魔法少女リリカルなのはStrikerS~道化の嘘~ 作:燐禰
――新暦75年・輸送ヘリ内部――
レリック発見の知らせを受け、新人フォワード四人の機動六課前線としての初陣を飾る場所に向け、大型運送ヘリが最高速度で飛行を行っていた。
ヘリの内部にある席に座り、四人はそれぞれ渡されたばかりの新デバイスを握りしめ、一同に緊張した表情を浮かべている。
その中でも特に落ち着かない様子なのはキャロで、現場が近付くにつれその表情は強張り、何かを思いつめている様に瞳は不安げに揺れていた。
そんなキャロを隣に座るエリオが心配そうに見つめ、そんな二人の様子をなのはも考える様な表情で見つめる。
そして現場まで数分となった所で、ヘリの内部に流れる沈黙を切り裂くように機動六課管制……ロングアーチからヘリに通信が入る。
『ガジェット反応! 空からです!』
『航空型、現地観測隊が補足!』
通信スタッフであるアルトとルキノの声がヘリの内部に響き、空気が一気に慌ただしくなっていく。
ロングアーチからは次々現場付近に現れた航空型ガジェットの情報が届き、なのはとリインが真剣な表情で部隊長であるはやてと通信を行う。
新人フォワード四人が固唾をのんで見守る中、作戦を話し終えたなのはは端末を閉じてヘリパイロットであるヴァイスに声をかける。
「ヴァイス君! 私も出るよ。フェイト隊長と二人で空を押さえる!」
「うっす、なのはさん……お願いします!」
現れた航空型ガジェットの集団には、空戦可能ななのはとフェイトが当る事になり、なのはは現地管制をリインに引き継ぐ。
そして緊張した表情を浮かべている新人四人の方を向き、安心させるように微笑みながら言葉を発する。
「じゃ、ちょっと出てくるけど……皆も頑張って、ズバッとやっつけちゃおう!」
「「「はい!」」」
「は……はい」
なのはの言葉にスバル、ティアナ、エリオがしっかりと頷く中、キャロの返事だけがやや遅れ、それを聞いたなのはは微笑みながらキャロに近付く。
そして不安げな表情を浮かべるキャロの頬に、優しく手を当て穏やかな口調で言葉を発する。
「……大丈夫。離れていても、通信で繋がってる。一人じゃないから、ピンチの時は助け合える。キャロの魔法は、皆を助けてあげられる優しくて強い魔法なんだから」
「あ……はい!」
竜召喚という巨大な力を持つが故に生まれ育った地を追われ、その後も制御できない力の暴走を経験した彼女にとって、実戦……竜召喚を使わなければならない状況が予想される戦闘は、不安でしょうがなかった。
優しい彼女にとっては自分が傷つく事以上に、自分の力で他人が傷つく事が怖かった。
そんなキャロの抱える事情を伝え聞いていたなのはは、キャロに対し一人で戦う訳ではないと優しく諭す。
なのはの言葉を聞いたキャロは、ほんの少しだけ表情を緩め……今度はしっかりと頷く。
「いい返事。それじゃあ、行ってくるね」
キャロの返事を聞いたなのはは笑顔で頷き、開いたハッチからその身を空に踊らせる。
かなりの高度を飛ぶヘリから落下しながら、なのはは空中でレイジングハートを展開してバリアジャケットに身を包み、空中を飛ぶガジェットの集団に向って高速で空を駆ける。
「スターズ1、高町なのは……行きます!」
ヘリを遥かに超える速度で飛行し、瞬く間に姿が見えなくなったなのはを見送った後、ヘリに残った新人四人はリインから作戦の説明を受ける。
リインは端末を起動しヘリ内部に取り付けられた大きめのモニターに、ロングアーチから送られてきた情報や写真を表示して説明をしていく。
「任務は二つ。まずは、ガジェットを逃走させずに全機破壊する事。そして、レリックを安全に確保する事」
簡潔に任務の内容を説明するリインの言葉と共に、表示されている映像が切り替わり目的となるリニアレールが表示される。
「ですから、スターズ分隊とライトニング分隊それぞれに分かれて、ガジェットを破壊しながら中央に向かいます。ちなみにレリックはここ……7両目の重要貨物室。スターズかライトニング、先に到着した方がレリックを確保するですよ」
「「「「はい!」」」」
説明を聞き終えたフォワード四人がしっかりと返事をするのを見て、リインも頷きながら端末を閉じる。
「で……私も現場に降りて、管制指揮を担当するです!」
端末を閉じた後でリインが体を軽く回転させると、薄い光が彼女を包みその服装が陸士制服から騎士甲冑へと変わる。
それぞれ準備を整える中、目標となるリニアレールが見え始めていた。
――ミッドチルダ南部・森林地帯――
交替部隊の車両が複数停車している森林地帯では、転送魔法の準備を終えたクラウンが一本の木にもたれかかり、自然な動作で右手を耳に当てながら考えていた。
(……妙だな)
(妙なのは貴方です。いつの間に盗聴器なんて仕掛けたんですか?)
