ラブとピースとアーカイブ   作:はみがきこな

13 / 16
Peace 4 大人

 

 

 

 

 

 

 電灯の光がアスファルトを照らす、夜。私は、無機質に照らされたアスファルトの上を、液晶が光っているタブレットを持って歩いている。

 

「”……ここか”」

 

 そう言って見上げたビルと、液晶に表示される目的地は一致していた。

 私は、大人の責任を果たすために自動ドアの奥に入っていく。電気は付いていない。

 

 先にあるエレベーターに乗り込み、23と書かれたボタンを押す。流れるような動作で閉じると書かれたボタンを押すと、直ぐにエレベーターは仕事を始めた。

 

 

 ドアが開くと、月明かりに照らされた部屋、その奥で手を組み肘を立て、こちらを見る黒い影がいた。

 

「ようこそ、先生。ここに来た、ということは私の計画に参加するという意思表示、として受け取って良いのでしょうか?」

「”勝手にしてくれ。私はお前のくだらない話を聞きに来たわけじゃないんだ”」

「前座、起承転結でいう起──詰まる所、『序章』。これらは神聖なものです。特に今は。どうか少しの辛抱を」

「”……はぁ”」

 

 近くにあった椅子を引き、黒服と向かい合うように座る。黒服の目の辺り、白い光がユラユラ揺れている。

 

「”今は生徒の命が危険なんだ。早くしてくれ”」

「少々頂けませんが──良いでしょう。本題に移ります。この『序章』はもう既に行われました──あのモンスターの行動により」

「”序章……? どういうことだ”」

 

 黒服は「ククク」と笑う。

 

「様々な形容の仕方があると思いますが──ここは、単純な物を選びましょう」

 

 黒服は、少し貯めた後に言う。

 

「世界の、崩壊です」

 

 

 少しの沈黙が訪れる。

 自分が先生として、大人としてやるべきことを考える。

 

「”どうやったら、防げる?”」

 

 黒服は一息付いて言う。

 

「『序章』は既に訪れました。この時点で、崩壊は始まっています」

「”──チッ”」

 

 思わず、舌打ちをしてしまう──それもそう、覆せないとなったら、あとは指を噛んで見守っているだけの木偶の坊と化す。少なくとも、人は。

 

「しかし、神秘を持った存在なら覆せる──それが、私の研究成果となります。ただの神秘、では不可能ですが」

「”生徒を、使えって言うのか!?”」

 

 怒鳴っても、相手は動揺を見せない。少なくとも、見える限りでは。黒服が動揺を見せたことは少ないだろう(勿論、これを閲覧している君たちもあまり見た事がないだろう)。

 

「いえ、その全くの逆──そう、先生。貴方を抜擢します」

「”……私?”」

 

 こちらは動揺を隠せない。私には神秘というものが全くない。今までは確実に。

 

「クックックッ……。それが私の言う『代償』ですよ、先生」

 

 なるほど、簡単な事だった──人体実験。ゲマトリアの知識があれば、常人に神秘を宿すことも可能なのだろう。

 

「”私はどうなっても構わないよ。それより、今はアスナのことを聞きたい"」

 

 この時、初めて黒服は動揺したような動きを見せた──目の位置にある白いモヤが揺れ動いただけだが。

 

「クックックッ……。ありがとうございます、先生。では、アスナさんのことについて話しましょう」

 

 

 黒服は肘を立てるのをやめた。

 

「アスナさんがああなってしまったのは、神秘のせいでしょう。彼女の神秘は、奇跡を起こす神秘──ホシノさんをターゲットにするまで、視野に入れていた神秘です。おおっと、睨まないでください、先生。過去の事です──少なくとも、今は」

 

 黒服は話し続ける。私は遮らずに話を聞いている。律儀な犬のように。

 

「私が、なぜ彼女を研究するのを視野に入れていたと思いますか? そう、私が興味を持ったのは、彼女の『奇跡』を起こす能力です。思い浮かべてみてください、先生。先生が奇跡を起こしたのは、いつ、どんな時でしたか?」

 

 

 私は考える。

『奇跡』──プレナパテスとの戦いの後、アロナとプラナが起こしてくれた『奇跡』。

 

「そう、その『奇跡』を引き出せるのです──いついかなる時も。この『奇跡』というのは大変希少で、『神秘』がなければ起こせません。それ以外は、全て『偶然』に過ぎません。例えば、無くしていたペンが()()()()見つかった。落としたスマートフォンが、()()()()柔らかい素材の上に落ちた──これらは、奇跡と呼ぶにふさわしいでしょうか?」

