星型に寄せる狂詩曲(ラプソディー)~メモリーズ―秋― 作:飛鳥 螢
「それとも何」
杏は目を
「あんたもしかして、あたし達を木登りさせて下からスカートの中、覗くつもりなんじゃないでしょうね」
「だ、誰がそんなこと——」
杏の指摘に女の子達の冷たい視線を浴び、梶沼はたじたじとなって反論の言葉を詰まらせる。
すっかり杏のペースだが、こんなごり押しのようなやり方で強引にボタンの参加を認めさせても遺恨が残り、今回勝負をやった意味がなくなる。少なくともラグビー部の奴等が、そうした方が自分達にとっても都合がいいと思わせるような理由が必要だ。
「なぁ、相澤」
朋也はこの場を梶沼に任せて成り行きを見守っている、ラグビー部の元キャプテンに声を掛ける。
「この状況でボタンの参加を認めなきゃ、木の上のヒトデ取り放題のおまえ等の方が、多分六人でも圧倒的に有利だ。女子にハンデ貰って勝って嬉しいか?」
「………」
「これでこっちが負けたら、春原の奴絶対学校中に触れ回るぞ。ラグビー部の連中は女の子にハンデ貰わなきゃ勝てない腰抜け揃いだってな。そうなりゃおまえ等学校中の笑い物だ」
「っ!」
朋也の言葉に、相澤だけでなくラグビー部員全員が、カッとなって一斉に春原を睨み付ける。
それに「ひっ」と怯えて悪友の陰に隠れた春原は、朋也にジロリと無言の圧力を掛けられて、ビビりながらも声を振り絞って言い放った。
「そ、そうだぞっ、僕絶対言うからな。お、おまえ等が勝てるのは、ハンデ付きの女の子だけだってな」
——よし、よく言った春原。
心の中で、普段ビビりまくってラグビー部員に一言も言い返せない悪友を褒め、朋也は口元に皮肉っぽい笑みを浮かべて悠然と相澤を見る。
「どうする、相澤」
「くっ……」
ぎりっと奥歯を噛み締め、相澤は拳を握り締めた。
ここで藤林のペットの参加を認めなければ春原の事だ。負けたら絶対その腹いせに話を大げさにして喋り回るに違いない。下手するとそれに藤林姉も加担する可能性があった。男子よりも下級生女子に絶対的な人気を誇る。
全校の下級生女子にヒソヒソと噂されて白い目で見られるなど、想像しただけでも背筋が凍る。もし、それが現実となったら、二度と学校へは来れないだろう。
「……いいだろう。だが、譲歩もこれが最後だ。いいな、岡崎っ」
ビシッと朋也を指差し、相澤は唸るように言う。
「ああ、それで十分だ」
朋也は満足そうに頷いた。
「じゃ、話がまとまった処で勝負再開でいいわね」
その場を美佐枝がまとめて両者に確認し、風子が高らかに合図する。
「それでは、ヒトデヒート再開っ!」
それを受けてラグビー部の面々は一斉に校舎脇に立ち並ぶ木の下に散らばり、上を見上げてヒトデを探す。
「岡崎、僕達はどうするんだよ?」
一番ヒトデがありそうな場所をラグビー部の連中に押さえられ、不安そうに春原が訊く。
「おまえは木に登れるんだ。杏と藤林と一緒に連中に混じって木の上のヒトデを探してくれ」
「ええっ、陽平と一緒にあたし達が?」
「ああ、おまえはラグビー部への牽制だよ。春原一人だとビビッて、てんで役に立たないからな。それにおまえのその華麗な辞書投げの技を使わないテはないしな」
不満そうな顔をする杏に片目を
「藤林は目がいいみたいだから、さっきみたいに木の上のヒトデを見つけてくれ」
「し、しかたないわね」
「は、はい……」
朋也に信頼しきった笑みを向けられ、それぞれ顔を赤めらせて杏はそっぽを向き、椋は恥ずかしそうに俯いて応える。
それを見た春原が、ニヤニヤしながら
「なんか顔赤いんスけど」
「うっさいわね」
カッと更に顔を赤くした杏は、それを誤魔化すように春原を怒鳴り、その耳を思いっ切り引っ張って足許のウリ坊に優しく言い聞かせる。
「ボタン、いい。あんたは朋也の言う事をよく聞くのよ」
「ぷひっ」
「いいコね」
元気に返事するボタンに微笑み、そして「イデッ、イデデッ」と喚く春原を無視して朋也に声を掛ける。
「じゃあ、朋也。ボタンのコトよろしくね」
そう言うと、耳が千切れそうになる春原を引き連れ、杏は妹と共にラグビー部員が探索する並木へと急いだ。
「あの、それじゃあ、わたし達は何処を探したらいいんでしょう?」
やや呆気に取られながら杏達を見送った渚が、伺うように朋也に問う。
そこに残ったことみも智代も指示を待って朋也を見た。
「ああ、そうだな……」
三時までもう余り時間がない。その時間内で手際よくヒトデを手に入れるには、何処を探すかがネックになる。
ぽんっと渚の頭に手を乗せ、考え込むように応えた朋也は、まだそこにいた風子に声を掛ける。
「おい、風子。おまえ隠れんぼって得意か?」
「隠れんぼですか?」
唐突な質問に小首を傾げた風子は、次の瞬間胸を張って答える。
「もちろん大得意です。近所でもあの子はとても隠れるのが得意だとよく言われます」
——どんな近所だよ……
自慢げな風子に思わずツッコミたくなる自分を押さえ、朋也は訊いた。
「じゃあ、おまえ学校の校庭で隠れるなら、何処が一番隠れやすくて気に入ってんだ?」
「それはもちろん中庭です。手頃な繁みが校舎沿いにずっと続いていて、隠れながらの移動も可能です。それに足音とか響くので、人が来るとすぐ分かります」
「へぇ、意外と考えてんだな」
感心して朋也は呟いた。
無駄に広い前庭だったらどうしようかと思ったが、どうやら風子のお気に入りの場所は中庭らしい。
——そういや、今回こいつと会ったのも中庭の奥にある池の所だったし……
「じゃあ、物隠すなら、やっぱり中庭だよな」
「もちろんです」
軽い口調で自分と同意見の事を言う朋也に、思わず風子は返事する。
「よし、じゃあ俺達は時間まで中庭を探すぞ」
「ああ、風子最悪ですっ」
ボタンを抱えて渚とことみ、そして智代を連れて中庭へと向かう朋也に、風子はハッとして髪を振り乱して喚いた。
「またしても岡崎さんの巧みな話術に一杯食わされてしまいましたっ!」
——ったくもう、何なのよこの子……
それを横で見ていた美佐枝は、もはや忠告する気力もなく、片手で顔を覆って心底呆れ果てたように深く溜息をついた。