魔法少女リリカルなのはStrikerS~道化の嘘~   作:燐禰

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第六話『二人の暗躍者』

 ――新暦74年・ミッドチルダ・アジト――

 

 

 アジトの一室……仮面を外したクラウンが、いつも通りオーリスに任務の報告を行っていると、ふとオーリスが思い出したように言葉を発する。

 

「そういえば、貴方のお友達……中々凄い事やろうとしているみたいだけど、知ってる?」

「あー確か、はやてさんが新部隊の設立案を提出したんでしたっけ?」

 

 オーリスの言葉を聞いて、クラウンは思い出す様に額に指を当てながら呟く。

 クラウンもあちこちを飛び回っている影響もあり、オーリス程ではないが情報は色々と知っていた。

 今回話題に上がっているのはその内の一つ、つい先日管理局上層部に八神はやてが提出した新部隊設立の提案書。

 

「そうそう。興味ある?」

「そりゃ、まぁ……」

「じゃあこれ、昨日の会議に提出されたデータよ」

 

 やはり気にはなるのか、悩む様な表情を浮かべるクラウンに、オーリスは苦笑しながらデータを送る。

 それを受け取ったクラウンは、しばらく自分の端末で内容を眺めた後で呟くように言葉を発する。

 

「……ロストロギア対策を中心とした少数精鋭の多目的部隊……これって」

「ええ、恐らく『例の予言』に関係していると思うわ」

預言者の著書(プロフェーティン・シュリフテン)ですか……」

 

 オーリスの言葉を聞き、クラウンはベルカ自治区にある聖王教に籍をおき、管理局でも少将という地位についている一人の女性……カリム・グラシアが持つレアスキルの名前を口にする。

 カリムの持つレアスキルは半年から数年先の出来事を、詩文形式で書きだした予言書を制作できる。未来を見通す希少技能。

 預言書は失われた古代ベルカの言語で書かれるので解読自体が難しい事や、二つの月の魔力が揃わなければ発動できないという欠点はあるが、他に類を見ない希少な力である事は間違いなかった。

 解釈ミスなどもある為に確実に当るという訳ではないが、その予言には管理局上層部も必ず目を通す。

 オーリスが口にした『例の予言』とは、近年予言書に記され始めた一つの大きな事件についての予言。

 

「上層部でもその予言については半信半疑と言った感じだけど、過去の実績を考えれば……実現してしまいそうなものね」

「未来予知ですか……レアスキルってものは、色々と凄いですね」

「……貴方の『道化の嘘(ハンブルスト・リューゲ)』も大概よ……」

 

 カリムのレアスキルについて感想を漏らすクラウンに、オーリスもクラウンの持つ常識では考えられない能力。嘘を現実に変えるレアスキルを指して苦笑する。

 

「まぁ、ともあれ……はやてさんが動いてるって事は、あの予言とレリックが関係してるって事ですかね?」

「その可能性は高いわね。何せ彼女は、レリックと未確認機……今はガジェットって呼ばれてるんだったわね。その両者の関係性に、私達よりも早く気付いてたみたいだしね」

 

 かつてクラウンが遭遇した未確認機……現在はガジェットと呼称されているそれは、同制作者のものと思われる機体が、近年になり各地で確認されていた。

 そのガジェットが、危険指定ロストロギア……レリックを狙って出現する事や、ガジェットが裏で最高評議会に関連している可能性が高いという事もあって、クラウンもレリックとガジェットについては調査を行っていた。

 しかしガジェットとレリックの関連性に一番初めに気が付いたのは、クラウンでもオーリスでも無くはやてだった。

 実際クラウン達がその関連性を知ったのも、はやて達が報告した資料を見てからだった。

 尤もはやてが、ガジェットの裏に居る存在にまで気がついているかは、今の段階では分からなかったが……

 

「最高評議会の存在は?」

「流石にそこまではたどり着いていないんじゃないかしら? 局上層部にそれらに関わる存在が居る位は、気付いているかもしれないけどね」

「予言、レリック、ガジェット、ロストロギア対策用の新部隊……ここまでの材料が揃ってると、結び付けて考えない方がおかしいですね」

 

 真剣な表情で考えるクラウンを見て、オーリスは静かに頷いた後で尋ねる。

 

