地球防衛軍4二次創作 2025絶滅螺旋   作:dwwyakata@2024

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3、かすかな希望

幸運とみるべきなのだろうか。

 

出撃して北上して、最初に確認できたのは、山に張り付いているドラゴンの群れだ。長距離を飛行して、疲弊したとみて良い。

 

戦力の疲弊で、もはやスカウトさえ出せない。敵の状態は、自分で確認するしかなかった。

 

先行している私と涼川で、顔を見合わせる。

 

これは、不幸続きの中、幸いなことだ。奇襲がひょっとすれば、上手く行くかも知れない。戦闘が大好きな涼川だが、何も好きこのんで苦戦したいとは考えないのだ。だから、奇襲を反対はしない。

 

エッケマルクに、通信を入れる。

 

プロテウスの中にいるエッケマルクだ。叫んでも声は届かない。バイザーの通信機能を使うしか無い。

 

この通信機能も、東京基地にあるメインサーバが潰されたら、もう保たないかも知れない。

 

各地の基地に通信をサポートするサーバがあるのだけれど。当然、サーバがやられれば、バイザーは役に立たなくなる。

 

今、各地の基地が猛攻を受けている状況で。

 

基地から逃げ延びた兵士は、さぞや心苦しい思いをしているはずだ。

 

「此方エッケマルク、状況を確認した」

 

「空中に浮き上がったドラゴンは、此方で対処する。 奇襲、実施してくれ」

 

「任せろ。 全ミサイル斉射! ファイエル!」

 

プロテウスは巨大なベガルタのような人型戦闘マシンだが。肩口に多数のロケット砲を装備しており、一斉に放つことができる。火力はネグリング以上で、速射力も上回っている。

 

その火力は、指揮車両に相応しいものだ。

 

一斉に放たれたミサイルの群れが、山に張り付いて休憩していたドラゴンの群れを襲う。爆発が連鎖し、吹き飛ばされるドラゴン共。

 

後方にいるネグリングが、一斉に生き残りをロック。

 

池口に指示。

 

攻撃を開始させた。

 

空に舞い上がったドラゴンも、ミサイルの速度は超えられない。奇襲は成功。しばし一方的に、ドラゴンへ攻撃を加える。

 

激しい砲撃の中、敵も黙っていない。

 

山を突き抜けるようにして現れるディロイ。

 

ここからが本番だ。

 

「ディロイ、三機出現! 先頭の機体は、間もなくレーザーの射程に入ります!」

 

「レンジャー部隊は密集して、互いをドラゴンの襲撃から守れ! 上空へは事前の指示通り、アサルトとショットガンをばらまいて当てることだけを考えろ! 近くに降りてきたら、噛みつきに転じてくる! 攻撃を集中して必ず仕留めろ! 味方が喰われるぞ!」

 

「イエッサ!」

 

飛び出すジープ。

 

山中での悪路をモノともしていない。そのまま突撃すると、木々に遮られて視界を塞がれているディロイに、私がディスラプターを浴びせた。

 

踊るように廻るディロイ。レーザーを放とうとするが、其処へ涼川がうち込んだカスケードロケットランチャーのミサイルが連鎖して爆発。体勢を完全に崩されたディロイは、それでもレーザーを放ってくるが。

 

ジープを焼き切る寸前、アーマーが限界を超えた。

 

円盤部分が爆発し、崩れ落ちる先頭のディロイ。

 

後ろ二機は、それを見て、戦術を変えた。

 

辺りに、滅多矢鱈にプラズマ砲をうち込みはじめたのである。視界を確保するための行動だろう。

 

ジープを下がらせる。

 

涼川がカスケードからミサイルの群れを放ち、左にいるディロイの円盤部分に全弾命中させる。流石の手練れだが、視界が完全にクリアになったら、それでも危ない。下がりながら、時々飛んでくるドラゴンの火球を、ジグザグにジープを走らせ、避ける。ジープの操縦はバイザーとつないでいて、時々思考で指示を出しているのだ。

 

「特務少佐、ちいとまずいみたいだぜ」

 

涼川に言われて、顔を上げる。

 

なるほど、これはまずいかも知れない。奇襲に成功はしたが、ドラゴンの数はまだまだこんなものではない。

 

残りのドラゴンが、一斉に森から飛び立った。

 

山に張り付いていたのは、或いは。

 

最初から奇襲されることを想定した、囮だったのかも知れない。

 

ネグリングでも、狙いきれない。

 

一斉に此方に来るドラゴン共。レンジャー部隊が空にアサルトの弾をばらまき続けるが、とても手数が足りない。

 

火球が、雨霰と降り注ぐ。

 

森が、炎上していく。

 

プロテウスには、ディロイが一機、躍りかかるように挑んでいった。レーザーが、プロテウスの装甲を焼きはじめる。プラズマキャノンが、プロテウスの巨体を揺らがせる。

 

プロテウスが速射砲で反撃開始。ミサイルも全弾発射し、ディロイの火力に火力で応戦する。

 

二機の巨体が、至近で凄まじい殴り合いを始めた。

 

「後方、更にディロイ! 四機!」

 

「攻撃を一機ずつ集中しろ」

 

弟が、筅に指示。

 

今回も戦況コントロールに徹している谷山は、ギガンテスの上で電磁プリズンを展開し、味方をガードしているが。

 

とにかく敵の数が多い。

 

見る間に、電磁プリズンが消耗していく。

 

