テイエムオペラオーの担当になった翌日、早速彼女のトレーニングを行うこととなった。
「ふふっ、遅かったじゃないかトレーナー君!さっそくトレーニングを始めようじゃないか!」
今日は月曜日、授業終わりからまだほとんど時間が経っていないはずだが練習用コースにはすでにテイエムオペラオーと、なぜかもう一人のウマ娘が準備運動をして待っていた。
「す、す、すごいですぅ!ほんとにこんな早くスカウトされるなんてぇ!」
彼女はメイショウドトウ、史実では世紀末覇王とともに時代を飾ったG1バ。なぜここにいるのかはわからないが、大方テイエムオペラオーが無理やり連れてきたのだろう。
「遅くなってすまない、『覇王』にふさわしいトレーニングについて頭を悩ませていてな。もう少しデータが欲しいので今日は走り込みと基本トレーニングのみを行ってもらう。」
わざとらしく『覇王』と口にしてみたものの、出来るだけ彼女に寄り添ったトレーニングを考案するという意味では間違っていない。その際ステータスはこの目で確認できるが、それは総合的な値であり、その上それのみでレースが決まる訳では無い。それ故に観察が必要だった。
「はっはっは!覇王にふさわしいトレーニング、すなわち『覇王式トレーニング』!このボクにふさわしいメニューを期待しているよ!」
「はわわ、私ほんとはここにいちゃいけないんじゃ…」
「はーっはっはっは!さっそくトレーナー君に美しいボクの走りを見せつけてやろうじゃないか!ドトウ、ついてきたまえ!」
「お、オペラオーさん!待ってください〜!」
そう言って練習用コースを走る2人。それを見ながらテイエムオペラオーのトレーニングについて考える。
(やはりというべきか、昨日のレースを経てオペラオーの故障率がゼロコンマ単位で上昇している。1%にも満たないため今はほぼ無視しても良いが…。おそらく天性のパワーに骨がついていけていないのだろう、そのためスピードも無意識に抑えられて低くなっている。走り方も割と力任せなフォームでこのままでは故障というのもあり得る…しばらくは骨に負荷の少ないダート練習で走り方を身に着けた方がいいかもしれない。)
ーーー
「…後一周!全力は出さなくていい!フォームを意識して最後まで走りきれ!」
「はっはっは!もう終わりなのかい?覇王の走りは君には眩しすぎたようだね!まぁいいさ!華麗にフィニッシュを決めようじゃないか!」
「…はぁっ、はぁっ、やっぱり私なんかじゃ。オペラオーさんのっ、隣になんか…」
最初の併走トレーニングでは、危なげなくテイエムオペラオーが勝利。万全を期して短い距離でトレーニングを切り上げたためか、少し息を整えただけですぐにこちらへと向かってくる。
「さあ!感想を聞かせたまえトレーナー君!このボクを讃える声を!さあ、はやく!」
「…ラストスパートのかけ方は素晴らしい。踏み込みも、位置も完璧、まさに覇王の走りだったよ。」
「はーっはっはっは!流石はボク!完璧な走りには太陽神アポロンも見惚れてしまっているようだね!」
…確かに5月にしては日差しが強いがおそらくそういうことではないだろう。ともあれ、オペラオーの走りは言葉にすれば賢い。過不足なく走りきれるのは才能である。
「しかし、フォームが少し力任せになっている。オペラ風に言うとまるでドン・ホセのようだ。彼は君と同じく主役足りえるが優雅さが足りない。美しいが、ね。オペラオー、君が目指すべきはローエングリンだ。」
「くくっ、エクセレェント!ボクとしたことが君をまだ見くびっていたようだよ!君はこのボクの走りが、完璧な覇王の走りがより美しく、優雅になってしまうというのかい!?」
にわか知識だが、勉強したオペラにかけた言い回しはどうやらお気に召したようだ。
彼女のフィジカル、メンタルの強さ、そこに技術が合わされば世紀末覇王、いや世紀末『世界最強』覇王にだって手が届くだろう。
「もちろんだ、そのために俺がいる。しかし君はまだ体が、特に骨が出来上がってない。しばらくはダートでの練習になると思うが我慢してくれ。」
「はーっはっはっはっは!どこであろうとボクの輝きは色褪せないさ!今すぐにでもダートへと向かおうじゃないか!」
上機嫌に笑う彼女に水を差すようで悪いがあいにく今日の残りのメニューは筋トレである。
「あー、悪い。ダートの利用申請今日はしてないんだ。だから今からは基本トレーニングだけだ。すまない。」
「ふっ、覇王たるもの多少のアクシデントでは心は揺らがないさ!今日は大人しく覇王式基本トレーニングだけにとどめておくとしよう!」
そう言ってステップを踏み出すテイエムオペラオー。白鳥のように舞い、ツバメのように美しく宙に舞う。一見意味のなさそうに見えるその行為もウマ娘の身体能力をもってして行えば割と効果的なバランストレーニング、体幹トレーニングとなっているのかもしれない。
確かにテイエムオペラオーの肉体であれば、無闇に鍛えるよりも体幹を先に整えた方がいいのかもしれない、のか?
「あ、あの、私はどうすれば…いえっごめんなさいごめんなさい担当じゃない私なんかが聞いちゃダメですよね、し、失礼しましたぁ…!!………ひょあっ!?」
メイショウドトウはそう言って走り出し、つまづいた。成り行きでオペラオーに着いてきてしまったようだが、そろそろいたたまれなくなったのだろう。
(新人トレーナーの俺には同世代のウマ娘2人を同時に担当するのは実力的にも、慣例的にも難しい。だからといってテイエムオペラオーと仲の良いメイショウドトウを放って置くのも忍びない。)
「…メイショウドトウさん、もしよければなんだけど、次の選抜レース、いや君のトレーナーが見つかるまで、オペラオーの併走相手としてトレーニングに参加してくれないかな。俺は新人だし、オペラオーだけで手がいっぱいだけれど、それでも少しはアドバイスできると思う。」
「…え、えぇ〜!!い、いいんですかぁ!こんなグズでノロマな私じゃ、オペラオーさんの相手になりませんけど…!」
「あぁ、大丈夫だ。それに君は自分が思っているよりも強いよ。これから少しの間よろしく頼む。」
そう、メイショウドトウのステータスは今の時点でも割と高い。テイエムオペラオーやアドマイヤベガ、その他クラシックで活躍しそうなウマ娘の中では見劣りするが、根性に関してはずば抜けている。
「へ……?あ、ありがとうございますぅ…!こんなグズな私でも、オペラオーさんのお役に立てるようにちょっとは頑張ってみますぅ…っ!」
そうしてメイショウドトウを添えてテイエムオペラオーの研鑽の日々は過ぎていく。
注 メイショウドトウは担当しません、なぜなら未所持だから
主人公のステータス閲覧能力について言及すると
適正とステータス画面自体はアプリ準拠なのですが、レース中に限界を超える(故障率上昇)ことや調子(リアルタイム)によりステータスが一時的に変動することもあり、参考程度で割と信用ならないです。じゃあなんで主人公につけたのかというと有能な主人公に説得力を持たせたかったからです。