魔法少女リリカルなのはStrikerS~道化の嘘~   作:燐禰

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第十三話『茜色の空で』

 

 ――新暦75年・機動六課・隊舎――

 

 

 朝の日差しが差し込む早朝……機動六課隊舎の正面口に位置する受付の元に、部隊内でも一番異質な見た目をした人物が訪れていた。

 

『おはよう。荷物が届いてるって聞いたんだけど?』

「おはようございます。はい、こちらですが間違いありませんか?」

 

 機動六課に届く宅配物は、一度受付が纏めて受け取り、その後に各隊員に配布される事になっている。

 受付の女性はクラウンの言葉を聞き、通信販売ショップのロゴが付いた小さな箱を取り出して、本人が注文したもので間違いないかどうかの確認を促す。

 その言葉を聞いたクラウンは、指先に小さな魔法刃を出現させて箱の封を切り、中から一冊の本を取り出す。

 

『うんうん。これこれ、間違いないよ』

「……そ、そうですか……」

 

 クラウンが取り出した『仮面全集』と書かれた不気味な表紙の本を見て、受付の女性は引きつった笑みを浮かべながら頷く。

 クラウンが機動六課に来て一月近くが経過し、部隊員達もある程度は彼の見た目や性格に慣れてはいるが、相変わらずの奇妙な趣味を理解出来る者はいなかった。

 そんな女性の引きつった笑みを見たクラウンは、何故か明るい表情で尋ねる。

 

『あ、興味あるなら後で貸してあげようか?』

「え、遠慮しておきます」

『そう? 面白いのに……まぁ、確かに受け取ったよ。箱は適当に処分しておいて』

「分かりました」

 

 クラウンの問いかけに対し、女性は興味はあるが読みたくはないと言いたげに答え、その言葉を受けてクラウンは一度首を傾げてから本を持って受付を去る。

 その背中を見送りながら、受付の女性は軽くため息をついて疲れた表情を浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――機動六課・寮――

 

 

 宅配物を受け取り寮の自室に戻ってきたクラウンは、扉をロックしてから手に持った本の裏表紙を開く。

 するとそこにはマイクロチップが貼り付けられており、それを取り外して微かに微笑んだ後でロキに呼びかける。

 

『ロキ』

≪はい。データの読み込みを開始します≫

 

 『いつもの方法』でクラウンの手元に届いたオーリスからの情報。マイクロチップに収められたそれを、ロキが解析してモニターに表示させる。

 起動したモニターに映る情報を確認し、クラウンは考える様に小さく呟く。

 

『……密輸ルートかな』

≪複数ありますね……流石のオーリスさんでも、あの情報だけでは個人の特定は出来なかったみたいですね≫

 

 クラウンが眺めるモニターには、非合法でロストロギアを取引しているいくつかのルートの情報が記載されていて、そのうちのいくつかには『管理局員が関与している疑いあり』という文字が記されていた。

 先日クラウンが依頼したレリックを輸送したであろうルートに、関わりがある可能性が高いものから順に並んでいる様で、現時点で絞り込むのはこれが限界と最後にメッセージもあった。

 密輸に関与している局員の割り出しをするには、記されたルートを探って追加情報を得る必要がある。

 

『ここからは、俺の仕事だね』

≪そうですね。探りをかけて、可能なら密輸品を回収できれば……≫

『一番可能性が高くて、動く日が確定しているのは……アグスタか』

≪骨董美術品オークションの会場ですね≫

 

 密輸ルートを探るなら、その密輸品を直接手に入れるのが最も効率良く、クラウンは近く開始される取引許可の出ているロストロギアのオークションに目を付ける。

 一口にロストロギアと言っても危険なものばかりではなく、観賞用等の安全な物も多く存在する。

 そういった品々の内で、時空管理局が取引許可を出した物はオークションの様な形で、民間のコレクター達の手に渡る。

 しかし表で行われる合法のオークションを隠れ蓑にし、裏で非合法品オークションも行われていて、クラウンが探ろうとしているのはそちら……密輸品や横流し品のオークションだった。

