「そういえば、結局なんで呼ばれたの?」
万魔殿からの帰りの電車で私はそう言った。
「ああ…それはね、イブキちゃんが会いたがってたから。」
マツリちゃんが苦笑いした。そんな目的で急用といって呼び出されたのか。
「マコトはイブキちゃんのこと大好きだからね。言うこと何でも叶えようとするんだよ。」
「とんでもない生徒会だね。」
あんな幼い子に生徒会としての権力を委ねているようなものじゃないか。いいのかそれで。
「私だってホシノちゃんが望めば大抵のことは叶えてあげるよ?」
私にそんなことをしてもらう資格はない。マツリちゃんにはただでさえ貰ってばかりなんだから。
「私はいいよ、それよりマツリちゃんは何かしてほしいこととかないの?いつもいろんな仕事してるしたまには手伝わせてよ。」
「適材適所だよ、ホシノちゃん。みんなそれぞれ得意なことがあるからね。ホシノちゃんも自分の得意なことをしてればいいんだよ。」
本当にそうだろうか。今日万魔殿に行って気付いたが、私はかなり甘やかされてる。
さすがにイブキちゃんほどではないけど、マツリちゃんの私への態度は、万魔殿の生徒たちがイブキちゃんに向けるそれとかなり似てる気がする。
「でも、もしマツリちゃんがいなくなったら…。」
そのとき、アビドスは完全に瓦解する。
「大丈夫だよ。」
優しい手が、私の頭をマツリちゃんの肩にそっと引き寄せる。…やっぱり甘やかされてる。
「ユメ先輩が亡くなったあと、いつもこうしてくれたよね。」
少しだけあの頃を思い出す。
先輩の遺体を発見してから眠ることも食べることもできずただ虚ろに日々を浪費していく私を抱きしめて、大丈夫、生きてほしいと私を肯定してくれた。あの日々を私は忘れない。
1人になりたいときは何も言わずに放っておいてくれた。シロコちゃんを拾ってきて、本当の家族のように過ごしてくれた。
でも、だからこそ。私は───。
マツリちゃんから、卒業する。
そう言おうとしたのに。またもや電車の停止音に邪魔された。
……なんか長くない?停止音。普段の2倍、いや3倍は長かった気がする。
「着いたね!帰ろう!!ホシノちゃん!!!」
駅のホームでマツリちゃんがここまで大きい声出してるの初めて見た。
「…マツリちゃん。マジックの件といい、私に何か隠してることあるんじゃない?」
少しだけカマをかけてみるか。
「そんなわけないじゃん。私とホシノちゃんの仲だよ?苦楽どころか喜怒哀楽全ての感情を分かち合った私とホシノちゃんの間で隠し事なんてできるわけないよ〜。」
あんまり深堀りしたくなかったけど仕方ない。こうなったら徹底的に追求しよう。
「そういえばマコトさんとは何話してたの?…何か、言えないこと?」
マツリちゃんの額から冷や汗がダラダラと垂れている。あまりにも反応が露骨すぎて逆に心配になる。
「なんとか言ってよ…。」
「ホシノちゃん、実はね───。」
マツリちゃんが何か言おうとしたとき、私たちのスマホの着信音が同時に鳴り響いた。
とっさに画面を確認すると、シロコちゃんから電話がかかってきていた。
「ちょっと失礼するね。」
「うん、こっちも。」
「もしもし、シロコちゃん。」
「ホシノ先輩、落ち着いて聞いてほしい。…セリカが誘拐された。」
ホシノには一回どっぷりと依存されてから、本人の気付きで別れを切り出されたいですね。