念話で呟くクラウンに対し、ロキが呆れた様子で突っ込みを入れる。
大鎌型のデバイスを支える様に右手を当てた彼の耳には、小さなイヤホンが付いていて、そこから現在現場に向かっているヘリ内部の会話が聞こえてきていた。
(備えあれば憂いなしってやつかな……何かに使えるかもしれないと思って、スバルさんに渡したクッキーの箱を二重底にしておいたんだよ)
(それ、明らかにこの状況を想定していた訳ではないですよね……普段の癖でスバルさんに盗聴器仕掛けただけですよね? スバルさんはマスターを訴えても良いと思います)
(……ま、まぁ過程は置いといて……レリックの位置情報が聞けたのは収穫だったかもしれない)
(どういう事ですか?)
完全にストーカーでしかないクラウンの行動にロキが突っ込みを入れるが、クラウンはあっさりと話題を戻して呟く。
クラウンが気にかかっているのは、先程リインがフォワードに告げていたミッション内容の一部……目標となるレリックの位置に関しての発言だった。
(対象のリニアレールは、首都ミッドチルダから外部に向けての便……最初はレリックが荷物に紛れ込んでいて、ガジェットがそれを発見したのかと思ったけど……重要貨物室に入れられているって言うなら話は別だね)
(要するに、レリックを何者かがどこかへ輸送しようとしていたと言う訳ですか?)
(そう、そしてそれは遺失物管理部じゃない……もし遺失物管理部なら、事前に機動六課に情報が入ってない訳がないし『発見された』なんて言い方はしないだろ?)
(……目的は、輸送ではなかったかもしれないと言う事ですね)
ゆっくりと疑問点を語るクラウンの言葉を聞き、ロキも主が言わんとする事を察した様子で呟く。
(あくまで予想だけどね……変だと思わない? レリックはA級危険指定のロストロギアだ。一般人が所持していれば貨物に載せる段階で没収されるだろうし、管理局が別施設に移動させるにしては護衛が少なすぎる……襲撃の危険を考慮するなら、そもそもリニアレールなんて手段を選ぶ意味がない)
(まるで、奪ってくれと言わんばかりですね)
(そうだね……もしこれが、襲撃を前提とした輸送なら……当りかもしれない。洗ってみる価値は十分過ぎるほどあるね)
これは予言がもたらした結果なのか、クラウン自身の目的としてもここ数年で一番と言っていい大きな動きが見え始めていた。
仮面に隠れた表情を鋭く変え、クラウンは頭の中で今後の展開を組み立てていく。
問題はこの疑問がどちらに繋がっているか……戦闘機人か最高評議会か……あるいは、その両方か……
――リニアレール・前方――
エイリム山岳丘陵地帯を高速で走るリニアレールの上、前方と後方に分かれて到着したフォワード四人とリインは、素早く行動を開始していた。
空中移動が可能なリインは、リニアレール上での管制指揮を担当しつつ車両制御を奪い返す為に動き、前方からはスターズ分隊のスバルとティアナが、後方からはライトニング分隊のエリオとキャロがそれぞれ内部を7両目に向けて進軍していた。
五人の到着を察知し、リニアレール内部に居たガジェット達も迎撃の動きを取り始める。
≪ヴァリアブルバレット≫
「シュート!」
ティアナが受け取ったばかりの新デバイス……クロスミラージュを構えると、その先端に対ガジェット用の多重弾殻射撃魔法が一瞬で生成され、撃ち出された魔力弾は迫っていたガジェットのAMFを貫いて破壊する。
そのままティアナが数体のガジェットに攻撃を仕掛ける中、前衛であるスバルは足にとりついたローラーブーツ……マッハキャリバーを駆り、車両内に複数存在するガジェットに向かう。
腕に装着したもう一つのデバイス……リボルバーナックルによる打撃でガジェットを一機破壊し、そのまま速度を緩めることなく続けざまに周囲のガジェットに攻撃を加えていく。