「それで、貴方はどうするの?」

「どうする……とは?」

 

 オーリスの質問の意図が分からず、クラウンは首を傾げて聞き返す。

 

「彼女がレリックを追う為の部隊を作れば、貴方としては行動し辛くなるんじゃない?」

「まぁ、確かに……現場で鉢合わせする危険性も出てきますね。というか、そもそもこの部隊案……通るんですか? この部隊規模だと、なのはさん、フェイトさん、はやてさんの三人だけで魔力制限に引っ掛かる気がするんですが……」

 

 管理局に存在する部隊には、その部隊規模に応じて保有魔力の上限が定められている。多数の魔導師を有する大規模な部隊ならともかく、はやてが作ろうとしているのは少数精鋭部隊。規模に応じて決められる保有魔力の上限は当然ながらあまり多くは無い。

 そもそもなのは、フェイト、はやての様なオーバーSランクと呼ばれる魔導師ランクS越えの魔導師は、通常ならそれこそ数部隊に一人いるか居ないかと言う程度。

 それが三人も集まれば、並の部隊の保有魔力上限にはすぐに引っ掛かる筈だった。

 

「ああ、それに関しては……当人では解除不可のリミッターを付けて、実質の魔力ランクをダウンさせるみたい。まぁ、反則ギリギリの手って感じね」

「そんな抜け道が……じゃあ、設立する可能性は十分にあるって事ですか?」

 

 オーリスが告げたはやての裏技的な手法を聞き、クラウンは感心したような表情で頷く。

 

「うーん。五分五分って所かしらね。本局の方は結構乗り気みたいなんだけど……拠点を地上に置く以上、地上本部での承認も必要になるでしょ? ほら、陸には海嫌いが多いから」

「海と陸との確執は、今も変わらずですか……」

 

 次元航行部隊を主とする通称『海』と、地上部隊を主とする通称『陸』……それぞれの本部である本局と地上本部の間には、昔から確執が存在した。

 その原因の一つに、両者のパワーバランスがあった。

 海の部隊は様々な別世界での任務があり、昇進の機会も多い。その為若く優秀な魔導師は海に流れがちで、陸には魔導師が不足していた。

 様々な事態に対応するための強力な戦艦の存在もあり、海は陸に比べて非常に大きな武力を有していた。

 その為地上部隊……特にその武力差や魔導師流出による弊害を受ける地上本部の上層部には、海を毛嫌いしている者が多く存在していた。

 

「レジアス中将は?」

「父さん個人としては賛成みたいなんだけど……前とは違って、今は部下が多いからね。そういう立場的な問題もあって、表だって賛成する訳にはいかないみたい」

 

 以前は少将だったレジアスも現在では中将となり、かつてと比べて部下も桁違いに増えていた。

 現在では地上本部の実質的なトップとまで評される様になっていたが、そのせいで個人の意見を強行できない場面も多くなっていた。

 

「アインヘリアル建造の時も、そんな感じでしたっけ……あんな馬鹿でかい大砲作って、陸は戦争でもする気なんですかね?」

「自分達はこんな大きな力を持っている。これさえあれば大丈夫……とまぁ、お偉方は安心が欲しいんでしょうね。それにしても過ぎた力だとは、私も思うけどね」

 

 二人の会話に出たアインヘリアルとは、現在地上本部が現像を進めている巨大魔力攻撃兵器の事。戦艦の主砲に匹敵するその兵器を、ミッドの各地に製造して防衛を強化する計画だった。

 あまりにも巨大なその力に対し、本局は慎重に検討するべきという意見を強め、現在運用の可否を巡って本局と地上本部で幾度も議論が行われていた。

 レジアスもどちらかと言えばそんな危険な兵器には反対なのだが、地上本部の実質的トップと言って良い立場。海と陸との確執の問題もあって、あまり表立って否定はできない様だった。

 

「まぁともあれ、はやてさんの部隊が設立する可能性は十分にあるって事ですね」

「ええ、それで貴方はどうするの? 応援する? それとも反対する?」

 

 話を戻す様に語るクラウンの言葉を聞き、オーリスは少し意地の悪い笑みを浮かべながら尋ねる。

 

