いつもより ちょっとだけ 文字多いです。
ネルが、ニンゲンと戦い始めた直後。
アロナとプラナが、アスナに関する報告をくれた。
『先生! アスナさんのバイタルが低下しています!』
『このままだと、アスナさんの命が……』
「”わかった、すぐ向う。アスナまでの最短ルートを表示できる?”」
『はい! ……完了です!』
その瞬間、シッテムの箱の液晶に、青い線で道のりが表示された。
「”私はアスナ達のところに向かうから、二人で帰れる?”」
アロナとプラナの的確な指示を元に応急手当をした、服が少し破けた状態のカリンとアカネに聞く。
「ああ、私たちは大丈夫……おっと」
転び掛けたカリンをアカネが美しい動作で支える。まさにメイド、と言ったふうに。
「もう、少しは自分のことを労ってくださいね?」
「すまない……。いや、別に大丈夫なんだ、先生。少し立ちくらみがしただけで……」
少し無理しているのは誰が見ても一目瞭然だ。
「”アカネ、カリンが無理しないように見ててね”」
「ふふ、勿論です、先生。さぁカリン、行きますよ?」
そう言うと、アカネは華麗な動きで歩き始めた。
「ちょ、アカネ……速い……」
「あら、そうでしたか? ……なら、手、繋いでいきましょうか?」
仲良く帰っていく二人の背中を見た後に、振り返って走り始めた。
迷う暇は無い。所々痛む体を動かして、青い線を辿っていく。
止まることは許されない。
■
足を止めると、そこには争いの跡と、
虚ろな目をして座っているアスナが居た。
「”アスナ? おーい、アスナ〜? ”」
呼びかけると、すぐにこちらを向いてくれた。
「あ、ご主人様? 来て〜?」
「”うん。ちょっと待ってね。よいしょ……っと”」
瓦礫の山を越え、アスナの下に向かう。
「”どうしたの、アスナ? 何かあった?”」
そう問うと、アスナは答えた──いや、答えようとした。
「う〜んと……なんか……。う……、う〜んと……?」
「”まさか……。大丈夫!?アスナ!?”」
「え、あ……あ!ご主人様!?あのね、さっきまでここに敵が居て……痛ッ!?」
そう言って、頭を抱えて苦しそうにするアスナ。
「”アスナ!?アスナ!?”」
「何か……頭が痛いよ……。何これ……ご主人、様……」
最悪の予感が頭をよぎる。
酷い頭痛に、言葉が出なくなるという症状。これは紛れもなく、脳卒中の症状だ。
いや、考えすぎか? アスナは前までもこういう性格を……いや、駄目だ。酷い頭痛は違う。
もし本当に生命に危機があったら、そんな子を無視してしまったら、そんな事をしたら、アスナは……。
いや、悩んでいる暇は、無い。
脳卒中なら、一分一秒を争う事態だ。
アロナとプラナに、待機している医療班に連絡を入れてもらう。
『はい、わかりました! 至急、連絡を入れます!』
『即刻来てもらう形で宜しいでしょうか?』
「”うん、そうして”」
連絡を入れ、少し息を吐く。
前兆は、あったのだろうか?
あったのなら、私は……。私は……何をしていたんだ?
迷っている暇は……無い。
「”……アスナ、救急車を呼んだから、もう大丈夫だよ。”」
「うん……! ありがとう、ご主人、様!」
喋るのも嫌であろうに、眩しい程の笑顔を見てアスナはこう言った。
駄目だ。私には。
私は、この子の為に、何か出来るのだろうか……?
アスナとここで過ごす時間は、あっという間に流れ、気づけば救急車のサイレンが木霊していた。
救急車に乗せられようとしているアスナが、右腕を振りながら、別れの言葉を放った。
「じゃあね、ご主人、様……」
「”……うん、またね、アスナ”」
遠くなっていくサイレンを、救急車を見送り、アロナ達にネルの所までの道のりを教えてもらう。話す前に、深呼吸をした。
「”……アロナ、プラナ、次はネルの所に行く。場所は分かる?”」
『はい、もちろんです!少し待って下さい……え〜っと……こうです!』
途端に、また映し出される青い線。その全長は、どんどんと長くなっていく。
『現在、ネルさんは交戦中です。移動しながら戦っているようです』
『できるだけ、急いで向かいましょう!』
向かおうとした。でも、脚が震えて力が入らない。これはきっと恐怖だ。生徒を失うことへの、恐怖だ。
こんなところで止まっている私は、駄目な先生だ。
「”生徒を守れない”」
そう、呟いてしまった。
「先生、それは違いますよ」
「”……黒服? ”」
振り返ると、そこには黒い服を着た、幻影のような黒い靄が立っていた。
「ええ、お久しぶりです、先生」
「”何の用?”」
彼に弱みを見せてはいけない。虚勢を張り、何時もと何ら変わらない様に接する。
彼のことを信用することは出来ない。
「クックックッ……そう構えないでください、先生。私は貴方と協力関係を築く、そのためにここに来たのです」
「”へぇ、それはまた随分と急だね。で、本当は何が目的なの?”」
「協力関係を結びたい、と言うのは本当ですよ、先生」
