「....は?」
目の前で見たものが理解できなかった。
いや、理解したくなかった。
できることならこの瞬間だけ目を閉じたかった。
目の前の光景、あのおとこの笑い声、どこからか流れる気持ち悪いくらいに美しい音楽、そして意地汚く輝く店の装飾
何も見たくなかった。何も聞きたくなかった。何も知りたくなかった。
だけれども私の目にははっきりと映り、聞こえてきて、光は目に入り込んでいく
全身から熱が引いて、頭の中がくらくらする
…理解できない、理解したくない。
なんで...ミレイが首だけになっている?
なんで?なんで?どうして?どうしてこんな
いや、これは嘘だ。あの男が私を弄ぶためだけの趣味のわるいうそだそうだそうにきまっているあのおとこのやりそうなことだミレイはほんとうはどこかでいきているそうだそうにちがいないそうじゃなかったらわたしは_______
__わたしは、今度こそ本当にひとりぼっち。
同じ思考が頭の中で延々と回っていく、他のことが考えられない
全身に鳥肌が立ち、震えが止まらない。どうか、どうかあの男の嘘であってほしい、おねがいだ、おねがいします。ミレイはわたしの希望の光なんです。
ミレイがいなくなったら...わたしには絶望しか残らない、どうやって生きていいのかわからない、生きれる気がしない
この地獄のような空間で私が出来ることは今目の前に映る光景に逃げ道をつけ、一縷の希望にすがるしかなかった。
ただ、そんな都合のいい嘘なんてものは存在しなかった
瓶の中で目を薄く開けていたミレイの目が店の光に反射し、まるで宝石の様だったその目が輝く
青が混じった綺麗な水色
あんなに綺麗な目はレプリカなんかで用意出来るものなんかじゃない。
あの首は偽物なんかじゃない
じゃあ、あれは本物のミレイの首
気持ち悪い位に頭が働く、考えたくないのに、何も知りたくないのに。
胸が苦しい、今すぐにでもこの現実から目を背けたい
「...うっ...うぐっ ... ヴェッ」
胸がドロリとした感情で埋め尽くされ思わずえずいてしまった。
そんな様子を見ていた男はニッコリと笑みを浮かべながら私の髪を掴み持ち上げると
『私の料理を吐き出すつもりで?そのような愚行、赦すことは出来ません!なんせ』
『あの料理は彼から作ったものですから』
私がこの場で最も聞きたくなかった言葉を言い放った。
....は?
私の耳が壊れたのか?それともアイツの口が壊れたのか?
いまあの料理が全部ミレイで出来ているって?
嘘だ、ウソだウソだウソだウソだウソだウソだウソだウソだウソだウソだウソだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだ
そうだ嘘に違いないだって
あの肉は、あのスープは
...スープ?
あのスープの味、どんな動物にも当てはまらない味だった
だとすれば私は
あのスープを
あの肉を
あのソルベだって
もしかしたらミレイが苦しんでいたのかもしれないのに、肉をそがれて、血を抜き取られて、泣き叫んでいたのかもしれないのに
私は呑気に食事なんて
あの料理を美味しいって
ミレイの肉を、血を、彼の痛みを
美味しいって
気持ち悪い
目の前の料理が、そして今まで何も知らずに食べていた自分そのものがとても気持ち悪い
目の前のステーキが悍ましい肉塊に見えた
吐き気がする
そんな感情が全身をめぐる、胃に収まっていた物がせり上がっていく
口の中に気持ちの悪い酸味が広がる
そうして私は吐こうとした
...だが、吐くことができなかった
「......ゔぇ、えええッ....ングゥ!?」
『言ったじゃないですか、私の料理を吐き出すことは許さないって』
あの男に口を抑えられ、吐き出そうとしたものを再び胃へ押し込められた
「んぶぅ.....ぐ......ヴェェ....」
気持ち悪い、きもちわるい、きもちわるい、きもちわるい
吐きたいのに吐くことができない、のどがいたい
「.....オ゛ァッ...」
しばらく口を抑えられ、押し込み、逆流した物を再び押し込んだ後、男は私の口から手を離した。
全身の力が抜けうなだれる
「っ……、ぅ……」
様々な感情が入り交じり、涙があふれてきた。私にできることはただ涙を流すことだけだった。
もう、限界だった。
だが、この晩餐会は終わらない
『あら?まだ肉料理が残っていますよ?ささ、お食べください!』
更に絶望的な言葉が投げかけられてきた
その言葉の意味を理解したくなかった。もう無理だった。いまはただ、泣かせてほしかった。
