愚者よ、○○の為に死んでくれ   作:気が向いたら公開するか?

1 / 2
プロローグ:流星の夜(リュウセイノヨ)

 白けた空に、2人を除き誰も見当たらない静かな空間。

 

「流星群は好き?」

 

 そんな平穏を否定するように響く、軽やかな声。

 

「なんだいきなり」

 

「変化はいつでもいきなりさ。この空のように」

 

 確かに、とは思う。

 

 何故? と問う者はこの世界に生きていればいないのだが、あえて答えるならば流星群、と答えるしかないだろう。

 

「【異常流星現象(スコール)】」

 

 夜を朝方の如く照らし続け、今尚降り注ぐ流れ星は、重なり過ぎてもはや大樹の如き様相だ。

 

「数ヶ月前、突如として降り注ぎ始めた異常な数の流星群。最初は夜の数時間。次第に降り注ぐ時間は増えていき、今ではなんと1日中……これだけ目にするものなんだ。嫌いだったら気の毒だろう?」

 

「……昔であれば、3回願い事を言う程度には親しみを持ってるよ。そんなおまじない、今じゃ1日かけたって叶いそうだが」

 

「ふむ、日本に伝わるおまじない、って奴だね?」

 

 目の前の少女は興味深そうに尋ね返してくる。

 

「ああ、誰かが『ビルに植物を生やして下さい』って3回、流れ星が消える前に唱えることができたら、その願いは叶う。そういうおまじないだ」

 

「……あは、笑えないねそれ」

 

「流石に冗談だ。願ったところで叶う問題でもない」

 

「言霊、とは言うけれど。これはそんな粋を超えてるからね」

 

 足元のビル。

 

 コンクリートで作られている筈のそれらは、今現在緑に覆われている。

 

「このビルと、目の前のビル、見えないけどその向こうもそうっぽいよ」

 

「早いな。……このままじゃ、ネットの憶測が真実になる勢いだ」

 

 流星群が空を走り始めてからというもの、どこからか現れた植物たちが一夜で数個のビルを呑み込む、という事例が世界各地で多発しているのだ。

 

「どこかのビルが植物の重みに耐えかねて倒壊した、なんて話もあるみたいだし……どうなるんだろうねぇ、この世界」

 

「さぁな。他にも物騒な宗教家もいるみたいだし……本当に世界が滅ぶかもな? 法士様?」

 

「うぐ。……ボクはもう古巣を追い出されたようなものなんだってば」

 

「実際にそう言われた訳じゃ、ないんだろ?」

 

「だとしても、だよ。任務は失敗したし、大切な霊薬は使っちゃったし……こんな結果で帰ったら即斬られるよ、ボク」

 

 はぁ、と大きなため息を吐き、首をさする少女。

 

「指で済めばいいなぁ」

 

「普通は首とかじゃない?」

 

「ヤクザは指を詰めるんだよ、そういう時」

 

「こわっ。……って、ヤクザって要するに黑社会だよね? うちをそいつらと一緒にしないで貰えないかな」

 

 ムスっとした態度と不満気な赤い瞳が俺を見ている。

 

「と、言われても。出会って5秒で殺されかけて、怪しげな薬を飲まされる連中は、過激と言わざるを得ないだろ」

 

「そっ! ……それは! その……えっと、ほんとに申し訳ないって思ってるけど……」

 

 なんだ、顔を真っ赤にしたり真っ青にしたり、感情の忙しい奴である。

 

「徐福」

 

「……ん、何?」

 

「これ、本当に名前か? 思いっきり有名人と被ってるが」

 

「偽名だよ、というかコードネームの方が近いかも。……実は、凄腕のスパイなんだボクは」

 

「いいとこ使い捨てだろ」

 

「ひどっ」

 

 どうやら、数日前に見たスパイ映画を思い出したらしい。

 

 あれも組織が関連していたなぁ。

 

「……で、どうなんだお前の組織とやらは」

 

「え?」

 

「あれからもう1ヶ月は経つ。変なのには絡まれるが、お前の組織からはなんの音沙汰もないように感じる。つっても大切な薬だったんだろ?」

 

「……その話は、もういいよ」

 

「しかしな」

 

「いいったら、ボクが言ってるんだから。そんなことより目の前の問題だよ」

 

 無理矢理感が否めないが、どうやらこの話題はNGらしい。

 

 にしてもそんなこと扱いされるのは誠に遺憾なのだが、我当事者ぞ?

