地球防衛軍4二次創作 2025絶滅螺旋   作:dwwyakata@2024

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ついに姿を現したフォーリナーの巨大生物たち。

ストームチームは即座に再招集され。

歴戦の猛者達が、それぞれの猛威を振るいます。


1、出撃

ブリーフィングをしている暇は、昔だったら無かったかも知れない。

 

しかし今は、軍に支給されている高性能リンクバイザーのおかげで、各自簡単に情報のやりとりができる。これによって敵の位置も、現在の地形も。そして味方の位置も戦力も、ある程度は把握できるのだ。

 

アパートを出ると、避難をはじめている人間と、多数すれ違った。

 

基地まで急ぐ必要がある。こういう時用に、二人分の軍用カスタムバイクが支給されているのだけれど。

 

どうやら今日は、使う必要は無さそうだった。

 

「乗ってください、ストームリーダー! 嵐大尉!」

 

アパートの前に横付けされたのは、歩兵戦闘車であるグレイプだ。

 

そしてこのナンバーは見覚えがあった。

 

正式にストームチームに配備された、RZ型。最新鋭のタイプである。搭載している軽速射砲は、かなりの威力を発揮する、はずだ。

 

グレイプは強化タイヤの車輪を持つ歩兵戦闘車で、MBTであるギガンテスほどの戦闘力はないものの、軽快で機動力に長けている。攻撃機能もなかなかに侮れないものがあり、特にこの新型は多数の敵を相手にすることを想定する設計だ。ただし歩兵戦闘車なので、面制圧を想定はしていない。想定している機種もあるが、RZはそうではない。

 

サイドとバックが開くようになっているRZは、車上に速射砲を展開しており、既に戦闘態勢に入っていた。平時は、外しているか、或いは畳んでいるのだ。フェンサースーツと同じ、フォーリナーの技術を利用したものである。

 

これなら戦場に直に行ける。

 

二人とも入ると、中で窮屈そうにしていた黒沢に敬礼される。

 

筅も武装して、運転席にいた。

 

空爆課の兵士は、他の兵士と違って、非常に巨大なヘルメットを被る。これは様々なデータを、確実に処理しなければならないためだ。このため動きが阻害され、単独での戦闘力は落ちるため、他の支援が必要になる。

 

レンジャーは旧時代の歩兵とあまりかわらない。

 

迷彩服に、アサルトライフルが基本装備となる。EDFではこれに、スティングレイロケットランチャーを持たせるのが普通だ。アサルトライフルとスティングレイの組み合わせが、一番汎用性が高いとされているからである。アサルトライフルと言っても、旧時代の象撃ち用の弾丸並みの破壊力がある弾を、連射するものである。熊でさえ瞬殺する破壊力があるが、それでも巨大生物が相手だと、少し火力不足とさえ言われる。

 

ウィングダイバーは、機械で出来た翼と、背中の動力炉プラズマジェネレーター、露出度が高い未来的な装備が特徴になる。これは低空での機動を主体とするため、空気抵抗を可能な限り減らすためだ。ただ防護アーマーは付けているので、多少の酸くらいは喰らっても平気だし、ちょっとやそっとの建物から飛び降りても怪我はしない。

 

フェンサーは私のように、黒い鎧そのものの姿。

 

古き時代のロボットアニメを思わせるこの姿は。前線で戦うことだけを想定しているも同然。

 

ただフェンサーは最新鋭の兵種だ。

 

人数はまだあまりいない。レンジャーだけで編成されているチームが、今でも圧倒的に多い。

 

「他のメンバーは」

 

「基地にいた新兵は、ブルートで輸送されています」

 

「谷山か」

 

黒沢が頷く。

 

ヘリの名手である谷山は、弟の部下の一人。ブルートは基本的に輸送や制空権がある場合の対地制圧を想定した機種であり、装備はさほど強力では無いが、一応自衛用の兵器がついている。

 

新兵が一人残って銃手を務めれば、充分な掃討が可能なはず。

 

後は、前線の主力となる涼川だが。

 

向こうから連絡があった。

 

「ストームリーダー、此方涼川」

 

「リンク確認。 涼川、状況は把握しているか」

 

「イエッサ。 今からバイクで戦地に向かう。 ごちそうが、待ってやがるぜ!」

 

涼川の声が、興奮を含んでいるのを私は感じ取っていた。

 

新兵達の点呼を取る。

 

大型ヘリに、新兵達は皆乗っていた。

 

一方、北米の総司令部から来た二人は、別行動のようだ。彼らは新兵では無いし、当然かも知れない。戦歴、実力的には名だたる精鋭、オメガチームやストライクフォースライトニングに配属されても不思議では無い二人だ。

 

本来は新人が来るはずだったのだけれど。途中から予定が変更されたのである。

 

今回ストームが完全に再編成され、旧メンバーの何名かの代わりに配属されたことで、かなり喜んでいると聞いている。

 

ただし彼らは総司令部の目付役でもある。

 

過大な期待は禁物だろう。

 

一人はウィングダイバーで、もう一人はレンジャー。

 

間もなく、香坂夫妻から連絡があった。

 

「既に射撃ポイントを確保しました。 あらあら、随分と今回も、たくさんいますわねえ」

 

のんびりした口調の老婦人が、通信に入ってくる。

 

香坂ほのか。

 

御年七十歳の、ストームチームの観測手。

 

最強のスナイパーの一人である香坂秀夫の妻だ。

 

「狙撃ポイントを転送してくれ」

 

「はいはい。 そうそう、護衛にジョンソン君が来ています。 彼は此処で待機して貰いますからね」

 

「ああ。 エミリーは?」

 

「そちらに向かっていると聞いていますけれど」

 

ジョンソンは前大戦でも悲惨な北米戦線で苦闘を続けた歴戦のレンジャーで、特に冷静な判断力が買われている。

 