ドラゴンは空を舞いながら火球を放ち、地上に降りてから獲物とみなした兵士に食いついてくる。この突進が厄介で、生半可な攻撃では怯まない。ベガルタがコンバットバーナーでドラゴンを足止めしている間に、兵士達が蜂の巣にするが。それでも噛みつかれる者は出る。噛みつかれて、さらわれたらもはや一巻の終わりだ。

 

幸いドラゴンは、噛みついた瞬間一瞬だけ足を止める。

 

其処を集中放火して、叩き落とす。

 

空中に運ばれた兵士が、落ちてきた。ドラゴンを叩き落とした瞬間、口から零れたのだ。キャリバンに運び込む。

 

そのキャリバンに、ドラゴンが飛びついた。

 

周囲から一斉射撃を浴びせて蜂の巣にするが。それでも、立て続けに攻撃が続いている良い証拠だ。

 

電磁プリズンを設置しながら、谷山がセントリーガンを出す。

 

しかし、それでも手が足りない。

 

私と涼川は、ディロイの相手で精一杯だ。弟は名人芸で次々ドラゴンを叩き落としているし、エミリーと三川はミラージュで敵を足止めしている。少し後方にいるネグリングは敵の制圧に最大の力を発揮しているし、イプシロンは時々咆哮しては、確実にディロイに有効打を浴びせている。

 

みな、最高の働きをしているのに。

 

手が足りない。

 

また、ドラゴンの群れが姿を見せる。しかも一隊では無く二隊。

 

此奴らの一隊は、生半可な巨大生物数百を軽く凌駕する戦闘力を持つのだ。とても、支えきれない。

 

「もうもちません!」

 

「ハハハ、こりゃあかんかもしれんな」

 

脳天気な事をいいながら、エッケマルクがディロイを殴り倒す。

 

爆裂するディロイ。

 

ほぼ同時に、私もガリア砲を叩き込み、秀爺の狙撃で傷ついたディロイを打ち抜いていた。

 

しかしまだまだ敵には多数のドラゴンがいて、波状攻撃を仕掛けてきているし。

 

遠くからは、ディロイが遠距離攻撃を続けてきている。しかも四機。

 

味方の消耗の方が、どう考えても早い。

 

撤退するしかないか。私が、そう思った瞬間だった。

 

「此方要塞空母デスピナ。 第五艦隊、これより支援攻撃を実行する!」

 

「! テンペストの座標指示、此方に回してください!」

 

「うむ、頼むぞ!」

 

不意に、通信が来る。

 

第五艦隊。海軍は壊滅状態だと聞いているが、無事だったのか。谷山がすぐに着弾地点のコントロールを開始。

 

テンペストを誘導する。

 

飛来する大威力巡航ミサイル。それは、此方に迫るディロイに、容赦なく着弾した。

 

衝撃波が、空を走るのが見えた。

 

爆裂する円盤部分。かろうじて耐え抜くが、其処へ秀爺が射撃。ライサンダーの弾が、ディロイの円盤を崩壊させる。

 

爆炎をあげながら、崩れていくディロイ。

 

二機目がテンペストに砕かれると、敵の動きが露骨に鈍る。

 

それだけじゃない。

 

「此方砲兵隊、間合いにドラゴンを確認! 対空クラスター弾発射!」

 

砲兵隊からの通信。

 

この間の戦いで、壊滅したのでは無かったのか。しかし、確かに飛来したクラスター弾が、ドラゴンの群れに襲いかかる。

 

一瞬で全滅はさせられないが、大威力の砲撃が、確実に敵の足を止める。

 

更に谷山が指示した地点に、三発目のテンペストが直撃。爆発の衝撃波が、多数のドラゴンを巻き込んでいた。

 

「砲兵隊、無事だったのか」

 

「第五艦隊が派遣してくれたヒドラの編隊に収容されたんだ。 多くの装備は失ったが、まだ支援が出来るだけの戦力は残している!」

 

混乱するドラゴンに集中砲火。

 

ディロイも次々来るテンペストに、確実に仕留められていく。更に、である。

 

ドラゴンの群れに、空対空ミサイルが直撃。

 

桐川航空基地から逃れた空軍部隊だ。

 

部隊の中にはホエールもいる。大威力の対地攻撃兵器が火を噴き、残ったディロイを上空から痛めつけていく。

 

「此方ファイターα。 攻撃を開始する!」

 

「敵の戦闘力は高い、無理はするな」

 

「分かっている! 我々も海上に逃れたところをデスピナに拾われてな。 奴らの実力は身に染みて分かっている。 地上部隊、連携してドラゴン共を叩き潰すぞ!」

 

「任せろ!」

 

火力が集中され、一気に形勢は逆転した。

 

ファイターも、単独や支援がある状況なら、ドラゴン相手に不覚を取ることも無い。元々、能力は此方が上なのだ。

 

おそらく不利と判断したのだろう。ドラゴンたちは逃走に転じる。ただ、それを追う余力は無い。

 

味方を見ると、負傷者多数。

 

プロテウスも手酷く傷ついているし、ビークル類もどれも煙を上げている。全員に点呼を取る。

 

一応、全員が揃っているが。

 

重傷者も出ていた。

 

特にドラゴンに噛まれた何名かは瀕死の状態である。すぐに山梨戦線へ戻る。途中、デスピナ艦長と話す。

 

艦長は、私と旧友である。

 

弟とも交流がある。

 

