地球防衛軍4二次創作 2025絶滅螺旋 作:dwwyakata@2024
そこに、ついに本命が登場します。
蜘蛛の王。
文字通りの魔王のような威容を誇る、超巨大蜘蛛型巨大生物です。
それも一体ではありません。
間断なく続く敵の攻撃。
飛来する糸。
アーマーで防げると言っても、限界がある。集中攻撃を浴びると、瞬時にアーマーが全損して、即死するケースもある。
だから皆必死。
しかし、敵は死を怖れず、確実に、着実に攻めてくる。糸が外壁も、激しく傷つけてくる。相当な運動エネルギーを内包しているのだ。外壁でも、ダメージは、決して小さくはないのである。
味方が疲弊する中、敵の数は衰える様子も無い。いわゆる波状攻撃を繰り返しながら、戦力を呼び集めているのだ。
ネレイドが戻ってくる。
弾薬を使い尽くしたのだろう。弾薬を補給したら、すぐに再出撃だ。既に涼川も、スタンピートをぶっ放して、攻撃に加わっている。
凶蟲は意図的に、ストームチームがいる地点以外に猛攻を加え。
私や弟、涼川などのベテランが向かうと、さっと引いて、別地点での攻勢を始める。完全に振り回されているのが分かっていても、どうにも出来ない。
ヒドラが来る。
本部が慌てて寄越した増援部隊だろう。しかも、中間の補給地点が少し前に潰されたため、遠距離を無理矢理飛んできたことになる。
到着できて良かったと喜ぶべきか。
それとも、敵がわざと通したと考えるべきか。
「蜘蛛王が来たぞ!」
誰かが叫ぶ。
私が現地に向かうと。確かに、その巨体は、圧倒的な威容を見せつけていた。
足を広げると、八十メートルを超える化け物。しかも、それは前大戦のデータ。今見えている蜘蛛王は、更にそれ以上に大きい。
おそらく足を広げると、幅が百二十メートルに達するはずだ。
その巨体、地球上に存在した、あらゆる生物を軽々と凌いでいる。怪物の中の怪物である。
ネレイドは絨毯爆撃をしているが、それでもとても敵を削りきれない。
蜘蛛王はむしろ、爆撃など意に介さないという風情で、悠々と進んできていた。しかも、三匹以上いると、報告も受けているのだ。
一旦外壁の上に退避。
アーマーの替えを装備。迫撃砲を外し、ディスラプターに変える。ガトリングは。どうするべきか。
少し悩んだ後、まだテスト段階の、新型ガトリングを試すことにする。
今は実験を行うには最適の状況だ。
秀爺の所に行く。丁度、三人は動くところだった。
「行くぞ」
「はい、あなた」
秀爺が腰を上げる。ほのかは、笑顔を保ったまま、一緒に歩き出す。こういう所も、長年連れ添った老夫婦らしく、息はぴったりだ。
手にしているのはライサンダー。黒沢が、バイザーを直す。
「先ほど香坂夫妻と話しました。 僕が周囲の敵を撃ちます。 香坂夫妻は、あの蜘蛛王の相手に専念するとか」
「分かった。 前衛は私が務める」
「……お願いします」
黒沢がぺこりと一礼。
外壁の上に柊が上がってきている。膨大な凶蟲との戦闘を、怖れている様子も無く撮影していた。
「此方北京基地。 EDFは中国地区にある敵巣穴を叩くために攻撃部隊を集めていますが、それを事前察知したらしいフォーリナーの猛攻に晒され続けています。 敵の中には、全長五十メートル、足を広げると百メートルを超える怪物が複数いる模様です。 EDFは善戦していますが、敵の凶暴な戦略と数の前に、中々血路を開けずにいるのが現状のようです」
戦況報道としては、別に文句は無い。
柊は淡々としていて、自分の感情を入れず報道をしている。其処は、正直、生半可なジャーナリストでは真似できない、立派なところだ。
だが、気分を逆なでするようなことも、平気で言う。
「全世界に拡がったアースイーターは、地球上で激しい砲撃を繰り返しており、支配下に取り残されてしまったシェルターも多数あります。 激しい通信妨害が行われており、取り残されたシェルターの安否は絶望視されています。 現状、全世界にあるシェルターの半分が、既に絶望的な状態だとさえ言われています」