非常に背が高い黒人男性であり、寡黙そうな見た目と裏腹に、ジャズについてしゃべり出すと止まらない。

 

間もなく、涼川が通信を入れてくる。

 

「あたしのバイクは二人乗りじゃないっての」

 

「Hi、ストームリーダー」

 

快活な声。

 

健康的な色気を振りまく、典型的な金髪美女であるエミリーの声だ。涼川同様何を食べたらそうなるのか分からない、ばかでかい胸の持ち主である。

 

今まで一緒に戦ったことは無いが、ウィングダイバーの創設メンバーの一人。最精鋭であるペイルの創設時メンバーの一人でもあるほどの使い手だ。

 

私が試験運用をした降下翼兵ウィングダイバーだが。

 

現状では、もう私の手を離れている。様々な技術で、私以上に力を発揮できる精鋭は何名かいるとも聞いていた。

 

「涼川のバイクに無理矢理乗ったのか」

 

「ええ、とても心地よさそうでしたので」

 

「まあいいけどよ。 その分活躍して貰うかんな」

 

不満そうな涼川の声。

 

ウィングダイバーの飛行は制御が難しい。移動中のバイクにピンポイントで乗るなんて、生半可な技量では無い。

 

気が短い涼川がキレなかったのは、その技量を見越したから、だろう。

 

いずれにしても、私は会話に加わらない。

 

弟がリーダーなのだ。階級的にも特務少佐にこの間就任したばかりの弟こそ、リーダーシップを取るに相応しい。

 

ちなみに階級で言うとジョンソンが中佐になるのだけれど。特務がつくと二階級上と見なされる。ジョンソンと私は階級的に、このチームのナンバーツーとなる訳だ。

 

全員が移動中のまま、リンクバイザーの機能を利用して、ブリーフィングを開始する。

 

まず、チームを三つに分ける。ただし四つ目のチームとして、秀爺ら三名の狙撃チームを配置。彼らには、全体をカバーして貰う。

 

秀爺の手元にあるライサンダーは、1000メートルの射程を確保する最強の銃器の一つ。しかも破壊力は艦砲並みだ。

 

一つはストームリーダー、つまり私の弟である一郎。そして私。黒沢と、筅。

 

もう一つのチームは谷山。谷山はヘリの快足を生かして、最も遠い地点を担当して貰う。そして涼川のチームのために、途中で増援を二人下ろして貰う。

 

強力な制圧戦闘が可能なヘリを有している谷山のチームは、銃手と支援のレンジャー一人で充分だろう。

 

勿論このチームは暫定的なものだ。状況に応じて、柔軟に活用していく。

 

地形が各自のバイザーに転送されているか確認。

 

問題なしという返答あり。

 

「敵数は現時点で、東京全域で1000を超えていて、なおかつ増え続けているようだ」

 

「ひえ……」

 

筅が正直な悲鳴を上げた。

 

黒沢が、眼鏡を直す。

 

「奴らは絶滅危惧種だと言われていましたが」

 

「危惧は必要ない。 絶滅させろ」

 

淡々と。弟が、黒沢に言う。その声はあまり大きくなかったけれど。圧倒的な感情がこもっていた。

 

「イエッサ!」

 

黒沢が、敬礼する。おそらく、戦意を駆り立てられたのだろう。伝説の精鋭であるストームの、現隊長に活を入れられたのだ。当然である。

 

戦場に、突入する。

 

すぐに複雑な通信が、バイザーを行きかい始める。

 

民間人を救助しながら、戦いを開始。

 

七年ぶりだけれど。

 

あまり、感慨は無かった。

 

 

 

マスコミ関係者らしい人間を助けた後、一旦グレイプから離れ。

 

新しく呼び出したキャリバンによじ登った筅が、設置したのは自動砲台。

 

ただ小柄な上、巨大なヘルメットが邪魔して、黒沢に肩を借りてやっと登っていたが。

 

普段は鞄サイズに圧縮されているが、展開されると古い時代の重機関銃を思わせる姿になる。フォーリナーの技術を応用している兵器だ。弾丸類は、空間転送技術により、銃身に直接補充される。

 

敵をオートで認識し、射撃するEDFが開発した強力な火器だ。セントリーガンという。前大戦でも、兵力の少なさを補うために活躍したこの兵器は、その有用性から改良が加えられ、今回も前線にかなりの数が配備されている。

 

キャリバンに据え付けられたセントリーガンが、稼働。

 

咆哮を開始した。

 

敵味方の識別に関して、セントリーガンは類を見ない。弾丸の嵐が、四方の蟻たちを打ち据える。

 

即座に薙ぎ払うほどの破壊力は無いが、足止めできれば充分。

 

キャリバンが走る。敵の足さえ止められれば問題ない装甲を有しているのだ。

 

「嵐特務大尉!」

 

「弟も嵐だ。 はじめと呼んで構わない」

 

「イエッサ! そ、それでははじめ特務大尉、前線に突入します! 支援をお願いいたします!」

 

頷くと、私はガトリングを振り回し、今まさに民間人を捕食しようとしていた蟻に、乱打を浴びせた。

 

当てられるが。

 

しかし重い。

 

それが正直な感想だ。

 

フェンサースーツ用に開発された武器はどれもそうなのだが。とにかく独自の慣性がついていて、重い。

 

これは一種のパワードスーツである事を想定しているからだろうけれど。

 

それにしても、破壊力を重視しすぎていて、少し重いかも知れない。

 

今回私は出撃に際して、ブラストホール・スピアと呼ばれるパイルバンカーに近い兵器と。ガトリングを装備して出てきた。

 

勿論実戦にいきなり持ちだしたわけではない。

 

試験運用は、私自身がこなしている。

 

しかしそれにしても、実戦では妙に重く感じる。これは私が衰えたという事なのだろうか。

 

体は鍛えてきているのだが。

 

