人形の家   作:三つ首黒虎

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最終話

ここからは一人だ。

 ガーベラはいない。一人の力で脱出しなければならない。

 もし、もし、また彼女に会うことができたなら疑ってしまったことを謝りたい。

 

 あのマネキン人形が残した情報。

 ここから脱出したかもしれない狂った人。

 血塗れの部屋。そこがヒントになるかもしれない。

 

 探そう。その部屋を。

 あの男に襲われる危険はある。

 体力のあるうちに動かなければ……

 ここに食事はない。

 日が経てば経つほど体力が消耗して動けなくなる。

 

―――――――――――――――――――――――

 部屋を開ける。

「ここも違う……」

 周囲を確認して次の部屋へ

「ここも違う……か」

 確かに部屋数は多いだが……ここまで外すとは

 自分の運の無さにら泣けてくる。

「まったく、ほんとに運がない。ガーベラもそう思わないか?」

「………………」

 何を言っている。私が彼女を遠ざけたのに。

 扉を開ける、違う部屋へ

 ただ黙々とその作業を繰り返す。

 

 残り三部屋。

 

 カツカツと足音が聞こえる。

 すかさず物陰に隠れる。

 

「あぁ、血の匂いだ。ここのあたりにいるな」

 この声アンドリューだ。

 呼吸を落ち着かせ息を潜める。

 

「そこか?……あぁ、そっちか」

 

「っ」

 バレた。あと三部屋だった。

 もう少しで何かヒントがあったかもしれなかったのに。

 

 走る、走る、走る。

 後ろからアンドリューの声が聞こえる。

 

「なんだ?かくれんぼの次は追いかけっこか?」

「まったく、仕方ない大人だ。なら、最後の遊びだ。」

「遊びにはルールがいるよな?

 そうだ、俺はお前を見つけるまで歩いてお前を追おう。お前はこの家中を逃げ回れ。」

「捕まったらわかるな?それで終わり。お前が俺と変わるんだ。」

「よーい、スタートだぁ!!」

 

 一定のペースでカツカツと歩く音が聞こえ始めた。

「さーて、どこまで持つかねぇ」

 自分の優位を悟っているのだろう。かなり慢心が見える。

 

 事実あちらが有利だ。

 私一人で残り三部屋の中から血塗れの部屋を見つけ出し、あの男に追い付かれる前に脱出手段を探り出さなければならない。

 

 一部屋目、扉を開き確認。ここは違う。

 先ほどより近くに足音が聞こえる。

 

 二部屋目、扉を開く。

 ここも違う。

 だんだんと足音が近づいているのがわかる。

 

 三部屋目、ここだ。

 もちろん最後の一部屋ということもある。

 しかしそれ以外にも雰囲気がある。部屋の外からでもわかるいかにも曰く付きな"らしい"部屋だ。

 

 足音がさらに近くに聞こえる。急がねば。

 

 部屋に入る。

 いつここで血を流したかわからないがそれでもここで大量の血が流れたことがわかるであろう血の残り香。

 床だけではない。壁一面にも血の広がった跡が残っている。

「何をどうしたら……こうなるんだ……?」

 

 外からアンドリューの声がする。

「あ?血の匂いが消えた。いやちげぇ、あの部屋に入ったのか。血の匂いが濃すぎてわからなくなったんだ。」

 

 すかさず隠れる。幸い、この部屋にも暖炉はある。

 中に潜り込み灰を被り息を潜める。

 

 ドン!っと扉を蹴り開ける音が聞こえる。

「どこだぁ!!どこ消えやがった!!!」

 本棚を、机を蹴り飛ばす音がする。

 

「…………ッチ、めんどくせぇ。」

「なら、遊びは終わりだ。俺はここから出なけりゃいけねぇんだ」

 

 足音が遠ざかる。最後のチャンスだ。

 暖炉の下から出て軽く身体に纏わせた灰を払う。

 多少の時間稼ぎにはなるだろうと机、本棚、椅子この部屋にあるものをドアの前に置き塞ぐ。

 

 改めて、この部屋を調べ直す。

 出血量は尋常ではない。この量の出血が一人のものであるのなら確実に死んでいる。

 壁一面に散っている。

 どうすればそんなことになる……?

