
ものとしては、昔存在していた防弾チョッキに形状が似ている。しかしコートのように被ってボタンを押すと、体に一体化する。
これこそ、フォーリナーから得られた防御兵器の神髄。
EDF隊員にも配備されている、最強の盾だ。
「これは訓練ではありません! すぐに防護アーマーを身につけ、訓練を思い出して退避してください! 巨大生物に襲われても足を止めないで! すぐにEDF隊員が駆けつけてきます!」
私。柊一歌は。
愛用のカメラを取り出すと、唇を引き結んだ。
昔は、何も出来なかった。難民の群れの中、襲われる周囲の人間を、震えながら見ているしか出来なかった。
今は違う。
大人になって、報道の意味を知った。
EDFに入ろうと思った時期もあったけれど。歴史を学んだ後、考えが変わった。
「退避! 退避!」
「駅の方から奴らが沸いているという情報がある! 急いで大通りから逃げろ!」
殺気だった周囲の社員達が騒ぐ中。
私はカメラの稼働を確認して。ベランダから外へ出た。
まだ、周囲に巨大生物の姿は無い。
防護アーマーがあるから大丈夫だ。三階から飛び降りる。着地。
別に私が超人な訳では無い。防護アーマーが凄いのである。
この防護アーマーは、巨大生物の外殻を研究して作られた。地面に着地するときの衝撃をはじめとして、加えられたダメージを全て吸収する、凄まじい代物である。黒蟻や赤蟻があれほどタフなのは、これで表面がコーティングされているからだ。ただしダメージが限界を超えると、アーマーは壊れる。
壊れると、後は普通の人間と同じになる。
映像記録で、攻撃を浴びても平然としていた黒蟻が、いきなり木っ端みじんになる事があるけれど。
それはこのアーマー破損現象が故だ。
逃げ惑う人々。だが、駅とは逆方向に、ある程度の秩序を持って向かっている。私はハンディカメラでそれを写しながら、動画サイトに接続した。
「ご覧ください。 7年ぶりの悪夢です。 巨大生物が、都市部に襲来しました。 彼らは滅びてはいなかったのです」
見える。
奴らだ。
忘れるはずも無い。私の両親を喰らい、まだ幼かった弟の首を食いちぎった、異星から到来した化け物共。
目の前で、起きたことだ。
黒蟻が多数。逃げ惑う人々に噛みつき、放り投げ。
そして地面に叩き付けた後は、まだ逃げる気力がある人間を襲っている。
EDFから支給されているアーマーは、頑強だ。
まだ喰われた人間は、今の時点ではいない。だがそれも時間の問題だろう。必死に逃げる人々よりも、巨大な蟻共の方が、明らかに足が速いのだ。
此処だけで、蟲どもが沸いたとは、とても思えない。
今、世界中で。
同じような地獄が顕現しているはずだ。
私は、驚くほど冷静だった。
この仕事を始めてから、噂には聞いていたのだ。
巨大生物は駆逐などされていない。地中に潜って、力を蓄えているだけだと。四年前には、実際に地中の巣が発見されて、極秘の駆除作戦が行われたと。勿論ネットなどで流れた情報だ。しかし、それが嘘だとは思えなかった。
至近距離。
放り投げられた人が、地面に叩き付けられた。アスファルトの上で、もの凄い殴打音が響く。投げられた人は、ショックで気絶してしまったようだった。放っておけば、蟻の餌になるだけである。
蟻が、もうすぐ側まで迫っている。
私は映像をとり続ける。
このままだと逃げられない可能性が高い。だが、それでも。映像を取りたいという欲求の方が強かったし。
何より、恐怖はなく。
心は静かだった。
迫り来る蟲共。
黒蟻だけだけれど。その大きさは、以前見たとおり。全長は十メートル。姿は蟻にそっくりなのに。
その巨体、パワー、いずれもがありえない。
昆虫は、小さいから怪力に見えているだけなのだ。大きくなったら、あのような怪力は発揮できない。
ビルを垂直に登ったり、乗用車並みの速度で走る事なんて、出来るはずがない。
どうやら一匹が。
私を、獲物と見定めたようだ。
態勢を低くすると、一気に走ってくる。
映像はリアルタイムで、全世界に中継されている。だから、喰われてしまっても、映像は世界中に届けられる。
世界中に蟲どもが沸いたのなら。
どうせ逃げる場所なんて、ない。
そう言い聞かせて、逃げそうになる自分の足を、奮い立たせる。
不意に。
体の横を、風が抜けた。
スラスターを噴かしながら、黒い影が通り抜けたのだと、一瞬遅れて気付く。その影は、迫ってきていた黒蟻に、巨大な杭を叩き込んで。
真っ正面から吹っ飛ばした。
吹っ飛んだ黒蟻は回転しながら、モノレールの駅に衝突。
其処で粉々に爆散した。
