悪堕ち王子の快楽ダンジョン、女冒険者を帰さない ~エロゲの悪役に転生した俺、ひっそりスローライフを送りたいだけなのに美少女たちが集まってくるんですけど!?~   作:タイフーンの目

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第38話 もういい僕が先に行く!

 ■ ■ ■

 

 

「参りますぞ王子」

 

 エグモントの指示で、松明を持った騎士が先頭を切った。

 入口からして仕掛けが施されてあっただけに自然のものではないと確信はしていたが――内部は明らかに何者かの手による造作が見られた。

 

 レンガ造りの床や壁。一本道の通路。

 トラップの有無を確認しながらエグモントや他の騎士たちが進み、ユーバーは集団の中ほどを歩く。

 

 するとすぐに、

 

「階段か――」

 

 上り階段が伸びていた。横幅はせまく、急な勾配(こうばい)だ。

 いっそう警戒しながら登っていくが、特に異変は起こらない。

 

「フン、拍子抜けだね。もっとも、どんなトラップやモンスターだって僕の前では――」

「お、王子っっ――!」

 

 半分まで登ったところで先頭の騎士が悲鳴をあげる。足下に振動。

 

「なっ、なんだ!?」

 

 ガコン、ガコンとリズミカルな音とともに踏面が折りたたまれていき、階段が坂道に変わる。

 

「うわぁああっ……!」

 

 先頭の騎士がバランスを崩して倒れたのがきっかけになった。鎧を着込んだ騎士が3人。そこにエグモントも加わった人の塊が、

 

「「「ぬぉおおおおおっっ!?」」」

「ま、待てっ――」

 

 グシャッ、とユーバーを押し潰した。さらに後続の騎士たちを巻き込んで転がり落ちる。鎧同士がぶつかる音。大の大人たちの悲鳴がダンジョンに響き渡る。

 

「どけっ! 早くどかないかっ……!」

 

 うめいているだけののろまな部下たちに叫ぶ。

 ようやく身を起こすと鉄の味――鼻血が垂れていた。

 

「ぼ、僕のこの美しい顔がっ!」

 

 恨みを持って坂道を見上げると、

 

 ――がっこん、がっこん、がっこん

 

 まるでユーバーを馬鹿にするかのようにゆっくりと元の階段に戻っていく。

 

「~~~~っ!? ふざけるなよッ、もういい僕が先に行く!」

 

 制止しようとするエグモントを振り切ってユーバーは階段に足をかける。今度はさらに慎重に登っていき、先ほどの地点まで到達する。

 

「変化ありませんね……」

「そうやって油断するからおまえたちはグズなんだ!」

 

 後進の部下を怒鳴り散らして進むと、

 

 ――ガコン、ガコン

 

「ほら来た!」

 

 両腕を左右の壁につっかえ、落下を免れる。

 

「こんなくだらないトラップ、何度もかかってたまるか。行くぞ!」

 

 いくら勾配が急であるとはいえ、両手両足でしっかりと壁と床を捉えて登れば問題はない。問題など――

 

 ――ドポンっ

 

「…………?」

 

 どこかから奇妙な音がした。と思ったら、ユーバーの頭になにかが振ってくる。最初は雨水でも漏れ落ちてきたかと思ったが、

 

 ――どぽどぽどぽんっっ

 

「なっ、今度はなんだっ!?」

「スライム!? いやこれはただの粘液っ――!?」

「す、滑るっっ!?」

 

 天井や壁、床から粘液が溢れ出してくる。まずい。急な坂道にしがみついている状態でこんなものに全身を包まれたら、

 

「「「うわぁああああああっっっ!?」」」

 

 ――ズルンっ! ゴンッ、ゴンッッッ!!

 

 粘液まみれの鎧集団がまっさかさまに落下していく。

 

「おぶッ!?」「ごぁあっ!?」「へぶちっっ!?」

 

 さっきに増して悲痛な悲鳴が響く。

 こんなふざけたトラップなど聞いたことがない。致命傷を狙うようなものではない。侵入者を阻むにしても中途半端。粘液にも害はなさそうだし――まるで人をおちょくっているかのようだ。

 

 だがそれだけにユーバーの執着心に火が付く。あきらめて引き返そうなどという思考は欠片も残っていなかった。

 

「ふざけるなよぉ~~~っっ!」

 

 目を真っ赤にしてユーバーたちは粘液すべり台にリトライした。

 

 

 

「ふぅッ、ふぅッ……!」

 

 剣を坂道に突き立てどうにか登り切ったときにはユーバーたちは相当に消耗していた。

 

 もちろんみな体力は人一倍あるが、鎧のすき間から流れ込んでくる粘液の不快さと、次にどんなトラップが来るのかと警戒して精神力を削られた。

 

 ――もしここにアルトが潜んでいるのなら。

 この鬱憤を剣で晴らさねば気が済まない。

 

 階段をのぼった踊り場で息を整えてから再度進軍。しかしエグモントが松明で灯す床は――

 

「……王子」

「なんだッ! うっ」

 

 また階段だ。

 今度は下り。

 

「「「………………」」」

 

 もしも引き返したとしても下り。進むにも下り。

 

「さ、さっさと行けッ! おまえだ、おまえが先頭だ!」

 

 騎士のひとりを無理やり押し込めて進ませ、仕方なくユーバーも降り始めたところで、

 

 ――ガコン、ガコンっ

 ――どぷんっ

 

「く、くそぉおおおおおおおおおっっ!」

 

 下りの粘液すべり台を転げ落ちていった。

 全身打撲のからだを起こす。

 

 顔をあげると、また登り階段――

 

「う、うぁああああああっっ!!」

 

 

  + + +

 

 

 地獄のようなアップダウンが4度つづいたあと、ようやく平坦な通路に出た。もうこりごりだ。肌に粘りつく液体が気持ち悪く、汗なのか粘液なのかわからなくなってきた。

 

 時間を追うごとに不快指数が増していく。それはユーバーだけでなく他の騎士たちも同様だ。

 

 しかし暑い。異常なほどに。

 

「暑くないか、暑いぞここはッ!」

「……はい。先ほどから気温と湿度が上がっているようです。まるで蒸し風呂――」

「王子、ここに看板が!」

「看板だと?」

 

 ダンジョンに不釣り合いな真新しい木製の看板だ。

 そこには、丸っこい文字でこんなふうに表示されてあった。

 

==============

   ねばねばサウナ

  ゆっくり ととのって

    いってね☆

==============

 

 

「なにが『☆』だッッッッ!」

 

 ユーバーは怒りのままに看板を蹴り飛ばした。

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