あとアヤベ、トプロ推しの方に先に謝っておきます、ごめんなさい。
ーー6月6日、日本ダービー当日。
「トレーナー君っ!ついに誉れ高き祭典の日がやってきたよ!会場は満員御礼、ドトウがいないのが残念だが出演者は今年を代表する新星たちばかり!」
そう謳うテイエムオペラオー。一応世界的な立ち位置ではケンタッキーダービーの方が上、正確には芝ダートを区別せずに考えたとき歴史的に格が高いということだがそれは彼女、そして俺には関係がないことである。
俺たち、いや日本のウマ娘とトレーナーにとっては日本ダービーの方が価値がある。
海外遠征はするべきでは無かったと今さらに思った。自分の独りよがりな栄光にオペラオーを付き合わせてしまった。
「ああ、日本ダービーは日本で最も格の高いレースだ。ケンタッキーダービーもそうだったが会場の、選手の熱気が違う。」
日本ダービー、またの名を東京優駿。日本の競馬はこのレースを中心に発展し、それは今でもなお続いている。
「はっはっは!ボクたちの舞台をこれほどまでに焦がれている者たちがいる、素晴らしいじゃないか!さてボクのプロンプターよ、今回の演目の香盤を示してくれたまえ!」
真っ直ぐな瞳でこちらを見つめるテイエムオペラオー。
「…今回のレースはこれまでと比べてマークがキツくなるだろう。そのため早めに仕掛けてしまうと後ろでより足をためたウマ娘に競り合いで負けてしまうかもしれない。これまでの位置取り的にはナリタトップロードがその作戦を取ってくる可能性がある。もしマークが他のウマ娘なら能力的には早めに仕掛けても問題はないが、基本的に足を最後まで残せるようにギリギリまで耐えてほしい。また、皐月賞では能力を出しきれなかったがアドマイヤベガはホープフルでオペラオーと競り合っていたようにーーー」
「…つまりは?」
おっと、デジたんが感染ってしまっていたかもしれない。
「序盤に出来るだけ前に出てあとはギリギリまで足をためてほしい!…ただどうか、無理だけはしないでくれ。」
…史実ではテイエムオペラオーは負けている、ナリタトップロードにマークされアドマイヤベガに大外から抜かれて3着に終わった。だからその両方を対策するような作戦。
史実を元にした展開予想はある意味“ずる”かもしれないが“テイエムオペラオー”を担当した時点で、彼女が俺を必要としている時点で同じ罪なのだ。
(…もともとはトレーニングだけ見ていれば平等だと甘えていたが、その甘えはケンタッキーダービーで捨てた。ーー俺は彼女を勝たせたい。)
「はーっはっはっは!たとえ星が輝き絶望の中にいようと覇王の輝きが絶えないことを証明しようじゃないか!はっはっは!」
優しい夜明けが来ることを、切に願う。
ーーー
「トレーナーさん!お待ちしておりましたぞーっ!」
遠くから両手で大きく手を振るピンク頭。今日のアグネスデジタルはいつもよりテンションが高いらしい。
「先日のオペラオーさんの宣戦布告、堪能させていただきましたよ!くぅっ、自分を覇王であるとし普段からナルシストみ、いえいえもちろんオペラオーさんが美しく強く覇王であることは天地神明の理なんですがそれでもちゃんと相手を共に競い合うライバルと認め手を差し出す器の広さ!そしてこれまでの戦績から自分では釣り合わないのではないのかという葛藤をすぐさま切り捨ててそれにふさわしい自分になるだけだと覚悟を決めて返したトップロードさん!素直になれずその手を振り払いながらも内心認められていたという事実が嬉しいという気持ちに自分自身で驚いて走り去ったアヤベさん!…アヤベさん、はちょっとなんていうかご自分の在り方に悩んでいるようですが、あなたはそれで良いんだと叫んであげたい、けど見た感じ何も知らないデジたんがしゃしゃりでても逆効果でしょうしもはや三女神様に祈るしかないという事実が悔しい!ウマ娘ちゃんが悩んでいるのにこの手を差し伸べられないなんて自分が情けないっ。トレーナーさん!どうしたらいいんでしょうかっ!?」
「…俺の担当ウマ娘じゃないから干渉はあまりよくない、一応アドマイヤベガのトレーナーに打診してみるつもりだがどうなるかはわからないな。」
「どうか、どうかお願いしますっ!!!」
涙目で懇願するアグネスデジタル、本当にこの子はウマ娘ちゃんを愛しているのだと感じた。
(一応気休め程度にオペラオー経由で布団乾燥機でも渡しておくか。)
「…あ、あのぉ、私もいますぅ〜」
「!?…ドトウか、最近の調子はどうだ?」
デジたんの圧が強すぎて気づかなかったがメイショウドトウもいたようだ。実は彼女とは帰国以来あまり顔を合わせていなかった。
「トレーナーと相談して再来週のop戦にか、勝って、夏明けから重賞に出る予定ですぅ。あ、い、言っちゃったぁ〜っ。」
自らプレッシャーをかけに行くドトウ。能力はあるが今はまだメンタルの強さが微妙なのだそれが仇とならなければ良いが。
「…オペラオーは君を待っているよ。さっきも日本ダービーにドトウがいないのが残念だって言っていたしね。」
「え、あ、えぇ~っ、が、がががんばりますぅ〜〜〜っ!!」
