ラブとピースとアーカイブ   作:はみがきこな

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*復讐。


Archive1

 勿論、彼女の友にも知らせはやってくる。

 

 一件のメールが送信されたことを、スマートフォンのバイブレーションが知らせてくれる。

 

 

 

 内容を確認した後、持っていたスマートフォンが手から滑り落ちた。

 

 菫色の髪を二つに結った会計係は、すぐさま走り出した。

 

 

(嘘だ。嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だ)

 

 

 階段を駆け下り、そのまま速度を緩めることなく走り続ける。

 太陽が明るく照らすアスファルトが、「これ以上行くな」と忠告しているようだ。

 

 滲む汗を無視して走り続ける。

 つまづきかけても、そのまま転んでしまったとしても、走る。

 

 

 

 エレベーターに駆け込み、35のボタンを押す。

 身体を襲う倦怠感と焦りを、不安と困惑で跳ね返す。

 

 

 

 3512というドアの前に張り巡らされた「Keep out」と書かれたテープを掻い潜り、ドアノブに手をかけ開けると───

 

 

「うっ……何、これ……?」 

 

 ざわめく警官たちと、その先にある血飛沫の跡。

 転がる肉塊が見える。

 血の匂いが鼻腔をつく。

 込み上げる吐き気を抑えながら()()に近づいていく。

 

 

「嘘」

 

「嘘よ」

 

「嘘よね……?」

 

「ねぇ、答えてってば」

 

「ねぇ!!!」

 

 

 肉塊は言葉を発しない。

 黙ったままだ。

 

 

 

 そのままヘタリと座り込む彼女の目からは、涙が流れていた。

 

 

 「なんで……っ!!どうして……っ!!

 

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

 

 暗い部屋の中、彼女は一人、部屋着でベッドの上に蹲っている。

 その目は何処か遠くを見つめている様で。

 何日も彼女はこの調子だった。

 

 スマートフォンが電話の着信を知らせる。

 徐に手を動かし、スピーカーをオンにして電話に出た。

 

 

『ユウカちゃん……。気持ちは痛いほど分かりますが、そろそろ顔を出してくださ』

 

 プツリ、と途切れた電話。

 バツと描かれたボタンを押した彼女は、一人呟く。

 

 

「ごめん、ノア……」

 

 涙が枯れたはずの目は、また潤い始めた。

 

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

 

 ベッドの上から降りた彼女は、ドアへ向かって歩み始めた。

 途中、乱雑に散らばっていた下着やセミナーの制服を取って着替え、準備をした。

 

 ドアを開けると、眩い光が差す。思わず目を細める。

 それほど明るいわけではないが、先程まで暗い部屋を見ていた目には、強い刺激だ。

 

 

 

 ドアから出てエレベーターの方に向かうと懐かしい声がした。

 

 

「ゆ……ユウカちゃん!? 心配したんですよ! さぁ、早くこっちに……!」

 

 そう言って、こちらに駆け寄ってくる書記。

 ただ、会計係は通り過ぎていく。

 

「ごめん、ノア」

 

 すれ違いざまに呟いたその一言は、何か大きな意味を含んでいる様に思えた。

 

 

「ユウカちゃん……?」

 

 止められなかった書記は、ただその場に呆然と立っているしか、できなかった。

 

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

 

 カツカツ、と靴を鳴らして廊下を行く。

 ハイライトの消えた目で見据える先は━━━

 

 

「アナタが……!お前が……っ!」

 

 よこじまの服を着た、ただの人間だった。

 檻の向こうの人間は、こちらを見て、何か()()()したような、そんな表情をしていた。

 

 ギリッ、と歯を鳴らし、腰から愛銃━━━ロジック&リーズンを取り出した。

 

 

「今からアナタに……彼女が……ミノルが受けた苦しみを……!」

 

 二丁の銃を人間に向け、セーフティロックを解除する。

 銃身は震えていた。

 

 

「せいぜい苦しめクソ野郎っ!!!」

 

 放たれた銃弾は()()()()の額に直撃し、その生命を奪った。

 

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

 

 流れ出す血と倒れ込む肉塊を一瞥して、暗い、暗い廊下へと足を進めていく。

 

 急いでやって来たのであろう、息を切らした人物に、彼女は言う。

 

 

 「もう、セミナーには戻れない。貴女との友情も壊した」

 

 「ただの人殺し……それになってしまったのだから」

 

 「一歩遅かったわね……書記係、さん」

 

 

 

 通り過ぎようとすると、肩を掴んで来た人に、彼女は驚きを隠せなかった。

 なぜなら、深い慈しみの表情をしていたからだ。

 抱きつかれ、赦しの言葉を並べられる。 

 

 

「何がダメなんですか……」

 

「確かに、セミナーには戻れません」

 

「ただ……。私は……!」

 

 

「貴女の、お友達ですよ。何があっても!」

 

「これだけは……絶対に、変わりませんから」

 

 

 

 なぜ?なぜ私を赦すのだろうか。私は絶対に赦されないことをしてしまったのに。

 

 

「私は、人殺しになったのよ」

 

「貴女と一緒にいる資格なんて、何処にも……」

 

 

 そうだ。私は人殺し。

 彼女のような純白な人と隣に居られるような、そんな白ではなくなってしまったのだ。

 

 

 

「なら、私は人殺しにだってなります」

 

「あなたと、一緒にいられるなら」

 

 

 困惑。それが今の気持ちに一番近いだろう。

 なんで、どうしてそんなことまで言ってしまう?

 

 

「なんで……?」

 

「どうしてそこまで……」

 

 

 純粋な気持ち。

 理解できない。

 

 

「どうして、って……」

 

 

 少し間を置いて、言い放った。

 

 

「大切な、大切な友達だからに、決まってるじゃないですか」

 

 

 友達。

 私が、失ったもの。

 そして、昔からあったもの。

 

 

 

 ツー、と頬を伝う涙を、優しく拭ってくれた手。

 『やさしさ』というのは、ずっとずっと暖かいものだった。

 

 

 

 「じゃあ……これから、何処へ行きましょうか?」

 

 その言葉を聞いて、口の端が上がる。

 その久しぶりの感覚が、とても愛おしい。

 

 

 「━━━ノアとなら、どこだっていいわよ?」

 

 

 

 決して明るくはない未来へと、彼女たちは歩み始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*目を覚ませ。

*ケツイを 力に変えろ。

*……。

*ならば。

*私が 実行してみせよう。

 

 

 

 

 

 




よかったねユウカちゃん。またやり直せるよ!

あなた方が望むのは?

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