 よくみると血で手形が残っている。

 

 床に光っているカケラがある。

 手で持って見てみる。

「これは……ガラス……か?」

 割れたガラス、鋭利な部分にはそこで肌を切ったように赤い何かがこびり付いている。

 

 この状況、血と思われるものがついたガラス片。

 尋常じゃない出血量。壁についている血の手形。

 

 動脈をガラス片で切り自殺した……?

 人が人形に殺されたら人形になる。

 なら、ヒトが人を殺した場合は……?

 自殺はどういうカウントになる……

 考えろ、思考しろ、推測するんだ。

 過去のことは見れない。それでも今ある状況から推理することはできるかもしれない。

 

「他のところにゃいなかった、

 なら、あぁやっぱりここだよなァ」

 扉の前から声が聞こえる。

「待ちなさい。アンドリュー。ここには誰もいないわ。どこかに消えなさい」

 聞き覚えのある女の子の声がする。

「アァ?女のガキが言うことなんざ誰が聞くかよッ!」

「あがッ」

 蹴られる音、叫ぶ女の子の声が聞こえる。

「どう考えても、ここにしかいるはずがねぇんだ……よォ!」

「かはっ……」

 

 まて、まつんだ、君がそんなことをしなくていい。

 「やめろ、やめてくれ、私が代わりに出るから」

 私はアンドリューに向かい大声で叫ぶ。

 

「あぁ、やっぱりいるじゃねぇか」

「ダメ……だよ、おじさん……、おじさんは帰らなきゃ……」

「せっかく殺されに来てくれるって言ってるのに邪魔すんじゃねぇよッ!」

「っつぅぅ…うぐっ!」

 うめく声と共にドアが揺れる。ドアに蹴り付けられているのだろうか。

「おじさん……わたしは人形だから……痛くなんてないんだよ」

「怖いでしょ……?この部屋の外は人形か二体あるだけなんだから……」

「出て来たら……襲っちゃうんだから……」

 

「おぉ?もう直ぐドア壊れそうじゃねぇか」

 すでにドアは衝撃で壊れかけている。

 机や本棚で作った簡易バリケードがあるとしても時間の問題だろう。

 

「そぉらァ!!」

 ドアや机の木片と共にガーベラが部屋に蹴り飛ばされて来た。

「ガッ……ゲホッ……う"ぅ"ぅ"…」

「おじさん……みないで」

 

 ガーベラの身体はぼろぼろで、顔にもヒビが入っている。アンドリューにやられたのだろう。

 

「わた…しね……考えてたの……」

「どうやったら……おじさん…が…ここから、でられるか……」

 

 「もしかしたら……あの人形さんが話してた男の人、自分で自分を殺したんじゃないかなって―――――」

 

「ッ」

 そう、そうなのだ。私も考えていた。考えられるのはそれしかないのだ。この家のルールの裏をつくとするなら。人形に殺されるのではなく。

 人でありながら人を殺す。しかし、人は自分しかいない。ならば、つまり自殺こそが……

 ここからの脱出手段だったのではないかと。

 

「あ……やっぱりおじさんも……気づいてたんだね……」

「なら、大丈夫だよ……

 その時間は……わたしが……稼ぐから……」

 

 情けない、見ていることしかできない自分が…

 助けることはできない

 

 ――――――ほんとうに?――――――――

 あ……

 そういえば……ある、一つだけ、一つだけ手に入れている武器が。

 ガーベラが見つけてくれたもの、そして私がガーベラに向けてしまったもの……

 

 私のような弱者がアンドリューのような男に抵抗するならチャンスは一度。

 その一度きり、どこだ。どこを狙えばいい……

 彼らが人形であるとするなら動力源は……

 思い出せ、廃棄場で見た人形を

 ――――壊れた木箱、足の取れた椅子、左腕のない人形、人形のパーツと思われる足、胸に穴の空いた人形。

 

 ――――――胸に穴の空いた人形――――――――

 そう、人形としての形を持っていながら唯一動いていなかった人形。

 それは胸部に穴が空いていた人形ではなかったか?