外壁を、飛び降りる。
迎え撃とうとした凶蟲の群れにガトリングを浴びせる。反動が強烈で、非常にピーキーな代物だ。新型はいつもこう。必ず、何かしら大きい欠点がある。
ブースターを吹かし、突貫。
敵陣に切り込むと、ハンマーを振るって、衝撃波で敵を叩き潰しはじめる。吹っ飛ぶ敵には目もくれず、スラスターとブースターを全力で吹かし続け、敵に対して殺戮の雨霰を降らせる。
巨大蜘蛛、通称蜘蛛王が、此方に反応。
まるで大砲のように、膨大な、極太の糸を一気に放ってきた。
貰えば、このフェンサースーツでも一撃貫通しかねない。着弾した地点が、砲撃にでも晒されたような轟音を上げる。
蜘蛛王の顔面に、秀爺の狙撃が着弾。
複眼の一つに直撃して、弾かれる。アーマーにダメージが吸収されたのだ。周囲の凶蟲に、黒沢が無差別射撃を加えはじめる。
蜘蛛王が、秀爺に向き直ろうとするが。
間合いを詰めた私が、側頭部をハンマーで張り倒す。流石に巨体が、揺らぐ中。私はブースターで上空に逃れ、ガトリングで掃射。無数の弾が蜘蛛王に直撃するが、その程度ではダメージにもならない。
鬱陶しそうに、蜘蛛王が跳躍。
直上に、凄まじい勢いで跳んだ。
スラスターをふかして逃れるが。
蜘蛛王はそのまま体をくの字に曲げ、四方八方に、膨大な蜘蛛糸をまき散らしたのである。
外壁上にも、多数着弾。
爆発が、何カ所かで上がる。秀爺は、無事か。
ライサンダーの射撃。
蜘蛛王の顔面に、もう一撃。空中で体勢を崩した巨体に、スラスターを吹かしながら、ガトリングを浴びせ続ける。
足を広げ、ゆっくり落下しながら、蜘蛛王はまた膨大な糸を発射。再び、外壁上が、阿鼻叫喚に包まれる。
セントリーガンも、かなりの数が、二度の砲撃で吹き飛ばされた。
基地内から、ネグリングがミサイルをうち込み続けているが。直撃もしているが、まるで効いている様子が無い。
確実に進み来る蜘蛛王。着地した奴の上に躍り出ると、私は、ディスラプターを起動。押さえつけるように、灼熱を浴びせかけた。
流石に蜘蛛王も、これは危ないと感じたのだろう。
身を揺すって、私を吹っ飛ばす。足の一本が振るわれて、私を直撃。吹っ飛ばされ、外壁に叩き付けられる。
だが、その時。
三射、いずれも完全に同じ位置を。
秀爺が、ライサンダーで狙撃。今度こそ、携行式艦砲と言われるライサンダーの弾丸が、巨大なる蜘蛛の王の顔面を、貫いていた。
凄まじい音。
それが蜘蛛王の悲鳴だと、壁に叩き付けられて、立ち上がろうとしていた私は、随分長い間気付けなかった。
更にとどめの一撃。
蜘蛛王の顔面が半ば砕け、白濁した体液がぶちまけられる。
流石に轟沈する蜘蛛王。
これで、どうにか一匹か。
「はじめ特務少佐、急いで上に!」
上で、矢島が援護してくれている。まだ生きているブースターを吹かし、浮上。外壁の上に逃れると、周りを見回す。
思わず、大きく嘆息した。
辺りは地獄絵図だ。
二度の砲撃だけで、かなりの味方が死傷した。担架で運ばれて行く中には親城准将の姿もあった。
外壁から落ちた兵士は、なぶり殺しの目にあったようである。
助ける余裕は無かった。
私自身も、蜘蛛王の足の直撃を受けた。すぐに病院に向かわされる。
病院で検査すると、アーマーは瞬間全損。スーツもやられていて、体にもかなりのダメージが出ていた。
弟が通信を入れてくる。
「少し前に、俺が蜘蛛王を一匹潰した。 姉貴は無事か?」
「無事では無いが、何とか生きている。 お前は相変わらずの腕だな」
「運が良かった。 筅が気を引いてくれたところを、至近からフュージョンブラスターで焼き払った。 谷山も一匹潰したそうだ。 相性が良いネレイドでも、かなり危なかったらしい」
現に、一緒に戦っていたネレイド一機は、撃墜されたらしい。
勿論、操縦者は戦死。凶蟲の海に投げ出されて、助かるはずもない。
「後は俺がどうにかする。 姉貴は休んでいてくれ」
「お前こそ、無理だけはするな」
「分かっているさ」
通信が切れる。
