25/4/20 改稿にともない、オペラオーの能力を下方修正しました。
選抜レース当日、多くのトレーナーたちの注目を浴びながらもレースが始まった。
芝ダートともにつつがなくレースが行われ、スカウトされるウマ娘もちらほらいる。今もちょうど第5レースが終わり、一着のウマ娘にトレーナーたちが群がる。
(第5レース3着のアドマイヤコジーン、ラストスパートで前を塞がれたがステータスも走りも割と才能を感じるな…あ、先輩が話しかけに行った。)
時すでに遅し、無事契約を済ませたであろうウマ娘たちを遠目にため息をつく。やはり何事も早いもの勝ちということか。
(次のレースは中距離か、次こそいの一番に声をかけに行こう。)
第6レース芝2000左回り、出走バはアドマイヤベガ、マチカネキンノホシ、…そして
テイエムオペラオー。
先日出会った彼女が居た。
「はーっはっはっは!ご来場の諸君!このレースをもって覇王誕生のプレリュードをその目に!耳に!焼き付けるといい!」
大仰な仕草で宣戦布告をする彼女に対するまわりの反応はというと、
「大きく出たわね、あまりデータがないけど走れるのかしら。」
「あのウマ娘、ほとんど練習していないらしい。練習場に来ても、オペラやらなんやらでロクに鍛えもしない。」「とんだ癖ウマ娘だな、このままじゃ先が思いやられる。」
もしかして彼女はいつも噴水前でオペラを披露しているのだろうか、ひどい言いようである。
だがしかし、テイエムオペラオーの評価はともかくアドマイヤベガも発展途上ながら完成度が高い。スピードパワー偏重気味ではあるが、テイエムオペラオーよりも高水準である。流石は史実のダービーウマ娘と言ったところだろうか。
そうこうしているうちにゲートイン完了、そしてゲートが開く。
テイエムオペラオーが少し出遅れたがすぐ持ち直して5番手、アドマイヤベガは最後方から二番手に落ち着き全体としては団子になって進行する。
中盤少し小競り合いがありテイエムオペラオーが3番手に上がったもののほとんど変化なく迎えた終盤。
「さぁ、はじめようか!世紀末覇王の物語を!!」
ウマ娘たちが各自にラストスパートをはじめ加速するがバ群を掻き分けじわじわと上がってくるテイエムオペラオー。
(やはりテイエムオペラオーは強い、今のところスピードこそ足りていないがバ力が違う。レース運びも上手いしこれは決まったか?)
これが覇王の走りだと言わんばかりにテイエムオペラオーが先頭へ抜け出しまだ300メートルほどあるというのにもはやウイニングラン状態、だがそれほどまでに強い走り。このままテイエムオペラオーが逃げ切ると思われた瞬間
「…こんなところで、負けられないッ!」
大外からアドマイヤベガが差し切った。
残り100メートル、テイエムオペラオーの顔が曇り懸命に脚を前へと出すもーー届かない。
鮮やかな撫で切り、驚異的な末脚をもって黒鹿毛の髪がゴールを通過した。
一着 アドマイヤベガ
三着 テイエムオペラオー 3/4バ身
.
.
「…素晴らしいものを見せてもらったわね。」
「あの末脚、スピード、文字通りケタ違いだ。」
「テイエムオペラオーも頑張った方なんじゃないか?」
(やはりスピードの低さが仇になったか、それとも先頭に立ったあとに油断か?いやしかし最後にちゃんと伸びさえすればアドマイヤベガに引けは取らなかったはず。しかも先程聞いた練習していないという言葉、もし本当だとすれば伸び代しかない。)
今回はアドマイヤベガに負けたが、やはりテイエムオペラオーは強い。そう結論付けた俺は声をかけるべくテイエムオペラオーを探すもレース場にはその姿はなかった。考えをまとめている間に見逃してしまったらしい。
テイエムオペラオーの行方を追うべく、他のトレーナーに声を掛けるもアドマイヤベガ以外眼中になかったらしく情報を得られない。ならばとアドマイヤベガに声をかけた。
「ッごめん、アドマイヤベガさん、ちょっといいかなッ!」
なんだこの非常識な人、とでも言いたげなアドマイヤベガの目に新たな扉が開きそうになる。いや、それどころでは無い。
「…スカウトなら間に合ってるわ、見てのとおり。」
周りを見れば先輩トレーナーの白い目が突き刺さる。
「テイエムオペラオーさんッ!どこに行ったかわかる!?」
