いつもと同じ、私はどこまでも暗く一寸の先も見えない空間に居た。
周りもいつもと変わらず、ただ、暗い闇だけが広がっている。歩き続けても、歩き続けてもどこにも着くことができない。
歩いて、歩いて、歩き続けて
いつもならば、歩き疲れていって、いつしか立ち止まり座り込んでしまう。そのはずだったが、今回は不思議と疲れを感じずに、どこまでも歩き続けることが出来た。
そうしているうちに気が付くと目の前に白い人影が居て、俺を見つめていた。
この暗闇の中、変わらずその人影の下だけにのみ青いような、水色のような草が生えており、その下は水のように透き通った地面だった。
その人影に手を伸ばそうとした瞬間、途端に地面が粘性の液体になったかのように変化し、自分の体が沈んでゆく。
「___ッ!!!!」
その白い影は沈みゆく自分の体に連動するかのように少しずつ薄くなってゆく。
「待ってくれ...まだ!」
たとえいつものように、伸ばしたその手がすり抜けてしまうとしても、私にとってこの夢は苦痛でもあり安寧でもあった。その夢の内容が変わってしまうということは、俺の中が何か変わっていき、戻れないかのように感じて非常に抵抗感、拒否感を感じてしまう。
「まだ俺は君と...ングッ...!!!」
沈みゆく地面に口まで覆われ
「___!___!!!」
あの白い影に何か言葉をかけることはできなかった。
まだ薄暗い中、アラームの音によって起こされた俺の目に社員寮の天井が映る。
「...そういえば、昨日は入社式だったな。」
まだ働かない頭をフル回転させて昨日の記憶をたどりつつベッドに腰を下ろし、入社式でもらった資料に目を通す。
資料の中には「異常事態に関する10の対処事項」や「侵してはいけない規則とそれに対応した処分レベル」など、様々な物があり、つらつらと目を通していると、とある一つの資料が目に留まった。
「職員レベル...?」
そこに記載されていたのは、自身の身体能力や精神汚染耐性、E.G.Oによる浸食への耐性など様々なデータをもとに総合的に評価される指標
そう、前世でロボトミーコーポレーションをプレイしているときによく見ていた職員のステータス、それそのものだった。
「勇気レベルⅡ、慎重レベルⅠ、自制レベルⅡ、正義レベルⅠ、総合評価レベルⅡか...ハハッ、俺の二十年って何だったんだろうな...。」
自身の能力値をデータ化されると改めて心にくるものがある。
一種の脱力感と共に日が地平線から昇り始めるまで、ベッドに倒れ込み、目を腕で隠していた。
ずっとそのまま倒れ込んでいると外が騒がしくなり始めたので、私も準備を始める。
流石に初日から遅刻は笑い事じゃない。資料にも遅刻は第一種規則違反、違反者は1回ごとにその時点から1か月の減給、悪質な場合はオフィサーへの降格処分と記載されていた。
現状食費などの最低限の金の使い道以外は無いにしろ、遅刻というものは周囲、及び上司のチーフ、セフィラ...は居ないんだったな。それと、管理人からの印象を下げることにつながる。
身支度を済ませ、再度会社資料にに目を通す。そうやって居るうちに時間は過ぎていき
朝の7時、栄養バーを齧りながら社員寮の扉を開けた。
「...お?奇遇じゃねぇか!!!俺も今会社に向かおうと思ってたんだよ。」
そこには少し不格好ではあるが、頑張って整えたのであろう社員服で身なりを整えたメイソンがいた。
そのままメイソンの身支度を整えたり談笑しながら支部へと歩き、支部に到着した段階で一旦それぞれの場所にへと分かれ、俺はそのまま コントロール部門のメインルームへと到着した。
就業時間のアラームと共にこの場の雰囲気に合わない軽やかなクラシック調のメロディーが流れる。
俺には、その音楽がとてつもなく心を締め付ける煩わしいものに聞こえた。
「...音楽は、嫌いなんだがな。」
音楽、それもクラシックはあの日の出来事を思い出し、全身に蛆虫が這いまわるかのような悪寒を感じさせる。
頭の中で反響するように聞こえてくるクラシック音楽とあの日の音楽が重なり、心が苦しくなっていき吐き気が増して壁に寄りかかり蹲る。
大丈夫だ、その内音楽は収まる、そうしたらこの吐き気も収まってくるはず
落ち着け、心を殺すんだ
心を殺せ
心を殺せ
心を「あ、あの~、大丈夫?」
誰かに声を掛けられ咄嗟に顔をあげると、そこには青色の髪の女性が立っていた。
「....あ、あぁ...心配かけてしまって申し訳ない。ちょっと気分が悪くってな。」
「それよりも、あ..アンタは一体?もしかしてここ勤務なのか?」