ひょっとすると、弟と同じ、老化現象だろうか。見かけだけは老けない体であっても、内部はそうではないと言う事かも知れない。

 

いや、考えにくい。

 

何か理由がある筈だ。

 

キャリバンが前線に出る。

 

今回、最前線に出るのが間に合ったのは、弟と私。黒沢と筅。他のメンバーは散らばって、彼方此方で蟻の駆除作業に当たっている。

 

此処が一番敵の数が多い。

 

他の地域をカバーするように秀爺が支援に当たっていて、今の時点では狙撃支援がないと言う事は。

 

つまり、此処ではかなり優勢と言う事だ。

 

他の戦場。涼川や谷山が指揮している部隊が、手こずっているのかも知れない。

 

だが、それ以上に。

 

私は違和感を感じていた。

 

蟻共の動きが鈍いのである。

 

単独の能力は上がっている。それは散々此奴らと戦って来た私だから、身に染みて分かる。前より明らかに硬い。それだけではなく、動きが速いし酸の射程も上がっている。しかし、である。

 

「これは威力偵察だ」

 

弟が手近な蟻にアサルトライフルの弾丸を叩き込みながら吐き捨てる。

 

私も同感だ。

 

敵の動きが鈍い。

 

攻撃が手ぬるすぎる。

 

蟻どもが、こんな中途半端な攻撃で茶を濁すはずが無い。奴らは人間以上の、組織戦の名手だ。

 

すぐに、通信が入った。東京支部のオペレーターだ。

 

「ストームチーム! 担当地域の制圧は順調ですか」

 

「今、大半は片付けた。 何が起きている」

 

「レンジャー6の担当地域に、数百を超える蟻が突如出現しました! そちらにはレンジャー4を廻します。 すぐに支援に向かって欲しいのですが」

 

「姉貴、行ってくれるか。 俺は残りを片付けたら、すぐに後を追う」

 

任せろ。

 

そう言うと、私はスラスターを噴かし、キャリバンに飛び乗った。レンジャー6の担当地域を確認。此処からだと、民間人を避難させている地域を丁度通る。グレイプを残していくし、問題ないだろう。

 

「黒沢、グレイプを使って救出した民間人を輸送しろ。 輸送次第戻ってこい。 ピストン輸送する」

 

「イエッサ! ただちに」

 

「筅、途中の避難所に民間人を降ろし、そのままキャリバンでレンジャー6の担当地域に向かえ」

 

「イエッサ! すぐに対処します!」

 

弟は残りの敵を一人で相手にする事になるが、これくらいは問題ない。

 

残る蟻は十数。

 

この程度は、弟にとっては、少なすぎるくらいだ。例え二十倍三十倍に増えても、である。

 

民間人を守りきるのも、難しくは無いだろう。

 

咆哮するアサルトライフルAF14の射撃音を背後に、キャリバンを出させる。セントリーガンが黙ったのは、敵の姿を見失ったからだ。砲身を冷やす待機モードに入ったのである。

 

「あー。 此方涼川」

 

「どうした」

 

「旦那から言われて、そっちの支援に行く。 こっちもあらかた片付いたんでな」

 

「全員無事か」

 

涼川によると、ほぼ同数の蟻が、担当地域に出現したという。

 

新人達は多少の怪我はしたが、命に別状は無いと言う。弟以上の高い殲滅力を誇る涼川は、既に敵を潰し終えたとか。新人達は、民間人の救助に全力を尽くしているという。

 

ただし、幾つかのビルも、勢い余って一緒に潰したという。

 

まあ、彼奴らしい。

 

戦闘の余波で周囲に被害が出るのは、仕方が無い事だ。

 

「谷山の担当地域は」

 

「しらねーよ。 ただこっちには爺さん達の支援砲撃は来てないからな。 多分谷山のあんちゃんの所か、他のレンジャーチームを支援してるんだろ。 この手ぬるさ、明らかに陽動だしな」

 

「お前もそう思うか。 私もそう思う」

 

「てか、蟻共が手ぬるすぎるからな。 多分此方の戦力を測った後、弱いところに集中攻撃、って所だろ」

 

レンジャー6から、通信が入る。

 

レンジャーチームは四人一組で行動し、基本は数チームが一つにまとまって、番号を割り振られる。

 

既に新兵で無いから、ベテランの筈だが。

 

その通信は、悲鳴に満ちていた。

 

「此方レンジャー6! 敵の数が多すぎる! 現状では身を守ることさえかなわない状況だ! 一刻も早い支援を頼む!」

 

「ちっ。 案の定だな……」

 

機嫌悪そうに、涼川が舌打ちした。

 

これは手加減をしそうにない。

 

キャリバンが乱暴に避難所に横付け。サイドドアを開けると、医療スタッフが、けが人を助け出す。

 

グレイプがピストン輸送でけが人を此処に運んでくることを告げると、すぐに出る。

 

筅が、不安そうに言う。

 

「はじめ特務大尉、ストームリーダーは大丈夫でしょうか」

 

「彼奴なら心配ない」

 

「でも、今の話を聞く限り、リーダーの所に敵がたくさん沸いてくる可能性もあるのでは……」

 

「それでも心配ない」

 

だから彼奴は、行けと行ったのだ。

 

悔しい話だが。

 

彼奴の戦闘力は、フェンサースーツを着込んだ私より上だ。

 

 

 

敵の群れが凄まじい猛威を振るっている。

 

包囲されたレンジャー6は、悲鳴を上げながら、必死の抵抗を続けていた。航空部隊も、市街地では支援攻撃がしづらい。

 

まだ、市街地の被害を無視して、攻撃しろという指示が上層部から出ていないこともあるのだろう。

 

「突入しろ!」

 

「イエッサ! 行きます!」

 

筅がアクセルを踏み込む。

 

