愚者よ、○○の為に死んでくれ 作:気が向いたら公開するか?
白けた空に、2人を除き誰も見当たらない静かな空間。
「流星群は好き?」
そんな平穏を否定するように響く、軽やかな声。
「なんだいきなり」
「変化はいつでもいきなりさ。この空のように」
確かに、とは思う。
何故? と問う者はこの世界に生きていればいないのだが、あえて答えるならば流星群、と答えるしかないだろう。
「【
夜を朝方の如く照らし続け、今尚降り注ぐ流れ星は、重なり過ぎてもはや大樹の如き様相だ。
「数ヶ月前、突如として降り注ぎ始めた異常な数の流星群。最初は夜の数時間。次第に降り注ぐ時間は増えていき、今ではなんと1日中……これだけ目にするものなんだ。嫌いだったら気の毒だろう?」
「……昔であれば、3回願い事を言う程度には親しみを持ってるよ。そんなおまじない、今じゃ1日かけたって叶いそうだが」
「ふむ、日本に伝わるおまじない、って奴だね?」
目の前の少女は興味深そうに尋ね返してくる。
「ああ、誰かが『ビルに植物を生やして下さい』って3回、流れ星が消える前に唱えることができたら、その願いは叶う。そういうおまじないだ」
「……あは、笑えないねそれ」
「流石に冗談だ。願ったところで叶う問題でもない」
「言霊、とは言うけれど。これはそんな粋を超えてるからね」
足元のビル。
コンクリートで作られている筈のそれらは、今現在緑に覆われている。
「このビルと、目の前のビル、見えないけどその向こうもそうっぽいよ」
「早いな。……このままじゃ、ネットの憶測が真実になる勢いだ」
流星群が空を走り始めてからというもの、どこからか現れた植物たちが一夜で数個のビルを呑み込む、という事例が世界各地で多発しているのだ。
「どこかのビルが植物の重みに耐えかねて倒壊した、なんて話もあるみたいだし……どうなるんだろうねぇ、この世界」
「さぁな。他にも物騒な宗教家もいるみたいだし……本当に世界が滅ぶかもな? 法士様?」
「うぐ。……ボクはもう古巣を追い出されたようなものなんだってば」
「実際にそう言われた訳じゃ、ないんだろ?」
「だとしても、だよ。任務は失敗したし、大切な霊薬は使っちゃったし……こんな結果で帰ったら即斬られるよ、ボク」
はぁ、と大きなため息を吐き、首をさする少女。
「指で済めばいいなぁ」
「普通は首とかじゃない?」
「ヤクザは指を詰めるんだよ、そういう時」
「こわっ。……って、ヤクザって要するに黑社会だよね? うちをそいつらと一緒にしないで貰えないかな」
ムスっとした態度と不満気な赤い瞳が俺を見ている。
「と、言われても。出会って5秒で殺されかけて、怪しげな薬を飲まされる連中は、過激と言わざるを得ないだろ」
「そっ! ……それは! その……えっと、ほんとに申し訳ないって思ってるけど……」
なんだ、顔を真っ赤にしたり真っ青にしたり、感情の忙しい奴である。
「徐福」
「……ん、何?」
「これ、本当に名前か? 思いっきり有名人と被ってるが」
「偽名だよ、というかコードネームの方が近いかも。……実は、凄腕のスパイなんだボクは」
「いいとこ使い捨てだろ」
「ひどっ」
どうやら、数日前に見たスパイ映画を思い出したらしい。
あれも組織が関連していたなぁ。
「……で、どうなんだお前の組織とやらは」
「え?」
「あれからもう1ヶ月は経つ。変なのには絡まれるが、お前の組織からはなんの音沙汰もないように感じる。つっても大切な薬だったんだろ?」
「……その話は、もういいよ」
「しかしな」
「いいったら、ボクが言ってるんだから。そんなことより目の前の問題だよ」
無理矢理感が否めないが、どうやらこの話題はNGらしい。
にしてもそんなこと扱いされるのは誠に遺憾なのだが、我当事者ぞ?
