地球防衛軍4二次創作 2025絶滅螺旋 作:dwwyakata@2024
ストームチームが姿を見せるのを、待っていたかのようだった。
北海道の渓谷に閉じ込められたスカウトの前後に展開していたヘクトル六機。装備が劣悪なスカウトでは手が出せず、谷間に潜んでいた彼らを、餌として使ったのは明白である。ストームが現れた途端に、お代わりとして、青ヘクトル八機が出現したのである。
スカウトが、悲鳴に近い通信を入れてくる。
「此方スカウト19! 周囲に新型ヘクトル多数! とてもではありませんが、突破出来ません! 一刻も早い救助を!」
「今ストームチームが向かう。 諦めるなスカウト19!」
日高司令が、必死に部下達を激励するが。
此方も普段より劣った戦力で、強大極まりない青ヘクトルを相手にしなければならないのである。
筅を連れて、先に谷山がバゼラートで出る。
今回、バゼラートで敵を攻撃しながら、三陸沖に展開している第九艦隊より、テンペストで支援をして貰う。
その爆撃地点指定を、筅にさせるのだ。
秀爺の話を聞いた谷山が、面白そうだと言って、筅を引き受けたのである。世界でもトップクラスのヘリパイロットである谷山だけれど。空爆支援の手腕も、世界でも上から数える方が早い実力だ。
筅をみっちり仕込めば。
加速度的に悪くなっていく戦況を、少しでも覆す、希望の星になる可能性も高い。
普段は大人しい筅は、今回も少しあたふたとしていた。
秀爺は、事前の話通り、黒沢を連れてイプシロンで何処かに消える。弟が細かく作戦指示をしていたから、後で陣取る位置については聞かされるのだろう。
ネグリングは少し後方に。
装甲を慌てて補修したキャリバンをバリケード兼指揮車両として使用。今回は消耗戦が想定されるので、谷に降りる機体はキャリバンだけだ。それに、負傷者も出ているスカウト19を、まず回収しなければならない。
前衛で飛び出すのは、涼川。
彼女はジープに迫撃砲を積んで、一人で飛び出す。谷の前後を包囲されている状況だ。片方を抑えて、もう片方を殲滅するのが、セオリーとなる。片方を片付けたら、早々に脱出だ。
青ヘクトルだけは、片付けておきたいけれど。
どうせ敵は、それだけではすまないだろう。
以前、低空飛行する敵輸送船と戦った地域と非常に近い。谷底には美しい川が流れているけれど。
今其処は、青ヘクトルとヘクトルの混成部隊が、無慈悲に蹂躙していた。
スカウト19は既に四名を戦死させ、重傷者八名。谷の一角に固まって、既に身動きが取れない。
青ヘクトルは彼らを嬲るようにして。
粒子砲を向けたまま、一定距離を保ち続けていた。
その横っ面に、涼川がカスケードで、多数のミサイルを叩き込む。直撃したミサイルが、流石の青ヘクトルも後ずさりさせる。
「こっちは任せて貰うぜ!」
高笑いしながら、涼川が猛攻を開始。
彼女一人に、其方は任せてしまって良いだろう。キャリバンで、戦場に飛び込む。タンクデサンドしていた弟が、フュージョンブラスターを取り出し、熱線を敵に浴びせる。一機のヘクトルが瞬時に炎上。
更にもう一機が、ジョンソンの零式レーザーに焼き払われた。
青ヘクトルが、攻撃を開始するが。
盾になるように横付けしたキャリバンが、ガトリングの弾を防ぎ抜く。側面ドアを開けた日高が、すぐにレンジャー19に乗るよう指示。負傷者を、中に無理矢理押し込みはじめる。
「近くにヒドラが来ています! 其処まで耐えてください!」
「救援感謝します!」
