地球防衛軍4二次創作 2025絶滅螺旋 作:dwwyakata@2024
各地から難民を必死に安全圏に逃がしますが、シェルターは次々にパンクしていく有様。
準備はしていたはずなのに、それを超えるペースでの侵攻に為す術がありません。
静岡にいた敵はどうにか潰した。山梨に展開していた部隊と東京基地の戦力で存分に敵を殲滅し、東京基地へ帰還。
悲報が続く中の、久々の勝報だ。
何より、静岡に陣取っていた敵の大規模部隊が、ついに消滅したのである。もっとも、もはやEDFが抑えている地域は、基地とその周辺のわずかな土地に過ぎないが。それでも、勝利は勝利。
問題は、ストームチームには、その勝利を喜ぶ時間もない、という事だが。
それに勝利と言っても、短期決戦で四足に挑んだのだ。無事に済むはずもない。原田と黒沢が掃射砲による攻撃で重傷を負い、病院に直行。キャリバンは大破。結局弟のフュージョンブラスターが四足を打ち倒したが。その後のヘクトルによる攻撃で、ナナコも吹き飛ばされ、地面に叩き付けられて、病院行き。
エミリーとジョンソンも負傷して、無事なメンバーは半数ほどしかいなかった。
今は医療技術で急速回復が出来るが、それも無理矢理体を治しているのと同じ。続けていれば、いずれ無理も出る。
皆、寿命を削りながら戦っているのだ。
そう思うと、心苦しい。
東京基地に帰還し、カプセルに入って休んで。
五時間ほどして目覚めて、バイタルチェックの状態を見ていると、すぐにバイザーに通信があった。
司令部に来て欲しい、というのである。
何かあったと言うのは、即座に分かった。
弟を一とする他ストームチームベテラン勢はもう司令部に出向いているらしい。ならば、後は私が行けば良いだけか。
フェンサースーツを着込むと、司令部に。
途中、基地の様子を見たが、かなり酷い。ビークル類の損害は、四足との戦いで、相当なレベルに登った様子だ。人員もかなり減っている。戦死者も出たし、病院は大忙しだろう。
基地の防空設備もボロボロだ。
また、戻ってきた艦隊を見たが、かなり痛めつけられている。ストームチームが四足を仕留めた直後、敵の大攻勢があったとかで。砲兵隊からの対空支援がなければ、かなり危なかったという。
敵は、此方を痛めつける目的で、兵力を出してきた。
確かに勝ちはしたが。
これだけ痛めつけられているのを見ると、素直には喜べない。
それに、勝ったといえど、敵が失ったのは、敵から見てほんのわずかな戦力。似たような戦いが後何回かあれば、東京基地は落ちる。
滑走路には、既に航空機の姿はない。
皆格納庫にしまわれているのだ。
他の基地。特に私も見たが、浜松基地などでは、ドラゴンは攻撃機を率先して狙っていた。
敵はビークルを優先して破壊しに来る。もはや基地内であっても、油断できる状況ではないのだ。
勝報に素直に喜んでいる兵士達も、おそらく一晩経ったからだろう。皆、不安そうにしていた。
もはや新兵を訓練する余裕も無いという事からか。
少し前に見られた、一般人と戦闘タイプの第三世代クローンの兵士達が、混じってジョギングしている光景も。
もう辺りでは見られない。
いつ敵の攻撃があるか分からない現状。
もはや、地上で訓練など出来ない、という事なのだろう。
司令部を見て驚く。
地上部分がなくなっている。
そういえば、ドラゴンが密集しての火力投射をしてくると聞いている。今のところ、ストームチームでの戦闘中にそれを見た事はないが。東京基地でも、やられたということなのだろう。
司令部の建物が、となりの、しかも地下部分に移動していることを知って、黙々と足を運ぶ。
気が重い。
おそらく総司令部も、そろそろ地下への移動を検討するはずだからだ。
