初めて人を殺したその日から、さらに数週間がたった、私が都市に転生してから早二か月程が経過したころ、私たちは相も変わらず事務所へ空き巣をしたり、スリなどを続けていた。だがそのほかにも仕事が増えるようになっていた。
その内容は、わざわざ依頼を受けて他の事務所の書類などを盗んだりする仕事などを引き受けたりする、名前を付けるとするなら泥棒代行のようなものだった。
なぜこんな仕事を始めるに至ったのか、
それはいつものように盗んだ品物を売れそうなものか、売れないものかで選別していたとき、
突然ミレイが
「これってさ、仕事にできないかな?」
と言い始めたのがきっかけだ。
一瞬私はミレイが言っていることが理解できなくて、分別している最中の手を止めてしまった。
泥棒の商売なんて確実に恨まれる事が確定しているようなものじゃないか
ただでさえこの前大変な目にあったんだ、しかもまだミレイは包帯が取れてない場所もある、そんな状態で泥棒の仕事なんて始めたら取り返しのつかない事になるんじゃ無いか?
前は命は助かったけど今度も助かるとは限らない。
もうやだよ、ミレイが傷つくのも、ミレイが危ない目に合うのも。
そんな思考が脳裏をめぐり、声が上手く出せない。全身が固まったかのように変に力んでしまい、体が強張る。
そんな様子にミレイは固まっている私の前に回り込んで私の顔を覗き込んできた。
「ん?どうしたの?大丈夫?」
そんなミレイの言葉でまわり続けていた思考が覚める。
「さすがにそれは....危ないんじゃないかな。泥棒を仕事にしたら恨んでくる人もいるんだし。なにより私たちを狙ってくるかもしれない」
「なによりも、前みたいなことになっちゃうかもしれない。
いや、取り返しのつかないことになってしまうかも....もしそんなことになったらわたしは...。」
いつの間にか手が震えていた。
もしミレイが死んだらと考えると全身が薄ら寒くなっていき、思考が乱れ、ぐちゃぐちゃになっていく。
この世界であった初めての暖かい人、私の光そのもの、そんな人が死んだら私はこの世界で生きていける自信がない。
そんな私の手を握って、ミレイは私の前に座り込んだ
「じゃあこうするのはどうかな!僕たちが特定されるのを防ぐために手紙だけのやり取りとかさ!仮に仕事を終わらせてもお金を払わない奴がいたらそいつの後ろから頭をパイプとかでポカーンってさ!どうかな!」
「...なるほど?それならいける...のかも?」
やはり不安感が拭えない、だがミレイの話を聞いていると何とかなるような気がした。
そうしてそのまま裏路地のネズミのたまり場、その一角に小さな張り紙を壁に貼り付けた。
最初の頃は依頼なんて来ず、閑古鳥が鳴いているようなありさまだったが、まれに依頼が張り付けられていることもあった。
だが依然としてそんな達成してくれるかすらわからない張り紙だけの泥棒代行なんて依頼する者も相当な物好きか、はたまたもう後がないような者だけだろう。
四日に一回張り付けられてれば良い方で1週間来ないこともあった。
たまに依頼が来てみればどうにも胡散臭い依頼も多く
なんとか依頼を達成しても報酬を払わない様な奴もいる。まあそんな奴らは物陰から待機していた私たちによって頭を殴られた後、身包みを剥がされ放置される羽目になるのだが。
その後、そいつがどうなったかについては知らない。
そうやって何度か依頼をこなしていくうちに人を傷つけることにも、泥棒自体にも抵抗感が無くなっていった。そうしてだんだんと都市に染まっていった。
空が段々と暗くなっていく時間に、二人で屋上から暗くなっていく曇り空をボーっと眺めている。
私は座り、ミレイは寝転がって時間を潰していた。
「うーん、やっぱりあんまりお客さん来ないよね、きたとしても大体がお金を払ってくれるような人じゃないし...持ち物から奪うにしてもみんなお金になりそうなものなんてそうそう持って無いし...」
「大丈夫かな...これ依頼を始める前のほうが良かったなんてことになって無いよね?」
「それはあるかも...まあ、多分そのうち依頼増えてくるんじゃないかな!」
そうやって時間をつぶしつつ、夜にまた事務所、だれかの家と見境なく、だが確実に1件だけを狙って盗みに入る。
より慎重に、絶対に見つからないように静かに、そうして裏路地の夜が来るまでに撤退する。そんな生活を繰り返していた。
そんなある日、いつものように張り紙を見てみる。いつもならそうそう依頼なんて来ないのだが、この日は一通の手紙が張り紙に張り付けられていた。それもやけに小綺麗な、そして良い紙を使った手紙だった。
その内容は、とあるレストランから貯蔵してある調味料を盗んでほしいという奇妙な依頼だった。
そのレストランはいつもの行動範囲よりも遠い所であったり、そのやけに小奇麗な手紙であったりなど、どことなく不安感を感じていたのだが、報酬と書かれた金額が自分たちが一週間に稼ぐ金額と同じで、欲望のあまり即断でその依頼を受けた。
いざそのレストランに向かうと、綺麗で上品な外観のレストランだった。
鍵も簡素なものでミレイの手にかかればあっという間に開けることができた。そうして何事もなく、調味料をバッグに詰め込みあっという間に依頼を完遂した。
翌日、ちゃんと指定の場所に指定してあった金額が置いてあった。
「ねぇ!これすごいよ!僕たちが普段稼いでる一週間分のお金じゃん!これでさぁ、いつもより美味しいご飯が買えるんじゃないかな!」
「確かに!でも大丈夫なのかな...いままでお金を払わない人のほうが多かったから逆に不安になるんだよね...」
「まあまあ、今はそんなこと考えないでさ!今日何食べるか決めようよ!私はお肉たっぷりのサンドイッチとか食べたい!カイルは何食べたい?」
「僕もミレイと同じ...サンドイッチ....いいかも...!」
そうやって、不安感も食欲と大量のお金を手に入れたという高揚感によって搔き消えてしまった。
その後、二日目も、三日目も同じように、同じ時間、同じ依頼先、同じ金額の依頼が張り付けてあった。思えば怪しい要素しかないのだが、目先の利益に目がくらんで何も疑うことなくその依頼をこなして、報酬を受け取った。それが獲物をおびき寄せるための餌であるとも知らずに
そして今日も依頼が張り付けてあった。
四日目にもなると慣れてくる。いつものようにレストランの近くで薄暗くなるまで待機して、いつも通り扉を開けて忍び込んで
その瞬間、綺麗なランプが私とミレイを照らした。店の中は明るく照らされ、壁に飾ってある小さな小物たちがキラキラと輝いて見えた。
そして店の奥には背の高い人影が
「.......ッ!!!」
その瞬間に全てを悟った。
この四日間は私たちをおびき寄せるために仕組まれた釣り餌だったのだと
「ミレイ!!!逃げるよ!!!」
そうしてミレイの方を振り返った。
「...え?」
ミレイは床に倒れ伏していた。
「え....ミ、ミレ....」
その直後、私も床に倒れた。
頭がくらくらしてしこうがまとまらない。
あしがうごかない
てもしびれておもうようにうごかない
「....ミ...レ」
必死にミレイの方に手をのばし、辛うじて彼の手に触れた後、私の意識は暗く暗く深い所へと引きずり込まれた。
都市で正規の方法以外でまともそうな依頼を出してたら十中八九罠ですよねぇ...
ましてや組織とも言えないようなただの張り紙なんかに依頼を出す相手なんて...ね?