当然ガジェットも攻撃をただ喰らっているだけではなく、スバルに向けコア部分からレーザーを放って反撃を行っていく。
≪アブソーブグリップ≫
マッハキャリバーがグリップ力を高める魔法を発動し、スバルはその魔法効果を利用して壁をまるで地面の様に装甲して攻撃を回避、右手に魔法陣を出現させて追撃を放つ。
「リボルバーシュート!」
構えた拳から撃ち出された魔力弾が、密集していたガジェットに迫り大きな爆発を起こす……が、威力の加減を間違えたのか爆発はスバルの想像より大きく、車両の天井を破壊すると共に反動でスバルの体も外に投げ出される。
「う、わわ!?」
≪ウィングロード≫
投げ出された空中で慌てて体勢を立て直そうとするスバルだが、マッハキャリバーが素早くウィングロード……スバルが持つ空中に魔力の道を作り出す先天性魔法を自己判断で発動させる。
空中に青い魔力の道が現れ、そこを走って車両の上に戻ったスバルは、自身の新たなデバイスの性能に驚いた様に呟く。
「……うわぁ……マッハキャリバー……お前って、もしかして、かなり凄い? 加速とかグリップコントロールとか……それにウィングロードまで」
≪私は、貴方をより強く、より速く走らせる為に作り出されましたから≫
感動したように話すスバルの言葉に対し、マッハキャリバーは機械的に淡々とした口調で言葉を返す。
マッハキャリバーの返答を聞いたスバルは少し考える様な表情で沈黙し、それから微笑みを浮かべて諭す様に語りかける。
「……うん。でも、マッハキャリバーはAIとはいえ心があるんでしょ? だったら、ちょっと言い変えよう! お前はね、私と一緒に走る為に生まれてきたんだよ」
≪同じ意味に感じます≫
「違うんだよ……色々と」
まだ製造してから間もなくAIも成長段階にあるマッハキャリバーは、スバルの言葉の意味を深く理解する事は出来なかった。
しかし主であるスバルの言葉を理解しようとしない訳ではなく、少々困った様な表情を浮かべるスバルに対し補足する様に付け加える。
≪考えておきます≫
「うん!」
その返答に嬉しそうに頷いた後、スバルは再びリニアレールの内部に突入して戦闘を再開する。
スバルがマッハキャリバーと会話を行っていたのと同じ頃、リニアレール内部ではティアナが車両を停止させる為にケーブルの破壊を行っていた。
『ティアナ、どうです?』
「駄目です。ケーブルの破壊……効果無し!」
ケーブルを破壊しても車両が止まる様子は無く、リインの通信に対しティアナは首を振って答える。
ティアナの返答を聞いたリインは、それも予想していたと言いたげに次の指示を出す。
『了解! 車両の停止は、私が引き受けるです。ティアナはスバルと合流して、レリックを確保してください』
「了解!」
≪ワンハンドモード≫
リインの指示にティアナが答えて通信モニターが閉じられるのと同時に、クロスミラージュは二丁拳銃の形態から一丁の形態へと変わる。
一丁になったクロスミラージュを構え、空いた手でロングアーチから送られてくる情報を確認しながら、ティアナはスバルと合流する為にリニアレール内部を進んでいく。
「しかし……流石最新型、色々便利だし弾体生成までサポートしてくれるのね」
≪はい。不要でしたか?≫
ティアナの呟きを聞き、クロスミラージュはマッハキャリバーと同じくまだ固い口調で言葉を返す。
するとティアナは少し考える様に苦笑し、それから言葉を返す。
「アンタみたいに優秀な子に頼り過ぎると、私的には良くないんだけど……でも、実戦では助かるわ」
≪ありがとうございます≫
努力家のティアナにとって、優秀すぎるデバイスを持つと自己鍛錬が疎かになってしまうのではないかという心配もある様だが、それはあくまで自分の心持次第と結論付けて微笑む。