弟も、敵の群れの中に飛び込んで、暴れ回っているらしい。主力である三体の蜘蛛王を失った敵も、攻撃の手を休めない。
治療が終わる。
骨は折れていないが、回復カプセルに入った方が良いと言われたので、そうする。カプセルに入って、酸素濃度を上げた急速回復モードに設定。其処でしばらく、うつらうつらとさせて貰う。
ぼんやりしながらも、通信は聞く。
やはり、四匹目の蜘蛛王が現れたという。
涼川が今度はスタンピートを浴びせかけ、爆殺。原田もかなり良い活躍をしたと、涼川は喜んでいた。
外壁の一部の守りが破られ、凶蟲が侵入。
内部に残っていた部隊が応戦、全滅させた。同じ事が二度起きる。配置されているセントリーガンも、既に全滅状態。
敵が引き上げはじめたという報告が何度かあったが、それはいずれも早とちりだった。敵の波状攻撃が、続いているだけだ。
そして、最悪の凶報が来る。
無理矢理修理して前線に出ていたプロテウスが大破。
膨大な凶蟲の攻撃を浴びた結果だ。
操縦していたエッケマルク中将は生死不明。起きようかと思ったが、医師がカプセルの外からロックを掛けていて、出られなかった。
弟がいるのだ。
味方は負けない。信じて、待つことにする。
呼吸を整えながら、外壁の下にある死体の山を見つめる。
ようやく敵が撤退したのは、攻勢開始から丸二日。敵は数千の死体を残していったけれど。味方も、相当数が戦死した。外壁も何度も破られて、かなり危ないところまで押し込まれた。
はやめにはじめ特務少佐と香坂夫妻が蜘蛛王を倒さなければ、北京基地は陥落した可能性が高い。
運転は得意だけれど。
まだまだ腕前が良いとは言えない私は、こういうときはあまり役に立てない。側で戦っていたジョンソンさんが、零式レーザーの様子を確認しながら、私を一瞥した。
「日高少尉。 一度戻って、休んでこい」
「でも、また敵が来るかもしれないです」
「いや、それはない」
ジョンソンさんは明言。
今までに撃退した敵の数を考えると、これ以上の攻勢を掛けてくる可能性は低いというのだ。
確かに長時間での戦闘で、二千いや三千以上の凶蟲を倒したはず。昨日までの戦闘を考えると、もう敵の損害は、五千か六千以上に達しているはずだ。
ジョンソンさんに言われたとおり、病院に向かう。体力には自信があるのだけれど、流石に疲れが溜まっているのが分かった。
回復カプセルから出てきたばかりのはじめ特務少佐とばったり。
頷き合うと、診察を受けた。
診察の結果、軽く回復カプセルに入れば大丈夫と言われたので、そうする。しばらくぼんやりしている。何だか眠くなってきたので、そのまま無心に眠る。
目が覚めると。
既に、七時間以上が経過していた。
無理もない。カプセルで無理矢理眠りながら、ずっと徹夜を続けていたも同然なのだから。
起き出して、軽く診察を受ける。
すっきりはしていたけれど。数日は無理をしないようにと、医師に言われた。
辺りは地獄絵図だ。
病院内では、手足を失った人をサイボーグ化したり。血だらけの手袋を、バケツに捨てたりしている。
物資は足りている。
病院は規模拡張と、搬入された機材で、どうにか平気。酷い状態の患者は、ヒドラが引き取って、極東の東京基地に移されていった。
一時期、エッケマルク中将が戦死したと噂が流れていたけれど。
先ほど、すれ違った。
重傷を受けたらしいのだけれど。元々私以上に頑丈な人らしく、今はもう平然と歩き回っているようである。
たくさんの人が死んだ。
それ以上の凶蟲も。
でも、戦いには勝った。これから、敵の巣を攻めるとなると、先ほどまでの戦いで出た以上の死者が出る。
絶望が胸の奥に、黒い染みになっているのが分かる。
兵士達の噂話が聞こえてくる。
「グエン准将、戦死したらしいぜ」
「ああ、聞いてる。 四匹目の蜘蛛王との戦いの最中、流れ弾に当たったんだろ?」
「しかも逃げようとして、背中からだってんだから救えないな……」
そういえば。
話には聞いていた。東南アジア地区から来ていたグエン准将が、なくなったというのだけれど。