 

『とりあえず、当日までにホテルの見通り図は用意しときたいね』

 

 オークション当日の現場へ乗り込む事を決めたクラウンは、この先の展開を考える様に真剣な表情でモニターを見つめる。

 すると端末から通信を知らせる音が鳴り、クラウンは表示していたデータを閉じてから通信画面を開く。

 

『おはようございます。八神部隊長』

『おはよう。クラウン……朝早くから申し訳ないんやけど、ちょっとええかな? 出張任務が入ってな』

『……出張任務?』

 

 モニターに表示されたはやては、クラウンの挨拶に笑顔で答えた後で通信の目的を話し始める。

 

『第97管理外世界の地球ってとこなんやけど……知ってるかな?』

『……そこって確か、部隊長達の出身地では?』

『そうそう。そこでロストロギアの反応が見つかってな、教会本部からの依頼で回収に出向く事になったんよ』

『……新人四人はともかくとして、俺も参加してよろしいので?』

 

 はやての説明を聞く限りでは、該当ロストロギアが観測されたのは魔法技術の無い管理外世界であり、必然的にそこでの探索は現地への影響を考慮して少数で行われる筈だった。

 しかも今回の対象管理外世界ははやて達の出身地で、機動六課内に現地の土地柄に明るい人物が多数存在している。

 そうなると新人四人は出張を経験させたいと言う意味で連れていくとしても、現地知識の無いクラウンは足を引っ張りかねない。

 その事を考えて尋ねるクラウンに対し、はやては微笑みながら言葉を発する。

 

『うん。捜査は現地住民に悟られんようにする必要があるし、それやったら幻術魔導師のクラウンは専門やろ?』

『ああ、成程』

『認識阻害魔法とかでの補助を期待しててな……10時に出発するから、準備をしてヘリまで来てな』

『了解しました』

 

 はやてが明るい笑顔で告げた言葉を聞き、クラウンは頷いてから敬礼をして返事を返す。

 そのまま軽く任務内容の説明を受けてから、通信を終える前にクラウンは言葉を発する。

 

『ああ、そうだ。少しお願いしたい事があるんですが、今言ってしまっても大丈夫ですか?』

『うん。かまわんけど?』

『実は……』

 

 首を傾げるはやてに対し、クラウンは簡潔にお願いの内容を告げ、その話を聞いたはやては納得した様に頷いてから言葉を返す。

 

『じゃあ後で申請書類を渡すから、早めに記入して提出してくれるかな?』

『了解です』

 

 快く申し出を了承してくれたはやてを見て、クラウンは軽く頭を下げて言葉を締めくくる。

 そしてはやてとの通信を終え、端末のモニターを閉じてから、クラウンは静かに呟く。

 

『……まだ、完全に信用はされてないみたいだね』

≪どういう意味ですか?≫

 

 クラウンの呟きを聞いてロキが言葉を返すと、クラウンは少し間を空けてから言葉を返す。

 

『……今回の任務で、俺を連れていく利点は無いに等しいよ』

≪……疑われていると言う事ですか?≫

 

 クラウンの言葉通り、今回の任務にクラウンを連れていく利点は無いと言ってよかった。

 はやてが語った認識阻害魔法等についても、今回の任務にはシャマルもティアナも同行するので、クラウンの出番は殆どない。

 しかもクラウンは目立つ。仮面等は当然現地では外すにしても、左腕がないと言うのはそれだけで人目を引きやすい要因とも言えるので、こういった現地捜査に向いているとは言い難い。

 それならばクラウンは機動六課に残し、出張中の交替部隊の仕事等を担当させた方が効率的……にも拘らずクラウンを待機ではなく同行させる理由は、一重にはやての性格だった。

 

