魔法少女リリカルなのはStrikerS~道化の嘘~   作:燐禰

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第十話『戦いの予兆』

 ――新暦75年・機動六課・訓練スペース――

 

 

 遺失物管理部・機動六課……廃ビルの立ち並ぶ街が再現された訓練スペースでは、新人フォワードの四人が今日も厳しい訓練に励んでいた。

 訓練スペースの中央付近には、バリアジャケットに身を包んで空中に浮かぶなのはの姿があり、周囲には彼女の魔力光である桃色に染まった魔力球が数個展開していた。

 まるでそこは自身の領域だと言わんばかりに、確固たる存在感を持って空中に存在するなのはの後方から、青い魔力で出来た道の様なものが伸びる。

 なのはの教え子である新人フォワードのスバル……彼女が持つ先天性の固有技能によって造られた空中の道、ウィングロード。

 即座に反応して体を動かすなのはの視界に、周囲にあるビルの一画からこちらを狙うティアナの姿が見える。

 

「……アクセル!」

≪スナイプショット≫

 

 なのははあくまで冷静に手に持った杖を横に振り、その言葉に反応した彼女のデバイス……レイジングハートが、周囲に浮いていた魔力球を弾として発射する。

 加速された誘導性のある弾は一直線に迫っていたスバルと、射撃体勢のティアナに向う。

 しかしその弾が両者の体に当ると同時に、スバルとティアナの姿はぶれ、跡形もなく消える。

 

「シルエット……やるね、ティアナ」

 

 先程まで見ていたスバルとティアナが幻術魔法で作り出した幻影だと理解し、感心した様になのはが呟いた直後、なのはの上部から新たにウィングロードが伸びてくる。

 そしてオプティックハイドにより姿を隠していたスバルが、青い道の上に出現し、構えた拳を速度を乗せてなのはに突き出す。

 しかし、なのはは動揺することなく左手をスバルに向けて掲げ、その前方にシールドを展開する。

 スバルの拳となのはのシールドがぶつかり、込められた魔力が火花を散らして衝突する。

 

「くぅ……」

 

 シールドを破ろうと全力を込めるスバルだが、なのはの掲げた左手は微動だにせず、その表情には余裕すらあった。

 なのははそのままシールドでスバルの拳を止めながら、二つの魔力球を誘導弾としてスバルに向かって発射する。

 

「ッ!?」

 

 左右から自身に向かって飛んでくる魔力弾を見て、スバルは慌てて足についたローラースケート型のデバイスを逆回転させて離脱する。

 

「うん。良い反応」

 

 攻撃を即座に止めて緊急離脱したスバルを見て、なのはは満足そうに頷き、二発の誘導弾でスバルを追撃する。

 その誘導弾に対しスバルは、やや強引に空中にある道を飛び移る事で回避を行う。

 

「う、うぇ……うわあぁぁ!」

 

 しかし強引な移動が災いしてバランスを崩し、ローラーに火花を散らせながら斜めに向いたウィングロードを滑る。

 スバルは慌てて体勢を立て直し、なおも迫りくる魔力弾に背を向けて逃げる。

 

(スバル! 馬鹿! 危ないでしょ!)

(うぅ……ごめん)

 

 強引な離脱を見ていたティアナは、スバルを念話で叱咤してから、自身の手にある銃型のデバイスを構える。

 

(待ってなさい。今、撃ち落とすから)

 

 スバルを追いかける二発の魔力弾に狙いを定め、ティアナは魔力を込めて引き金を引く……が、直後に空撃ちする様な感触と共に、ティアナが放とうとした魔力弾が不発となる。

 

「えぇ!?」

 

 デバイスの故障か不調か、最悪のタイミングで訪れたそれに、ティアナは驚愕の声をあげる。

 

「ティア! 援護、援護!?」

 

 期待した援護が来ず、後方に迫る魔力弾。スバルは、焦った様な声で相方を呼びながら逃げ回る。

 

「このっ! 肝心な時に!!」

 

 ティアナは苛立ったような声をあげながら弾丸状のカートリッジを再装填し、今度は引き金を引かず自身の魔力をトリガーとして魔力弾を発射。

 銃型デバイスから四発の魔力弾が放たれ、そのうち二つはスバルを追っていた誘導弾に向かい。残る二つは途中で進路を変えて、なのはの方に向かう。

 自身に向って飛んでくる魔力弾を視認し、そちらに注意を向けるなのは。

 そんななのはからやや距離を取った後方では、足元に魔法陣を展開した二人の子供の姿があった。

 