そんなティアナの複雑な考えを察したかは分からないが、クロスミラージュはティアナの言葉に素直に答えそのまま最大限のサポートを維持していく。
『スターズ1、ライトニング1、制空権獲得』
『ガジェットⅡ型、散開開始……追撃サポートに回ります』
ティアナが手に持った端末からは、空で戦うなのはとフェイトの様子も伝わってきており、その内容から任務が順調に進んでいる事を知る。
そのまま少し進むと、同様の指示を受けたであろうスバルが現れ、二人は合流して7両目を目指す。
――リニアレール・後方――
スバル、ティアナとは逆の後方から7両目を目指していたエリオとキャロは、新デバイスの性能にも助けられ順調に進軍していた。
エリオが槍型のデバイス……ストラーダを振るって行く手を阻むガジェットを破壊し、キャロが必要に応じて補助魔法でサポートしていく。
そして素早く9両目を制圧し、8両目に差し掛かった二人の視界に巨大な球体が見えてくる。
「……あれは……」
『エンカウント! 新型です!』
今まで戦っていたガジェットの数倍はあろうかという巨大なガジェット、それを見て事前に確認した資料にあった大型ガジェットを思い浮かべる二人に、それを肯定する様なロングアーチからの通信が届く。
球体型のガジェットは、その体から巨大な二本のアームを出現させ、9両目の屋根の上に居たエリオとキャロに攻撃を仕掛ける。
二人はそれを素早く後方に飛んで回避し、着地と同時にキャロは足元に魔法陣を浮かべて反撃の体勢に入る。
「フリード! ブラストフレア!」
「キュクゥ!」
キャロの呼びかけに応えた彼女の召喚獣である小竜フリードが、口元に火球を出現させて迫るアームに放つ。
しかしガジェットのアームはその火球を軽々と弾き飛ばし、なおもアームをキャロに向かわせる。
エリオはガジェットの居る車両内部に飛びおり、ストラーダに魔力刃を出現させてガジェットを切りつけるが、大型ガジェットの強固な装甲はそれを通す事は無かった。
「くぅっ……硬っ……」
エリオはそのまま装甲で止まった刃に力を加えるが、巨大なガジェットはピクリとも動かない。
大型ガジェットはエリオの刃を受け止め、キャロを狙うアームを一度戻すと、その体にあるコアレンズから強い光を放つ。
するとエリオの構えたストラーダから魔力刃が消え、キャロが足元に出現させていた魔法陣もかき消される。
「AMF!?」
「こんな遠くまで……」
大型故に出力も大きいAMFを受け、AMF下での魔法行使技術の無い二人は焦った様な表情を浮かべる。
ガジェットはAMFにより魔力刃が消えたエリオに向け、引き戻したアームを振りおろし、エリオはそれをストラーダを横に構えて受け止める。
「くっ!?」
「エリオ君!」
強い圧力をかけられながら必死にアームを受け止めるエリオに、AMFによって魔法を使用できないキャロが心配そうに呼びかける。
キャロは完全な後衛型の魔道師であり、エリオの様に接近戦闘技術は無い……その為、AMFによって遠距離攻撃を封じられてしまうと、今の彼女にはなす術がなかった。
「大丈夫……ッ!?」
そんなキャロに対し心配ないと返そうとしたエリオだが、ガジェットのコアレンズが強く光るのを見て慌ててアームを振り払って跳躍する。
直後にガジェットからレーザーが放たれ、先程までエリオが居たリニアレールの床をえぐる。
レーザーを回避してガジェットの後方に着地したエリオは、即座に体勢を立て直してガジェットに向かおうとするが……その視線の端に、高速で薙ぎ払う様に振るわれるアームが映る。
レーザーを回避した事により体勢の崩れていたエリオは、そのアームを避ける事が出来ず、巨大なアームに打ち払われ壁まで勢いよく飛ばされる。
「うわあぁぁ!?」
「!?」