彼はこの戦いに反対していて、撤退するべきだと言っていたのだとか。
そんな彼が戦死したのだ。良くない噂も、きっと流れるはず。私はげんなりするというよりも、悲しくなって、その場を離れた。
その時、である。
地面が揺れる。
あまり長い揺れではなかったし。長時間も続かなかったけれど。周囲の兵士達は、思わず立ち上がったようだった。
地震ではないなと、私は判断。
同時に、連絡が来る。ストームチーム、集合せよというものだ。
すぐに、外壁の上に出る。
辺りは死体だらけ。流石にもう味方の死体は袋に入れられて運ばれているけれど。凶蟲の死体は、まだ残っていた。
外壁にへばりつくように死んでいる凶蟲もいる。
平然としているベテランと。もう真っ青で、すぐにでも吐きそうな他メンバーの対比が目立つ。
ただ、敵を怖れているメンバーは、いない。
それは私が、肌で分かる。
「朗報がある」
ストームリーダーが咳払いして、内容を伝えてくれる。
先ほどの揺れと、それは関係していた。
「此処から西にある敵巣穴を、先ほど攻撃した。 衛星兵器ノートゥングからの戦略爆撃だ」
「地底にある敵の巣を、ですか?」
「そうだ。 それで分かったことがある」
衛星写真が、バイザーに転送されてくる。
流石に強烈な一撃を受けたのだ。敵が出てきて防衛体制に入るとか、或いはシールドベアラーとかが出てくるとか。何かアクションがあるだろうに。全く、それらしいものがないのである。
更に周辺写真も出る。
かなり解像度は粗いが。しかし、真っ先に、ナナコが優れた視力を使って、看破した。
「これは、攻撃の前には、無人というか無蟲だったのではありませんか?」
「そう言うことだ。 我々は空っぽの敵の巣穴に踊らされ、兵力を集中させられていた、という事になる」
「全く、巫山戯た事をしてくれやがる」
ぞくりとするほど低い声で。
隣で、涼川さんが笑っていた。凶暴なそのほほえみを見て、怖がらない人なんてきっといないだろう。
「なあ旦那。 今すぐ敵をブッ殺しに行きたい」
「すぐに機会が来るから、少し待て」
「本当だな?」
「ああ。 いずれにしても、この基地からはもう撤退する。 おそらく敵は、東南アジア地区との境にある巣にほぼ全てが移動したとみて良い。 北京基地へ執拗に続けられた攻撃は、おそらくそれを悟らせないためのフェイクだ。 元々通信妨害で、敵の様子はよく分からなかった状態が続いていた。 その隙を突かれたとみて良い」
荷物をまとめ、撤退に備えろ。
解散。
ストームリーダーが言うと、全員がどっと疲れた顔で、外壁を降りはじめた。おそらくこの基地は、放棄することになるのだろう。
この基地は元々、北京西にある敵の巣穴。それも、蜂がたくさんいる事が確実視されていた巣穴を攻略するために、必死に守られてきたものなのだ。今は補給線も伸びきっているし、敵があっさり「餌」の巣穴を放棄した時点で、戦略的価値もなくなった。近隣のシェルターも、もう退避が済んでいる。
これで、中国地区は事実上陥落である。北京基地には、犠牲を出してまで守る意味がなくなったからだ。
いにしえの時代だったら、それでも守る意味があったかも知れないが。今は人類の人口が二十億を切り、宇宙人との総力戦をしている時代である。しかも戦略でも戦術でも、敵は人類の上を行っている。
合理的に判断しなければ、勝てない。
合理的に判断したって、勝てない相手なのだ。感傷を先に出していて、どうにか出来る相手ではないくらい、頭が悪い私にだって分かる。
今回だって、戦略面で結局敵の手玉に取られて、追い込まれてしまっているではないか。
次は、東南アジア地区に移るのかな。そう思って、ヒドラに向かうと、ナナコが側に来た。
一緒に歩いて、私の顔を見上げているときだけ。敵への殺意もない。子供らしい、可愛い子になる。
「日高少尉、次の戦いは、多分また極東だと思います」
「どこからか聞いたの?」