「我が乞うは、疾風の翼。若き槍騎士に、駆け抜ける力を!」

≪ブーストアップ・アクセラレイション≫

 

 桃色のミディアムヘアーの少女……新人フォワードの一人、キャロ・ル・ルシエは、グローブ状のデバイスに魔力を込めてブースト魔法を発動。

 その前方で槍を構えていた赤髪の少年……キャロと同じく新人フォワードの一員である、エリオ・モンディアルは、自身の体にキャロのブースト魔法の効果が表れるのを感じてから、遠方に見えるなのはに向って槍型のデバイスを構える。

 

「あのっ! かなり加速がついちゃうから、気を付けて!」

「大丈夫! スピードだけが、取り柄だから!」

 

 エリオが構えた槍の両端から、黄色の魔力光が噴出し発射の時を待つ。

 

「いくよ! ストラーダ!」

 

 エリオが自身のデバイスの名を呼ぶと共に、噴出する魔力が膨れ上がる。

 狙う先では、なのはが迫るティアナの魔力弾を回避しながら、エリオを迎撃する為の体勢を整えようとしていた。

 

「キュクルー!」

 

 しかしその直後、なのはの上空から白い小型の竜……召喚魔導師であるキャロの竜、フリードリヒがなのはに向って火炎弾を放つ。

 即座に反応し火炎弾を回避するなのはだが、やや体制は崩れエリオへの対応が遅れる。

 

「エリオ! 今!」

 

 これを逃せばもう訪れないかもしれないなのはの隙に、ティアナがエリオに叫ぶように指示を飛ばし、それを聞いたエリオはストラーダを振りかぶる。

 

「いっけえぇぇ!!」

≪スピーア・アングリフ≫

 

 まるで槍投げをするような動作と共に、槍を構えたエリオが猛スピードで空を駆けてなのはに向かう。

 高速で迫りくるエリオを見て、なのはは回避する事は出来ないと判断し、前方に防御魔法を展開してエリオと衝突。ブースト魔法により強化されたエリオの一撃と、なのはの展開した障壁がぶつかり、大きな爆発が起こる。

 激突の衝撃でエリオの体は投げ出され、近場にあったビルの壁に足を付け滑る様に落下していく。

 

「エリオ!」

「……外した!?」

 

 壁を滑りながらも何とかビルの途中で停止したエリオを見て、スバルが心配した様子で声をかけ、ティアナがエリオとは違い爆煙に包まれたままのなのはの方を見る。

 少しして爆煙が晴れ、その中からは……悠然と空中に立つなのはの姿が見える。

 しかしその表情は先程までとは違って優しく微笑んでおり、エリオ達に追撃を加える様な様子も無かった。

 

≪ミッションコンプリート≫

「お見事……ミッションコンプリート!」

 

 その言葉は四人が行っていた弾丸回避訓練……シュートイベーションの結果を伝えるものだった。

 なのはの攻撃を五分間被弾なしで回避するか、なのはに一撃でもクリーンヒットを入れれば完了と言うものだが、まだまだ新人の四人にとってはかなりの難関だった。

 

「ホントですか!?」

 

 エリオがビルの壁に掴まりながら、信じられないと言った様子で聞き返す。

 その言葉を聞いたなのはは、自分の左胸……バリアジャケットに付いた微かな焦げ目を指差しながら微笑む。

 

「ほら、ちゃんとバリアを抜いて、ジャケットまで届いたよ」

 

 四人共力を尽くして攻めたにも拘らず、なのはに与えられたダメージは皆無に等しかったが、自分達より遥か格上であるなのはに対し、微かでも攻撃が届いたという事に四人の表情は明るく変わる。

 

「じゃ、今朝はここまで……一旦集合しよう」

「「「「はい!」」」」

 

 明るい笑顔を浮かべてなのはが訓練の終わりを告げ、四人はそれに応えてそれぞれ移動を開始する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 訓練スペースよりやや離れた位置にある隊舎の屋上では、クラウンが頬杖をついて訓練を眺めていた。

 

『皆、頑張ってるね~』

≪どうですか? マスターの目から見て、ティアナさんは≫

 

 訓練が終わったのを確認して呟くクラウンに、ロキがいずれ彼が指導する事になるティアナの名前を出して尋ねる。

 

