星型に寄せる狂詩曲(ラプソディー)~メモリーズ―秋―   作:飛鳥 螢

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ヒトデヒート

 呆然とする一同に、カラフルな三角帽を被った少女は、星型の彫刻を(かか)げて高らかに言い放つ。

「風子、参上!」

「ちょ、ちょっとこの子って——」

 目を丸め、杏は思わず朋也に振り返った。

 渚や椋にことみ、そして智代も同様に唖然としている。彼女達も朋也と共にこの下級生には何度か会った事があったのだ。

「……ああ」

 杏の言いたい事を察し、朋也は疲れたように溜息混じりに頷いた。

 春原は昨日クラスを突き止められなかった事で、やっぱり風子は自分がコレで召喚した少女だと思い込んでしまったようだが、そんな事ある訳ないと朋也は思っている。

 とはいえ、どういう理由(わけ)かこうやらないと姿を現さない上、こんな凝った真似までして、この少女が何故何の関わりもない自分に手を貸そうとするのか、皆目見当が付かなかった。

 実際、この下級生が出て来て事態が悪化したことはあっても、好転したことは一度もないし。

 だから朋也は話を聞いてから、どうするか決めようとしたのに、その辺の事情を知らない春原の先走りの所為で、全ての予定が狂ってしまったのだ。

 無事登場を果たした風子は、満足げに星形の彫刻を抱えて改めて周りを見回し、自分が見知らぬ大勢の人に注視されている事に気付くと、慌てふためいて朋也に駆け寄った。

「岡崎さんっ。何なんですか、この人達」

「何って、人手だよ。一昨日おまえ言ってただろ。人手を集めろって」

「違います。風子の言ったヒトデはこれの事です」

 きょとんとして言う朋也に、風子はずいっと手にした彫刻を突き出した。

「は?」

 一瞬意味が理解できず、朋也は間の抜けた声を上げて、まじまじとその星型の彫刻を見た。

 他の者も同様で、一様に(いぶか)しげな表情になって首を傾げる。

 そして、ある事に気付いた朋也は、疑わしげな表情をして目の前の手彫りと思われる木製の彫刻を指差して風子に訊く。

「もしかしてこれ、『星』じゃなくて、海にいるあの『ヒトデ』なのか?」

「当然です。なんで風子が星なんか持ってなきゃならないんですか。訳分からないです」

「ヒトデの方が訳分かんねぇよっ」

 思わず怒鳴り返し、朋也は額を押さえてぐってりとなった。

 「ひとで」は「ひとで」でも「ひとで」違いだったなんて。

 ——こんなに人集めてどうすんだよ……

「って、待てよ。おまえコレ集めろって、一体どうやって集めるんだよ」

 どう見ても手彫りの彫刻だ。大体こんなヒトデの彫刻、店に売っていても不気味すぎて買う奴などいないだろう。この少女を除いて。

「まさか、これを彫れとか言うんじゃないだろうな?」

「その心配は無用です」

 ちっちっちっと立てた人差し指を左右に振り、風子が偉そうに言う。

「既に風子の手によって彫られた可愛いヒトデ達が、この学校のいたる所に隠してあります」

「………」

 この学校のいたる所に、この手彫りのヒトデが……

 振り返って校門の中に目を向け、思わず学校のあちこちにこっそりと置かれたそれを想像した一同は、何とも言えない表情(かお)になる。

「皆さんにはこのヒトデを集めてもらい、一番多くヒトデを集めた人が優勝です。なお、中には風子のサイン入りの『当たり』も存在します。それを手に入れた人はポイントが高くなりますので、張り切って探すとよいでしょう」

「成程、要は宝探しみたいなもんか」

 風子の説明を聞いて頷き、朋也はそこに(つど)う一同の顔を見渡した。

「皆聞いた通りだ。これから春原とラグビー部、二つのグループに分かれて木彫りのヒトデ探しをする。時間は三時のチャイムが鳴り終わるまでだ。ヒトデ一個一ポイント。風子のサイン入りのヤツは五ポイントで計算し、合計ポイントが高い方が勝ちだ。そして、負けた方が勝った方の言う事を無条件で聞く。これでどうだ?」

「それでいいぜ、岡崎」

「ああ、俺達も異存はない」

「まぁ、どちらもそれでいいのなら、私も構わないけど」

 春原とラグビー部で寮生の三年が代表して賛同の声を上げ、それに美佐枝が同意する。

「じゃあ、相澤。ラグビー部は参加メンバーを決めてくれ」

 朋也はさっき声を上げた元ラグビー部キャプテンに声を掛ける。

「参加メンバー?」

 朋也の言葉に、ラグビー部の面々が怪訝な顔をする。

「こっちは七人なんだ。そっちが全員でやったら不公平だろ」

「分かった。こっちも参加を七人にすればいいんだな」

「いや、六人だ」

 朋也は(かぶり)を振った。

「こっちは内五人は女子なんだ。運動神経や体力的にも男子に劣るし、ハンデ貰わないと公平とは言えないだろ」

「それは……」

「それともラグビー部は、か弱い女子相手にハンデ付けたら勝つ自信ないか?」

「——六人選べばいいんだな」

 挑発的な朋也に、チラリと杏と智代に視線を走らせた相澤は、ぐっと拳を握り締めて唸るように確認を取る。

 若干二名程か弱いとは言えないんじゃないかと思うが、そこまで言われては受けるしかない。

 朋也が頷くのを見て部員達に向き直り、相澤は寮に住むラグビー部員を中心に参加させる者の名を呼んだ。

石動(いするぎ)内海(うつみ)江崎(えざき)大田原(おおたわら)梶沼(かじぬま)