キャリバンの上部に据え付けられたセントリーガンが、再び射程に捕らえた敵に、砲撃を開始。

 

私も、ガトリングをぶっ放し、敵の群れに穴を開け始めた。

 

しかし、先までとは根本的に状況が違う。

 

私が砲撃で穴を開けて、キャリバンが無理矢理突っ込むが。

 

蟻の攻撃密度が尋常では無い。

 

文字通り、雨のように酸が降ってくる。

 

キャリバンが円陣を組んで敵の猛攻を防いでいたレンジャー6と、敵の包囲網の一角の間に割り込む。

 

だが、キャリバンの機体には、既にすくなからずのダメージがあった。

 

セントリーガンも、短時間で砲身が熱くなり、冷却モードに入っている。

 

火力を補うため、私は奥の手を使う。

 

スラスターをふかして跳躍すると、回転しながらガトリングの弾を叩き込んだのだ。蟻の群れが明らかに怯む。

 

十メートルを超える巨体でも、このガトリングの弾は、そう簡単にはねのけられるものではない。

 

着地。

 

弾丸を最装填。これはスーツに組み込まれたシステムが、自動的にやってくれる。その間、前線に飛び込むと、手近な蟻からスピアを叩き込む。

 

勿論蟻共も黙ってはいない。

 

酸の雨の中、私は走る。スラスターを駆使して。

 

眼前の一匹に、真正面からスピアをうち込む。

 

頭が粉砕されても、まだ蟻は動く。

 

十メートルを超える巨体だ。傷口から見える内部構造のグロテスクさも、度を超していた。

 

「負傷者を早く!」

 

迫ってくる蟻を優先して撃ち抜いていくが、それでも相手の数が知れない。

 

しかも、一撃離脱を繰り返しつつ、中距離から酸での射撃を絶え間なく浴びせかけてくる。少し遅れていたら、レンジャー6はひとたまりもなく全滅してしまっていただろう。

 

キャリバンのサイドドアを、筅が乱暴に開く。

 

負傷者を押し込むレンジャー6。とはいっても、全員が負傷者だ。重傷者をどうにか救助した、と言うのが正しい。

 

「戦況は」

 

「既に三名が戦死、西側に展開していた一チームとの連絡が取れません。 包囲に耐えていると信じたいのですが」

 

「……そうだな」

 

この状況だと、絶望的だろう。

 

どうにか合流を果たせた九名が、必死に民間人の退路を作るのが精一杯。逃げ遅れた民間人を救助する暇も無かった様子だ。

 

「キャリバンを後退させろ。 追いすがる敵は私が潰す。 レンジャー6、退路の敵を蹴散らせ」

 

「イエッサ!」

 

レンジャー6の指揮官は、少尉だった。

 

だからこの場合、私の指揮下に入る事になる。

 

かなり厳しい戦況だが、先ほど通信が入った。秀爺の支援が期待出来る。多分極東最強のスナイパーの支援だ。

 

更に、である。

 

西側から突入した涼川が、敵との交戦を開始した。エミリーもいるし、かなりの数を引き受けてくれるはずだ。

 

キャリバンが発車する。

 

内部からは、悲鳴が響き続けている。痛い痛い。叫んでいるのは女性兵だろうか。阿鼻叫喚の様子がうかがえた。

 

さっき避難所に入ったとき、一人救護兵が乗り込んでくれたのだ。これから地獄になる事を、予想してくれていたのだろう。

 

しかし、悲惨すぎる有様に、救護が間に合うかどうか。

 

防護アーマーも万能では無い。

 

蟻の攻撃に晒され、膨大な酸を浴びせかけられた場合。まず酸を除去した後、防護アーマーを解除し、その後傷に処置をしなければならない。この過程で、酷い処置が幾つも必要になる。

 

場合によっては。

 

手足を切りおとすことも必要になる。

 

今はサイボーグ化技術が進歩していて、元と殆ど変わりないパーツを付けられる時代ではあるけれど。

 

それでも、手足を失ったことで心に傷を負う兵士も少なくないのだ。

 

セントリーガンが二機とも沈黙。キャリバンも、それほど早くは下がれない。

 

爆発音。

 

涼川の戦闘音だ。相変わらず派手なことだと私は思った。

 

至近。

 

左側に、私の火力の網を抜けた蟻が一匹。

 

飛び出してきた蟻が尻を持ち上げ、酸を発射する態勢に入る。

 

だが、その頭部が。

 

横殴りの射撃を浴びて、吹っ飛んだ。

 

どうやら、秀爺が間に合ったらしい。秀爺とその妻。香坂夫妻は、ストームチームに欠かせない狙撃手だ。

 

 

 

「4,8,11,7,9」

 

EDF中佐であるジョンソンは香坂ほのかの声を聞きながら、狙撃ポイントとしている三十階建ての高層ビル屋上の周辺確認を続けていた。中佐というと普通指揮官になるのだが、ジョンソンは特殊部隊の精鋭。特殊部隊の中には、階級が上がっても、一兵士と同じ戦場に立つ戦士がいるのだ。

 

その代表が特務に属している連中。そして、特務に属していなくても、階級が少佐以上の人間達。

 

有名な特殊部隊に所属しているのは、大体この手の精鋭士官だ。

 

蟻共が此処に一斉に押し寄せたとき。

 

対処するのが、ジョンソンの仕事だ。そのために、わざわざ本部から持ってきた、強力な武装を担いでいるのだ。

 

零式レーザーライフル。

 

凶悪極まりない熱量を誇るレーザーで、敵を焼き払う兵器だ。

 

しかも使い切りタイプが出回っている中、これはオメガチームにも配備されている、再充填可能なもの。

 

生半可な蟻の群れくらいなら、一息に蹴散らせる武器である。

 

屋上のフェンスは一部に穴が開けられ、其処からライサンダーの長大な銃身が覗いている。

 