突然声をかけられた。そして蹲っている様子を、自分の弱い所を見られた。そのことに一瞬感情が噴出しそうになるところを必死で抑え、取り繕うかのように別の話題へとスライドする。
「ん?そうだよ?それよりも君、どこかで見たことのある顔だ」
その初対面であろう女性はしばし思案した後、思い出したかのように片手をもう片方の手のひらにポンと置く。
「君、入社式で一緒に説明会受けていた同僚さんじゃん!」
初対面ではなかった女性は軽やかに私にそう語りかけてくる。
故人に姿を重ねるのはいけないことだとは思っている。だが、どうしても私には彼女の雰囲気、そしてその振る舞いがどうしてもミレイと重なってしまった。
「君、入社式の最中もどこか上の空みたいな感じだったからなんとなく印象に残ってたんだよね~」
…オイちょっと待て
「え...そんな風に俺見られていたのか?」
「えっうん、まぁ多分私だけかもしれないけどね。」
他人からの評価を耳にして変な羞恥心がじわじわと心を満たし、
汗が流れ、耳の先端が熱くなり始めた。
そのまましばらく会話に花を咲かせていると、腕についている腕輪からアラームが鳴り、それと同時に天井に付いているスピーカーから変声機によって若干歪められた肉声が私たちに向かって語りかけられる。
”職員カイル、F-03-120の作業指示を行う。
管理資料を受け取った後、速やかに収容室に向かい、”洞察作業”を行うように。”
どうやら、作業の時間のようだ。
「どうやら、私の最初の仕事みたいだな。私はここで失礼するよ。」
幻想体(アブノーマリティー)、実際にゲームとして作業指示を出していた時とは勝手が違う、認知フィルターによってぬいぐるみのような容姿になっているということも無く、管理人ではない以上どのタイミングでやり直すのかもわからない。死んだらそこで終わりかも知れない。
その事実に、そしてこれから相対する幻想体への恐怖心によって背筋が寒くなってきた。
「そうみたいだね。幻想体...もしかしたら幻想体と友達になれたりするのかな...」
恐怖によってどんどん青くなっていく私とは対照的に彼女はこれから会うであろう未知の存在、幻想体に思いを馳せて楽しそうにしている。
「友達か...万に一つでもなれるかもしれないな。だけど、何事も注意が必要なんじゃないかな。この都市じゃ甘い言葉に乗せられて、気が付いたら手遅れ、なんてことも少なくない。どんな存在なのかよく洞察し、慎重に行動に気を付けたほうが良いと思う。」
まさか、自分には前世があって異世界から来た存在で、尚且つ管理人だったなんて言えるわけがなく信じてくれるはずもない。いやむしろ、精神異常者として見られてしまうのかもしれない。
それでも、私にできることはせめて警告をする事、それくらいなのだろう。
「確かに...気を付けて行動することにするよ。忠告ありがとうね。」
そして、そのまま事務員から資料を受け取りメインルームから出ようとする寸前、何かを思い出したかのように彼女が走りながら声をかけてきた。
「そ、そういえば名前を聞いてなかった...君の名前は?」
そういえばここ数年、名前を聞かれることなどなかったな。
そう思っていると、こちらも名前を聞いていなかったことを思い出す。
「あぁ...そういえばまだ名乗っていなかったな。私の名前はカイル。君の名前は?」
そう言うと彼女は笑顔で答えた。
「私の名前はエミリア、よろしくね、カイル君。」
「ああ...よろしくな、エミリア。」
しばらく廊下を進みながら資料に目を通していく。
だが、その資料には資料というには余りにもお粗末な量の情報しか載っていなかった。分かるのは精々名前だけ。どうやらここの支部に送られてばかりの幻想体らしい。
資料をもらった時から嫌な予感はしていたが、やはり私は当て馬なのだろう。
「F-03-120-X「未熟な罪の実」か...」
それが、これから作業することになる幻想体の名前だ。
1年間もの間投稿が開いてしまい本当に申し訳ありませんでした。
そしてこれからも、投稿が不定期になるでしょうし、もしかしたら失踪するかもしれません。ですが、少しずつでも進めていけたらいいなと思っています。
これからは1話ごとに1体の幻想体の管理を行っていきつつ、ストーリーを進めていく1話完結型の形式にしようかなと思っています。その途中途中に物語に大きな動きがある話が混ざっていく感じになると思います。(雰囲気的には現在はもう見れないとある外伝作品のような感じです。)
どうぞよろしくお願いします。