 

「原因不明、正体不明、条件も不明。研究者の端くれとして何としても究明したいところ……とは全く思わないんだけどさ、こんな得体の知れないもの」

 

「研究者の肩書きが泣いてるな」

 

無問題(モウマンタイ)。ボクは自分のやりたいことの為の研究者だからね、知らないことを知りたいんじゃない」

 

 そういうものか? そういうものか。

 

 まあ本人がそう割り切っているのならそうなのだろう。

 

「見た目と、従来の植物達の特徴を照らし合わせた結果、コレは植物である、とされているけど」

 

「……まぁ、そうだな」

 

「キミも察した通り、植物と言うにしてもコレは少々規格外過ぎる。建物被害を一切無視した現代銃兵器による破壊行為や、火器による燃焼。それらはあり得ない程効果がなかった」

 

 こいつらは夜の間だけ、人の世を飲み込まんと蠢いているのだが、不思議なことに夜行性という訳ではないらしい。

 

 燃えたり、破壊されるなどで欠損した場合はその箇所から、瞬く間に再生する上に、夜に比べると僅かではあるが、侵食行為を再開するのだ。

 

「このままじゃ、この世界はこの気味の悪いものに飲み込まれてしまう。それは困るよね、キミも、ボクも」

 

「そうなるな」

 

「……妹さん、だったよね?」

 

「ああ。あいつがちゃんと幸せになるのを、俺は見届けなきゃならん」

 

 中々アレな動機であるのは自覚している。

 

 が、ここは俺としても譲れないところなのだ。

 

「と、なると。ボクたちがするべきことはわかるよね」

 

「……何を今更、説明口調で振り返ってんだ。その為に今、ここにいるってのに」

 

「む、途中からキミだって乗り気だったじゃん。……とと、どうやら今日は、()()()()()()みたいだね?」

 

 ビルが、揺れている。

 

「どれもこれも、あんたら胡散臭い宗教家の仕業かよ」

 

「いやー……否定しづらいけどさ」

 

 異常な植物もどきだけなら、俺たちのような一般人……に見える部外者がわざわざ出張る必要もない。

 

 まあ俺は元一般人なんだが。

 

「ボクの同僚じゃない、とだけ断言しとくね。というかこんな怪生物を沢山生み出せるんなら、人類はとっくの昔にこうなってるよ」

 

「そういうもんか」

 

「そういうもの、人類は満足感を求めるからね」

 

「満足感? 金とか地位……お前らのところなら、不死なんかじゃないのか」

 

「それを求めるのが、満足したいからってことだよ」

 

「ほー」

 

 義務感とかが混じってる人種もいそうなもんだが。

 

 そこは個人のあれこれ、と言うことか。

 

「さて、お出ましだな」

 

 俺たちがある場所の前方、侵食され限界を留めていない緑の床が、ボコボコと膨れ上がる。

 

「今回は……わぉ、緑だね」

 

「図体もデカそうだ。これは……時間がかかりそうだなぁ」

 

「あれ、なんて言うんだっけ」

 

 目の前に生まれ出でるは緑の巨体、あれだ……なんだっけか。

 

「……ああ、そうだ、オークという奴だ」

 

「へー……豚って緑だっけ?」

 

「知らん。オークを豚系のモンスターとするか、緑の巨人とするかによる」

 

「ふーん」

 

 どちらにせよファンタジーの世界だな本当に。

 

「キミはどっちだと思う?」

 

「前者。お前は?」

 

「同じかなぁ、じゃああれなんだろ」

 

「ふむぅ……シンプルにグリーンオークとでもするか」

 

「大きなゴブリンってことにしてもいいかも」

 

 ジャイアント・ゴブリンか? まぁ呼び方がどうあれすることは変わらないのか。

 

「グオオオォォォ!!!」

 

「お怒りだな」

 

「なんでだろ?」

 

「くだらん話だと思ってるんじゃないか?」

 

「まず、あっちに言葉がわかるのかな、日本語だけど」

 

「わかるんなら相当賢いということになるが」

 

「だよね。世界で1番……は言い過ぎだけど、難しい言語だよ? すごいねキミたち」

 

「俺ら日本人から見た外国人も似たようなもんだが」

 

「グルルル……!!!」

 

 なんだこいつら、と言わんばかりの様相でこちらを睨んでいるデカブツ。

 

 ふむ、あれは怒っていると言うより驚かせているのに近かったのかな?

 

「悪いな、俺はもうその程度じゃ怖がれん」

 

「……そろそろやる?」

 

「ああ」

 

「ん、わかった。……じゃあ、いつもの行こっか」

 

 必要のない工程ではあるんだが。

 

 覚悟の再確認、ということで恒例となったナニカである。

 

「……永夜(とうや)、ボクの為に死んでくれ」

 

「任せろ」

 

 緑の巨人に対峙する。

 

 俺の3倍はありそうな巨体だ、間近で見るとその大きさと威圧感をモロに感じ取れる。

 

「なあ、デカブツ」

 

「グ、グァ……!?」

 

 ……これは、()という愚か者(凄い人)の物語だ。

 

「実際に死ぬって言う恐怖を、体験したことはあるか?」

 

「グオオオオッ!!!」

 

「温い温い」

 

 なんだ、あっちの方が怯えているのか。

 

 拍子抜けだな、非常に残念。

 

「俺はあるぞ」

 

 それに比べれば、こんな叫びなんてのは、怖いと感じるものでもない。

 

「さぁて、夜更けも夜更けだ、さっさと片付けようか!」

 

「やるのはボクだよー?」

 

「やられるのは俺だ!」

 

 今のところ、強くもない。

 

 何か誇れる部分もない。

 

 しかし理想を語る口はある。

 

「グオッ! ……グ?」

 

 

 故に、()は愚者だ。

 

 

 彼の上半身が、巨人の腕に薙ぎ払われて粉になる。

 

 下半身? そこに転がってるよ。

 

「グオォ……!」

 

 巨人がニタリ、と気味の悪い笑顔をこちらに向ける。

 

 視線がジロジロとこちらの身体を舐めるように見ている……みたいだ?