壁に叩きつけられたエリオに向って、更に追撃する様にアームが振るわれ悲痛な叫び声が聞こえてくる中、それを見ている事しか出来ないキャロの頭には、保護観察者であるフェイトに引き取られた日の事が蘇っていた。
巨大な力を持ったが故に生まれた場所を追われ、その後もあちこちの施設をたらい回しにされてきた過去。
自分は居ちゃいけない存在で、危険な力を持つ自分は何もしちゃいけないと語るキャロにフェイトが諭す様に語った言葉。
周りが言うがままにしなければいけないのではなく、キャロ自身がどうしたいか、何をしたいかを考えなければいけないと告げるその表情。
何も出来ない今の状況が……何もしようとしなかったその頃の自分と重なって見えた。
そんなキャロの視線の先で、気絶したエリオを抱える様にアームで持ったガジェットが屋根を突き破って、力無いエリオの体をリニアレールから放り投げる。
「あっ!?」
空中を舞うエリオの体がまるでスローモーションのように見え、キャロは大きく目を見開いてそれを見つめる。
機動六課に来て出会ってから、ずっと一緒に戦ってきたエリオ……いつも自分を守る様に前に立って戦ってくれていたエリオの命が危ない。
「エリオ君!!」
そう考えた瞬間、動く事が出来なかった……動こうとしていなかったキャロの体は、弾かれた様に動き始める。
何かを考えていた訳ではなく、ただ心の中から沸き上がる衝動のままに、キャロは落下するエリオを追ってリニアレールから飛び降りる。
落下しながらエリオに向かって必死に手を伸ばし、次第にキャロの心に生まれた衝動はその形をハッキリと写し始め……それは彼女自身の願いへと変わっていく。
「……(守りたい……私に優しくしてくれた人を……私に笑いかけてくれる人達を……自分の力で、守りたい!)」
エリオに追いつきその手を掴んで抱き寄せると同時に、キャロの願いは決意へと変わり、不安げだったその瞳に力強い光が宿る。
エリオを強く抱きしめたキャロは、両手についたグローブ型デバイス……ケリュケイオンを起動させ、放出した魔力で空中に一時的に浮遊する。
そして自分を追って降りてきた……今までキャロ自身が不安と戸惑いの中にあった為に、その力を引き出せず暴走させてしまっていたフリードを見つめる。
悲しい境遇の中にあり、自分自身の想いを心の内に押し込めていた少女はもういなく、エリオを抱えてフリードを見つめるキャロの表情は、強い意志を持った戦士のそれになっていた。
「フリード……今まで不自由な思いさせててごめん。私、ちゃんと制御するから……行くよ!」
心に宿った決意を語るキャロを見て、フリードはその意思を読みとるかのように力強く頷く。
両手についたケリュケイオンが力強い魔力の光を放ち、浮かび上がった魔法陣の上でキャロは今までまともに使う事が出来なかった……フリードの真の力を発揮させる魔法を行使する。
「蒼穹を走る白き閃光、我が翼となり、天を駆けよ」
力強い言葉と共に魔力が収束し、その力がフリードに注がれていく。
「来よ、我が竜フリードリヒ……竜魂召喚!」
詠唱を完了させキャロが魔法を行使すると、フリードの体が眩い光に包まれ、小さなその体が巨大な……白銀の竜フリードリヒの真の姿へと変わる。
10メートルはあろうかという程の巨大な姿に変わったフリードは、その背にエリオとキャロを乗せ、巨大な翼を力強く動かして飛行する。
キャロの腕に抱かれていたエリオは、頬をくすぐる風を受けてゆっくりと瞳を開き、自分を抱えている少女を見つめる。
その視線に気が付いたキャロは、自分がエリオを抱きしめている事を思い出し、頬を赤くして慌てる。
「あ!? ご、ごめんなさい」
「あ、ううん!? こ、こっちこそ……」
その言葉でエリオも完全に意識が覚醒し、キャロと同じく頬を赤くしながら言葉を返す。
そんな二人を乗せていたフリードがリニアレールに追いつくと、待ち構えていたかのように大型ガジェットがリニアレールの上に姿を現す。
