星型に寄せる狂詩曲(ラプソディー)~メモリーズ―秋―   作:飛鳥 螢

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生徒玄関での攻防

 生徒玄関に駆け込むや否や、朋也達は手分けして端から順に下駄箱の扉を開けていった。

「あ、朋也くん。ありました」

「こっちもよ」

「一つ、見つけたの」

 下駄箱の列のあちこちから次々と声が上がる。

 幸先が良い出だしである。

 ——と、

 相澤がラグビー部員を引き連れ、憤怒の形相で生徒玄関内に駆け込んで来る。

「岡崎っ、隠し場所聞き出して抜け駆けするとは卑怯だぞっ」 

「俺は別に隠し場所なんか一っ言も訊いてないぞ」

 詰め寄る相澤に、朋也は意外そうな顔をして応える。

「ただ、モノを隠すなら何処が隠しやすいか、風子に意見を求めただけだ」

 それを卑怯呼ばわりされるのは心外だった。

「そんな詭弁——」

「岡崎、あったぜ」

「ここにもありました」

「ああ、その調子で探してくれ」

 一年の下駄箱から上がった春原達の声に、余裕顔で朋也は声を返す。

「くっ……」

 既に岡崎達は次々とヒトデを見つけている。文句を言っている場合じゃない。

 唇を噛みしめ、相澤はぎっと朋也を睨んでラグビー部員に号令を掛ける。

「参加者以外は、全員校舎の方から下駄箱の間にスクラムを組めっ」

「うっすっ」

 威勢よく返事を返し、ラグビー部員は一旦下駄箱を通り抜けて中に入ると、一同一糸乱れずに下駄箱の間の通路にスクラムを組む。

 何をする気なのかと訝る朋也の前で、相澤は声を張り上げた。

「トライっ」

「おーっ」

 元キャプテンの声に、肩を組んで横一列に通路一杯に並んだラグビー部員が、頭を突き出すように通路の中に向かって怒涛の如く前進する。

「ちょっ、ちょっとっ!?」

「うわ、何すんだよっ」

 ラグビー部員の壁に押され、ヒトデを探していた杏達は次々と下駄箱の通路の外に追いやられる。

「きゃぁっ」

「渚っ!?」

 ラグビー部員の掛け声と共に、下駄箱の間から聞こえてきた悲鳴に朋也はギクッとし、慌てて通路から押し出されてきた渚の許に駆け付けた。

「大丈夫か?」

「は、はい。皆さんが急に押し寄せて来たので驚いてしまって」

 胸に両手を当てて大きく息をつくと、渚は下駄箱の通路の方を見た。

 通路はラグビー部員の壁によって完全に塞がれ、その後ろで参加メンバー達が次々と下駄箱の扉を開けて中を覗き込む。

「あったぞっ」

「おっ、ここにもひとつ」

 と、隠れているヒトデを見つけていく。

 だが、朋也達は立ちはだかるラグビー部員の壁に阻まれ、下駄箱に近づくどころか、反対側に回る事も出来ずにただ指を(くわ)えて見ているしかない。

「おいっ、おまえ等卑怯だろっ。この勝負(ヒトデヒート)におまえ等が参加できんのは六名だけなんだぜっ」

「だからヒトデ探しは俺達だけでやってる」

 抗議の声を上げる春原に、相澤は下駄箱の中を確認しながら嘲るように言う。

「他の奴等は単にラグビーの練習をしてるだけで、手は出してないぞ」

「何言ってんだよっ」

「やめろ、春原」

 ここで言い合っても時間の無駄だ。ヒトデは手に入らない。

 ——ここは諦めて、別の場所を探すか……

 春原を制し、朋也はこの状況から最善の方法を思案する。

 だが、ここを通らなければ校舎内に入れない。とはいえ、時間が限られている以上校庭は広すぎて探すには効率が悪かった。時間のロスになるが、外から回って渡り廊下から校舎内に入るか……