前回の大戦でも色々世話をし、世話になった間柄。通信をオンリー回線で開くと、安堵の声が漏れた。

 

「良く無事だったな」

 

「海軍の残存戦力をまとめながら、転戦していたのだ。 敵に傍受される可能性があるから、通信は切っていた」

 

「そうか。 桐川基地の残存戦力を、回収してくれたのは助かった。 砲兵隊もな」

 

「甚大な被害だが、まだ継戦能力はある。 これより、残余の艦隊を率いて、東京基地に寄港する。 其方で会おう」

 

通信を切る。

 

どうにか希望が出てきたか。私は大きくため息をつくと、オート操縦にしてあるジープの座席に、背中を預けた。

 

 

 

山梨の前線に合流。

 

東京基地も混乱が収まってから、多少の物資を送る余裕が出来たようで、工場で生産されたばかりのギガンテス数両が、新しく前線に配備されていた。

 

しかし、これから少数部隊で四足を含む静岡南部の敵をたたくとなると、かなり気が重いが。

 

だが通信が来る。

 

日高司令からだ。

 

「ストームチーム、無理な仕事をさせてしまってすまなかったな」

 

「何、いつものことです。 それで通信を入れてきたと言うことは、作戦の変更ですか」

 

「そうだ。 もはやドラゴンはどうしようがないとしても、蜂の巣穴だけでも叩かなければならない。 これ以上敵が増加することだけは、どうにか防ぎたいからだ」

 

確かに、それはそうだろう。

 

だが、蜂の巣は中国地区と東南アジア地区の中間地点。簡単に攻撃できる位置にはないのだが。

 

本部は、其処で、思い切った作戦に出た様子だ。

 

「基地を移動させる」

 

「え……!?」

 

「敵巣穴の近くに、廃棄された都市がある。 前大戦で徹底的に痛めつけられて、再建がならないと判断された場所だ。 今、かなりの数のレタリウスが巣くっている其処を制圧し、基地機能を丸ごと移設する」

 

ドラゴンによって打撃を受けている今、新しい基地を作る余裕は無い。

 

だから丸ごと移す、と言うわけだ。

 

ストームには、巣くっているレタリウスの駆除。それに、基地が移動するまでの、時間稼ぎをして欲しいという話である。

 

これは厄介だ。

 

ある意味、四足の単独撃破よりも難しいかも知れない。

 

だが、敵巣穴への路を作ることは、非常に重要。

 

そしてここからが重要なのだが。

 

今、世界的な攻勢に敵が出ている今。巣穴はむしろ手薄になっているとみて良いだろう。それならば、或いは。

 

勝機が見えるかも知れない。

 

「ヒドラは準備する。 かなり危険な長旅になるが、君達以外には頼めない任務だ。 やり遂げて欲しい」

 

日高司令は、血を吐くような声で、そう言った。

 

通信を切る。

 

この状況で、東南アジアに出張。しかも、敵の攻勢を退けながら、大規模陽動も行わなければならない。

 

戦死者が出る可能性も高い。

 

だがそれでも、今は無理をしなければならない状態なのだ。

 

ヒドラはすぐに来た。

 

というよりも、専用機も使って、輸送作業をしていたのだ。その専用機が戻ってきただけである。

 

ビークル類を積み込む。

 

中のスタッフとも、いいかげん顔なじみになってきている。ビークル類の状態を見て、整備長は呻いていた。

 

「これはまた、派手にやりましたな」

 

「ドラゴンとやり合ったんだ。 これくらいはむしろ、まだマシという所だよ」

 

涼川が冗談めかして言う。

 

だが、誰も笑う余裕は無かった。燃料だけ入れると、すぐに現地へと飛ぶ。東南アジア支部も、四ヶ所しかもはや基地が残っていない。今回行くのは、敵巣穴に一番近い、旧ベトナム北部の基地だ。

 

現地に辿り着くまでの数時間。

 

ベテランと他で、完全に反応が分かれた。

 

肝が強い日高少尉でさえ、青ざめて縮こまっている。ろくに空軍の支援も受けられない上、いつ蜂や蜘蛛に襲われてもおかしくないからだ。

 

それに対して、涼川は平然とふんぞり返って、アイスを貪り喰っていた。私もその隣で、黙々と軍の支給レーションを口にしている。チョコレートは正直美味しくないけれど、思考補助には良い。

 

弟は先ほどからひっきりなしに彼方此方に通信を入れていて。

 

谷山はバゼラートとネレイドの状態を確認している。蜂を相手にするには少し厳しいが、レタリウスが相手なら。

 

残念な事に、もう新型の支給は、当面期待出来そうにない。

 

アーマーだけは事欠かないことだけが救いか。工場の生産能力をフルに活用しなくても、充分な余裕はある。それだけ、人員が減ったからである。

 

戦況報道が来る。

 

今日は柊が流した情報も、映像に含まれていた。

 

「戦況報道です。 世界各地に飛来した新型の巨大生物はさながらドラゴンのような姿をしており、戦闘力も神話の怪物と呼ぶに相応しい次元です。 戦闘機さえ交戦で撃墜されており、各地でEDFは壊滅的な打撃を受けています。 ドラゴンが現れて以降、各地で艦隊や基地の陥落が相次いでおり、一説には八割近い戦力が、既に失われているとさえ言われています」

 

一説では無くて事実だ。

 

私は内心で付け加えるけれど、口には出さない。

 

ドラゴンは一旦EDFに壊滅的な打撃を与えると、後は各地に制圧の手を伸ばしているようだ。

 