エレベータを使って、地下に。
電力が露骨に不安定になっている。電力系がやられていると言うよりも、おそらく東京基地の地下工場に全力投入しているのだろう。
武器の生産に、弾薬の増産。
何よりアーマーの生産。
そして、医療設備の安定化。
こういう所の電力のクオリティが落ちるのは、仕方が無い事だ。
司令部に出る。
また、幹部が減っていた。カーキソンもボイスオンリーで参加しているが。中将も少将も、ぐっと減っている。
席にいた日高司令は、かなり疲弊が酷いらしく、髪も乱れていたし、目の下に隈も出来ていた。
「はじめ特務少佐、席に着いてくれ。 重要な話がある」
「すぐに始めてください」
「うむ。 まず、現在の戦況だが」
戦術士官が、机上に立体映像を映し出す。
既に世界の七割近くが赤くなっている。中東地区は陥落寸前。中央アジア地区は、七割近くが落ちている。東南アジアは、巨大生物の巣穴を攻撃するべく、兵力が集められ、かろうじて耐えているが。それでもかなり厳しい状況だ。
アフリカ、南米も、六割近くが敵の手に落ち。
頑強に抵抗している極東、欧州、北米も、既に三割以上が、敵の手に落ちていた。
「それで、会議を開いた目的は」
毒づいたのはマルレイン大将である。欧州で歴戦を重ねたゲリラ戦の雄も、今回の戦況は、こたえているようだ。
咳払いすると、ヘンツィン大将が、目配せする。
ボイスオンリーだが、参加してくれているのは、エルム。ストライクフォースライトニングの隊長だ。
オーストラリアの敵巣穴を確認しに行ってくれていた。ずっと生還は厳しいと考えていたのだが。
無事だったのか。
本当に良かったと、私は胸をなで下ろしていた。
「オーストラリアで、ドラゴンが繁殖したとみられる巣穴を確認しました。 その結果、幾つかの予想が裏付けられました」
「具体的には、どういうことかね」
「もぬけの空になっています。 もはや敵は、巨大生物を培養する必要がないと判断しているという事です」
小原が代わりに言う。
彼は疲れ切っているようだが。今までの情報を集めた結果、ある事が分かったと言う。
「どうやらアースイーターは、極端な並列化をしている兵器だと言うことが分かってきましたが。 幾つかの情報の結果、どうも巨大生物も、それに準じて管理されているようなのです」
「つまり、どういうことか」
「おそらく、宇宙空間に管理者はいません。 以前の戦いでは、マザーシップが管理者となっていたようなのですが。 恐らくは、アースイーターの集中管理システムが、巨大生物も管理していると見て良いでしょう」
つまり、それさえ叩き潰せば。
一気に、逆転勝利が出来る可能性が高い。
そう言うことだ。
考えて見れば。前大戦にしてみても、マザーシップを落としたからといって、EDFは既に継戦能力をなくしていた。あのままフォーリナーが戦い続けていたら、地球人は殴り負けていただろう。
皆が顔を見合わせる。
つまり、勝機が見えてきた、という事だ。
「しかし、管理システムというのがどういうものかは、分かっていないのだろう」
「アースイーターの集中管理システム、仮にブレインと呼びましょうか。 そのブレインですが、恐らくは途方もない演算能力を要求されるはずです。 マザーシップと同等か、それ以上のサイズがある存在とみて良いでしょうね。 それに、アースイーターと連結している可能性も高い。 すぐに残っている衛星を総動員して、アースイーターを撮影してください。 其処から、割り出せるかも知れません」
カーキソンが、立ち上がったようだ。
悲報続き、絶望的な戦況についての報道ばかりが続いていた状況だ。誰もが勇み立つのは、当たり前だろう。