『真っ直ぐで素直な、いい子だよね』

 

 クラウンの言葉は答えになっていない様なものだったが、ロキはそれだけで主が何を言いたいかを察して言葉を返す。

 

≪騙す事が専門の幻術魔法を使うには、もっと性格が悪くないと……ですか?≫

『うーん。まぁ、あの子は俺と違って幻術がメインじゃないから、そこまでは言わないけど……ちょっとフェイクシルエットとかの使い方が、あまりにお手本通り過ぎる気がするね』

≪確かに、あれでは魔力消費も大きそうですね≫

『応用力が無いって訳じゃないんだけど……やっぱりメインは射撃だから、幻術魔法は研究が遅れがちなのかもね』

 

 先程までの訓練風景を思い返す様に話すクラウンの言葉を聞き、ロキも納得した様に言葉を返す。

 

『まぁ、教える事になったら……その辺からかな』

 

 今後自分が教える事になるティアナの姿を眺めた後、クラウンは立ち上がって隊舎の方へ引き返していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――機動六課・隊舎――

 

 

 シャワーを浴び、訓練着から制服に着替えたフォワードの四人となのはは、寮のから隊舎に向って歩いていた。

 いつも通りなら訓練が終わった後は食事になるのだが、今回は今までの酷使の影響で、スバルとティアナのデバイスが限界を迎えた。

 そしてなのはの判断により、機動六課が四人の為に制作した実戦用デバイスへと切り替える事になり、今はデバイスルームへと向かっていた。

 五人が隊舎の入口から中に入ると、廊下の先から非常に特徴的な人物が歩いてきた。

 

『や、皆。お疲れ様』

「「「「お疲れ様です」」」」

 

 手をあげて声をかけてくるクラウンの言葉に、フォワードの四人が丁寧に頭を下げる。

 クラウンが機動六課に配属されてから二週間近く経ち、フォワードの四人も含め機動六課の隊員は、彼の容姿にすっかり慣れていた……一匹を除いて。

 

「クゥゥ~」

『なんで、フリードは俺に会うたび唸るのかな? 俺、嫌われてる?』

 

 威嚇する様に自身を睨みつけるフリードを見て、クラウンは困った様な声をあげて頭をかく。

 その言葉を聞き、フリードの主であるキャロは、やや慌てた様子で言葉を返す。

 

「す、すみません! フリード……クラウンさんの事、怖がってるみたいで……」

『怖がる? なのは隊長。品行方正と自負してるんだけど、俺どこか変?』

「……奇妙って言葉が、服を着て歩いてるぐらいには……変かな」

 

 キャロの言葉に対し大げさに首を傾げて尋ねるクラウンに、なのはは呆れた様に苦笑しながら言葉を返し、他の面々もなのはの言葉を肯定する様に苦笑いを浮かべていた。

 

『うーん。俺動物好きなんだけどな~』

「フゥ!!」

 

 クラウンが肩を落としながら手を伸ばすと、フリードは「寄るな」と言いたげに鳴き声をあげる。

 フリードに懐いてもらえない事がショックだったようで、クラウンは手を引いた後で仮面を外して、涙顔……の仮面に変わる。

 

「だ、大丈夫ですよ。きっとその内、懐いてもらえますよ」

 

 その様子を見ていたスバルが、慰める様な言葉をかけると、クラウンはスバルの方を向いて仮面を戻しながら話す。

 

『……スバルは優しいね。クッキーあげよう』

「あ、ありがとうございます……あの、どこから出したんですかこれ?」

 

 いつの間にかクラウンの手にあった小包を受け取りながら、スバルはひきつった笑みで言葉を返す。

 

『ひ・み・つ・♪』

「……」

 

 容姿には慣れてきたとはいえ、掴みどころのないクラウンの性格に、フォワードの四人は戸惑った様な表情を浮かべる。

 

「……ところで、クラウンもお出かけ?」

 

 そんな微妙な空気を変える様になのはが尋ねると、クラウンは表情の見えない仮面のままで頷いて言葉を返す。

 

『うん。ヴィータ副隊長とシグナム副隊長に合流して、交替部隊の仕事を教えてもらってくるよ。シグナム副隊長が不在の時は、俺が担当する事になりそうだしねって……も?』

 

 なのはの質問に対して答えた後、クラウンは先程の言葉を疑問に思い首を傾げる。

 

「先程、フェイトさんと八神部隊長も出かけて行かれました」

 