腹ばいのまま、射撃を続ける香坂秀夫。側に立ち、スコープを覗いている香坂ほのか。二人とも、標準的なEDFの迷彩レンジャー用戦闘服を着込んでいる。しかし、その実力は、歴戦の猛者であるジョンソンさえ唸らされる。

 

噂以上の手管だ。

 

香坂秀夫が射撃。

 

スコープの向こうで、蟻が一匹、吹っ飛ぶ。

 

文字通り、一撃確殺。今まで動き回る黒蟻相手に、一度も外していない。

 

「2,5,9,22,1,4」

 

香坂ほのかの声は、淡々と続く。

 

信じがたい話だが。これが観測手としての指示だ。いちいち会話するのも面倒くさいらしく、狙撃の際に数字を使った独自のサインを組んでいるらしい。つまりこの数字で、意味が通じている。

 

正確無比な射撃。

 

AI制御でもこうは行かないだろう。

 

無駄口は一切叩かず、香坂夫妻が敵を片付けていく。

 

「! 55,7,1,2,6」

 

何かあったらしい。一瞬だけ、香坂ほのかの声が止まった。

 

バイザーをリンクして、理由が分かる。どうやら黒蟻の一匹が、気絶した民間人の子供を咥えて運んでいる。アーマーは生きているが、巣に持ち帰られてしまえば、助かる可能性は無い。

 

言うまでも無く蟻の目的はそれ。巣に持ち帰って、餌にするつもりだ。

 

狙撃。

 

蟻が吹っ飛び、転がる。

 

流石に十メートルの体躯を誇る黒蟻も、艦砲並みの破壊力を持つライサンダーで胸部を吹き飛ばされれば、即死だ。

 

特に香坂秀夫が使っているのは、世界に七丁しかないZ式のライサンダーである。さすがはマザーシップを落とした部隊に所属している、最精鋭のことはある。この男があのストーム1リーダーという噂もあるそうだが、無理もない話だ。

 

香坂ほのかが、バイザーを抑えて通信をはじめる。

 

「黒沢君、今お手すきかしら」

 

「負傷者を避難ポイントへ輸送中です」

 

「ええ、分かっているわ。 貴方が今一番近いの。 今指定したポイントにて、子供が一人意識をなくしているのよ。 助けてあげてちょうだい」

 

「ストームリーダー、許可を」

 

黒沢は極めて生真面目な青年で、眼鏡を掛けていて口数も少ない。

 

此処でも、指揮系統の通りに動いている。

 

すぐにストーム1リーダーからの許可が出る。別の部隊に任せればいいものをと、ジョンソンは少しだけ思った。

 

「7,9,2,4,0,11」

 

また、数字と。

 

無言の射撃だけの時が始まる。

 

ジョンソンは狙撃銃MMF100を取り出すと、無言のまま、一発放った。更に二発。

 

視界の先で。

 

黒蟻が一匹、死んだ。

 

此方をうかがっていた奴がいたのだ。多分香坂夫妻の狙撃に、勘付いたのだろう。だが、仲間に伝えさせはしない。

 

また、哨戒に戻る。

 

香坂秀夫が、また一匹、黒蟻を撃ち抜いた。

 

見事だ。皆を支えるに相応しい活躍。そして今、ジョンソンはその下支えになって、勝利に貢献できる。

 

不意に、狙撃が止まった。

 

「あら? 撤退をはじめたようね」

 

「ストームリーダー。 此方香坂秀夫」

 

今日、はじめて香坂秀夫の声を聞いた。ごくごく渋い、何処にでもいそうな老人の声である。

 

昔はマタギと呼ばれる猛獣専門のハンターだったらしいこの老人は。

 

今は怪物専門の、狙撃手になっているというわけだ。

 

「おそらく別の地点に蟻が湧く。 今のうちに、担当地域の生存者救出を」

 

「了解」

 

「移動許可が欲しい。 七分後に移動開始し、狙撃地点を変える」

 

ジョンソンは顔を上げた。

 

今は絶好の狙撃ポイントだと思うのだが。

 

しかし、香坂ほのかは微動だにしない。通信を切ると、すぐにまた数字を呟きはじめ、狙撃を再開した。

 

疑念はあるが、この老夫婦の判断力に、高い信頼を置くことにしたジョンソンは。

 

黙って、周囲の哨戒を続けた。

 

ひょっとするとストームチームの本当の意味での頭脳は、この二人なのかも知れない。

 

 

 

レンジャー6の担当地域を大挙して襲撃していた蟻が、潮が引くようにして逃げていく。

 

フェンサースーツのスラスターをふかして滞空しながら、私は唸った。民間人を捕獲した蟻がいればその場で打ち抜こうと思ったのだが。少なくとも、視界の範囲内では、レーダーに映っていない。

 

秀爺から連絡があったが、私も同意見だ。

 

「た、助かった、のか」

 

レンジャー6の隊長がぼやく。

 

だが、それは此処だけの話に過ぎない。

 

蟻がどこから湧いてきたかを確認するのは、偵察専門のスカウトに任せる。スカウトは優秀だ。以前はスカウトの探索不足で不意打ちを食らうこともよくあったけれど。近年では偵察技術や機器類の進歩によって、以前のような奇襲を受けてオペレーターが罠を警告してくる頻度は著しく減った。

 

「すぐにタンクデサンドして、避難所へ。 後は任せろ」

 

「しかし」

 

「全員が手酷く負傷しているではないか。 それに、おそらく蟻は此処への襲撃をもう仕掛けては来ない」

 

少しだけ躊躇った後、レンジャー6隊長は、部下達を促してキャリバンに乗り込む。

 

乗り切れない人数は、キャリバンの上に這い上がった。

 

いわゆるタンクデサンドだ。

 

古い時代、戦車に兵士達が跨がって、大挙して敵陣に乗り込むこのやり方は、愚策の代表とされた。

 