無人化している都市部は既に、ドラゴンの住みか兼餌場。

 

ドラゴンは家畜や犬などには一切手を出さない。これは他の巨大生物と同じである。まあ、これはドラゴンが生み出された経緯を考えれば、不思議でも何でもないことだ。彼らが狙うのは、あくまで闘争相手としての人間なのである。

 

そして、作戦は。

 

既に最終段階に入っているとみるべきだ。

 

人間を殲滅することよりも、その力を根源的なところから割く事を、彼らは目的とし始めたのだから。

 

「どうやってかぎつけているのかは分かりませんが、シェルターの周辺は特にドラゴンが多数飛来しているようです。 今の時点で彼らが攻撃を行うそぶりは見せていませんが、決して自棄を起こしてシェルターから出ないように。 シェルターから出た人間は、もはや捜索も救助も諦めてください。 全員が二次災害で、ドラゴンに襲われて命を落とす事になります」

 

絶望的な報道は。

 

ただ、淡々と続く。

 

誰も報道に文句は言わない。戦況報道が流れていた初期は、特に血の気が多い若いEDF隊員は、報道に文句を言う者が目立っていたのに。

 

もはや誰にも、文句を言う気力が残っていない、と言うべきだろう。

 

報道が終わる。

 

私は倉庫に行くと、火器類の確認を実施。最新鋭のディスラプターもあるし、何よりフュージョンブラスターが新型に刷新されている。これならば、突入後、一気に巨大生物とレタリウスを焼き払える。

 

更に日本海側から、沖縄近海にまで出てきている第五艦隊が、これより支援砲撃をしてくれると約束してくれている。

 

第五艦隊は、壊滅した幾つかの艦隊の艦船を全て吸収しており、昔日よりも規模を増している。

 

搭載しているテンペストの数も、かなりのものだ。

 

ただし、敵の巣穴を叩くときのみ、砲兵隊も空軍も出すと、艦隊司令官つまりデスピナ艦長は言っていた。

 

これは危険を避けるための、当然の措置である。

 

ヒドラが低空を行く。

 

更に速度を落としたのは、飛行時に出る音を軽減するためだ。移動に余計時間が掛かるし、何より揺れるが。ドラゴンに補足されたらひとたまりもない。旧都市部も、避けて行かないと危ない。

 

旧ジャングルすれすれに飛ぶ。

 

この辺りのジャングルは殆ど残っていないが、わずかに今でも緑はある。その緑を擦るように、ヒドラは行く。

 

いつもよりもだいぶ時間は掛かったが。

 

それ故に、ビークルの補修も終わったし。そして、皆も交代で休む事が出来た。休憩カプセルを使えば、無理矢理に眠ることも出来る。それだけは幸いと言うべきなのだろうか。

 

着地の直前。

 

秀爺が、私の所に来る。

 

通信を入れてくる。オンリー回線にされたので、重要なことだと判断。身構えた。

 

「黒沢に、例の件を教えていないようだな」

 

「ええ。 彼は知っての通り、柊と通じていますし、ジョンソン達とも情報をやりとりしているようですから」

 

「ジョンソンとエミリーはもう知っている。 それなら、黒沢にも教えてやれ」

 

「貴方がそう言うなら」

 

頷くと、黒沢の所に行く。

 

話しておく時間くらいはあるだろう。黒沢は隅で、スナイパーライフルを抱えて、座り込んでいた。

 

考えて見れば。

 

此奴から柊に情報が行って。

 

そして世界中に、私とフォーリナーの正体が拡散されたとしても。今更、それが私と弟を傷つける結果には結びつかないか。

 

そもそも私や弟を迫害なんてしていたら、戦いには勝てないし。

 

それに、シェルターに閉じこもった人々が、これ以上どう暴動を起こして、牙を剥くというのか。

 

問題は戦いに勝った後だが。

 

それも、今回の大戦は、勝つか、奴隷化されるかの二択。勝ったとしたら、私と弟は、確実に英雄だ。

 

その時は、どのみち。

 

この世界で、栄光は長く甘受できないだろう。前回の戦いですら、そうだったのだから。

 

咳払いすると、黒沢にオンリー回線をつなぐように指示。回線がオンリーになっている事を確認すると、私は全ての話を、彼に説明した。

 

黒沢はしばし黙り込んでいたが。

 

話を聞き終えると、顔を上げる。

 

「ある程度は予想していましたが。 此処までろくでもない理由で、地球が攻撃されているとは思いませんでした」

 

「相手にしてみれば必死だ。 そういうな」

 

「それは分かっています」

 

たとえば、である。地球人が絶滅に瀕して。ライオンの中にしかない物質を取り出せば助かるとする。勿論取り出せばライオンは死ぬ。ライオンを絶滅させれば、人類は助かる。その場合、人類が躊躇するだろうか。

 

ましてやフォーリナーの場合、人類を絶滅させるつもりはない。

 

この点だけを取っても、人類よりまだフォーリナーの方が紳士的だと言える。あくまで比較して、の話に過ぎないが。

 

「それで、僕に今どうしてその話を」

 

「戦況が確定的になり、上層部を通じてジョンソンやエミリーも知っている状況だ。 お前に隠していても、もはや仕方が無いと判断した。 お前も一人だけのけ者にされていては、気分が悪いだろう」

 

「のけ者にしていた、ですか」

 

「そうだ。 柊の件もあるから、話す事は出来ないでいた」

 