私だって、ようやく来たかと思ったくらいである。
「すぐに衛星の情報を解析! 後は、不審な巨大物体がないか、残っている探索能力をフル活用して、すぐに調査を行え!」
「イエッサ!」
通信が切れる。
日高司令は、嘆息すると。今度は極東についての会議を行うと言う。
極東の幹部は、著しく減っている。デスピナの艦長を除くと、参加できる中将はいないし、少将も前回の会議の半分になっていた。
「実は、東京支部の地下に、東京の巨大生物巣穴をつなげる計画がある。 今、急ピッチに行われている」
「シェルターとして活用するのですか?」
「察しが良いな。 その通りだ」
今、各地のシェルターは、人員過多による物資の不足に苦しんでいる。生産設備はあるのだけれど、逃げてきた人員が多すぎて、供給が追いついていないのだ。
其処で、敵が作って放棄した東京巣穴を利用して、そのままシェルターにする。
勿論敵の残党に急襲されては困るから、使うのは一部だけだ。だが、封鎖するのは各地に通じていた連絡通路。
敵が居住空間、繁殖空間としていた地下空間はまるまる利用する。
最悪の事態に備えてセントリーガンや隔壁は完備するほか、工場からの物資供給も行う。ただ、これについては、どうしても兵士達の物資を優先するが。
何にしても、病院設備も劣悪なシェルターにいるよりは、東京基地のすぐ地下に移った方が良い。
更に、東京基地近郊のシェルターも、この地下空間とつなげてしまう案も出ているという。
「ストームチームは、退路を確保して欲しい。 ヒドラとコンボイで避難民をピストン輸送するが、敵の攻撃があった場合の損害は計り知れない。 其処で、退路に存在する敵をたたいて欲しいのだ」
「イエッサ。 すぐにでも取りかかります」
「頼むぞ」
この作戦の本当の目的は。
兵士として徴用できる人員を増やすためだ。
東京基地近郊のシェルターでも、現在EDFへ参加したい人員を募っていると聞いている。
各地の孤立同然の状況に置かれているシェルターにいる人々に関しては、それどころではない。
だが、この人員を活用できるとなると。
人類は、更に粘り強く動けるかも知れない。
良くしたもので、既に殲滅した敵巣穴を、各地のEDFや政府も、シェルターとして活用しているそうだ。
司令部を出る。
太陽がまぶしい。
立ちくらみしそうだと言うと、涼川が笑った。
「あたしもだ」
「お前もか」
普段頑丈極まりない涼川が、こんな事をいうのである。
限界は近い。
この戦いも。あまりにも長期化した場合、人類は疲弊から力尽きてしまうかも知れない。
出撃。
一緒にレンジャー部隊を一つだけ付けて貰った。それ以外の人員は、東京基地と周辺の防御だけで精一杯だそうである。
神奈川、千葉辺りのシェルターについては、問題ない。
問題は関東北部のシェルターだ。
この辺りは、大戦初期から、かなりの人員を引き受けてきている。各地区から、極東は安全だという噂を聞いた避難民が、流れ込んできたのだ。それだけではなく、アースイーターが現れてからは、極東の別地域からさえ、避難民が流入している。劣悪な環境下で、苦しんでいる避難民は数多い。
今は巨大生物による侵食が進んでおり、各シェルターとも連絡もろくに取れない状況。
以前、カルト教団に制圧されて、隔壁を開けてしまい。全滅したシェルターの悲劇が報道されたが。
シェルターの適正人員の200パーセントを超えてしまっている場所もある。そのようなシェルターでは他人事ではない。いつ集団ヒステリーが起きて、もっと酷い悲劇に発展しても、不思議では無いのだ。
ストームチームとしても、この作戦は難事だ。