…励ましたつもりが余計なプレッシャーをかけてしまったかもしれない。
《ついにこの日がやって参りました。若きウマ娘たちが世代の頂点を目指して競うクラシック戦線の最高峰、日本ダービー。今年の注目はなんといっても皐月賞、そして日本初のケンタッキーダービーを征した彼女の他にはいないでしょう》
《やはりテイエムオペラオーですね。しかしナリタトップロード、アドマイヤベガも負けず劣らずの仕上がりに見えます。》
《東京レース場芝2400メートル左回り、バ場状態は良。去年の日本ダービーは史上初の同着となりましたが今年はいったいどのウマ娘がダービーの栄冠を手にするのでしょうか。それではパドックの様子を伺っていきましょう。》
《2番アドマイヤベガ、3番人気です。》
《皐月賞では不調だったとのことですが今日の調子は悪くなさそうです。》
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《11番ナリタトップロード、2番人気です》
《やはり大本命への対抗として真っ先に挙がるウマ娘ですね。仕上がりも上々、最初に覇王に土をつけるのこのウマ娘かもしれません》
「いけるぞーっ!トプロぉーーーっ!」「オペラオーがなんぼのもんじゃーいっ!」「「「いいんちょーーーっがんばれーーっ!」」」
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《14番テイエムオペラオー、堂々の1番人気です》
《海外遠征直後といった過酷なローテーションですが彼女ならやってしまうのではないかという期待があります。仕上がりはいうまでもないですが疲労が不安ではありますね》
「はーっはっはっは!この場に集まりしファンたちよ!これより『世紀末覇王伝説 第3の章』が幕を開けるっ!いつもどおり主演はボク!脚本はボクとトレーナー!そして共演者はこちらのトップロードさんとアヤベさんだっ!さぁボクの輝きを全力で目に焼きつけたまえ!はっはっは!」
ワアアアアアアアアアアアアアッ
《テイエムオペラオー、今日も快調に飛ばしていきます。》
《何やら周りが殺伐としてきましたね、これは熾烈な争いになりそうです》
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「ンン゛、オペラオー様っっっ!!」
「お、オペラオーさぁん…」
上からデジたん、ドトウである。
(わりと洒落にならないかもしれないな…)
連続出走で実力が発揮できないとして散らしたヘイトが再びオペラオーに集まっている気がする。他のウマ娘たちが冷静になることを願うが少なくともマークは増えるだろう。
《さぁいよいよファンファーレが鳴り響きました。間もなく始まる日本ダービー、至上の栄冠はすぐそこに!各ウマ娘次々とゲートインしていきます!》
「嗚呼!我がリヴァルたちよ!万雷の拍手が聞こえるか!?我らを讃える歓声が!」
ゲート入り直前にテイエムオペラオーが叫ぶ。
「歓喜の瞬間はすぐそこだ!互いの夢を賭け、全力をつくして最高のレースをしようっ!」
この言葉は緊張か、それとも驕傲か。ゆっくりとテイエムオペラオーがゲートへと入る。
《ーー各ウマ娘ゲートイン完了しました》
さぁ、日本一を決める闘いが幕を開ける。
ガコン
ーーー
《スタートしました。おおっと立ち遅れたのは16番ノーティカルツール、後ろからのレースとなりました。あとはほとんど一直線。さぁ先頭争いは8番ドリーミンバイトが抜け出しました。皐月賞の無念をこの逃げで晴らせるのか!?》
《皐月賞では直前に出走除外となりましたからね。まさに今レースのダークホースと言えるでしょう。》
アドマイヤベガは焦っていた。
ホープフル、弥生賞、皐月賞と思うように結果が出ず敗北、なんの罪もない彼女たちに八つ当たりをしてなんでもないかのように走っている。
《先頭ドリーミンバイトその次5番ヤマニンアクロ、4番ユアアウェイクと続きます。テイエムオペラオーはちょうど中団、ナリタトップロードも中団やや後ろ、アドマイヤベガは思い切って後ろに下げまして後方三番手あたりに位置取っています。》
《縦長の展開になりましたね。ここから各ウマ娘どう仕掛けていくのか。》
アドマイヤベガは冷静だった。
後方で足をためて最後に突き放す。昨年のダービーを見て学んだ勝ち方。それに倣って後ろに下がる。
ーー勝ちたい。いや、勝たなければならない。それが自分の代わりに死んでしまった妹への贖罪だと信じて走ってきた。
うすらと感じる“楽しい”という感情はきっとこの身に宿った妹の感情、そのはずだ。
(そうでなければ、私はっ…)
何様のつもりで走っているのだろう。
ーーー
《各ウマ娘たちが第1コーナーから第2コーナーを回っていきます。先頭変わらずドリーミンバイト、1バ身ほど離れてユアアウェイクが2番手へと上がりました。その後ろ少し空きましてヤマニンアクロ、テイエムオペラオーもじわじわと上がってきている。そしてそれをマークするナリタトップロード、しっかりとついていきます》
(これが日本ダービー…っ、気迫が違う!)
