勿論、彼女の友にも知らせはやってくる。
一件のメールが送信されたことを、スマートフォンのバイブレーションが知らせてくれる。
内容を確認した後、持っていたスマートフォンが手から滑り落ちた。
菫色の髪を二つに結った会計係は、すぐさま走り出した。
(嘘だ。嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だ)
階段を駆け下り、そのまま速度を緩めることなく走り続ける。
太陽が明るく照らすアスファルトが、「これ以上行くな」と忠告しているようだ。
滲む汗を無視して走り続ける。
つまづきかけても、そのまま転んでしまったとしても、走る。
エレベーターに駆け込み、35のボタンを押す。
身体を襲う倦怠感と焦りを、不安と困惑で跳ね返す。
3512というドアの前に張り巡らされた「Keep out」と書かれたテープを掻い潜り、ドアノブに手をかけ開けると───
「うっ……何、これ……?」
ざわめく警官たちと、その先にある血飛沫の跡。
転がる肉塊が見える。
血の匂いが鼻腔をつく。
込み上げる吐き気を抑えながら
「嘘」
「嘘よ」
「嘘よね……?」
「ねぇ、答えてってば」
「ねぇ!!!」
肉塊は言葉を発しない。
黙ったままだ。
そのままヘタリと座り込む彼女の目からは、涙が流れていた。
「なんで……っ!!どうして……っ!!
■
暗い部屋の中、彼女は一人、部屋着でベッドの上に蹲っている。
その目は何処か遠くを見つめている様で。
何日も彼女はこの調子だった。
スマートフォンが電話の着信を知らせる。
徐に手を動かし、スピーカーをオンにして電話に出た。
『ユウカちゃん……。気持ちは痛いほど分かりますが、そろそろ顔を出してくださ』
プツリ、と途切れた電話。
バツと描かれたボタンを押した彼女は、一人呟く。
「ごめん、ノア……」
涙が枯れたはずの目は、また潤い始めた。
■
ベッドの上から降りた彼女は、ドアへ向かって歩み始めた。
途中、乱雑に散らばっていた下着やセミナーの制服を取って着替え、準備をした。
ドアを開けると、眩い光が差す。思わず目を細める。
それほど明るいわけではないが、先程まで暗い部屋を見ていた目には、強い刺激だ。
ドアから出てエレベーターの方に向かうと懐かしい声がした。
「ゆ……ユウカちゃん!? 心配したんですよ! さぁ、早くこっちに……!」
そう言って、こちらに駆け寄ってくる書記。
ただ、会計係は通り過ぎていく。
「ごめん、ノア」
すれ違いざまに呟いたその一言は、何か大きな意味を含んでいる様に思えた。
「ユウカちゃん……?」
止められなかった書記は、ただその場に呆然と立っているしか、できなかった。
■
カツカツ、と靴を鳴らして廊下を行く。
ハイライトの消えた目で見据える先は━━━
「アナタが……!お前が……っ!」
よこじまの服を着た、ただの人間だった。
檻の向こうの人間は、こちらを見て、何か
ギリッ、と歯を鳴らし、腰から愛銃━━━ロジック&リーズンを取り出した。
「今からアナタに……彼女が……ミノルが受けた苦しみを……!」
二丁の銃を人間に向け、セーフティロックを解除する。
銃身は震えていた。
「せいぜい苦しめクソ野郎っ!!!」
放たれた銃弾は
■
流れ出す血と倒れ込む肉塊を一瞥して、暗い、暗い廊下へと足を進めていく。
急いでやって来たのであろう、息を切らした人物に、彼女は言う。
「もう、セミナーには戻れない。貴女との友情も壊した」
「ただの人殺し……それになってしまったのだから」
「一歩遅かったわね……書記係、さん」
通り過ぎようとすると、肩を掴んで来た人に、彼女は驚きを隠せなかった。
なぜなら、深い慈しみの表情をしていたからだ。
抱きつかれ、赦しの言葉を並べられる。
「何がダメなんですか……」
「確かに、セミナーには戻れません」
「ただ……。私は……!」
「貴女の、お友達ですよ。何があっても!」
「これだけは……絶対に、変わりませんから」
なぜ?なぜ私を赦すのだろうか。私は絶対に赦されないことをしてしまったのに。
「私は、人殺しになったのよ」
「貴女と一緒にいる資格なんて、何処にも……」
そうだ。私は人殺し。
彼女のような純白な人と隣に居られるような、そんな白ではなくなってしまったのだ。
「なら、私は人殺しにだってなります」
「あなたと、一緒にいられるなら」
困惑。それが今の気持ちに一番近いだろう。
なんで、どうしてそんなことまで言ってしまう?
「なんで……?」
「どうしてそこまで……」
純粋な気持ち。
理解できない。
「どうして、って……」
少し間を置いて、言い放った。
「大切な、大切な友達だからに、決まってるじゃないですか」
友達。
私が、失ったもの。
そして、昔からあったもの。
ツー、と頬を伝う涙を、優しく拭ってくれた手。
『やさしさ』というのは、ずっとずっと暖かいものだった。
「じゃあ……これから、何処へ行きましょうか?」
その言葉を聞いて、口の端が上がる。
その久しぶりの感覚が、とても愛おしい。
「━━━ノアとなら、どこだっていいわよ?」
決して明るくはない未来へと、彼女たちは歩み始めた。
*目を覚ませ。
*ケツイを 力に変えろ。
*……。
*ならば。
*私が 実行してみせよう。
よかったねユウカちゃん。またやり直せるよ!
あなた方が望むのは?
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ハッピーエンド
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バッドエンド