 なら、彼らの弱点はそこである可能性が高い。

 元は人間だと言うのであれば、より可能性は高まるだろう。

 

 私の武器はパレットナイフ一本……

 これだけではダメだ、あまりに小さすぎる

 

 だがこれで傷口を作りそこに先ほどアンドリューが壊したドアか本棚の木片を捻り込めれば……

 

 ならば、やることは決まった。

 大の男がいつまでも女の子に守ってもらっているわけにはいかない。

 

 立ち位置を調整する。

 あの位置に木片があれば手が届くだろうか。

 

「ほ、ほら!アンドリュー……私はここにいる!」

 そう言いながら先ほど見つけたガラス片で左の手のひらを切る。

「いつまでも、女の子を痛ぶることしかできないのか……?」

 男を煽りながら左手を振るい血を飛ばす。

 

 アンドリューの頬に血がついた。

「言ってくれるじゃねぇか、その女の子に守られてた分際でよォ」

「んじゃあ、希望通り死ねや」

 そう言いながらこちらに飛び上がってくる。

 刺されるのはいい、ガーベラはもっと痛い思いをした。だが、死ぬのはいけない。

 それでは彼女の意思が無駄になる。

 

 だから、あのサーベルに中枢神経、動脈、臓器が

 いずれも刺さらないように避けろ――――――

 

「ぐぅッ」

 幸い、サーベルは左脇腹を貫通した。

 第一関門突破。

「おじさんっ!!!」

 ガーベラの心配そうな声が聞こえる。

 

「どう……したんですか……?こんな近くまで来て……」

「それじゃあ、サーベル使え……ませんね?」

 そう言うと同時に腰からパレットナイフを取り出し、アンドリューの胸部に突き刺す。

 第二関門突破。

 キズを作ることには成功した。

 やはり、彼も人形なのだろう。出血はなかった。

 

「なっ」

 アンドリューが驚きの声を上げる。

 

「危ねぇ、危ねぇ、最後の抵抗ってかぁ?

 そんなちっさいナイフで何ができるんだよ」

 アンドリューはそう言いながら、パレットナイフを胸から抜き投げ捨てる。

「あ、これ使ってトドメ刺せばよかったわ」

「まぁ、この距離なら殴り殺せるか……」

 

 第三関門 木片を突き刺す。

 手を伸ばす。

 手を伸ばす……

 さらに奥へ……

 それでも……

 木片が…………届かない……

 位置を間違えてしまったようだ。

 いや、刺された衝撃で後ろに行きすぎた……か。

 

 ガーベラが倒れていたところを見る。

 ――――いない。

 あぁ、よかった

 無事離れられたんだ。

 

 考えればよかったのかもしれない。

 アンドリューに私が殺されれば私は人形になる………のだろう。

 それなら、ガーベラに寂しい思いをさせない。

 そもそも、帰りたい理由もわたしは希薄だったのだ。

 妻もいない、娘もいない。二人は事故で奪われた。

 なら、この優しい少女とこの家の中で永劫に過ごすのもいいのかもしれない――――と

 

「――――ぁぁぁぁぁぁぁ」

 ?何が聞こえる。

 

「な……んで……」

 今度はわたしが驚く番だった。

 そこには逃げた……はずのガーベラがボロボロの姿のまま先の尖った木片を持ってこちらに走っている。

 

「おぉおぉおおぉぉ!!!」

 まだアンドリューは気づいていな……

 いや、声に気づいた。

 なら、私にできるのはこの男の動きを止めること。

 

「離せ、やめろ、俺はここで終わっちゃいけないんだ!!待ってる奴がいるんだ!!!」

 

 

 仮に、仮に……

 このままガーベラが私を殺そうとしてもいいのだ。

 外が見たい少女の願いを叶えられるのだから――

 

 ザクッと軽い音がした。

 背中から胸部へ、木片に貫かれたアンドリューは

「あ……あぁ、すまない……エヴァ――――」

 そう言い残し目の光を失わせた。

 

「はぁ…はぁ…」とガーベラは荒い呼吸を繰り返している。

 木片の先は私の胸を少しだけ抉り、そこで止まっていた。

 

 ドサッとアンドリューの身体をどかし地面に座る。

「……」

 ガーベラの顔は見れない。

 

「…………ガーベラ……」

「……すまない……」

「キミを信じられなくて、疑ってしまって、武器を向けてしまって」

「……本当にすまない……」

 

 ガーベラが近づいてくる。

「わたしもね、おじさんが……右腕に怪我してるの見てからちょっとおかしくなってたんだ……」

「変なんだよ、おじさんの血を飲みたいって」

「その後も、人形さんが人を殺したら出られるって聞いて」

「あ、わたし出られるんだって……」

「……おじさんを殺したら……出られるんだ……って」

「そう……思っちゃったんだ」

 