ナリタトップロードにとって、レースを走るのは日常だった。
幼い頃からクラブに所属し、父やトレーナーとの関わりもあって人一倍レースというものに触れてきた自覚がある。
しかし今走っているのは自分が知るどれよりも鮮烈で、熱烈で強烈だった。
18人のウマ娘たちが魂でしのぎを削る日本ダービー。ナリタトップロードはその様相に精神を呑まれーーなかった。
(私だって、みんなの想いを背負っているんだ!)
トレーナーさんと立てた作戦、頭ひとつ飛び抜けたオペラオーちゃんをマークして同じタイミングで仕掛ける。
(『皐月賞では実力を発揮できず3着に終わったが、逆に言えばお前さんが本来の実力をすべて発揮できれば誰にも引けは取らないはずだ』…ですよねっ、トレーナーさん。)
ラストスパートのオペラオーちゃんとの競り合いで有利を取る。それが出来れば勝てるはずだと自分に言い聞かせながらナリタトップロードは覇王の背中を追っていた。
《さあ向こう流しに入ってまいりました。レースは未だ縦長の展開、ドリーミンバイト快調に逃げていきます。2番手三番手変わらずユアアウェイク、ヤマニンアクロ。3バ身ほど離れて内側テイエムオペラオー、ぴったりくっついてナリタトップロードが続いています。皐月賞2着のオーツカダークネスはゆっくり抑えて後方5番手、その後ろアドマイヤベガがついている。》
ゆっくりとした展開、まだまだ足をためる。
《早くもウマ娘たちは第三コーナーから第四コーナーへと参ります。後続のウマ娘たちがぐーっと差を詰めてまいりました。》
まだだ、我慢しろ自分。
《テイエムオペラオー、ナリタトップロードが外目に持ち出した!しかしまだ足をためている!》
(ここっ!?…まだかぁっ……)
《第四コーナーをカーブして直線コースへと移りました。》
(後ろがっ、すぐそこにっ……まだなの!?)
テイエムオペラオーはまだ足をためている。
《ここでアドマイヤベガがさらに外目に持ち出して前へ出る。おおっとそれを見計らったかのようにテイエムオペラオーが前へ進む!ナリタトップロード追いすがる!》
(あっ……)
テイエムオペラオーの末脚が爆発する。ほんの一瞬遅れてナリタトップロードも加速する。
ほんの一瞬、されど一瞬。
ナリタトップロードはその一瞬がどれほど致命的だったのかを直感的に理解してしまった。
「ッテイッッ……エムッッッオペラオオオオオオォォォ!!!!」
ーーー
《先頭はテイエムオペラオーとナリタトップロードさらに、さらに外の方からアドマイヤベガ、アドマイヤベガが上がってきているっ!》
(トップロードさん。君の走り、君の作戦、君の想いは見事だったよ。この覇王が負けていたかもしれないほどにね。ボク一人だったらの場合だが。)
テイエムオペラオーには確信があった。一歩間違えればこの瞬間にはもう抜かれていたと。そして自分だけならもう一歩早く仕掛けていたと。
だが、一人ではなかった。
テイエムオペラオーも、そして好敵手も。
《先頭はテイエムオペラオー!テイエムオペラオー!テイエムオペラオー伸びてくる!テイエムオペラオー先頭!!》
世界が暗闇に堕ちる
領域『カストルの流星』
アドマイヤベガが加速する。
(来ると思っていたよアヤベさん!嗚呼、しかし神はボクを試しているようだ!愛に試練を課すザラストロのように!)
