星型に寄せる狂詩曲(ラプソディー)~メモリーズ―秋― 作:飛鳥 螢
勝ちが確定となったものの、他とは違うヒトデである。一応朋也は念の為に確認を取ってみた。
「じゃ、それはサインなしって事で、一ポイントでいいんだな」
「いえ、これは七ポイントです」
「は?」
思わず全員が耳を疑い、一斉に風子を見る。
「ちょっ、待ってよ風子ちゃん。それサインなしのヒトデなんだろ。なのに何で一ポイントでなくて、しかも七ポイントなんだよ!?」
慌てて抗議する春原に、風子は大きく頷きながらも主張した。
「そうです、風子はこれにサインしてません。ですが、これは特別なのでポイントも特別大サービスで七ポイントです」
——ポイント少なっ。
特別大サービスと言った割には半端なセコイ増量に、誰もが微妙な
呆れて肩を竦めた春原が、くだらなそうに言い返す。
「どこが特別なんだよ? 単に彫り損じた彫刻だろ」
「髪の色のヘンな人、最悪です」
むぅっと春原を睨み付けてぷいっとそっぽを向いた風子は、手に持つヒトデの表面についた彫り跡を見詰めて、懐かしむように言う。
「これは、風子の大好きな人達が協力して、風子の為に一生懸命彫ってくれた大切なヒトデなんです」
「………っ!?」
その言葉に、朋也と渚の脳裡に一瞬ある情景が浮かび上がり、二人は思わず互いに顔を見合わせた。
「——とても大切な想い出のヒトデですから、風子無くさないように秘密の場所に隠しておいたんです」
風子は愛おしむように表面の彫り跡を撫で、にっこりとしながら言葉を継いだ。
「でも、これを見るまですっかり忘れてたので、見つかって良かったです」
——大切なら忘れるなよっ。
途中までちょっと感動的だったのに、今の一言で台無しである。
「ですので、これを見つけてくれた人への感謝の気持ちを込めて、ラッキーセブンの七ポイントで決まりです」
あくまで七ポイントに
「あー、じゃあそのヒトデは七ポイントとして。風子ちゃん、こっちに分けて置いたヒトデのサイン。間違いないか確認してくれる?」
すっかり気の抜けた一同に代わり、立ち合い人の美佐枝がその場をまとめて風子に頼む。
「分かりました。風子が見てあげましょう」
風子は美佐枝が示した木彫りのヒトデの許へ行くと、その場にしゃがみ込んで一つ一つヒトデを検分していく。
「皆風子の書いたサインです」
「ちなみに、なんて書いてあるんだ」
何気なく朋也が訊くと、風子は自慢げに答えた。
「もちろん、『風子ヒトデLOVE』です」
——これの何処が?
——絶対読めねぇぞ。
——何処をどうやったって読めねぇ。
そこにいた全員が、同じことを思った。
「ま、まぁ、それはともかく、これで合計ポイントが出るでしょ」
気を取り直して言った美佐枝の言葉に、それぞれが合計ポイントを出して、両者は同時にそのポイント数を言った。
「「百八ポイントだ」」
見事にハモる。
「え?」
「マジか?」
あの七ポイントがあったとしても、勝ちは確実だと思っていた朋也達は驚きに目を見開いた。
「お、おいっ。その計算ホント合ってんだろうな」
「疑うなら、おまえが計算してみろよ」
詰め寄ってきた春原に、相澤は計算表を突きつける。
それを受け取り、実際計算してみる。
「えっと、一ポイントが八十一で、五ポイント四ヒトデだから……」
「二十ポイントだよ」
ぼそっと朋也が言う。
「あ、そうか。八十一と二十で百一ポイントで、特別ボーナスヒトデが一つで七ポイントだから——」
「百八で合ってるな」
「こっちも計算間違ってないの」
渋面を作って呟いた朋也に、ことみが応えるように言う。
「ということは、引き分けってことですね」
「ああ……」
渚の言葉に、朋也はやや呆然と応えた。
風子が特別ボーナスなどと言わなければ、六ポイント差で勝っていたというのに、同点だなんて想定外である。
これでは元の木阿弥だ。ヒトデヒートをやった意味がまるでないではないか。やっぱり風子が