しばらく黙り込む黒沢。

 

大きく嘆息すると、彼はぼやく。

 

「僕の戦う理由は、結局こんな所だったのですね」

 

「戦う理由なんて、あるだけマシだ。 私も弟も、最初から対フォーリナーを主眼に置かれて、誕生させられた。 生まれてこの方、やったことと言えば戦闘訓練だけ。 それが終わったら、即座に戦闘に投入された」

 

そう言う意味で言えば。

 

ナナコは私と境遇が同じだ。今、世界中で必死に生産されて、戦場に投入されている、第三世代戦闘クローン達もだろう。

 

無情であり、悲惨でもある。

 

「柊に話すかどうかは、判断を任せる」

 

「……そう、ですね」

 

黒沢は、それ以上、何も言わなかった。

 

ヒドラが基地に近づく。

 

敵は結局、仕掛けては来なかった。多分このヒドラを、発見できなかったのだろう。今はストームチームでさえ。

 

移動の際は、敵に襲われることを、恐れ続けなければならなかった。

 

基地は悲惨な有様で、ドラゴンに襲撃されたことが目に見えていた。対空砲火はまだ生きているようだが、彼方此方が凄まじい爆撃に晒されて焼け焦げ破壊されている。修復など、その目処も立っていないようだ。

 

ヘリポートにヒドラが降り立つ。

 

今回、ヒドラで一緒に来ていた支援スタッフが、早速基地の状態を確認。修復に取りかかるが。

 

ストームチームは、彼らの活動を、横目で見ているしか出来ない。

 

迎えに出てきた司令官は青ざめている。

 

敵の巣穴を攻略すると言っても、そもそも兵力が集められないのは、明白だった。この基地にいる全員を総動員したとしても、巣穴を本当に落とせるだろうか。元々北京基地近郊の敵巣穴にいた兵力も、此処に集まっているのだ。

 

巣穴の中には、蜘蛛王がいる可能性も高い。

 

確かに、世界中に拡散した蜂。故に、此処の巣穴は手薄になっている可能性も低いが。

 

「いつドラゴンが来るか分からない。 悪いが、支援戦力は、一部隊しか出せない」

 

「それで構わない」

 

一部隊で充分だ。

 

相手を安心させるためか、弟はそう言う。

 

しかし、相手がその弟の気遣いを、理解している様子は無かった。もう、精神が現実を正しく認識できなくなりつつあるのかも知れない。

 

データベースにアクセス。

 

予定通りの攻略作戦についての、情報を接収する。既に最高機密クラスの情報にアクセスする権限も、私と弟は貰っていた。もはやもらった所で、どうにもならないのが現状だが。

 

巣穴攻略までの問題になる敵拠点には、現在二百を超えるレタリウスが確認されている。今まで攻略してきたレタリウス陣地でも、最大規模のものだ。

 

黒蟻や凶蟲がどれだけ潜んでいるかは、はっきりいうとよく分からない。

 

こればかりは、近くに行って、レーダーで解析しなければならないだろう。

 

ビークルの状態は。

 

問題なし。

 

作戦としては、遠距離からの狙撃戦で敵の出方を確認しつつ、最終的には突入してフュージョンブラスターで焼き払う。

 

これしかない。

 

ドラゴンが支援に現れたりすることも考えると、作戦中に邪魔をされることは、想定の範囲内に含めなければならないのが面倒だ。

 

此処を抜くと、アースイーターなどの支配地域は近くにはあるものの、敵の巣穴への道が開ける。

 

後は、敵巣穴を確認して、一旦任務は終了だ。

 

敵の巣穴を落とすのは、作戦が後日になる。流石に本部も、ストームチームだけで、敵の巣穴を落とせるとは思っていないはずだ。

 

やってこいと言われたら。

 

それは死ねと言われているのと、同じだと判断するほかない。物量があまりにも圧倒的に違いすぎるからだ。

 

現地に到着するまでに、ブリーフィングを済ませる。

 

今の時点で、ドラゴンは姿を見せない。

 

だが、近くにレーダーの反応があると、ベテラン以外は皆、青ざめたり、びくりと体を震わせる。

 

皆の中で、それだけドラゴンが恐怖になっているのだ。

 

目の前で食いちぎられた兵士もいるし。

 

噛みつかれ、振り回された者もいる。

 

他の巨大生物にだって、今まで同じ事が起きた。しかし、やはりドラゴンは、神話の存在。

 

その恐怖も、別格なのかも知れない。

 

私には正直よく分からない。

 

社会生活を送った経験も、クローン以外の誰よりも少ない。香坂夫妻に到っては、比較にさえならないほどだ。

 

文化や文明というものは、正直私には、分からない。

 

それが貴重なことは知っているけれど。

 

実感という概念にまで、到らないのだ。私が、戦闘マシーンだからだろう。

 

白い糸で覆われた街が見えてきた。既に放棄された街は、とっくの昔に、巨大生物の遊び場と化している。

 

上空に、ネレイドが出る。

 

まずナパームで爆撃を行う。ドラゴンが出てきたときは、即座に退避。ネレイドでは、ドラゴンには対抗できないからだ。対空戦が出来るバゼラートでさえ厳しいのである。攻撃機の性質が強いネレイドでは、もはやドラゴンはどうにも出来ない。

 

ネレイドがありったけのナパームを撒きはじめる。

 