だが、世界はそんなに優しくない。
そんな様子の私を見て男は何を思ったのか椅子をテーブルに近づけ、肉料理に手を伸ばし
『自力で食べられないようなら、私が直々に食べさせてあげましょう!』
『さあ食べろ、私の料理を』
切り分けたそれを掴んで私の口に押し込んだ。
「嫌だ!もう嫌だ!助けて!たすけ.....むぐっ!?」
ステーキが私の口に入っていく
「ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛!!!!!!」
ミレイの一部が
ミレイの痛みが、苦しみが、料理になって
「ングゥ!!!オ゛ェェ!?」
救いはなく、どこまでも無慈悲に
『さあ、食べろ、飲み込め!さあ!!!』
「ン――――!!!!ン――――!!!!」
そうして段々と意識が蝕まれ
吐くことすら許されず、強引に口の中へ
「.....オ゛ォッ.....オ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッ!!!!」
ああ、とてもくるしい
とても
とても
くるしくて、さびしい
◆◆◆
…あれ、ボクは一体何をしていたんだろう。
たしか、あの時...あの男の人が...ボクの腕や足やお腹を削って...
たけど不思議と痛くなかったな...なんでなんだろう。
...ってことはボク今首だけ?何で生きてるの?*1
まあいいや、ここは何処なんだろう。
ボク達が捕まった場所に似てるけど...ちょっと違う?
…あ、カイルだ!なんで泣いているの?そんなに口元も汚して...まさかあの男に酷いことされた?
抱きしめてあげたいのに...慰めてあげたいのに、抱きしめてあげられる手が無い、何もすることができない、もどかしいな....。
…寒い、段々と寒くなってきた。
やっぱり、もう長くないのかな。
段々とこの体が死に向かっていることはなんとなくわかってる。だってさっきよりも眠くなってきたからね、一度眠ってしまったらもう起きれないことだってなんとなくわかる。
走馬灯っていうのかな?今までの思い出があふれてくる。
強盗に親を殺されたとき
一人だけ生き残った時
裏路地を独りぼっちでさまよったとき
そして、カイルと出会ったとき。
君と初めて会ったときは掃除屋がひときわ多い夜だったね。
あの時もいつものように寝ようとしてたら泣き声が聞こえたんだ。そしてドアを開けたら離れた所に君がいた。
助けるメリットなんか何もないのに気づいたらドアを大きく開けて君に声を掛けてた。
もしかしたら、寂しかったのかもしれない。ずっと一人でいることが。今思い返すと君との出会いは運命だったのかな...。
君と出会ってから、ずっと楽しかった。一緒に泥棒したり、一緒に逃げたり、ボクが危なかった時も勇気を出してボクを助けてくれた。
あの時の君の背中の暖かさ、今でも覚えてるよ。
一緒に夜明けを見たとき、あの時の朝日、凄くきれいだったよね。
君との思い出は全部宝物だな....。
…眠い、耐えられないほど眠くなってきた。
死ぬってこういう感覚なんだね。
なんだかちょっと寂しいな。
ボクが死んだらカイルは悲しんでくれるだろう
優しい君のことだから
...だけれどもボクは、君にこのことで折れないで生きてほしいな。ちょっぴり臆病だけど、ボクよりもずっと優しくて勇敢な君に。こんな残酷な世界だけれど、生きていればきっと、良いことだってあるはずだから。
そこに....ボクがいなくても、君なら...きっと幸せを掴むことだってできるよ....ボクが保証する...。
…こうは言ったけど...ボクも...もっと...生きたかったな...
…もっと君と...この世界を...一緒に生き...たかったな
いっしょに.....フィクサーに....なって...色んな....事件を....解決した...り...してさ
いっしょ...に...おいしい...もの...食べた...り...
い...しょに....いろ...んな...とこ...ろ...いったり....
いっ...しょに....
い...しょ...に...
い...
...
今まで...
...ありがとう
おやすみ、白い少年
地獄は続くよどこまでも
アンケートの結果、タイトルは『悪名高き都市に転生した男の話』に決定いたしました!皆様投票ありがとうございました!
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