テイエムオペラオーは足の疲労を自覚している。少し無茶をしなければいけないことも自覚している。
覇王ならどうする?…決まっている。
「はっはっは!たとえ相手が流星であろうと神であろうと運命だろうと、相手にとって不足無し!
ボクは、ボクこそが、覇王だっっっっっ!」
ーー『故障率3%』ーー
領域『讃えよ覇王のアリア』
「闘志の炎は太陽のようにボクの心で燃えているッッッ!」
「さぁ!決闘だっ!!!アヤベさん!いや、アドマイヤベガァァッ!」
勝利に向かって走れよボクの身体ぁっ!!
《テイエムオペラオー先頭!しかし外からアドマイヤッッ!》
「私だって、負けたくないっ!!妹のためにもっっっ!!」
《外からアドマイヤベガがやってくる!残り200メートルを切りました!》
「ボクだってっ、負けられないさっ!トレーナー君やファン、そしてボク自身のためにもッッッッッッ!!」
ーー故障率7%ーー
《アドマイヤベガ上がってくる!しかし先頭テイエムオペラオー!テイエムオペラオー!アドマイヤベガ並んだ!》
「私だってッッッ!自分のためにっ勝ちたいんだあああああああああぁぁぁぁっっっ!」
「それでこそっっっっ!それでもっっっつ!ボクが、勝ぁぁつっっっっ!!!」
「「はあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!!!!」」
《テイエムオペラオー!アドマイヤベガ!テイエムオペラオー!アドマイヤベガ!
ふたりもつれるようにゴーーーーーーーーーーールインンンンッ!!》
《写真判定っ!写真判定ですっ!!!》
《……………出ましたっ!!!勝ったのは、勝ったのはっ!》
《…っ14番、テイエムオペラオーォォォ!わずか2cmの差で勝利を手にしました!テイエムオペラオー2冠達成っっっ!そして!日米ダービー制覇を成し遂げましたっっ!!!》
1着 14番 テイエムオペラオー
2着 2番 アドマイヤベガ ハナ
3着 11番 ナリタトップロード クビ
ーーーー
「っオペラオーーっ!!!」「「トレーナーさん!?」」
ーー故障率が上がっているのが見えた。
「オペラオー!足は、足は大丈夫か!?」
「はは、トレーナー君…少し無理はしたがこの程度覇王にとっては虫刺されと同じさ。」
少しばつが悪そうにオペラオーが強がる。
『故障率22%』
それが俺の目からわかる情報であり、彼女が無理をした証拠であった。一応足を診てみる限り故障は無いようだがそれでも気休めにしかならない。
「…俺が、俺が伏竜ステークス、そしてケンタッキーダービーなんか出てくれなんて言ったから「それ以上はやめたまえ」…」
「トレーナー君はボクに新たな覇王の道を示し、ボクはそれに乗った。今日のレースだってそうだ。覇王としてボクは選択し今ここにいる。…たとえ誰であろうとボクの覇道にケチをつけさせるつもりはないよ。」
そう言ってこちらを真っすぐ見つめるテイエムオペラオー。
(本当に、本当にお前ってやつは……っ)
「……悪かった。立てるか?」
「ふふっ、特別に今日の勝者をエスコートする権利を与えようじゃないか。……ひゃっ!!」
ぐいとテイエムオペラオーを持ち上げる、所謂お姫様抱っこの形で。ほんの意趣返しである。そのあとすぐにデジタルとドトウが持ってきた担架に乗せた。
珍しくテイエムオペラオーかこちらを睨んでいる気がするが気のせいだろう。
「…おめでとう、そしてありがとう。テイエムオペラオー。」
「はっはっは!どういたしまして、トレーナー君。」
まだ昼だというのに、なぜか夜明けが近いような気がして俺たちはくすりと笑った。
アヤベ推しの方に謝っておきます。ごめんなさい。
一応私はすべてのウマ娘を推しています
ところで最後らへんのオペラオーのシーンはめちゃめちゃ悩んだんですが解釈違いよりというか、覇王らしさ以外の部分を書きたかったのでまぁそんな感じです。
全体としてもし許せない部分があるなら誤字報告でください、感想でもいいですが書きにくいと思うので。
今回オペラ要素多めな気がしないでもないですが説明とかあった方がいいのでしょうか?次回は掲示板回です。
【挿絵表示】
↑ただの供養です。pcイカれてスマホで描いたので低クオです、見る人は気をつけてください。
そういえば次の更新は忙しいので25年7月の予定です