「原因不明、正体不明、条件も不明。研究者の端くれとして何としても究明したいところ……とは全く思わないんだけどさ、こんな得体の知れないもの」
「研究者の肩書きが泣いてるな」
「
そういうものか? そういうものか。
まあ本人がそう割り切っているのならそうなのだろう。
「見た目と、従来の植物達の特徴を照らし合わせた結果、コレは植物である、とされているけど」
「……まぁ、そうだな」
「キミも察した通り、植物と言うにしてもコレは少々規格外過ぎる。建物被害を一切無視した現代銃兵器による破壊行為や、火器による燃焼。それらはあり得ない程効果がなかった」
こいつらは夜の間だけ、人の世を飲み込まんと蠢いているのだが、不思議なことに夜行性という訳ではないらしい。
燃えたり、破壊されるなどで欠損した場合はその箇所から、瞬く間に再生する上に、夜に比べると僅かではあるが、侵食行為を再開するのだ。
「このままじゃ、この世界はこの気味の悪いものに飲み込まれてしまう。それは困るよね、キミも、ボクも」
「そうなるな」
「……妹さん、だったよね?」
「ああ。あいつがちゃんと幸せになるのを、俺は見届けなきゃならん」
中々アレな動機であるのは自覚している。
が、ここは俺としても譲れないところなのだ。
「と、なると。ボクたちがするべきことはわかるよね」
「……何を今更、説明口調で振り返ってんだ。その為に今、ここにいるってのに」
「む、途中からキミだって乗り気だったじゃん。……とと、どうやら今日は、
ビルが、揺れている。
「どれもこれも、あんたら胡散臭い宗教家の仕業かよ」
「いやー……否定しづらいけどさ」
異常な植物もどきだけなら、俺たちのような一般人……に見える部外者がわざわざ出張る必要もない。
まあ俺は元一般人なんだが。
「ボクの同僚じゃない、とだけ断言しとくね。というかこんな怪生物を沢山生み出せるんなら、人類はとっくの昔にこうなってるよ」
「そういうもんか」
「そういうもの、人類は満足感を求めるからね」
「満足感? 金とか地位……お前らのところなら、不死なんかじゃないのか」
「それを求めるのが、満足したいからってことだよ」
「ほー」
義務感とかが混じってる人種もいそうなもんだが。
そこは個人のあれこれ、と言うことか。
「さて、お出ましだな」
俺たちがある場所の前方、侵食され限界を留めていない緑の床が、ボコボコと膨れ上がる。
「今回は……わぉ、緑だね」
「図体もデカそうだ。これは……時間がかかりそうだなぁ」
「あれ、なんて言うんだっけ」
目の前に生まれ出でるは緑の巨体、あれだ……なんだっけか。
「……ああ、そうだ、オークという奴だ」
「へー……豚って緑だっけ?」
「知らん。オークを豚系のモンスターとするか、緑の巨人とするかによる」
「ふーん」
どちらにせよファンタジーの世界だな本当に。
「キミはどっちだと思う?」
「前者。お前は?」
「同じかなぁ、じゃああれなんだろ」
「ふむぅ……シンプルにグリーンオークとでもするか」
「大きなゴブリンってことにしてもいいかも」
ジャイアント・ゴブリンか? まぁ呼び方がどうあれすることは変わらないのか。
「グオオオォォォ!!!」
「お怒りだな」
「なんでだろ?」
「くだらん話だと思ってるんじゃないか?」
「まず、あっちに言葉がわかるのかな、日本語だけど」
「わかるんなら相当賢いということになるが」
「だよね。世界で1番……は言い過ぎだけど、難しい言語だよ? すごいねキミたち」
「俺ら日本人から見た外国人も似たようなもんだが」
「グルルル……!!!」
なんだこいつら、と言わんばかりの様相でこちらを睨んでいるデカブツ。
ふむ、あれは怒っていると言うより驚かせているのに近かったのかな?
「悪いな、俺はもうその程度じゃ怖がれん」
「……そろそろやる?」
「ああ」
「ん、わかった。……じゃあ、いつもの行こっか」
必要のない工程ではあるんだが。
覚悟の再確認、ということで恒例となったナニカである。
「……
「任せろ」
緑の巨人に対峙する。
俺の3倍はありそうな巨体だ、間近で見るとその大きさと威圧感をモロに感じ取れる。
「なあ、デカブツ」
「グ、グァ……!?」
……これは、
「実際に死ぬって言う恐怖を、体験したことはあるか?」
「グオオオオッ!!!」
「温い温い」
なんだ、あっちの方が怯えているのか。
拍子抜けだな、非常に残念。
「俺はあるぞ」
それに比べれば、こんな叫びなんてのは、怖いと感じるものでもない。
「さぁて、夜更けも夜更けだ、さっさと片付けようか!」
「やるのはボクだよー?」
「やられるのは俺だ!」
今のところ、強くもない。
何か誇れる部分もない。
しかし理想を語る口はある。
「グオッ! ……グ?」
故に、
彼の上半身が、巨人の腕に薙ぎ払われて粉になる。
下半身? そこに転がってるよ。
「グオォ……!」
巨人がニタリ、と気味の悪い笑顔をこちらに向ける。
視線がジロジロとこちらの身体を舐めるように見ている……みたいだ?
