星型に寄せる狂詩曲(ラプソディー)~メモリーズ―秋―   作:飛鳥 螢

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ヒトデの集計

 二手に分かれた朋也達は、細長く広い中庭の繁みを片っ端からボタンと共に手分けして探していった。

 そして、三時きっかりに鳴るチャイムの音が学校中に響き渡る。

「ぷひっ」

「ああ、ボタンよくやったな」

 チャイムが鳴り終わる前に、ボタンが見つけたヒトデを朋也は受け取った。

「岡崎、随分と集まったな」

「ああ、後は春原達がどのくらい集めたかだが……」

 声を掛けて来た智代に、朋也が頷く。

 校内で見付けた数は、あの時ざっと見ただけでもほぼ互角だった。勝敗は校庭のヒトデの数に掛かっていると言っても過言じゃないだろう。

「大丈夫ですよ。杏ちゃん達がいますから」

 顔を曇らせる朋也に、渚はにっこりと請け合った。

「それに、幾つも風子ちゃんのサイン入りヒトデ見つけたから、ポイント高いの」

「そうだな」

 ことみの言葉に、朋也はふっと表情を和らげる。

 今更うだうだ心配しても始まらない。

「じゃ、校門に戻るか」

 ヒトデの詰まった袋を手に、朋也は渚達と共に歩き出した。

 その後にぷひっ、ぷひっとボタンも付いて来る。

 校門前には美佐枝と風子が既に待っていた。他の参加メンバーもぞろぞろと集まって来ている。

 全員が集まった処で皆が見守る中、美佐枝と風子の前にドンっと両者が集めた木彫りのヒトデが入った袋とバッグが置かれた。

 中にはヒトデがひしめき合い、両方共見た限りでは、甲乙付け難い量である。

「ヒトデが、こんなに一杯……」

 それを見た風子が、うっとりと独り夢想の世界に旅立って行く。

「うわっ、まただよ」

「おい、風子」

 春原がげんなりした表情(かお)になり、慌てて朋也が声を掛ける。

 だが、大声で呼ぼうが、肩を叩いてゆすったりしようが反応がない。今の彼女は大好きなヒトデに囲まれ、幸福の絶頂にいるのだろう。精神が妄想の世界の住人になり果てた風子は、今ここで何かされても全然気付きもしないんじゃないかと思うくらい、全くの無防備だった。

「ちょっ、ちょっとこの子大丈夫なの?」

 美佐枝は思いっ切り眉を(ひそ)める。

 どこかおかしな子だと思っていたが、ここまでヘンとは。流石にちょっと引いてしまう。

「ああ、あの時もこうだったよな」

 最初に会った時の事を思い返し、朋也と春原は顔を見合わせて疲れたように呟いた。

「どうしたらいいんでしょう」

「ほっといても大丈夫だ。ただこいつ、こうなると長いんだ」

 心配する渚に溜息混じりに応え、朋也は相澤を見た。

「仕方ねぇから、こいつほっといて始めるか」

「ああ、何から数える?」

「サインは一応風子に確認してもらった方がいいからな」

 何しろ風子のサインは、ミミズののたくった象形文字だから、ただの汚れや他の奴が書き込んだとしても自分達には判別が付かない。その違いはやっぱり書いた本人に確認してもらわなければ公平とはいえないだろう。

「それ除けて、サインなしの奴だけ先に数えよう」

「いいだろう」

 相澤がそれを了承し、立ち合い人の美佐枝が見ている前で、春原と大田原が運動会の玉入れの玉数えの要領で、それぞれが集めたヒトデを同時に一つずつ袋より取り出し、風子のサイン入りの奴は除けて数を数えていく。

「…——七十九、八十、八十一」

 そこでラグビー部のスポーツバッグの中に入っていたヒトデが切れた。

「へへっ、まだこっちにはあるぜ」

 勝ち誇ったような笑みを浮かべ、春原は袋から木彫りのヒトデを取り出した。

「八十二、八十三っと、これで終わり」

 そう言って春原は、ヒトデを入れていた袋をひっくり返して他にない事を確認する。

 後は風子のサイン入りのヒトデだけだが、それもこっちの方が多い。勝ったも同然である。

「くっ……。おい、大田原、ホントにもう無いのか!? もっとよくバッグの中を探してみろっ」

「う、うっすっ」

 寮の先輩である相澤に唸るように命じられ、慌てて大田原はバッグの中を探ったが、やはり何もない。ただ、外側に付いているチャック付きのポケットが何となく膨らんでいるように見える。

 もしやと思ってチャックを開け、ポケットの中に手を突っ込んで中の物を取り出してみると、それは木製の多少形が(いびつ)な星型をした彫刻だった。

「あ、あったっスっ」

「サインは? あるか?」

 大田原の喜びの声に、ラグビー部の連中は色めき立って訊く。

 サインがあるかないかで、取得ポイントが大きく違ってくる。

「ええっと」と、大田原はヒトデをひっくり返し、奇妙な表情になった。

「どうした?」

「これって、サインっスかね?」

 大田原はどうも自分では判断付きかね、問い掛けてきた相澤にそれを見せる。

 ラグビー部員だけでなく、朋也達も気になって問題のヒトデを覗き込んだ。

 そこにはミミズがのたくったような彫り跡の上に一直線というか、深い溝が彫り込まれてあった。

「これ、サインじゃなくて、ただの彫り損じた跡だろ」

「確かに、他のサインは皆サインペンの様なもので書かれていたが、これは明らかに木に直接彫られている」

 朋也に同意し、智代が他のサインとの違いを指摘する。

「いや、だが、こんなもの他のヒトデにはなかったぞ」

 と、相澤が食い下がる。現段階のポイントで負けている以上、これがサインでなければ負けは確定である。

「そうだ、別バージョンのサインかもしれないぞ」

「この彫り跡ののたくり具合なんて、サインと同じじゃんかよ」

 口々に他のラグビー部員達も、元キャプテンの肩を持つ。

「じゃあ、このざっくりと彫られた直線はなによ。こんなの他のサインには付いてないでしょ」 

 などと、両者一歩も譲らず言い合い、全く(らち)が明かない。

 そこへ——

「ああ、これはっ」

 できた人垣の下からずぼっと顔を出した風子が、大田原が手にしている木彫りのヒトデを見て驚きの声を上げた。

 どうやら漸く夢想の世界から戻って来たらしい。

「何処にあったんですか、これっ!?」

 問題のヒトデを奪い取るように掴み、風子はそれをじっと見つめながら誰にともなく訊く。

「ラグビー部のスポーツバッグの中に入ってたんだよ」

「そうですか……」

 朋也の答えにぽつりと呟き、風子は大事そうにそのヒトデを胸に抱きしめる。

 どうも、そのヒトデに並々ならぬ思い入れが風子にはあるらしい。

 これはひょっとしたらと、ラグビー部の面々はゴクリと喉を鳴らして一斉に朋也を見た。

 おまえが訊け、という意味らしい。

 ——なんで俺がっ。

 嫌そうに視線を逸らすと、他の連中も朋也が訊くのを待っている。

 どうも風子の相手は朋也という認識が、全員の間で既にでき上がってしまっているらしい。

 ——嫌すぎる認識だ……

 ハァッと息をつき、朋也は風子に声を掛けた。

「風子それ、表面にミミズがのたくったような彫り跡があるんだが、それってサインなのか?」

「違います」

 即答できっぱりと風子が言う。

 それを聞いてラグビー部の連中はがっくりと肩を落とし、春原や杏は勝ち誇った笑みを浮かべた。

 

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