悪堕ち王子の快楽ダンジョン、女冒険者を帰さない ~エロゲの悪役に転生した俺、ひっそりスローライフを送りたいだけなのに美少女たちが集まってくるんですけど!?~   作:タイフーンの目

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第40話 ずっとずっとつよい

 

 

~~ 王子ユーバーの場合:悪魔の病 ~~

 

「この僕が落とし穴なんかに……!」

 

 ギリギリと歯ぎしりをしてユーバーは立ち上がる。

 こんな最低な気分は生まれて初めてだ。

 

 妻のエリザがアルトに色目を使ったのを知った時だってここまで酷くはなかったし、マヌケな従者が自慢の金髪を1センチ切り過ぎた時だってその女を奴隷に落とすだけでどうにか怒りは収まった。

 

 なのに今はどこにもぶつける場所がない。

 

「くそっ、くそッ――」

 

 ――シャキン、シャキン……

 

「? なんの音だ」

 

 暗い通路の向こうから接近する音に、ユーバーは反射的に剣を抜いた。果たしてそれはトラップだった。無人の空間から、宙に浮いた大鎌が迫ってくる。

 

「――フン、くだらないっっ!」

 

 魔法剣を発動させ迎撃。放った光の刃は大鎌を消し飛ばした。ユーバーの剣技はエグモント仕込みで、魔法の才能は生まれつきだ。

 

 ――アルトがモンスターたちを前線に立たせなかったのは正解だった。武才に恵まれたユーバーには並大抵のモンスターでは歯が立たず無惨に切り捨てられていたことだろう。

 

「は、はははっ、トラップはこの程度かい!?」

 

 誰もいないダンジョンに向けユーバーは声を張り上げる。

 

「もっと寄越してみろ! 僕の魔法剣に敵うトラップがあるならね!」

 

 応答はない。

 それならそれでいい。何が来ようと実力でねじ伏せればいいのだ――ようやくユーバーは調子を取り戻して通路を進む。

 

 ダンジョンには付きもののダンジョンマスターと出会えるならよし、さっさと出口へ戻れたなら先ほど決めたとおり兵団を編成してここを強襲すればいい。同行した騎士たちの安否はどうでもよかった。代わりはいくらでもいるのだから。

 

 ただエグモントには兵士たちをまとめる役割がある。彼の手腕は利用価値があるし、ユーバーの命令には絶対服従なところも気に入っている。

 

「おいエグモント!」

 

 他の落とし穴まで声が届くかもしれない。ユーバーは呼びかける。

 

「どこだ! さっさと僕を助けろ! ちッ、何してる! 早く……、へくしゅッ!……んん?」

 

 鼻がむず痒い。

 どうしたのだろう。クシャミが止まらない。

 

「へくしゅッ、べくしゅッッ! んズズっ……鼻水が……目も、目も痒いぞッ!?」

 

 涙がだくだくと溢れてくる。拭いたくなるが適当な布もなく、溜まらずユーバーは鎧の籠手(ガントレット)を外して素手で目をゴシゴシとこする。

 

「なんだっていうんだっ……、エグシッっ!! こ、呼吸が、目が痒いし、痛いっ!?」

 

 まさかこれもトラップの仕業なのだろうか?

 タチの悪い病にでもかけられたのか?

 

 ――シャキン、シャキン、シャキン

 

 また例の大鎌が飛来してくる。同じように魔法剣を放とうとするが呼吸が乱れて集中できない。2本目までは破壊に成功したが最後の1本がユーバーの顔面に迫った。

 

「う、うわぁっっ!? ひッッ」

 

 慌ててしゃがみ致命傷は避ける。

 が、

 

「か、髪がっ!? 僕の髪がっっ!」

 

 ほんの数ミリ程度だが(かわ)し損ねた頭髪の一部がハラハラと舞い落ちるのをユーバーは見逃さなかった。

 

「うぅう、くそぉおおおおおっっ!」

 

 その時、すぐ横の岩壁が砕ける音がして、

 

「王子、ご無事ですか……!」

 

 エグモントだ。

 隣の穴に落ちた彼が壁を破壊して合流してきたのだ。

 

「そのお顔は? ん――、これは花粉か? 王子ここを離れましょう。この一帯には花粉が大量に飛散しているようです」

「か、かふん?……ぶえくしょッッ!」

「汚――」

 

 何かを言いかけて、エグモントはせき払いを挟んだ。

 

「花粉です。時にこれに触れすぎると王子のような症状に見舞われると聞いたことがあります。さあ、こちらへ」

「あ、ああ……っ、ぶぇくしょんッッ!」

 

 鼻水とツバをエグモントの鎧にぶちまけながら彼に付いていく。

 すると彼がいた横穴には何かが転がっていた。

 

「ずずず……、うん? エグモント、そいつはなんだ?」

「ええ。モンスター……ノームのようです」

「ノームだと? えぐしッッッ!……【銀級】の、下等モンスターかっ」

 