どうやら雄であるらしい、貧相な身体をしている自負はあるのだけど、相手側にボクが
「悪いけど、ボクの相手はキミじゃない」
「グオ……?」
「貞操を守る……とか、他のところみたいなことは言わないけど、もしボクが捧げるなら彼がいいかな?」
転がる
断面から、赤黒いナニカが形を作る。
「カ……ッハ……ハハ……!」
「!?」
「こっちだ、ぜ……デカブツ!」
彼は死なない、彼は死ねない。
それが、私の課した
「グオ、グオォ……グオオォォォッ!!!」
「怯えんなよ、俺よかお前の方が強いんだ」
故に、彼は嗤うのだ。
「俺は……な?」
「 死角になったね。ボクが」
「グ……!?」
巨体を貫く赤い黒。
「大きいだけで、生物的な耐久性でしかない。……なら、ボク程度の方術でもどうにかなるんだ」
「グオッ……」
力無く倒れる巨人。……用意してきたもの、大半が意味なくなっちゃった。
「呆気ないな。……4日前の奴の方が面倒だったか?」
「そうだねぇ……方術を素直に受けてくれる相手である程、簡単だって意味ならそうなるかも」
「道士だっけ?」
「方士、術士、方術士……道士。どれでもいいよ、ボクは拘ってないからその辺り」
彼が、この化け物を引き付けて、ボクが仕留める。
この2週間、それを繰り返している。
……って、あれ? そう言えばボク……。
「しっかし、あの赤黒いのがミサイルより強いとは未だに信じられんな」
「強いというか、この怪生物たちによく効くってだけだよ。現代兵器の有様は見たよね」
「まぁ……散々だったな」
「ねぇ」
「……なんだ?」
「さっきの言葉……聞いてた?」
「は?」
「いや、その……キミが生き返った直前に言ったんだけど」
「聞こえるかよ、上半身が残ってたならまだしも。耳も脳もないのに聞こえるわけがない」
「……そ、ならいい」
びっくりした、聞こえてたらどうしようかと。
あんな怪生物にあげるくらいなら、って意味だからね、うん。
……まあ、こんなことにしてしまったのはボクの所為だし、彼が望むなら……。
「おい、徐福」
「ん、どうしたの?」
「どうしたも何も、さっさと帰るぞ。妹にバレる」
「術があるから、遅くなってもバレないけど」
「それで一回バレかけたのを忘れたか? あいつに余計な心配させたくねぇんだよ」
「……そうだったね。じゃあ帰ろっか」
「おう」
正直、永遠を生きると言われたとて実感がないし、狂うきっかけにもならん。
「あんまり、気に病むな」
「……」
「俺がこの先何千年と生きたとしても。それはお前には関係無いことだぞ、そん時にはもう生きてないんだお前は」
「でも」
「そこまで生きる証拠もない。不死の霊薬とやらが本物なのか、それっぽいだけのパチモンなのかを、確定しちゃいないしな」
それなのに、一方的に自分の罪だなんだと気に病まれてもな。
「こっちが申し訳なくなるぜ」
「うぐ……」
「ほら、妹はお前のこと気に入ってんだ。さっさと媚び売ってこい」
「……なにそれ、妹さんに失礼じゃない?」
「うちの家は妹至上主義でな。あながち間違っちゃいないのさ」
「じゃあ、キミに泣かされたって妹さんに言いつけるよ」
「やめろ……いや、まじで」
「ふふ、やーめない」
なんだこいつ……ちょっと落ち込んでたと思ったらすぐ元の調子に戻りやがった。
まあ影のある表情でいられるよかマシか。
「日の出か」
「血の日の出だねぇ」
「やかましい」
「私の為に、死んでくれてありがとう?」
「唐突だし、字面がエグいな。どういたしまして」
完全趣味作。
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