 ガーベラが私の後ろに立っている。

「だからね、仕方ないの

 これは仕方なかった事なんだよ」

 

 「よいしょっ」といいながら私の背中に寄りかかるように座る。

「おじさん、教えてあげるね。

 どっちも悪い時はけんかりょーせーばいって言って」

「――どっちも、

 "ごめんなさい"しないといけないんだよ――――」

 

「あぁ、そうだったね……」

 なんて……優しい子なんだろう。

 出会って2日も経っていない。それなのにこんな男に対してこれだけのことを言える。

「それじゃあ、お互いごめんなさいしないとだね……」

 

「疑って、信じれなくてごめんなさい」

「おじさんを殺そうとしてごめんなさい」

 

「今度は頭ぶつけなかったね……」

「あははは!そうだね……ぶつけなかったよ」

お互いが背中合わせに座っていた為である。 

 

 そこからお互いのことを話し合った。

 ――――彼女は中世イギリスに生まれた貴族の子だったらしい。

 名前を呼ばれることもなく親は厳しくいつも叱ってばかり、褒めてくれるなんてなかったそうだ。

 「おじさんはさ、褒めてくれるんだ。あだ名ではあるけど……名前を呼んでくれるんだ。いっぱい話してくれるし笑ってくれる。

 だからさ……お父さんって本当だったらこんな感じなのかなって……」

 

 「気づいたらここにいたから、多分、殺されちゃったんだろうね」と話してくれた。

 

 ――――――――――――――――――――――

 どれくらい話していただろうか。

 ふとガーベラが後ろで立ち上がった。

「それじゃ、お別れだね」

「?」

 なぜ…だろうか

 

「わたしはもう死んじゃってるからおじさん殺さなきゃでれないし……」

「そんなこと……そんなこと……わたし」

「出来ないよ、……したくない……」

 

「最初はね、面白そうだから、知らない話知ってそうだからってだけだったんだよ」

「でもね、一緒に過ごして探検していろんなお話ししてさ。あだ名までつけてくれて、笑い合って。」

「そんなことしてたらさ、もう無理だよ。出れるとわかっても殺せないし殺したくない。」

「でもね、今もおじさんの方向いちゃったら血を見ちゃったらこの感情すら塗り替えられそうで……嫌だからさ

 …………だからお別れ」

「このままお互いの顔を見ずに、さよなら」

「おじさんはさ、ちゃんと生きてここから出てね」

 

 声をかけようとした瞬間。

「まっ……」てくれと言葉を言い切る前に後ろの気配が消えた。

 

「ガーベラ……」

 

―――――――――――――――――――――――

 

 なにも、解決はしていない。

 だが、それが誰よりも外を渇望した少女の願いなら。

 叶えなければ。

 私が生きてここから出ること。

 

 自殺すること……

 恐怖は当然ある。

 だが、それでもやらなくてはならない。

 凶器は拾って来ている。

 ガーベラが見つけてきてくれた、パレットナイフ。

 

 それで、自分の首を――――――――――――――

 

 ――――――――――――――――――――――――

 目が覚めた。

 日差しが眩しい。

 座っている……周りを見渡す。

 公園のようだ。

 

 子供が走り回り遊具で遊んでいる。

 服はあそこに入る前に戻っている。汚れひとつない。

 

 夢……

 いや、そんなはずはない

 

 サーベルに斬られた右腕の傷。

 木片に軽く抉られた自身の胸部の傷。

 自分で首を切った際の違和感は残っている。

 記憶も痛みも――――全て残っている。

 

 ならば、探さなくてはいけない。

 あのオルゴールを、

 そしてあの優しい少女を救う方法を。

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 少女が椅子に座っている。

 赤いドレスを着た金髪碧眼の少女。

 椅子の上で足をぷらぷらとらさせながら

 

 「いつか、おじさんにまた会えたらいいな……」

 

 ぽつりと彼女は、そうつぶやいた。

 




以上、お試しで出来た4話でした!
拙い文章をお読みいただきありがとうございます。

今後は書きたいシーンを書いていく…か二次創作を始めるか。
オリジナルを書くか定まっていませんが
また書くのでよければぜひ!

それでは、また次の世界で!
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