「うっす」

 名を呼ばれた部員達が、威勢よく返事を返す。

 それを見ながら、こそっと春原が朋也に耳打ちした。

「さすが岡崎、ハンデ付けさせるなんて、うまくやったじゃん」

「事実だからな」

 勝ったも同然のような顔をする春原に、朋也は渋面を作って素っ気なく言う。

 本当は六人でも多いくらいだ。杏と智代はともかく、後の三人はごく普通の女の子なのだ。どのくらいヒトデが隠されているか分からないが、もし数が少なくなってヒトデの争奪戦にでもなったら、あのガタイのラグビー部員を相手にするのは圧倒的に不利である。

 それを春原は全然分かってないところが腹立たしい。大体こいつが先走りしなければ、もっと余裕を持って事を有利に運ぶこともできたのに、こんな苦し紛れの()しか打てず、朋也としては不本意この上もなかった。

 ——ったく、一体誰の所為でこんな苦労をしてると思ってるんだ。

 この能天気な顔を見ていると、思わずぶん殴りたくなる朋也だった。

 とにかく勝負は前半、どれだけヒトデを集められるかに掛かっている。

 朋也は春原達と、相澤は選出された五人のラグビー部員と共に校門の前にずらりと並び、何時でも駆け出せるような姿勢を取る。

「渚」

 一番端に並んだ朋也は隣にいる渚に声を掛けた。

「あまり無理はするなよ」

「はい、朋也くん。春原さんの為に、わたし精一杯頑張ります」

「あぁ、まあ程々にな」

 ぐっと胸の前で拳を握り締めて意気込む渚に、朋也は小さく嘆息する。

 他人事(ひとごと)だと、やたらと一生懸命になるから注意したのに、無駄だったようだ。

 そんな二人にとことこと近寄ると、風子は渚にニコッと嬉しそうに微笑(わら)った。

 そして、不思議そうな表情をする渚と朋也の間に立ち、手に持つヒトデの彫刻を掲げて高らかに宣言する。

「では、ヒトデヒート、スタートっ!」

 それを合図に、ヒトデ探し競争の参加者全員が一斉に校門の中に雪崩込む。朋也を除いて。

「朋也くん?」

「岡崎、どうした?」

 動かない朋也に気付き、渚と智代が立ち止まって振り返る。

 春原達も、先に行くラグビー部の連中を気にしながら足を止めて朋也を見た。

「おい、岡崎。どうしたんだよ? 早く行かないと、ラグビー部の連中にみんな取られちまうよっ」

「まあ、待てよ」

 ()かす春原にそう返し、朋也は校庭に散らばるラグビー部の連中を見やってから、小首を傾げて自分を見る風子に向き直った。

「風子、一つ訊き忘れてたんだが、まず校舎に入って、モノを隠すとしたら何処が一番隠しやすいと思う?」

 と、さりげなく訊く。

 それに風子は胸を張って答えた。

「それはもちろん下駄箱の中です」

「成程、参考になったよ、サンキューな」

 きっぱりと言う風子に礼を言うと、朋也は皆に声を掛けた。

「おい皆、まずは生徒玄関の下駄箱だ」

 一同は大きく頷き、揃って生徒玄関へと急ぐ。

 渚と共に駆け去る朋也の後ろ姿を呆れ顔で見ながら、美佐枝は風子にボソッと呟いた。

「今の、思いっ切り隠し場所バラしちゃってるわよ」

「ああっ、失敗ですっ!」

 美佐枝の指摘に、風子は頭を抱え込んで声を張り上げた。

「岡崎さんの高度な誘導尋問に引っかかってしまいましたっ」

「高度って……」

 岡崎はただ普通に訊いてただけで、それにあっさり答えてしまう方が、抜けてるだけだと思うけど……

「とにかく、公正を期するなら、今の情報ラグビー部の方にも教えた方がいいわね」

 溜息混じりにそう言うと、美佐枝は参加メンバーに選ばれずに待機していたラグビー部員達に声を掛ける。

「今の聞いたでしょ。校庭に散らばっているラグビー部の連中に知らせて来て」

「うっすっ、美佐枝さんっ」

 勢いよく返事を返すと、残ったラグビー部員も全員校門内に駆け込んで行った。

 それを見送り、美佐枝は頭を抱える一年の女子生徒に視線を向ける。

「えっと、風子ちゃんだっけ?」

「はい」

「いい、二度と岡崎の口車に乗っちゃダメよ」

「もちろんです。風子は近所でも、あの子はとても口が固いとよく言われます」

「そ、そう……」

 一体どんなご近所なのよ……

 ハァッと嘆息し、美佐枝は校門の中に目を向ける。

 その腕の中で、彼女の顔を見上げた虎縞模様の猫が、呑気にニャァと鳴いた。

 

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