『いや、疑われているって程じゃないよ。まだ完璧な信頼を寄せてない相手は、出来るだけ目の届く範囲に置いておきたい……まぁ、指揮官らしい考え方だね』

≪成程≫

 

 はやての考えを読みとる様に呟くクラウンの言葉を聞き、ロキも納得した様子で言葉を返す。

 そしてクラウンはしばし考える様に俯いた後、仮面を外して呟く。

 

「まぁ、でも……これはこれで良い機会かもしれないね。そろそろ皆に一度、素顔を見せておいた方が良い頃だろうと思ってたし」

≪確かに、管理外世界への出張任務なら自然と仮面もメイクも取れますね≫

 

 クラウンが機動六課に出向してから、間もなく一ヶ月が経過するこのタイミングは、当初クラウンが考えていた通りに自分の素顔を晒すには良いタイミングだった。

 それならば自然と仮面もメイクも外す理由があるこの出張は、クラウンにとって都合が良いものとも言えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――ヘリ内部――

 

 

 第97管理外世界への移動の為、転送ポートを目指して飛ぶヘリの中では、どこか楽しげな空気が流れていた。

 出張任務自体が初めての新人四人は、数年間地球に住んでいたエリオとキャロを中心に、これから行く地球の事について話をしている。

 地球に魔法文化が存在しない事にティアナが驚き、先祖が地球出身であるスバルが答え、そこにはやてやなのはも加わって会話が盛り上がりを見せる。

 そんな盛り上がる新人フォワード四人の声を聞き、クラウンが明るい言葉を発する。

 

「ちょっと不謹慎ではあるけど、楽しみだね~」

「「「「……」」」」

 

 しかしクラウンが会話に参加した瞬間、新人四人だけでなく周囲も水を打ったように静かになる。

 それもその筈、現在クラウンは素顔で話しかけており、新人達から見て左の壁を背に座っている為、特徴的な左袖が見えなかった。

 ジーンズに薄手のパーカー付きの上着と、カジュアルな服装のクラウンを見て、殆ど全員キョトンした表情を浮かべている。

 そんな沈黙が流れる中で、リインが信じられないと言った表情でクラウンに近付いて尋ねる。

 

「その声……まさか、クラウンですか?」

「そうだけど?」

「「「「「ええぇぇぇぇ!?」」」」」

 

 クラウンがリインの質問に首を傾げて答えた瞬間、機内は驚愕の叫び声で埋め尽くされる。

 皆大きく目を見開いて叫び、はやてですら言葉を失った様に茫然としていた。

 その反応を見てクラウンは再び大きく首を傾げ、機内で唯一自分の素顔を見た事があるシグナムに尋ねる。

 

「なんでそんな驚くかな? ねぇ、シグナム副隊長……やっぱ俺の顔って変?」

「違う。変なのはお前の顔じゃなくて、普段の行動だ」

 

 クラウンの質問に対し、シグナムは呆れたように溜息をつきながら言葉を返す。

 他の面々はしばらくの間、初めて見るクラウンの素顔にどう反応して良いか分からず硬直していたが、その中で一番早く回復したリインが慌てて言葉を発する。

 

「く、クラウンが、ピエロじゃないです!?」

「そりゃあ、今回の任務であんな怪しい恰好してる訳にはいかないでしょ」

「……怪しいって自覚はあったんやな」

 

 リインの言葉にクラウンが笑いながら答え、それを聞いていたはやてが意外そうに呟く。

 

「と、と言うか……そもそも、何で普段は仮面を……」

 

 初めて見るクラウンの素顔に戸惑いながら、ティアナが周囲の誰もが気になっていた質問を投げかけ、その答えを唯一知るシグナムは疲れた様に肩を落とす。

 一同の視線が集まる中、クラウンはたっぷりと間を使い……口元に手を当てて、誇らしげな表情で言葉を返す。

 

「ミステリアスで、カッコイイから!」

「「「「「……」」」」」

 