まだ若いレンジャー19の司令官は、そう言って自身もキャリバンに飛び込んだ。キャリバンが、谷の少し緩い傾斜を、無理矢理上がっていく。悪路の走破能力は、実に素晴らしい。若干鈍重なところがあるキャリバンだが、元々こういう運用も想定されている。走破能力に関しては、折り紙付きだ。
谷の上に陣取ったエミリーが、MONSTERを起動。
一機の青ヘクトルが、胸の中央に、直撃を貰ったが、ちょっと傾ぐだけ。しかし、私が同時に、至近からガリア砲を叩き込むと、流石に装甲も吹っ飛ぶ。その穴に、遠くに潜んでいる秀爺が、イプシロンからの射撃を直撃させた。
爆裂する青ヘクトル。
一機に攻勢に出ようとするが、バイザーのレーダーに反応。周囲が一気に赤く染まる。
「此方谷山。 黒蟻多数出現。 伏せていた模様」
「押さえ込め」
「イエッサ!」
テンペストが、すぐに飛んでくる。
崖の周囲にいた黒蟻が、連鎖する爆発に巻き込まれて、次々と消し飛ぶ。更にバゼラートの射撃が、容赦なく黒蟻を削る。
しかし。
敵も黙っていない。
青ヘクトルの一機が、此方の猛攻に耐えながらも、ガトリングでバゼラートを射撃。撃っても撃っても、ヘクトルは怯まない。
回避運動をするバゼラートだけれど、数発を貰う。
高度を下げるが、今度は黒蟻が集ってくる。敵も、谷山のバゼラートの対処法は、把握していると見て良い。
ストームは、少しばかり暴れすぎたのだ。
突貫しながら、ディスラプターを起動。
ガトリング砲から弾丸の雨を放っているヘクトルに、至近から熱線の束を浴びせる。青ヘクトルも、これを至近から浴びてしまうと、ひとたまりも無い。しばらく抵抗した後、吹っ飛び、粉々になる。
下がりながら、確実に敵の数を削る。
矢島も同じように、ディスラプターを起動。熱線で相手の動きを止めた瞬間、秀爺からの狙撃らしいライサンダーの弾が、青ヘクトルを直撃。敵を木っ端みじんにした。
敵の反撃も凄まじい。
ジョンソンが、プラズマ砲の射撃を避けきれず、吹っ飛ばされる。
エミリーが黒蟻に捕捉され、飛んだところをガトリングで狙い撃ちされた。一発が掠るのが、此処からも見えた。
キャリバンが、戻ってくる。
負傷者をヒドラに預けて、支援をするつもりなのだろう。
キャリバンの上部には、セントリーガンが据え付けられていて、既に起動していた。キャリバンに群がろうとする黒蟻が、たちまち蜂の巣になる。
更に、池口が、ネグリングからのミサイルを、雨霰と降らせはじめる。黒蟻の群れが、次々吹っ飛んでいった。
乱戦に、予想通りなる。
多分、明日も明後日も、同じような任務にかり出されるはずだ。負傷は絶えず、疲弊は続き。
やがて、ストームさえ、身動きが取れなくなっていく。
弟が再びフュージョンブラスターを機動して、迫っている青ヘクトルに熱線を浴びせかける。
たまらず下がる青ヘクトル。
一気に谷を駆け下りたキャリバンに、乗るよう弟が指示。
アーマーが危険域に入っていたジョンソンが最初に。こんな時でも、的確な回避を続けていた弟が、タンクデサンド。矢島も、盾を構えて、弟を守る構えに入った。
私は最後尾に残る。
「涼川中佐、ストームリーダー姉。 敵を追撃させて、集まったところをテンペストで叩きます」
「その呼び方は止めろ。 まあいい。 涼川、もう良いぞ! 下がれ!」
「あん? 何だよ、これから良い所なのによ!」
腹いせに、スタンピートの雨を敵に降らせながら、ジープで下がってくる涼川。キャリバンに敵のプラズマ砲が直撃。爆裂に車体が揺れるが、頑強な機体だ。どうにか耐え抜く。しかし、今ので側面ドアが砕かれて、開かなくなったようだ。
黒蟻の群れが、撤退を開始。
充分な時間を稼いだと判断したのだろう。