今の時代は、逆に戦術の一つとして認められている。歩兵の防御力が著しく向上しているため、メリットが大きいのだ。

 

筅に指示。すぐに避難所に向かうように。

 

そして、新しいキャリバンを持ってくるか、グレイプに切り替えるか、どちらか。

 

頷くと、筅はキャリバンを発進させた。

 

さっきまでの突破戦では無いから、全速力で行ける。残った私は、すぐに涼川と連絡を取る。

 

「そちらは」

 

「あー、ビルの一角に逃げ込んでたレンジャー6の支隊を発見。 四人の内二人は生きているが、残り二人はジュースだ」

 

「そうか。 二人生きていただけでも僥倖だな」

 

「すぐに本部に連絡して、救援を呼んで貰ってくれ」

 

自分たちで救助しないのは、秀爺の通信を聞いているからだ。すぐに他の地域に、蟻が強襲を仕掛けてくるはず。

 

日高の所のオペレーターが、通信を寄越した。

 

「そちらに、レンジャー9を廻します。 救助活動は彼らに任せて、すぐに移動をお願いいたします」

 

「やはり来たか。 今度は何処だ」

 

「レンジャー12の担当地域です。 敵数は数百!」

 

「休んでいる暇も無いな」

 

幸い、今の時代、残弾については気にする必要もない。

 

フォーリナーの技術を利用して作られた武器の中には、弾丸を自己生成するものも多いし、本部の弾薬庫から空間転送するものもある。

 

ただ、銃身の摩耗に関しては、そうもいかない。

 

私は幸い今のところ銃身に被弾はしていないが。ただしフェンサースーツのダメージは、少しずつ、確実に増していた。

 

弟だって、全ての攻撃を回避できるわけじゃあない。アーマーにも限界がある。いつまでも、敵の波状攻撃には対処できない。

 

不意に、上空からローター音。

 

見上げた先には。

 

制圧輸送ヘリ、ブルートの巨体があった。谷山だ。

 

「拾いに来ました、ストームリーダー姉。 私の担当地域は制圧完了しましたので」

 

「その言い方は止めろ」

 

げんなりして、私はぼやいた。

 

昔から此奴は、非常に紳士的な言動を取るのだけれど。その一方で、私を独特の妙な渾名で呼ぶ。

 

スラスターをふかして上昇。

 

銃手になっていたのは、池口だ。そのままブルートのサイドから乗り込むと、敬礼される。

 

きゅっと口を引き結んだ池口は、初陣にしてはかなりよくやっていると、谷山に言われて、真っ赤に赤面した。

 

どうやら対人関係が、色々と苦手らしい。

 

特に他人と喋るのが、あまり得意ではないようだ。

 

覚えが早いとは言いがたいが、一人で黙々とする作業に関しては、かなり適正が高いとみた。

 

今後も、大型兵器の銃手を任せると、良い動きをしそうである。

 

更に、涼川の所へ移動。

 

涼川とエミリー、三川と原田を拾う。

 

ちょっとぎゅうぎゅう詰めだが、このまま移動する分には問題ない。

 

「で、今度はレンジャー12が襲われてるって? まるでモグラ叩きじゃねーか」

 

「ミス涼川、モグラタタキとは何ですか?」

 

「そう言う遊びがあるんだよ。 今度ゲーセンに行く機会があったら教えてやるぜ」

 

「ワオ、興味深いです」

 

脳天気な会話をしている涼川とエミリー。

 

何だか知らないが、もう仲良くなっているらしい。涼川は戦場では獰猛だが、平時では意外に面倒見が良くて、周囲との軋轢も思ったほどは起こさない。

 

そして今でこそ、ヤクザの情婦みたいな見た目だが。

 

昔、フォーリナーとの最初の戦役のころは。少し眉毛が太いが、吃驚するほどの美少女だった。

 

涼川が羨ましいと思うときがある。

 

ちゃんと成長できるのだから。

 

弟のように急激に老けるわけでもなく。

 

私のように、老ける事が出来ないわけでもない。

 

年相応に老いて、生きることが出来る。それだけのことが、どれだけ幸せだろう。

 

黒沢と筅、更に弟は合流が難しそうだ。まだ負傷者の対処に当たっているからである。ただ弟は、此方にもう向かっているかも知れない。

 

いずれにしろしばらくは、此処にいる人員だけで、敵に対処しなければならないだろう。

 

「あーあー。 此方小原」

 

通信に、声が割り込んでくる。

 

この声は聞き覚えがある。日高の所に顧問としてきている、フォーリナーの研究者、小原のものだ。

 

研究者が何用だと思ったが、好きに言わせておく。

 

ブルートは作戦ポイントに向けて、黙々と飛行を続けていた。

 

「私はフォーリナーの専門家だ。 兵士諸君のアドバイスに当たりたい」

 

まあ、話半分に聞いておくか。

 

上空から見ると、せっかく復興しはじめた街が、台無しにされているのがよく分かる。

 

彼方此方で煙が上がり、戦闘音はひっきりなしに続いている。

 

涼川は興味が無い様で、持ち込んでいる大威力火器、スタンピートの手入れを続けていた。

 

「前線に出て、巨大生物の死体を確認した。 七年前の戦役に比べて、かなり強力になっていることが分かった。 装甲は厚くなり、酸の量は増え、牙も鋭くなっている。 しかし、七年でEDFの装備も以前とは比較にならないほど強くなっている。 巨大生物への対応マニュアルも整備されている。 君達なら勝てる。 最善を尽くして欲しい」

 

「ハッ」

 

呆れた様子で、涼川が吐き捨てる。

 

私も同意見だ。

 

確かに理論的にはそうだろう。しかしながら、今EDFの主力になっているのは、七年前を生き延びた精鋭では無い。

 

その後、新兵として採用された、実戦経験がない戦士達ばかりなのだ。

 