 その発せられた言葉を聞き、一瞬で周囲は再び静寂に包まれる。

 疲れた表情で溜息をつくはやて、引きつった笑みを浮かべるなのはとフェイト、どう反応を返していいか分からず唖然とする新人四人。

 そんな面々に共通しているのは「この人にまともな答えを期待したのが馬鹿だった」という、クラウンが望んだ通りの感想だった。

 そしてその沈黙の中、やはりいち早く硬直から抜け出したリインが、呆れた表情で言葉を発する。

 

「……いや、カッコよくは……ないと思います」

「やれやれ、リインはまだ仮面の魅力ってのが分かってないね……今度じっくり教えてあげよう」

「い、いいです! 知りたくないです!」

 

 リインの呟きを聞いて、クラウンは不気味に口元を歪めて懐から仮面を取り出し、それを見たリインは慌てて首を横に振る。

 そんなクラウンが思い描いた通りの展開になったヘリの内部で、唯一クラウンが予想していたのとは違う反応を見せる存在が居た。

 

「キュ?」

「おや? フリードが唸らない」

 

 普段はクラウンを見かける度に距離を取り、警戒する様な唸り声を上げるフリードだったが、現在は特にクラウンから離れる様子は無くその顔を興味深そうに眺めていた。

 その普段とは違うフリードの反応を見て、クラウンが懐に仮面をしまってから手を伸ばすと……フリードはそれを避けることなく素直に頭を撫でられる。

 

「お、おぉ……」

 

 その反応に感動した様な表情を浮かべるクラウンだが、すぐその原因が思いついたのか考える様な表情を浮かべて再び仮面を取り出し、それを自分の顔に被せてみる。

 するとフリードの表情は一変し、即座にクラウンから距離を取って鋭い目を向ける。

 

「フゥゥ~!」

「……」

 

 普段の反応に戻って敵意丸出しの視線を向けてくるフリードを見て、クラウンは珍しく唖然とした表情で仮面を外す。

 仮面を外すと同時にフリードの唸り声は消え、再びクラウンの顔を見て首を傾げる。

 

「キュ?」

「そっか……フリードが俺に懐いてくれない原因は、仮面か……」

 

 完全に敵意が消えたフリードを見て、クラウンはショックを受けた様にがっくりと肩を落とす。

 そんなクラウンの様子を見て、スバルが呟くように言葉を発する。

 

「仮面、付けなきゃいいんじゃないですか?」

「やだ! だってこれ付けてないと、俺って感じがしないもん」

「あはは……それはまぁ……確かに」

 

 一同既にクラウンの仮面姿は見慣れており、むしろ素顔の今の方が違和感のある状態だった。

 スバルの言葉に頑なに首を振るクラウンを見て、リインが苦笑しながら同意して、周囲も同意見と言いたげに苦笑を浮かべる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――第97管理外世界・地球――

 

 

 はやて、シャマル、シグナム、ヴィータの四名は現地協力者と合流する為に別の転送地点に向かい。隊長二人にリインとクラウン、新人四人は一足先に調査の拠点となる場所へ向かう。

 転送の光りが消え、地球の調査拠点に到着した一行の前には緑豊かな自然と美しい湖が広がる。

 

「ここが……」

「なのはさん達の故郷……」

 

 視界に広がる大自然を見て、ティアナとスバルが物珍しそうに周囲を見渡しながら言葉を発する。

 エリオとキャロは以前地球に住んでいた事があるからか、どこか懐かしむ様な様子で景色を眺めていた。

 

「そうだよ……ミッドと殆ど変らないでしょ?」

「確かに、ミッドの自然公園みたいな雰囲気だね~」

 

 なのはが微笑みながら答え、スターズの二人と同じく地球は初めてのクラウンも興味深そうに視線を動かす。

 そのまま視線を動かしていたクラウンだが、ふと湖の近くにあるコテージを見つけ、軽く首を傾げながら尋ねる。

 