「仕事のやり辛さは置いといて、そりゃ応援したいですが……俺に手伝える事は何も無いでしょ? まさか、反対派に脅しかけて回る訳にも行きませんし」

「あら、残念……折角反対派の名簿を用意したのに……」

「オーリスさん!?」

「ふふふ、冗談よ」

「……オーリスさんが言うと、冗談に聞こえな――っと」

 

 からかう様なオーリスの言葉にクラウンが反論しようとすると、部屋にあったオーブンから音が聞こえてくる。

 

「何か作ってたの?」

「ええ、ちょっとクッキーを……最近の趣味ですよ」

 

 オーリスの言葉に微笑んで答えながら、クラウンはミトンを手に付けてオーブンの中を確認しながら答える。

 

「へぇー良い趣味ね。まぁ、貴方が一人でそんな趣味を思いつくとも思えないから……大方クイントさんに勧められたんだろうけど」

「うぐっ!?」

 

 冷静なオーリスの言葉を聞き、完全に図星だったクラウンは困った様な表情を浮かべる。

 オーリスの指摘した通り、お菓子作りはクラウンがクイントから勧められたもので……レシピ等も、完全にクイントのものを真似ているだけだった。

 

「じ、時間潰しには丁度いいんですよ……あ、お一つどうですか?」

「ありがと……流石ね。クイントさんから貰ったレシピを、分量1gも変えずに作ったんでしょうね。美味しいわ」

「……」

 

 全てお見通しと言う感じのオーリスの言葉を聞き、クラウンは冷や汗を流しながら苦笑するしかなかった。

 そのまま話題を続けるのは不利と思ったのか、クラウンは焼き立てのクッキーを小さなケースに詰め始める。

 

「あら? 詰めるの?」

「ええ、自分用じゃ無くて……これから人と会う約束があるので、お土産にと思いまして」

「人と会う約束?」

 

 クラウンの告げた言葉を聞き、オーリスは少々驚いた様な表情を浮かべる。

 それもその筈、基本的にクラウンの交友関係は狭い。普段でも会話をするのはオーリスとクイント、時折レジアス位のものだった。

 態々人と会う約束と語る所から、クイントやレジアスの事ではないだろう……となると、思い浮かぶ人物はいなかった。

 そんなオーリスの質問を受け、クラウンは詰め終えた小さな箱を仕舞い。懐から仮面を取り出し、自分の顔に被せてから言葉を返す。

 

「以前任務で知り合った子と、デートの約束がね♪」

「……局員が駆け付けない程度にしておいてよ?」

 

 オーリスはクラウンが仮面を取り出した時点で、興味深々と言う顔は引っ込めていた。

 何故ならクラウンが仮面を被るという事は、任務に関係している事……つまりはターゲットないし、その関係者と接触してくるという事だった。

 

「了解。それじゃ、いってきまーす」

「ええ、行ってらっしゃい」

 

 大げさに手を振りながら、部屋を出ていく。ある程度改善されてきたとはいえ、やはり仕事人間のクラウンを見て、オーリスはやれやれと言いたげな溜息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――ミッドチルダ中央区画・首都クラナガン――

 

 

 首都クラナガンにあるオープンカフェの一席に、一人の女性が小説らしき本を読みながら座っていた。

 やや深い茶色のストレートヘアに、潤いを帯びた深緑色の瞳。大人と少女の間の様な、可愛らしさと美しさが共に感じられる顔立ち。

 美女と呼ぶにふさわしいその女性は、ただ静かに本のページを捲っていた。

 少しすると女性の座るテーブルに影が映り、女性は本から視線をあげてそちらを向く。

 

「……待たせたかな?」

「気にしないで、貴方が遅れるのはいつもの事でしょ?」

 

 女性の前に立った赤く短い髪の男性……姿を変えているクラウンは、軽く微笑んで言葉を発した後で向い合う様に席につく。

 注文を取りに来た店員にコーヒーを頼み、クラウンは懐から小さな箱を取り出して女性に差し出す。

 

「まぁ、お詫びって事で……クッキーでも」

「あら? 気が効くわね。一体何を企んでいるのかしら?」

「あはは、企んでるのは一体どっちなのやら……」

 

 クッキーの入った箱を受け取り、まるで挑発する様に言葉を発する女性に対し、クラウンも不気味に笑いながら言葉を返す。

 二人の間に流れる空気は友人と言うにはあまりにも鋭く、敵と言うには驚くほど穏やかで……何とも奇妙な空気だった。

 