 首を傾げるクラウンを見て、エリオが自分とキャロの保護責任者であるフェイトと、部隊長であるはやての名前を出す。

 それを聞いたクラウンは納得したように頷いてから言葉を返す。

 

『ああ、そういえばフェイト隊長。今日は、捜査部の方に行くとか言ってたね……皆は、これからご飯かな?』

 

 仮面の口元に指を当てて呟いた後、クラウンは五人の姿を眺めながら言葉を続ける。

 

「その前に四人に新デバイスを渡そうと思って、これからデバイスルームに行く所だよ」

『おぉ! そうなんだ! 皆もいよいよ新デバイスへ切り替えか~この前シャーリーに見せてもらったけど、中々凄そうだったよ』

 

 なのはの説明を聞き、クラウンは機動六課のデバイスマイスターである……シャリオ・フィニーノ、通称シャーリーの名前をあげながら言葉を返す。

 その言葉を聞いたフォワードの四人は、表情を期待する様なものに変える。

 そんな四人の表情を眺めた後、クラウンは少し間を置いてから言葉を発する。

 

『……っと、引きとめちゃってごめんね』

「ううん。クラウンも仕事頑張ってね」

『ありがと、じゃあ、またね~』

 

 なのはが微笑みながら言葉を返すのと見た後、クラウンは出口に向かって歩きながら軽く手を振って言葉を発する。

 その後ろ姿を見送った後、五人は改めてデバイスルームに向って歩き出し、スバルがクラウンから受け取った小包を困った表情で見つめながら呟く。

 

「……どうしよ。これ……」

「貰っとけば? 別に変なものが入ってる訳でもないでしょ」

 

 スバルの呟きを聞き、隣を歩いていたティアナが言葉を返す。

 その言葉を聞いたスバルは、何故か不安そうな顔でティアナの方を振り返る。

 

「で、でも……クラウンさんだよ?」

「……」

 

 その一言で全て察したのか……ティアナはなのは曰く、奇妙という言葉が服を着て歩いている様な上司を思い浮かべ、何も返答できずに苦笑した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――ミッドチルダ北部・道路――

 

 

 ミッドチルダの北部にあるベルカ自治区と呼ばれる地域の付近……道路を走る一台の車の中では、フェイトが機動六課の管制……ロングアーチと通信を行っていた。

 

「……うん。はやてはもう、向こうについてる頃だと思うよ」

 

 ベルカ自治区内にある管理局との繋がりも深い聖王教会。そこに用事があったはやてを送り終え、フェイトは自身の目的地に向かって車を走らせていた。

 

『はい。お疲れ様です』

 

 フェイトの報告に対し、モニターに映っていた紫髪のメガネをかけた青年。はやて不在の際のロングアーチの責任者であり、交替部隊の指揮官も兼任する部隊長補佐……グリフィス・ロウランが穏やかな笑みを浮かべて言葉を返す。

 その言葉を聞いて頷いた後、フェイトは今後の自分の行動についても連絡を行う。

 

「私はこの後、公安地区の捜査部に寄って行こうと思うんだけど……そっちはなにか、急ぎの用事とかあるかな?」

『いえ、こちらは大丈夫です。副隊長二人とクラウン補佐は、交替部隊と一緒に出撃中ですが……なのはさんが隊舎にいらっしゃいますので』

 

 フェイトの質問に対し、グリフィスは穏やかな口調で答え、その言葉を聞いたフェイトは安心した様に微笑んで頷く。

 しかしその直後、新たな通信モニターが出現……緊急を伝える赤い色に染まった画面と、アラートの音が車内に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――ミッドチルダ南部・森林地帯――

 

 

 ミッドチルダの南部に広がる森林地帯……その一画には陸士部隊の車両が複数台停車しており、周囲には管理局制服に身を包んだ多くの局員が居た。

 捜査活動を行っていた機動六課の交替部隊に合流したクラウンは、シグナムとヴィータからある程度の仕事内容を教わり、現在は車両に背を預けて休憩していた。

 そんなクラウンの元に、ヴィータが腕を組みながら近づく。

 

「どうだクラウン?」

『うん。大体覚えたよ……次回からは、一人でも大丈夫かな?』

 

 ヴィータの質問の意図を理解し、クラウンは仮面の口元部分に指を当てながら言葉を返す。

 

『ただ……何か周囲の視線がちょっと冷たい気がするね。なんでだろ?』

「……仮面を取れ、話はそれからだ」

 