「あれは、コテージかな?」

「そうですよ。現地の方がお持ちの別荘です。捜査員待機所としての使用を快く許可してくれたんですよ」

「へぇ、八神部隊長達が訪ねている人だっけ?」

「え~っとその人じゃなくて……」

 

 クラウンの質問に対し、10歳の子供ぐらいの姿……アウトフレームと呼ばれる形態に変わっているリインが、笑顔で質問に答える。

 その答えを聞いたクラウンは、別の地点に向かったはやて達の事をあげて質問するが、リインはそれに対して答えを探す様に腕を組む。

 そして少し考え込んだ後で説明する為に口を開こうとした時、一行の居る場所に向かって近づいてくる一台の車が見えた。

 

「自動車……こっちの世界にもあるんだ……」

「文明レベルBだからね。航空技術とかもあるんじゃないかな?」

 

 近付いてくる自動車を見てティアナが呟き、それに対してクラウンが考える様な表情で言葉を返す。

 管理局は基本的に次元航行技術を持つ世界を管理世界、持たない世界を管理外世界と呼称しているが、管理外世界は対象の文明レベルによってさらに細かく分けられていた。

 機械技術が殆ど発展していない世界はC以下、ある程度の機械技術が発展しており現在成長段階にある世界はB、近い将来次元航行技術を得るであろう世界はAとされている。

 第97管理外世界地球は文明レベルBであり、車や航空機が存在していても不自然ではない。

 クラウンの言葉を聞いてティアナが納得した様に頷いていると、車が止まり中から金髪セミショートでなのは達と同年代ぐらいに見える女性が降りてくる。

 

「なのは! フェイト!」

「アリサちゃん!」

「アリサ!」

 

 車から降りた女性は明るい笑顔を浮かべてなのは達に手を振り、その姿を見たなのはとフェイトも明るい笑顔を浮かべてアリサと呼ばれた女性に駆け寄る。

 どうやら三人は仲の良い知り合いの様で、久々にあった事を喜び合い嬉しそうに言葉を交わし、そこにリインも加わって更に賑やかに話をしている。

 アリサの事を知らないクラウンと新人四人は、一様に首を傾げてその光景を眺めていた。

 その視線に気付いたフェイトが、五人の方を振り返ってアリサの事を紹介する。

 

「紹介するね。私となのは、はやての友達で幼馴染の……」

「アリサ・バニングスです! よろしく!」

「「「「よろしくお願いします」」」」

「よろしく~」

 

 フェイトの言葉を受けてアリサが自己紹介をし、新人四人はやや緊張した様子で頭を下げ、クラウンは軽い口調で挨拶を返す。

 アリサは五人の挨拶を受けて笑顔で頷いた後、五人を見渡す様に視線を動かした後で呟く。

 

「あなた達が、なのはの生徒ね」

「そうだよ~」

「いや、クラウンは違うでしょ……」

 

 さも当然の様に答えるクラウンを見て、なのはは呆れた様な溜息をついて呟く。

 アリサはクラウンを見て一瞬その腕が入って無い左袖を凝視したが、突っ込んで聞くのも失礼と考え、先程の発言にだけ苦笑する。

 そのまま本当の生徒である四人とアリサが軽く会話をし、それを眺めていたクラウンが思い出したように呟く。

 

「じゃあ、俺はヴィータ副隊長に合流して空中散布だから、先に移動するね」

「うん。よろしくね」

 

 今回のロストロギア調査はセンサーとサーチャーを設置して行われる。

 地上を足で歩きながらサーチャーを設置していく者と、空中からセンサーを散布する者に別れ、クラウンはその目立つ見た目から空中散布担当に割り振られている。

 一足先に合流ポイントに向かうと言うクラウンの言葉を聞き、なのはは微笑みながら了承した様に頷く。

 

「それじゃ、行ってくるね~」

≪インビシブル≫

「!?」

 

