地球防衛軍4二次創作 2025絶滅螺旋 作:dwwyakata@2024
敵の抵抗は、軽微だった。
通路を抜けた先には、今までで一番広い空間。そして空間の壁にも床にも、ぎっしりと格子状の構造。
中には、ざっと見たところ。
卵も蛹もない。
餌にされた人達の残骸が詰まっているような事もない。
此処は生産設備としての役割を、もう終えたのだ。
暗闇用の拡大スコープを使っていた谷山さんが、私を手招き。使うように言う。
「ナナコ君、見えますか」
「はい。 大きい、ですね」
「少し前に小原博士が言っていた通りですね。 巨大生物は、そのものが進化したのでは無く、女王が進化していると」
暗闇の向こうに蹲っているのは。
およそ全長五十メートルから、六十メートル。他の蜂の五倍以上の長さがある、途方もない巨大な蜂。
以前目撃した女王蟻とは姿が違う。
あれが女王に間違いない。
直衛についている部下は、殆ど見当たらない。
谷山さんは、すぐに戻るように、私を促した。
「そういえば、どうして筅さんを伴わなかったんですか」
「あの子は支援専門の弟子ですよ。 戦闘力はどうしても問題があるし、今回は君の方が適任ですからね」
「そうなんですか」
「そうです。 だからその分、次の戦いでは、空爆指示のコツについて、しっかりレクチャーするつもりです」
バイクで戻る。
敵が気付いているかいないかは、よく分からなかった。ただ、気付いていたとしても。もう、どうにもならないだろう。
詰みだ。
そしてあの女王は。自分が役割を終えた事を理解して、少しでも時間を稼ぐためだけに、命を捨てる気でいる。
それが機械的な事なのか。
或いは何かしらの意思があるのかは分からない。
気付く。
いつのまにか、巨大生物に対する燃えさかるような敵意が消えてしまっている。日高少尉を傷つけた巨大生物が、あれほど嫌いだったのに。
今では、女王蜂に、同情さえし始めている自分がいる。
谷山さんが、報告をはじめる。
「奧には女王だけです」
「更に敵が潜んでいる可能性は」
「ありませんね。 少なくとも、救援できる近距離に、敵は潜んでいないでしょう」
「そうか。 ならば無茶をする必要も、犠牲を出す意味もないな。 速攻でなおかつ確実に片付ける」
ストームリーダーが、指示。
涼川さんに、爆発物での支援。前衛にははじめ特務少佐が出て、ストームリーダーは中距離から攻撃担当。
間合いに入り次第、ディスラプターとフュージョンブラスターで焼き払う。
ジョンソンさんと日高少尉は控え。
他のメンバーは、全員が穴の入り口出口に控え。更にセントリーガンを多数配置して、奇襲に備える。
これで、勝てる筈だ。
ストームリーダーはそう言ったし、私もそう思う。
巣について送られてきたデータを調べている小原博士が、聞いてくる。
「ストームリーダー。 この巣は作戦終了後に、ノートゥングで焼き払う。 だからその前に、一つ、データを持ち帰って欲しい」
「壁や床のデータや、映像データは既に送られているでしょう。 何を必要としているのですか」
「女王の体内にある卵についてだ。 もしも採取できるようなら、採取して欲しい」
今までの戦闘でも、女王蟻の死骸から、卵は採取されていないらしいのである。
巣の奧にいた女王蟻の死骸は木っ端みじんだし、外に出てきている連中は、卵を産み尽くしてから出てきているらしく、死骸の残骸を調べても、卵は見つかっていないというのだ。
もし見つかったらと、ストームリーダーは念を押してから、作戦を開始する。
私は、谷山さんと一緒に、通路の出口を固める役だ。敵の別働隊がまだいて、通路の途中から攻めこんできた場合にも、これで対処できる。
奧で、ちかちかと光が瞬き始めた。
女王蜂はとんでも無い巨大な針をばらまいているらしい。はじめ特務少佐が機動戦で攪乱しているが、一発一発の針が、長さ十メートルもありそうだ。あれはまともに喰らったら、即死である。アーマーなんて、ひとたまりもないだろう。
ただし、やはり狭い空間である事。
支援が充実している事が大きい。
ひっきりなしに、確実に着弾してくる涼川中佐のロケットランチャー弾が、確実に女王の飛行と攻撃を阻害し。
適切な距離に陣取ったストームリーダーが、フュージョンブラスターを起動。
灼熱のエネルギービームが、女王蜂を一気に焼き尽くしていく。
更にはじめ特務少佐が振り返って、ディスラプターを起動。それでもしばらく、もがきながら女王は耐えていた。
しかし、それも限界が来る。
灼熱の殺意に晒された女王のアーマーが崩壊。その体が、爆散。
燃え滓が。辺りに散らばる。
敵性反応は、これで消えた。
腹部の辺りの死骸は、何処へ飛んだか、私が確認していた。探し出す。内臓なども、ほとんど生の状態では残っていなかったけれど。
バイザーから蜂の卵管と産卵についてネットにつないで調査。割り出した形状などから、残骸を発見した。
ストームリーダーを呼ぶ。
二人で調べたけれど。卵らしきものは、やはり入っていなかった。
「今頃奴らの卵や幼虫は、移動式巣穴とでも呼ぶべきアースイーターの中だろうな」
ストームリーダーが、わざと周囲に聞こえるように言った。
そして、撤収を命じた。
巣穴から出て、すぐに基地へ。