青ヘクトルの群れも、動きを止めた。此方の動きを読んだものと、判断していい。だが、長距離から、相変わらずプラズマ砲を、叩き込んでくる。その旺盛な攻撃は、多少距離を置いても、とまらない。
そういえば。
先ほど、狙撃はイプシロンとライサンダーからあった。
まさか片方は黒沢か。
青ヘクトルの頭上に、テンペストが降り注ぐ。流石に大型巡航ミサイルが直撃しては、頑強極まりない青ヘクトルでも、ひとたまりも無い。
消し飛ぶ青ヘクトル。
敵の追撃が、止んだ。
だが、青ヘクトルの長距離砲で、皆著しく傷ついていた。涼川がここのところ使っていたジープも、最後の追撃戦でプラズマ砲の直撃を浴び。ヒドラに辿り着いたところで、力尽きた。
車輪が車体から外れて、転がっていく。
ため息をつく涼川。
「逃げるのは性にあわねーんだがな」
「味方は救助できた」
「そうだけどよ、旦那。 せっかくだから、全滅させてやろうぜ」
「そうもいかない。 気付いていると思うが、敵の狙いは此方を消耗させる事だ。 谷には観測装置を撒いてある。 後は第九艦隊に」
通信が入る。
しかも、緊急の奴だ。
連絡に出る。第九艦隊からだった。
「此方第九艦隊! 敵新型攻撃機に襲われている! 対処は出来るが、テンペストによる援護はもう出来そうにない!」
「此方は既に撤退作戦を完了した。 これから札幌基地に引き上げる予定だ」
「その件だが、良くない情報がある」
通信に割り込んできたのは、日高司令。
という事は、続けての任務か。
「北海道に出現したアースイーターから、青ヘクトルが十機以上出現。 先ほど君達が交戦した敵部隊と合流するべく、南下を開始した。 連戦になってしまってすまないが、谷に陣取った青ヘクトルを撃滅して、合流を阻止して欲しい」
「イエッサ……」
腹立ち紛れに、私は地面を蹴りつけていた。
救助任務からの、殲滅任務への移行。
今の戦いでも、味方は無傷と行かなかった。敵の増援部隊には、札幌基地から要塞砲を浴びせて戦力を削ってくれるという事だが。谷の敵を撃滅した後は、当然此奴らとも戦わなければならないだろう。
ヒドラに収容したスカウト19は酷い負傷をしている者が多く、当然手足を失っている者もいた。
彼らを戦わせる訳にはいかない。
ジープは新しいものがあったが。
フュージョンブラスターの代わりは無い。ディスラプターも、基地に戻らないと、充電は出来ない。
私は黙々と、装備を変える。
その時、イプシロンが戻ってきた。イプシロンを操縦しているのはほのかだ。砲手となっているのは、黒沢である。
なるほど、今回は秀爺がライサンダーを持ち、イプシロンを黒沢が扱っていたのか。
秀爺が、イプシロンから降りてくる。
「第二戦をやるらしいな」
「おそらく第三戦もあるでしょう。 補給を済ませたら、ヒドラは一旦退避させます」
「うむ……」
秀爺が、黒沢は覚えが早いと言って、褒めていた。
香坂夫妻が使う、数字による狙撃術も、概念をすぐ理解したという。ただし、まだ使いこなせてはいないようだ。故に、狙撃には妙に時間が掛かっていたのか。
キャリバンのアーマーを張り替えるが。
側面ドアまでは直せない。左側の側面ドアはこれで使用不能。次は右側だけしか使えない。
問題はバゼラートだ。
次の戦いでは使えないと、谷山が言う。
仕方が無いので、ヒドラに積まれていたネレイドを引っ張り出す。対地攻撃には圧倒的な戦闘力を発揮する機体だが。反面敵の空軍戦力には著しく脆い。此方での支援が必要になる。
ネレイドを発進させる谷山。