ア-スイーターの支配下に置かれていないシェルターだけを救出するにしても。退路の確保は、かなり大変な作業になる。
巨大生物といっても、黒蟻や赤蟻だけではない。
ドラゴンも、当然含まれるのだ。
目標になっているシェルターは四つ。
これから関東北部の山を這い回り、退路を確保しなければならない。確保した退路は、ヒドラとコンボイを通して、ピストン輸送。その輸送を邪魔しないためにも、ストームチームはずっと戦い続けなければならないのだ。
もはやろくに敵の配置も分からない山中に踏み込む。
早速、黒蟻の小集団を発見。即座に攻撃を集中して片付ける。
一緒に来ているレンジャーチームには、ジープで分散して偵察に当たって貰っている。敵を見つけても、絶対に手を出さないようにと告げてあるが。それでも、敵に先制攻撃を貰う可能性もある。
幸い舗装道路は残っているし、今のジープなら、山中を走り回るのは決して難しくはない。
山中を進みながら、小集団と遭遇する度に排除。
敵は殆ど移動せず。
制圧した地域に陣取るだけで、繁殖もしていない様子だ。これは、どういうことなのだろう。殺してくれと言っているようなものだが。
とにかく、丸一日動き回り、七回の戦闘をこなした。
その度に五六匹の巨大生物と遭遇。
全ての群れを撃滅。
嫌な予感がする。筅が、通信を入れてくる。
「ひょっとして、敵は此方を誘い込もうとしているのでは」
「可能性は否定出来ないな。 ストームリーダー、どう思う」
全員が聞いている通信だから、弟はリーダーと私も呼ぶ。弟はしばらく考え込んだ後に、だが前進を続けると言った。
偵察に出ていたレンジャー部隊とも連携して、後方にある程度の安全圏は確保。
レタリウスはいない。
このまま上手く行けば、最初のシェルターには、明日には到達できるが。しかし、案の定、そうはいかなかった。
偵察に出ていたレンジャー部隊の一支隊が、慌てて戻ってくる。
「ドラゴンです!」
「総員、戦闘準備!」
弟が立ち上がり、指示を出すと同時に。
バイザーのレーダーが真っ赤に染まった。やはり敵は、誘い込んできていたとみるべきだろう。
どっと殺到してくるドラゴンの一部隊。
数は当然百体だ。
対空砲火を浴びせ、足止めしたところを狙い撃ちに掛かる。池口の最新鋭ネグリングの猛火を浴びて怯んだドラゴンをつるべ打ちするが。
しかし、別のレンジャー部隊支隊が戻ってくる。
北部から、黒蟻と赤蟻の部隊が迫っている。此方も、かなりの数だ。
やはり、こうなるか。
ドラゴンがいる限り、ヘリは使い物にならない。ベガルタに飛び込んだ筅が、時間稼ぎのために北上するが、ドラゴンがその間に突入してくる。対空砲火を無理矢理突破しての強行攻撃だ。
しかも、更に二隊のドラゴンが、東西から出現。
間を置かず、猛攻を掛けてくる。
谷山の電磁プリズンが、見る間に消耗。
やはり、此奴らを相手に、被害を減らす方法は無い。キャリバンに火球が集中し、見る間に中破。
ミラージュを連射していた三川が、吹っ飛ばされる。
地面に叩き付けられた三川を庇って、私が飛び込む。食いついてきたドラゴンを盾で防ぐが、かなりの距離を吹っ飛ばされる。ガリア砲で、カウンターの一撃。頭部を吹っ飛ばされたドラゴンが、横転しながら砕け散った。
ネグリングが、大破する。
第五艦隊から報告があった、集中砲火を浴びたのだ。殆ど一瞬の出来事だった。壊れたネグリングから飛び出してきた池口を庇って、ナナコが飛び出す。フュージョンブラスターを起動して、迫ってくる敵を焼き払うが。
しかし、火球をもろに浴びる。
アーマーが溶かされたのが分かった。
膝から崩れ落ちるナナコは、体から煙を上げていた。
「ナナコちゃん!」