巣穴での作業は、スカウトと谷山さんに任せた。ノートゥングで焼きやすいように、上下を抜ける縦穴を作るのである。プラスチック爆弾で蜂の巣の中央部分を抜く。敵の妨害がない今は、それほど難しくない事だった。
来ているヒドラに全ての物資。装甲や発電機までも詰め込んで、ピストン輸送を開始。最初に輸送するのは、人員だ。今や戦闘要員そのものこそが、EDFの至宝だと言う事は、私も知っている。
そして、東南アジア地区はこれで事実上放棄。
残っている基地も、多分長くは敵の攻撃に対処できないだろう。
輸送の準備が始まる中、日高少尉が来た。
凄く機嫌が良さそうだ。
「ナナコちゃん、頑張ったね」
「はい。 日高少尉も」
「私は中尉に昇進するって決まったよ。 多分他のみんなも、少尉になると思う。 ナナコちゃんもね」
そうか、私も下士官か。
確か試験を受けなければならないはずだけれど。多分それは簡易で済ませるのだろう。それにストームチームのみんなは、きっとそんなの受けなくても、充分な戦歴を積み上げている筈だ。
ベテラン勢も、みんな昇進だという。
ストームリーダーは少将待遇の、特務大佐に。
ジョンソンさんは准将に。はじめ特務少佐は、特務中佐に。となると、少将が指揮官で、准将のナンバーツーが二人いる特殊部隊になる。あまりにも異常な部隊だ。歴史でも例がないのではあるまいか。
確かにストームチームは、人類史上最強の特殊部隊だと思うけれど。
いびつだと、私は思う。
涼川中佐や香坂夫妻、エミリーさんや谷山さんも、みんな大佐に昇進するという。これもおかしい。
みんな、特殊部隊のリーダーを務められる階級だ。
少し悩んだけれど、すぐに疑問は氷解。もうEDFは負けている。だから、少しでも士気を保つために、階級の大判振る舞いをしているというわけだ。
首を振る。
もう、負けを認めていると同然の状況。
今後、勝ちに転じるには、どれだけの逆転要素を掴まなければならないのか。
ストームリーダーに緊急通信が来る。
何だろう。
東京基地が壊滅したのだろうか。もしそうなら、帰る場所もなくなってしまったことになるが。
ストームリーダーが顔を上げると、手を叩いて皆の視線を集めた。
「これから、重要な情報を共有する」
バイザーに、特殊な回線チャンネルが指定された。此処にいるメンバーだけで、閲覧できる回線だ。
内容は、ブレイン。
アースイーターの中枢とみなされる存在についてだ。
「必死の研究の結果、一つ重大なことが分かった。 フォーリナーの行動が、明らかに変わってきている。 完全に人類の抵抗を粉砕し、戦況をコントロールしたと判断していると見て良いだろう」
その証拠が、ここ最近の戦いだ。
一気呵成に攻め立てれば、フォーリナーはもうとっくに人類を滅ぼせているはずだ。だが、ドラゴンが世界中に攻撃を開始した日、EDFの戦力が八割を失ってからは、不意に攻撃が鈍化した。
以降は様子を見るように、支配地域をゆっくり広げている。シェルターへの攻撃も、積極的にはしていないようだ。勿論、戦略的意図がある場合を除いて。
問題は此処からだ。
フォーリナーにとっての最終目標が、新しく強靱な肉体の創造である事は既に分かっている。
ドラゴンが間違いなくそれだ。
ならば、奴らは何故まだ、地球人類への攻撃を加えている。
仮設が、此処で出てくる。
奴らは今の時点で、ドラゴンがまだ充分な戦闘経験を積んでいないと判断している。故に、強力な部隊に対してちょっかいを加えて、出方を見ている。そしてその動きを観察し、ドラゴンに反映しているのでは無いのか。
もし、敵が満足しきれば。
宇宙に返す事も可能なのでは無いか。
皆が顔を見合わせる。
これは、希望が見えてきたかも知れない。要するに、徹底的な抗戦を続ければ、充分なデータを得る事が出来たと判断したフォーリナーが、引く可能性が高いのである。
状況が、その仮説を後押ししている。
更に、である。
ブレインの居場所についても、絞り込みが進んでいる。これを叩いてしまえば、或いは、それより更に早く、敵を追い出せるかも知れない。
「小原博士は、これからブレインの足跡を徹底的に洗い出すそうだ。 ストームチームは、これから厳しくなるのは分かるのだが。 敵に対して交戦を続け、ドラゴンの経験を蓄積するような激しい戦闘をして欲しい、とのことだ」
「何だかわからねーが、要するに敵をブッ殺してブッ殺してブッ殺しまくれば良いんだな」
涼川さんが、とても獰猛な笑みを浮かべる。
はじめ特務少佐が、ため息をついた。
「結局、我々は戦う事でしか、存在を証明できず。 そして戦う事でしか、敵と対話することさえ出来ないんだな」
「これで戦える大義名分が出来ました。 私は嬉しいです」
日高少尉は嬉しそうにしているけれど。
私は、そんな気分にはなれなかった。
ヒドラで、東京基地に引き上げる。これからどんな無茶な作戦に繰り出されるか分からないけれど。
きっと、戦いが終わるまでに。
私は生きていないだろうな。
そんな予感が、確かにあった。
(続)
既にフォーリナーの目的は判明しています。
総司令部を移動しながら抵抗する人類は、どうにかそれと折り合いをつけるしか道がなくなっています。
その折り合いの切り札となりうるのがアースイーターの旗艦。
ブレインです。