星型に寄せる狂詩曲(ラプソディー)~メモリーズ―秋―   作:飛鳥 螢

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真実の行方

 どうしたらいいか分からず狼狽(うろた)えていた渚は、走り去る風子の後ろ姿にハッとなった。

「あっ、ふうちゃんっ、待って——」

 慌てて後を追おうとする。

 だが、朋也は彼女の肩を掴んでそれを止めた。

「朋也くん」

 問うような視線を向ける渚に、朋也は駆け去る風子の後ろ姿を眺めながら、ポツリと呟いた。

「いいんだよ、これで」

「でも、まだあの記憶の事をちゃんと聞いて——」

「風子の奴、言ってただろ。今はまだ知る必要はないって」

 渚の言葉を遮り、言い聞かせるように朋也は言った。

「それがあいつの望みなら、俺達はそれを叶えてやらなきゃな。あんな下手な嘘までついて誤魔化そうとしたあいつの想いを」

「え……、嘘?」

「ああ、あいつ俺にケンカ売ってきただろ。なんでか分かるか?」

「いえ」

 渚は憂い顔で(かぶり)を振った。

「急にふうちゃんが朋也くんにあんな事言うので、わたしビックリしてしまって……」

「あれ、多分俺達から逃げる為の口実だよ」

「え?」

 わたし達から逃げるって……

 どうしてそんな事を風子がするのか、渚には理由(わけ)が分からなかった。

 唖然とする渚に、朋也はふっと表情を和らげる。

「おまえ頑固だからな。本当の事聞くまで絶対に諦めないだろ」

「はい、もちろんです。それがたとえどんな事であっても、知らないでいるよりはずっといいですから」

 両手を胸の辺りで重ね合わせて目を伏せ、実感を込めて渚は言った。

 それを見て、朋也が眉根を寄せる。

「おまえ、まだあの事で責任感じてるのか?」

 自分の為に、オッサン達が折角叶えた夢を諦めた事を。

「いえ、あの、その——少し……」

 何度もおまえの所為じゃない。自分達が決めた事だから気にするな。と、お父さん達に言われたけど、それでもわたしが原因で二人が夢を諦めたのは事実なのだ。気にするなと言われても無理だった。

 だからこそ秋生達は、まだ幼くて憶えてなかった渚に、ずっとその事を隠し通してきたのだ。真実を知ればきっと渚は、自分の所為で両親は夢を諦めたのだと責任を感じ、自分を責めるだろうと分かっていたから。

 しゅんとする渚の頭に、ポンと朋也は手を乗せた。

「今はおまえがオッサン達の夢なんだ。そのおまえが何時までもそんなんじゃ、オッサン達の方が逆に責任感じてしまうだろ」

「は、はい。すみません……」

 更に項垂(うなだ)れて渚は謝った。

「だから、謝るなって。何でも自分が悪いと思うのは、おまえの悪い癖だぞ」

「すみません」

「おまえな……」

 落ち込む渚を元気付けようと軽い口調で言ったのだが、全然効果は無かったようだ。

 仕方なさそうに朋也は小さく息をついた。

「おまえがそんなだから、風子も逃げるしかなかったんじゃないか」

「え?」

「言えないのは、それを知っておまえがショックを受けると思ったんだろう」

「………」

「隠された真実ってのは、何時だって過酷なもんだからな」

 その事を、渚はあの学園祭の時に身を持て知ったのだから。

「でも、それなら、わたし尚更知りたいです」

 ぐっと手を握り締め、渚は真摯な眼差(まなざ)しを明也に向けた。

「そんなものを、ふうちゃん一人に抱え込ませておきたくないです」

「渚……」

 ああ、そうだ。こいつはそういう奴だった。何時だって他人事(ひとごと)に一生懸命で、放っておけないんだ。

「だったら、おまえがそう思っている限り、いずれ分かる時が来るだろ」

「でも——」

「風子は『今はまだ』って言ったんだ」

 反論しかけた渚の言葉を遮り、朋也は言葉を継ぐ。

「それって、絶対教えないってワケじゃない。何時かその時が来れば嫌でも分かるって事だ。なら、風子の意志を尊重して、その時まで待っててやろう」

 そう、拍子で思い出したこの記憶も、多分いずれまた忘れてしまうのだろう。まるで何もなかったかのように。だけど、たとえそうなったとしても、わざわざ無理して思い出す必要はない。いずれ知る時が来る、その時まで。

 だから、あの時風子の嘘に付き合って腹を立てたフリをした。何となく風子がそれを望んでいるように思えたから。

 言葉を呑み込み、ふっと垣間見せた淋しげな表情で『今はまだ——』と言った風子の姿を思い出し、朋也は渚に言い聞かせる。

「風子の為にも、な、渚」

「はい……」

 完全に納得したわけではないが、朋也にそれが風子の為なのだと言われたら、渚は頷くしかなかった。誰よりも風子の事を知っていると感じさせる朋也が言うのであれば。

「わたし、ふうちゃんに無理()いするような事を言ってしまいました。気を悪くしたりしてないでしょうか」

 もう風子の姿が見えなくなった中庭の奥を見詰め、渚が表情を沈ませる。

「大丈夫だ。風子の事だからな、次会う時はケロッとしてるさ」

「そうでしょうか?」

「ああ、あいつの記憶力はニワトリ並だからな」

 三歩歩けばすぐ忘れる。と、風子が聞いたら憤慨しそうなことをさらっと言って、朋也は渚の頭を優しく撫でた。

「そろそろ俺達も帰るか。思った以上に時間が掛かっちまったからな。きっとオッサン達首を長くして待ってるぞ」

「はい」

 頭の上に朋也の温かな手の(ぬく)もりを感じながら、渚はにっこりと微笑んだ。

 

 

 次の日の朝目を覚ました時、朋也の予想通り二人は空き教室での記憶を失っていた。その事で風子と話したあの中庭での事まで、それに関係する全てを。そんな事初めからなかったかのように、何の疑問も感じること無く二人は日常へと戻っていった。

 そして数日後、朋也が久しぶりに訪ねた寮の春原の部屋に、何故か春原唯一の財産とも言えるCDラジカセが姿を消していた。

 それから春原に実家からの仕送りが届くまで、男子寮内は平穏な日々を満喫していたという。

 

〈星形に寄せる狂詩曲(ラプソディー) 了〉

 




 自分では、どう足掻いた処で春原の(いじ)られ属性を何とかするのは無理でした。
 まあ、風子が出て来た時点で終わってましたが。タイトルも「星型に~」と最初から乗っ取られてるし。(それしかタイトルが思いつかなかった)
 実際春原を弄り倒すのは楽しいし、春原からそれ取ったら何も残らないよね。(開き直り)

 次も秋のお話です。


 渚の両親が自分達が一度叶えた夢を諦めた理由については、夏の話の「まどろみの向こう」でちょこっと触れています。気になる方はそちらも読んでみてください。渚はそれを学園祭直前に知って酷くショックを受けました。
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