その姿……先程は歯が立たなかった相手を見ても、キャロの瞳に宿った光が揺れる事は無く、AMFの効果が届かないだけの距離を取ってフリードの背で魔力を込めて手を振るう。
「フリード! ブラストレイ」
足元に浮かんだ魔法陣から、強大な魔力がフリードに流れ込み、その口元には先のブラストフレアとは比べ物にならない程の巨大な火球が現れる。
「ファイア!」
キャロの声と共にその火球は視線を覆い尽くす炎へと変わり、大型ガジェットを飲み込む。
その炎により大型ガジェットのアームは半分程焼け落ちたが、強固な装甲に守られた本体は依然健在なままだった。
「やっぱり……硬い」
「あの装甲形状は、砲撃じゃ抜き辛いよ……僕とストラーダがやる!」
砲撃をいなす様な形状をしているガジェットの体を見て、エリオが力強くキャロに告げ、キャロもその提案に頷く。
フリードの背で立ち上がり突撃の体勢を取るエリオに対し、キャロは持ちうる限り最大の魔力を込めて魔法を詠唱する。
「我が乞うは、清銀の剣。若き槍騎士の刃に、祝福の力を……」
≪エンチャントフィールドインベイド≫
両手のデバイスの片方に光が灯り、まずフィールド貫通効果を付与する補助魔法が発動し、キャロはそのまま言葉を止めずに追加で詠唱を行う。
「武きその身に、力与える祈りの光を!」
≪ブーストアップストライクパワー≫
残った片方の手にも光が灯り、キャロはその両手を重ねる様に構えた後で、大きく手を広げる。
「いくよ! エリオ君!」
「了解……はあぁぁ!」
キャロの言葉を受けたエリオはフリードの背を駆けて跳躍し、ガジェットに向けて空中でストラーダを構え、それを追う様にキャロが補助魔法を発動させる。
「ツインブースト! スラッシュ&ストライク!!」
ブースト魔法の光がストラーダに宿り、その先端に巨大な桃色の魔力刃を生み出す。
ガジェットは自身に迫るエリオに向け、半分ほど焼けた二本のアームと内部から出した複数のコードを伸ばすが、それはエリオが振った刃によって切り裂かれる。
そのままリニアレールの上に着地したエリオは、膨大な魔力を込めて足元に魔法陣を出現させ、突撃の構えと共に叫び声を上げる。
「一閃必中!」
その言葉を受けてストラーダから魔力のブーストが放たれ、凄まじい速度で加速したエリオは一直線にガジェットに向かい構えたストラーダを突き出す。
キャロとエリオ、二つの力が宿ったその一撃は……強固なガジェットの装甲突き破り、魔力刃がガジェットを貫通する。
エリオはそのまま突き刺したストラーダを握ったままで体を返し、上方向に振り抜く様に振るう。
「でりゃぁぁぁ!」
叫び声と共に振り抜かれたストラーダにより、巨大なガジェットはその体を両断され、大きな爆発を起こす。
その爆発はエリオとキャロ……二人の勝利を告げるものだった。
――ミッドチルダ南部・森林地帯――
ロングアーチから伝えられた情報を聞き、集まっていたクラウン、シグナム、ヴィータは警戒態勢を解いて会話を行う。
リニアレール内のレリックは、7両目に到着したスターズ分隊の二人が確保し、車両の制御もリインが取り戻した。
残る作業は護送と現地部隊への引き継ぎであり、一先ずこの件は無事解決したと言っていい状況になりつつあるようだった。
「私達の待機は解除だそうだ。引き継ぎを行って隊舎に戻るぞ」
『了解……結局、出番は無かったね』
「だな、まぁひよっ子達が上手くやったって事だろ」
ロングアーチからの指示をシグナムが伝え、クラウンとヴィータが軽い口調で言葉を返す。
クラウンは用意していた転送魔法の術式を解除し、シグナムとヴィータは交替部隊の面々に指示を出していく。
(……さてさて、これからどうなるかな~)
(マスターはどうされるおつもりですか?)