辺りが灼熱地獄になる。勿論レタリウスが反撃を開始するが、谷山の操縦は流石だ。糸による砲撃は、ネレイドを掠りもしなかった。ただ、攻撃を受け続ければ、それだけ被弾の可能性も上がる。

 

谷山が一度退避。

 

砲撃支援はかなり厳しい。

 

第五艦隊の居場所を敵に察知されることを防ぐためにも、あまり派手には動けないのである。

 

支援をしてもらうのは、本当に最後の最後だ。

 

「ナパーム全弾投擲完了」

 

「よし、攻撃開始」

 

全員で、狙撃戦を開始。見えている範囲にいるレタリウスが、たちまち蜂の巣になる。ネグリングは容赦なくミサイルを叩き込みはじめ、涼川はスタンピートを上空に向けて放つ。落下したグレネード弾が、炸裂。

 

すぐにまたスタンピートからグレネードが放たれる。

 

原田だ。

 

涼川に教わった、最も遠くに飛ばせる角度で、スタンピートからグレネードを放っている。まだまだ敵に百発百中とは行かないが、それでも二つのスタンピートからうち込まれるグレネードは、敵の戦力を削るのに充分な効果を示す。

 

勿論、敵も反撃してくる。

 

だが基本はアウトレンジでの攻撃。蜘蛛糸が届かない範囲からの狙撃戦。レーダーには目を光らせ、巣から離れたレタリウスが、側面や後方から射撃してこないか、目を光らせる。

 

いずれにしても、長期戦だ。

 

焦って突っ込めば、即座の死が待っている。

 

グレイプに、蜘蛛糸が被弾。

 

マグマ砲で焼き払った。焼き払ったのは、日高少尉だ。強烈な火炎放射器であるマグマ砲は何名かに渡されているが。被弾した際に、レタリウスの糸を焼き払うことだけを目的として用いる。

 

敵の前線を削り取りながら、少しずつ進む。

 

支援のために来てくれている部隊には、全員にスナイパーライフルを装備して貰い、長距離からの狙撃にだけ徹して貰っている。

 

その部隊から、連絡が来た。

 

「数体のレタリウスが、巣を離れました。 此方に向かっています」

 

「敵陣への攻撃は中止。 奇襲部隊を集中的に狙って欲しい」

 

「イエッサ」

 

すぐに、射撃戦が再開される。

 

半日が過ぎても、戦いは終わらない。いつドラゴンが現れてもおかしくない恐怖の中、黙々と戦い続ける。

 

丸一日経過。

 

休憩を挟みながら、敵を燃やし続ける。

 

ネレイドの出撃は六回目。ナパームと燃料を補給しては、敵陣を強襲。ナパームを撒いて、敵陣を焼いて、戻ってくる。途中見かけた敵は、機銃を任せている筅が薙ぎ払っても行く。

 

敵の巣も、かなり目減りしてきたが。

 

何しろ、一都市を完全に覆い尽くしている巣だ。簡単に、全てを駆除する事は出来ようがなかった。

 

 

 

二日間をまるまる費やして、不毛な狙撃戦が終わった。

 

都市は完全に灰燼。

 

再建の際は、文字通り一から作り直さなければならない状況だ。流石に敵の数が目だって減り始めた一日目後半からは、駆除の速度も進んだが。

 

問題は、此処からである。

 

一旦基地に戻って、燃料を補給。ビークルの補修を済ませる。

 

皆にも休んで貰う。

 

流石にこの時間の戦いとなると、被弾もかなりしたのだ。その度に糸をマグマ砲で焼き払って救助したが。

 

司令官はあまりいい顔をしなかったが、二日間を掛けて敵陣を攻略し、此処の部隊にも被害は出さなかったのである。

 

文句は言わせない。

 

早速、当初の予定通り、基地機能の移動に掛かる。次にストームチームは、移動途中の基地を護衛する任務をこなす。

 

基地機能の移動と言っても、基地がロボに変形して、歩いて行く、などというような事はない。

 

元々ブロック化されている基地を一つずつトラックや重機を使って運んでいくのだ。解体の作業は、専門の部隊が行う。

 

問題は、その間は発電機さえ動かせないこと。

 

つまり、レーダーなどの機能も、最小限に抑えなければならない、という事だ。

 

勿論予備の発電機は持ってきているが。もしも、敵が旺盛に反撃をしてきた場合、手が足りなくなる。

 

そして正直な話。

 

ドラゴンによって戦力の大半を喪失した本部には、もはや増援を出す余裕など、残っていない。

 

各地の支部が、それぞれで抵抗するので精一杯なのだ。

 

制圧した廃都市に、着実に基地の部品が輸送されていく。ブロック化されていたものだから、運んでしまえさえすれば、組み立ては容易だ。

 

重機類も、元々あるビークルを用いる場面もある。

 

ギガンテス戦車はコンテナを運んで何度も往復。

 

ヒドラも。

 

燃料の心配だけはしなくて良いのが救いか。昔の戦車はとにかく燃費が悪い兵器だったのだが、フォーリナーからの鹵獲技術で、今では殆ど燃料を気にせず、動かす事が出来るのだ。

 

長蛇の列とまではいかないが。

 

部品を輸送するのに二日。

 

組み立てに、更に一日を要する。

 

これも昔だったら、その十倍以上は軽く掛かっていただろう事を考えると、技術の進歩は凄まじい。

 

ただ、人類が産み出した技術ではないものが大半を占めているのは、問題だろう。

 

周辺に監視に行っていた涼川が戻ってくる。

 