飛び出した日高少尉が、ぐったりしているナナコをキャリバンに引っ張り込む。怒濤の猛攻がその間も続き、見る間にビークルが消耗していった。
どうにか、ドラゴンどもを撃破したが。
間を置かず、筅が抑えていた黒蟻と赤蟻が、凶蟲もつれて殺到してくる。
ようやくここで、砲兵隊の支援が間に合った。
大威力キャノン砲が、東京基地から放たれ。巨大生物の群れを直撃。敵の多数を吹き飛ばした。
ここぞとばかりに攻勢を掛けるが。
敵を蹴散らした後、ストームチームは既に、満身創痍だった。
時間がない。
とにかく確保した退路を使って、山中にあるシェルターに接触。
隔壁を開けて、中に入ると。むっとした臭いが漂ってきた。空気の清浄化さえ、上手く行っていない状況だ。
中は案の定、極めて不衛生な状況。
最優先したこのシェルターは、人員が適正の三百%を超えてしまっているのだから、当然だろう。
他の地区のシェルターの状況が、どれだけ悲惨なのか、考えるのも恐ろしい。通信も孤立してしまっては、恐怖が蔓延して、人々が狂気と集団ヒステリーに陥るのも、無理はないと私でさえ思う。
敵と戦っているEDF隊員も、PTSDで苦しむ者も多い。戦死の恐怖も、間近にある。
しかし、多数の知らない人間と閉鎖空間に閉じ込められる恐怖だって、それに勝とも劣らないだろう。
すぐにヒドラを使って、弱っている人から順番に運び出す。
中で暴力事件や略奪を起こした人間は、簡易牢に入れられていた。彼らも連れ出して、東京基地で預かる。
裁判に掛けて、適正な罪を受けさせるためだ。
集団ヒステリーで暴行を加えられた可能性もある。此処で裁くのではなく、冷静な環境で処置した方がいい。
中にいた警備部隊の隊員は、髭も伸び放題で、目も血走っていた。弟が報告を受けるが、辟易していた。
「精神を病みかけているな」
「あんな環境では無理はない」
「東京基地の地下に移って貰ったとして、その後は大丈夫なのかと、執拗に聞かれたよ」
どうやら此処の隊員は、自分たちは脱出して、後は平和に暮らせると勘違いしてしまっていたらしい。
東京基地の地下に作るシェルターの方は、百五十万の人員を収容できる。
東京基地は、人員も減ってしまっているので。
インフラについても、問題ない。
ピストン輸送を開始。
一緒に行けないと聞いた隊員は発狂しそうになったので、やむなく人員を交代させる。ヒドラで代わりの人員に来て貰ったが、いずれもPTSDが回復していない傷病兵ばかりだった。
どこも窮状には変わりない。
キャリバンに収容した三川とナナコ、それに池口の様子を見る。
ナナコが特に重傷だ。火傷が酷い。
ヒドラに収納して貰って、一旦東京基地の病院へ。応急処置では、おそらくどうにもならないだろう。幸い、コンボイと一緒に来たネグリングを支給して貰ったが、それもいつまた壊れるか。
途中、退路で敵を見たという報告を受ける度に、ストームは急行。
敵部隊を排除しては、シェルターに戻った。
二日で、七機のヒドラがピストン輸送をし、五万近い避難民を輸送。二万四千の避難民には、このシェルターに残って貰う。
隔壁を閉鎖。
二日間、殆ど休む事は出来なかった。
だが、この北にあるシェルターは、更に悲惨な状態だと聞いている。幸い、ナナコはすぐに治療がはじめられて、一週間もすれば復帰出来ると報告が来た。
専用機のヒドラに収納していたキャリバンとネグリングも、動かせる状態にまでは、回復した。
次のシェルターだ。
誰も不平は言わないが。
誰の目にも、疲弊が色濃く出ていた。
山の中に、赤蟻が多数陣取っている。
そのすぐ側に、シェルターがある。もしもシェルター内で何かが起きたら、大事故につながりかねない。