「遅れる事より、毎度毎度顔を変える事を謝って欲しいわね。私を信用してないって事でいいのかしら……クラウン?」

「うーん。君が素顔を見せてくれたら、俺も見せても良いよ……ドゥーエ?」

「そう言いつつ、貴方は私が何者か……ある程度想像がついてるんじゃないの?」

「それはお互い様じゃないかな? それとも、俺が話す事をそのまま信用してくれるのかな?」

 

 お互い笑みを浮かべたまま、探る様な会話を交わすクラウンとドゥーエ。

 二人は以前クラウンが潜入した先で知り合い。その後もある協定を結んで何度かこうして会っていた。

 しばらくそのまま無言で視線を合わせる二人だったが、クラウンが注文したコーヒーが運ばれてきたのを見てドゥーエは軽くため息をついて言葉を発する。

 

「……探り合いは、この辺にしときましょうか?」

「だね。お互い相手の事は深く詮索し無いって協定だしね」

「ええ、私も貴方も狙っている相手は一緒。衝突するよりも共闘した方が得策……今は、ね」

 

 クラウンとドゥーエ。両者に共通しているのは、標的を最高評議会と定めている事だった。

 両者共に戦闘よりも潜入に向くタイプであり、両者共に騒ぎを起こしてバレるとまずい正体がある……遭遇した二人が共闘と言う形を取るのは、ある種当然の流れだったかもしれない。

 ドゥーエの言葉を聞いて軽く微笑み、クラウンはコーヒーを一口飲んでから尋ねる。

 

「じゃ、いつも通りの形で……どうだった?」

「あまり良い収穫は無いわね。三人とも表立って動く事は殆ど無く、それらしい動きを見せる時も配下を使っている……配下と思える人物は、こんな感じよ」

 

 クラウンの質問を聞き、ドゥーエは軽くため息をつきながら説明した後、データでは無く紙に記されたリストを手渡す。

 差し出された紙を受け取り、クラウンはゆっくりとそれを眺める。

 

「……そっちは?」

「こっちも同じかな……かなり慎重に動いてるね。密談は基本的に通信、二人以上が一ヶ所に固まる事はまず無い。迂闊に手を出せば、残った奴等は雲隠れしちゃうだろうね」

 

 ドゥーエの質問に答えながら、クラウンも懐から紙を取り出して手渡す。

 二人は互いに互いを信用していない為、情報交換はデータでは無く紙で行われる。

 受け取った紙自体も記憶した後に処分するという徹底ぶりは、両者が潜入や暗躍に長けている事を物語っていた。

 

「まぁ、何か大きな事件でも起こって、それが連中に関わってる事なら……三人雁首を揃えてくれるかもしれないね」

「大きな事件……ね。何か心当たりでもありそうな顔をしてるけど?」

「それはこっちの台詞。一体何をするつもりなのかな? 君の後ろにいる連中は……」

 

 一瞬両者とも鋭い目で視線を合わせ、少しして水掛け論になると判断して表情を戻す。

 

「まぁ、今後も少しずつお互いに情報交換しながら探っていこうか」

「そうね……ところで、一つ聞きたいんだけど」

「うん?」

 

 クラウンの言葉に頷いた後、ドゥーエは試す様な笑いを浮かべて言葉を発する。

 

「貴方との協定。貴方が私の事を局に報告しない代わりに、私はターゲットと関係ない局員には手を出さない……だったわよね?」

「……それが?」

「もし、破ったら?」

 

 ドゥーエにしてみれば、クラウンは非常に謎の多い人物。当然の事ながら信用していないし、その存在を危険視していた。

 現在は共闘関係にあるが、何れターゲットを始末し協定が終わった時に備え……出来れば今の内に、クラウンの弱みの一つでも握っておきたかった。

 そんな思惑と共に放たれた言葉を聞き、クラウンは深く微笑みながら静かに告げる。

 

「その質問の答えは……俺が君の仲間を殺した場合に、君が取る対応と一緒かな」

「……」

 