……相変わらず何を考えているのか分からない。が、空が赤くなったあの日、彼が居なければ私達に勝利は無かった──ここは、聞いてみるのも有りだろう。
「”協力関係、と言うのは?具体的には?”」
「あの人間、いえ、そうですね……。モンスター、と呼称するのが近しいでしょうか。アレをキヴォトスから
「”そりゃ随分と無茶なことを言うね。殺す、とかなら分かるけど、
「私達がベアトリーチェに使った物です。アレを使うことさえできれば、あのモンスターを
「”なんで君の計画に私が?参加する義理も、メリットも無いよ”」
「貴方が参加していただければ、あのモンスターについての情報も、そして」
全く、小賢しい大人だ。しかし、メリットが生徒の事なら━━
「”わかった、乗るよ、その話”」
乗るしかない。
「”代償は払わなければならないのだろう?”」
「ええ、勿論です。それが貴方と協力関係を結ぶことの私のメリットですからね」
後は、ネルの所に向かうだけ。
……と、その前に。
「生徒に何かしたら、お前の命は無いぞ」
「クックック……。約束、と謂うのは、契約と同義です。それを破る事は致しませんよ」
そう言うと、黒服は黒いポータルの様な物を作り出し、入っていった。
脚の震えは、既に止まっていた。
■
「”……?止まった……?”」
走り続け、5分ほど。体感時間だが、ある程度は合っているはずだ。伊達に毎日カップラーメン生活をしていない。
そんな中、ピタリ、とネルの動きが止まった。
「”何か有った……!?”」
まるで別の物を嵌めたかのような、感覚の無い脚を鞭打ち、ひたすら走る。立ちすくむ摩天楼を、追い越していく。
ネルにまで何か有ったら、私は……!
「"ネル!!"」
そこには、激しい争いの跡と、大の字になって倒れているネルがいた。
「ああ、先生か。……すまねぇ、アイツ、逃がしちまった」
「”ッ……!そんなことより……目が!!”」
ネルの右目に、巻かれた布には、血が滲んでいた。目を、攻撃されたのだろう。
「”直ぐに、救急車呼ぶから……!”」
またアロナ達を働かせてしまう事になるが、辛抱してほしい。
「おう、ありがとな」
右目に巻かれた布は、服だろうか。確か清潔な包帯があった筈……。こちらを巻いてもらった方が良いだろう。
「”はい、ネル。こっちは清潔だから、巻くんだったらこっちにお願い”」
手遅れにならなかった。それによる安堵感が身体を包む。
ネルは、慣れた手つきで包帯を巻き、また、大の字になった。ネルは物思いに耽るように遠くを見ている。雲が流れ、顕になった太陽が、コンクリートの上の私たちを照らしていく。
ネルは、暫く経った後、こう呟いた。
「あたしって、まだまだだな」
黙って耳を傾ける。ネルの左目からは、涙が溢れている。
「あんな奴を……殺せなかった。私は……」
そう、吐き捨てるように言った。悔しさからか、痛みからか、涙が出ていた。顔を背けて、一人で泣いていた。
ネルは、弱くなんかないのに。
「”ネルは、強いよ”」
そういうと、ネルの泣き声が大きくなった気がした。
救急車が来た。ネルは、直ぐに乗せられて、病院に送られた。
「”任務失敗……かな”」
少し後悔の念を込めた言葉が、口から出る。生徒は、片や脳卒中、片や大怪我と云った、紛れも無い失敗だ。
先生として、最悪だ。
後ろを振り返り、帰路に就こうとしたその時、後ろから震えた声がした。
*ねぇ キミ せんせい っていうんだろ?
後ろに振り返っても誰もいない。誰かのイタズラか?そう思って進もうとすると、目の前から
その花には、顔が付いていた。
*むし しないでよ。
「”花が……喋った……!?”」
思わず口から溢れる。いや、無理もない。花が喋ったのだから。
「”人面花……?”」
*なんで ヨウカイあつかい すんのさ。
訝しげな表情をされた。
いや、普通はするだろ。逆に普通に接せれる人、いないだろう。
「”え?ああ……ごめんごめん。えっと、そう!私は先生だよ!”」
動揺を隠して虚勢を張る。私の得意技だ。
*なに ビビってんのさ。
通用しなかった。全く。なんで……?
「”ええっと、用件はなんだい?”」
話を切り替えて、用件を伺う。
花の用って何だろう。肥料とか、水とかかな?
そんな私の予想は見事に外れたらしい。その花は、ガタガタと震え始めた。まるで、恐怖に襲われたみたいに。
*あの バケモノから……。
*ボクを たすけてほしいんだ。
余程のことなのだろう。ここは、先生として、大人として。助ける選択をした。
「”勿論、良いよ。ところで、君、名前はあるの?”」
名前がなければ、呼び合う事も出来ない。大切なものだ。
*ああ ボクの なまえ?
*ボクは フラウィ。
*お花の フラウィさ!
フラウィ 参戦!!!!!!ドーン
あなた方が望むのは?
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バッドエンド