シェルター内と通信が取れない。
近くにアースイーターがいるから、というのもあるだろうが、何か嫌な予感がする。作戦を急いで欲しいと、日高司令からも通信があった。
「まずはネレイドで蹴散らします。 残党の処理をお願いします」
谷山がそう言って、ネレイドで出る。
谷山も連日の任務で、相当に疲弊しているらしい。歴戦のヘリパイロットも、あのような状態のシェルターを見ては、平静ではいられないと言うことだ。
私は。
一応は、平気だ。
だが、忸怩たる思いもある。
アースイーターを落とせば勝てる。その希望が示されてから、更に作戦が過酷になったような気もしている。
地下の彼奴の意識は、まだ私の中にもある。知識も。
だからこそ、余計に焦燥は募るのだ。
ネレイドが現れると、赤蟻は上を向く。機関砲が赤蟻の群れを蹴散らしはじめる。今の時点で、ドラゴンはいないが。
しかし、赤蟻は動じる様子も無い。
すぐにその時が来る。レーダーが真っ赤に染まる。偵察に出ていたレンジャー部隊が、急を告げてきた。
「ドラゴンです! 数は二百から三百!」
「やり過ごせ。 交戦は考えなくても良い」
「イエッサ!」
谷山がすぐに此方に戻ってくる。赤蟻は平然とその様子を見ていた。ドラゴンが来たら、連携をして戦闘するつもりなのだろう。
巡航速度、時速八百キロ。
実際には音速も超える空の悪魔共が、すぐに姿を見せる。ネグリングが先制のミサイルを浴びせかけるが。
同時に、赤蟻の群れが大攻勢に出た。
殆ど間を置かず、ドラゴンの群れも攻撃を開始。
着地したネレイドから飛び出した谷山が、電磁プリズンを展開。最前衛に立ちふさがったベガルタが、コンバットバーナーで炎の壁を作る。
しかし、である。
爆裂とともに、ベガルタファイアロードが、数歩下がる。
駆逐艦を吹き飛ばしたという、ドラゴンによる精密集中砲火だ。電磁プリズンの防壁を一撃貫通し、ベガルタを瞬時に中破に追い込んだのだ。
必死にミサイルを投射し続けるネグリングにも、火力が集中しはじめる。
「赤蟻は任せろ」
涼川が飛び出して、原田と一緒にスタンピートからグレネードをばらまきはじめるが。赤蟻は押さえ込めても、ドラゴンはどうにもならない。
対空砲火をくぐり抜けたドラゴンが、突進してくる。
防ぎきれない。
谷山が展開したセントリーガンの防壁を文字通り蹴散らし、ドラゴンが来る。弟とジョンソンがフュージョンブラスターで薙ぎ払う。しかし、光と熱の壁を突き抜けて、ドラゴンが躍りかかってきた。
最後の防壁である私と矢島が、盾ではじき返すが。
それも四度まで。
噛まれた。
盾を吹っ飛ばしたドラゴンが、私に噛みついたのだ。
振り回され、地面に叩き付けられる。だが同時に私も、ハンマーでドラゴンを吹っ飛ばしていた。
激しく地面に叩き付けられた私は。
酷い痛みを感じながらも、ダメージをチェック。
アーマーが全壊。
スーツも、ダメージが、レッドに達していた。
立ち上がりつつ、ディスラプターを起動。キャリバンに集っていたドラゴンを焼き払う。咆哮するグレイプRZの速射砲。イプシロンもネグリングも、酷い煙を上げていた。
砲兵隊の支援が来る。
ようやくだ。
対空クラスター弾が、ドラゴンの群れに直撃。勢いを減じたドラゴンに、まだどうにか攻撃能力を残していたネグリングから、ミサイルが叩き付けられ。敵がさっと逃走に移る。
視界の隅。
弟が、地面に倒れているのが見えた。
立ち上がろうとして、何度か失敗。駆け寄ったエミリーも、頭から血を流している。肩から背中に掛けて酷い火傷。三川は、意識をなくして倒れている、
辺りは、爆撃を受けたような有様。
ストームチームは。
全員が負傷。