筅も連れて行くのは。火器管制に集中させるためらしい。そういえば筅は、戦闘では大味な攻撃が目立つ。その辺りを、克服させるのが目的なのだろう。確かに隣に誰かが乗っていたら、乱暴な戦い方は出来ない。
弾薬を補給したところで、ヒドラを離れる。
ご武運をと言い残し。
ヒドラは離陸して、基地に戻っていった。補給を済ませたら、また来るという話だが。それまでに、谷の敵を殲滅しなければならない。
どうやら今日も。
夜中までは、戦闘が続く。
それを覚悟しなければならなかった。
まず基地に着いたところで、シャワーを浴びる。
しばらく無心に湯を浴びて、心に溜まった泥を洗い流した。冗談じゃあ無いと何度も呟く。
敵の意図が分かっていても。
それで腹が立つことばかりは、どうしても止められないのだ。
谷の敵を殲滅するのも、かなり消耗。
更にとって返して。札幌基地と交戦中の青ヘクトルを、背後から強襲。撃滅して、今日の任務は終わった。
札幌基地のシャワーを借りて、今湯を浴びているわけだけれど。
青ヘクトルの猛攻で、札幌基地もダメージを受けていた。挟撃自体は成功したけれど、兵士達は不安がっている。
シャワーから出ると。
女兵士達が、不安そうに話しているのが聞こえたのだ。
青ヘクトルと戦うのは、初めてだったのだろう。
普通のヘクトルだけでも恐ろしいのに。頑強で攻撃力も高い。彼奴ら、何なのよ。そんな声が聞こえる。
元々ヘクトルは、柔軟性が高く、頭上から攻撃してくる難敵だ。人類がどうしても実用性は無いと判断していた人型戦闘ロボットを、フォーリナーは恐るべき存在として繰り出してきた。その戦闘力は登場当初は一個中隊を余裕で凌駕し。今でも、兵士達に恐怖を抱かせるには、充分なレベル。更にそれがパワーアップしたのである。
怖れるのも、無理はなかった。
ギリシャ神話の名高い英雄を名に用いるだけのことはある敵なのである。
札幌基地を歩きながら、被害の状況を確認。
要塞砲は無事だが、外壁にかなりのダメージを受けている。このままだと、札幌基地は危ないかも知れない。
今日黒蟻の大群と交戦したが、あれはおそらく北海道に現れたアースイーターから出現した戦力だとみて良いだろう。青ヘクトルだけでは無く、黒蟻も自在に出せると言う事だ。
敵の輸送船が空間移動能力を有しているのは分かっている。
そこで、ふと気付いた。
まさかとは思うが。
アースイーターに、内部の物資を自在に移動できる能力が備わっていないだろうか。もしそうだとすると、世界中に存在するアースイーターはそれぞれが、輸送という観点でも連結していることになる。
頭を掻き回す。
勝てる目が、考えるほど見つからなくなっていく。
深呼吸すると、フェンサースーツを解除。
生身のまま、周囲を歩くことにする。
夜風に当たる方が、健康的だ。肌も冷えるし、少しは考えもまとまる。流石に北海道は涼しい。
今は、誰とも話したくない。
目が覚めると、病院のベットだった。部屋を出ると、矢島が待っていた。
「良かった。 原田、もう歩けるんだな」
「ああ。 そっちはどうだ」
「今日も酷い戦いだったよ」
嘆く矢島の言葉には、相変わらず変な訛りが入っていて、苦笑いしてしまう。体の方は、そこそこに良い。
勿論、昔だったら、絶対安静だろう。
今は医療技術が、著しく進歩している。死にさえしなければ、だいたいの場合は助かるのだ。
負傷が多い原田だからこそ。
医療のありがたみは良く知っていたし。
故に、死はどういうものなのだろうとも、思う事が多かった。
札幌基地にいること。戦いが連続していることを、矢島が歩きながら話してくれる。軍病院を出てから、まっすぐに向かったのは戦闘シミュレーションルーム。誰も使っている兵士はいないので、さっそく矢島と訓練をする事が出来た。