 

 黒服は続ける。

 窓の目隠しの奥が白んできている。

 

「いえ、それらは『偶然』です──おっと、貴方が今まで『奇跡』だと思っていたことを否定するわけではありません。……話を戻しましょう。『奇跡』というのは、例えばビルの屋上から落ちて助かった。例えば銃弾に当たっても擦り傷で済んだ。例えば──大気圏外から落ちて助かった。そういった『偶然』では片付けられないものを指します──あくまで、私の見解ですが」

 

 黒服の話に耳を傾ける。

 

「そんな『奇跡』を身一つで起こすことが、可能でしょうか?」

 

 無言で応じる。

 黒服は続ける。

 

「つまり──彼女は代償を払ったのです。彼女は首を絞められていた──何分間? それは分かりませんが、確実に言えるのは、長時間に渡っていた、ということです。そこから生還するのは、まさに『奇跡』と呼んでも差し支えないでしょう」

 

 

 私は席を立つ。聞きたいことは聞いたからだ。

 エレベーターに向かって歩き出すと、黒服は喋りかけた。

 

「おや、先生。もう行かれるのですか?」

「”勿論。もうここにいる必要は無くなったからね”」

「なら、行かれてしまう前に一つ、忠告を」

 

 足を止めて、黒服の方を向く。

 

「あのモンスターに殺される度、あのモンスターの力は強くなっています。ですから──」

「”それについては大丈夫。もう誰も死なせないから”」

 

 私は確固たる決意を持っている。誰にも壊せないほどの、強い決意を。

 

 

 そして私は、エレベーターに乗った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 太陽が登り、世界に光が訪れ始めた時。私は電車に乗ってエリドゥへの道を移動していた。理由は勿論、あちらに避難している生徒たちと会って安心させるため。そして、ネルとアスナに会うためだ。アスナは、やはり脳卒中だったらしい。不幸中の幸い、とでも言おうか、手術は成功したらしい。

 電車が向こうからやって来た。自動でドアが開き、まだ人がいない車内へと私を(いざな)う。

 座席に腰掛け、クーラーが効いた心地よい環境に身を委ねる。そうすると、封じ込めていた睡魔が私を包み込んでいく。

 抵抗できない私は、そのまま眠りについた。

 

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

 

 しばらくして、思い出したように目を開けると、要塞都市エリドゥへの乗り換えが出来る駅が次に待っていた。窓からは日光が差している。

 列車がゆっくり停車し、ドアを開ける。起きたばかりの目を擦りながら立ち上がり、駅のホームへ足を踏み出す。ホームの気温は列車内より少し高い。

 乗り換え先の列車が来るホームに向かう。()()()()()()()()()()()()()()()()の前にある改札で顔認証し、通れる事を確認する。

 少し欠伸をしながら向かう先には、数人(匹ともいう)が電車を待っていた。

 

 

 暫く(20分ほど)すると、電車がやって来た。先ほどよりも無機質で、ファッション性の低い──それはもう、鉄の塊と思えるほどの──車体だ。

 ギギギ、と電車に乗る上であまり聞きたくない音と共にドアが開く。

 内部は先ほどの電車と同じく、クーラーが付いており、意外にも座り心地の良い座席があった。人は見かけによらないとは、このことだろうか。

 

 

 そして列車はギギギという音を出して動き始める。

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

 列車が停止した時には、もう既にエリドゥの中だった。

 列車はギギギと音を立てて車輪を止める。そしてまたギギギという音を立ててドアを開ける。

 無機質な鉄で作られたホームに降り立ち、動くエスカレーターに乗る。

 

 

 改札を出て地上に立つと、聳え立つビル群があった。こちらのファション性は高いようだ。

 

 朝日に照らされたアスファルトを歩いていくと、次第に病院が見えてくる。特別大きくもなく、小さいわけでもないその建物の中に、ネルたちがいる。そう思うと、自然と歩く速度が上がる。

 

 

 固く閉ざされた病院のドアの前、改札のような機械にカードを通し、顔認証をパスする。すると、ドアはいとも簡単に開く。

 

 中のロビーには誰も居ない。この緊急事態に、ここで待機している余裕はないのだろう。顔認証とカードもあるので、わざわざ人が受付する必要もない━━なんて素晴らしいシステムなのだろう。

 

 

