星型に寄せる狂詩曲(ラプソディー)~メモリーズ―秋―   作:飛鳥 螢

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人手を集めて

「で、その風子って子、人手を集めて何するって言ったの?」

 朋也から実に大雑把な経緯(いきさつ)を聞いて、杏が訊き返す。

「それが分からないから困ってるんだ」

 頭を掻き、朋也はぼやいた。

 あの時、自分達もそれを訊いたのだが、当の本人が「それはですねぇ……」と言いかけて手に持つ星型の彫刻に目を向けた途端、うっとりと夢想の世界に旅立って、中々現実世界に戻って来なかったのである。

 声を掛けたり、体をゆすったりとあれこれ試してみたが全然効果はなく、お陰で休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴っても、朋也達はそこより動けずにいたのだ。

 なのに漸く風子がハッと我に返ったと思ったら、「それではヒトデが集まったら、また風子をお呼び下さい」とだけ言うと、さっさと身を翻して旧校舎の中に駆け込んで行ってしまったのだ。

 慌てて後を追ったが、どこにもその姿はなく、まるで豆狸に化かされたように呆然と朋也達は少女の消えた旧校舎の廊下に立ち尽くしたのである。

 それから休み時間や放課後に一年に顔が利く春原が、その子が何処のクラスか突き止めようと色々聞き込んでみたものの成果はなく、結局人手を集めて何をするか分からずじまいに終わったのだった。

「仕方ねぇから、取り敢えず風子が言ったように人手を集めて、それから呼び出して話聞いてから、どうするか決めようと、俺は思ってたんだが……」

 そこまで言った朋也は、ちらっとラグビー部員と睨み合う春原に視線を走らせて苦り切った表情(かお)になった。

「あの馬鹿、どんな()かも全然分からねぇってのに、人手さえ集めればもう勝った気になりやがって、勝手にラグビー部の連中まで呼び出しやがったんだよ」

 そして、今に至るという事だった。

「先走りもここに極まれりねぇ」

 額に手を当て、杏は呆れ果てて盛大に溜息をついた。

「でも、わざわざ来てやったんだから、どうなろうと(おご)りの件チャラはナシよ」

「ああ、判ってる。好きなだけ春原にタカってくれ」

 シビアに確約を取る杏に、自分の(ふところ)が全然痛まない朋也は、実にお気楽に請け合う。

 それを聞いて、杏は俄然張り切った。

「じゃあ、もう人手は集まったんだから、さっさとその子呼んで片付けるわよ」

「いや、まだだ。もう一人肝心なのが来てないんだ」

「誰よ?」

 杏は眉を(ひそ)めた。

 自分達の方はもう主要メンバーは揃っている。という事はラグビー部の方にまだ来てない奴がいるということか?

「美佐枝さんだよ」

 朝、春原からラグビー部の連中も呼び出しておいたと聞いて、慌てて朋也が来てくれるように頼み込んだのだ。

「美佐枝さんって、確か渚のお父さんに頼まれて野球やった時いた——」

「はい、相楽美佐枝さん。この学校の男子学生寮の寮母さんです」

「そして、我が校初の女性生徒会長でもある」

 朋也が挙げた名に杏が思い出して呟くと、それに渚が答え、更に智代が補足する。

「私は春原の報酬などどうでもいい。今日は美佐枝さんが来られると聞いて来たんだ」

 この高校の現生徒会長である智代は、伝説と呼ばれる名生徒会長だった美佐枝を心の底から尊敬していた。

「でもなんで……」

 と言いかけて、杏はハッとした。

「まさか彼女もこれに参加するの?」

「いや、美佐枝さんは審判っていうか、見届け役だよ」

 (かぶり)を振り、朋也は説明した。

「今回のは、()わば寮内のいざこざだからな。一応美佐枝さんも知っといた方がいいと思ったんだ」

 どう決着が付くにしろ、これで美佐枝さんが頭を悩ませている寮内最大の問題が解決する事になるのだから。

 そう説明しながら坂下に目を向けた朋也は、そこに猫を抱いて急いで駆けて来る、ジーンズに半袖のワイシャツの上にエプロンを付けた女性を見つけ、表情(かお)を綻ばせた。

「噂をすれば何とやらだ」

「美佐枝さんっ」

 嬉しそうに渚が呼び、その声に誘われて美佐枝は朋也達に走り寄る。

「待たせちゃって悪かったわね。仕事の切りが中々つかなくて」

「あ、いえ、俺の方こそ、無理言って来てもらってすいません」

 すまなそうに詫びる美佐枝に、朋也も謝った。

「で、一体私に何を見届けてもらいたいワケ?」

「ああ、春原」

 朋也は美佐枝が来たと同時に、ぞろぞろとラグビー部員達と共にやって来た金髪の悪友を呼ぶ。

「風子呼び出してくれ」

「オッケー」

 春原は木製の星型の彫刻を取り出した。

「あ、でもここ塩水も水もなかったっけ」

「別にいいだろ、あん時だってかなりいい加減だったのに現れたんだから」

「じゃあ、十分待ってと」

「それもいいから、今すぐ呼び出せ」

 だいたいそれ自体間違っているのに、そんな時間の無駄をやって、これ以上待ちくたびれてシビレを切らしてイライラしている杏や、忙しい美佐枝さんを待たせる訳にはいかない。

「……わかったよ」

 せっつく朋也を不満そうに見やり、春原は手にした彫刻を撫でながら名を呼んだ。

「風子っ」

 同時に(つど)う一同の目の前に、ボンっと盛大に白煙が湧き起こる。

「なっ!?」

 狼狽(うろた)えて思わず皆は手で鼻と口を押さえ、目を細めてそれを見た。

 そして、白煙が消えると、そこに今まで居なかった筈の少女が一人立っていた。

 

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