「民間人の救助を開始する! 蟻どもを攻撃! 各個撃破しろ!」
野太い男性の声だ。
どうやら、EDFは。
マニュアル通り。
民間人に支給されるアーマーが破壊される前に、到着したようだった。
ばらばらと此方に走ってくるのは、レンジャーの部隊だ。さっき先行した黒いのは、なんだろう。
噂に聞いている、装甲部隊か。
人間戦車と呼ばれる部隊が、近々実用されるという噂はあった。
カメラが、ふいに取り上げられる。
「いけませんね。 報道の自由にも限度があります」
「ちょっと、何するのよ」
「筅二等兵! この女性を保護!」
「分かっています、黒沢二等兵」
黒沢と呼ばれた眼鏡を掛けた大柄な青年に、命の次に大事なカメラを取り上げられてしまった。憤慨するが、相手の対応の方が遙かに早い。
そして、すぐ側に横づけた。歩兵戦闘車両グレイプに、押し込まれた。グレイプの上部には速射砲がついており、蟻を撃ち始めている。
一撃では打ち抜けないが、流石に直撃した蟻は、怯む。
其処へ展開したレンジャー達がアサルトライフルから集中射撃を浴びせ、次々に葬りはじめていた。
以前の戦いでは。
特に初期では、人間相手の主力兵器となっていたアサルトライフルは殆ど効果を示さなかったと聞いているが。今は違うのだなと、見ていて分かった。
運転席には、小柄な女性。
筅と呼ばれた女性が、無線に呼びかけている。
「黒蟻は70ないし80! 一群としては少なめです! 恐らくは他にも展開している部隊がいる模様!」
「冷静な判断だ。 すぐにキャリバンを廻す。 ストームチームは展開地域で黒蟻を駆逐し、民間人の救助を続行!」
「イエッサ!」
幼ささえ残る声だが、命令に応じる敬礼は様になっている。
運転も悪くない。
グレイプに、次々民間人が逃げ込んでくる。アーマーは、まだかろうじて無事だ。グレイプは歩兵三名を乗せることが出来るが、確か緊急措置として、民間人はかなりの人数を収容できるはず。
外での戦闘は継続中。
誰かがロケットランチャーをぶっ放したらしく、蟻が吹っ飛ぶのが見えた。蟻も黙ってはいない。中距離から酸を浴びせかけてきている。EDFの隊員も防護アーマーを装備しているから簡単にはやられないが、それでも無傷では済まないはず。
至近。
ビルに逆さにぶら下がっていた蟻が、上からグレイプに膨大な酸を浴びせてきた。
悲鳴が車内で上がるけれど。
筅は冷静に対応。バックして射線を確保すると、即座に蟻を撃ち抜いた。
既にダメージが蓄積していたらしく。蟻がバラバラに爆散して、吹っ飛んだ。
鬼神がごとき暴れぶりを見せている黒い鎧が見えた。
旋回しながら、巨大なガトリングを振り回して、発砲している。蟻が見る間に減っていく。
凄まじい破壊力だ。
それだけではない。レンジャーの中に一人、もの凄く動きが良いのがいる。アサルトライフルの集弾率が凄まじく、彼の眼前からは見る間に蟻たちが撃破されていく。
これは、ひょっとすると。
相当な精鋭部隊が、救助に来たのでは無いのか。
懐に隠していた小型カメラを取り出すと、私は撮影しようとしたけれど。不意に、歩兵戦闘車の窓ガラスが曇る。スモークモードに切り替わったのだ。
このカメラは、本命が破損したときのための、とっておきだったのに。
「ごめんなさい、撮影は止めてください。 今、機密に属する部隊が動いているんです」
「あなた、クローンね」
あまり知られていないが、強化クローンには独自の見分け方がある。
ヘルメットやら軍服やらで隠そうとして出来るものではない。ばつが悪そうに口をつぐんだ小柄な女性兵は、それでもはっきりと言った。
「そうです。 でも、普通の両親に育てられて、人間として生きてきたつもりです」
「だから、見過ごせないと」
返事は無言。
確かに、軍としては、最高機密の部隊が動くのを、晒すわけにはいかないだろう。相手の言う事は理にかなっている。
諦めたくは無いけれど。
この状況は手詰まりだ。
装甲救急車が来た。
キャリバンと呼ばれる車両だ。戦闘力は無いが、極めて頑強に作られていて、生半可な砲撃程度ではびくともしないと聞いている。歩兵戦闘車両よりも、二回りは大きいように見えた。それだけ多くの人員を収容できるはずだ。
筅と呼ばれた兵士はオート防御モードにすると、飛び出す。運転席との間には強固な防護ガラスがあって、そちらには行けない。
後はもう、何も出来ない。
外では、ひっきりなしに、射撃音が続いていた。
口惜しいけれど、戦場報道は此処までだ。
後は避難所の実情を報道する。
編集長から連絡が来た。無事だと、それだけ応えておいた。