 エレベーターで3階に上がり、ネルのいる病室へと足を運ぶ。歩く、というのはなんてことのない行動のはずなのに、今は何故かとても足が重い。

 

 ドアをノックし、部屋に入る。

 すると、右目に眼帯をつけた、ネルがいた。

 

「……ああ、先生か?」

「"……ネル"」

 

 完全に体を部屋の中に入れ、ネルの近くに腰掛ける。

 

「……こっちの目、もう使うのは無理、らしい」

「"……そうか"」

 

 話したい。

 それなのに言葉が、心のなかで(つっか)え、口から出るのを拒む。

 

「情けねえ話だよな。約束された勝利の象徴……だぜ? それが目ぇ一個傷つけられただけで日和って……」

「"……ネルは、頑張ったよ。誰も情けないなんて思ってないよ"」

「……ありがとな」

 

 少しの沈黙。

 

「"私は……ネルに、ネル達に戦わせない。これからは……私が"」

「……」

 

 立ち上がって、ドアまで歩く。

 

「"……じゃあね"」

「ああ」

 

 

 ドアを閉じて、アスナの病室に行く。

 

 

 病室は、ネルの病室より上、5階。

 またエレベーターに乗り、上に上がる。

 

 ドアが空き、私はそれに続いて出る。

 緊張。それが、今の私に降り掛かっている。

 

 

 トントントン。

 ノックし、ドアを開ける。

 

「あ! ご主人様!? 良かった、ご主人様だ!」

 

 緊張していた私は、安堵して、安堵して。

 そのまま床にへたり込んだ。

 

「ご主人様!? 大丈夫?」

「"大丈夫。大丈夫……! アスナが、アスナがいてくれて良かった……!"」

 

 アスナの下まで歩いて、抱きつく。大人でも泣くのだ。

 

「"アスナ……! アスナ……! "」

 

 そう、呟いていた。

 ずっと。ずっと。

 

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

 

 アスナは、後遺症を負っていたらしい。

 体の麻痺、ソレがまだあり、うまく体を動かせない、と医学部から聞いたときは驚いた。

 アスナの事にも、気づかず泣いていた自分の愚かさにも驚いた。

 

 

 その後、私は駅にまた向かい、エリドゥの生徒避難場所へ向かっている。何度も認証をパスしないといけない電車に乗って。

 

 

 電車が止まり、私を外に出す。最寄り駅なので、歩いて十分程で避難場所に着いた。

 避難場所のドアには、大きく「立ち入り禁止」と書かれているが、無視してドアノブに手をかけた。

 避難場所のドアが開いた瞬間、中で待機している生徒の目がこちらに向いた。

 

「「「せ……せんせぇ〜!!!」」」

 

 歓喜一色の声の嵐の中を突っ切っていくと、生徒がどんどんと私の周りに集まり始めた。

 我先に、と駆け寄ってくる生徒たちの頭を撫でたり、一緒に遊んだり。そんな幸せな時間を過ごしていると、少し遅れて別の避難場所から駆けつけてきたゲーム開発部やヴェリタス、エンジニア部、カリンとアカネ、そしてトキも集まってきた。

 

「せ、先生! ずっと会いたかったんですよ……!」

 

 最初に駆け寄ってきたのはミドリ。ぎゅうっと抱きしめられたので、よしよししてあげた。

 

 その後、ミドリに続く形でゲーム開発部の皆んなが集まって、身動きが取れなくなる。

 アリスの力が強いので少々痛いが、皆んながとても愛おしい。

 

 

 その後も、次々と集まる生徒の相手をしていると(エンジニア部が発明品を渡してくるので、断れずにもらってしまった。自爆機能は無い、安心安全のBluetooth付きボールペンだ)、もう日は暮れ、夜になっていた。

 

 

 寂しいし悲しいが、そろそろ別れの時だ。

 

「「「せんせ〜! また、来てくださいね〜!!」」」

 

「"うん、絶対!"」

 

 手を振って、避難所から出る。

 他の避難場所も全て行き、生徒と遊んだ。

 食料、水分、寝床、きちんと全て揃っていたので、もうやることは無いかな、と帰路についた。

 

 

 

 

 

 帰りの電車では、また熟睡していた。馬鹿みたいに安心して。

 

 

 

 

 

 こんなに眠れたのは、これで最後だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




やりたいシーンがたくさんあるからもっと腕欲しい。
カイリキーがドン引きするくらいの量の腕。

あなた方が望むのは?

  • ハッピーエンド
  • バッドエンド
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。