偵察に出ていたレンジャーチームが戻ってくる。彼らも、惨状に息を呑んでいた。
「救助支援、お願いします!」
キャリバンとグレイプRZに皆を運び込む日高少尉。
そういう彼女も、アーマーを集中砲火で抜かれ、EDFの戦闘服を焦がしてしまっている。怪我もしているはずだ。
慌てて救助に掛かるレンジャーチームだが。
彼らも連日の過酷な任務で、酷く疲弊しているのが見て取れた。
キャリバンに私も運び込まれる。
すぐにバイタルをチェック。
死ぬほどでは無い。三川や弟を優先。弟は意識こそあるが、左半身を手酷く痛めつけられていた。
ドラゴンの火球を浴び、噛まれて振り回されたのだ。
「す、すぐにヒドラを呼びます」
レンジャーの一人がバイザーから、ストームの専用機を呼ぶ。中にはもう少しましな設備がある。
ベガルタはそういえば、どうなった。
何気なしに外を見ると。
戦場で活躍し続けたベガルタM3ファイアロードは、無惨な姿になっていた。電磁プリズンを喰い破った精密集中砲火の煽りを喰らったのである。しかも、その後の戦闘で、ドラゴンの怒濤の攻撃に対し、前衛に立ち防ぎ続けたのだ。
機体はもう動かないだろう。
コックピットから引っ張り出された筅は、意識が無い様子だ。
重機を使って、ヒドラにベガルタが引っ張り込まれていくのを見ると、悲しくてならない。
キャリバンも、ヒドラに。
内部の医療設備を使って、診察が始まる。
「いくら何でも、こんな任務は酷い」
専任の、初老の医師が呻いている。
だが、彼にだって分かっている筈だ。もはやEDFは大半の戦力を失ってしまっている。極東には、ストームチームくらいしか、ドラゴンに対して戦闘を行える者がいないのだ。
他のヒドラも到着。
横たえられたまま、治療を受けながら。
バイザーを使って、救助の様子を確認。
隔壁を開いて、シェルター内部に踏み込んだ隊員達が。巨大生物が占領していることを覚悟もしていただろうに、悲鳴を上げていた。
「何だこれは!」
映像が入ってくる。
内部は血の海だ。
どうやら、避難民同士の間で、抗争があったらしい。EDFの留守部隊もいたのだが、彼らでも抑えきれないほどの規模だった様子だ。
このシェルターには、元々八万の収容人数に対して、二十二万の人員が詰め込まれていた。その過密な状態が、集団ヒステリーを加速させることは想像が出来ていたが。生き残った難民達が、皆目を血走らせていて。
救助に来た部隊に、噛みつきかねない形相をしていた。
通信施設が破壊されている様子が、バイザーに映る。
すぐに工兵が入る。機械類は、何処にでもいくらでもある訳では無い。見た感触では、物理的に破壊されているから、現在の技術力なら復旧は可能だ。
EDFの留守居部隊が発見される。
隅っこの辺りで、武器を構えて目を血走らせ、震えている所を救助された。なるほど、途方もない数の暴力に晒されたというわけだ。閉鎖空間で、いつ外での戦闘が終わるか分からない状況。
訓練を受けていても、こうなるか。
声を張り上げる、突入部隊の隊長。
「救助に来ました」
返答は、獣のような咆哮。
流石に青ざめる隊長だが。それでも、救助作業ははじめた。血の臭いと、死肉の山の中で。
辺りは死体の山。おそらく、抗争で二万人以上の死者が出ているだろうと、内部機能を復旧させたスカウトが報告してくる。
無力化ガスを投入、興奮している避難民達を黙らせると。
ロボットや重機も使って、避難民や死体を運び出し始める。死体はシェルターの外に埋葬して、上からコンクリで固めるのだ。
作業は急ぐ必要がある。
ストームチームの戦力は四半減。ドラゴンが戻ってきたら、手に負えない可能性が高いのだ。
負傷者から運び出す。
子供の負傷者が特に酷い。