最近は日高少尉も、訓練に加わってくれることが多い。
まずは二人で一セット。
軽く肩慣らしに、黒蟻の群れ少数と戦う。難易度はノーマルという所だ。
最初から難易度インフェルノでやりたいと矢島は言ったけれど。病み上がりだからと言って、まずは少数の敵から戦う事にした。
この数なら、勝てる。
体が戦い方をしっかり覚えている。
アサルトで近づく敵を確実に牽制しつつ、群れの中にスティングレイロケットランチャーを叩き込む。
矢島は敵の攻撃を確実に防ぎながら、隙を見てスピアを叩き込む。
間もなく、勝利。
まあ、この難易度なら当然だろう。他のレンジャーチームでも、充分に出来る事だ。問題は、自分がいるのが、世界最強と名高いストームだという事である。
敵の数を、少しずつ増やしていく。四回目の戦いが終わったとき。筅と日高少尉が来た。日高少尉は兎も角、筅は珍しい。
「珍しいな。 どうして此処に」
「谷山さんに、ビークル以外での戦い方も身につけろって言われて」
とりあえず、四人で訓練をはじめる。
筅が渡されているのは、リムペットガン。敵に付着し、爆発するタイプの火器だ。使い方は難しいが、最悪の場合は爆発を解除も出来る。そうすることで、誤爆を防ぐことが出来るのだ。
後方から戦術的に戦うには、これが良いと渡されたのだとか。
ビークルは無し。
敵の数は、少し減らす。まずは肩慣らしからだ。矢島はとにかくたくさんの敵と戦いたがるけれど。
勝てない戦いを続けるよりは。
まずは勝てる戦いの経験を積んでいった方が良いと、原田は思うのである。
無心にしばらく戦いながら、難度を少しずつ上げていく。日高少尉も、戦っているのを見ると、確実に強くなってきている。
今までは、原田も日高少尉も、戦闘力はどういっても並。
ストームチームの超人的なベテラン達とは、どうしても戦闘力には天地の開きがあった。少しでも、それを埋めたいと思って、頑張って来た。
日高少尉は、確実に成果が出ている。
原田は。
自分はどうなのだろうと、思った。
難易度をインフェルノに上げる。
激しい戦いの中、連携しながら必死に敵と戦う。しかし数百を超える敵が相手では、どうにもならない。
なぶり殺しにされて終わり。
ベテランが一人でもいれば、話は違うのだろうけれど。
一旦休憩を入れる。
牛乳を日高少尉が買ってきてくれたので、皆で飲み干す。幸い、今の時代。物資だけは、いくらでもある。
シェルターにも、内部で生産工場を抱えている場所が珍しくない。
勿論それだけではない。発展途上国や、再生が遅れていた地域のシェルターは、今とても苦しい状況にある筈だ。
「みんな強くなってるね。 羨ましいなあ」
日高少尉が、笑いながら言う。
確かに矢島の進歩は文字通りの長足だ。この素朴な、方言がどうしても抜けない青年は。フェンサースーツを確実に使いこなしつつある。
文字通り残像を造りながら前線で暴れ狂っているはじめ特務少佐には、どうしても比べられないけれど。
それでも、多分今なら、どこのフェンサー部隊にいても恥ずかしくないほどの実力があるはずだ。
筅も今は、誰もが認めるベガルタ乗り。
いつも筅の勇敢を通り越して獰猛な活躍には、助けられている。
日高少尉はみんなの中心だ。
あの狷介な黒沢でさえ、日高中尉には信頼を寄せているのが、見ていて分かるのだ。
自分は、違う。
何も得意なものがない。
今のシミュレーションでも、撃破数が一番少ない。筅でさえ、冷静にリムペットガンを駆使して、敵を的確に仕留めているのに。