 瞬間、周囲の気温が下がった様な感覚が両者を包み……クラウンとドゥーエ、互いに向けて凄まじい殺気が放たれる。

 殺気と視線が数度ぶつかり合った後、クラウンは軽くため息をついて表情を戻す。

 

「怖いね~俺が本気だったら、躊躇い無く殺す気だったよね?」

「それも、お互い様でしょ? あ~あ、結局最終的には戦う事になりそうね」

 

 からかう様に笑いながら話すクラウンの言葉を聞き、ドゥーエも挑発的な笑みを浮かべて言葉を返す。

 クラウンはドゥーエの事はよく知らない。精々最高評議会を狙って管理局に潜入している程度。

 そしてそれはドゥーエも同様で、クラウンの正体も最高評議会を狙う理由も知らない。

 

「あはは、そうみたいだ」

「ふふふ、ホント面白いわね」

 

 しかし互いに一つだけ確信しているのは、目的は同じでも互いに相容れない立場に存在している事。

 先程交わした言葉と殺気……互いに相手を敵と見据えながら、それでも今は共闘関係にある。

 ターゲットである最高評議会の件が片付けば、その瞬間から戦いが始まる。そんな奇妙な関係ながら、そこに身を置く二人はどこかその状況を楽しんでいる様に見えた。

 

「まぁ、精々連中に見つからない様に気をつけなさい。そうすれば貴方のにやけた顔は、いずれ私が冷たくて綺麗なものに仕立ててあげるわよ」

「君の方こそ、俺がちゃんと拘留所のスイートルームを用意してあげるから、他の人に捕まっちゃ駄目だよ」

 

 挑発する様に微笑みながら話すドゥーエに、クラウンは手元のコーヒーを飲みほして立ち上がり、不気味な笑みを浮かべて言葉を返す。

 

「……腹の立つ道化師ね」

「……おっかない女狐だね」

 

 殆ど同時に言葉を告げ、クラウンが背を向けて立ち去っていくのを見送ってから、ドゥーエは再び持っていた本に視線を落そうとする。

 そこでふとクラウンから貰ったクッキーを思い出し、小さな箱を開けて一口サイズのクッキーを口に運ぶ。

 

「……悪くは、無いわね。こういうのも……」

 

 一時的な味方でもあるが、同時に後の敵でもある。そんな奇妙な関係にある道化師の姿を思い浮かべ、ドゥーエは微笑みと共に独り言を呟く。

 互いにナイフを突きつけ合った状態で握手する様な、そんなクラウンとの共闘を楽しむ様に……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――ミッドチルダ・アジト――

 

 

 アジトの一室では、クラウンの焼いたクッキーを茶請けに、クラウンとクイントが雑談をしていた。

 クイントは綺麗に焼かれたクッキーを一つ手に取り、それを考える様な表情で食べて言葉を発する。

 

「う~ん……65点」

「き、厳しい……」

 

 微笑みながら告げられたクイントの言葉を聞き、クラウンは苦笑いを浮かべて頬をかく。

 

「作りは丁寧だけど、面白みが無いって言うか……少し冒険してみるのもいいかもね」

「まだまだクイントさんには敵わないって事ですね」

「まぁ、私も経験豊富な主婦だからね!」

「え? 主婦? 誰が?」

 

 クラウンは目の前にいる……どちらかといえば殴り合いが本業の様な人物を見て、呆れた様な表情で言葉を発する。

 その言葉を聞いたクイントは素早く反応し、拳を握りしめて満面の笑みを浮かべる。

 

「なにか、不満があるのかしら?」

「め、滅相もありません!」

 

 逆らってはいけないその笑顔を見て、クラウンは冷や汗を流しながら勢い良く首を振る。

 そんな雑談を続けていると、ふとクイントが思い出したように言葉を発する。

 

「そういえば、あの人達の様子はどうだった?」

「相変わらずですかね……スバルさんは、災害救助の現場で活躍中。特に最近は上司達からもかなり評価されてるみたいですよ」

 

 クイントの言葉を聞いたクラウンは、手元にモニターを表示しながらクイントの家族の様子を伝えていく。

 

「ギンガさんの方も順調に活躍してるみたいで、陸曹に昇進しましたよ。ゲンヤさんは……最近やたら警戒してて、情報が探りにくいんですよね」

 

 話の途中でクラウンは、困った様な表情に変わり頭をかきながら続ける。

 