「今のところ敵影はなし」

 

「そうか、休んでくれ」

 

「アイアイ」

 

仮設状態の基地でも、既に真っ先に運んだ発電機は生きている。つまり休憩用のカプセルは、動いているという事だ。

 

急ピッチで作られていく基地。

 

元の基地は壊滅寸前にまで痛めつけられていたので、転送機能を使ってコンクリ弾を輸送し、その場で補修する場面も珍しくない。ヘリポートは出来ている。出来てはいるが、ヒドラが低空でしか移動できない現状、果たして何処まで役に立つか。

 

最初にそのヘリポートに降り立ったのは、ストームチームの専用ヒドラ。すぐに補修が終わったビークルを外に出す。

 

誰もが分かっているのだ。

 

いつ、ドラゴンが襲撃してきても、おかしくないと。

 

基地司令官は、隈を作った目で、猜疑心の強い眼光を周囲に放ち続けていた。交代で監視に出向くストームチームにも、不信の目を向け続けている。

 

弟が、池口と原田を連れて偵察に出る。

 

私も、エミリーに誘われたので、一緒に偵察に出ることにした。

 

大型のサイドカーが着いているバイクで出る。運転はエミリーだ。元々タッパのあるエミリーなので、問題なく大型バイクを運転することが出来る。

 

「敵は反撃してこないわねえ」

 

「おそらく調整中だ」

 

「……要するに、戦況のコントロールに入ったって事?」

 

「そうなるだろうな」

 

サイドカーで身を縮めて、エミリーと話す。

 

悪路も何のその。

 

流石に戦闘目的で作られているバイクだ。廃棄された街を出てしまうと、もう舗装された道路などないけれど。苦にもせず走り続けている。

 

「ドラゴンによって、EDFの主力は壊滅した。 後はコントロールされた戦況下で、ドラゴンと我々を殺し合わせるつもりだろう」

 

「迷惑な話ね」

 

「全くだ。 ドラゴンの調整が終わったと向こうが判断したら、この地獄も終わるかも知れないが……」

 

そんな事を期待して、ただ殺される事を、良しとしてはいけない。

 

丘の上に出る。

 

敵の巣穴はまだしばらく北だ。だが、護衛をしていたり、斥候をしている蜂の姿は見かけない。

 

此方を舐めきっているのか、或いは。

 

いずれにしても、アースイーターについては要注意だ。もしもこの場で襲われたら、もはや逃げる他に手がない。

 

「少し前にね。 ペイルにいた私の同僚が戦死したの」

 

「そうか……」

 

北京近郊での話では無いという。

 

あの時も大きな被害を出したが。その後の事だそうだ。

 

ペイルチームも、再編成途上なのにドラゴンとの戦闘にはかり出された。結局大きな被害を出す事になり、ベテランも多く戦死した。

 

その中の一人が、エミリーの親友だった、というわけだ。

 

「かたきを取りたいのか」

 

「いいえ。 ただあの子は、平和になったらメジャーリーグの試合を見に行きたいって言っていたから。 フォーリナーを地球から追い出したら、そうしてあげたいなって」

 

「追い出したら、か」

 

もはや、現状のEDFの戦力では、それは不可能に近い。

 

しかし、もし逆転の一手があるとしたら。

 

予定通りの偵察が終わったので、戻る。香坂夫妻と黒沢のチームも、丁度戻る所だった。基地に元々いたレンジャーチームが、ジープを使って出る。偵察任務だ。これくらいは、こなしてくれないと困る。

 

基地の再構築は急ピッチで進んでいて、間もなくほぼ機能が回復しそうだ。

 

もっとも、万全な状態でも。

 

ドラゴンが現れてしまうと、きっとどうにもならないだろうが。

 

セントリーガンが威圧的に、相当数並べられているのが目立つ。人員が少なくなってきている今。少しでも戦力差を埋めるために、工夫は必要だ。

 

基地に戻った後、カプセルで三時間だけ休む。

 

起きたころには、基地機能は、回復していた。

 

すぐに弟と一緒に、基地司令官を含めて作戦の確認をする。まずは、敵の巣穴の直接確認だ。

 

もはやこの辺りはアースイーターによる電波妨害が酷く。バイザーによって直接本物を確認しないと、攻略の作戦さえ立てられない。

 

基地司令官は、守りに必要だからと、偵察に出す戦力を渋った。

 

この間、一緒に来てくれたレンジャー6だけが同行してくれる。しかし、それだけだった。

 

「何だか、死んで来いって言われてるみたいだな」

 

流石の涼川もぼやく。

 

私も、それを止める気にはなれなかった。

 

 

 

基地から北上。

 

アースイーターには、もはや捕捉されたら最後と考えるしか無い。今の戦力では、戦う事は出来ても、追撃を振り切ることが難しいのだ。

 

今回は偵察だけという事で、全員がジープに分乗して移動。

 

他のビークル類は、メンテナンスを兼ねて、ヒドラに残してきた。一応仕上げては貰っているのだが、応急処置をしている場所も多いのだ。

 

その代わり、銃火器類はきちんとジープに積んできてある。

 

山深い土地を進む。

 

舗装道路なんて、とっくになくなっている。悪路をものともしないといっても、流石に限界がある。

 

補給線を考えると、大軍を送り込むのは難しい。

 

此処の巣穴が放置されてきた理由の一つである。

 

流石に、巣穴に近づくと、斥候らしい蜂が姿を見せ始める。数体でまとまって、岩陰などに隠れて休んでいる。

 