「そうではないんですけれど。 東南アジア地区に戦力を再配備するとなると、かなり時間が掛かりますから、ストームチームの出番はきっとその後です。 それよりも、極東にも出現しはじめているアースイーターを相手に、実験的な撃破作戦をするって聞いていましたので」
そういえば、そんな話も聞いた。
しかしこの子は、幼い頃から、戦闘に頭が特化しているのだなと、思い知らされる。基本的に何もかもが、戦闘を中心に廻っているのだ。
そうなると、次は噂に聞く岐阜か。
あの作戦は、親城准将が提案して、実施に移すと聞いていたのだけれど。肝心の准将が、今回の戦いで酷い負傷をした。すぐに復帰出来るか分からない状態だ。それに、アースイーターと本気で殴り合うなんて、ぞっとしない。
ヒドラの側にある宿舎に入る。ストームチームは殿軍だ。他の部隊が全て撤退してから引き上げる。
重機がフル活動して、電子機器から発電機まで取り出して、ヒドラに積み込んでいる。本当に何もかも、持っていくのだ。無駄にする物資など、ひとかけらもない。当然のことだろう。
地上部分は最終的に爆破処理もするらしい。
敵の巣穴化したら面倒だし、当然の話だった。
それにしても、アースイーターの恐ろしさは、一体どれほどか。勝てる気がしないというのは、あれのことだ。
マザーシップでさえどうにか戦えた。最終戦闘形態に入ったときは本当にもう駄目かと思ったけれど、それでも勝ちの目は見えていた。
しかし、アースイーターはそれとも次元違いの存在だ。
ストームリーダーは、見ていて確かに圧倒的に強いけれど。
あの人でさえ、勝てないのでは無いのだろうか。
「日高少尉も、怖いんですか?」
隣に座っているナナコが見上げてくる。
それは当然怖い。
でも、私は。
出来るだけ笑顔でいると、決めている。みんなが力を得られると、分かっているからだ。
「それは、怖いよ」
「良かった。 怖いのは、ナナコだけかと思っていました」
むしろ其方の方が意外だ。
ピストン輸送で、ヒドラが兵員も物資も、根こそぎ北京基地から運び出していく。念のため、もう一発衛星兵器からの戦略爆撃を敵の巣に仕掛けたようだけれど。やはり地下深くまで焼き払っても、相手は無人だと分かるばかりだったようだ。
東南アジアの境にある巣穴も、そうやって焼けないのか。
しかし、敵は当然備えているようで。東南アジアとの境にある巣穴の近くには、シールドベアラーが配備されはじめているという。
つまり叩くためには、シールドベアラーをどうにかしなければならないし。
最悪の場合、敵がアースイーターを繰り出してくる可能性もある。
ストームリーダーが来る。
設備がすっからかんになった北京基地は、もう殆ど人員もいない。殉職した隊員の亡骸は、郊外の墓に埋めた後、速乾性のコンクリで封印された。
「そろそろ出る。 ヒドラに移れ」
「イエッサ」
他のみんなは、もうヒドラに乗っていた。
最後の最後で、ストームチームのヒドラが離陸する。それを待っていたかのように、巨大生物の群れが姿を見せる。
爆破処理されることを知っているのだろう。
遠巻きにしていた。
ヘクトルが出てきて、砲撃を加えはじめる。
北京基地が爆裂。
崩れ落ちて、二度と使えなくなる。
嗚呼。
嘆きが漏れた。これで中国地区は。前大戦に続いて今回の大戦でも、完全に陥落した事になる。
オーストラリア地区も陥落寸前だけれど。
それより早い。
そしてこれは、極東が最前線になった事も意味する。中国地区にある巨大生物の巣穴を叩かない限り、もはや東南アジア地区も、風前の灯火。
中央アジア地区も、危ないかも知れない。
護衛についているファイターが、せめて反撃していこうかと聞いてくるが。日高司令、父は駄目だと言った。
「もはや君達に長時間の継戦能力は無い。 急いで撤退する事だけを考えて欲しい」
「……イエッサ」
「次の戦いで、口惜しさはぶつけてくれ。 今回の屈辱を、私も忘れない」
私は、悔しいとは思わなかった。
敵の戦略に踊らされ、ただ多くの人と物資を失っただけの戦いのことは、悔しくは無い。ただ、悲しかった。