 そう考えを巡らせていると、智代が大きく頷いてぽつりと呟いた。

「成程……」

「智代?」

「坂上さん?」

 怪訝そうに朋也達が問うような視線を向ける中、智代はラグビー部員に向かって口を開いた。

「部活の一環というのであれば、無下にやめろとも言えないが、ここは大勢の生徒が利用する公共の場だ。他の生徒の邪魔になるような行動は慎んでもらいたい」

 じろりと目の前に肩を組んで立ち塞がるラグビー部員達を一瞥して相澤を見据え、凛と言い放つ。

「即刻スクラムを解いて解散しろ。でなければこちらとしても(しか)るべき処置を取らせてもらう」

 流石に生徒会長の言葉だけあって重みがあり、春原とは段違いの威圧感である。

 スクラムを組んでいるラグビー部員達は息を呑み、伺いを立てるようにヒトデを探す手を止めた元キャプテンに目を向けた。

 石動達も思わずヒトデ探しを止め、固唾を呑んで成り行きを見守る。

「これは俺達寮生の問題で、生徒会には何の関りも権限もない筈だが」

「ああ、確かにこの件に関して生徒会は無関係だ」

 相澤の言葉を肯定して智代は言葉を継いだ。

「だが、ここを利用する生徒の一人として、迷惑極まりない行為を見過ごす訳にはいかない」

 と、前に出る。

 それに気圧(けお)されて、ラグビー部員達は一瞬怯んだが、それでもスクラムを解こうとしなかった。

 相澤も表情を硬くし、黙然と智代が何をする気なのか様子を窺う。

 それを見て、智代は小さく嘆息する。

「仕方ない。できればこんな真似はしたくはないのだが……」

 そう呟くと、いきなり実力行使に出た。

 智代の足が目にも止まらぬ速さで動く。

 ドスッ、バスッ、ドカッ、ドゴッ………

 同時にスクラムを組んだ部員達が、鈍い音と共に端から順に宙を舞う。

「おぉっ……」

 相澤達ラグビー部の参加メンバーは驚愕の表情で呆然とそれを見やり、渚や椋、それにことみも目を丸めた。

 そして、普段自分がその目に遭っている春原は、自分が蹴られた時の事を思い出してか痛そうな表情(かお)になり、それを見慣れている朋也と杏は感嘆の声を上げる。

 智代が足を下ろして一息ついた時には、彼女の前にあったラグビー部員の壁は綺麗さっぱりなくなっていた。

「よし、皆残りはもらうぞっ」

 すかさず朋也が声を上げ、そこに立ち並ぶ下駄箱の間に駆け込んで、まだ探していない場所へと急ぐ。

 それを受けて春原達も一斉に朋也に倣い、呆然としていた相澤達はその動きにハッと我に返ると、慌ててヒトデ探しを再開した。

 両者入り乱れ、下駄箱の扉を開ける音が騒々しく生徒玄関内に響き渡る。

 十数分後、獲得したヒトデの数は、先に来ていた朋也達が若干多い程度でそれ程大差はなかった。

 一応勝ってはいるものの、他のラグビー部員の邪魔が入り、思ったよりヒトデが手に入らずに朋也は浮かぬ表情になる。

 そこへ、ひょっこりと様子を見に来た風子が現れた。

「まぁまぁ、皆さん。ヒトデはまだまだたくさんありますから、大丈夫です」

 互いのヒトデの数を盗み見て、それぞれの表情を見せる参加者達にそう言うと、風子は床にへたばっているラグビー部員達に向き直った。

「美佐枝さんからの伝言です。ヒトデヒートの参加者以外は、校門前に戻って来るようにとの事です」

「さすが美佐枝さん」

 それを聞いた朋也達は表情を明るくし、ラグビー部員達は不満げな表情を見せた。

 が、美佐枝(しんぱん)の言葉は絶対である。従わない訳にはいかない。

 相澤達参加者だけを残し、ラグビー部員達は健闘を祈りながら、ぞろぞろと生徒玄関から外へ出て行く。

「では皆さん。頑張って可愛いヒトデを探して上げてください。ヒトデを愛する心があれば、きっとヒトデは皆さんの前に姿を現すでしょう」

 ——んな心持ってるのはおまえだけだ。

 即座に心の中でツッコんだ朋也は、生徒玄関から出て行こうとする風子を呼び止めた。

「ちょっと待てよ、風子」

「何ですか? 岡崎さん」

「おまえに訊きたいことがあるんだ」

 途端に風子は警戒の色を見せて身構える。

「何を訊かれようと、風子は二度と可愛いヒトデ達を売るような事はしません」

「ああ、別に構わないぞ」

 手彫りのヒトデを抱えて小動物のように警戒する風子に爽やかにそう請け合うと、朋也は何気なしに言った。

「ただおまえ、普段校内であんまり見かけたことないから、いつも何処にいるのかと思ってな」

「風子が普段居る場所ですか?」

「ああ、それなら言えるだろ」

「はい、風子はいつも旧校舎の空き教室にいます」

「よし、皆次は旧校舎だ」

「ああっ、大失敗ですっ!」

 風子は頭を抱え込んでその場にしゃがみ込んだ。

「またも岡崎さんの手管に引っかかってしまいましたっ」

 そのリアクションこそが、まさにヒトデが隠してあると言っているようなものである。

 確証を得た朋也達はすかさず旧校舎へと向かい、相澤達も慌ててその後を追った。

 

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