「見つかっちゃったの?」

「いえ、流石にそんなヘマはしませんし、痕跡も残してないです。ただどうも最近行動が慎重と言うか、周囲を警戒してるような節が見えるんですよ。もしかしたら、何者かが自分を探ってる位の事には気付いてるかもしれません」

 

 クラウンはクイントの為に定期的に家族の様子を探っており、それは娘二人が局入りした後も変わらなかった。

 ただ場所が実家から局の寮などに移った事もあり、以前と比べると少々苦戦していた。

 特にゲンヤは秘密裏にゼスト隊壊滅の事件を追っていて、そのせいか周囲を非常に警戒している様だった。

 

「正直大したもんですよ……仮にも俺はこれが専門ですからね。多少とはいえ気取られたのには、驚きましたよ」

「ふふふ、流石私の旦那だね」

「……まったくです。おかげで調べ方を変えたりと、色々面倒ですよ」

 

 ゲンヤに苦戦しているクラウンの言葉を聞き、クイントはどこか嬉しそうな表情で微笑む。

 そんなクイントを見て苦笑した後、クラウンは立ち上りながら言葉を発する。

 

「じゃあ俺は、幾つか調べる事があるので……ちょっと出かけてきますね」

「ええ、気を付けてね」

 

 そう告げて出口の方に向かって歩くクラウンの姿は、何処か堂々としたもので……以前の様な精神的疲れは見えない。

 そんなクラウンを微笑んで見送りながら、クイントは65点と告げたクッキーを美味しそうに口に運ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――ミッドチルダ中央区画・地上本部――

 

 

 地上本部の内部にあるオフィス。夜勤の人間がぽつぽつと居るだけのその室内で、局員に姿を変えたクラウンはデスクのパネルを片手で器用に操作していた。

 

(うーん。やっぱり本局が主体だし……地上本部のデータベースには、あまり詳しい情報は無いみたいだな)

(例の新部隊設立についてですか?)

 

 呟くように念話を飛ばすクラウンに、ロキが現在調べているデータについて尋ねる。

 

(まぁ、ね……多少は手助けも出来るかなって)

(何をする気なんですか?)

 

 クラウンはオーリスやレジアスという後ろ盾があるからこそ、こうして局員になり済まして潜入する事が出来るが、厳密には局員では無い。

 その上、彼の交流関係……オーリスもレジアスも、元々新部隊設立には好意的。ならばどういう形で手助けをしようとしているのかと、ロキは自身の主に疑問を投げかける。

 

(大した事じゃないよ。予定をちょっと変えて……反対派の何人かに失脚してもらおうかと思ってね)

(……ああ、なるほど)

(いずれは潜入するつもりだったんだけど、レリック追ったりで後回しになってたからね)

 

 クラウンは念話でロキに説明しながら、目星を付けていた何人かの情報をデータベースから抜き出していく。

 しばらくしてお目当ての情報を確認し終え、クラウンは何事も無かったかのようにオフィスから外へ出ていく。

 

(これで大局が変わるわけでもないけど、1%位は設立の可能性をあげられるでしょ……)

(設立すると、マスターの仕事はやり辛くなりますがね)

(あっちを立てればこっちが立たない……世の中上手くいかないもんだよな)

(ホントですね)

 

 楽しげな様子でロキと念話をしながら、クラウンは人の殆ど居ない廊下を進んでいった。

 

 

 それから数ヶ月後、八神はやての提出した新部隊案が受理され、新部隊の設立が決定した。

 

 

 当初は五分五分と見られていたその新部隊案も、強硬に反対していた数名の権力者が悪事の露見により失脚する事になり、それが強い追い風となった。

 

 

 そしてこの新部隊設立により……謀らずもクラウンに、大きな転機が訪れようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




前話から3年の月日が流れ、クラウンもある程度行動に余裕が出てきた感じです。
主人公なりに考える、クラウンという道化の姿が明確になってきた感じですね。

クラウンのレアスキルにも名前が付きました……『道化の嘘(ハンブルスト・リューゲ)』……嘘の嘘といった感じの名前です。

今回さらりと現在のクラウンを取り巻く環境を書いた所で、いよいよ次回からアニメ原作の時間軸、機動六課稼働に関わっていきます。

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