訓練が一段落した後、解散。
カプセルで休む事にする。まだ病み上がりなのだ。少し多めに休憩を取らないと、また医師に怒られる。
その間に、寝ていた間に行われた戦いのデータを見る。
思わず呻いていた。
谷間で、青ヘクトル多数と、近接から殴り合い。
更に黒蟻多数のお代わり。
ついでに、砲撃支援は途中で受けられなくなり。更には敵の増援、青ヘクトル多数と、札幌基地と連携して戦闘。
命が幾つあっても足りないとは、このことだ。
何も考えずに、一旦寝る。
目が覚めてから、食堂に。無心に食事をしていると、涼川中佐が、声を掛けてきた。
「おう、原田」
「あ、はい。 何ですか中佐」
「お前の面倒を見ろって旦那がな。 今は待機状態だから、シミュレーションルームが開いてるだろ。 飯が終わったら、来い」
「分かりました」
急いで美味しくも無いカレーを、腹に流し込む。
シミュレーションルームに行くと、涼川中佐が、準備を終えて待っていた。難易度はいきなりインフェルノである。
そして武器指定をされる。
「え、こんな強力な火器を使うんですか!?」
渡されたのは、スタンピートである。
涼川中佐がいつも愛用している、グレネードを多数ばらまく制圧兵器。元々、単独歩兵での面制圧をというコンセプトで作り上げられた兵器で、作られた当初は失敗作だと判断されていたらしい。
しかしはじめ特務少佐が、扱いは難しいが使いこなせば最強だと明言。
数々の名武器を試験運用してきた彼女の言葉もあって、前線に投入。精鋭部隊が扱うことで、大きな戦果を上げてきたという。
「お前、特徴が無いんだよ。 マルチに活躍できる奴なら、ナナコとか黒沢とかいるからな。 しかも巨大生物に対して敵意剥き出しのナナコや、冷静に判断が出来る黒沢とは、お前はだいぶ違う。 お前も分かってるとおりな」
ぐうの音も出ない。
だが、この人が他人に気を遣うというのも、おかしな話だ。それに、ストームリーダーに言われたとは言え。貴重な休憩時間を費やしてくれているのだ。
「最初は誤爆しても良いから、じゃんじゃん撃ってみな。 半分くらいはあたしが潰してやるからよ」
「は、はあ」
シミュレーション開始。
展開は、涼川中佐が言ったとおりになる。押し寄せる敵の群れを、大威力火器で薙ぎ払う中佐。
ジープを繰って、的確に敵の間を縫い、捕まらない。
最初のシミュレーションでは、殆ど役に立てなかった。だが、涼川中佐は怒らない。スタンピートを誤爆しなかったからだろうか。
「もう少し、斜め上に向けて撃て。 そうすりゃ良く届く。 いっそ、バイザーで弾道計算するのもありだろうな」
「な、なるほど」
「その辺りは、黒沢にでも聞くか、あの三島のタコにでも相談しろ」
この人が、三島さんと犬猿の仲であることは、原田でさえ知っている。
それでも、こういうことを言うという事は。
最低限の連携をしなければ死ぬこと。それに、三島さんを嫌っていても、能力は認めている事がよく分かる。
次の戦いでは、ぐっと難易度を落とし、アサルトとスタンピートのみの装備で、戦場に一人放り込まれる。
敵が十匹程度でも、慣れないスタンピートではかなり苦戦した。どうにか勝つことができたけれど。涼川中佐は難しい顔をしていた。
「進歩が遅いな」
「すみません」
「数をこなせ。 どうにも光るところはあるように思えるからな。 ある程度出来るようになったら、また見てやる」
旦那とゲームセンターにでも行くと言って、涼川中佐はシミュレーションルームを出て行った。
言われたとおり。
原田は夕方近くまで、大威力火器を色々試しながら、シミュレーションを続けた。