 

 どうやら雄であるらしい、貧相な身体をしている自負はあるのだけど、相手側にボクが()()()()()()()()()というのはわかるらしい、ケダモノだね。

 

「悪いけど、ボクの相手はキミじゃない」

 

「グオ……?」

 

「貞操を守る……とか、他のところみたいなことは言わないけど、もしボクが捧げるなら彼がいいかな?」

 

 転がる下半身(肉塊)が、起き上がる。

 

 断面から、赤黒いナニカが形を作る。

 

「カ……ッハ……ハハ……!」

 

「!?」

 

「こっちだ、ぜ……デカブツ!」

 

 彼は死なない、彼は死ねない。

 

 それが、私の課した役目()だから。

 

「グオ、グオォ……グオオォォォッ!!!」

 

「怯えんなよ、俺よかお前の方が強いんだ」

 

 故に、彼は嗤うのだ。

 

「俺は……な?」

 

   死角になったね。ボクが」

 

「グ……!?」

 

 巨体を貫く赤い黒。

 

「大きいだけで、生物的な耐久性でしかない。……なら、ボク程度の方術でもどうにかなるんだ」

 

「グオッ……」

 

 力無く倒れる巨人。……用意してきたもの、大半が意味なくなっちゃった。

 

「呆気ないな。……4日前の奴の方が面倒だったか?」

 

「そうだねぇ……方術を素直に受けてくれる相手である程、簡単だって意味ならそうなるかも」

 

「道士だっけ?」

 

「方士、術士、方術士……道士。どれでもいいよ、ボクは拘ってないからその辺り」

 

 彼が、この化け物を引き付けて、ボクが仕留める。

 

 この2週間、それを繰り返している。

 

 ……って、あれ? そう言えばボク……。

 

「しっかし、あの赤黒いのがミサイルより強いとは未だに信じられんな」

 

「強いというか、この怪生物たちによく効くってだけだよ。現代兵器の有様は見たよね」

 

「まぁ……散々だったな」

 

「ねぇ」

 

「……なんだ?」

 

「さっきの言葉……聞いてた?」

 

「は?」

 

「いや、その……キミが生き返った直前に言ったんだけど」

 

「聞こえるかよ、上半身が残ってたならまだしも。耳も脳もないのに聞こえるわけがない」

 

「……そ、ならいい」

 

 びっくりした、聞こえてたらどうしようかと。

 

 あんな怪生物にあげるくらいなら、って意味だからね、うん。

 

 ……まあ、こんなことにしてしまったのはボクの所為だし、彼が望むなら……。

 

「おい、徐福」

 

「ん、どうしたの?」

 

「どうしたも何も、さっさと帰るぞ。妹にバレる」

 

「術があるから、遅くなってもバレないけど」

 

「それで一回バレかけたのを忘れたか? あいつに余計な心配させたくねぇんだよ」

 

「……そうだったね。じゃあ帰ろっか」

 

「おう」

 

 

 ()は、あの(過去)引き摺っている(なんとも思っていない)

 

 

 正直、永遠を生きると言われたとて実感がないし、狂うきっかけにもならん。

 

「あんまり、気に病むな」

 

「……」

 

「俺がこの先何千年と生きたとしても。それはお前には関係無いことだぞ、そん時にはもう生きてないんだお前は」

 

「でも」

 

「そこまで生きる証拠もない。不死の霊薬とやらが本物なのか、それっぽいだけのパチモンなのかを、確定しちゃいないしな」

 

 それなのに、一方的に自分の罪だなんだと気に病まれてもな。

 

「こっちが申し訳なくなるぜ」

 

「うぐ……」

 

「ほら、妹はお前のこと気に入ってんだ。さっさと媚び売ってこい」

 

「……なにそれ、妹さんに失礼じゃない?」

 

「うちの家は妹至上主義でな。あながち間違っちゃいないのさ」

 

「じゃあ、キミに泣かされたって妹さんに言いつけるよ」

 

「やめろ……いや、まじで」

 

「ふふ、やーめない」

 

 なんだこいつ……ちょっと落ち込んでたと思ったらすぐ元の調子に戻りやがった。

 

 まあ影のある表情でいられるよかマシか。

 

「日の出か」

 

「血の日の出だねぇ」

 

「やかましい」

 

「私の為に、死んでくれてありがとう?」

 

「唐突だし、字面がエグいな。どういたしまして」




完全趣味作。
よろしかったら、感想とかしてもらえると作者が喜びます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。