 エグモントに縛られた小さな二等身のモンスターが、拘束から逃れようと暴れている。鉱山などにも棲み着くノームは、道具を操りさまざまなものを作り出すという。

 

「こんな、こんな下等なモンスターどもが作ったダンジョンだっていうのか……!」

 

 ()()()を前にユーバーの怒りが沸騰する。

 

「いかがなさいますか王子。人語は話せないが理解はできるようです。痛めつけてダンジョンマスターのもとまで案内させましょうか?」

 

 地面に転がったノームは、しかしその言葉を聞くと怯えるどころか反抗的な目でにらみつけてきた。どうやら、こちらの言うことを簡単に聞き入れる気はなさそうだ。

 

 その態度がまたユーバーの怒りを加速させる。

 

「ふん、そんなまどろっこしいことは必要ない! 僕にこんな屈辱を……ぶえくしょいッッ! 屈辱を味わわせた罪、その体に分からせてやるさ! バラバラに斬り……べくしょんッッ! 斬り刻んでやるッッ!」

 

 

 

 ■ ■ ■

 

 

 ―― その少し前、エグモントがノームを発見した頃 ――

 

 

「あれはノーム?」

 

 ユーバーの部下・騎士団長エグモントを追ったカメラに、1人のノームの姿が映し出された。スコップを手に作業をしていたらしい。

 

「ああっ!? 彼は――」

 

 マインが叫ぶ。

 

「現場に来なかった子です! こちらの作業も並行していたので……トラップを仕上げようとしていたのかも!?」

 

 確かに見覚えのある姿だ。みんな似た背格好をしているが、建設現場で何度か会ううちにぼんやりとだが見分けが付くようになっていた。

 

 ――ノームに戦闘能力はない。

 対するエグモントは王宮でも腕利きの1人だった。敵うわけもなく――やはりあっさりと捕縛されてしまった。その場で殺されなかっただけマシだが、あいつらの手に落ちたら時間の問題だろう。

 

「社長! 申し訳ございません!」

 

 マインが勢いよく頭を下げる。

 

「社長の命令を聞かず仲間が暴走してしまい……ダンジョンを危機に陥れるような行為を!」

「…………。てっきり『助けて欲しい』と頼まれるかと思ったんだが」

「これは彼の、そして私たちの失敗です。助けていただくなんてとても――」

「残念じゃがな」

 

 朧もマインに賛同する。

 

「わらわたちは、とうに覚悟を決めておる。ダンジョンマスターのためならば命など捨てる。それがわらわたちモンスターの役目じゃ。……あるじ殿?」

 

 立ち上がった俺を見て、マインと朧が驚いた顔になる。

 

「あの、社長――」

「助けに行ってくる」

「そ、そんな」

「あるじ殿よ。奴らの前に姿を見せるのはマズかろう……! なるべく全容を知らせぬようにするのがあるじ殿の方針であったのでは? であるのに、ダンジョンマスター自身が出て行くなど」

 

 それはそうだ。

 だが、俺は看過できない。

 

「お、お待ちください社長!」

「『社長』のために命なんてかけなくていいんだ。マインたちは覚悟決めすぎなんだよ」

「そんな……なぜそこまで」

「俺のためだよ。仲間を殺されるのなんて見過ごせない」

「仲間……」

「同じ建築仲間だろ? ユーバーたちにやられるなんて俺が許せないだけだ。社長命令だぞマイン、ここで大人しくしてろ」

「……し、しかし!」

 

 戸惑うマインと朧の前に、メディが立ちはだかる。

 

「アルトさま、行く」

「ありがとうなメディ。留守を頼んだぞ」

「うん!」

 

 メディは【神級】。なにか手違いがあってここに他の騎士が乗り込んできたとしても、誰一人傷つけられることなく守り抜くことができるだろう。

 

「ニューもよろしくな」

「は~い。人間来たら、にゅるにゅるにしとくね~」

 

 そうして俺は1人、ダミーダンジョンへと乗り込んでいった。

 

 

 ■ ■ ■

 

 

「よかったのじゃろうか……」

 

 アルトが去ったあと、朧は誰ともなしにつぶやく。

 

「いや、あるじ殿があのような人間どもに負けるとは思うとらんが。しかし万が一ということも――」

「ない」

 

 メディはきっぱりと言い切る。

 

「アルトさま、つよい」

「それはそうじゃろうが――」

「メディよりつよい。ずっとずっとつよい」

「…………? それほどまでに?」

 

 今まで戦っている姿は見たことがないし、聞く限りそれはメディも同じはず。だが確信めいたものを彼女は持っているようだ。

 

 朧とて【白銀級】。

 あのユーバー王子たちにも負ける気はないが【神級】はさらに別格。朧からすればアルトもメディも雲の上の存在だが……2人を一緒くたに考えてしまうのは、朧の実力が及ばないからだ。

 

(メディ殿の目から見れば、あるじ殿はさらに規格外の強さということか……!?)

 

 朧は、今さらながらあるじたちの言葉を心強く感じ、モニターを見守るのに徹することにした。

 

 

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