指揮官級は流石に違うが、それでも理論通りに事は進まない。指揮官は戦場で重要だけれども。

 

指揮官だけでは、戦争は出来ないのだ。

 

「間もなく、桐川航空基地から、ウィングダイバー隊が救援に来る。 そうなれば、一気に戦況は好転する。 それまで、持ちこたえて欲しい」

 

今、各部隊に少数だけ派遣されているウィングダイバーではなく、専門の部隊が来る、というわけだ。

 

確かに汎用性の高いレンジャー部隊に比べて、対巨大生物に特化したウィングダイバーは、敵の制圧能力が高い。

 

しかしながら、である。

 

敵の数が数だ。

 

そう上手く行くだろうか。

 

「本部、此方ストーム嵐特務大尉。 民間人の救助と避難を急いで欲しい」

 

「何か懸念が?」

 

「敵は威力偵察を行って、此方の弱点に兵力を集中運用している。 民間人を救助しながらだと、後手後手に廻る可能性が高い」

 

「分かりました。 可能な限りのキャリバンを出して今対処中ですが、グレイプも救助支援に廻します」

 

頼むと言って、オペレーターとの通信を切った。

 

そろそろ、戦地に着く。

 

レンジャー12に通信。まだ指揮系統は生きているようだ。

 

「此方レンジャー12! 敵のデータが訓練と違う! 攻撃力も防御力も、データよりずっと大きい!」

 

「対抗戦術については変わらない。 冷静に対処しろ。 間もなく援軍が行くから、踏みとどまれ」

 

「し、しかし! 奴ら人間を軽々持ち上げて! ぎゃああああっ!」

 

既にレンジャー12は、包囲されているようだった。

 

蟻は中距離から容赦なく酸を浴びせて、戦闘力を削ぎに掛かっている。エミリーが無言で飛び降り、慌てて三川がそれに続いた。

 

「ヒャッハア! 千客万来だぜ!」

 

涼川が飛び降りる。本当に戦闘が好きなのが、目の色が変わっていることからもよく分かる。

 

私も、原田に言う。

 

「アーマーの性能を信じろ。 この程度の高度なら、ダメージは受けない」

 

「イエッサ!」

 

飛び降りる原田。

 

此奴は、尻を叩けば動けるタイプだ。

 

池口には、そのまま銃手になって貰う。ヘリの操作に関しては、谷山の右に出るものはいない。任せておいて大丈夫だろう。

 

「行ってくる」

 

「支援は任せてください、ストームリーダー姉」

 

「だからその呼び名は止めろ」

 

うんざりしながらも、私は飛び降りると。

 

空中でガトリングをぶっ放し、包囲網を形成している蟻の頭上から、猛射を浴びせかけた。

 

 

 

キャリバンが戦場に飛び込んでくる。

 

運転しているのは、筅だ。キャリバンも新しいものに変えた様である。

 

サイドのドアを開けると、救護要員が飛び出してくる。

 

呻いている重傷者を収容。退路は確保してあるが、蟻の動きが速い。見る間に左右に展開して、キャリバンを狙い撃ちにしてきた。

 

守らざるを得ないと、知っているのだ。

 

この短時間で、キャリバンが救護に当たる車両だと、見抜いたことになる。この学習能力、生半可な人間以上だ。

 

既に三度戦場を転進。

 

レンジャー12を救援した後は、レンジャー5。更に今は、レンジャー19の救援に当たっている。

 

蟻の数は、全域で見れば増える一方。

 

既に1000どころか、3000を超えているようだった。把握していない分を含めると、多分五千を超えるだろう。

 

このため、合流しては散開を繰り返さざるを得ず。休憩など、する暇も無かった。

 

勿論極東支部も、周囲のレンジャー部隊をかき集めている。

 

既に機甲部隊も出始めているようだけれど。何しろ人手が足りていない。蟻の数に比べて、味方の兵力が少なすぎるのだ。

 

幸い、民間人の救助に関しては。もうある程度完了している。

 

後は制圧作業だけなのだが。

 

それが難しくなりつつある。

 

ストームチームがどれだけ働いても、全ての部隊を救援できるわけでは無いのだ。

 

ただし、味方が全て不甲斐ないわけでもない。

 

ベテランに率いられた部隊は、かなり敵と良い勝負もしている。機甲部隊も、敵の駆逐作戦を開始していた。昔と違い、MBTギガンテスは蟻の群れと互角に戦える性能を有しているし、人型戦闘ロボットであるベガルタも、乗り手はエース揃いだ。一機で多数の蟻を同時に相手取れる。

 

ただ全域で見れば、互角には届かない。

 

かなり敵に押されているとみて良いだろう。

 

まだ、巨大生物が現れただけ。

 

それも、尖兵である黒蟻だけなのに。この戦況は、良いとは言えない。そう冷静に、私は判断していた。

 

グレイプが来る。黒沢か。

 

速射砲を乱射して、キャリバンを狙っている黒蟻を掃討。蟻たちは不利とみるや、さっと逃げ散っていく。

 

追撃の余力は無い。

 

それを知っているのだ。

 

「忌々しい奴らだな」

 

私は吐き捨てるけれど。どうにもならない。

 

味方の戦力は集中を開始していて、今までのように敵に好き勝手はさせなくなり始めてはいるが。

 

それでもやはり、敵の巨大さにパニックを起こした兵士や。

 

データと違う事に対応できない者は。

 

次々と、敵の牙に掛かっているようだった。

 

それに、対応できない地域に関しては、撤退せざるを得ない。敵の手に落ちた地域は、確実に拡大を続けている。

 

オペレーターが、通信に割り込んでくる。

 

「敵に制圧された地域を転送します」

 

「……」

 

東京の西側が、かなり赤くなっていた。

 

いずれもEDFの東京基地から離れた地域だ。今、錯綜した情報を、必死に本部が解析しているところなのだろう。

 