完全におかしくなった避難民が、殺した人間の肉を食べた形跡もあると、突入部隊の隊長が告げてきた。
「地獄絵図です」
「……救助を、急いでくれ」
弟と隊長のやりとりも、平静を欠く。弟も今、私とは違う部屋で治療を受けながら、この映像を見ている。バイザーを通じて、やりとりが分かったからだ。
おそらく、地獄では無いと、私は思う。
もはや、多くのシェルターで、この状況は普遍化しているはずだ。何処にでもあるものは、もう地獄とは呼べないだろう。
いつの間にか眠っていた。
起きたときに、負傷者の救助と、難民の沈静化が終わったことを告げられた。
時間は六時間が経過している。
だが、これから二三日を掛けて、ピストン輸送するのだ。ヒドラは二十機が準備されたが、多くは旧式で、だましだまし使っている機体も多かった。
カプセルを這い出る。カプセルに入れられていたことさえ、気付かなかった。体が非常に重い。
カプセルを見ると、夢を見ないように高回復モードにされていた。
他の隊員達は。
外に出ると、日高少尉が膝を抱えていた。
やりとりを聞いていたのだろう。気丈で明るい彼女も、押し黙っていた。
「怪我は平気か、少尉」
「特務少佐は平気ですか」
「私は、そうだな。 もう少し休んだら、戦闘にも出られる」
「私もです」
膝を抱えたまま、日高少尉は受け答えする。
泣いているのか。
私は、知っている。人間は極限状態でおかしくなると。前大戦末期の戦場で、いくらでも見てきた。
頭のネジが外れてしまった人間を。
だから、呻くことはあっても。
絶望はもうしない。
「絶望したのか」
「人って、おかしくなるんですね。 こんなに簡単に」
「守る意味がないと思うか」
「そうは思わないです。 でも、心が折れそうです」
日高少尉の自嘲が、空に流れる。
弟が、カプセル室から出てきた。包帯を左腕に巻いている。高回復モードでも、まだ治りきらないか。
治りきらないだろう。
こんな近距離なのに。日高少尉がいるからだろう。オンリー回線を開いてくる。
「姉貴、起きたか」
「ああ。 今、状況を確認している所だ」
「しばらく、部隊の指揮を任せたい。 医師に、もう少し休めと言われてな。 何、数時間だ。 頼めるか」
「頼まれるさ」
頷き合うと、弟は部屋に戻っていく。
現状を確認。
負傷者のうち、エミリーが特に酷い。急速医療でどうにかするが、数日は絶対に動かすなと、医師が角を生やしている。
他のメンバーも、明日は戦闘を控えた方が良いだろうとも。
だが。
本部から、血を吐くような命令が来た。
「体制が整い次第、西にいる敵部隊を撃破して、退路を確保して欲しい。 連絡が途絶えがちになっているシェルターが一つある」
「作戦遂行は明後日になります」
「それでかまわない。 無理は承知だ。 君達を今、失うわけにはいかない」
通信を切る。
まだ、この調子で、戦わなければならないだろう。
撤退作業の様子を確認。ピストン輸送で、現在六割ほどは救助完了。あのような事件が起きた後だが。定員の人員は、シェルターに残すようだ。
普通だったら、全員を退避させるところだが。
もはや、人類に、安心できる場所など何処にもない。東京基地だって、いつアースイータが攻めこんでくるか分からない状況なのだ。
この作業だって、無駄かも知れない。
東京基地にジェノサイド砲を連続して叩き込まれて、黙らされたら。後は、広大な地下空間だって、敵の狩り場と化すかも知れないからだ。
そもそも。
抗戦が、もはや無駄な可能性だってある。
隊員を集める。
皆の疲弊が酷い。これから西にいる凶蟲を倒すと告げてから、一日休むようにと指示。
無言のまま散っていく部下達。
戦いは無情だ。