「…なんで私に聞くのよ、レースが終わってすぐ中庭の方に走って行ったわ。」
ごもっともである。
確かにわざわざ人に囲まれたアドマイヤベガに聞く必要はない、しかし他のウマ娘に声をかけるというのも酷だっただろう。まぁ他の観客に聞けばいいのだが、それがわからないくらいに俺は焦っていた。
「ありがとうッ!」
中庭へと走った。そしてテイエムオペラオーを見つける。しかし先日の溌剌とした様子とは異なり、どこか哀愁を感じさせる背中。彼女もひとりのウマ娘なのだ、レースの敗北は平等に心に影を落とす。
「テイエムオペラオーさん、話がある。」
「この声は…!ボクのファン1号君じゃないか!このボクに何か用事かい?サインは今はお断りさ!なんてったって世界中のボクのファンが君に嫉妬してしまうだろうからね!はーっはっはっは!」
先程の様子とは打って変わった様子で答える彼女。しかしどこか空元気に感じさせる様子である。
「…先程の選抜レースを観たんだ。」
「……おやおや、確かに君はトレーナーバッジをつけているじゃないか!トレーナーをも虜にしてしまうボク!なんて罪深いんだ!」
そう言って彼女は笑う。しかしその顔はどこか浮かない雰囲気を出している。
(先程の結果を気にしているのか?…いや、そうだとしてもここで伝えなければ新人の俺には後が無い。傷心につけ込むようで申し訳ないが、彼女なら歴史に名を残せる。)
そして、言葉にする。
「俺と、担当契約してくれないか。」
「…へ?」
「…君の走りに夢を見た、最強を夢見た。君となら伝説を作れる。かのローエングリンの伝説をも超える、輝かしい物語を、君となら作れる。」
正直に言えば最初は色眼鏡があった。史実における名バ中の名バ、テイエムオペラオーとなれば強いだろうと。しかし、実際のレースにおいては怪物に近くとも未熟で、最後にはアドマイヤベガに差されてしまった。少し期待外れだったかといえばそうだ、史実に比べれば。
逆に言えばそれを除けば、恵まれたスタミナとパワー、それに裏打ちされた覇王たるレース運びに魅了されてしまった。このウマ娘は世界を穫れる、と。
彼女の隣なら自分を証明できる、と。
「…もちろん新人トレーナーたる俺が信用出来ないのはわかる。信頼としては足りないかもしれないが、一応卒業時には首席を頂いていて、さらに1年ほどG1トレーナーのもとでサブトレーナーをした経験もある。さらに…」
「……」
目の前のウマ娘は黙ってこちらの話を聞いている。それにかこつけて、ではないができるだけ自分が担当することのメリットや方針を伝える。出来るだけ誠実に、経験不足であることも踏まえて。
(…もしかしたら早急すぎたかもしれない。)
まだ1度目の選抜レース、少し早い本格化が始まったばかりの彼女には少し飲み込むのに時間がいる話だろう。
「…一方的ですまなかった。返事は今すぐじゃなくていい、とりあえず俺のことはただのファン、脇役と思ってもらっていい。だけどーー」
「ふふっ、ふふふ、はははっ!はーっはっはっはっはっはっは!なかなか面白いじゃないか!トレーナー君!
ーーボクが目指す絶対的な覇王!圧倒的な勝利をもって、皆に夢を!希望を与える覇王に君はしてみせるというのかい!?」
堰を切ったように笑い出したテイエムオペラオー、そして目を輝かせて俺にそう問いかけた。
「そこに君の走りがあるのなら。」
俺は君の走りに夢を見た、ならば君の言う絶対的な覇王に欠けているのは勝利だけだろう?
「はーっはっはっは!素晴らしい!ボクもちょうど足りない役を探していたところさ!
だが、覚悟したまえよトレーナー君!ボクが探していたのは脇役なんかじゃない!主役たるボクに足りないもの、そう君には『ヒロイン』を担ってもらう!」
快諾に思わず顔が綻ぶ。しかしどこか聞き捨てならない言葉が混じっていた。
「ああ、任せてく…れ?…ヒロイン?」
「はっはっは!これからボクのことはオペラオーと呼ぶといい、トレーナー君!ボクたちでここから新たな伝説を始めよう!!」
どうやら俺はヒロインになったらしい。成し遂げたい、名を残したいとは思っていたが、悪名ではないことを祈るしかない。
そう思いながら彼女の気が変わらないうちにトレーナールームへと急いだ。
恋愛要素はあんまない、育成ストーリーくらい