全世界で同時に蟻が現れたという話も聞いている。

 

おそらく、蟻が現れた地域に関しては、何処も同じような有様の筈だ。

 

「次の支援は何処に向かえば良い」

 

「今、指示します。 民間人が孤立している地域があり、其処へ救援を送る予定なのですが、また蟻の群れが現れてそちらに対処をせざるを得ず」

 

涼川言う所の、モグラ叩きだ。

 

もっとも私自身は、そのモグラ叩きなるゲームがどういうものかは知らない。忙しくて、涼川に何度か誘われはしていたのだけれど。結局ゲームセンターに行く機会はなかったのだ。

 

データが転送されてきた。

 

今、七カ所ほど、退路を確保するために再制圧が必要な地域がある。

 

半数ほどは、レンジャーチームを幾つかまとめて対処するようだけれど。残りはストームチームでやらなければならない。

 

しかもこの地域、可変化する可能性が高い。

 

蟻はおそらく、意図的に孤立させた地域を「襲っていない」。

 

此方の戦力を削ぐために威力偵察の後の強襲。そして今度は、此方の選択肢を限定した上で、誘い込もうとしてきている。

 

その証拠に、今まで激しい戦いを意図的に避けている。

 

強敵に関しては消耗を誘い。

 

弱敵に関しては、即座に消す。

 

そうすることで、此方の戦力を削ぎに掛かっているのだ。

 

とにかく、言われるまま移動するほかない。

 

グレイプに乗り込む。筅はまた避難所にUターンだ。キャリバンが遠ざかっていくのを横目に、弟に通信を入れる。

 

ただし今回は、割り込み無しの独自回線だ。他の誰にも会話は聞かせない。

 

「そちらの状況は」

 

「姉貴と似たようなものだな。 既に四ヶ所の敵を制圧した」

 

「お前一人でか。 衰えていないな」

 

「姉貴も試験運用段階のフェンサースーツで、よくやっているじゃないか」

 

弟の戦闘力は、群を抜いている。

 

それにしても、相変わらず圧倒的だ。話を聞く限り、弟とは次の戦場で、合流を果たせそうである。

 

「それにしても、この状況をどう思う」

 

「相変わらずえげつない戦術を使う忌々しい奴らだ。 戦力を削れるだけ削ったら、巣に戻ってゲリラ戦に徹するつもりだろうな」

 

「そして本隊の到着を待つ、か」

 

「少なくとも、俺ならそうする」

 

私もそうするだろう。

 

蟻共の巣は、バンカーバスターでどうにか出来る様な代物では無い。とにかく深い上に、頑強極まりないのだ。

 

蟻の巣を潰すには、手は一つ。

 

奥まで潜って、女王を倒すしかない。

 

全長十メートルの蟻の女王である。

 

私も何度か交戦経験はあるが、全長六十メートル以上という、怪獣の様なサイズの化け物だ。

 

しかも黒大蟻などの、現実に存在する蟻の女王とは違う。本体がとんでもない攻撃能力の持ち主で、文字通り巨大生物の主と呼ぶに等しい存在なのだ。

 

「姉貴、気をつけろ」

 

「嫌な予感がするのか」

 

「ああ。 どうにも敵の動きが恣意的な気がする。 勿論奴らには高い集団的な知性があり、人間以上の組織戦をこなすことが分かっている。 だが、どうにもそれ以上の、強い悪意のようなものを感じるのだ」

 

「心しておく」

 

通信を切る。

 

無言のままグレイプを運転している黒沢が、眼鏡を直した。

 

「先ほど谷山特務少尉との通信を聞いたのですが、はじめ特務大尉は女性だったのですね」

 

「それがどうかしたか」

 

「いえ、以前からそうだとは思っていましたが」

 

まあ、見抜いている奴がいてもおかしくはないだろう。

 

機械音声で喋っていても、どうしても動作などで、見抜かれる部分は出てくるのだ。

 

「ただ、今時女性兵士は珍しくありません。 何故、素性を隠すような真似を?」

 

「色々と理由がある」

 

「そうですか。 それならば詮索はしません」

 

「現場に急げ」

 

しばらく、会話が切れる。

 

しかし、不意にまた黒沢は喋り出す。

 

「貴方が、伝説のストーム1リーダーですか?」

 

「いいや、それは違う」

 

「そうなのですか。 どうも情報が錯綜していましてね。 僕もストーム1リーダーには憧れていた口です。 もし当人に会ったのなら、戦術などのレクチャーを受けたいとかねがね思っていました」

 

理由がいちいち此奴らしい。

 

弟が今の話を聞いたら、苦笑するだろう。

 

勿論、此奴が本当のことを言っていたら、であるが。

 

弟の正体はトップシークレットだ。だから前回の大戦で、マザーシップを撃墜後、爆発に巻き込まれてMIA(失踪扱い)となったのだ。

 

実際の弟は生還して、特務少佐という地位に就いているが。

 

それはあくまで、英雄とは別人として、である。

 

人間は愚かな生き物だ。

 

歴史上最強最悪の敵に襲撃されて。団結しなければ、滅んでしまう時期にあっても。まだ個人の利権を求めて、好き勝手をしようとする。

 

恐怖に駆られて、弟を軟禁したEDF本部の判断は、ある意味で正しかったのだとも言える。

 

英雄ストーム1リーダーと、到来した平和は。

 

共存が不可能だっただろうから。

 

「そろそろ、戦地に到着します」

 

今日、何度目の戦闘だろう。

 

私はぼやきながら、グレイプのサイドドアを開け。外に乗り出した。

 

無数の蟻が、制圧した地域を我が物顔に闊歩している。ガトリングを咆哮させ、薙ぎ払いはじめる。

 

すぐに反応した蟻共が。

 

一斉に、此方へと攻撃を開始していた。

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