 交替部隊の隊員達の視線が注がれてるのは、当然の如くクラウンの仮面に対してであり、ヴィータは呆れた様な表情で言葉を発する。

 それを聞いたクラウンは、しばし沈黙した後……仮面を外して、ピエロのメイクをした顔を出す。

 

「……すまん。あたしが悪かった……仮面かぶってろ」

 

 怪しい仮面を外すことで、更に怪しくなったクラウンを見て、ヴィータは大きなため息と共に言葉を発する。

 それを聞いたクラウンは一度首を傾げた後で仮面をかぶり直し、周囲で休憩している隊員を眺めながら言葉を発する。

 

『ところでヴィータ副隊長。この交替部隊の前線って、どんなもんなの?』

「うん? ああ……腕が悪いとは言わねぇが、ガジェットと戦った事がある奴は少ねぇな」

『じゃあ、戦力的にはあんまり期待し過ぎない方が良いのかな?』

「まぁ、そうだな。基本的に何かあれば、オフシフトでもあたし達が出る事になるだろうよ」

 

 交替部隊は基本的に機動六課のメンバー……特に前線の面々が自由待機の際に、穴埋めとして動く部隊。24時間勤務体制である機動六課にとっては、無くてはならない存在だった。

 しかしその性質上、幅広い事態に対応できる汎用性が求められる為、魔導師の数はそう多くなく、戦力的には機動六課前線メンバーには遠く及ばない。

 

『うちの部隊って、休暇とか取れるのかな~?』

「……間違い無く交代制だろうな」

 

 おどけた様子で話すクラウンの言葉を聞き、ヴィータも楽しげに苦笑しながら言葉を返す。

 二人の間に穏やかな空気が流れ……僅かに間を置いて、ヴィータが戸惑いがちに口を開く。

 

「……なぁ、クラウン?」

『うん?』

 

 やけに神妙な面持ちのヴィータを見て、クラウンは大きく首を傾げながら聞き返す。

 

「その、なんだ……あたし、お前と……どっかで、会った事あるか?」

 

 自分自身でも自信なさげな様子で、言葉を選ぶ様に告げられたヴィータの言葉を聞き、クラウンは少し沈黙してから言葉を返す。

 

『……ナンパ?』

「……」

 

 クラウンの言葉を共に、ヴィータの顔は呆れた様な物に変わり、冷たい視線をクラウンに送る。

 仮面の下でクラウンの口元が歪んだ事には気付かず、ヴィータは自分の勘違いだったと溜息をついて言葉を発する。

 

「まぁ、お前みたいに奇天烈で怪しい奴、一度見たら忘れねぇよな」

『なんて口の悪いチビッ子なんでしょう……』

「……ちょっとその仮面の耐久力試してみてぇから、殴っていいか?」

『駄目』

 

 拳を握りしめながら言葉を発するヴィータを見て、クラウンは慌てた様子で首を横に振る。

 会話こそ遠慮のないものだったが、互いに冗談と分かっているのか、二人の間に流れる空気は不思議と楽しげなものだった。

 クラウンが機動六課に配属されて二週間……リインを除けば、ヴィータはかなり早い段階で彼と打ち解けていた。

 そんな二人の元に、ロングアーチからの緊急通信を知らせる音が聞こえてくる。

 

「どうした?」

 

 二人は即座にモニターを展開し、同じく通信を受けたであろうシグナムと、グリフィスの姿が表示される。

 ヴィータが真剣な表情で尋ねると、グリフィスも同じく真剣な表情で言葉を発する。

 

『教会本部から緊急出動の要請です。教会調査団で追っていたレリックらしきものが発見されました』

『……場所は?』

 

 グリフィスの言葉を聞き、モニターに映ったシグナムが真剣な表情で聞き返す。

 

『場所は、エイリム山岳丘陵地帯を走行中のリニアレール内部。対象は、ガジェットに制御を奪われ暴走中です』

「……エイリム……」

『殆ど真逆だね』

 

 グリフィスの告げた場所を聞き、ヴィータが考える様に呟き、クラウンは自分達の現在位置を表示しながら言葉を返す。

 するとそこへ、部隊長であるはやてからも通信が届きモニターが開く。

 

『三人とも、聞こえるか?』

「ああ……大体の事情は理解した」

『それで、私達は?』

 