どこか軽い様子で念話を送ってくるクラウンに対し、ロキは深慮深い主の考えを探る様に言葉を返す。
(俺はいつも通り、裏でコソコソ動くとするよ)
(裏で派手に……の間違いではありませんか?)
(そうかもしれないね。どっちにしろ、一度地上本部に出向く必要はありそうだね)
とぼける様な口調の裏で、クラウンは既に今後の自身の行動についてはある程度方向性を固めているようだった。
――???――
広く薄暗い部屋に取り付けられた巨大なモニターの前で、白衣に身を包んだ男性がモニターに映る映像を興味深そうに眺めていた。
『刻印№9……護送体制に入りました』
「……ふむ」
正面の巨大なモニターとは別のモニターに表示された、長い紫髪の女性が告げる言葉を聞き、男性は軽く顎に手を当てて頷く。
『追撃戦力を送りますか?』
「やめておこう……レリックは惜しいが、彼女達のデータを取れただけでも十分さ」
機動六課によって確保されたレリックに対し、護送中に襲撃をかけるかと尋ねる女性に対し、男性は軽く微笑みを浮かべながら言葉を返す。
そしてそのままモニターを操作し、先程リニアレールとその上空で行われていた戦闘の映像を表示し、楽しげに口元を歪める。
「それにしても、この案件はやはり素晴らしい。私の研究にとって、興味深い素材が揃っている上に……」
まるで独り言のように呟きながら、前線で戦っていたフォワード四人と上空で戦っていたなのはとフェイトを順に映した後、男性は画面を切り替えてエリオとフェイトを大きく表示させる。
「この子達を……生きて動いているプロジェクトFの残滓を、手に入れるチャンスがあるのだから……ふ、ふははは……楽しくなりそうだ」
狂気を含んだ高らかな笑い声を上げ、男性は心底楽しそうにモニターを見つめる。
しかし後方で自分と同じくモニター見つめ、怪訝そうな表情を浮かべている一人の人物に気が付き、軽く首を傾げて振り返る。
「どうかしたのかい? トーレ」
「……いえ、何でもありません」
男性に尋ねられたトーレは、首を振って何でもないと答えた後で、一礼してその部屋を後にする。
部屋から出ていくトーレの手には、機動六課の情報を記した端末が握られており、その表情は何かに戸惑っているかのようにも見えた。
部屋から出て薄暗い廊下を歩きながら、トーレは誰にでもなく静かに呟く。
「……まさか、同一人物か? いや……あの時、確かに殺した筈……」
歩くトーレの手に握られた端末、機動六課の構成員の情報を写したその画面には……そうそう見る事は無いであろう、片腕の魔導師が表示されていた。
リアルがバタバタしていて、更新まで一月半も開いてしまって申し訳ありませんでした;;
とりあえず一段落しましたので、今後は更新ペースもある程度戻せると思います。
さてと言う訳で、ファーストアラートに当たる話でしたが……なのはとフェイトの戦闘は丸々カットしました。
アニメと違って小説でどこが難しいって、場面がコロコロ変わる所が一番難しいですよね;;
アニメだとロングアーチ⇒リニアレール⇒上空⇒リニアレールサクサク切り替わるんですが、小説だとそんなにテンポ良くはいけないですね;;
ともあれこれで、一先ず初出動は終わり……次回から地球編及びクラウンの暗躍編に移行していきます。
ちなみに余談ですが、スバルに渡したクッキーの盗聴器は……ロキの言う通り、癖で仕掛けただけです。