殺気立つレンジャー6を、弟が抑える。

 

「攻撃は最小限に、一瞬で仕留める」

 

「イエッサ」

 

全員で忍び寄ると、サイレンサを付けたアサルトで一斉射撃。飛び立つ暇を与えず、小集団を始末。

 

さほど頑丈でもない蜂は、これだけの数のアサルトから斉射を浴びると、流石にひとたまりもない。

 

片付けたのを確認して、次へ。

 

斥候の部隊は、進むほど、遭遇頻度が多くなる。

 

その全てを片付けるわけにも行かない。数が多い場合は、側を出来るだけ気配を殺しながら、通り過ぎるほかなかった。もしも察知されて、巣穴から本隊を呼ばれでもしたら、手に負えなくなるからだ。

 

森が深くなってきた。

 

ジャングルと言うほどではないが、一応全員が身を隠せるほどにはなってきている。問題は、この先だ。

 

「そろそろだな」

 

弟が敢えて呟いて、皆の気を引き締めさせる。

 

今までは、大した戦闘はなかった。だが、今後は話が別だ。今回の任務はあくまで斥候だが、それでも戦いになる可能性は小さくないのである。

 

一旦此処で足を止める。

 

少数が出て、現物を確認。一応相手の巣穴の位置は分かってはいるが、全員で行くと罠に掛かるかも知れない。

 

全滅だけは避けるための措置だ。

 

弟と、私と、ジョンソンだけで行く。

 

無言のまま、森の中を行く。流石に手慣れたもので、ジョンソンは気配をほぼ完璧に消していた。

 

そして、それが、唐突なまでに見えた。

 

「何だあれは……」

 

ジョンソンが呻くのも無理はない。

 

其処にあったのは、あまりにも非常識極まりないものだったからである。

 

巣。

 

ただしそれは、蜂のものに酷似している。それも、オオスズメバチのものだ。巨大な球体。それも、生半可なビルよりも大きい。

 

普通、雀蜂の巣は、何かしらの支えるものにくっつく形で作られるのだが。

 

これはあまりにも巨大すぎるためか、単独でそそり立ち。そのあまりにも途方もない威容を、周囲に見せつけていた。

 

天敵など、いないからかも知れない。

 

また、巣の周囲には、シールドベアラーが展開している。

 

恐らくは、衛星兵器からの攻撃を防ぐためだろう。

 

巣の周囲には、巨大生物もいる。

 

蜂が主体だが、黒蟻、赤蟻、凶蟲。全ての種類が揃っていた。東京の巣穴から移動してきて。更に北京の巣穴からも移動してきたのだから、ある意味当然かも知れない。ドラゴンだけはいない。

 

通信を入れる。

 

バイザーを通じて、見たものを、本部に転送。

 

流石に日高司令も、呻いていた。

 

「何という巨大さだ」

 

「土によって作られているように見えますが、巨大生物の体を守っているアーマーと同じ物質で固められている可能性も高い。 どのみち、シールドベアラーも周囲に展開していますし、生半可な攻撃では壊せないでしょうね」

 

「北京近郊にあった巣穴は、衛星兵器からの戦略砲撃で破壊できたが、これはそれも難しいかも知れないな」

 

巣穴には、かなりの数の蜂がいると見て良い。

 

今、世界中で攻撃を繰り返している蜂が大部分だとしても、である。最低でも万以上はいるだろう。

 

これはもっとも楽観しての数字だ。

 

幸い、アースイーターが現れてから、巨大生物は新しく巣を作るという行動には出ていない。

 

アースイーターが最高の巣として機能し。

 

そしてそもそも、もはや繁殖場としての巣が必要ないからだろう。

 

敵の目的は最終段階に入っている。

 

しかし、これ以上敵を増やさないためにも、巣は破壊しなければならないのだ。

 

「分かった。 一旦撤退してくれ。 下手な攻撃をしても、無駄な被害を出すだけだろう」

 

「巣穴の強度を測らなくても良いのですか?」

 

「そうしてくれれば嬉しいが、今君達を失うわけにはいかない。 万を超える蜂に襲われて、無事に逃げ切れるとは思えない」

 

「イエッサ」

 

日高司令も、昔よりだいぶ柔軟な指示を出すようになったものだ。

 

以前は指揮が硬直的で、部下を見捨てるような指示も。死地に留まり、その場で死ぬように命じているも同然な指示も。あったのだが。

 

レンジャー6と合流。

 

情報を共有。

 

これは、敵に勘付かれて、追撃をかけられた場合に備えるためだ。

 

レンジャー6も、驚いていた。

 

「このようなものを、敵が作っていたのですか」

 

「前大戦では、巨大な蟻塚状の巣が確認もされている。 地下に巣が作れない場合、奴らがそういうものを作り上げたこともあった。 逆に言えば、蜂に近い存在ならば、このような巣を作っても不思議ではない」

 

「確かにそうですが……」

 

もはや、何が起きても不思議では無い。

 

十字を切っている兵士がいた。

 

だが、神に祈ったところで。

 

助けてなどくれはしない。

 

何しろ、それに一番近い存在こそ、フォーリナーなのだから。

 

「撤退する」

 

合流後、有無を言わさず後退。

 

支援部隊の攻撃なくして、戦える相手ではない。如何にストームチームとはいえど、あのようなものに肉弾攻撃を無策で仕掛ければ、全滅するだけだ。

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