——いや、まだ若干名いたか……
ちらっと、朋也は杏に視線を走らせる。
「じゃあ、終わったみたいだから、私は帰るわね」
「はい、美佐枝さん。どうも有難うございました」
渚が深々とお辞儀して礼を言う。
その横に立つ朋也に、相澤が声を掛けた。
「岡崎、今回は勝負がつかなかったが、次こそは決着つけるぞ」
「あ、ああ……」
——次なんてねぇよ。つか、つけるなら春原にしろ。
すっかり相澤にライバル視されてしまった朋也は、ラグビー部員を引き連れてグラウンド方面に去って行く彼をげんなりと見送った。
「じゃ、陽平。あたし達も行きましょうか」
にっこりと微笑み、杏はガシッと春原の腕を掴む。
「へ?」
「何ハトが豆鉄砲喰らったみたいな顔してんのよ」
「い、いや。行くって何処に? って言うか、この手は一体何なんですか?」
杏の笑みに物凄く嫌な予感がし、春原は腕を引き抜いて逃げたい衝動に駆られたが、全然腕が抜けずに恐怖に顔を引き
それにこれ以上なくにこやかに杏が応える。
「決まってるでしょ、この間新しくオープンしたケーキ専門店。あそこ結構美味しそうなのがたくさんあるし、店で食べる事もできんのよね」
「ぼ、僕今ケーキ食べたくないんですけど」
「別に見てるだけでもいいわよ。食べるのはあたし達だけで」
「じゃあ、僕が行く意味ってあるんですかっ!?」
杏の
それを当然の如く、平然と杏が言い放つ。
「あったり前でしょ。あんたが行かなきゃ、誰が代金払うのよ。ねぇ、朋也」
「ああ、そうだったな」
確か結果がどうなろうと
引き分けになった時の事まで考えていなかったのだ。勝てなかった以上、ラグビー部の連中にそれを肩代わりさせる事は勿論できない。こうなったら、自分で何とかするしかないだろう。春原が。
「ま、頑張れよ」
「そ、そんなっ。岡崎っ」
あっさり
「僕今金欠なの、おまえ知ってるだろっ」
「いや、忘れてた」
そう素っ気なく言い返した朋也は、ふと校舎の方に歩いて行く風子の姿を見つけ、ハッとなった。
「渚、おまえはここで待っていてくれ」
そう言うと、自分に見捨てられて愕然とする悪友に声を掛ける。
「おい、春原。少しはおまえを助けてやれるぞ」
「お、岡崎、おまえ……」
やっぱり持つべきものは友だと、悪友の優しい言葉に春原は思わずポロリと涙した。
——が、
「俺の分はいいぞ」
そう言い捨てて、朋也は風子を追って駆け出す。
「あ、あの、春原さん。私の分もいいですから、皆さんで楽しんで来てください」
慌ててそう言うと、渚も朋也の後を追って行く。
「って、何処に行くんだよ、岡崎っ、渚ちゃん!?」
代金の半分くらい持ってくれるのかと喜んだのに、単に行かないというだけだったとは。奢る相手が二人減った処で大差ない。というか、一番食い散らかしそうな杏がいる限り、何の助けにもならなかった。
「じゃ、そういう事で、陽平行きましょ」
「え、いや、だけどっ」
「そうだな」
去って行く朋也達の後ろ姿を眺めながら、智代もガシッと春原のもう一方の腕を掴んだ。
「折角奢ると言うのだから、ご相伴させてもらうのもいいだろう」
「えぇっ。アナタ、さっきいらないって言ってませんでしたか!?」
「気が変わったんだ。美佐枝さんも帰ってしまったし、他に用もないしな」
「そ、そんな……」
顔面蒼白な春原は、誰でもいいから救いを求めて視線を漂わせ、藤林妹を見た。
「あ、あの、私は——」
「勿論、椋も行くわよね。ことみも」
「う、うん」
姉に念押しされ、チラリと春原を見てとてもすまなそうに椋が頷くと、ことみは無邪気ににっこりと笑った。
「お友達と一緒にケーキ屋さんに行くなんて、とっても楽しみなの」
「あ……」
誰の助けも得られずに、春原はこの世の終わりのような
「では、決まりだな」
そう言うと、智代は杏と二人、がっくりと涙する春原を問答無用で引きずって歩きだした。