 軽く手を振って歩きだしたクラウンの姿が即座に見えなくなり、それを見たティアナは驚愕の表情を浮かべる。

 ティアナもオプティックハイドと言う姿を消す幻術魔法は使えるが、クラウンの発動させた魔法は彼女の知るものではなく、発動も格段に早かった。

 まだクラウンの戦闘等を見た事がないティアナだが、足音も無く文字通りその場から消えた幻術魔法の技術は己との力量差を感じるものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――上空――

 

 

 空に上がったクラウンは、ヴィータと合流してセンサーの空中散布を行っていく。

 バリアジャケット姿になると共に仮面の姿に戻ったクラウンを見て、ヴィータは作業を進めながら尋ねる。

 

「なんでまた仮面付けてるんだ?」

『何でって言うか、これバリアジャケットの一部だからね』

「……普段のとどう違うんだ?」

『全然違うよ。強度も違うし、見やすい様に目の穴も十字になってるでしょ?』

「あたしの方から聞いておいてなんだが、心底どうでもいい……」

 

 自分の付けている仮面について熱く語り始めるクラウンを見て、ヴィータは興味無さそうに呟く。

 そのまま少し間を空け、ヴィータは少々不満げな様子で言葉を発する。

 

「……というか、なんであたしはお前とセットで行動なんだ?」

『う~ん。スバルとティアナ、なのは隊長とリイン、エリオとキャロ、シグナム副隊長がフェイト隊長と合流で八神部隊長とシャマルが管制……余ったんじゃない?』

「……」

 

 地上でのサーチャーとセンサー設置を行っている前線メンバーと、管制指揮を担当している二人をあげて余りもので組まされたと話すクラウンの言葉を聞き、ヴィータは釈然としない表情を浮かべる。

 そんなヴィータの様子をみて仮面の下で苦笑しながら、クラウンは穏やかな声で呟く。

 

『それにしても……のどかで良い街だね。任務じゃなければ、のんびり観光でもしたいとこだよ』

「……そうだな」

 

 クラウンの呟きを聞いたヴィータは、懐かしむ様な目で眼下の街並みを見ながら言葉を返す。

 それを聞いたクラウンは、ふと思い出したように尋ねる。

 

『そういえば、ヴィータ副隊長は地球出身だっけ? やっぱ懐かしかったりするのかな?』

「……実際数年前までは住んでたから、やっぱり戻ってくりゃ懐かしさはあるな……お前だってそういうのはあるだろ?」

 

 ある意味故郷と言っても良い地球に帰ってきて、任務とは言え懐かしさを感じながら話すヴィータの言葉を聞き、クラウンはしばし考える様に沈黙してから言葉を返す。

 

『う~ん。どうだろ……あんまよく分からないや』

「うん? お前の出身はどこなんだ?」

 

 クラウンの妙な言い回しが気にかかり、ヴィータが首を傾げてクラウンの出身地を尋ねると……クラウンはしばし考える様に沈黙した後で言葉を返す。

 

『俺は孤児だからね~どこ出身とかは分からないや。ミッド育ちではあるけどね』

「そ、そうなのか……」

『引き取り手が見つからなくて、魔法の才能があったから自動的に局に入れられてね……部隊もあちこち転々としてたから、いまいちその辺の感覚は分からないかも』

「そ、そうか……悪りぃ……」

 

 基本的に管理世界で保護された孤児で、魔法の才能……リンカーコアを持つ者は管理局の施設に引き取られる。

 引き取られた施設である程度の年齢まで育てられ、引き取り手が見つからなかった者は、ミッド自体が低年齢での就職・自立が一般的な事もあり、若くして魔導師となる事が多い。

 クラウンもその例にもれず、10歳になったばかりの頃に短期予科訓練校を出て武装局員となり、その後も辺境部隊を転々としていた為、故郷と呼べるほど思い入れのある土地は無かった。

 さらっとクラウンが語った境遇を聞き、ヴィータは聞いてはいけない事を聞いてしまったと思って謝罪の言葉を口にする。

 するとクラウンは驚いた様に沈黙し、少し間を空けてから明るい口調で言葉を返す。

 