 はやての言葉に対し、ヴィータが簡潔に自分達の情報認知量を伝え、シグナムが指示を仰ぐように尋ねる。

 二人の言葉を聞いたはやては考える様な表情になった後、クラウンに対して言葉を発する。

 

『クラウン! 転送魔法は使えるか?』

『流石にリニアレールに直接ってのは難しいですけど、付近でいいなら……術式の準備に15分程もらえれば、三人同時に転送できますよ』

 

 はやての尋ねたい事を察したクラウンは、モニターで位置を確認しながら言葉を返す。

 

『そっか……じゃあ、取りあえず転送準備はしてもらって、三人は指示があるまでその場で待機』

『待機?』

『うん……今、隊長二人とフォワードの四人が現場に向かっとるから……現場の状況次第では、三人にも出てもらう』

『……新人の動きを見たいと?』

 

 はやての言わんとする事は理解したのか、シグナムとヴィータは無言で頷き、クラウンは確認する様に聞き返す。

 

『そういうこと……三人は急行できる準備だけして、固まって待機しといて! 細かい指示は、追って伝える』

『『了解』』

「了解だ」

 

 はやての言葉に三人は頷き、続けてクラウンはグリフィスとシグナムに通信を行う。

 

『じゃあ、開けた場所で術式の準備をするから……シグナム副隊長はこっちに合流してもらえる? で、現地の座標をこっちに送って』

『わかった。交替部隊に指示を出してからすぐ合流する』

『了解しました。座標データを端末に転送します』

 

 簡潔に通信を終え、クラウンは車両から離れて開けた場所へ移動しながら、ロングアーチから送られてきた座標データを確認する。

 ヴィータもクラウンに続くように移動し、準備の邪魔にならない様に少し離れた位置でデバイスを展開する。

 開けた場所にたどり着いたクラウンは、足元に緑色の魔法陣を出現させ、転送魔法の準備を行いながらロキに念話を飛ばす。

 

(……どう思う?)

(今回は随分派手に動いてきてるかと……)

 

 今まで独自にレリックを追ってきたクラウンは、当然ながら今までのガジェット出現情報等も把握していた。

 複数回ガジェットと戦闘した事もあるが……今までのガジェットの出現は殆どが夜間、それも小規模のものが多く。今回程の構成は初めてだった。

 

(真昼間からリニアレールの乗っ取り……推定機数は最低でも30以上……)

(新型らしき大型や飛行型も、出現の可能性があるそうです)

 

 まるで独り言を呟く様なクラウンの念話を聞き、ロキは端末に送られてきたデータを報告する。

 

(……いよいよ。本格的に動き始めたってことかな?)

(戦闘機人が出てくる可能性も、考えておかないといけませんね)

 

 クラウンの念話を聞き、ロキはかつてクラウンが遭遇した敵戦力の名を出して言葉を返す。

 ゼスト隊が壊滅した現場で交戦した戦闘機人らしき女性……あれ以降一度も目にする事が無かった存在の名を聞き、クラウンは何かを思案する様に言葉を返す。

 

(機動六課稼働から約三週間……教会の予言がそれだけ正確なのか……あちら側に、何らかの準備が整ったのか……なんにせよ、これから忙しくなりそうだね)

 

 いずれ来るとは理解していたが……大きな戦いが始まる予感を感じ、クラウンは真剣な表情で考える。

 

 

 かつて彼が、歯が立たなかった戦闘機人……いや、当時のクラウンの状態を考えればまともに戦ったとは言えない一戦。

 

 

 その戦いで刃を交え、クラウンに戦闘機人と言う存在を強く印象付けたトーレ……彼女が再びクラウンの前に現れる日も、そう遠くは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




と言う訳で、アニメ本編におけるファーストアラートの部分でした。

交替部隊等は、アニメでほぼ登場がないので……大部分は想像になっておりますが、アニメでのファーストアラート中、ヴィータとシグナムどこ行ってたんだろう?

別世界とは考えにくいですが、そうなるとな第一種戦闘配備でハブられたのか……

それはさておき、ヴィータはクラウンに対し、多少なり何かを感じているようです。今後どういった展開になっていくのか……そして、トーレとの再戦はいつ訪れるのか……

しかし少々原作場面の扱いに迷っております……皆分かってると仮定して、がっつり削っていい物なのか、ある程度は原作場面も描写しておいた方が分かりやすいのか……悩み所です;;

まぁどっちになったとしても、初出動は次回で片を付けて……地球への出張はどうするか;;

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