『……どうしたの? なんか悪い物でも食べた?』

「……お前は……」

『あはは、うそうそ、ありがとうね。ヴィータ副隊長は優しいね~』

「なっ!?」

 

 おどけた様子で話すクラウンの言葉を聞き、ヴィータは照れたように顔を赤く染める。

 そんなヴィータの反応を見たクラウンは、楽しげにからかう様な言葉を続ける。

 

『おぉ、真っ赤になっちゃって……可愛いね~』

「て、てめぇ……」

 

 楽しげなクラウンの言葉を聞き、ヴィータはワナワナと肩を震わせながら呟き、それを見たクラウンはセンサーの散布は続けながらヴィータから軽く距離を取って言葉を続ける。

 

『うんうん。ヴィータ副隊長は、優しくて可愛いね~』

「……言わせておけば……コノヤロウ……一発殴らせろっ!」

『や~だよ♪』

「待ちやがれ、クラウン!」

 

 空中で追いかけっこを始める二人だが、それはあくまで冗談の範囲の様で……その証拠に二人共、ちゃんと指示された地点へセンサー散布は完璧にこなしていた。

 なんだかんだで仲良く会話を行いながら、作業を正確に進めていく二人は良いコンビの様で、それをモニターで眺めていたはやてとシャマルは苦笑しながら通信で呟く。

 

『二人共、仲えぇな~』

『ホントね~』

「どこがだっ!?」

 

 通信から聞こえてきた声を聞き、ヴィータは顔を赤くしたままで怒鳴る様に答える。

 怒った様な言葉ではあったが、ヴィータの様子はどこか楽しそうにも見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二人が指定されたポイント全てにセンサーを散布し終えた頃には、景色は茜色に染まっていた。

 

『これで、一先ずは終わりかな?』

「だな……後は待機所に戻って反応待ちだな。後、いい加減一発殴らせろ」

『嫌!』

 

 起動した端末のモニターで散布状況を確認して呟くクラウンの言葉を聞き、ヴィータはクラウンにジト目を向けながら答える。

 地上でサーチャー設置を行っていた面々の作業もほぼ完了しているらしく、二人は待機所となっているコテージに向かい緩やかに飛びながら会話を続ける。

 しばし二人が雑談をしながら飛行していると、管制のはやてとシャマルから通信が届く。

 

『教会本部から新情報が来ました。問題のロストロギアの所有者が判明……運搬中に紛失したとのことで、事件性はないそうです』

『本体の性質も逃走のみで、攻撃性は無し。ただし、大変に高価な物なので、出来れば無傷で捕らえてほしいとの事……まぁ、気ぃ抜かずにしっかりやろ』

 

 シャマルの報告の言葉に続き、はやてが少し安心した様子で言葉を続ける。

 攻撃性が無いロストロギアと言う事で、危険性は低いという説明を聞き、ヴィータも少しホッとした様な表情になる。

 

「まぁ、少しは気が楽になったな」

『だね。危険性A級とかだったらどうしようかと思ったよ……油断は出来ないけど、少しは安心だね』

 

 ヴィータの言葉を聞き、クラウンも穏やかな口調で言葉を返す。

 ロストロギア捜索の為の下準備は終わり、二人ははやて達の待つ待機所に向かって日の暮れる空を並んで飛行していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




と言う訳で地球編の始まりです……次回で片を付ける予定ですが;;

そして今回はヴィータとの絡みが多かったですね。

クラウンはヴィータといる時は、若干からかうような……どこか楽しそうに話をする事が多く、この辺はシグナム等との会話では見られない変化ですね。

やはりそれはヴィータとなのはの事は、特別に思っているという表れなのかもしれません。

そしてクラウンは、又何かを企んでいるようですが……はやてに頼んだ事は、一体何なのか……

後なんだか、ティアナに劣等感フラグがちょっとずつ立ってますね;;

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